両親を目の前で失ったカミーユを何とか落ち着かせてから一日が経ったアーガマの一室で鏡士郎は頭を抱えて悩んでいた。
あの戦闘で大きな選択を行なった。母親を救えなかったのは自分ミスで、父親が目の前で戦死するのを見せたのは自分の指示だ。自分が減らせれたであろうカミーユの負担をわざと担がせてしまった。アフターケアとして彼には少しでも気が楽になるように接したがどれほど効果があったかは分からない。それよりも悩んでいるのは殺し損ねた…いや、わざと殺さなかったジェリド・メサのことである。
プライドが高くてエリート意識の塊みたいな彼を好いていない。そもそもグリーン・ノアの一件から嫌っている。住宅街を避けたから本部ビルに突っ込んだというが、その原因は自ら無茶な飛行を行なったが為だ。落ちた本部ビルでは大勢の怪我人に死者が出たというに気に留めることもなく『始末書程度じゃすまんな』の一言で片付けている。他にもアポリー中尉やフォウ・ムラサメの件もあって、撃破したほうが良いと判断できた。だが、実際は手足と頭部を破壊するだけに済ませた。別に今更人を殺す事に躊躇ったなんて理由じゃない。というか人を殺すという感覚が薄いのだ。眼前で人を拳銃で撃ったり、ナイフで刺したりしと相手を見て殺人を犯したのなら実感していただろうが、相手自体を見る事無くMSを撃破しただけなので実感が湧かないのだ。元々精神が異常だった可能性もあるけど…。
ライバルキャラ…で、なかったにしろメインキャラのひとりである彼を撃つ事を躊躇ったってのもある。が、一番に脳裏を過ぎったのはダカールでの戦闘でティターンズを悪役として引き立てたのは攻撃を強行した彼でもあった。後々の事を考えると対処しなければならないが同時に大きな分岐点であるダカールの事を考えると生きていてもらったほうが良かったりする。今更悩んだところでどうなる事もないが。
唸りつつ、ベッドでジタバタと足を動かし続ける鏡士郎の耳にノック音が聞こえてきた。誰だろうと顔を上げてベッドから跳び下りた。
「大佐。カミーユですけど」
「ビダン君?開いてるよ」
「失礼します」
ドアを開けてぎこちないがはきはきとした敬礼をしたカミーユは、ゆっくりと鏡士郎の下まで歩いてきた。客人が来たことで転がっていた体勢から座って姿勢を正す。
「何かあったのかな?……って、いろいろありすぎたよね」
「はい…その件はいろいろとありがとうございました」
「いや、僕は何も出来ていないから」
そうだ。僕は君の母親を救えずに、父親の死に行く様を見させた張本人なのだ。困った表情で返答した僕に対してカミーユまでも困った表情をしてしまった。
「そんな事ありませんよ。大佐のおかげで落ち着けましたし」
「うん…」
「大佐こそ何かあったのですか?」
「んー……たくさんあるけどとりあえず保留!!」
ベッドから跳び下りて腕を大きく伸ばして背筋を伸ばして筋肉を解す。
やるべき事はたくさんあるのだ。原作通りだと起こってしまうキリマンジャロのフォウの戦死対策やジャブローへの降下作戦時のカトウ・フリートの動き、イレギュラーとの戦闘など考えなければならないことが山積みなのだ。出切ればヅダを送って欲しい所だけれどね。
っと、そこでカミーユが何で部屋に来たのかを聞いてない事を思い出す。
「ところで僕に何の用だったの?」
「あ!そうでした。クワトロ大尉が呼んでいるので僕と一緒に来てください」
「赤いのが?わざわざ呼びに来てくれたんだ」
「何でも大佐の部屋に繋がらなかったらしくて」
言われて何度か鳴っていた様な気がする。考え事や悶えていていたりして放置してしまったのだろう。でも、あの赤いのからだとしたら出なかったかも知れないが。
「じゃあ、行こうか」
向こうもこちらが嫌っている事を知っているだろうから無意味な呼び出しではない。合流する為に部屋から出たのだが、出た直後に足を止める。振り返ってカミーユを見つめながら口を開いた。
「何処に?」
「最後まで話を聞きましょうよ」
そう笑みを浮かべたまま言われて、ついて行くとクワトロ大尉以外にもヘンケン艦長達も居る艦橋へといたった。艦長はだいたい艦橋に居るが今回はブレックス准将も居て、どうやら待っていたようだ。
「ようやく来ましたか。何度も呼んだんだがね」
「すみません。考え事しちゃってて」
「時間も押している事だし話に入ろうか」
大型のモニターにはアーガマを含んだ戦艦三隻の航路と周辺のコロニーや月、地球などが映し出されていた。そしてその航路外に点滅する物があった。点滅する色から救難信号を発していることが解る。発している事は解っているのだが解らない。原作にこんなシーンがあっただろうか?
「その点滅はなんですか?」
「これこそ今回の議題なのだよ」
「ティターンズに襲われて行動不能になったテンプテーション…」
「テンプテーションってブライトキャプテンの?」
「知っているのかい?」
「はい。ホワイトベースの艦長をしていたブライト・ノア中佐です」
ブライト・ノア
一年戦争で活躍したホワイトベースの艦長。戦後はテンプテーションのキャプテンを務めている。原作ではエゥーゴに合流してからアーガマの艦長となってエゥーゴの中核を支えた人物。確か原作では…
「そのブライト中佐のテンプテーションより通信が合った。グリーン・ノアより民間人数十名と脱出してティターンズに襲われたのだと」
「でしたらすぐに…」
「彼は救出部隊を送らないでくれと言って来たのだ」
「え?それってどういう事ですか?」
「テンプテーション付近には最低でも二隻のサラミス改級が待ち伏せをしているらしいのだ」
「しかもその進路を取ると別方向に分かれていた艦隊が合流。今追撃している艦隊と待ち伏せの艦隊で前後を挟まれるだけでなく左右まで挟まれてしまうのだ」
テンプテーション内は原作通りなのに原作通りの展開じゃない。確実にソウジロウの罠だよね。だからと言って放っておく訳にもいかないし。
「助けに行くしかないじゃないですか!!」
「カミーユ君。そういう簡単な話ではないのだよ。のこのこ出て行けば全滅する可能性が高いのだよ」
「近くに居るエゥーゴの艦艇では間に合わないし何より兵力が足らん」
「そこで大佐のほうで何とか出来ないかな?」
「無理ですね。近場に展開している部隊が存在しません」
「ならここは…」
「待ってください!!」
「准将。自分は救出に行くべきだと思いますが」
「しかし、それではみすみすやられに行くようなもんじゃないか!!大尉はどう思うかね?」
「リスクが高すぎて危険です。が、放っておく訳にもいかないでしょう」
「大佐はどう考えておられるか?」
ブレックス准将は助けたいが行った時のリスクを考えて救出反対なのだろう。しかし、クワトロ大尉もヘンケン艦長も賛成派でこちらの意見を聞いてきたのだろう。生憎ながらご期待には添えないのだが。
「行きましょう」
「罠と知っていてもかね?」
「罠であるなら食い破りましょう」
満面の笑みで告げられた言葉に力強い表情で頷いた顔を見た准将は大きく息を付きながら諦めたような表情を見せた。
「皆の考えは分かった。ではこれよりテンプテーションへの救出作戦を決めよう」