近藤達一行は松陽にもらった紹介状を持って桂邸の前に来ていた。
「これ、桂さんの実家ですか・・・?大きい、てか!桂さんってやっぱりお坊ちゃんだったんですね!!!」
「今日こんな豪邸に住めるアルカ!!キャッホーイ!」
子供たちは、まだ泊めてもらえるか分からないというのにハシャイでしまっている。神楽に関しては住む気らしい・・・。松陽宅を出た時は銀時をいつまでも離さないでイヤだイヤだと言っていたクセに、だ。
家の前で声をかけると、従者が出てきたので、用件を伝え紹介文を渡すと、そのままお待ちください、と言い残してまた屋敷に入って行った。
すると、ガラガラ、と玄関が開く音がしたと思うと、ひょっこりと小太郎が姿を現した。
「事情は聞いたぞ。俺が父上を説得したんだ!ありがたく思うがよい。」
昼間のうちにすっかり仲良くなっていたので、最初にあった時のようなよそよそしさはなくなっていた。
「ありがとな!小太郎君!」
「君たちが松陽先生から託った旅の御一行かね?」
「あ、父上!」
「「「父上!!?」」」
これがあの桂の父親。
今や穏健派となり下がったが、大物攘夷浪士である桂を育てた男。
・・・にしては、桂同様物腰の軽そうな穏やかな人だった。
「大変でしたね、松陽殿の紹介なら安心だ。どうぞ中に入りなさい。小太郎、お前に任せるぞ。」
「はい!ありがとうございます!父上!!」
「ありがとうございます。桂さん。」
そんな時松陽宅では、銀時と松陽が縁側で夜風に当たっていた。
「せんせい、大丈夫?」
「え?何がですか?」
「なんか、変。」
「変って・・・;私はいつも通りですけどね?」
「違う。せんせい、苦しそう。大丈夫?」
「銀時・・・、私は大丈夫です。心配してくれてありがとう。」
そういうと松陽は汗で少し濡れているが、それでもふわふわな銀色の頭をゆっくり、かみしめるように撫でた。
「ねえ、銀時?」
「なに?」
「今、幸せですか?」
「しあわせ?」
「そうです。前に教えたでしょう?」
「心が暖かくなるやつ?」
「そうです。」
「んー・・・。じゃあ、今ぽかぽかしてるから、すっごく幸せだよ!」
「そうですか。それでは、もうひとつ。銀時は将来どんな大人になりたいですか?」
「んーと、・・・」
「小太郎のように医者になりたいですか?それとも、晋助のように武士になりたいですか?」
「わかんない。」
「フフ、そうですよね。まだ分からないですよね。・・・じゃあ、あなたの武士道を教えてくれませんか?」
「ぶしどー?」
「私と銀時が初めて出会った時の事覚えていますか?」
「うん。」
「その時、私が言いましたよね?『刀の本当の使い方を知りたければついてこい』と。」
「いった。」
「つまり、刀をどう使うのか、刀であなたは何をしたいのか、それが武士道なのです。銀時はどんなふうにその刀を使いたいですか?その刀でなにをしたいですか?」
「せんせい、教えてくれてない。」
「確かに私は『知りたければついてこい』といいましたが、これは銀時。あなたが自分で見つけなければならないのです。」
「俺が?」
「そう。銀時、あなたの武士道は何ですか?」
「俺の武士道・・・」
すっかりと考え込んでしまった銀時を松陽は穏やかな顔で見守った。
すると、銀時は何かひらめいたかのように顔を輝かせていった。
「俺はこの刀で先生みたいになる!」
言い終わると銀時はニシシッとしたり顔で笑った。
「私みたいに?どうしてですか?」
「だって先生強い。俺たちの事守ってくれる。助けてくれる。心ぽかぽかにしてくれる。俺も先生みたいになりたい。先生を守りたい。小太郎と晋助も守りたい。これじゃ、ダメ?」
銀時の素直な言葉に心からの言葉に松陽は目がしらが熱くなるのを覚え、銀時を思い切り抱きしめた。
今になって後悔した。この子も共に・・・と思ってしまった自分を。
「いいえ。嬉しいです。ありがとう、銀時。」
「せんせ、やっぱり大丈夫じゃない。変。」
松陽は銀時を離すと真剣な顔に変え、銀時を見つめた。
この子だけは助けよう。こんなところで、私が勝手に持ち去っていい命じゃない。
この子には未来がある。明るい未来が、きっと幸せな未来が。
そこに私は居ないけど、きっと銀時なら強く生きてくれる。
私がいなくっても、きっと大丈夫ですよね。銀時・・・
銀時も松陽の変化に気付き、言葉を待つ。
「銀時。今から私が言うこと聞いてくれますか?」
「・・・うん。」
松陽は深呼吸をする。空気がピリピリとしてきた。もう、近い。
「今から裏の出口から出て行きなさい。」
「え・・・?」
「最後まで聞いて。出たらとにかく走って山を下るのです。そしてら前に私と二人で来たことがある広場に着きます。そこから左手に出ると銀時もよく知っている道に出るでしょう。そしたら村長の家覚えていますよね?そこへ行きなさい。きっとすぐに察してくれます。」
「せんせいは?せんせいはどうするの?」
「私は・・・先程近藤殿にも行っていたでしょう。大事にお客様がくるので、お迎えしなければならないんです。」
「じゃあ俺も居る!邪魔しない!」
銀時は嫌な予感がしていた。己のこの戦場で培った第六感は嫌な時ほどあたることを知っている。
ここで本当にここを出て行ってしまえば、松陽に二度と会えなくなる。
そう、心が銀時に叫んでいる。
ダメだ。絶対に離れてはダメだ。
そう、心の中で繰り返した。
「お願いです。銀時、言うことを聞い」
ガラガラ・・・
突然、前触れもなく玄関が開く音に松陽の言葉は遮られた。
「もう、来てしまった・・・。」
松陽の聞いたことのない絶望の声がこだました。