松陽は血の中に倒れた。
顔は蒼く瞼は固く閉じられていた。
しかし、
その頭と体は
つながってはいなかった
「せんせ・・・?」
銀時は瞬きもせずにただ呆然と見つめた。
あの、いつも優しく微笑んでくれた松陽が。時には厳しく叱ってくれた松陽が。自分を人間にしてくれた、人間である証をくれた松陽が。
「せんせッ・・・。」
死んだ。
「せんせェエエエエ!!!!!」
銀時はもがいた。早く松陽のそばに行きたい。
きっとうそだと、これは先生のいたずらなんだというのを確かめたい。
自分がそばに行けば、先生はきっと目を開けて、ごめんなさい、といって笑ってくれるはずだ。
そっと抱きしめてくれるはずだ。
襖に着いた血で手が滑る。
それにも構わず叩き続ける。
「せんせい!!せんせい!!!せんせい!!!せんせい!!!!」
すると、突然襖があいた。
銀時は反動で前に転げた。
混乱しながらも顔を上げた。視界に入ってきたのは松陽のかお。
銀時はそっと松陽に触れようと手を前に着いた。
ピチャ、という液体の音が静かな部屋に響く。
そっと松陽から視線をずらし、己の手に目を向ける。
それは、まぎれもなく松陽の血だった。
手だけではない。転げた時についたのか、銀時は血で真っ赤に染まっていた。
「あ・・・ああッ・・・ああああ、ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
銀時は松陽の頭を抱えて泣き叫んだ。
その目は光を映してはいない。なにも映してはいなかった。
「おい。ガキ。」
松陽を殺したであろう男、手に血のついた刀を持ち銀時に呼びかける。
しかし、完全に心が壊れてしまった銀時は反応を示さない。
そんな銀時に男は気味悪さを覚えた。
銀色の髪に白い肌。それはすべて目の色に染まっている。
こんなにも血が似合う人間はいないだろう、と思った。
男はなにも言わずに、部屋の灯りに火を灯すとその火を近くの障子に映した。
障子はどんどん燃えて行き、畳にも天井にも移る。
その時、銀時は見た。
その男のマントから垣間見えた肌を。
それは人間のものとは思えない緑色の堅そうな肌。あるはずのない角。
そして、不気味に光る目。
男はマントをなびかせ去って行った。
「いや~。いい湯だった!」
その頃近藤達一行は、桂家でくつろいでいた。
神楽や新八は桂にトランプというものを教えていた。
最初は未来の事をここで教えてもいいのか、とも思ったが、トランプ一つで変わることもないだろうと思い、好きにさせた。
「トシ!お前も一緒にやらんか!」
一人夜風にあたり和んでいた土方に、トランプに参加することになったらしい近藤に声をかけられた。
「ああ。」
「よし。土方さんが負けたら切腹ですぜィ?」
「っんでンなことで切腹しなきゃいけねえんだよ!てめぇがやりやがれ!クソガキ!!」
「まあまあ土方さん。早くやりましょ?」
「そうアル。これだからマヨラーは呼ぶなって言ったネ。」
「これだから、って何!?・・・んで、なにすんだ?」
少々八つ当たり気味になった土方はそれでもトランプに参加してくれるようだ。したいならしたいと素直に言えよ死ね土方、などとこっそりと、いや、堂々といった総悟に土方はイライラを抑える。しかし、そんな中一人心ここにあらずと言ったようなものが一人。
「ヅラ、どうしたアルカ?そんな浮かない顔しテ・・・?」
そう、先ほどまでトランプという遊びを教えてもらってはしゃいでいた桂が、顔を曇らせ俯いているのである。
「いや、なんだか嫌な予感がして・・・。」
すると桂の部屋に従者が入ってきた。
「坊ちゃん!大変です!塾が、塾が燃えています!」
「なッ!それは本当か!?松陽先生は?銀時君は!?」
「分かりません!いま村の者たちが消火に向かいました!」
「銀ちゃん大丈夫アルカ?・・・」
「ヅラ!!!!」
突然の事にみんな固まっていると、ここにはいるはずがない高杉の声がした。
「晋助!塾が!先生が!銀時が!」
「知ってる!落ち着け。とにかく行くぞ!」
そういって高杉は桂の手を引き塾の方へ走って行った。
近藤達もあわててついて行った。
「急げ!森に火が移る前に火を消せ!」
「おい!吉田さんと銀時は!!」
「どこにもいない!たぶんまだ中だ!」
「なんてこった・・・」
「俺がさがしに行く!」
村塾の周りには水をたくさん持った村人たちが集まっていた。
未だに見えないこの家の主に、村人たちは最悪の未来を思った。
しかし、何かを悟った村長だけは、なにも言わず、燃え盛る塾を見ていた。
「吉田先生!銀時!いたら返事をしてくれー!」
二人をさがすため燃え盛る炎の中に飛び込んだ勇敢なこの男。
名は曾根田義男。村で農民をしている男だ。
持ち前の力と、正義感とで村人からは絶大な信頼を得ていた。
そんな男も若いころにはそれなりに荒れていたこともあり、そんな時松陽に助けられたのだった。
だから、そんな恩人である松陽をなんとしても助けたい。その一心で炎の中に飛び込んだ。
しかし、一向に二人は見つからない。普段は子供たちが集う教室。客間。大広間。と、言ってはみたが二人はいない。すると、リビングに来たところでどこからか燃え盛る音以外の音が聞こえてきた。そこは確か、松陽の部屋だ。曾根田は確信してそこに向かった。
その襖を開けると、そこには火ではなく血で真っ赤に染まっていた。
そして、そこの真ん中にたたずむ銀時を見つけた。
どうやら、この血のおかげで部屋はあまり燃えていなかったらしい。
血・・・?
そういえば、誰の・・・?
「銀時・・・?その手に持ってるのは・・・」
一歩踏み出した曾根田の右に見えたのは、首から上をなくした、松陽の無残な姿だった。
銀時は己の名を呼ぶ声に振り返った。その目は相変わらず荒んでおり、手には松陽の頭が抱えられたままだった。
「ッ!!!」
曾根田は嘔吐感に駆られた。しかし、今は銀時を救うことが先決だと思い直し、真っ赤に染まった銀時を抱きしめるようにし立ち去ろうとした。しかし、
「先生は・・・?置いてくの?」
子供のものとは思えない、何の感情も含まない声に愕然とした。
「せんせい、せんせいも連れてって。せんせいを助けて。ねえ。」
曾根田はそんな銀時の呼びかけを無視して走り出す。
すると、今度は怒りを露わにした。
「離せ!!!せんせいを置いてくな!!!離せッ!!!!」
ゴトッ、と松陽の頭が銀時の手から転がり落ちた。暴れすぎたせいで落としてしまったのだ。
「せんせッ!離せ!せんせいッ!せんせい!せんせい!!」
銀時は壊れたように『先生』と呼び続けた。
どうして、こうなってしまったのか。曾根田はなぜか罪悪感にうなされた。
「ごめん・・・ごめんなぁ。」
そうしてやっと外に出た曾根田と銀時に、村人が集まった。
そこに、二つの幼い叫び声が聞こえた。
「「銀時!!!」」
よく銀時と遊んでいた、高杉家と桂家の子供たちだった。その後ろからも見知らぬ者たちが続いてきた。
そこで曾根田の気は失われた。