「先輩! お疲れ様です!」
セイバー、キャスターの消滅を見届けた優牙の元に、笑顔のマシュが走り寄って来る。
『マシュ、無事か?』
「私は大丈夫です。それより…… 先輩のその姿は…」
そう言ってマシュは、優牙の今の姿を見る。
黄金の鎧に包まれた鋼の体、輝き続ける金色の剣。
そして、マシュを見つめる紫の瞳の優しい黄金の狼。
『怖い?』
「いえ、むしろ安心します。目の色は私とお揃いですね」
『そっか…』
優牙が安堵の声を漏らすと、鎧の各所から光が溢れ、優牙の体から牙狼の鎧が外れ、鎧は魔界に還った。
「ふう……」
「先輩、まるで絵本の騎士の様でカッコよかったです! …… というより、その物?」
「ハハ、母さんの本でも見たの?」
「えっ!? あの黄金騎士のお話は先輩のお母様の著書だったんですか!!?」
「うん、父さんの若い頃の活躍を本にしたんだって」
マシュが昔に見た黄金騎士の絵本、それを優牙の母が描いたものだと知ったマシュは、一ファンとして興奮していた。
『何はともあれ、二人共よくやってくれた!所長もさぞ、喜んでくれるだろう』
「そうね。一般人のわりには、よくやってくれました。と言っても、一般人がサーヴァントを倒すなんて本来なら不可能な事をやってくれたんだけど…… 兎に角、カルデアを代表して礼を言います」
「いえいえ。俺は俺の使命を果たしただけですから」
今回ばかりは事が事であるため、オルガマリーも素直に優牙に礼を述べるが、当の優牙はあまり気にしてなく、むしろ当然の事をしただけという感覚だった。
「さて、セイバーが持っていた結晶体を回収してカルデアに戻りましょう。どう考えてもあれがこの冬木を特異点にしていた原因でしょうし」
「はい。結晶体、回収しました」
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね」
セイバーが持っていた結晶体を回収したマシュ。
その時、大聖杯から男の声が聞こえる。
「いや、むしろ私の寛容さに驚きだ。子供だと思って放っておいた私の失態だ。まさか魔戒騎士、それも黄金騎士 牙狼だったとは…」
「……え?」
それはカルデアに居るものなら誰もが聞き覚えのある筈の、そしてこの場では絶対に聞く筈のない声。
それはたった数時間の付き合いである優牙にもハッキリ分かった。
その声の主とは……
「レフさん!?」
緑色のコートと、同色のシルクハットを被った、レフ・ライノールだった。
『レフ!? 彼がそこに居るのか!?』
「おや?その声はロマニ君かい。管制室に来てくれと言ったのに、守らなかったのかい?まったく――― 統率のとれないクズ共ばかりで吐き気がするな」
しかし、現れたレフは今までの紳士的な言動からはかけ離れた、下種な口調になっていた。
「レフ!生きていたのねレフ! ああ、よかった!貴方が居なければ私はこれからどうすればいいのか分からなかった!」
しかし、そんなことに気がつかなかったオルガマリーは、喜んでレフの元に向かった。
「駄目だ……… 行くな!所長!」
優牙の静止の声にも振り向かず、一心不乱にレフの元へ向かうオルガマリー。
それが自身の破滅への道とも知らずに……
「やあオルガ、大変そうだね」
「そうなの!ここは化物しかいないし、なにより―――」
「しかし変だな、爆弾は君の足元に設置した筈なのに、何故君は生きているんだい?」
「――― え……?」
レフの口から放たれた事実に、オルガマリーは固まる。
「な、何を言っているのレフ!?」
「ああ、成程。トリスメギストスはご丁寧に肉体の死んだ君の残留思念をレイシフトさせたらしい。よかったじゃないか?生前の君は適性が無かったが、死ぬことによりようやく叶ったんだから」
「う、嘘よ! 私が死んだなんて…… そんな出鱈目信じないわ!? 貴方は何物!? わたしのレフはそんな事言わないわ!!」
レフ曰く、オルガマリーは最初に起こった爆発で死亡していて、ここにいる彼女は残留思念をカルデアの装置に拾われてレイシフトしただけの存在らしい。
「君はどうしようもないな。良いだろう、どうせカルデアに戻れば消滅する身だ。最後にカルデアの状況を見せてやろう」
そう言うとレフは、魔術を使ってカルデアの風景をオルガマリーに見せつける。
「えっ!? なによ…… これ!? 私のカルデアスが真っ赤に染まるなんて…!?」
「綺麗だろう? これは人理が焼却された証さ。2016以降の人類の足跡は無いのではない、既に消え去っているのだ」
「カルデアの外は既にこの冬木と同じになっているだろう。カルデアが無事なのはレイシフトの影響で時間と空間から断絶されたからだ。まあ、それも些末な事だ」
レフは邪悪な笑みを浮かべながらオルガマリー達に説明する。
『そうか…… 外に送ったスタッフが戻らないのは既に外の世界が存在しないから。通信が繋がらないのは通信を受けとる人間が居ないから…』
「ククク…… 君は本当に聡明だなロマニ。殺せなかったのが悔やまれるよ」
そこまで説明した時、オルガマリーの体が宙に浮き、カルデアスに惹き付けられていく。
「な、なによ!? 体が… 浮いて!?」
「言っただろう?カルデアに繋がっていると、カルデアに戻れば君は消滅する。ならば最期に君の宝物に触れさせて挙げようじゃないか。虚数の知識その物に!」
「嫌、嫌よ! まだ誰にも認められてないのに!? 私は―――!!!」
そしてオルガマリーは、カルデアスに取り込まれ消滅した。
「所長!貴様ァッ!!!!」
「駄目です先輩!」
「離せぇッ!マシュッ!」
『耐えるんだ優牙君!! 今君が行ったら所長の二の前だ!』
その所業に怒った優牙は、魔戒剣を引き抜いてレフに跳びかかろうとするが、寸前でマシュに止められ、跳ぼうにも飛べなくなってしまった。
「君が一番の誤算だったよ。冴島優牙君。まさか魔戒騎士だとはねぇ……」
「何故貴様が魔戒騎士を知っている!!」
優牙は正体を隠してカルデアに参加していた。
なのに何故かレフは知っている事に驚き、同時に怒っていた。
そしてレフの正体は、ザルバによってもたらされた。
『優牙。奴からホラーの気配がする。それもかなり強力な奴だ』
「何!?」
「流石は黄金騎士の魔導輪ザルバだ。ご明察、私はホラー、レフ・ライノール・フラウロスだ」
フラウロス、その名を聞いたザルバは驚きの声を上げた。
『フラウロスだと!? バカな!お前達魔神ホラーは、魔界に永久封印された筈だ!』
「知っているのか?ザルバ」
『ああ、奴等は魔神ホラー。だが奴等は何代も前の黄金騎士と、奴等を誤って召喚した古代の王が封印した筈なんだが……』
「だが、私はここにいる。さて優牙君、この特異点もそろそろ限界だ。私も次の仕事があるのでね、ここらで失礼する」
そう言うとレフは、魔力と邪気を合わせた力で魔術を行使、この特異点に穴を開けた。
「まて!レフ!」
「それではさよなら。時空の歪みに呑み込まれ、ゆっくりと死ぬがいい」
そしてレフは消えた。
「クソォォォォッ!!!!」
『不味いぞ!? 特異点が崩壊を始めた!』
レフが消えると、大空洞…… いや、この特異点そのものが震え、崩壊を始めた。
「ドクター!! 直ぐにレイシフトの準備を!」
『分かってる!でも特異点の崩壊で不安定だから、もし宇宙に出たらごめんね!』
「こんな時に不安を煽る様な事言わないで下さい!」
マシュはロマンとコントしながらレイシフトを指示。
ロマンも準備していたのか、直ぐにレイシフトした時と同じ感覚が優牙達を襲う。
「マシュ…」
「先輩、所長の事は残念ですが、今は生き残る事を考えましょう。それと…… また、抱き締めてくれませんか? 私も不安なんです……」
「ああ」
二人は、冬木に来る前、カルデアからレイシフトした時と同じ様に抱き合った。
「やっぱり、安心します…… それでは先輩、またカルデアで」
「お疲れ様、マシュ」
そしてレイシフトが発動し、二人は光に包まれ、転移した。
「んー? ここがいいのかい?ホレホレ~」
「キュッ!? フォウ!」
「あ~ん!カワイイ!!」
話し声が聞こえた。
一つはフォウの鳴き声だったが、もう一つは優牙の知らない女性のものだった。
「フォウ!キャーウ!ンキャッ!」
「ああ、そうだね。ようやく主役のお目覚めだ」
「……」
目が覚めた優牙が最初に見たのは、モコモコのフォウと、肩に鳥、手に地球儀を模した杖を持つ美女だった。
「やあ、冴島優牙君。意識はハッキリしてるかい?」
「……… ここは?」
「君のマイルームさ。ビックリしたかい?目が覚めたら目の前に美女がいて」
優牙が見渡すと、確かにロマンと出会った優牙のマイルームだった。
優牙は無事冬木からレイシフトしてカルデアに戻ってきたのだ。
「さて優牙、早速で悪いけど、君に会いたがってる人がいるんだ。ブリーフィングルームに行ってくれるかい?」
「…… ドクターかな?」
「ロマニ?確かに待ってるけど、彼はどうでもいいでしょ?」
「はぁ……」
ロマンじゃないなら誰だろうと優牙が思っていると、美女とフォウは呆れたように苦言を漏らした。
「まったく、何処の鈍感主人公なんだい君は。もっと他に居るだろう。ねぇ?」
「フォウ…… キャウキャーウ……」
「そう言われても……」
「はぁ… ま、会った方が早いか。ほら、行った行った」
そうして優牙は女性にマイルームから追い出された。
「何だったんだ?」
『さあな。だがあの手の女には関わらない方が得だぜ?優牙』
「ザルバ」
一連の会話を聞いていたザルバが、カルデアで初めて口を開いた。
「無事だったか」
『お前が無事なんだ。俺様だって無事だろう』
「そりゃそうだ」
ザルバと会話しながら歩いていると、いつの間にかブリーフィングルームの前に着いていた。
ドアを開いて中に入ると、そこには……
「おはよう優牙君。無事で何よりだ」
「先輩、おはようございます。ご無事で何よりです」
「ドクター、マシュ」
カルデアスを調整中のロマンと、それを手伝うマシュがいた。
「マシュ、また会えたな」
「はい、先輩のお陰です。あの時、瓦礫から見つけてくれなかったら…… 今頃……」
「再会は後にして、説明に入ってもいいかな?」
マシュも無事であることを確認した優牙は、ロマンの提案に頷いた。
「よし、先ず最初に、よく頑張ってくれた二人とも!今は亡き所長の代わりに礼を言うよ」
「所長は……?」
「残念だが、今は悲しんでいる時間は無い。兎に角、これからの話をしよう。まずカルデアスを見てくれ」
ロマンがカルデアスを見せると、赤く染まっていた筈のカルデアスは青くなっていた。
「人類はレフの言う通り焼却されてしまった。僕達は人類の未来が失われた理由は当初過去にあると考えていた。その結果がこれさ」
カルデアスには7つの点が光っていた。
「これはなんですか?ドクター」
「これは人類のターニングポイント、特異点さ。これがなかったら今の未来は無いとか、これがあったから今の世の中があるとか、そういう歴史上の大きな出来事に出来た染みの様な物だ」
『成程、この特異点に飛び、冬木の様に原因を突き止めて修正しろと言う事か』
「その通り。にしても凄いなぁ…… こんなに小さな指輪にどれだけの知識が詰め込まれているんだか」
『知識に大きさは関係無いのさ』
ザルバは持ち前の知識量を生かしてロマンの説明を理解したが、ロマンはそんなザルバに興味津々と言った様子だった。
「さて、一通りの説明が終わった所で聞かせて貰おうか。君についてを、優牙君」
「あ、それは私も知りたいです。先輩の正体には興味があります」
「うん、約束だからね。レフが言った通り、俺は魔戒騎士だ」
魔戒騎士、という単語に首を傾げるマシュだったが、ロマンは聞き覚えがあるのか、難しい顔をしていた。
「魔戒騎士かぁ…… 噂には聞いていたけど本当にいたんだねぇ……」
「あのぉ… 魔戒騎士とはなんでしょうか?」
「古から存在する人食いの魔物、ホラーを狩る者達の総称だよ。他には魔戒法師がいる」
「じゃあ、そのホラーを狩る魔戒騎士の君が、一体何故カルデアに来たんだい?態々一般人に偽ってまで」
「それは……」
カルデアへ来た理由を訪ねられた優牙は言い淀んだ。
そもそも優牙がカルデアへ来た理由は元老院の神官が予言した事により様子見に来ただけだ。
優牙本人も、こんなことに巻き込まれるとは夢にも思っていなかった。
その事を、優牙は嘘偽りなく話したのだった。
「そうか…… その神官さん、いい人なんだが悪い人なんだか分からないのが怖いなぁ」
『神官共は大体が胡散臭い連中ばかりさ』
「ですが、私はそのお陰で先輩に会えたんです。私はその神官さんに感謝します!」
『神官に感謝とは…… お嬢ちゃんも中々可笑しな人間だな』
ザルバの言葉にマシュは顔を赤くする。
「そ、そうでしょうか?」
「フォウ!」
「ハハハ、ありがとうマシュ」
「いやぁ~ いいねぇ~ 若い男女の交流は」
そして優牙の説明が終わり、これからの話に戻る。
「さて優牙君、これから君は7つの特異点にたった一人で挑まなくてはならない。君に、人類の未来を背負う覚悟はあるかい?」
ロマンはこれからの戦いに必要な覚悟を優牙に確認した。
しかし二年とはいえ優牙は魔戒騎士、戦いの覚悟など騎士としての修行を始める前から出来ている。
故に優牙は、怯えず、怖じけず、恐れずに即答した。
「もちろん。それが俺の―――― 黄金騎士 牙狼の使命だから」
「…… ありがとう。君のその言葉で、僕達の運命が決まった。ここに、カルデア最後にして原初の任務、人理守護指定・
「魔術世界最高任務をもって、我々は人類を救済する!」
この宣言により、人類の未来が懸かった旅が始まる。
グランドオーダー…… この旅が、優牙に何を齎すのか?
そして、黄金騎士は改変された過去を光で照らせるのか。
今は誰にも分からない……
お前達、ドッペルゲンガーって知ってるか?
出会えば死を運んでくる厄介な奴だ。
どうやら次の特異点では、そんな現象が起こっているみたいだぜ?
次回 一章 邪竜百年戦争 オルレアン 第一節 聖女
金色の狼は、聖女の騎士と成り得るか!