「見てください優牙さん。彼処に打ち捨てられた砦があります」
「丁度いいし、少し休もうか」
「はい、ジークさんの怪我の治療もしなくては」
黒いジャンヌの襲撃を退け、フランス軍から離れた優牙達は、既に襲撃で破壊された砦を見つけ、そこで休む事になった。
「すまない…… へルマン殿。ここまで運んで貰ってしまって……」
「気にすんな。それより、ジークの怪我はどうだ、マリーちゃん」
「… ダメです。私の宝具は少し回復できるのだけど…… 全く効果がないわ」
何とかしてマリーはジークフリートを治そうとするが、何かの力がマリーの宝具に干渉して、ジークフリートの治療を妨害していた。
『フム…… こいつは呪いの類いだな。そいつがジークフリートの治療の妨げになっている』
「ザルバさんの言う通り、彼には複数の呪いが掛かっています。正直、生きているのが不思議な位に…」
「どうにかならないの?ジャンヌ」
「呪いは洗礼詠唱で解くことが出来ますが…… すみません、私一人ではどうすることも…… せめて聖人のサーヴァントがもう一人いれば……」
ジークフリートの呪いは一つだけでなく、複数の呪いが掛けられている。
その一つ一つが、いつ死んでも可笑しくないレベルのもので、ジャンヌ一人では解くことが出来ないのだ。
かといって都合よく聖人のサーヴァントが居るわけでもなく、途方に暮れる優牙達だったが……
『…… 居るかもしれない、聖人のサーヴァントが』
「本当ですか!? ドクター!」
そんな時、ロマンがポツリと呟いた。
『うん。聖女…… いや、竜の魔女たるジャンヌが聖杯を持っている事によって聖杯の抑止力で、聖人のサーヴァントが召喚されているんじゃないのかな?』
「確かに、俺が戦ったのも、聖女マルタだったな」
「なら早速探さなきゃ!」
「はい!幸いと言うべきか、フランスの領土は今や半分以下です。探すのに手間はかからないと思います」
聖女が聖杯の力を使って世界を滅ぼす。
そんなあり得ない状況に聖杯が下した判断は彼女と同じ聖人のサーヴァントを召喚する事だった。
聖女マルタという前例がある以上、まだこのフランスに聖人のサーヴァントがいる可能性を、否定は出来なかった。
「けど時間が無いのも事実だ。ここは二手に別れて探さないか?」
時間が経つ度に黒いジャンヌ達は力を増していく。
なら早期に決着を着けるべく、優牙は聖人探しを二手に別れて探す事にした。
「それはいいのですが…… メンバーはどうしましょうか?」
「それならいい案があるわ!今こそくじ引きをしましょう!アマデウス、くじを作ってくれないかしら?」
「それ、ただ君がくじを引きたいだけだろ?マリア。ああ、分かった分かった。今作るよ」
そうしてマリーの無茶ぶりをうけたアマデウスは、即興でジークフリートを除いた六人でくじを引いた。
結果……
「私とマリーとへルマンさん。優牙さんとマシュさんとアマデウスさんですか」
「よろしくね!二人とも」
「へへっ、美人二人に囲まれるとは、ラッキーだな」
「あらやだ、お上手ね!」
「か、からかわないで下さい、へルマンさん!」
西側に行くのはジャンヌとマリー、へルマン。
「それじゃあ、君たちと一緒だ」
「よろしく、アマデウス」
「精一杯頑張ります!」
「すまない…… 未だ戦闘は出来ないが、よろしく頼む」
東側に行くのは、優牙、マシュ、アマデウス、そしてジークフリートだった。
「さて、向こうは守りにジャンヌとマリー。攻撃にはへルマンがいるけど…… こっちは優牙がいるとは言え…… 不安だなぁ」
「…………」
アマデウスの何気無い一言に、マシュは表情を暗くするが……
「大丈夫だよマシュ。マシュの凄さは俺がよく知ってる。だから自信を持って」
「先輩……!はい!まだまだ未熟ですが、先輩に相応しいサーヴァントになれる様に頑張ります!」
即座に優牙がマシュにフォローし、明るい笑顔を取り戻す。
そんな様子を見ていたアマデウスは、むず痒そうに頬を掻いていた。
「う~ん。上手くダシに使われちゃったなぁ…… 僕が言ってたのはジークフリートの事なのに」
「すまない…… 本当にすまない」
「アマデウス。貴方は人に誤解されやすいのだから、気を付けてね?」
そんなアマデウスを見かねたマリーが注意するが、当のアマデウスはどこ吹く風、余り気にしていなかった。
「それは君の方だろ?マリー。………」
「?何かしら」
「……… いや。お腹が空いたからって、洋菓子店を探すんじゃないぞって言いたかったんだ」
「まあ!私ったら少しドキドキしてしまったわ!――― だってまたプロポーズされるのかと思ったもの!」
その時、マリーが言い放った一言で、この場が止まった。
「おい、待て。何で今その話をする?」
「え?え? アマデウスさん、マリーさんにプロポーズしてたんですか?」
『―――― あれ?知らない?有名な話だよ。こちらのミスター・アマデウスは六歳の時、七歳の彼女にプロポーズしたのさ!』
それを聞いたアマデウスは焦りだし、プロポーズと言う言葉に困惑したマシュは、ロマンからの講釈を受けていた。
「最悪だ…… 後世にまで伝わっているなんて……」
「そうね!私嬉しくって色んな方々に言いふらしたもの!」
「君のせいか!君のせいだったのか! なんて女だ!断ったくせに!」
そこまで言い争った?後、マリーは不意に表情から笑顔を無くす。
「そうね。でもそれで良かったの。その結果、貴方は世界で愛される音楽家になり、私は愚かな王妃として処刑された…… だって仕方無いじゃない、私はフランスという国に恋していたんですもの!」
「………… ハッ、なんだそれ」
アマデウスは、マリーのフランスに恋していたと言う言葉を否定した。
「違うよマリー。君がフランスに恋していたんじゃない。フランスが君に恋していたのさ」
「そうなの?……… あれ?でも可笑しくない?私、愛された人に殺されたの?」
「人間なんてそんなもんさ。愛が憎しみに変わることもある」
彼女が処刑されたのは、あくまで彼女がフランスに愛されていたから。
アマデウスはそうマリーに告げた。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「ジャンヌさん。これ、カルデアの通信機です。魔力を流せば使えますので」
「ありがとうございます」
「お前ら、また後でな」
そして、ジャンヌ達は西側向かって行き、優牙達も聖人を探すために、東側を捜索し始めた。
東側に歩いていく優牙達は、ティエールの街に向けて進んでいた。
「ジャンヌさん達も、街へ着くそうです」
「次の街はティエールだったね。刃物の街で美しいと聞いているけど」
「はい。あ、あれがそうですね」
敵の妨害も無く、順調にティエールへ向かっていると、それらしき街が見えてきた。
「ドクター、サーヴァント反応は」
『――― 二騎確認した。早速接触して……』
みようと、ロマンが言おうとしたその時―――
ド…………ン!
街から炎が上がり、爆発音が響く。
「!今炎が見えました!」
「ああ、俺も見た」
「嫌な予感がするなぁ… 女神よ、僕達に救いを…!」
優牙達が急いでティエールの街へ向かうと、そこには……
「この!この!この!この!このっ!生意気よ!ド田舎リスが!」
「あら、出来損ないの
「な、なんですってぇぇぇっ!!!!」
壮大な子供の喧嘩をする、二騎の女性サーヴァントがいた。
「あの…… あれは何でしょう?」
「知るか!僕に聞かないでくれ!ああ!煩い!なんだこれは!? 声や音楽に対する冒涜だ!」
『優牙。あれには関わらない方がいい。嫌な予感しかしない』
「そうは言っても……」
困惑するマシュ、あまりの煩さにキレるアマデウス、珍しく弱気な意見を言うザルバ、そしてどうするか迷っている優牙、状況は極めてカオスだった。
優牙がチラリと二人を見ると、今だ罵り合いの口喧嘩の真っ最中だった。
「もうムカつくったらないわっ!この泥沼ストーカー!」
「ストーカーではありません。『隠密的にすら見える献身的な後方警備』です。この清姫、愛に生きる女ですので」
「あんたの愛は人権侵害なのよ!」
「あら、拷問吸血フェチに言われたくありませんわ。どうせあれでしょう?拷問しながらナニしてたんでしょう?」
「な、ナニってなによ!意味わかんない!」
「………… えっ?エリザベートさんまさか…… あっ(察し)」
「ああ、うるさいうるさいうるさぁぁぁい!!!!」
口喧嘩はどんどん下世話になり、遂には直接戦い始めてしまった二人を見て、優牙達はどうすることも出来なかった。
「ああ…… 戦い始めてしまいました…」
「まさか…… あれが聖人じゃないよね?」
「まさか!それこそ僕の怒りの日だ!あんなのが聖人だったら、世界中の宗教がひっくり返るぞ!」
「話の途中すまない…… 敵のようだ……」
優牙達が対応に困っていると、ジークフリートがティエールの街にワイバーンが迫っている事を報せる。
「丁度良かった。このイライラをぶつける相手が欲しかったんだ」
「アマデウスさんがかなり怒ってます!? 先輩!」
「と、取り合えずワイバーンを倒そう!」
優牙達は、迫り来るワイバーンを理由に二騎のサーヴァントから目を逸らし、街を守るためにワイバーンに挑んでいった……
それからワイバーンを倒して、敵を退けた優牙達は、足取りも重く広場へ戻ってくると……
「くううぅぅぅぅぅっ!!!!」
「むぅぅぅぅぅぅ………」
直接の対決は終わっていたが、未だ二人はにらみ合っていて、このままじゃいつ戦い出すか分からなかった。
「どうしましょう…… 先輩」
「もう僕は頭が痛くなってきたよ。この件は優牙君に任せるよ」
「戦闘が出来ない足手まといに意見はない。……… すまない、君に任せる」
無責任にも、連れてきた仲間の内、半分に投げやりに押し付けられてしまった優牙は、どうするべきか悩んだ。
「はぁ…… 余り気は進まないけど、止めようか」
「大丈夫でしょうか……」
「まあ、なるようになるさ」
このままでは埒が明かないと考えた優牙は、二人の仲裁に入るのだった。
「そこまで! そろそろ止めにしてくれないか?」
「何よ、あんた」
「今忙しいんです。一昨日来てくれますか」
止めに入ったは良いものの、二人は優牙を思いきり睨み付け、優牙はあまりの眼光に怯んでしまうが、慌てずに説得を続ける。
「なんで喧嘩しているのかは知らないけど、喧嘩は良くないよ」
「あんたには関係ないでしょ!邪魔しないでよ子イヌ!」
「ただの人間が、無謀な勇気をお持ちですね。猪武者ですか?」
『ハッ、トカゲ擬きの小娘共よりは、優牙の方がよっぽどましだぜ』
売り言葉に買い言葉、優牙がどんなに説得しても、喧嘩を止める所か、逆に優牙を侮辱する始末。
我慢に限界が来たのか、遂にザルバまでも喧嘩を売ってしまった。
「ちょっ!? ザルバ!? 何言ってんだよ!?」
「カチーン。何、その指輪。指輪の癖に生意気よ!」
「同感ですね。今のは少しムッとしました」
『言って分からん奴には、身の程を教えてやらんとな』
その言葉に反応した二人は、先程まで互いに向けていた殺気を、全て優牙に向けて立ち並んだ。
「行くわよ清姫!あたし達の力、みせてやる!」
「ええ。ドラゴンの力、思い知らせて上げましょう」
そして、エリザベートはマイクの様な槍を構え、清姫は扇子を開き、自前の炎を纏わせる。
「「はあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」
そして二人は一緒に優牙に飛びかかる。
「先輩!」
「心配するなマシュ殿。マスターは見えている」
「「貰ったァァァァァァッ!!!!」」
清姫とエリザベートの武器が、優牙に当たる瞬間……
「フン!」
「「きゃあぁぁぁぁぁっ!!!!」」
魔戒剣を振り抜いて衝撃波を作り出し、二人を吹き飛ばした。
「こんなもんかな?」
「……… えぇ~」
広場には、こんなに簡単に終わってしまって良かったのかと、ため息を漏らしたマシュの声が、静かに響いていた。
「うぅ…… や、やるじゃない… 今日はこのぐらいにしてあげるわ……」
「きゅぅ…… やられてしまいました……」
『負けといてよく言う』
「ザルバ、もう黙ってて」
一度負かした事で落ち着いたのか、ようやく話を出来る状態になったエリザベートと清姫。
優牙は当初の目的を思い出し、
「いきなりごめん。聖人を探しているんだけど、何か知らないか?」
「…… まあ、襲いかかった私に手を差し伸べるとは、なんてお優しいお方…… 聖人ですか……」
「私は見てないわ。見たのは狂ったカーミラ達と、そこのバーサーカーだけよ」
「失礼ですね。私、バーサーカーはバーサーカーでも、言語が理解できるバーサーカーですのに…… それはそうと、聖人には一人心当たりがあります」
「本当ですか!? 清姫さん!」
聖人についてエリザベートは知らないようだが、清姫は知っているらしく、その聖人の特徴を話してくれた。
「はい。この国では有名な聖人。名をゲオルギウスと言います」
『ゲオルギウス…! あの聖ジョージかい!』
「何処にいるか分かりますか?」
「残念ながらこことは真反対、西側の街にいらっしゃいます」
清姫はここでエリザベートと喧嘩を始める前、ゲオルギウスと出会い、危うく戦闘になりかけたそうだ。
「西側には、丁度ジャンヌ達がいるよね?」
「はい。早速連絡してみます」
マシュは、ジャンヌに持たせていた通信機に連絡を取り始めた。
「はい。わざわざありがとうございます、マシュさん。丁度その方が目の前にいらっしゃるので、これから接触してみます」
「そこのサーヴァント達!何をしている!」
一方西側では、連絡を受けたジャンヌ達が、丁度その聖人、ゲオルギウスと接触を試みる所であった。
聖女は逃げる、友の為に。
王妃は道をふさぐ、友の為に。
どちらも友の為。この約束、果たされるのか?
次回 第八節 堅陣
魔戒の炎が、魔女の炎を灼き尽くす!!!!