・主人公
・文香の叔父の書店でバイトをしている
鷺沢文香(さぎさわ ふみか)
・原作よりも人見知りが少ない
書店のおじさん
・文香の親戚
・本の虫
武内P
・主人公が敵視している
(4月22日 1時、修正)
(8月28日 23時、修正)
春、大学に入学したてだった僕は、道に迷った。
土地勘も無く、近くにあった書店で道を尋ねることにした。
中は静かで、置いてある本もマンガや雑誌は少なく、シンプルな装丁の古めかしい本ばかりであった。
漫画ばかり読んでいた僕にとっては、難しそうな本ばかりで、興味もわかない。
「すいませーん。どなたかいらっしゃいますか?」
「はいはい。おぉ!」
誰も居ないレジの前で呼ぶと、奥から50代後半ぐらいの男の人が出てきた。
「すいません。ちょっと道を…」
「こんな寂れた店にお前さんみたいな若い客は久し振りだ!どんな本を読むんだ?池田?芝?それともキーンか?」
なんだこのおっさん。
結構、というかかなりグイグイくる。人の話を聞いていないし。
そもそも僕が知ってる作者なんて織田栄二郎ぐらいだ。
「いや、あの、道を尋ね…」
「道?なるほど、『坂の上の道』か。いやぁ、あれは良かった。なんだ、若いの。芝さんが好きだったのか」
ダメだこれ。
後退りしながら帰ろうとした時。
おっさんの後ろから女の子の声がした。
「あの……どうかしたんですか?」
「おー、文香ちゃん。実は若いのに見所のあるやつが来てな」
可愛い。
長い前髪から覗く瞳に、ゆったりとした服装。
空気に溶けるようなキレイな声。
みるからに控えめな性格。
タイプだった。
一目惚れだった。
そこから僕は、この書店に通い続けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから、1ヶ月。
僕はこの書店の常連になっていた。
「こんにちは!」
「おー、鳥井君。今日は何を読みに来た?」
「おじさんはお呼びじゃないよ。文香さんいる?」
レジで座っていたおじさんに詰め寄る。
「ちぇっ、ちょっとくらい話してくれてもいいじゃないか」
「むくれても可愛くないですから。で、どこですか?」
「そっちだよ。ほら窓際の」
おじさんの指すほうを見ると、窓際に座って本を読んでいる文香さん
すうっと、窓から風が入ってきて、髪僅かになびく。
まるで、深窓の令嬢。
その姿に、声をかけようかと戸惑い、止める。
近くで新しい本を読んでいよう。
近くに座っても、気付く様子はない。
そのまま、夕方になった。
厚い本を閉じる音聞こえて見ると、本を読み終えたのか、本を閉じた文香さん
「こんにちは、文香さん」
「あっ。こんにちは……すいません…気付きませんでした」
「いえ、大丈夫です。それより、この前教えてもらった本、凄く面白かったです! 特に、犯人が、助手である安野だった所なんて、度肝抜かれました」
「…そうですか。喜んでもらえて何よりです」
微笑む文香さん。
照れてしまい、つい顔を背けてしまう。
「そ、それより。他にも面白い本はありますか?」
「うーん…面白いと言っても色々ありますからね……。どうでしょう?自分で選んだ本を読んでみては?」
「でも、どれが面白そうか分からないしなぁ」
「本の表紙など装丁は、言うなれば顔です。きっと……見ていれば、そこから色々見えてくると思います。……すいません、なんか偉そうにしてしまって…」
申し訳なさそうに謝る文香さん。
やはり可愛い。どんな時もどんな表情も的確に僕の心を射抜いていく。
「分かりました!自分で探してみます」
「はい。読み終えたら、感想聞かせてくださいね」
「任せて下さい!」
そうして僕は、適当にピンと来た本を、借りた。
数日後
本を読み終えた僕は、書店に向かった。
すると、店から強面のスーツの男が出て来た。
「こんにちは」
「こ、こんにちは…」
重低音の声が響く。
なんだこの人、あっち系の人か、恐すぎる。
関わらない関わらない。こういった人種の人は無視するに限る。
逃げるように店内に入る。
「いらっしゃい」
「し、失礼します」
「なんだ鳥井君か。あの強面の冷やかしは帰ったか?」
「ああ、駅の方に歩いていきましたけど、冷やかしなんてしてたんですか?」
「うむ、文香ちゃんと二三言話してたんだが、本を買うでもなく借りるでもなく帰ったんだよ。なにより、本を見向きもせず文香ちゃんの方に向かったからな、確実に狙っておるな」
「な、なんだって!?」
確かに文香さんは可愛い。見方を変えれば美人でもある。
でも、活発なタイプでなく内向的なタイプだから近づく人は少ないと思って油断していた。
いや、でも文香さんは多分あの強面は得意ではないだろう。
大丈夫だ、きっと大丈夫
文香さんの方に目を向けると、いつも通り本を読んでいた。
ほら見ろ、全然気にしてないじゃないか。
僕も文香さんにならって、いつも通り本を読むことにした。
そして夕方
「ふぅ。あ、鳥井さん。いらしてたんですか」
「あ、こんにちは文香さん。そうそう。この前自分で選んだ本、結構面白かったですよ! 特に、主人公がヒロインを葛藤の末に手にかけてしまう所なんて、ついつい泣いてしまいました!」
「ああ、その作品ですね。私はその続編の方が好きです。是非読んでみてください。なにより、最後まで逃げずに立ち向かった主人公が。す、すいません。ネタバレでしたね………」
百面相ではないが、色々な表情の文香さんはそれぞれが魅力的だ
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ありがとうございます。……あっ、ひとつお聞きしたいことがあるんでした…」
「聞きたいことですか?なんでも聞いてください。答えられることならなんでも」
しかし僕に何の質問だろうか?
文香さんの方がなんでも知っているだろう
「その………アイドルについて、教えていただけませんか?」
「アイ…ドル……?」
風邪でもひいたのだろうか?
「それは、意味合いですか?」
「いえ、それは調べれば分かるので。出来れば…鳥井さんが思うアイドルを教えていただければ」
僕の思うアイドル。
十数年前に現れた伝説のアイドル。そこから始まったアイドル戦国時代。
僕はアイドルを知っている。
というか、文香さんと出会うまでは熱狂的なファンだったのかもしれない。
文香さんと出会ってからは、本の虫と言われるほど、本を読んだ。
「多分アイドルというものは、人に夢や希望を与えたり、人の心を動かすことを仕事にしている人だと思います。作家と大同小異な存在だと思います」
「なるほど……ありがとうございます」
「ところで、どうしてそんな質問を?」
「少し、気になったので」
ふーん。珍しいこともあるもんだ。
と、僕は気にも止めなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから日を追うごとに、文香さんが本を読むスピードが遅くなっていた。
なにか考え事でもしているのだろうか、それとも……
そう言えば、スーツの強面の男がまだこの店に通っているらしい。文香さんがおかしくなったのもちょうどその時期からだ。
やはり言い寄られているのだろう。
正直僕は文香さんの事が好きだ。
だからこそ見極めよう。
あの男が、文香さんにふさわしいか、僕のライバルにふさわしいか……
そうして僕は、大学をサボり店先に張り込んだ。
「そうですか、では出直します。失礼しました」
店内から現れた。
そもそもこんな真っ昼間にスーツで女性と逢い引きなんて、普通の社会人なのかどうかも、怪しい。
つけていくと、お姉さん風の女性と話している。
まさか、文香さんに言い寄る他にも言い寄っている女性がいたのか……
二人は親しそうに話しているが、話し声までは聞こえない。
一応何かの為に写真だけは撮っておこう。
そうこうしているうちに、話し終えたのか二人は別れていった。
いやしかし、だがしかし、ただの友人という可能性も考えられる。
このままつけていよう。
ついていくと、近くのファミレスに入っていった。
そして、制服こそ着ていないが、恐らく高校生位の年齢であろう、何故かネコミミを着けた少女と相席していた
なんだこの男。外見に似合わず、とんだチャラ男じゃないか!
「にゃははは、Pチャンは冗談が上手いにゃ」
「いえ、そんな」
ピィちゃん!?あの強面でアダ名がピィちゃん!?
どこだ、あの男のどこに鳥要素がある。だってピィって、ピィって……
「それでは私は次がありますので、失礼します」
「わかったにゃ」
「あ、写真撮っとかなきゃ」
二人の別れ際をパシャリ。
そうして二人は別れ、スーツの男は外に出て、電話し始めた。
今のうちに彼女にどういう関係なのかを聞いてみよう。
「あの、少しお話いいですか?」
「はい?みくに話ですか?」
「の、前にネコミミは取らないんですか?」
「にゃ!?こ、これは、その…」
「あ、大丈夫ですよ、取らなくても。出来ればさっきの男性と同じように話していただければ、幸いです」
「も、もしかしてPチャンと同じなの?」
まぁ、文香さんを好きという部分だけは同じかもしれない。
認めたくないけど
「似たようなものですね」
「若いのに業界入りしてるのかにゃ……」
「ん?今なんと?」
「な、なんでもないにゃ!それでそれで、聞きたい事って何にゃ?」
「はい、さっきの男性との関係なんですが……」
「ああ、Pチャンは言ってみればパートナーみたいなものにゃ」
「パッ!?し、失礼ですけど、年齢は?」
「みくは15だよ?」
アウト!
十五才相手にパートナーといわせるロリコンピィ君アウト!
「わ、分かった。分かりました。大丈夫です。れれ、恋愛に年なんて関係ないですもんね?」
「何の事を言っているのかはわからないけど、良からぬ事を考えていることだけはわかったにゃ……」
ジト目で見てくる少女。
慰めようにも、あの三股野郎が文香さんに嫌われるような物的証拠を掴むまで尾行を続けなくてはならない。
もう十分な気がするが、三本の矢しかり、三度目の正直しかり。
三つ目の証拠を掴みさえすれば、文香さんもきっと元のに戻ってくれる。
「それじゃあね。キミ、ネコキャラみたいだから、僕の奢りで魚定食頼んでおいたから。お金はここに置いておくよ」
そして、かっこよく席を立ち。野郎を追いかけた。
後ろで声が聞こえたのはきっとお礼だろう。
野郎についていくと、なんと小学校近くに向かっているようだった
いや、きっと気のせいだ。
偶然小学校付近の何処かに用事があるに違いない。
小学校へ向かう道の途中。小学校とは反対の分かれ道に進んだ。
ホッとした反面、少し惜しかったという気持ちあるが、流石に犯罪者は見たくない。
そして男は、路駐していた黒塗りのハイエースに手を掛け、扉を開けた
なんだ、ただ停めていた車に乗ろうとし…
「P君、遅いぞ!莉嘉待ちくたびれちゃった!」
中から中学生が出てきた。
ままま、まだだ!制服着てるし、幼い高校生という可能性もまだのこ………
「こんにちは!せんせぇ!」
もう一人小学生が出てきた
いやこれもうあかんやろ………
写真だけを撮り、文香さんの所へ疾走した
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
書店につくと、ちょうどおじさんが店を閉めるところだった。
「おう、悪かったな。もう閉店だよ」
「はぁ、はぁ。文香さんはいる?」
「ああ、まだ居るには居るが。休憩室で帰り支度してるところだ」
「入らせてもらっていい?」
「ああ、構わんが……」
伯父さんの返事を聞くなり、勝手口の様な扉を開けて、休憩室に入った。
「文香さん!」
「ど、どうしたんですか鳥井さん?……汗だくですよ?」
「文香さん。…聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと…ですか?」
首を傾げる文香さん
「うん。単刀直入に聞くけど、今悩んでいるよね。それも大きな悩み」
「えっ…なぜそれを」
「見てればわかるよ。ずっと見てきたから」
呼吸を整えて言う。
文香さんを惑わすあの男の弱味を見せつけながら
「この三枚の写真を見てみてよ」
「これは、四人の女性と…?」
「うん。この女の子達は文香さんと一緒だよ」
みんなあの男に騙されているんだ。
「もう、答えは決まったよね」
問うと、文香さんは今までにない笑顔で答えた。
「はい、決まりました。ありがとうございます」
「それなら僕から言うことはもうないよ」
そして、何か吹っ切れたような文香さんを駅まで送り、帰宅した。
それから数週間ぶりに書店へと向かった。
流石に単位を落とすわけにはいかず、試験勉強の為に書店に通えなかった。
久し振りに文香さんに会えると思うと、少し嬉しい。
だが、僕が目にしたのは、
手を繋ぎながら出てくる文香さんと武内と呼ばれていた、あの男だった。
ただ立ち尽くすだけだった。
百の言葉よりも明白な行動であった。
僕の心は砕かれた。
「……今日はもう、帰ろう」
その日から日課であった読書をやめ、部屋にあった文香さんに教えてもらった本も、纏めて押し入れの奥に押し込んだ
「ちくしょう。ちくしょう。なんで……なんで……」
その年の末
部屋の大掃除をしていると、纏めてある本が出てきた。
同時に苦い思い出が蘇るが、彼女が言っていた、続きが気になり、通販で取り寄せた。
物語は亡くなったヒロインの目線で語られていた。
世界の為にヒロインを殺してしまった主人公が悩みに悩み抜く、最後には死んだヒロインが特別な能力で立ち直りの後押しをして、立ち直り完結するといった物語。
最後にヒロインが主人公に告白して成仏したのか、消えるシーンが印象的だった。
ネット評判は最悪。
中盤から続くグダグダと悩み続けるフラストレーションの溜まる展開に、ハッピーエンドにはならない結末。
なぜ彼女はこの物語が好きだったのだろうか……
そう、確か……
『最後まで逃げずに立ち向かった主人公』
の部分が好きだったらしい。
それを思い出していてもたってもいられなくなった。
勝手に負けと決め付けて逃げてたんだ、僕は。
でもこの主人公はどんな絶望的状態でも諦めなかった。
そんな主人公が文香さんは好きなんだ。
だったら僕も、あの人に負けていてもいい。自分の好きを伝えるんだ。
それで負けたなら、踏ん切りだってつく
日はもう傾きかけていたが、いつも通りあの店は開いていた。
「こんにちは!」
「いらっしゃ……もしかすると鳥井くんか。半年ぶりじゃないか!今までどうしていたんだ」
「はぁ、はぁ。それは、後で話します。文香さんは?」
「文香ちゃんならもう帰ったぞ。多分もうすぐ駅に着くころじゃないか?」
「くそ!走ればギリギリ間に合うか……」
扉を開けて飛び出ると、後ろからおじさんの声が聞こえた
「店先の俺の自転車を、使え!」
「おじさんありがとう。このお礼はいつか!」
「いけ!少年!走れ!」
駅まで全力で漕ぐ。
すると、駅の改札前に文香さんの姿が見えた。
変わらない。後ろから見ても可愛いのが分かる
自転車を降りて、叫ぶ
「文香さん!!」
「……?………鳥井さん!?」
「文香さん!久し振りで言いたいこといっぱいある。でもひとつだけ言いたい!」
「……」
無言で頷く文香さん
「僕は文香さんが大好きだ!!あのスーツ男よりもずっとずっと!好きだ!!」
言った。言ったぞ。
そして気づく。
駅前でいろんな人が注目していたことを、
文香さんが真っ赤な顔で俯いていることを
「本当にごめん!」
「……ひどいです…」
現在、人混みから外れた駅外れのベンチ
「人が目に入らなくて……」
「違います。……なんで半年間、急に居なくなったんですか」
「それは……文香さんがあのスーツの男と手を繋いでいて…」
「武内さんと?ですか?」
「うん。僕は恋敵に負けたと思って、身を引いたんだ」
「…プロデューサーは恋人でほありませんよ」
曰く、あのスーツ男はアイドルのプロデューサーであること
曰く、ただのプロデューサーとアイドルの関係だと
「なんだ、勘違いか……ってアイドル!?」
「はい……アイドルです。私…アイドルになったんです。………後押ししてくれたのは、鳥井さんですよ」
「え?」
「あのとき…プロデューサーと複数人との女性との写真を見せていただきました。……あのときに写っていた女性は皆、魅力的な笑顔をしていました。
だから、………プロデューサーなら私を変えてくれると、…それほどの手腕を、持っていると、だから悩まずに突き進めって意味で……おっしゃってくれたんですよね」
そういうことだったのか……
「鳥井さんは…馬鹿ですね」
「うっ…」
「文人さんは完全無欠で空前絶後な馬鹿、ですね」
「ごめんなさ、え?いま何て…?」
「そう言えば、……告白の答えがまだでしたね」
そうして、再び微笑む。
その笑顔は今までに見たことがない程の笑顔だった。
まるで、アイドルのような、輝く………
「文人さん。───」