遂に首都中心部、宮殿への道を見つけたネロ達。
今まさに、突入を間近に控えて脇から宮殿へ入る場所の前に立っていた。
「ここで合っておるのか?荊軻」
「問題ない。皇帝への道行きはこれで二度目だ。今度はしくじらず、確実に君たちを誘導しよう」
荊軻は中国では名高い暗殺者である。
かつて始皇帝の暗殺を企てた義賊だが、様々な要因と寡黙な性格が仇となり、遂に始皇帝を暗殺することは叶わなかった。
それ故に世界が懸かっている今回は失敗出来ぬと、荊軻は最善の注意を払って宮殿への道を探し、ルートを確立していた。
「済まない。遅れた」
「
そこに遅れて、瞬と陸人がやって来る。
二人は魔戒騎士の超人的な体力を宛に、ネロ達に敵が来ないよう惹き付けていた。
「遅いぞ、お前達。私が見つけた道を無駄にする気か?」
「まあまあ、荊軻。二人共間に合ったんだし、許して上げて?」
「……… 主殿が言うなら仕方あるまい。一刻を争うのだからな」
「マスター…… 何時の間に荊軻さんと契約を?」
遅れた二人を咎めようとする荊軻を優牙が諫め、止めるが、『主殿』と耳さとく聞いたマシュが心なしか不機嫌な雰囲気を出して問い詰める。
「ん?出会ってちょっとしてからだけど…… どうして俺の足を踏んでいるの?」
「さて?どうしてでしょうね?」
「???」
結局マシュは足を退けることなく、少し頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
『どうしたの?マシュのメンタルがマイナス値に下がったんたけど』
「さあ?俺にも分かんない」
『はーい。乙女心の分からない独身と鈍感は仕事しようねー!』
『うわぁ!? ちょっ、ダ・ヴィンチちゃん!? 僕はちゃんとやって…… あっ、止めて!杖でつつかないで!』
そのままロマンとの通信は切れてしまった。
『賑やかな奴らだ。これから敵の懐に行くというのに』
「なんだったんだ?」
ちなみに優牙は荊軻だけでなく、ブーディカや呂布、スパルタクスとも契約している。
後にカルデアで召喚された際に一悶着あるのだが、それはまた別のお話。
「うむ。決戦前にこれだけ騒げるならば心配は要らぬな!では、行くぞ。最後の将を倒すのだ!」
その言葉に皆頷き、ネロを先頭に宮殿へ侵入した。
宮殿の中は、ローマの宮殿と造り自体は全く変わっておらず、むしろ違う場所を探したほうが早いのではないかというぐらいスムーズに進めていた。
「ふむ。街といいこの宮殿といい。余のローマと殆ど同じではないか。これ程のモノをどうやって出現させたのだ?」
『十中八九、連合に使えている宮廷魔術師だろうね。彼かロムルスの手に聖杯があるんだ。街の一つや二つ創り出すなんてわけないだろうし』
『止まってください。皆さま』
その時、ラルヴァが皆を引き留める。
「どうした?ラルヴァ」
『敵です。無数の邪気が此方に向かってきます』
「何!?」
その瞬間、通路の奥からワラワラと道を阻む様に、ゴーレム、キメラが出てくる。
『魔導生物か…… 来るぞ、瞬!』
「分かっている」
『魔術によって産み出された生物だ!みんな、気を付けて!』
ロマンの通信が終わると同時に、それぞれの武器を構えるネロ達。
もはやこの程度の障害で立ち止まる程、ネロ達は弱くなく、むしろ準備運動程度にしか考えていないだろう。
「何があっても玉座に行かせぬ気か。だが、通して貰うぞ?今度こそ、皇帝を暗殺せねばならんからな」
「邪魔だ。退け!」
荊軻は、壁や天井を駆け巡り、ゴーレムやキメラの急所を匕首で的確に突き、瞬は魔戒槍を三節棍に変えて、敵を粉砕していく。
「お前達の様な雑魚に用はねぇんだよッ!」
「うむ!その通りだ!道を開け!皇帝の花道なるぞ!」
陸人のトンファーがキメラを抉り、ネロの原初の炎かキメラを容赦なく焼き尽くす。
「はあっ!マスター、ご無事ですか?」
「マシュが守ってくれているからね」
『悪いな、お嬢ちゃん。魔戒剣を取り戻すまでこいつを護ってやってくれ』
「お任せ下さい。私は先輩のサーヴァントですから」
そうして、敵生物を殲滅し続けながら玉座の間を目指し、遂に玉座の間の大扉が目前にやって来る。
「よし、行くぞ皆!」
バァァァン!
広い玉座の間に、扉が蹴破られる音が響く。
その部屋の中央に、ロムルスは悠然と立っていた。
―――― その手に、優牙の魔戒剣を手にして。
「…… 来たか、愛し子よ」
「うむ!来たぞ。偉大なる建国王ロムルスよ!」
「良い輝きを秘めた顔になった…… 今一度、呼び掛ける必要があるか?
ロムルスは、開口一番ネロに対し皇帝と認めた。
呼び掛けをネロに告げるが、結果は既に見えていた。
にもかかわらず、ロムルスは呼び掛けたのだ――― 目の前にいるこの幼き皇帝が、この
「いいや、必要ない。そなたが今、口にしたように余は皇帝である。過去も、現在も、そして未来でさえも、この余こそが、ローマ帝国第五代皇帝に他ならぬ!」
それを聞き届けたロムルスは満足気に顔を綻ばせた。
「良い啖呵だ。ネロ・クラウディウス。貴様こそが、当代のローマに相応しい。……… 次は貴様らか、未来の魔戒騎士達よ」
ロムルスがネロから優牙達三人に目を向けると、途方もない威圧感が優牙達を襲った。
「この
『なんという威圧感……!リク!』
『瞬、お前の答えを聴かせてやれ』
しかし、そんな威圧感も答えを見つけた陸人と瞬にしたら何てことのないものだった。
「魔戒騎士として必要なもの―――― それは、守りし者の魂!」
「この世を魔獣の手から守り、無辜の人々の生の営みを守り続ける者の魂だ!」
堂々と告げた陸人と瞬。
そんな二人の答えを吟味し、思考したロムルスは目を見開いて言った。
「その答えでも足りぬ事はないが――――
「「なっ!?」」
「貴様も同じか?冴島優牙」
驚く二人を尻目に、優牙を見るロムルス。
その顔は、先の二人とは違い、満足のいかない答えを出した時が優牙の命日だと言わんばかりの険しさだった。
「先輩……」
「…… 大丈夫。任せて」
心配そうに此方を見るマシュの頭に手を置いて二、三度撫でた後、優牙はロムルスに向き直る。
「…… 正直。今でも分からない。何が魔戒騎士にとって必要なのか、俺には……」
「おい優牙!?」
「ほう、ならば放棄するというのか?魔戒騎士であることを」
ロムルスは優牙に魔戒剣を向け、殺気を放つが、優牙は静かに首を振る。
「でも、俺が見失っていた事は分かった。―――― それは騎士の心。誰もが、魔戒騎士になって最初に抱き、そして時間が経つにつれて忘れていくものだ」
「それは、例え剣や鎧を失ったとしても、守りし者として戦い続ける、俺たちの誇りだ……!」
優牙のその意思と決意は、確かにロムルスの魂に届き、ロムルスは魔戒剣を下ろす。
そして――――
「よくぞ、その解に辿り着いた。冴島優牙」
初めて、ロムルスは優牙に向けて微笑み掛けた。
「守りし者の魂…… それを持つ事は決して間違いではない。だが、その前に魔戒騎士としての心、誇りを持たねば、それは慢心や傲慢に変わり―――」
「―――― ホラーを呼ぶ陰我となる」
「然り。だが、お前はその解に辿り着いた。ならばこの先の試練も乗り越えて行けるだろう。今、この瞬間に貴様は我が牙狼の鎧を受け継ぐに到った!――― だが……」
「ああ、鎧は――― 自分の手で勝ち取る!」
「よくぞ言ったァッ!!」
先程の優しき微笑みからは一転、獰猛な笑みを浮かべたロムルスは、魔戒剣を天に掲げて円を描いた。
―――― GAOOOOOOOOO!!!!!!
黄金の光を放ちながら召喚された牙狼の鎧は、ロムルスに纏われ、魔戒剣は牙狼槍に姿を変える。
「神祖ロムルスよ!余は、余の剣たる強者達で、そなたと相対する!」
『許すぞ。ネロ・クラウディウスよ。
その瞬間、ロムルスは牙狼槍を突きだして突撃してきた。
「みんな離れろッ!」
優牙が素早く指示を飛ばし、散開するネロ達。
ネロ達が居た場所を、鋭い一撃が通り抜け、床を粉砕する。
「陸人!瞬!」
「ああ!」
「任せろ!」
ロムルスの直ぐ近くに着地していた陸人と瞬は、トンファーと魔戒槍で斬りかかり、ロムルスの動きを制限する。
『素早く動く為に鎧を召喚しないか…… 良い判断だ』
「余裕で居られるのもッ!!」
「今の内だァッ!!」
左右から同時に魔戒剣と魔戒槍を叩きつける陸人と瞬だが―――
『甘いわ!』
「グワッ!?」
「ガッ!!」
ロムルスはそれを容易く避けて、二人の背中を斬り裂く。
「速い…!鎧を纏っているのに…!?」
ロムルスはランサーのサーヴァントとして召喚されている為に敏捷度の補正を受けている。
ランサーは最速の英霊に与えられるクラス。
多少鎧で押さえつけられた所で速さは然程変わらないのだ。
「獲った!」
その時、ロムルスの真上から荊軻が匕首を構えながら落ちてくる。
狙うはロムルスの首ただ一つ。
『ヌゥウン!!』
しかしロムルスは事も無げに牙狼槍を振るい、匕首を槍の紋章で受け、柄で荊軻を地面に叩き落とす。
『ローマッ!!』
「ゴフッ!?」
ロムルスはその鎧に包まれた強靭な脚で、荊軻を蹴り飛ばした。
九の字に曲がって吹き飛んでいく荊軻を、壁にぶつかる直前に優牙が受け止め、助け出す。
「く…… すまない、主殿。私では役不足のようだ」
「大丈夫。また隙を見て狙ってくれ」
女性である荊軻は、加工されたソウルメタルによって深手を負っていた。
優牙は素早く手持ちの『リヴァートラの刻』を荊軻に飲ませ、魔導火で傷口を焼いた。
それは魔戒騎士に伝わる霊薬で、魔導火に傷の治癒の力を与える秘薬である。
『リヴァートラの刻か……』
「ハァァァァッ!!」
「セイィィィッ!!」
『無駄だと言っておろう!!』
再び左右から突撃してきた陸人と瞬を牙狼槍で捌き、楽々と相手をしていると、そこにマシュの盾が飛んできた。
『何ッ!? グオッ!!』
盾がロムルスの胸に直撃してロムルスに走るマシュに戻っていき、それを掴んで更なる一撃をマシュはロムルスの、赤黒い瞳をした牙狼の顎に打ち付けた。
『――――ッ!?』
「先輩の鎧は……… 返して貰います!!」
そして最後の一撃が、牙狼槍を真上に弾いた!
『ヌッ!? おのれッ!』
「今だ陸人!このチャンスを逃すな!!」
「おうッ!」
ふらつく体で牙狼槍を取ろうと手を伸ばすロムルスの隙を二人は見逃さなかった。
陸人と瞬は星狼と牙舞の鎧を召喚して、ロムルスの体をガッチリと押さえつけた。
「ネロさん!今です!」
「うむ。行くぞ!―――― 天幕よ、落ちよ。『
無防備になったロムルスをネロの原初の炎による神速の域に到達した剣閃が、牙狼の腰にある紋章を斬り裂いた!
「ヌオッ!?」
その瞬間、ロムルスの体から牙狼の鎧は強制解除され、打ち上げられた牙狼槍は元の魔戒剣の姿に戻った。
『優牙!』
『ロムルスは俺たちが抑える!』
「剣を取るのだ!優牙よ!」
「………… マスター!」
仲間達の声を聞き、優牙は飛び上がった。
自らの剣を取り戻す為に……
「ヌゥウン…… ロムスッ!」
『コイツッ!? グアッ!!』
『何処からこんな!? ウォオオ!?』
その時、ロムルスが陸人と瞬の拘束を振り払って、魔戒剣を回収するために飛び上がる。
「先輩!?」
「行かせぬ!! ハッ!」
そうして優牙の、ロムルスの手が、魔戒剣に伸び、掴み取ろうとしていた。
ロムルスの方が、身長的に僅かにリードしていた。
ロムルスの手が魔戒剣を掴み取るその時……
「ハァァァァッ!!」
「グオッ!?」
ネロの剣閃が、ロムルスを斬り裂いた。
それでも怯まずロムルスは手を伸ばす…… しかし。
「ウオオオオオオッ!!!!」
魔戒剣を手にしたのは優牙だった。
たった一秒、たった一瞬の差だったが、優牙の手には確かに魔戒剣があった。
「ハアッ!!」
ザシュッ!!
「グッ!ヌウゥゥッ!!」
そしてそのまま魔戒剣を一閃してロムルスを斬り裂いて、床に着地した。
「牙狼の称号…… 確かに返して貰ったぞ!」
「これで終わりだ!例え神祖が相手だろうと、余のローマは不滅だァッ!!!!」
優牙とネロは同時にロムルスに袈裟斬りを放ち、黄金の剣閃と炎の一閃が交差して、横十字の傷をロムルスに与える。
「ムウゥゥッ!? グッ………!」
気迫を込めた二人の剣は、ロムルスの霊核を斬り裂いていた。
「……… 眩い、愛だ。ネロ、永遠なりし真紅と黄金の帝国。そのすべてを、お前と、お前の後に続くものたちへ託す」
「…… はい、お任せください。神祖ロムルス」
「冴島優牙よ。見事、
優牙達三人の魔戒騎士は、ロムルスのその言葉に無言で頷き、ロムルスの体は塵に還り始めていた。
「ザルバよ。お前とはゆっくり語り合いたかったものだ」
『俺様もだ。懐かしい気分になったぜ、ロムルス』
「フッ… 減らず口は変わらんな。――― 忘れるな、ローマは永遠だ。故に世界は、何時までも続かねばならんのだ……」
そうして英霊ロムルスは消え去った。
英雄としての側面は『座』に、魔戒騎士としての側面は『時のたゆたう場所』へ……
それぞれの場所で、ロムルスは見守り続けるだろう。
自らが認めた後継者達を………
鎧を取り戻し、喜ぶのも束の間。
諸悪の根源が遂にその姿を現す。
何時見ても醜悪な姿をしているぜ……
次回 第十二節 御柱
俺様か?俺様は身も心も綺麗だぜ。