それは…… たった一瞬の出来事だった。
『一体、何が起こっているんだ!?』
それでも私にとっては、大切な一瞬。
「もう!今度は何なのよ!?」
「…… フォーウ……」
偶然の出逢いだったのかもしれない。
もしくは、必然だったのかもしれない。
「…… セン、パイ?」
辺り一面を照らす金色の光。
その中心にいる人影。
「…… 貴様、その姿は」
漆黒の騎士王が、人影に向かって問いかける。
まるで、あり得ない物を見るような目付きで。
「おいおい。まさか坊主が伝説の騎士様だったとはな。驚きだぜ」
青いフードを被った魔術師が、人影を見てそう呟いた。
どこか親しみがあり、懐かしい記憶を呼び覚ましている様に。
暗く、不気味で、悍ましささえ覚える大空洞に金色の光が溢れだす。
威圧感があるのに暖かく、神聖であるのに、私達と同じ魔の気配も漂わせている。
やがて光は止み、光の中心にいた人影はその全貌を現す。
そこにいたのは騎士。
しかし、漆黒の騎士王とは違い、全身を黄金の鎧で身を包み、頭部も同色の狼を象った兜を被った騎士。
光と闇。
その対比を見事に体現した二人の騎士は、互いに剣を構える。
私は、雄々しく、圧倒的な力を誇る漆黒の騎士王に立ち向かおうとする黄金の騎士の名を―――― 知らない筈のその名前を口に出していた。
「……… 牙狼〈GARO〉」
そう…… 彼の名は黄金騎士 牙狼。
又の名を、私の敬愛なる先輩にしてマスター。
―――――― 冴島優牙。
物語は数時間前まで遡る。
とある雪に閉ざされた山奥を、一人の少年が歩いていた。
その少年は、青年と呼ぶにはまだ幼さを残した顔立ちだが、纏っている雰囲気は子供とは呼べない物だった。
「……… 本当にこの道であっているのか?」
ふと、少年が喋りだす。
彼一人しか居ない筈なのに、まるで誰かと会話しているような口振りだ。
『ああ、その筈だ。元老院の神官もそう言っていた。それに通知にもあっただろう?』
程なくして、少年の問いに誰かが答える。
しかし、依然として雪山には彼しかいない。
『しっかし、元老院も何を考えているんだろうな。俺様達を魔術師が運営している機関に送り込むとは…』
「さあ? ま、俺は騎士として与えられた使命を果たすだけさ」
更に時は遡る。
「お呼びでしょうか?グレス様」
「よく来てくれました。黄金騎士 牙狼の称号を受け継ぐ者よ。実は、貴方に頼みたい仕事があるのです」
元老院の神官の間にて、少年は神官グレスからある事を頼まれていた。
「頼み事とは…… 使令でしょうか」
少年の問いに、グレスは首を振る。
そして、神妙な面持ちで少年に語り始めるのだった。
「今はまだ分かりません。ですが、人界に大いなる危機が迫っています。私達はその鍵が、魔術師達が運営する機関。カルデアにあると預言しました」
「魔術師…… ですが、教会なら兎も角、魔術師とは疎遠の状態で、不可侵になっていた筈では」
「表向きでは…… ですが、彼らは神秘の秘匿を第一とする者達。そして我ら守りし者の宿敵、ホラーもまた、神秘に属する者達。我らも協力的にならざるを得ないのです」
一通りの説明を終えたグレスは、少年に改めて頼む。
「行ってくれますか?」
「当然です。それが俺の…… 黄金騎士の使命だから」
そして再び雪山に……
『にしても可笑しな使令だ。「もし、人界に危機があるならば、この使令にのみ、人を殺す以外の鎮圧を認める」とはな…』
「それだけ、今度はヤバいって事なのかな」
そう言いながら、少年はどんどんと雪山を進んでいく。
「……… あれが、『人理保障機関 カルデア』」
少年の目の前には、雪山には似つかわしくない、巨大な建造物が建っていた。
建物に近づき、入口と思われるゲートを見つけ、潜ると、音声ガイダンスが流れる。
『訪問者確認。これよりサーチに入ります』
そしてガイダンスは少年には理解が及ばない単語を並べた後に……
『照合、完了しました。ようこそカルデアへ。貴方が最後の訪問者です。…………… ただいま入館手続きが手間取っております。それまでしばし、シュミレーターをお楽しみ下さい』
少年の脳に、付加が掛かり、余りの不快感に目を瞑る。
再び目を開いた時、少年の目の前には草原と、自身の前に立つ、武器を持った三人の男女。
そして、異形の何かだった。
『随分な歓迎だな』
「いいさ。アトラクションだと思えばいい」
『貴方の目の前にいるサーヴァントに指示を出して下さい』
再びガイダンスが流れ、少年は状況を理解した。
「サーヴァント。成程、これが噂に聴く英霊召喚か…… でも、俺には必要無いな」
そして、懐から赤みの鞘に収まった長剣を取りだし、異形に向かっていった。
それと同時に、異形も自身の武器で少年を攻撃する。
「ハアッ!!」
バキッ!!
異形の槍を鞘で受け止め、脇に挟み、槍を砕く。
「フッ、ダアッ!!」
更にそこから掌底を放って異形を後ろに押し退け、一気に剣を抜き、異形の頭を斬り飛ばした。
「ふう…… こんなもんか」
『……… シミュレーション終了。お疲れ様でした。それでは、より良い戦課を期待しています』
剣を鞘に戻して仕舞い、終了を告げるガイダンスが流れる。
その言葉を聞き入れたと同時に、少年の意識は闇に墜ちていった……
それから暫く、少年の感覚では短かったかもしれない。
闇に閉ざされた少年の意識を何かが呼び覚ます。
(…… 何かに顔を…… 舐められている……?)
「フォウ! フォウ、キャーウ!!」
「……… あの…… 起きてください。先輩」
そして聞こえる、少女と獣の声、少年が意識を回復させ、目を開けると、そこには薄紫のショートヘアの少女と白いモコモコの何かがいた。
「……… ここは………?」
「あ、良かった。先輩が目を覚ましましたよ、フォウさん」
「フォウ!」
「…… 俺、ここで眠っていたのか?」
少年は至極真っ当な質問を少女に投げ掛ける。
すると少女は当然と言わんばかりの笑顔を向けて言った。
「はい。教科書に載せたい位に理想的な寝顔でした!」
自分の寝顔が見られていた事に、若干の羞恥を覚えていると、一人の男性がやって来て、少女を嗜め始める。
「ダメじゃないかマシュ。一人で出歩くとまた所長に怒られ…… おや?君は……」
男性が此方に気づき、顔をまじまじと見てくる。
そして何か合点が言った様に話始める。
「ああ、招集されたマスター候補者か。何故君がマシュと一緒に?」
「それは、先輩が此方で眠っていたのを、私が起こして挙げたんです」
マシュと呼ばれた少女は、男性にそう説明すると、男性は可笑しそうに笑みを浮かべた。
「ハハハ。さては君、入館時のシュミレーションを受けたな。初めてのシフトだと脳にくる。君は一種の夢遊病の状態で此方に倒れていたんだろう」
男性の考察を聞くと、少年は合点がいった様に顔しかめる。
確かにシュミレーションを始める時、少年は脳に衝撃が走るのを感じていた。
そんな事を考えていると、男性が手を差し出してくる。
「私はレフ・ライノール。此方の少女はマシュ・キリエライト。君の名を聞いていいかな?」
「…… 優牙、冴島優牙です。レフさん」
「ふむ…… ファミリーネームが先と言うことは日本人か…… 改めて、ようこそカルデアへ」
少年、優牙は男性、レフに固く握手をした。
「よろしくお願いします。優牙先輩」
それと同じくマシュも握手を求めてきて、それに応じながら、優牙は聞きたい事を聞いた。
「所で君は何で俺を先輩と?」
するとマシュは、少し頬を染ながら、恥ずかしげに言った。
「お恥ずかしながら、私はあまり他の人と接点がなかったので…… だから、先輩が私にとって初めての人なんです」
ここだけ聞けば誤解されそうな言葉だが、嘘は言っていないとわかった優牙は、あえてスルーした。
「そう、じゃあ改めてよろしく。マシュ」
「はい!先輩!」
「さて、グズグスはしていられないぞ優牙君。君もマスターなら、まずは所長の説明を受けないと」
レフが、優牙を急かすように言った。
「説明…… ですか?」
「そうだとも。勿論君だけではなく、他の47人のマスターも一緒にね」
「あの…… その説明会に私も一緒に行って良いでしょうか?」
「と、なると必然的に私も同行か…… 隅っこで見ているだけなら所長も何も言わないだろう」
優牙は、レフとマシュの案内の元、説明会が行われる会場へと急いだ。
「……… あの~ 先輩? ほっぺたは大丈夫でしょうか?」
「うん、ありがとうマシュ。大丈夫だよ」
結果的に言えば優牙はやらかした。
説明会の最中、優牙はシュミレーションの影響がまだ残っていたのか、再び寝てしまい、所長による平手打ちという名の制裁を受け、自室待機を命じられ、マシュの案内により、マイルームへ来ていた。
『(お前さんらしくないミスだな。シュミレーションがそんなに効いたか?)』
「(五月蝿いよ、ザルバ)」
「先輩?」
「いや、何でも無いよ」
そんな会話をしていると、マシュの顔に白いモコモコが飛び移った。
「きゃっ!?」
「マシュ…? ってなんだコイツ!!」
引き剥がそうとすると、モコモコはマシュの肩に乗り移った。
「もう…… フォウさん。いきなりは止めてください」
「キャウ。フォウフォウ」
「フォウさん? そいつの事?」
「あ、はい。フォウさんはカルデアに現れた、素敵な謎生物なんです」
謎生物…… そんなんで良いのかと優牙は思っていたが、そんな時、白いモコモコことフォウが、今度は優牙に飛び乗り、臭いを嗅ぐ。
「スンスン…… フォウ!」
そして満足したのか、ポフッと前足を優牙の胸に置き、再びマシュの肩に飛び乗った。
そんな様子を見ていたマシュは驚きの顔をしていて、次の瞬間捲し立てた。
「ス、スゴいです先輩!フォウさんは私以外には決して懐かなかったのに!カルデアに、新たなフォウさんの飼育係の誕生です!」
「そ、そんなに驚く事なの?」
「それはもう!はい!」
そんなやり取りをしていると、フォウはマシュの肩から降りて、何処かへ行こうとする。
「あっ、待ってください!! フォウさん!すみません先輩。私はこれで。私はAチームで、先輩とは別ですが、お互いに頑張りましょう!」
「うん。またね、マシュ」
フォウを追うためにマシュは優牙と別れて、通路の向こうへ消えていった。
一人なった優牙は、マイルームの扉に手を掛けて、マイルームに入る。
「な、なんなんだ君は!ここは僕の休憩ルーム。サボり場なんだぞー!!」
その中で優牙が見たものは変人だった。
それももうどうしようもないぐらいの……
「…… ここは俺の部屋だと聞いたんですけど?」
「へ?…… ああ!君が最後の候補者か!! あれ?まだ説明の途中だったんじゃ……」
優牙は、マイルームに来た経緯を話した。
「うひゃー。君、度胸あるね。所長相手に居眠りするなんて」
「俺としては、ヒステリーを起こしすぎなんじゃないかと思いましたけどね」
「アハハ、所長が聞いたら怒るぞ~」
そして互いに自己紹介を始めたのであった。
「僕はロマニ・アーキマン。皆は僕の事をドクターロマンって呼ぶよ」
「冴島優牙です。よろしく、ドクターロマン」
自己紹介を終えた二人は、意気投合し、優牙はロマンにカルデアについて色々と聞いていた。
途中でフォウも交じるというハプニングもあったが、和気あいあいと談笑をしていると……
バチンッ!! ドカアァァァァン!!!!!!
「うわっ!? なんだ!?」
急に照明が落ち、爆発が起こった。
「カルデアの照明が落ちるなんて……それにこの爆発、一体何が…… !? こっ、これは!」
モニターで状況を確認していたロマンが驚きの声を挙げる。
優牙は、ただ事じゃないと感じ、ロマンのモニターを見ると、そこは地獄絵図だった。
「そんな…… カルデアスが…… こうしちゃ居られない!! 優牙君、君は今すぐにカルデアを出るんだ!隔壁が閉じる前に!! いいね!!」
そう言って慌てて出ていくロマン。
そして避難するように言われた優牙だったが……
『当然、逃げる気は無いんだろう?』
「当たり前だろ?ザルバ。それに……」
「フォウ! フォウフォウキャーウ!!」
「ああ!マシュを助けに行こう!」
逃げるどころか、むしろ逆方向のロマンが向かった先へ走り、ロマンに追い付いた。
「優牙君!? どうして!?」
「人手は大いに越したことはないでしょう?」
「…… 分かった、僕はシバの様子を見に行く。君は生存者の確認を!でもざっと見て居なかったら、君は逃げてくれ、まだギリギリ間に合うから!」
再びロマンと別れて、優牙はマシュや生存者を探す為にカルデアスがある場所に走った。
「……… ザルバ!」
『分かってる…… 見つけたぜ!そこの瓦礫だ!』
優牙は、指に嵌めていた髑髏の指輪を翳すと、指輪の口がカチカチと動き、言葉を発した。
その指輪、ザルバが指し示す瓦礫を退かすと、そこには、血塗れのマシュが横たわっていた。
「マシュ!」
「……… ん、せん、ぱい? どうし、て……」
「助けに来た。さあ、行こう!」
「ダメ…… です。私は…… 助かり、ません…… 先輩、だけ、でも……」
そう言うマシュは誰が見ても瀕死だった。
その時、青かったカルデアスが真っ赤に燃え上がり、絶望を突きつけた。
『…… 2016年、以降の人類の足跡を確認、出来ません』
「なに!?」
人類の足跡を確認出来ない。
それは、これから先に人類が居ない事を示す言葉。
「(そうか、グレス様が予言していたのはこの事だったのか!!)」
ようやく事態が呑み込めた優牙だったが、今はそれを後回しにして、マシュを連れ出そうとした…… しかし。
『爆発の危険があるため、隔壁を遮断します』
無慈悲なガイダンスと共に、隔壁が閉じた。
「あ…… 隔壁、閉まっちゃいましたね。先輩」
「…… そう、だな」
希望が絶たれ、絶望の色を表すマシュ。
そんな彼女は恐怖を紛らす為に、優牙の手をしっかりと握った。
「…… 先輩。手を、握ってもよろしいでしょうか?」
「…… ああ、いいよ。そんな事で良いなら」
そう言って優牙は、マシュの手を握り返し、少しでも恐怖を和らげようとマシュを抱き締めた。
二人の回りに火の手が回る……
もうすぐ、二人の命は絶たれてしまうだろう。
『………… レイシフト、準備完了』
しかし、それでも音声ガイダンスは止まることは無かった。
『該当するマスターの確認は出来ず…… 一名確認、マスター番号、48番。冴島優牙。バイタル正常値、マスター再登録を行います』
『座標固定。レイシフトまで、あと、3、2、1……… レイシフト開始』
そして二人は、光に包まれた。
まさか人類が焼失しちまうとはな…… こいつは驚いたぜ。
だが、安心しな。今度の牙狼は大いなる可能性を秘めた奴だからな。
時代を駆けろ牙狼!そして見せつけてやれ優牙!
並みいる英雄達に、お前の凄さをなぁ!!!!
次回 序章 炎上汚染都市冬木 第一節 従者
さぁて、どんな旅になることやら……