「でも桂さん。仮にも敵が幕府の人間だとして、誰か特定できているんですか?」
「うむ。残念ながらそこは全く分かっておらん。」
「そうですか・・・。それもそうですよね。桂さん攘夷志士だし・・・。」
「でも、そしたらどうするアルカ?」
「・・・リーダー。新八君。少し頼まれてくれるか?」
「「・・・?」」
あるよく晴れた日の昼下がり。
ここ、真選組屯所では、いつも通りの業務が行われていた。
しかし、そんな真選組の局長室に4人の人物が、周りとは違った雰囲気を出しながら鎮座していた。
「昨日から今日この時までずっと浪士共に聞き込みをしてみたんですが、旦那に関する情報は全く得られませんでした。」
4人のうちの一人、山崎が前に座る上司3人に悔しげな表情で報告した。
「そうか。ご苦労だった、山崎。」
そんな山崎に労りの言葉を告げたのは、土方。
「俺もとっつぁんに聞いてみたんだけど、なにも知らないってよ。」
こちらもやはり沈んだ様子で報告したのは、近藤。
「とっつぁんですら知らないってことはやっぱり旦那が殺されたってのは嘘なんじゃねえですかィ?」
もはや、願いにも似た感じでそういうのは沖田。
先日浪士から聞いた事の裏付けを取ろうと聞き込みに走っているが、全く情報が得られなかった。
しかも、浪士が言った「『お前らの知る』坂田銀時」は死んだ、とはどういう事なのか。
4人が4人とも何ともいうことができなくて黙っていると少し慌てた様子の隊士が局長室の前で止まった。
「局長!万事屋の子供たちが来ています。」
「新八君とチャイナさんが?すぐに通せ。」
「はい!」
しばらくすると二人の影が部屋の前で止まった。
「入ってくれ。」
「し、失礼します。」
「お邪魔するアルヨ~。」
「なんだお前ら。何か万事屋の情報でも入ったか?」
「えっと、その・・・あの~・・・」
「その通りネ。」
ウジウジと言い淀む新八に痺れを切らした神楽がまっすぐに前を見つめて返事をした。
まあ、新八が言い淀む気持ちも分かるけど、決心をしてここに来たネ。
ちゃんと依頼は遂行しないと、銀ちゃんに怒られるヨ。
そんな神楽の気持が伝わった気がして、新八は下げていた顔を上げた。
「神楽ちゃんの言うとおり、銀さんの情報が手に入りました。」
「それは本当かィ。」
「ほんとアル。」
「新八君、チャイナさん。その情報教えてくれるか?」
「・・・その前に。その、交渉をしてくれませんか?」
「交渉だぁ?」
土方の疑うような視線に、新八はヒッ、と奇声を上げたが、ゴホンッと咳払いをして、強い目で土方を見つめ返した。
「はい。僕達にその情報を教えてくれた人と手を組んでほしいんです。だから、万事屋まで来てくれませんか?」
「・・・誰だ。そいつは。」
「それは・・・」
「言いづらい人って事かィ。攘夷浪士とか。」
「ッ!?」
「図星、か。無理だ。俺達は警察だぜ?どんなことがあっても浪士共と手を組むなんてざ、ありえねぇ。」
「そんッ「じゃあお前らは何か情報手に入れたのかヨ!なにも出来てない癖に意地ばっか張ってんじゃねえヨ!」神楽ちゃん!」
「・・・情報なら、一つ手に入れた。」
「「!?」」
「万事屋が殺された。幕府によって。」
二人の目が見開いた。
「それはうそだぞ。土方。」
なぜかって?だって目の前にはここに居てはいけない長髪電波バカが立っていたから。
「てめッ桂!!!!」
「どうやって入ってきたんだ!?」
「バカな野郎でィ。自ら捕まりに来るなんてなァ。」
大物攘夷浪士、桂小太郎の出現に目を見開く3人の前に神楽が立った。
「待つネ!」
「そうです!待ってください!今回僕達に情報をくれたのは桂さんなんです!」
「桂ァ?」
時を遡ること1時間前。
二人は桂の口から出た言葉に、ただ驚いていた。
『真選組と手を組もうと思う。』
「ちょッ桂さん正気ですか?!あなた達敵同士ですよ?そんなことできる訳ないじゃないですか!」
「・・・しかし、こうする以外なにも策が思いつかんのだ。俺は攘夷志士だ。幕府の中枢までは入り込めない。」
「だからって真選組に協力を要請するんですか。・・・確かに、それがいいかもだけど、」
「あいつらがそう簡単にヅラと手を組むとは考えられないアル。」
「だが、奴らには銀時に貸しがある。何としても銀時を救い出したいと言う気持ちは同じはず。」
いつになく真剣な桂が、彼の銀色と被った。
いつもはチャランポランしているくせに、ここぞという時は絶対に自分を曲げない。自分が信じた道をどんな手を使ってでも進んでいく。そんな銀色と同じようにこの男もまた頑固な性格である。
こんな頑固者に適うわけがない事はすでに分かっているのだ。
「はあ。分かりました。やりましょう、桂さん。」
「でも、どうやって説得するアルカ?」
「うむ。新八君、リーダー。俺と駒共を引き合わせてくれんか?」
というわけで、こうやってなんとか土方達を万事屋に連れてこようとしていた新八と神楽だが、勝手に敵の巣穴まで来てしまった、このバカなロン毛電波にイラつきながらも、捕まえんとする真選組3人から桂をかばった。
「駒共よ。貴様等、銀時に貸しがあるそうだな。」
「・・・それが、なんだよ。」
「先程も言ったが、銀時は死んでおらん。そんなデマに騙されるとは、愚かな奴らだ。」
「ちょっ桂さん!協力するんでしょ?なんでこんな喧嘩吹っ掛けてんですか!」
どんどん剣幕なムードになる両者をどうにかしようと、桂に呼びかけるが、もはや無意味。
ますます土方の瞳孔が開いき、沖田は刀においた手に力を入れた。
しかし、近藤だけは違った。
「なあ桂。坂田が死んでいないというのは本当か?」
「近藤か、ああ。奴は殺されてなど居らぬ。」
「そうか、よかった。」
「近藤さん!」
「トシ、総悟。下がっていてくれ。」
「何言ってんだ!近藤さん!」「そうでさァ!いくら何でもその命令は聞けやせんゼ」
「トシ。総悟。・・・下がれ。」
近藤の有無を聞かさぬ態度に折れた二人は、大人しく近藤の後ろに下がった。
そんな二人を見た新八と神楽も警戒心を解いた。
「桂。俺達と手を組みたいとはどういうことなんだ?」
すると突然桂は近藤の前まで歩み寄ると、腰を少し居って、長い髪を前に垂らした。
「か、つらさん?何を・・・」
「頼む。銀時を救うために、俺に協力してはくれぬか。」
「「「「「ッ!?」」」」」
仮にも攘夷浪士二大勢力の一人の党首である桂が、真選組に頭を下げたのである。
この光景に驚かない者などこの世にいるだろうか。
「俺達はあんたに言われたとおり坂田に貸しがある。だから、坂田を助けたい。しかし、こちらには情報が全くない。教えてはくれないだろうか。」
「近藤さん!」
「坂田は身を呈して俺達を護ってくれたんだ。自分の幼馴染の仲間に刀を向けてまで。」
「ッ!?」
「だったら俺達だって、これくらいの事するのが道理ってもんだろ?」
それでも首を縦に振ろうとしない土方に見かねて、沖田が救いの手を差し伸べた。
「いい加減折れなせえ土方。あんただって旦那を救いたいのは同じでしょう。」
「・・・はあ。最終的に決めんのは近藤さんだ。勝手にしろ。」
「トシぃ!」
「ただし!これは手を組むんじゃねえ。俺達が桂を利用するんだ。それでいいよな?」
「ッフ。一度敗北を経験した身。今更プライドも糞もないわ。なんとでも言えば良い。」
「なら、交渉成立だ。」