ふと眼を開けるとそこに映ったのは一つのさびれた倉庫のような部屋。
窓は一つもなく、前方に鉄の堅そうな扉が一つ。
身体を起こそうと試みると、突然全身に激痛が走った。
その痛みに耐えようとうずくまるとふとどこからか鎖の動く音が聞こえた。
そっと音のした方を覗くと、己の脚と手首には頑丈な枷がつけられていた。
そこでようやく理解した。
自分は敵さんに捕まってしまったようだと。
最後に見た神楽の顔がふと思い出された。悲しみに歪む彼女の顔に苦しくも、嬉しいと思った。
大丈夫。自分はちゃんと護れている。
そう、初めて自信を持って思えた。
と考えている暇はない。そんな彼女のためにも自分はここから一刻も早く抜け出さねば。
そう思い、痛む身体に鞭をうちながらなんとか体勢を座る状態にした。ちょうどよく壁があったので、体重を預けると僅かに痛みから解放された。
そうこうしていると、突然扉が開く時のギーという音と目がくらむほどの光りが部屋の中にあふれた。
「やっと目覚めたか。白夜叉よ。」
そう口にした男は逆光で顔が見えない。
「てめえ、誰だ。」
次第に扉は閉まって行き、完全に閉じると男の顔がはっきりとしてきた。
その顔を見た瞬間に、銀時は目を見開いた。
目を細めて優しそうにほほ笑む痩せ型のその男は、良くテレビで見る、幕府に天人に尻尾を振って媚びまくる、見ていて吐き気がするような重鎮の一人、
「幕府の重役を担っております。兼松と申します。坂田銀時殿?」
「俺の名を・・・。というか、なぜ幕府の重鎮が攘夷浪士なんかと繋がっていやがんだ!」
「それは、私が雇ったからです。」
「雇った?なんでそんなことする必要があるんだよ?幕府には浪士なんぞより何十倍もすぐれた自衛隊やら忍びやらいるだろーが。」
銀時はこの微笑に隠れた本質を暴くため、その紅眼を鋭く光らせ男を貫いた。
「んー、それではちょっと都合が悪いんですよ。あなたを捕まえるためには、ね?」
しかし、当の本人はそんなことなどお構いなしに、一歩一歩銀時に近づきながら言った。
「俺を、白夜叉を?なぜだ。幕府は俺の首を望んでるんだろ?だったらなぜ。」
「だからですよ。」
「・・・?」
男が急に顔を下げた。しかし、その歩みは止まらない。
「幕府は、天導衆は白夜叉の首を欲しがっている。だから私はこうやってこっそりとあなたを捕えたのですよ!」
男は銀時の目の前に来ると先程の微笑とは打って変わって、下品に口を開け、瞳孔を開いて銀時を見下した
「白夜叉を我が物にするためにねぇ!!!!」
「ッ!?」
「知っていますよぉ。あなたが末恐ろしい夜叉であったことを。あの天導衆が恐怖に顔をひきつらせながら語っていらっしゃった。あれは化け物であると。荒れ狂うかのように刀を振り回し、的確に急所を狙ったその剣技は見事。そして、その剣舞を可能にしている身体能力の高さ、なによりも人間とは思えぬその容姿。どこをとっても奴は戦場で生きるに相応しい獣であったと。」
『天導衆』という言葉に、彼の姿を見出した銀時は、苦虫を潰したような何とも言えぬ思いを巡らせた。
「それを聞いていた者たちもそれはそれは震えあがって怯えていたよ。でもねぇ、私は違った。『欲しい』と思った。天導衆をも恐れるその力を。世界をも手に入れることのできる、お前の力を!」
男の手が銀時の細顎に触れる。
伏せていた顔を持ち上げると男は銀時の首にめがけて何かを振り下ろした。
「白夜叉よ。我のために戦う夜叉になれ。」
「誰が、てめえなんぞの、ために!!!」
何やら首元からの寒気が広がり、ろれつがうまく回らなくなってきた。なんなんだ、と今にも倒れ込みそうな身体に鞭打って気力で男に切り替えす。
「ふふっ、そう言ってられるのも今のうちだ。先程あなたに薬を打たせてもらいました。天人製のものですからよくは分かりませんが、精神を壊すものだそうです。」
「ぅ・・・クソ、ッたれ・・・が!」
次第に全身から力が抜けた。と思うと途端に身体の内側から内臓や細胞一つ一つを握りつぶし、抉られるかのような激痛が銀時を襲った。
「グッ、ア゛ア゛ア゛アアアアァァァ!!!!!」
痛みに暴れる銀時から少し距離を取り、兼松は愉快そうに口角を上げた。
「さて、白夜叉はどのくらいで落ちるかな・・・?」