ジークフリートと共に地上に出ると、既に竜は到着後であり、リヨンの街の上空に待機していた。
「あ、あれが……」
「最強の竜種、ドラゴン… ワイバーンとは比較になりません!」
『悪竜ファヴニール。嘗ては世界で猛威を振るっていたドラゴンだが…… 奴はこの時代の生き物ではない筈だ』
「また、黒いジャンヌが聖杯で呼び出したのか?」
優牙達が、悪竜ファヴニールの巨大さ、強大さ、オーラに充てられていると、ファヴニールの背中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「何を見つけたかと思えば…… 瀕死のサーヴァント一騎ですか。無駄な足掻きですね」
ファヴニールの背中には黒いジャンヌがいて、何時もの嘲笑を更に邪悪に歪めながら言う。
「まあいいでしょう。ファヴニールの炎で、貴方達を葬る」
ファヴニールの口に炎が溜まり始め、漏れだした炎がコロナの様に吹き出す。
『不味いぞ!? あんなの食らったらひとたまりも無い!!』
「私が!」
「駄目だマリー。君の宝具は防御に適してない」
「なら私が!」
「無茶を言うなマシュ!」
ファヴニールの炎は全てを灼き尽くす業火、サーヴァントと言えども、食らってしまったら一貫の終わりだ。
かといってマシュの宝具でも、出力に差が出るためにどうしても防ぎ切れるモノでもなかった。
「先輩!ですがこのままでは!」
「私とやりましょう、マシュさん。それでもつ筈です」
「ジャンヌさん…… はい!行きます!」
しかしそれはマシュ一人での話。
ここには、味方に最高の加護を与える宝具を持つジャンヌ・ダルクがいる。
マシュの仮想宝具とジャンヌの宝具。
この二つであれば、ギリギリファヴニールの炎を防げそうだった。
「『
「仮想宝具―――― 展開します!」
「灼き尽くせ、ファヴニール!」
光の盾が出現し、光のヴェールが優牙達を包み込んだと同時にファヴニールの炎が放たれ、光の盾に直撃した。
「くっ、ううううっ!!!!」
「なんて威力…!? 確かにマシュさんだけでは防ぎ切れませんね…!!」
しかし威力は凄まじく、二つの防御宝具を軽々と押すファヴニールの炎は、ジリジリと優牙達を追い詰めていった。
「うっ……! もう、ダメです!」
「諦めてはなりません!」
「ですが―――」
「いや―― 君たちのお陰で、一発分の魔力は回復出来た。感謝する」
もう駄目かとマシュが思い始めたその時、ジークフリートが大剣に魔力を迸らせ、構えていた。
それを見たファヴニールは炎を吐くのを止め、怯え出す。
「悪竜ファヴニール!貴様が二度蘇ったらのなら、俺は二度食らわせるまでだ!」
「……… ファヴニールが怯えている……… まさか、あのサーヴァント……!」
黒いジャンヌは、ジークフリートの正体に気づき、冷や汗をながし始める。
「蒼天に聞け!我が真名はジークフリート!嘗て悪竜を討ち果たせし者!」
そしてジークフリートが構えていた大剣に、虹色のオーラが纏われ始める。
「宝具解放…!『
黄昏の波動が、ファヴニールを呑み込まんと迫る。
「
しかし寸前で黒いジャンヌがファヴニールに指示を出し、ファヴニールは一気に成層圏まで飛び去った。
それと同時に、地面に崩れ落ちるジークフリート。
黒いジャンヌ達にやられた傷もけして浅くはない、そんな状態で宝具を放ったのだ、むしろ消えていないのは幸運とも言えた。
「うぐっ…… すまない…… 奴が戻らぬ内に、早く……」
「いや充分だ!良くやったぜ兄ちゃん!」
「皆行こう!」
倒れたジークフリートをへルマンが担ぎ、優牙達はリヨンの街を急いで離れていった。
「くっ、しくじりましたか…」
一方成層圏では、ジークフリートを警戒して待機しているファヴニールと、それを忌々しく睨んでいる黒いジャンヌがいた。
「これからの為、ファヴニールの酷使するのは得策ではありませんね…… あの宝具を撃たれても困ります。バーサーカー、バーサーク・アサシン!あの竜殺しをなんとしても仕留めるのです!」
そうしてジャンヌは、バーサーカー達に指示を出し、自分は暫く静観していることにしたのだった。
その頃優牙達は、ジークフリートを治療するために霊脈に戻ろうとしていたが、黒いジャンヌの放ったワイバーン達に追われていた。
「くそっ!しつこい!」
「先輩!馬が欲しいです!」
「ごめんなさい、一人乗りで」
「今まで色々旅をしたけど、今回は最悪だな!」
「おい大丈夫か、兄ちゃん!」
「すまない…… お荷物で本当にすまない……」
特に、瀕死の重傷を負っているジークフリートが居るため、下手にスピードが出せず、それがワイバーン達に食い下がられている原因でもあるのだが……
「ああ!? フランス軍がワイバーンに襲われています!」
「今はそれどころじゃないだろジャンヌちゃん!こっちも追われてんだから!」
「でも…… すみません!私はフランス軍を助けに行ってきます!」
そしてジャンヌは、嘗ての仲間が蹂躙されるのに耐えられなかったのか、一人フランス軍に向かった。
「このままじゃ…… 追い付かれます!」
「……… なら!」
誰もが走る中、優牙は魔戒剣を持って立ち止まり、ワイバーン達を見据えた。
「先輩!?」
「駄目だ、追い付かれる。ここで倒そう!」
「ですが…!」
『どの道、囲まれた。それしか道はなさそうだぜ?お嬢ちゃん』
ザルバの言った通り、ワイバーンは既に優牙達を陸からも、空からも囲んでおり、逃げ場は無くなっていた。
「…… 仕方ありません。マスター、指示を!」
「戦闘準備だ!」
「はい!」
そして優牙達は、ジークフリートを守りながらワイバーンの殲滅を始めた。
「ハッ!」
「フン!」
「行きますわよ!」
「デクレッシェンド!」
「はああああっ!」
『『『キシャァァァァァァ……!!!!』』』
そうして殲滅を続けていると、彼方からワイバーンに乗ったサーヴァントが三騎現れた。
『皆!気を付けて、サーヴァントだ!』
一人はカーミラで、彼女はフランス軍の所へ。
残りの二人は、優牙達の元に降り立った。
「A――――urrrrrrrrrr!!!!」
「……」
黒騎士は猛り狂い、青年はギロチンの剣を引きずり、静かに此方を見据えた。
「野郎……!」
「まあ、まさか貴方なんて。気怠い職人さん?」
「やあ、白いうなじの君。僕を覚えていてくれたんだね」
アマデウスは青年を見て嫌悪感を剥き出しにし、マリーは青年を見て懐かしみ、青年もマリーを見て歓喜する。
青年の名はシャルル=アンリ・サンソン。
女王マリー・アントワネットを処刑した処刑人だ。
「勿論僕も覚えていたよ。どうやら君と僕は運命で結ばれているらしい。それは、僕にとって堪らなく嬉しいよ!」
「このギロチンフェチ、またマリーを処刑する気マンマンだな!」
「黙れアマデウス。君は人を醜いと言うが、僕は違う。人とは尊いもの。だからこそ、僕のギロチンが振るわれるのはいい気はしないが…… 今はこの国全てが処刑場!云わば僕の独壇場だ」
どうやらアマデウスとサンソンは敬遠の中らしく、お互い殺気を振り撒きながらにらみ合う。
「国を処刑だと?させると思うか!」
「心配しなくとも、君達も処刑する。さあ、掛かってくるといい」
サンソンの挑発に、優牙は魔戒剣を天にかざし、円を描いて魔界の
円から金色の光が溢れ、優牙を照らし出し、召喚された牙狼の鎧を纏って優牙は牙狼に変身した。
「それが噂の黄金騎士か。処刑するにはもってこいの相手―――― ん?」
サンソンが優牙に掛かろうとすると、大人しかった黒騎士に異変が起こる。
「…… GA…… RO……」
『何?』
「GAAAAAAAROOOOOOOOO!!!!!!!!」
『!? グアッ!』
突如狂ったように叫び、己の武器を持って、黒騎士は優牙――― 牙狼に向かって飛び出し、吹き飛ばした。
「先輩!?」
「黄金騎士が彼の琴線に触れたか…… 致し方無い…… 不満だが、本来の任務をこなすと……」
『何が不満だって?』
そんな黒騎士を見てサンソンはため息を吐き、ジークフリートを狙おうとしていたが、サンソンの前に、マリー、アマデウス、そしてゾロの鎧を纏ったへルマンが立ちふさがった。
「――― 前言撤回。いい処刑になりそうだ!」
『カァアアアアアアッ!!!!』
そして処刑人のギロチンと、騎士の絶影剣が火花を散らしてぶつかった。
そのころ、ジャンヌはフランス軍を蹂躙するワイバーンと、それを指揮するカーミラと対峙していた。
「ワイバーン、先ずは兵士から食らいなさい」
『キシャァァァァァァ!!』
「たあああああああっ!!!!」
兵士を食らおうとするワイバーンを
「何故、竜の魔女が竜と戦っているんだ?」
「知るか…… 丁度いい、どっちも共倒れしてしまえばいいんだ」
「…… くっ」
「散々な言い様ね。ああやって居られるのは貴方のお陰なのに」
フランス軍の兵士は、ジャンヌを助ける処か敵として認識している為、共倒れを狙って何もしない。
そんなフランス軍を守るジャンヌを、カーミラは嘲笑った。
「ねえ?今どんな気持ち?死にたい?殺したい?その旗を奴等の体に突き刺したいでしょう?」
しかしジャンヌは、そんな状況にも絶望せず、ひたすらワイバーンを倒す。
「生憎、私は楽観的でして。私を憎んで立ち上がる気力があるなら、それでもいいと思います」
「成程、白かろうが黒かろうが、結局狂っているって訳ね!」
カーミラとジャンヌがぶつかろうとしたその時――
ズドン!
二人の間に
『ズアッ!!』
「GAROOOOOOOOO!!!!!!」
一秒毎に、剣戟の速さが増していく。
「Aurrrrrrrrrrrrrr!!!!」
『オオオオオオオ!!!!!!』
牙狼剣と漆黒の魔剣が鍔迫り合い、互いの力をぶつけ合う。
「やあっ!」
そんな中、追い付いたマシュが盾を黒騎士に打ち付けて乱入するが、黒騎士はサッと避け、カーミラの隣に着地する。
「無事ですか?先輩!」
『ああ、助かった!マシュ』
「優牙さん!」
『ジャンヌ!無事だったか!』
しかしそんな会話も束の間、ジャンヌを見た黒騎士は、牙狼の鎧を見た時と同じ反応をする。
「A――――― urrrrr!!!!」
黒騎士は吠え狂い、今度は優牙ではなく、ジャンヌに向かって突撃していった。
「くっ…!」
「戻りなさい!ランスロット!! …… 駄目ね、完全に狂ったわ。精々時間を稼ぎなさい、その命尽きるまで」
黒騎士ランスロットが制御不能としると、カーミラはサンソンの元へ引いていった。
遠目で見る限りサンソンも撤退しているので、逃げるつもりなのだろう。
「A――urrrrrrrrrr!!!!」
「流石バーサーカー!! 攻撃が重い!」
『ジャンヌ!』
「させません!」
執拗にジャンヌに攻撃を続けるランスロットに、優牙は牙狼剣で魔剣を弾き、マシュが盾で突き飛ばす。
『キシャァァァァァァ!!!!』
しかし入れ替わる様にワイバーンが優牙達に襲い掛かり、防ぐ間が無い優牙達は、多少のダメージを覚悟したが……
「砲撃隊!撃てぇ!」
フランス軍の砲撃が、ワイバーンに直撃する。
「フランス軍です!」
「ジル……!!」
砲撃指示を出したのは、ジル・ド・レェ元帥。
嘗てジャンヌと共に戦った武人だ。
そしてジル元帥が、フランス軍に怒号を飛ばして命じた。
「“堅陣騎士”が出陣するぞォ!! 道を空けろ!」
『堅陣……騎士?』
その時―――
ズン!
轟音と共に、フランス軍の陣の後ろから赤紫の光が上がり、赤紫の鎧を纏った騎士が此方に飛んでくる。
『ムン!』
『キシャァァァァァァ!!!?』
そして着地と同時に、その巨大な両手剣で斬り潰した。
めり込んだ地面から両手剣を抜き取り、剣を担ぐ様はまるで重騎士。
彼の橙色の瞳が、優牙の――― 牙狼の紫色の瞳を真っ直ぐ射抜いた。
『若き牙狼よ』
『!はい』
『その程度でヘタレる玉ではあるまい。まだやれるな?』
『勿論です!俺は黄金騎士ですから!』
『それでこそ黄金騎士だ』
「AAAAAAAurrrrrrrrrrrrrr!!!!」
問答を終えると、突き飛ばされたランスロットが、猛り狂いながら戻ってきた。
『堅陣騎士ガイア…… 参る!』
『貴様の陰我、俺が断ち切る!』
名乗り口上を上げた二人の騎士は、黒騎士ランスロットに向かって、地面を陥没させながら進む。
「Aurrrrr!!!!」
『ハアッ!!』
ランスロットの剣とガイアの剣がぶつかり、地面に軽くクレーターを作り出す。
『ウオオッ!!』
「■■■■■――――!」
そして死角から来た牙狼剣の斬撃を躱し、魔剣を優牙に突き立てに来るが……
『ムウゥン!!!!』
ガイアが堅陣剣の幅広な刀身にランスロットをぶち当て、野球の様に空中に打ち上げた。
『行け!牙狼よ!』
そこから更に回転して優牙を乗せると、ガイアはランスロットに目掛けて優牙を投げた。
『ウオオオオオオオオオッ!!!!!!』
共に空中に打ち上げられたが、当てられた結果空中に居るランスロットは体勢が不安定で抵抗できず、対して優牙は打ち上げられたが故に真っ直ぐランスロットに飛んでいき、牙狼剣でランスロットを斬り裂いた。
そして地面に着地したと同時に、優牙は牙狼の鎧を解除し、鎧を魔界に還した。
「A―――― アーサー…… 私は……」
消滅間際により狂化が解けたランスロットは、まともな言葉を発する。
「アーサー? 貴方の王ですか? すみません、私はアーサー王ではないのです」
「……… ああ、そうか」
ジャンヌをアーサー王と重ねるランスロットの事をマシュは悟っていた。
「何がだ?」
「きっとジャンヌさんは似ていたんです。アーサー王に。姿が、と言うより、この場合は魂が、と言うべきでしょうか」
「黄金騎士 牙狼よ…… 貴方にまで迷惑を、申し訳ない…… 私は……」
ランスロットは最後まで言い切る事なく、消滅していった。
「そうだ…… ありがとうございます。お陰で助かりました」
『礼には及ばん。お互い、魔戒騎士としての勤めを果たしただけだ』
「あの…… 良かったら俺達と行きませんか?」
優牙は堅陣騎士 ガイアに共に来てくれと頼んだが、それに対しての彼の答えはノーだった。
『すまんな、フランス軍に借りがある。何、直ぐに合流する。近くの滅ぼされていない街で待っていてくれ』
そう言って彼はフランス軍の陣へ戻っていった。
「さて、俺達もへルマンさん達と合流しようか」
「はい、ジークさんの怪我を治さなくては」
優牙達も、へルマン達と合流するため、丘を下って行くのだった。
陣に戻った彼を待っていたのはジル元帥だった。
「お疲れ様です。しかし…… あのジャンヌは」
『分からん。もしかするとジャンヌ・ダルクは二人居るのやもしれん』
「一度、詳しく調べる必要がありますね」
『ああ、そうした方がいい』
騎士はガイアの鎧を解除して魔界に鎧を還した。
鎧を纏っていたのは、壮年の男だった。
「ジル元帥。私はそろそろ軍を離れる」
男がそう言うと、ジル元帥は表情を暗くした。
「そうですか…… 残念です。貴方程の将、中々いないであろうに」
「買い被り過ぎだ」
「いいえ、買い被り等ではありません。先々代のヴァリアンテ王国の国王をその政治手腕で支え、国を導いた影の軍師。ラファエロ・ヴァンデラス殿」
ジル元帥がそう言うと、ラファエロはニヤリと口角を上げて静かに笑った。
痴話喧嘩は狗も食わぬって言うが、本当のようだな。
ギャーギャーと煩いったらありゃしない。
なんだと優牙? そいつらに声をかけるのか!?
次回 第七節 騒音
俺様は放っておいた方が身のためだと思うがな…