ある晴れた日のヴェストリの広場。いつもなら爆発音と若い男性の悲鳴が響いているため、誰も近寄らない場所なのだが、その日はところ畝ましと生徒達が詰め寄っていた。その中心には二人の少年の姿があり、周りの生徒はその少年達から少し距離をおいて囲むような形で集まっていた。
何かを待っているのかざわつく生徒達。
すると、中心にいた少年の一人、金髪のくせっ毛で、胸にフリフリとした飾りの付いた服を着た少年が薔薇の造花を挙げ、宣言した。
「諸君、決闘だ!」と。
ーー
決闘を宣言した少年ギーシュは緊張していた。
実を言うと、この決闘は彼が仕組んだ茶番劇なのだ。
そもそも、彼と決闘相手である平賀才人は仲がいい。それこそ、才人の胴上げを率先して行ったのは彼である。
にもかかわらず彼に決闘を仕掛けたのは何故か。答えは単純。ギーシュは『皆に彼の実力を示す必要がある』と考えたからである。
事の発端は、ルイズが才人を召喚した次の日。ギーシュは朝早くから日課であるランニングをしている最中同じようにランニングをしている才人と鉢合わせたところから始まった。
元々軍属の家系であるグラモン家出身のギーシュは、幼少の頃に起こったヴァリエール家襲撃事件を期に、国防を担うため厳しい訓練を受けていた。
それこそ、真冬のラグドリアン湖を対岸まで寒中水泳したり、火竜繁殖期に、杖一本だけ持たされて火竜山脈に放り込まれたりと、かなり厳しいモノだった。
そんな厳しい訓練を積んだギーシュから見ても、才人はよく鍛えられていた。否、鍛えられ過ぎていた。身体的にも、精神的にも。
故に、ギーシュは才人にこう持ちかけた。
『魔法無しで一手手合わせ願えないかな?』と。
すると、才人はギーシュの頼みを快諾した。何でも才人も素人のような体捌きの貴族の中で、明らかに浮いた立ち振舞いをするギーシュに興味があったらしい。
二人は軽く汗をぬぐうとある程度距離をおいて対峙する。
魔法無し、否、仮に魔法が有りだとしても正面からでは勝つのは難しいだろう。
ギーシュはこれまでの経験からそう直感した。だが、だからこそ彼は心の中で歓喜した。
学園に入ってからというもの、家族からの無茶な訓練は無くなった。しかし、それは実戦で培った危機感知能力を鈍らせるのではないかと彼は常々考えていたのだ。
だからこそ彼は才人に感謝した。
明らかに格上な彼に。
自分の鈍った勘を研ぎ澄ましてくれるであろう彼に。
ギーシュは覚悟を決めると、才人に向かって駆け出した。彼に比べれば、自分の体術等、児戯に等しいだろう。
だからこそ、彼の胸を借りる。少しでもいい。只、なるべく多く《・・》を盗むために。
ーー
才人は嘆息した。いくら平民は嘗められると言っても、こんな茶番で決闘とはどうなのか?
わざわざ決闘の為に、女子生徒を雇う必要はあったのだろうか?
そして…
嘗められないようなインパクトが必要とはいえ、10mを超える鉄製のゴーレムはやり過ぎではないのか?と。
「驚いたかい、平民くん。僕は貴族だからね。魔法を使うのは当然だろう?」
と、信頼してるのかそうでないのかわからないが、ノリノリで殺しに来ている
「才人!そんなアホ、さっさとヤっちゃいなさい!じゃなきゃ魔法の練習ができないじゃない!」と宣う御主人様。
そして、他の貴族とは明らかに違う…まるで興味がないような素振りを見せつつも、確実に此方の様子を伺うように警戒している赤いのと青いの。
才人は再び嘆息した。
ーどうして俺の周りはこんなんばっかなんだー
と。
今回はここまでです。
ギーシュの訓練はオヤジが来た事によるバタフライエフェクトです。
次回もバタフライエフェクトが少しわかります。
ついでにオヤジが何をしたのかも少しだけわかります。