古代都市ローマへと向かう道行きを、優牙とマシュは少女の軍勢に従って突き進む。
「そう言えば、そなた達の格好はとんと見ぬが、もしや異国の者か? ブリタニア…… は違うようだし、となると東方の国か?」
ただ進むことに飽きたのか、少女は好奇心がはち切れんばかりに顔を輝かせて質問してくる。
「俺の出身は東方の島国だけど、俺たちはカルデアから来たんだ」
「カルデア?うーむ…… 聞かん国だな」
「カルデアは国ではありません。一種の組織なんです」
それもそうだろう、カルデアが存在しているのはローマからは遥か遠い未来の事。
この時代に生きる少女に分かる筈もなかった。
「申し上げます! 敵軍が真っ直ぐ此方に近づいてきます!!」
すると、血相を変えて走ってきた兵士が少女に先程の敵軍が近づいているという報告をしてきた。
「むぅ…… なんと空気の読めぬ連合帝国の連中よ!そなた達、その力を再び余に貸してはくれぬか!」
「私はもとよりそのつもりです。行きましょう先輩」
「はぁ…… 正直人間相手は疲れるんだけどなぁ……」
そうしている間にも、敵軍の第二波は着々と近づいてくる。
「来たか!そこの中々な格好の盾の少女よ。余の前に立つことを赦す!」
「いつの間にか仕切られてます!? 先輩!」
「あはは…… ま、いいんじゃない?」
少女は身の丈程ある紅い刀身の剣に焔を迸らせ、自ら先陣を切って敵軍に突撃していく。
「余に続け!ローマの神々の栄光は、我らの元にこそありなん!」
「「「「ウオオオオオオオッ!!!!!!」」」」
少女の雄々しき開戦の叫びは自軍の兵士達活を入れ、士気を高めていく。
「す、凄いです……!彼女が煽動しただけでこんなにも兵士の皆さんの士気が上がるなんて…!」
「それだけ彼女に強烈な魅力があるんだろうね。俺は少しその気持ちが解るよ」
「えっ?」
「まだ少ししか一緒に居ないけど、楽しいんだ、彼女と居ると。そう言うのが彼女のカリスマなんだろうね……」
「…… そうですね。私にも解る気がします」
「さっ、俺たちも負けてられないぞマシュ!」
「はい!」
周りの兵士達の熱気を活力に、優牙達も少女の居る最前線へと向かっていく。
「やあっ!」
「ハアッ!」
彼女の後ろに群がっていた敵兵を蹴散らし、彼女の後ろに陣取る。
「おおっ!来たか。やはりそなた達はいいな!」
「お褒めに与り光栄…… です!」
「先、輩!今、そんなことっ!言ってないで!手を!動かして!下さい!」
少女は刃に宿る焔で手を蹴散らし、優牙は拳で敵を確実に減らしていき、マシュは二人を守りながら敵兵を鎮圧していく。
「うむ、うむうむ!良い、実に良い!! そなた達の戦いっぷり、見事である!」
「でもこれ……… 数が多いです!」
「こう言うのは、頭を潰せば簡単に崩せるんだが……」
しかし、元々少女の軍は少数だったこともあり、大軍勢である敵軍の兵士を十分に減らす事は出来ていなかった。
それどころか、津波の様に押し寄せてくるばかりである。
『優牙君、敵軍からサーヴァントだ!』
「このタイミングで来るか……!」
「はい…… この感じ、既に来ています!」
その時、兵士の群れが二つに割れ、奥から金の鎧に紅いマントを着けた男が、真っ直ぐ此方に――― というよりかは、少女に向かってきていた。
反対に少女もあり得ない者を見た顔をで驚いている。
「我が、愛しい、妹の子……」
「…… 伯父上……!」
『え?今、あの子伯父上って……』
「生前の人物とサーヴァントに血縁が!?」
瞳を黒く輝かせ少女を見るサーヴァントと、苦々しい表情でサーヴァントを見つめる少女。
やがて意を決した様に少女がサーヴァントに問う。
「伯父上…… いや、敢えてこう呼ぼう。何故迷い出てきたのか!! 偽りの皇帝を連ねし帝国に与する皇帝が一人!…… カリギュラ……!」
サーヴァント、カリギュラは問われた事に対して、機械の様に片言で返答する。
「余の、振る舞いは、運命、である…… 捧げよ、献上せよ、我が、愛しき、姪よ。全 て を !捧 げ よ !」
完全に少女の問いを無視した解答。
カリギュラは狂化によって狂ったサーヴァント、
「伯父上……! 貴方は、何処まで…!」
『相手はバーサーカーの様だ。話し合える相手じゃないぞ?優牙』
「分かってる。彼奴は、彼女の為にも倒して置かなきゃならない…… マシュ!」
「はい! サーヴァント戦、準備出来てます!」
『この時代で初のサーヴァント戦だ。二人共気を付けて』
「ウガァアアァアアァアッ!!!!!!」
獣のごとき咆哮を上げて少女に突撃していくカリギュラだが、未だショックがあるのか少女は動けずにいた。
「ハアッ!」
「グフォッ!!」
迫り来る拳を前に優牙はカリギュラの胴を蹴り飛ばす事で後退させた。
「何故、余の、邪魔を、する? 余の、振る舞いは、女神に、よって、定められた、運命、だと言うに」
「たとえそれが運命だったとしても、俺はそれに抗う。抗わなければ、人を守れないからなァ!」
優牙の拳とカリギュラの拳がぶつかり合う。
普通ならば、バーサーカーの拳をまともに食らえば命の保証はないが、優牙は魔戒騎士、超人的な身体能力でカリギュラと拳を撃ち合っていた。
「オオオオオオオッ!!!!」
「グルアァァアァアアッ!!!!」
互いに蹴りを放ち、それは脚を絡めとる結果になってしまうが、二人はそのまま撃ち合いを続ける。
「あやつは何者だ? 伯父上とまともに殴り合うなどと、命が幾つ合っても足りない行為を意図も容易く…」
「それがマスターですから。さぁ、私達も行きましょう!」
撃ち合いを続ける二人に割り込む形でカリギュラに盾をぶつけるマシュ。
衝撃でカリギュラがよろめいた所を優牙が顔面に蹴りを入れ、少女が剣で胴を切り裂く。
「グウゥゥ……!!!!」
「ナイスだマシュ!」
「伯父上…… 貴方が、余のローマを征服すると言うならば、余は、第五代ローマ帝国皇帝、ネロ・クラウディウスとして、貴方を討つ!」
少女、ローマ皇帝ネロは、紅い鋒をカリギュラに向けてそう宣言するが、カリギュラは哀しげな表情になる。
「我が、愛しきネロよ…… 何故、捧げぬ…… 何故、受け入れぬ…… ああ、ネロ。美しき、我が、妹の、写し身よ…… 余は、余は、余は……」
そのままカリギュラは消え去った。
「……… 倒したのか?」
『いや、おそらく霊体化しただけだろう。仮にもバーサーカーなんだからな』
「敵軍、撤退していきます」
「……… おそらく伯父上が、敵軍の将軍なのだろう。そなた達、礼を言う。この恩賞は―――」
ネロは優牙達に礼を言うが、その表情は暗く、戦いに勝った様な感じはしていなかった。
「と、その前に互いの素性を話して無かったな。余はこのローマを必ずや再建すると神々、神祖、自身、そして民に誓った者にしてローマそのもの!第五代ローマ帝国皇帝、ネロ・クラウディウスである!」
「あ、貴方が…… あのネロ皇帝!?」
『ウソっ!? 女の子だったの!? ……… 歴史って深いな……』
「そうであろそうであろ!驚いたかぁ~!余は至高の芸術にしてオリンピアの華!ネロ・クラウディウスなのだからなっ!」
マシュ、ロマンの驚きに大満足のネロ皇帝だったが…… 空気の読めない歴史に疎すぎる人物が一人……
「……… 誰?」
「えっ?」
『『『『『えっ!?』』』』』
「先輩……」
『やれやれ…』
「うぅっ…… 余は、泣くぞ……!本気で泣くからな……!」
「だっ、誰かー!! 皇帝陛下をあやせぇぇぇぇっ!」
「ネ、ネロさん!先輩には後で私からきつく言って置きますから!泣かないで下さい!?」
「賑やかだなぁ……」
『お前のせいだ、お前の』
カリギュラが敵だった事よりも、優牙に「誰?」と言われた事の方が精神的にショックだったらしいネロが泣き出しそうになるというハプニングを越えて、一行は古代都市ローマへと到着した。
「むぅ…… まさか優牙が余の事を知らぬ等とは夢にも思わなんだが、流石にローマは知っておろう!」
「おおっ!凄いな…!」
ローマでは、ネロの帰還を民達が嬉しそうに祝っており、街の各地で熱気があり、何より笑顔で溢れかえっていた。
優牙はそんな街の様子を見て、子供の様に目を輝かせていた。
「フフン、そうであろう!童女ですらも褒め称える我がローマの威光は!…… お、店主。その林檎を幾つか貰うぞ」
そう言って一気に機嫌を直したネロは、途中にあった果物屋で林檎を数個取り、店主に頭を下げられた後、美味しそうに林檎を頬張る。
「うむ、美味い美味い。そなたらも食べぬか?」
「あ、私は良いです」
「俺は貰うよ」
ネロから林檎を受け取ると、シャリシャリと林檎をかじる優牙。
「ふむ…… マシュは控え目なのだな。だが、優牙は良い食いっぷりだ!先程の事は水に流すぞ!」
「?さっきのって?」
「先輩…… 本格的にお話しましょう。いえ、これはもう折檻と言っても良いです」
『あの~、そろそろ本題に入ってもいいかな?』
「むっ?先程から声はするが姿が見えぬ物がいるな」
するとネロがロマンからの通信を感覚で感じたのか、辺りをキョロキョロと見回す。
「ふむ、魔術的な何かか?」
『魔術を知っておいでとは話が早い。実は皇帝陛下に聞いていただきたい話が御座いまして……』
「構わん、申してみよ」
ロマンはネロにこれ迄の事と、優牙達がこの時代に来た理由を話した。
「むぅ…… 未来がどうだとか、余にはさっぱり分からぬが…… 要するに優牙とマシュは余を助けに来たのだな?」
「はい、私達は聖杯と言う魔術的な道具を探索しています。それは、そこにあるだけで人を狂わせる大変危険な物です。それがローマを危機に追いやっている原因かと」
「聖なる杯が我がローマを…… 突拍子も無いことばかりが起こるが、余は二人を信じるぞ!」
「ありがとうネロ」
「うむ、余にも話したい事がある故。続きは王宮で話すとしよう」
そうして街での凱旋が終わり、一行はローマの宮殿で一時の安らぎを得ていた。
「それで話したい事って?」
「うむ、おそらく聖杯とやらに関係があることだろうが…… 知っての通り、我がローマは今戦争状態にある。だが、それは本来あり得ぬのだな?」
『はい。この時代に於いて大規模な戦争は起こらず、平和そのものであります』
「先程そなた達が見た様に、今ローマは連合帝国の驚異に晒されている」
「連合帝国?」
聞き覚えの無い単語に優牙は首を傾げるが、それもそのはず、史実のローマにそんな大軍勢が存在したと言う形跡はない。
聖杯によって歪められた歴史によってもたらされた結果であると考えられる。
「うむ。幾ら斥候を放っても帰っては来ぬ故、実態が分からぬが、民が見た話によると、神々が甦っただのと言い、あまつ歴代の皇帝を名乗る者が現れる始末……」
そこまで言うと、ネロの表情はみるみる暗くなっていく。
「さっきの、カリギュラって奴のこと、気にしているのか?」
「先輩…!」
「いや、良い。先程同じく目にしたものだからな。知っての通り、あれは余の伯父だ。しかし……」
『既にこの世にはいない。ですね?』
「……… うむ」
そう、ネロがローマを治めている時代に於いてカリギュラは既に故人である。
先程現れたカリギュラはバーサーカーのサーヴァントであったのだ。
「だが、例え伯父上や歴代の皇帝が敵でも、余はローマを守らねばならんのだ!」
「ネロ……」
「そこでそなた達に頼みたい!! 余の客将として軍に加わってくれぬか!」
「俺は兵士を殺せないから、無力化でいいなら」
「私も、先輩がそれでいいのなら」
「うむ!勿論認める!! ついでにどちらかに提督の位を任せたいのだが……」
そうしてなし崩しに優牙のマシュのローマ軍入りが決まり、提督にはマスターである優牙がなった。
『時に皇帝陛下、レフ・ライノールなる人物をご存じでしょうか?』
「…… れふ?いや、聞き覚えがないが…… 其奴も魔術師なのか?」
「はい。彼はカルデアを、人類を、総てを裏切った人です」
「マシュ。奴はもう人じゃない。ホラーだ」
「ふむ…… そのれふとやらは知らぬが、兵士の話によれば前線に凄腕の魔術師がいたそうだぞ?」
レフ・ライノールは確実にこの時代に来ている。
それがわかっただけでも十分な収穫だが、今回は本人が直々に時代を焼却しに来ているらしい。
『妙だな…… フラウロスが前線に出てくるとは…… 優牙、こいつはキナ臭くなってきたぞ?』
「分かっている。けどホラーは狩る。それだけだ。ネロ、俺達をなるべく前線に置いてくれないか?」
「それは構わぬが…… 良いのか?」
「ああ。奴は…… 所長の敵でもあるんだ……!!」
「分かった、そなた達は余と共に来るといい。さすれば、おのずと最前線にいよう」
「ありがとうございます、ネロさん」
最前線に送ってほしいと言う優牙の提案に、ネロは快く頷いた。
「さて、新提督も決まった事だし、今日は宴を開こうぞ!着いて参れ優牙、マシュ!ローマの豪華絢爛な宴を見るが良い!!」
「お祭りですよ!先輩!」
「へぇ~!それは楽しみだ!」
宴と言う言葉にいち早く反応した二人は、ウキウキしながらネロの後に着いていく。
そんな楽しい宴も、これから始まる激しい戦いの前座だと言う事に、二人が気づいたのは少し後の事だった。
ローマを遠く離れ地、ガリアの近くでは、未だに戦闘が行われていた。
『セイィィッ!!!!』
「かはっ…… がっ!!!?」
翡翠の槍を持った鎧の騎士は、敵軍の将と思われる者に槍を突き刺し、突き刺された将軍はサーヴァントだったようで、黄金の粒子を撒き散らしながら消滅した。
『フン……』
鎧の騎士は消えたサーヴァントを一瞥すると、鎧を解除し、鎧の下から翡翠色のロングコートを纏った少年が現れた。
そこにパチパチと乾いた拍手が少年に送られる。
「流石、と言った方がいいかな?」
「からかうな荊軻、俺はからかわれるのが嫌いだ」
夜の闇の奥から、丈の短い純白の着物を着た女性が現れ少年に近づいていく。
「これで漸く二人目、後どれだけ倒せばいいのか…」
「何、君が居れば苦もなくやれるさ。そうだろう? 森羅騎士
「からかうなと言った」
少年は女性に背を向け、闇に向けて歩きだす。
「おや?何処へ行くのだ?」
「次の戦場だ」
「ならば私達も行こう。呂布を回収してくるから、暫し待っていてくれ」
そう言うと、女性は再び闇に消えた。
少年はその様子をため息を吐いて見守る。
『それにしても瞬。本当にここに牙狼を継ぐものはいるのだろうか?』
「今は、ガジャリの言うことを信じるしかない。索敵は任せたぞ、ガルバ」
『了解した』
少年は鷲の頭の様な装飾があるブレスレット型の魔道具にそう伝えると、一人月を見た。
「(優牙。お前は本当にここにいるのか? 何にせよ、くたばるなよ。まだ、俺はお前に守りし者としての使命を教えてくれた借りを、返せてはいないのだからな……)」
森羅騎士 牙舞、榊原瞬。
彼の道が黄金騎士と交わるのは、そう遠くない未来なのかもしれない………
人間ってのは不思議なモンだな。
昨日まで味方かと思えば敵。
逆に、昨日まで敵だった奴が味方だったりする。
次回 第三節 遠征
おいおい、なんだこの筋肉達磨は!?