「坂田よ。その刀、抜いて見せてくれぬか?」
将軍の突然の発言に臣下たちから動揺が走る。
「いいんですか?手元が狂ってその首、飛ばしちまうかもしれませんよ?」
「そなたを信用しておる。万事屋銀ちゃん殿。それに、幼いころからいろんな人間を見てきたのだ、人を見る目は持っていると自負しておる。」
「・・・物好きな将軍様だ。」
手慣れたように、しかし慎重に刀触れる。
瞬間、まるで刀が主の手元に戻ってこれて喜んでいるように一際美しく色づいた。
するりと刃が現れ一筋の光がさす。
静かに耳を澄ますと聞こえてくる。
けたたましい声。武器と武器が交わる音。悲鳴。怒り。悲しみ。
深く息を吸うとほのかに香る。
大量の血。腐りゆく仲間。敵。血で湿った土。戦場をかける風。赤を埋めるように降る雪。うわべだけでもすべてを洗い流す雨。
瞳を閉じるとその眼に映る。
笑いあった仲間。酒を酌み交わし、夢を語り合い、背中を預けあった。死体の山。異形の天人たち。
幼い自分。やさしい場所。薄れゆくあの人。
ああ、震えが止まらない。
銀時と同じくさまざまな情景を思い出していた。
桂は顔を伏せ、高杉は刀を見つめていた。しかし、わずかに震えだしたそれを見て腰を上げた。
銀時と刀に見惚れていた者たちも、銀時が震えていることに気づき、近藤や土方、沖田がどうしたのかうかがおうと腰を上げるのを高杉が手で制した。その表情は、すべてをわかりきって、仕方ないなというようなとても優しい兄ものであった。
子犬のようにプルプル震えだす。こいつが感情を抑えるときの癖だ。
そのことを知らなかった時には桂や他の塾生、先生らと大慌てしたものだった。
表情はまったく変えず、声をかけてもいつものように飄々と返すくせに、身体はプルプル震えているのだから、その異常性といったら、なにか重たい病気なのではないかと医者を呼びに町へ駆け、呼吸もままならぬ医者に詰め寄り、何の異常もないと診断を下す医者に先生が声を大きくして、そんなわけがない、ちゃんと診察しろと脅していたのが懐かしい。
それの原因が分かってからはその愛らしい姿にひとまず悶えてから優しく暖かく包み込んでやり、お前の味方だと、お前が大切だと。我慢しなくてもいいのだと。伝えるた。
すると、つたない言葉で、ぽつりぽつりと一言二言こぼして涙をほんの少しこぼすのだ。
震える銀時の肩にそっと触れる。
気配で察知していたのだろう、特に驚いた様子もなく振り向く。
その瞳は高ぶる感情を抑えきれずにゆらゆらと揺れていた。
戦時中にもよく見た目だ。あのころは俺もヅラも立場上常に気を張っていなければならず、下がりゆく士気と増え続ける犠牲に半狂乱になる仲間たちのケアのために心も体も困憊していた。だから銀時のそれに気づいていながらも、ただただおとなしく震える銀時よりも、暴れ狂う仲間たちを優先するしかなかった。
けれども今はそんな仲間はいない。
こんな状態でこいつを放っておくほど俺たちの縁は薄れていない。
「どうしたの晋助君。すごい顔してるよ?キャラ崩壊もいいところだよ?つか怖い!キモい!ヅラ!!!!ヘルス!!!!ヘルスミーーーーー!!!!!
「・・・」
「ヅラじゃない!桂だ!!!それからヘルプミーだ!!!!」
「だって高杉が!ッアダダダダダダ!高杉!!!イタイイタイ!!!肩つぶれるぅーーー!!!ヅラ!!!!ヘルペスミーーーーーー!!!」
「だからヅラじゃない!!!ヘルプミーだ!!!!・・・あれ?」
「・・・」
くくくっ
あはははっ
どこからともなく笑い声が起きた。
高杉はふんっと鼻息を鳴らすと去って行った。
桂はいまだにプンスカと銀時に文句を言っている。
銀時は刀を仕舞、痛む肩に手を置いた。
震えは止まった
余談だが、この日以来、大広間であった銀時と高杉の喧嘩も踏まえて、真選組たちの高杉のイメージは狂犬から弟にめっぽう弱い可哀想なお兄ちゃんに変わったという。