宇宙世紀を好きなように駆けてみようと思う!!   作:チェリオ

31 / 42
第30話 『時間稼ぎ』

 グリプスから追って来ている艦隊を振り切れないまま移動するアーガマの一室は喧騒に包まれていた。理由は数分前に来たバスク・オムからの特使と名乗ったエマ・シーン中尉が持って来た親書だ。

 

 内容は簡単なものだった。カミーユ・ビダンと鹵獲したガンダムMK-Ⅱを返さなければカミーユの両親を殺すと言う脅迫。軍隊が行なうような手段には思えない内容を、知らずに渡したエマ中尉もあまりの事に驚きを隠せないでいる。ブレックス准将にヘンケン艦長、クワトロ大尉とエゥーゴメンバーと一緒に立ち会っていた鏡士郎は真面目な表情はしているものの内心は原作のワンシーンに立ち会えたと興奮気味であった。

 

 現在アーガマには白旗を揚げたままのガンダムMK-Ⅱにハイザックがカタパルト上で待機、そして待機している二機を奪われないように警戒しているハイザックが居る為に警戒レベルが引き上げられている。アポリーもロベルトも自身のリック・ディアスで待機しているし、索敵班も辺りに接近する機影がないかモニターを凝視していた。

 

 設置されていた受話器が鳴り響いてクワトロ大尉が出るとサングラス越しでも眼つきが鋭くなったのが分かった。

 

 「不審な浮遊物を見つけたらしい」

 

 その一言を聞いた全員は艦橋へと移動する事になった。すでに正面の大型モニターには例のカプセルが映し出されていた。中身を見せるように強化ガラス張りのカプセル内には人の姿があった。カミーユ・ビダンの母親で地球連邦軍材料工学の技術中尉のヒルダ・ビダンだった。艦橋内でアレが本人かどうか、映像の類だとか話が出されたが関係なくその場を飛び出す。

 

 「何処へ行くのかね!?」

 「どちらにしても対処しなければならないでしょう」

 

 時間が無い。このまま原作通りに進めば無断出撃したカミーユが近付いて目の前で母親を殺されるという悲劇を見させてしまう。白旗を上げたガンダムMK-Ⅱとエマ・シーン中尉が来た事で思い出してはいたがカプセルがどの方向から来るかは分からず、そもそも原作と襲撃タイミングがズレがあった為に原作と違う事が起きるのではないかと動けなかったのだ。

 

 艦橋から飛び出して真っ先に特注のノーマルスーツに着替えてMS格納庫へ向かう。アーガマに移動する際に使用したジム・コマンドに乗り込もう向かう途中にはガンダムMK-Ⅱが発進していた。直感と言うより原作知識でアレがカミーユという事は理解出来た。軽く舌打ちしながら起動させる。モニターにはアーガマの格納庫内が映されて赤いリック・ディアスに乗り込む人物が一瞬映った。

 

 「あの人もう追いついたの!?早すぎでしょうに…ってそれよりもビダン君を」

 

 カタパルトを使用せずに飛び出すと目の前に、急発進したガンダムMK-Ⅱに銃口を向けるハイザックが立っていた。横合いから左腕を振り下ろしてマシンガンを下に下ろさせ、メインモニターを右腕で殴りつけて宙を漂わす。奇襲に衝撃で何が起こっているか分からないハイザックのコクピットに一発だけ撃ち込んで黙らせる。完全に沈黙したかなど確認もせずにカプセルの方向へと向かう。

 

 高機動に主軸を置いてカスタムされたジム・コマンドでもガンダムMK-Ⅱに追いつくには無理がある。あとから発進したエマ中尉のガンダムMK-Ⅱとの距離が詰る。間に合わないと分かっても諦める訳にはいかなかった。これからカミーユに待ち受ける悲劇を考えたら少しでも負担を減らしたい。しかしそう思っている間に何か嫌な感覚が脳裏を過ぎった。

 

 やっと追いついたかと思えばカミーユのガンダムMK-Ⅱの付近にはガラス片らしき物が漂っていた。間に合わなかった…。っと足を止めている場合ではなかった。MS同士の取っ組み合いが始まっていた。何とか二機を離そうとエマ中尉が頑張っている。参加しようとした矢先に通信が入った。

 

 『キョウシロウ大佐』

 「どうしたの?」

 『追跡していたアレキサンドリア級よりMS隊の発進を確認。アーガマに対して艦隊が砲撃戦を開始』

 「状況はどうなってる?」

 『良くも悪くも。長距離より撃ってくるだけでMS隊は接近する様子もなく』

 「了解。そっちの対応は任せます」

 『もうひとつ報告なのですが…赤いリック・ディアスが単機でティターンズ艦隊に向かって行きましたが』

 「はい?…あ!あー!!」

 『どうしましたか?』

 「そっちはこっちで何とかするよ」

 

 先ほど見たリック・ディアスに乗り込んだのがクワトロ大尉ではなくカミーユの父親であるフランクリン・ビダンであったのだろう。この同タイミングで母親と父親の悲劇なんて…。

 

 「劇場版の方か!?にしても」

 

 ガンダム二機の前に出てハイザックに蹴りを入れる。距離をとってカミーユとの接触回線を開く。

 

 「ビダン君!!」

 『止めないで下さい!!こいつがッ!こいつが母さんを…』

 「君のお父さんがMSを奪って行ったんだ」

 『父が!?』

 「クワトロ大尉のリック・ディアスに乗ってティターンズ艦隊に向かって行っている」

 『―ッ!!僕が止めます』

 「頼むよ…」

 

 頼むよ…。

 母親は救えると思った。だがあの父親は救えない。カミーユが行かなくても誰かの攻撃でやられる。ならば頼むほうがいい。知らない所で肉親が死ぬより知っていたほうが…ここはそう判断する。

 

 『カミーユ!!』

 

 オープン回線でハイザックがマシンガンを撃ちながら突っ込んで来た。その声には覚えがあってすぐにジェリド・メサ中尉だと分かった。

 

 「行ってビダン君。あいつの相手は僕が」

 『はい!』

 

 リック・ディアスへと向かって行くガンダムMK-Ⅱを見送ると加速を駆けて突っ込む。ジェリドの意外に正確な射撃に感心しつつ距離を詰める。

 

 『なんだってジムなんかに!!』

 「遅いよ!!」

 

 近づいた事でヒートホークを構えるが遅すぎる。ブルパップ型マシンガンで手だけを撃ち抜く。ヒートホークごと片手を失った為に残った手でマシンガンを手にするがその前に撃ちぬいた。次に両膝関節、両肘、メインカメラを撃ち抜いて行動不能にして蹴りを入れる。

 

 「それで理由が出来ただろう。帰れ!!」

 

 肘膝から先を失ったほぼ胴体のみの機体はバックパックのスラスターを吹かして移動を開始する。あの状態だったら逃げ帰るしかないだろう。

 

 鏡士郎がアーガマに戻った頃には艦隊による砲撃戦も終了しており、元通りの追われる者と追う者の状態に戻っていた。ただカミーユの内心までは元に戻るはずはなかったが。

 

 

 

 「はぁ……第一フェイズは終了か」

 

 アレキサンドリアの艦橋でジャマイカンは、大きく息は吐きながら背もたれに身体をすべてを預けてもたれかかる。もう少しこの状態でいたかったがそんな訳にもいかずにすぐに身体を起こしてモニターを見つめる。

 

 「MS隊に帰投命令。帰投後、再び距離を保って追行する」

 

 指示を受けると急ぎオペレーター達が通信を送り始める。本当なら相手の殲滅・捕縛を行ないたいところだが、相手は油断ならないだけの力を持っている。ゆえに注意に注意を重ねてことに及ばなければならない。

 

 向こうの損害はほとんどない。あっても弾丸ぐらいのものだろう。まぁ、被害が出ないように射程外からの砲撃戦を仕掛けたのだが…にも関わらずこちらはハイザック一機を失い、ジェリドのハイザックは戻って来たものの状態としては撃破と変わらない。それにエマ・シーン中尉と共にガンダムMK-Ⅱは帰ってこなかった。戦力を減らすどころか増やしてしまった。

 

 「バスク大佐になんと報告したものか…」

 

 今からどう報告するか悩むが第二、第三フェイズが成功すれば後の第四フェイズで殲滅出来るのだから問題ないかと考えを放棄した。

 

 「シャトルの状況はどうだ?」

 「例のシャトルですか?問題なく」

 「そうか…それならいい」

 

 自分の役目は奴らから目を放さずに追い、時間を稼ぐ事のみだ。バスク大佐が言うには奴らは30バンチに向かうとの事なのでそこで襲撃、ブライト・ノアが一緒に連れた者達と乗っ取ったシャトルが合流などで時間を稼げば分かれた艦隊とルナツーより発進して先に待機している艦隊で包囲・殲滅できる。

 

 「MSの収納終了しました」 

 「うむ。では、行こうか」

 

 

 

 カミーユ・ビダンは自分の部屋で静かにただ座り込んでいた。どうすれば良いのか何をすればいいのか分からずただただぼーとしていた。

 

 「失礼しまーす」

 

 声がしたので一様視線を向けるが顔を向けるまでには至らなかった。

 

 「入る前にノックぐらいしてくださいよ…」

 「三回ほどしたんだけどね。返事がなくて心配したよ」

 

 棘のある言い方をしたというのに優しげのある喋り方でキョウシロウ大佐は僕が腰掛けているベッドに腰掛けた。

 

 「なんですか…慰めにでも来たんですか?」

 「慰めるのは僕には難しいかな」

 「ならひとりにしといてください」

 

 突き放すように言い放っても彼は隣に腰掛けたまま動こうとはしない。何を考えているのか分からない。

 

 「少しお話しない?」

 「………」

 「君のお父さんやお母さんのお話してくれないかな?」

 「お話って…」

 「どんな人だったの?」

 「……母も父も仕事優先の人で―」

 

 何もする事もなく、言われたまま父や母の事を話している内に嫌な面だけでなく記憶の奥底に留めていた記憶まで蘇えり、気付いたら涙を流していた。人前だし止めようと思ったのだが止まる所か余計に流れ続ける。大佐に見守られながら泣き続けて疲れたのか知らない内に寝てしまっていた。そこには大佐の姿はなくシーツがかけられていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。