眉目秀麗なナザリック女性陣のキャッキャうふふを書きたくなって短編を作ると決意したのに、気がついたら男臭い物が完成しました。
web版の設定を世襲しつつ、慣れ親しんだ名称は書籍版を使ってます。
アゼルリシア山脈の西側に広がる肥大な農耕地や、近隣諸国との通貨とも成り得る黄金が出土する鉱脈を国土に持ちながら、200年前の建国以来王族と大小様々な貴族が分割統治する国。
一つの季節が続く上中下の分けられた期間と、信仰する神の属性である土水火風を組み合わせて12ヶ月となる1年の暦で生活する。
リ・エスティーゼ王国と呼ばれる典型的な封建国家は、首都リ・エスティーゼと7つの大都市の膝下で人口830万人の国民が日々の暮らしを謳歌していた。
近隣諸国とは例年小競り合いに近い戦争はあるものの、国力を大きく損なう程でもなく、簡易的な台帳で確認出来る限り、年間5万人の推移で緩やかに増加する出生率である。
古き良きと言えば聞こえは良いが、知識人に言わせてみれば近代化に遅れていると総評される首都リ・エスティーゼの街並みは、今日に限り、悠久の時の流れの中で忘れていた喧騒に包まれていた。
まるで興奮を抑えられぬ者達の、どよめきと歓声の源は首都の最奥部にあるヴァランシア宮殿。
首都最奥部に建造されながら、外周約800mの城壁と、等間隔に配置された円筒形の塔が20棟。
果たしてその厳重な防衛網は、諸外国と接して居ない首都最奥部で、どこに向けた警戒なのか。
そんな首都の住人は、今朝から一つの話題で持ちきりであった。
国王ランポッサⅢ世の生誕58年、在位37年を迎える、1ヶ月前より王宮から出された王命。
国王の御前にて取り計らう、身分不問の武闘会。
すなわち御前試合が開催され、優勝者には首都で生活を営む比較的裕福な国民からしても莫大な賞金と、本来は貴族にしか許されれていない身分、国王ランポッサⅢ世が直接任命の騎士となる権利、そして国中だけでなく近隣諸国にも知らしめる名誉とあっては、首都リ・エスティーゼは朝から蜂の巣を突付いた様な騒ぎとなっていた。
華やかな祭りに乗じる様に、表と裏の社会など関係なく、怪しげな会合が開かれる。
両開きの扉から酒と煙草の煙が溢れる昼間から騒がしい酒場では誰が優勝するのかと、賭け事などが開かれる始末。
武門の名家で名を馳せた貴族の騎士が我こそはと、参加しているのだが、一攫千金を狙ったプラチナやミスリルのプレートを持つ冒険者達と良い勝負を見せ、オリハルコンのプレートを持つ冒険者に敵わない王国の騎士達は早々と敗退となっていた。
そんな混迷を極める御前試合の中で、一際大衆の目を惹きつけた参加者が居た。
女性の胴回りよりも太く、丸太と言っても頷ける筋骨隆々な腕周り。どこか優しげな瞳と短く刈り上げた髪はこの国では珍しい黒色。試合前の経歴紹介で明かされたギリギリ20代という若さに少し疑問を感じる老け顔の偉丈夫。
王国内にあるどこかの村から参加して来たという平民出身の男は、強靭な肉体だから扱える、切ると言うよりは叩き折る為の剣を軽々と振るっていた。
初戦、2回戦目は、まさに一瞬の表現が相応しい勝利を観客達に見せつけた。
今しがた行われた3回戦目。
武門の名家で大貴族の公爵家長男を、ご自慢の悪趣味なフルプレートごと文字通り叩きのめした所で、快進撃を続ける無名のダークホース登場に観衆は大喝采を送る。
一般開放された宮殿内の御前試合会場では、今年一番の稼ぎ時とばかりに酒場から送られている売り子達が、目のやり場に困る服装とエールの入った小樽を背負って売り回っていた。
少女と言うには少し大人びているが、女性と言うには少し若い、そんな売り子達も自分たちの仕事を忘れてしまう様な不思議な熱気が会場を支配しており、観衆は口々に男の正体について話し始めるが、誰一人として彼を知る者は居なかった。
そして、大衆の目を惹くもう一人の男。
農作業と剣術の稽古によって鍛えられた腕周りは、少し細めの棍棒に見間違えるほどゴツゴツとした筋肉。それでいて全体的な体格としては無駄のない引き締まった肉体で整って見える。
腰に下げた武器は刀と呼ばれる南方の武器で、剣先になるにつれ細くしなやかに反っている刀の切れ味は使い手の技術に比例する。
少し長めで癖のある濃藍の頭髪は綺麗に整えているわけではないようで、所々撥ねているのを無理やり左右に流していた。
彼もまた、どこにでも居るような農村の出身ながら傭兵として参加し、初戦、2回戦目は王国兵の部隊長クラスを武器破壊で戦意喪失、3回戦目の帝国から参加しに来たワーカーの戦士を相手に子供の手を捻るかの如く勝ち進んでおり、大衆たちはこの二人の男たちによる決戦を待ちわびていた。
互いに準決勝の4回戦目を終えれば、決勝戦で相対することなる。
未だに武技すら発動することなく、純粋な剣技のみで勝ち進む男たちは、僅かな休息の後、同時に準決勝の場に現れた。
準決勝に駒を進めた残る二人。
軽装ながらも首から下げたオリハルコンのプレートが光る冒険者。
大貴族の一族からのみ輩出される名誉職の騎士団長を補佐する、平民からの叩き上げの騎士団副長の一人。
彼らもまた比類無き強さを持ってその立場を勝ち得た者で、会場を騒がす無名の新人を相手に負ける気など毛頭なかった。
準決勝からは貴賓席には王族が列なり、男系は興奮気味に試合が始まる様子を眺めており、女系はどこかつまらなそうに互いに雑談をしている。
観衆の興奮が最高潮に達する状況で、それを掻き消す様に大音量の銅鑼が準決勝の開戦を告げた。
宮殿内の一角が地響きに似た歓声で揺れる。実際には大地が揺れる事などないのだが、男達の剣技とプライドが文字通りぶつかり合う光景も相まって、そのように感じられた。
黒髪の偉丈夫は騎士団副団長の戦いは、まさに力のぶつかり合い。互いの手にする丈夫で実用性重視の両手剣は、主に答えようと火花を散らす。
右袈裟斬りを逆袈裟斬りで受け止め、横薙ぎに一回転する剣撃を縦に構えた剣の峰に手を添えて受け止める。急所を狙った突きを、横一閃に打ち払う。更に二、三度打ち合って少し距離を取った。
騎士団副団長の頬から一筋の赤い雫が溢れ落ち、険しい表情を浮かべた。
濃藍の癖っ毛剣士とオリハルコン冒険者の戦いは、技の魅せ合い。
左手で鞘を握り、鍔を親指で押し込む様に刀身を浮かせる。僅かな鍔鳴りの後、柄を握った右手を振り抜いて、同時に左手の鞘も引いたことで鞘口が下を向く。
長剣を正眼に構えたミスリル冒険者の眼前で甲高い金属音が響くと、衝撃を逃す為に後方にふわりと飛び退けた。
冒険者は何度か手の平を振った後、手の痺れを確認する様に拳を握る。
準決勝まで残った強者だからこそ、僅かに剣を交えただけで互いの力量を判断出来る。
天が与えた才能は、虚しくも努力と経験をいとも容易く凌駕した。
貴賓席から観覧する国王ランポッサⅢ世は、大きく目を開き驚嘆の声を上げる。
残った4人に自らの派閥が含まれない貴族達は最早興味なさげに眺めているのだが、王家が観覧に残っている以上、
観衆の声援は声が枯れんばかりに強者達に注がれ、歴史的な催しをその目で見れた事に歓喜する。
その後の攻防も一方的な流れが続き、冒険者が両手を挙げて敗北を宣言したのを皮切りに、騎士団副団長も苦虫を噛み潰した表情で力量の差を認めて剣を下ろした。
一瞬だけ水を打った様な静寂が訪れ、その後再び歓声が爆発する。
喧騒冷めらなぬ会場で勝者は汗を拭い、敗者苦渋を舐める。
決勝戦を迎える両名は共にリ・エスティーゼ王国一介の村人に過ぎないが、数多の騎士や兵士、冒険者をものともせずに王国最強の称号を手に入るべく、喉の渇きと呼吸を整える程度の休息を迎えた。
王宮に仕える武官の長が会場に登場し、最終戦の見届け人として行く末を見守る事を宣言する。
『ランポッサⅢ世国王陛下より勅命を賜った御前試合。これより決勝戦を迎えるに辺り、リ・エスティーゼ王国最強の称号を賭けて相まみえる両者が揃った。戦士として恵まれた肉体と類まれな才能を持つ王国国民ガゼフ・ストロノーフ。剣士として無駄のない肉体と天が与えた才能を持つブレイン・アングラウス。勝者、即ち王国最強の男には報酬と権利、そして名誉が送られる』
最強の剣士を決める直前、観衆には先ほどまでの喧騒もなく、耳には自身の高鳴る鼓動が響く中で、両者は程良い緊張を感じると深く呼吸をして武器を構える。
男は誓う。生まれ育った王国を守る為に、国王を守る為に、国民を救う為に粉骨砕身の想いで最強の存在になると。
男は誓う。自らに与えられた天賦の才を認めさせる為に、出自の関係なく己が身体と剣一本で頂を目指す為に、敗北を知らない最強の存在になると。
『ガゼフ・ストロノーフ、ブレイン・アングラウス。両者共、陛下の御前で恥じることのない働きを見せよ。……御前試合決勝戦を開始する』
透き通る青空の中に手を挙げ、決勝戦の開始を宣言した王宮武官長は合図と同時にその手を振り下ろした。
「《肉体強化》」
「《能力向上》」
それはどちらからともなく、まさに同時の出来事だった。
今まで純粋な剣技のみで勝ち上がっていた二人は、開始の合図と共に武技を発動させる。
互いに自身の限界を引き上げ、勝利を掴むべく目の前の好敵手へと足を踏み出した。
ガゼフは走りながら剣を下段、右側後方で風を切り、重さを感じさせない様にに構えており、ブレインはやはり納刀状態のまま、鞘だけを左手で握ってゆっくりと歩を進める。
二人の距離は一瞬で詰められ、ガゼフは剣を後方から一気に上段に構えて振り下ろす。
「《瞬閃》」
観衆には聞こえない声量で武技を発動させたブレインは、高速の抜刀術を以ってその力を魅せた。
農作業の合間で繰り返し続けただけの剣術訓練で生み出したオリジナル武技《瞬閃》は、ガゼフが剣を振り下ろすよりも早く、その太い首元を狙った。
鈍い光を放つ剣先。それが頸動脈の脈打つ薄皮を撫でる直前、ブレインが視界に捉えているはずのその男は、ボヤける様に揺らいだ。
「《即応反射》」
ブレインの刀がガゼフを切り裂くよりも早く、ガゼフはその筋肉に包まれた肉体からは予想出来ない動きを見せる。
目で追うのも困難な高速の一撃を避けただけでは終わらない。
「《流水加速》」
岩肌が覗く川をまるで水が流れるような動きで、ブレインの懐に飛び込むと、その重たい剣撃を振り下ろした。
既に武技を3つ同時に使っているが、常人には不可能な光景を目の当たりにし、その攻撃を早々に受け止められないと判断したブレインは半身を翻して避ける。
だが地面に打ち付けた剣による衝撃からは逃れる事が出来ない。
土や小石が舞い上がる中で、顔を庇いつつ飛び退いたブレインは、その日初めて自ら相手と距離を取った。
力の入っていない手で首元を締められているような、初めて感じる強者からのプレッシャーは、ブレインの思考を鈍らせる。
剣を振るえば勝てていた今までの凡夫とは違う。
天賦の才だけでここまで来た男は、自分と同等以上の
一方のガゼフは鋭い目つきのまま正眼の構えで剣を構え直し、体制を整えるその表情には慢心など一切見受けられない。
そもそも初戦から今までの戦いに於いて、一度たりとも慢心などせずに、一瞬で勝負が決まろうとも全力を尽くす愚直な男であった。
王国最強の行く末を見守る観衆からの熱気に包まれ、一瞬の攻防ながらも武技による肉体負担もあり、ガゼフ、ブレイン両者の額には汗が浮かんでいる。
短い呼吸で息が荒いブレインは、感情剥き出しで奥歯を噛みしめると、ガゼフ同様に正眼で刀を構えた。
それでも、どうすれば目の前の男に刀が届くのかわからない。
そんなブレインの考えが読まれたのかはわからないが、どっしりと構えていたガゼフは自ら攻め込んだ。
「《四光連斬》」
ガゼフから紡がれたその武技の名と、4本の剣筋。
ブレイン・アングラウスにとって、それが御前試合最後の記憶となる。
瞼の裏に焼き付く最後の鮮明な記憶。
勝者を称える歓声は、ブレインの耳には届かない。
早々に執り行われた式典では、ランポッサⅢ世から報酬と権利を親授された。
迷うことなく王の剣になると宣言した事に対し、その場で国王は勅命を発する。
騎士とは違う、新たなる役職の任命を。
その日、平民出身の男は英雄となった。
彼の者はこの先、三者三様の様々な思惑に踊らされるだろう。
貴族達は派閥外の厄介な存在が現れたと。
首都に住まう裕福な国民達は新たなる王国の剣の登場だと。
逞しき商人達は如何にして近付き商機を画策せんと。
蝶よ華よと育てられた深窓の令嬢に気まぐれで拾われ、御伽噺や英雄譚に憧れる少年は待望の英雄が誕生したのだと。
王を、民を、国を憂い、自らの命を顧みず、剣にも盾にもなると誓う。
――私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ