ジャンヌ達と合流するために、フランス領の西側の街へ移動していた優牙達をワイバーンが襲い掛かったが、優牙達はこれを難なく撃破していた。
「ドラゴン擬きが、私達に挑もうなんて百年早いのよ!」
「所詮は擬き。真の竜種たる私には及びませんわ」
「…… お二人は何故着いてきているんですか?」
いつの間にか着いてきていたエリザベートと清姫に、疲れた様な顔をするマシュだった。
「マシュさん!優牙さん!」
その時、西の街から戻ってきたジャンヌとへルマンが、ゲオルギウスを連れてやって来た。
「ジャンヌさん!へルマンさんも!」
「遅れて済まなかったな、マシュちゃん。でも、やることはキチンとやって来たぜ」
「……… と言うことは、そちらが」
「ゲオルギウスと申します」
マシュがゲオルギウスに気づいて目を向けると、ゲオルギウスは礼儀正しくお辞儀し、マシュもそれに倣ってお辞儀していた。
「…… マリーはどうした?」
アマデウスは帰ってきたメンバーの中にマリーが居ないことに気づき、それを聞いたジャンヌ達は顔を伏せる。
「マリーさんに何かあったのか?ジャンヌ」
「…… マリーは、街の住民を避難させるために残りました。それが、フランス王妃である自分の役目だと言って……」
「そんな…! マリーさんが…」
マシュは信じられないと驚き、優牙とジークフリートは顔を険しくしていたが、彼女と共にいたアマデウスは、何故かあっさりとした反応だった。
「そうかー、マリーはそう言ったのか。なら仕方無いね。彼女は限りない程の博愛主義者だからね、仮に僕達がいても同じ行動に出ただろう」
「アマデウスさんはそれでいいんですか?」
「いいも何も、彼女が自分で決めた事だ。それを僕達がとやかくいう資格は無い。彼女が人間として自由に選んだ結果なんだから」
そのあっさりとした態度に気を悪くしたのか、はたまたアマデウスの言葉に思うことがあったのか、マシュは考え込んでいた。
「それよりも、早くジークフリートの呪いを解いてやったらどうだい?」
「あっ、そうでした。直ぐに取りかかりましょう!ゲオルギウス、お願いします」
「お任せあれ」
ジャンヌとゲオルギウスは、ジークフリートの両側に達、聖旗と聖剣を構えて洗礼詠唱を施していく。
すると、みるみるジークフリートの傷が塞がっていき、呪いが完全に解かれた。
「ふぅ…… すまない優牙。随分と骨を折らせてしまった。…… いや、マスターと呼ぶべきかな?」
「どっちでも良いよそんなの。それよりも治って良かった、ジーク」
「ありがとう。我が真名はジークフリート。竜殺しの英雄だ。これより我が剣は貴方の物だ、マスター」
ジークフリートと改めて握手を交わす優牙だったが、その時、街に再びワイバーンがやって来た。
『優牙。またワイバーンだぜ。ったく、キリが無いぜ』
「またか…」
「ふむ、思いの外早く我が剣を振るう時が来たな。ワイバーンごとき、
ザルバからの察知を聞いた優牙だったが、ジークフリートが優牙の前に立ち、バルムンクをワイバーンに構える。
「分かった、行こう!ジークフリート!」
「ああ―――― ジークフリート、参る」
優牙はジークフリートと共にワイバーンに向かって行ったのだった……
復活したジークフリートの力は圧倒的で、他のサーヴァント達も居たものの、数分でワイバーンを殲滅してしまった。
「こんなものだが、どうかな?マスター」
「ス、スゴい……」
「これで、黒い私とも戦えます」
ジークフリートの力を見た一行は、勝率が上がった事に色めき立つが、再びザルバが警鐘を鳴らす。
『優牙、サーヴァントだ。数は二騎、真っ直ぐ此方に向かって来やがる』
「サーヴァント!? こんな時に…! 皆!」
優牙の声が飛ぶと同時に、一同は武器を構えて敵サーヴァントを待つが、出てきたのは……
「皆さーん!」
「えっ?マ、マリー!? どうして!?」
街に残った筈のマリーに、壮年の騎士ラファエロがやって来たのだった。
「やあ、マリー。君、良く竜の魔女相手に無事でいられたね?」
「貴方のピアノを聞いてないのに死ねないわ。それに、ラファエロ様が助けて下さったの」
マリーはそう言ってラファエロを紹介するが、当のラファエロはへルマンを睨んでいた。
「げっ…… 依りによってラファエロのオッサンかよ!?」
「貴様、ロベルトか? その軽口は相変わらずだな」
「ちくしょう…… アルフォンソの奴じゃなくて、ラファエロのオッサンの方を召喚するとは、ガジャリの奴ぅ~!」
「ほう、アルフォンソに会ったのか。後でじっくり聞かせてもらおう」
へルマンがラファエロが召喚された事実に頭を抱えていたが、ラファエロはそんな事、気にも止めず優牙を見据える。
「…… 貴様が、今の世の黄金騎士 牙狼か」
「はい、冴島優牙と言います。貴方は……」
「我が名はラファエロ・ヴァンデラス。堅陣騎士 ガイアの称号を持ち、かつて黄金騎士の盟友であった男だ」
「ガイア…… !ランスロットの時に手を貸してくれた!」
生身で会うのは初めてだった為に、優牙はラファエロの事が分からなかったが、称号の名と声で、ランスロット達に襲撃された時に、救ってくれた魔戒騎士だと気づいた。
「…… うむ、貴様も黄金騎士に相応しき男のようだ。どこか、我が弟子を彷彿させる物があるがな」
「えっと…… ありがとうございます?」
短い問答を終えたラファエロは、そう言ってへルマンの元に向かった。
「
「ん? 俺?」
「はい、貴方様ですよ」
すると突然、清姫が優牙に綺麗に笑いかけながら(見る人が見ればヒェッと言ってしまうような笑み)すり寄ってきた。
「私、貴方と正式に契約を結びたいのですが」
「俺は良いよ。どうやってやるの?」
「簡単でございます」
そう言うと清姫は、優牙の小指に自分の小指を絡ませた。
「ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます♪指切った♪はい、これでいいですよ。ちなみに嘘ついたら本当に針千本呑ましますので」
そう言って清姫はすすすっと離れていった。
『いいのか優牙。あれは呪いだぞ?』
「そうなの?特に体に異変は無いけど……」
『そう言う事を言ったんじゃないんだがなぁ…』
ザルバがため息を吐いた時、ロマンから通信が入った。
『さて、随分戦力が集まったね』
「はいドクター。これなら行けます、先輩!」
「ああ、皆でオルレアンを攻め落とす!」
「はい、明日に備えてキャンプに戻って休みましょう」
ジャンヌの提案で、一同はベースキャンプに戻り、明日に備えて英気を養う事にし、街を離れた。
ベースキャンプに到着し、カルデアから送られてきた物資を受け取った優牙達は、夜になった事もあってそれぞれ思い思いに休んでいた。
ジャンヌはマリーと楽しく談笑、エリザベートと清姫は口喧嘩、ジークフリートとへルマンは剣術に着いて語り合っていた。
そんな中、マシュはアマデウスと共に水を汲みに向かっていた。
「水も汲んだ事だし、少し休んだら行こうか」
「はい…… あの、こんな時に不謹慎ですが、一つ聞いても宜しいですか?」
「良いよ。何しろ明日は決戦だ。後悔は無いほうがいい」
「では、先程マリーさんが残ったと聞いた時の“人間として自由に選んだ”と言う事が、私にはよく分からないんです」
マシュは先程のアマデウスの発言に疑問を持っていて、分からなかった事をアマデウスに聞いていた。
「いえ、意味は分かるんです。でも、私には選んだど言うことが分からなくて……」
「成程、じゃあマシュが正しいと思う事は?」
「えっと…… 多くの生命を認め、それを護ること、でしょうか? 」
「ふむ、大雑把だなぁ。もし仮に優牙君がそう言う人間じゃなかったら?」
「それは……」
マシュはアマデウスのその質問に答えることは出来なかった。
仮にそうだとしても信じられないだろう。
カルデア襲撃の際、震える彼女を抱き締めたのは、他でもない優牙なのだから。
「ごめん、意地悪が過ぎたね。でもそう言う事さ。マシュ、多分君は自由を得たばかりの人間だ。だから選択する事を恐れている」
「でも、私に何かを好きになる資格なんて―――」
「マシュ。例え君が戦うだけの人形だとしても、何を好きになるかは選択する事は出来る。これは義務だ」
マシュは暗くうつ向いていたが、アマデウスの言葉に引っ掛かりを覚え、再び質問に入る。
「義務ですか?権利等ではなく?」
「そう、義務だ。責務と言ってもいい。だって僕達は自由に考えることが出来る。何を尊び、何を好きになり、何を邪悪と思うか? それは周りに言われた事じゃなく自分で決める事だ」
「何を、自分で決めて選択するか……」
「そう。世界が君を作るのではなく、君が世界を作るんだ。そうして何時か、君は世界を越えなくてはならない。
未だ良く分からないマシュは、どうしても思考の迷路から抜け出す事が出来ずにいた。
アマデウスは呆れながらマシュにあるアドバイスをする。
「全く、本当に何も書かれていない楽譜みたいだな、君は。どうしても分からなかったら、戻って優牙君に聞いてみるといい。見たところ君達は同じ護る人間のようだしね」
「先輩が――― 私と同じ?」
「さあ、休憩は終わり。早く戻らないとジャンヌとマリーが心配する」
「あ…… はい」
そうして汲んだ水を持って、二人はキャンプに戻っていった。
キャンプに戻った後、マシュはアマデウスの言われた通りに優牙を探していた。
「先輩…… 何処にいったんでしょう……」
歩いていると、丁度優牙が向こう側から歩いてきた。
「あれ? どうかした?マシュ」
「ちょっと先輩に伺いたい事が…… 先輩は?」
「俺はラファエロさんと稽古をしてたよ」
そうして優牙は、近くにあった倒れた倒木に腰掛けた。
「ほら、マシュも座りなよ」
「じゃあ、隣を失礼します」
優牙に倣ってマシュも倒木に腰掛ける。
「それで何を聞きたいの?」
「簡単な質問です。先輩は何を尊いと思いますか?また、何を邪悪と思いますか?」
「うーん…… 難しいなぁ……」
質問された優牙は暫く悩むと、マシュに迷いなく答えた。
「俺が尊いと思うのは…… 人の笑顔かなぁ……」
「と、言いますと?」
「うん。俺は魔戒騎士になるために人とは全く接さない生活をしていて、人を守ってるって実感が無かったんだ。でも、ある時ホラー狩りの帰り道に、ある家から笑い声が聞こえたんだ」
「初めてだったんだ。人を守ってるって実感できたのは。そして、あの笑顔を守り続けたいとも思った。だからかなぁ…」
懐かしげに語る優牙を、マシュは羨ましく思った。
自分には無いものを持つ優牙を、どうしようもなく羨ましく思っていた。
「次は邪悪に思うもの、だっけ?それはやっぱり人の心かな」
マシュは驚いた、さっきまで人の笑顔を守りたいと言っていた優牙が、いきなり人の心を邪悪に思うと言ったのだ。
「それは矛盾しています。先輩はたった今人の笑顔を守りたいとおっしゃったではないですか」
「あ…… そうか、まだ話してなかったね」
優牙は今までに無い程、真剣な顔をしてマシュに語り始めた。
「マシュ。前に魔戒騎士はホラーを狩る者って言ったよね?じゃあ、そのホラーはどうして現れると思う?」
当然、魔戒騎士の世界を知らないマシュが分かる筈も無く首を振る。
「それはね、人の邪心に反応して現れるんだ」
「そんな!? それじゃあ……」
「そう、人間から邪心は消えない。だから人間が生きている限りホラーは現れ、人を襲い続ける」
それを聞いたマシュは驚愕した。
そして疑問にも思ったのだ、それなら何故優牙やへルマン達は戦うのかと。
「ならどうして先輩はそんな不毛な戦いが出来るんですか?」
「さっきも言ったよ。人の笑顔を尊いと思うからだ」
「えっ?」
「確かに人には邪心がある。でも、それだけじゃない。守るに値する光もあると思ってる。だから戦うんだ、一人でも多くの命を繋ぐために……」
優牙のその言葉に、マシュは守りし者としての覚悟を見た。
同時に、これまで優牙の戦いがどれだけ孤独で寂しいものであったのかも……
「ごめんな? こんな重い話しちゃって」
「いえ、お陰で私の守りたいものが見つかりました」
「そっか…… 良かったな、マシュ!」
「はい!」
優牙の話を通して、優牙の戦う理由や、選択する自由を学んだマシュ。
彼女の守りたいものとは……
「それで? 何を守りたいんだ?」
「ふふっ…… それは先輩でもお答え出来ません♪」
「えぇー!? 何だよ教えろよー!」
「ダメです!」
そして答えを見つけたマシュは、先程よりも明るくなってキャンプに戻っていく。
優牙の質問攻めに合いながら……
「(私の守りたい者…… それは、先輩やカルデアの皆です!)」
マシュが守りたいもの―――― それは意外と近くに居るのかも、しれない……
遂に役者は揃った。
ここまで来たら、後は互いにぶつかり合うしか道は無いぜ!
次回 第十節 進撃
攻め落とせ!悪竜の城!