死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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再スタートの9月編
101:それぞれの再スタート


「あーーー! ムカつく!!」

 

 廃ビルの一室で、ゴンがオーラを湧き立たせて叫ぶ。

 かなり騒がしくてうるさいのだが、激情型ではあるが温厚なゴンがここまで怒っているのを無理に抑えつけるのもかわいそうだと思ったのか、キルアとソラは彼の気が済むまで放っておくことにして、二人でそれぞれお互いがいない間に何があったのかを話す。

 

 ソラの方はとりあえず、クラピカが一度起きたがまたすぐに寝た。熱はだいぶ下がって今は微熱程度くらいだと語る。

 さすがに起きた時の自分たちの話は、キルア達には言っちゃ悪いが関係ないし、詳しく話せばこの上なく恥ずかしい、簡単に話せば心中の約束をしたというネガティブかつカオスな話にしかならないので、そもそも話さないことにした。賢明である。

 しかし何故か代わりにわざわざ、今更ハンター3次試験でのことで説教したという話はしておいたので、キルアはクラピカに少し同情する羽目になる。

 

 キルアの方は、予定通りバッテラと接触してプレイヤー募集の審査が10日にあることは話したが、オークションで旅団と遭遇してしまったことは話さない。

 旅団側はクラピカの読み通り、団長の除念を優先してとりあえず今の所は自分たちに危害をくわえる気がないのは、自分たちが五体満足で帰ってこれたことが証明しているので話す必要性は感じておらず、何より色々と吹っ切れたクラピカはソラの為に旅団員を殺すことはほぼ諦めているからいいとして、ソラの方は旅団がまだヨークシンにいると知ればクラピカの為に少しでも戦力を削ろうとまた無茶をやらかす可能性が高かったので、奴らの存在に気取られぬよう口をつぐむ。

 

 お互いにそれぞれ隠し事をしつつも情報交換は終え、そしてゴンの不満の叫びも同じ内容のリピートになって来たのでさすがにそろそろ二人は宥めて止める。

 

「ゴン、ムカつくのはわかったからそろそろ落ち着きなよ」

「そうそう。つーかさぁ、あのあごひげの言うことももっともだぜ」

 

 キルアの発言にゴンは唇を尖らせて「どーゆーこと?」と突っかかる。

 彼にしては本当に珍しくツェズゲラに言われたことが相当ムカついたらしく、キルアの言葉も「自分たちが弱い」とやけにやさぐれた解釈をしているゴンを宥めるようにキルアは答えた。

 

「そう突っかかるなよ。俺達、毎日ずっと“纏”と“錬”だけやってただろ? そろそろ、次の段階を考えてもいい頃だと思うんだよな」

「次の段階?」

「“発”、つまり必殺技さ」

 

 しかし根が素直すぎるゴンは「必殺技」という言葉に心が引かれたのか、ふてくされていた顔からいきなり目を輝かせてキルアと向き直り、それを見てソラは少し笑ってしまう。

 しかし、キルアの話でその眼の輝きは一気に悲しげなものに変わってしまう。

“念”における「必殺技」は、等価交換。リターンに見合うリスクを必ず背負うものだということを思い出された。

 

「クラピカが念を習得したのは俺達とほとんど同じ時期。にも拘らずあいつが旅団と対等に戦えるのは必殺技のおかげ! ……もちろんその技の為に、クラピカは重いリスクを負ってる。その上、緋の眼という発動条件もあるし、使用後の反動で寝込んでもいる」

 

 言ってからキルアは横目でソラの様子を窺うと、ソラは彼が何を心配しているかを見抜いてケロッとした顔で答えた。

 

「別に気を遣わなくていいよ。私、あの子の能力はほとんど知らないけど、誓約に命を掛けてることは知ってるから」

「知ってんのかよ!? っていうか、それを知ってて何で能力は知らねーんだよ!!」

「だってヨークシン前にクラピカと会った時、あの子の心臓を中心に線と点が増えてたんだもん。能力何も知らなくても、あの子が誓約に命を掛けて心臓になんか埋め込んだのは嫌でもわかるよ」

 

“念”の存在を知って修行を始めてから半年ほどで、旅団と渡り合えるほどの力を得たクラピカが誓約と制約で能力を底上げしていることくらい、能力者として自分たちより相当先輩なソラなら何も聞いていなくても気付いているだろうが、「死」という彼の誓約を知ればソラは傷つく所ではないと思い、ムカつきながらもクラピカの為ではなくソラの為に具体的なことは言わずにぼかしていたのに、そんな気遣いは無意味だった。

 

「相変わらず反則的な眼だな!」とキルアはちょっと八つ当たりで叫び、ゴンは親友を「まぁまぁ」と宥めながら素で気になったことを尋ねた。

 

「気付いてたのにソラは何も言わなかったし、何もしないの?」

 

 ソラならクラピカが命を掛けていると知った時点で、「何でそんなバカなことをする!?」と言って叱って、下手すれば彼の心臓に埋め込まれた念の刃のみをピンポイントで殺して無効化出来そうだし、クラピカの為ならどんなにそれか困難でもやり遂げそうだとゴンは思っていたので、何もせず放置は意外だった。

 が、ソラの返答で意外でも何でもないことをすぐに思い知る。

 

「私はクラピカの死因は老衰以外認めてないから、命を掛ける制約をしてようがしてなかろうがすることなんか変わらないよ」

 

 しれっと当たり前のように言い切った言葉の意味が初めは良くわからなかったが、徐々に理解していったゴンとキルアの顔は引き攣る。

 つまりはこの女、誰にも、クラピカ自身でさえもクラピカを殺させはしない、自分が守り抜く気しかないということだ。

 確かにそんな覚悟をとっくの昔、おそらくは彼に「助けて」と乞われた瞬間から決めていれば、クラピカが誓約として命を掛けていてもソラのすることなど今更変わりはない。

 

 ただ全てから守りぬくことを決めている彼女からしたら、下手に叱りつけて今度からは巧妙に隠すようになった方が困るから、何も言わなかっただけ。

 一歩間違えれば念の刃ではなくクラピカの心臓を貫きかねない手段を取るよりは今のまま、クラピカの敵を殲滅するという手段の方がクラピカにリスクはないと思ったから殺していないだけだ。

 

 相変わらずの過保護というより狂的な献身に、ゴンとキルアに出来たの反応は、引き攣った笑みを曖昧に浮かべることだけだった。 

 

 * * *

 

 これ以上この話を掘り下げたらドン引きどころではない話になりそうな気がしたので、ゴン達は話をソラとクラピカのことから自分たちの能力開発に戻す。

 

「……えっと、とりあえずやっぱり強力な力を得るには重いルールを背負わないとダメなんだね」

「俺達はそういう訳にいかない。もうちょっと緩い条件で使える能力にしないとな。

 かといってリスクが軽すぎるとすげー能力は使えないから、重すぎず軽すぎず、かつ自分の系統に合ってて実戦的であり応用が効く! そんな能力を考えるんだ!」

「ねぇよ。そんなの」

 

 しかしながら戻した話題は速攻で水を差された。

 容赦のない突っ込みだが、ソラは何も悪くない。キルアの言う通りの能力は確かに理想的だが、実際にそんな奇跡的なバランスのとれた能力など存在しない。

 もちろんキルアもそんなのわかっていたが、ここまで容赦なく即座に否定されるのはムカついたのか、唇を尖らせてソラを睨み付けた。

 ソラの方も自分の即答はちょっと容赦なさ過ぎた自覚があるからか、「ごめんごめん」と謝ってから彼らが主にクラピカとソラ自身の所為でしている勘違いを正す。

 

「念能力は確かに、制約も誓約もつけないとろくな能力にはならないよ。そんなんなく戦える奴なんて、認めるのは癪だけどあのマッドクラウンくらいに頭が回らなきゃ無理だ。

 でも、ルールありきで能力を考えるのは間違えてる。ルールの重さで能力を考えるんじゃなくて、どんな能力がいいかを考えてからルールを定めるべきだ。

 そもそも、誓約と制約は能力のブーストとしての役目だけじゃなく、自分の感情による弱体化を防ぐためにも使えるものなんだから、強力な能力は重いルール有りきって考えをまず捨てなさい」

「? 感情による弱体化を防ぐ?」

「どういうこと?」

 

 クラピカはもちろん、ソラの宝石剣を具現化して使用する為のルールもかなり重いからこそ強力無比な能力の為、ゴンもキルアも制約と制約は念能力のブーストという固定観念に縛られていたので、ソラの言葉の意味がよくわからず尋ね返す。

 その問いにソラは、例を上げて答えた。

 

「普通にガチンコの殴り合いでも、好きな相手に本気を出して殴ることは出来ないけど、嫌いな相手だと思いっきり殴れるだろう? 念能力は能力者本人の心そのものと言っていいから、本人の感情が能力の精度にはっきりと反映する場合が多いんだよ。

 

 で、例えばレオリオが傷に触れるだけで治すっていう能力で医者になったとする。医者という立場で患者を好き嫌いしちゃいけないのは当然だけど、念能力にそういう建前は通用しない。好きな相手には絶大な効果を発揮しても、ムカつく患者だと擦り傷を治すにも時間がかかってたら医者としての信用が地に落ちる。

 そういう場合、『患部に触れている間は目を閉じる』程度の制約でいいんだ。ブーストとしてはささやかだけど、好きな相手でも嫌いな相手でも顔を見なけりゃ平等に扱えるから一定レベルの治癒が出来るし、これならルールを破っても能力精度が患者によって乱高下するってだけで、むしろ状況によってはルールを守っていないことがブーストになる。

 レオリオの性格ならどんなにムカつく患者でも本当にヤバい状態なら本気で助けたいと思って治療するだろうから、その時は目を開けて治療すればいいんだ。そしたら、本人の『助けたい、治したい』って気持ちが能力に反映されて、目を閉じて治療している時よりも強力かつ迅速な治癒が出来るだろうし。

 

 わかるか? 複雑なルールや重い代償で能力精度の上限を上げるんじゃなくて、簡単なルールで最低値の方を上げるって使い方も出来るんだ。

 だから自分の能力に課すルールはひとまず後回しにしなさい。まずはどんなに荒唐無稽でもいいから、どんな能力にしたいかを考えろ。そしてその能力を自分が望むレベルにする為に課すルールを考えるんだ。

 順番を間違えちゃいけない。誓約と制約は後付けで調節も出来るけど、根本の能力はそう簡単に変えれないのだから、これが自分に合ってないと闘技場のカストロみたいになるぞ」

 

 例に上げた対象の人物と仮定の能力が合っていたので、キルアはもちろんゴンもすんなり納得して「なるほど」という声を上げた。

 だが、改めて「何でもいいから能力を考えろ」と言われて考え込んだゴンは、数秒でプシューという音が聞こえそうなほど、思考がショートしているのがわかる顔で固まってしまう。

 

「まぁ……そうなるな。ごめんごめん」

 

 ゴンのショートを見てキルアは呆れ、ソラは苦笑して謝る。

 ゴンは頭が柔らかくて常識に捕らわれない思考の持ち主だからこそ、制限なく本当に何でもいいと言われたら何から考えて手を付ければいいかわからなくなったようだ。

 なので、ゴンの思考の散らばりを抑えてとっかかりをまずソラは与える。

 

「まずは一つずつ決めていこう。最初は具体的じゃなくていいんだよ。攻撃主体か防御主体かとか、そこら辺から始めていきなさい」

「それらなら俺は攻撃主体がいいな」

「なら、自分の系統と念能力関係なく自分が得意とする戦闘手段が何かを思い出して、それをどう“念”に絡めるか、能力として昇華させるかを考えたらいい」

「こいつは強化系なんだからさ、もう普通に自分の身体能力を強化させて向上させる能力ってだけでも結構十分だよな?」

 

 ソラから与えられたとっかかりとキルアのアドバイスで、ゴンが望む能力のビジョンが多少は具体的になってきたが、そこから先がどうしたらいいかわからなくなってゴンの思考はまたショートし始める。

 キルアの言う通り、下手に具体的な能力を定めるよりは自分の身体能力を強化して向上させるだけの方が、攻撃力だけではなく防御力も上がるし、戦闘以外でも普通に役に立って応用はいくらでも効きそうなので理想的だが、その「身体能力強化・向上」は“纏”や“練”と何が違うのかがゴンにはわからなかった。

 

 結果としては何も変わらないので、ゴンはある意味ではとっくの昔に答えにたどり着いている。

 だが、今現在の“練”で「お前ら程度の念では死ぬだけ」と言われてしまったゴンにとってその答えは、10日の審査に合格は絶望的だという宣言他ならない。

 今以上にゴンの身体能力を強化させて向上させるには、オーラの総量そのものを増やさないと無理なのだが、それは一朝一夕でできるものではない。地道な“纏”と“練”を続けることでオーラは精製量と総量のキャパシティを増やしていくものなのだから、短期間で底上げするならそれこそクラピカと同じくらい重い誓約が必要だ。

 

 だがそれは、ゴンの身体能力全般を底上げするという場合。

 一部のみ、攻撃力のみを特化させるのならばそれこそ誓約と制約など必要なく、基本の四大行の応用で十分だということをソラは知っている。

 身体の一部にオーラを全て集めて増幅する“硬”を使えば、ゴンなら系統も合わさって凄まじい威力になって十分実戦に使えるものになるとわかっていながら、ソラは何も言わない。

 

 念能力は心そのものだからこそ、本人の自信や思い入れが重要だ。

 ソラが“硬”の存在を教えてやれば、この考えるのは苦手だが実践すれば覚えが良すぎる彼ならすぐさまマスターするだろうが、それだと「ソラから教えてもらった技」という認識となって自分の必殺技だとは思えない。

 強化系の能力として基本の技を「借り物」という認識してしまえば、それをさらに応用した技を編み出しても根本が頼りなくて何かの拍子に破綻する可能性があるからこそ、ソラはゴンが自分の力で辿りついて編み出すことで心の底から自信を持って「自分の必殺技」と認識できるようにこれ以上口を挟まないことにして、代わりにキルアの方に話を向ける。

 

「ところで、キルア自身はどうなの? なにかもうビジョンはあるの?」

「とっくにあるっつーの。だからこうやってゴンの能力開発に付き合ってんだよ」

「ホント? どんなの!?」

 

 考えが煮詰まって来たのもあって、ゴンは一旦自分の能力についての思考を放棄して、キルアの能力に身を乗り出して食いついた。

 が、キルアはゴンを驚かせたいからか「ヒミツ」と言って話してはくれなかった。

 

 だがソラが「私にも?」と小首を傾げて尋ねれば、キルアはそっぽ向いて「……まだ試してねーから上手くいく保証もねーし、お前からルールの決め方とか聞く前に思いついた能力だから……」と言い訳しつつも、「……まぁ、アドバイスが欲しいから一回見てみろ」と結局許可を出す。どう見ても、長い言い訳は能力そのものを見せたくない、知られたくないのではなく、まだ思いつきの段階なので上手くいかなくてかっこ悪い所は見せたくなかったから、その言い訳でしかなかったのだろう。

 

 そんないつもの素直さが全くないのにわかりやすい可愛さに、ソラは笑って和みながら「わかったよ。じゃあ、さっそく見せてよ」と言って急かす。

 キルアの「かっこ悪い所は見せたくない」と不安は杞憂だ。この女、キルアがどんな能力にするか全くわかっていないのに、成功するとしか思っていない。

 キルアの能力の感想は「凄いね!」というキルアが一番望んでいるものを、リップサービスではなく本心からそれだけしか準備していない。

 

 そのことにキルアの方もなんとなく気付いて、嬉しいやらプレッシャーがかかるやら恥ずかしいやらで、顔の赤みが増すのを誤魔化すようにソラの催促は「はいはい」と流しながら、ゴンの方に発破をかける。

 

「ゴン。そういうわけだから、俺は今日から必殺技習得に向けて特訓するぜ。

 ま、お前はゆっくりどんな能力が良いか考えろよ。もしかしたら俺だけ10日、合格しちまうかもな」

 

 好奇心が旺盛すぎて集中するまでが長いゴンはこうして脅しておかないと横道にすぐ逸れるので、キルアは上手いこと親友を操縦して修行に集中させる。

 ゴンはキルアの真意にこそは気付いているだろうが、それでも冷たい言い草に不満そうに唸ってから助けを求めるようにソラに視線を向けるが、ソラはにっこり笑って「君は私が1から100まで教えないと何もできない子供なの?」と言われてしまう。

 

 こちらもキルアと同じ真意であることをわかっているが、その発言がツェズゲラの言葉と嘲笑するような目を思い出したのか、「一人で出来るよ!!」とゴンの萎えかけていたやる気が復活し、それを見た二人は安心したように笑いながら「頑張れ」と言って部屋から出て行った。

 

 そしてすぐ隣の部屋に移動して、キルアはソラに自分が考えた「能力」をまずは試してみる。

 その為に取り出したものを見て、ソラが目を丸くして「え?」とまず言った。

 

 キルアが取り出したのは、スタンガン。

 それもさすがにソラは見ただけはわからないが、それは護身用ではなく違法改造で洒落にならない威力を誇るもの。家から持ち出してきたものなのかどこかから買ってきたのか不明だが、キルアはソラが唖然としているのを見て少しだけいつも彼女に振り回されている溜飲が下がって笑いながら、スタンガンの電源を入れる。

 

 そしてそれを持ったまま、まずは深呼吸をして楽な体勢を取りそのまま“纏”を行う。

 体温と同じくらいの生ぬるい水の中にいる感覚の中、キルアはゆっくりぶら下げていた両手を上げて……

 

(自分のオーラと電気を融合するイメージ!!!)

 

 躊躇なく、スタンガンを自分の左腕に押し当てた。

 彼はそのまま数分間、スタンガンを自分に押し当て続ける。そしてある程度、自分の中に電力が「溜まった」と思えたところでスタンガンを腕から離して電源も切る。

 

(次は……溜めた電力を一気に放電するイメージで念を練る!!)

 

 そして今度は、全身からオーラを発しながら先ほどまでの電力を、痛みを思い出す。

 自分自身を電池、腕を、指先を電気コードだとイメージしながらキルアが指先をそっと合わせ、ゆっくりと離した時……。

 

 パリっと一瞬だが間違いなく火花が散って、可視できるほどの電気がそこに通り、放電した。

 

「凄いじゃん、キルア! 本当に今初めてやってみたの!? 一発成功じゃん!!」

 

 黙ってキルアの唐突過ぎる自傷としか思えない行動からずっと見守ってくれていたソラが、それを見て無邪気にはしゃいだ声を上げた。

 初めからこの女はキルアが失敗するとは思っていなかったが、それでも成功をして当然だとも思わず、自分のことのように喜ぶのを見て、キルアは胸の内に満たされるものを感じながらも、やはり素直さは出せずに「あんだけ充電して一瞬で消えたけどな」と、自分の能力がまだまだ至らない自虐をする。

 

 そんなキルアに、ソラは笑って言った。

 

「キルア」

 

 ソラの笑顔が、無邪気にはしゃぐ自分よりも幼い子供のようなものから、彼女の実年齢よりはるかに大人びたものに変わったことにキルアが気付くと同時に、ソラはキルアを抱き寄せた。

 

「は?」

 

 キルアはソラの相変わらずな斜め上な行動に、現状が理解出来ずそれだけ言ってフリーズしてしまう。

 それをいいことに、ソラはキルアを抱きしめ続ける。

 

 キルアが自分で言ったように、もうスタンガンで充電したつもりの電力は先ほどの一瞬で使い果たしたが、初めて行った能力開発なのだから想定外の事態がいくらでも起こり得た。

 普通の電気ではなくオーラが電気の性質に変化したものだから、まだキルアの体に残留して帯電している可能性があった。そしてそれは静電気というレベルではなく、キルアの持つスタンガンより強力な電力かもしれないという危険性くらいソラはわかっているだろうに、それでもソラは何の前置きも躊躇もなくキルアを抱きしめて、彼の頭を撫でながらもう一度言った。

 

「君は凄いね」

「!? そ、それはもういいっつーの! いいから離せ!!」

 

 自分が何をされているかをようやく理解したキルアが、真っ赤な顔でわめきながら暴れてソラの抱擁から逃れようとするが、その抱擁がふりほどかれる前にソラは言葉を続けた。

 

「君は凄い子だ。だからこそ、どうか忘れないで」

 

 柔らかで優しい声がソラの唇からキルアの耳朶に直接響く。

 キルアを肯定しながら、キルアの間違いをソラは抱きしめたまま指摘した。

 

「傷は耐えるものじゃない。痛みは訴えるものなんだよ」

 

 その言葉に、キルアの抵抗は止む。

 何を言っているのかわからなかった。何故、今こんな体勢でそんなことを言い出したのか全く訳が訳がわからない。

 

 だけど、その言葉だけはソラの懇願がなくても忘れたくないと思えた。

 

「君は傷も痛みも自分の力に変えることが出来た凄い子だ。だからこそ、忘れないで。

 たとえいつかそうやって君の力になったとしても、傷は間違いなく傷だったんだ。だから……どうか君は、『痛い』と叫ぶ声を忘れて失うことだけはしないで」

 

 キルアの念の系統は変化系。オーラの性質を変えることに特化した系統であり、オーラそのものを攻撃力のある「電気」という性質に変化させるのは、ゴンにアドバイスした「身体能力を強化させて向上させる」のと同じくらい、単純だからこそ応用が効く良い能力だと思えた。

「電気」を能力にしようと思ったのは、その程度の理由。

 

 ……そしてそんな発想が生まれたのは、あまりにその「電気」は身近だったから。

 

 オーラを電気に変化させるだけなら、実はキルアはスタンガンを自分に押し当てるなんて真似しなくていい。

 彼にとって「電気」のイメージなど、しろと言われたらすぐさま思い浮かべられるほど慣れ親しんだものだから、本来ならただイメージするだけでオーラの性質を電気に変えられたはず。

 

 なのに、スタンガンを使って「充電」をしたのは、よりそのイメージを鮮明にするためと「能力に使えるのは充電した分の電力だけ」という制限をルールに取り込んで、より能力の精度を向上させる為。

 

 そしてもう一つ、キルアの能力精度を向上させているブーストがある。

 それはソラの宝石剣と同じ。

 傷みを受けた分だけ、彼の能力は向上する。

 

 毒物と違って電気による攻撃や拷問は、本当に無効化されている訳ではない。これはただ単に我慢できる閾値が人間の域を超えるほど上げているだけであり、痛みは決して消えてなどいない。

 我慢できてしまうことこそが、酷い痛みなのだ。

 自分の家は、自分の育った環境は、自分は普通ではないと思い知らせる痛みを対価にキルアは能力を得た。

 

 そのことに本人が一番、何も気づかぬまま。

 

 ソラはそのことに気付いていた。気付きながら、彼自身を一番傷つける残酷な能力に気付きながら、それでも「凄い」と肯定する。

 彼の家も、育った環境も、キルアを否定しない。全てを肯定しながら、たった一つの間違いを教えてやる。

 

 耐えることが出来ても、それは確かに「傷」であり、「痛み」であるということだけは忘れないでと願う。

 

 その願いに、キルアは答える。

 抵抗をやめた手から持っていたスタンガンが落ち、空っぽの両手を自分を包み込む人の背に回して、キルアもソラを抱きしめて言った。

 

「…………痛いよ」

「うん」

 

 訴えた。

 

「痛い。我慢できるけど、すっげー痛い。めちゃくちゃ痛い。痛い……痛い……なぁ、ソラ。いたいんだ。すげぇいたいんだよ」

「うん」

 

 痛みを、ずっと痛かったことをソラに抱き着いて口にする。訴える。

 痛みながら、それでも手離さない傷を、この傷があったからからこそ得たものをキルアはその腕の中に収めて、ここにあることを確かめながら訴えた。

 

「痛いけど……だから絶対に俺は離さない。これが、俺の能力(ちから)だ。

 …………俺はここにいたいから、だから誰になんて言われても、どんな目で見られても、それでも絶対に……離さない」

 

 普通なんかじゃない家、異常な環境、そこで生まれ育った自分だからこそ、出逢い、そして今があることを知っているから、キルアは自分が生きてきた証である痛みを痛みだと自覚したまま手離さないと誓う。

 そんなキルアの誓いに、ソラはもう一度彼の頭を褒めるように撫でて言った。

 

「君は凄い子だ」

 

 彼の痛み(すべて)を、讃えた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「自分の身体能力を強化して向上させる」という能力に定めたのは良いが、それをどうやって10日までに今以上に、ツェズゲラの審査に合格する程にまで完成させら良いのか、どんな制約を付けたらいいのか全く浮かばず、ゴンはショート寸前な頭を抱え込んで唸っては、ツェズゲラの言葉を思い出して腹を立てるを繰り返す。

 

『お前ら程度の念では死ぬだけ……』

(絶対、見返してやる)

 

 その一心でもう一度、ゴンはありったけのオーラを増幅させるのを見て彼は相変わらず何事にも全力投球でまっすぐなゴンに笑みをこぼして声を掛ける。

 

「熱心だな、ゴン」

「! クラピカ!! もういいの?」

 

 いつからいたのか、丸二日眠っていたはずなのに未だ隈の濃い顔をしたクラピカが部屋にやって来たことに気付き、ゴンは駆け寄ってまずは体の調子について尋ねる。

 

「ああ、熱は下がった。心配かけたな。もう大丈夫だ」

「うん……」

 

 クラピカの言葉にゴンは頷きつつも、彼の顔を注視する。

 隈は濃くて顔色も悪い。どこをどう取っても大丈夫そうには見えない。

 しかしそれは、肉体面の話。

 

 顔色は悪いが、その顔に浮かべる表情自体は穏やかなものだった。

 精神面においては少なくとも今の所……ソラが傍にいる間は心配がないとゴンは確信して、彼は笑う。

 

「なら良かったけど、まだ無理しちゃダメだよ。無理したらソラが泣いて怒るよ」

「わかっている。というか、あいつはどうして自分は無理しかしないくせにそれを棚上げして、他人には過保護なんだ……。っと、話が逸れたな。ゴン、ソラを知らないか?」

「ソラなら隣の部屋でキルアの修業を見てると思うよ」

「そうか。いるのなら話はあとでいいか……」

 

 クラピカと雑談を交わしながら、ゴンはどうしたらソラとクラピカをしばらくこの廃ビルに留まらせておけるかを考える。

 いや、別にこの廃ビルに留まらなくてもいい。ヨークシンからすぐに二人とも離れるのなら、ゴン個人としては寂しいがそちらの方がベストだろう。

 未だに旅団が滞在していることを二人が知ってしまうよりは、ずっといい。

 

 おそらくクラピカの旅団に対する復讐心こそは消えてないが、優先順位は相当低くなっている。だけど、ソラを守る為に、奪われない為にも旅団は放っておくことは出来ない。

 ソラがクラピカの為に旅団を敵に回すように、クラピカもまだここに旅団が滞在していることを知ればソラを脅かす危険を少しでも減らすために、体にも心にも鞭を打って奴らを殲滅するために行動するのがわかりきっていたからこそ、せめて体が快調するまで旅団のことは何も知らないままでいて欲しいと望み、ゴンはただでさえ自分の能力開発でショートしかけていた頭にまた過負荷を与えて働かせる。

 

 そんな風に、善意とはいえ仲間に全力で足止めされそうになっていることにクラピカは気付かぬまま、先ほどまでのゴンにしては珍しい怒気を思い出し、それと関係していると見当づけてサザンピースのオークションについて尋ねる。

 

「ところでサザンピースのオークションはどうだったんだ? レオリオによると、高価なゲームを狙っているそうじゃないか」

「あ、うん」

 

 考えても自分よりはるかに頭が回って敏いクラピカに気付かれず、自然に足止め出来る方法など簡単に思いつくわけもなく、ひとまずゴンはそれを横に置き、オークションでのことと自分の悩みを話して相談に乗ってもらうことにした。

 

 しかし、正直言ってクラピカの能力開発の方法と修行方法は何の参考にもならなかった。

 

 ゴンの系統とクラピカの系統は真逆に近く、クラピカは最初からかなり具体的にどのような能力がいいかを決めて作り上げたというのもあって、未だに理想の能力のビジョンもあやふやなゴンにはどこの部分を取っても参考のしようがない。

 

 そもそも、クラピカの修行方法は今のゴンやキルア達よりも時間があったとはいえ、旅団と渡り合えるだけの力を短期間で得る為にしたものなので、おそらくは彼の行った修行は彼と同じ具現化系能力者でもあまり参考にしたくないレベルで無茶な方法だ。ゴンは何重もの意味で、聞く相手を間違えている。

 

 だが彼との話することで「クラピカとソラをここに足止めする」という目的に対しては名案が浮かび、ゴンは身を乗り出してそれを提案した。

 

「クラピカ、俺の師匠になってよ!!」

「え?」

「一人で修業しててもななかなか上達しないんだ。キルアは秘密の特訓中だし。ソラは多分、最低限のことしか教えてくれないし。

 クラピカなら的確に悪いとことか指摘してくれそうだもん!」

 

 クラピカの修行法の話は参考にならなかったが、別にゴンがクラピカを自分の“念”の師匠になって欲しいという言葉と理由に嘘はない。

 自分で言った通り、一人だと自分がどこに向かっているのかすらわからなくなるし、良くも悪くも歯に衣を着せない言い方をするクラピカならば自分が横道にそれた時、厳しいが的確に指導して軌道修正してくれるとゴンは期待した。

 

 けれどやはり本音は、少なくともオーックションが行われている間、この廃ビル内にクラピカだけではなくソラも足止めできるのではないかいう期待が一番大きい。

 クラピカの足止めが出来れば、自動的にソラもここに留まるとゴンは信じて疑わなかったし、実際に疑う余地などない。

 

「残念だがそれは出来ない」

 

 だがゴンの期待は、クラピカが即答で却下した。

 

「私のボスが既にオークションを終えて帰郷しているからね。立場上、私もそろそろ戻らなければならないんだ」

「! ってことはヨークシンを出発するの?」

「ああ、明日にもな。それを伝えるために、ソラを探していたんだ」

 

 しかし結果としては、ゴンが望んだ方向に事態が転がった。

 

旅団(クモ)のことは確かに心残りだが、あれから既に二日経った今ではもう奴らはここにはいまい。

 まずは仲間の眼……。それが先決だからな」

 

 どうやらクラピカはまさか旅団が未だにヨークシンに、それも自分が団長に掛けた念を外せる除念師探しではなく呑気にオークションに参加しているとは思ってはいないらしい。当たり前だ。

 しかもオークション会場にいたのは、何故かよりにもよってゴンを殺してソラを人質にして団長を取り戻そうとしていた強硬派だったフィンクスとフェイタンだったので、何故いる!? 除念師探しはどうした!? と遭遇したゴンとキルアが素で気になったくらいだ。

 

 そしてその素で気になった疑問を、ゴンは相変わらずの毒気が抜けるほどの素直さで尋ねたら向こうは案外あっさり教えてくれた。

 除念師探しではなくオークションをしに来ていた理由は、どうやら人質交換が済んだ後に戻ってきたパクノダによって再び見せられた記憶、団長と「彼女」とのやり取りで本当に予言通り、団長の優位の揺らぎ具合……つまりは女神である彼女しか見えていない状態を見て、「ちょっとしばらく俺たちがいなくて苦労しろって思った」かららしい。

 

 もちろんその言葉が本当だとは限らないのは百も承知。

 あのオークション会場に除念師のヒントがあったからもしれないのはわかっているが、「苦労しろ」と言っていたフィンクスの遠い眼とフェイタンのやさぐれっぷりを見る限り、その感想自体は本音だろう。

 あれだけ自分たちを引っ掻き回した女神に陶酔している団長が、割と素でムカついたようだ。

 

 とにかく旅団側はしばらくクラピカに復讐しに来ることも、ソラの奥底で眠り続ける女神を狙いに来ることもなく、そしてクラピカは旅団がまだヨークシンにいることを知らぬままこの地を発ってくれるのなら、ゴンからしたら文句など付けようもない。

 

 だから、文句は付けずただ訊いた。

 

「ソラはどうするの? 一緒に行くの?」

 

 ゴンの問いの意味がクラピカにはよくわからず、小首を傾げて「いいや。彼女は私の仕事には関係ないからな」と答える。

 が、ゴンは真っ直ぐにクラピカを見据えて言い返す。

 

「クラピカのことでソラが関係しないことなんかあるはずないじゃん」

 

 ゴンのはっきりとした物言いに、クラピカの血色が悪かった顔に淡い朱が差す。

 

「……あのバカ本人が言いそうなことを言わないでくれ。

 それに、私の雇い主は人体コレクターだ。コンタクトで眼の色を隠せば何とでもなる私はともかく、ソラは眼のことを抜いても、ああいう輩には垂涎の逸品にしか見えないような容姿の持ち主だ。一緒にいたら彼女の方が危ない」

 

 ゴンから眼を逸らし、クラピカはソラとは一緒にはいられない理由を話す。

 二日前のゴンの言葉で、ソラと一緒に仲間の眼を探したいと思えたのは本当だが、彼女を人体コレクターの前に晒す危険性を忘れた訳ではないので、ただ一緒にいたいという理由だけで彼女に協力を仰ぐわけにはいかない。

 

 センリツの話で、少しは雇い主が自分のしていたことの罪深さを知って改心する期待をしているが、淡い期待でしかない現時点で、彼女をネオンに会わせる真似などクラピカには出来ない。

 彼女と一緒に仲間の眼を探そうと思っているが、それは今ではない。せめて少しでも、彼女が自分の傍にいても危険ではないようにもっと力を、念能力も社会的な力も必要だと思っているから、今はソラから離れることをクラピカは選び取る。

 

「そんなことない」

 

 だけど、ゴンはクラピカのその選択を否定する。

 はっきりと言い切って、さらにそのままゴンは言葉を続ける。

 本当はソラにも言いたかったが、キルアの前で言うとまた面倒な事になると思って言えなかったことを言った。

 

「俺、クラピカとソラはずっと一緒にいるべきだと思う。二人は絶対に離れちゃダメだ」

「ちょっと待て、ゴン! お前はソラから、もしくはレオリオやセンリツから何を聞いた!?

 言っておくが違うぞ! あれは言っていることそのままで、裏の意味も深い意味もない! 違うからな! まだそういう意味で言った訳じゃないからな!!」

 

 しかしゴンの発言に、クラピカは顔を真っ赤にさせてゴンの両肩を掴んで問い詰めつつ「まだ違う」と言い張った。

 その勢いに押されてゴンが少し戸惑いつつ、「え? 何のこと?」と訊き返せばクラピカは自分の早とちり……、聞く気がなくても聞こえてしまっていたセンリツと「心配したからだ」と言い張り盗み聞きをしていたレオリオ曰く、「ネガティブに見せかけたポジティブすぎるプロポーズ」のことを聞いたからこその発言ではないことに気付き、彼は余計に顔を赤くして俯き、ゴンから手を離して「……何でもない」と答える。

 

 明らかに何かあったしかなり気になる所だが、訊いてもこの様子だと答えてはくれないこともわかっていたので、ゴンはその疑問の解消を諦めて話を元に戻す。

 

「えっと……、クラピカがどうしてそう思ったのか、何を言ったのかは知らないけど、俺は前々からそう思ってて、今回の旅団のことで絶対に二人はずっと一緒にいるべきだって思ったんだ。

 だってクラピカとソラって、お互いが大好きすぎて自分より相手を優先するからこそ無理も無茶もするから。けど、お互いが大好きだからこそ相手の『やめて』って言葉には素直に聞くし、目の前にいたら無茶して悲しませるのが嫌だから、あんまり無茶しなくなるからさ。

 

 二人は互いが無理と無茶する理由だけど、でも無理と無茶を止めるブレーキでもあるから、クラピカとソラは一緒にいた方がいいよ」

 

 ゴンの言葉にクラピカの顔の赤みが少し納まって、彼はきょとんとした顔でしばしゴンを見返し、それから笑った。穏やかに笑って、言い返す。

 

「確かに私たちはお互いがいた方が無理も無茶も多少は抑えられるだろうが、完全には無理だ。

 むしろ今回……旅団の11番と戦った時は相乗効果で、ソラが今までで一番の無茶をしたぞ?」

「あ……」

 

 二人が少しでも無理や無茶をせず、お互いが自分の事を大事にしてくれる方法を探して考えてゴンが得た答えは、クラピカはまだしもソラの方がどこでもノーブレーキ過ぎてどうしようもなかったことを指摘され、ゴンは押し黙る。

 

 しかしクラピカは、自分の無力感を思い知らされた一件で思い出したというのに、浮かべる笑みは穏やかなままだ。

 穏やかに彼は笑いながら、クラピカは語る。

 ソラの無茶を。

 ソラは何を願って、望んで、何が欲しくて掴みたくてあんなにも無茶をしたのかを。

 彼女の悪あがきを思い出す。

 

「私がいても、あの奇跡の大馬鹿者は無茶するさ。

 私の手が誰の血にも汚れないことを願って。……私が自分以外の『死』を背負わぬ為に、あの大馬鹿者はその為に自分の手を汚してでも足掻き抜くだろうな」

 

 もうその願いは叶わない。

 それでも、ソラは足掻き抜くだろう。

 

 クラピカの手が汚れるのは、ただ一人の血である為に。

 クラピカ自身が自分の意思で、自分の権利を放棄しても受け持つと決めた「死」以外を背負わぬように。

 

 彼女は足掻き続けるから。足掻き抜くから。

 

 だから、クラピカも足掻こうと思った。

 

「ゴン。悪いがあの馬鹿はもちろん、私もきっとお前たちを悲しませるような無理も無茶もこれからするだろう。

 だけど私は、その無理も無茶も復讐や償いの為ではなく、生き抜くために……幸福に生きるという目的の為にするつもりだ。……その為に、私は足掻き抜こうと思う」

 

 生き抜く為に、生き抜いて最果てに還りついてもさらにその先を信じて足掻こうと誓ったから、その為に、足掻き抜く原動力にするために幸福になりたいから、だからこその無理と無茶をすると言えば、ゴンはやけに大人びた笑みで「仕方ないなぁ」と言いたげに笑った。

 

「そっか……。そうだね。……うん、生きるために、足掻くためなら無理も無茶もするのは仕方ないか。…………約束だもんね」

「あぁ。そうだ。私は……人間(私たち)はいつか必ず至る終わりの時まで、大団円(グランドフィナーレ)まで足掻き抜かなければならないからな」

 

 それが、何も出来ず諦め続けることしか出来ない、それでもあまりにもたくさんの望みを叶えてくれた女神が願ったことだから。

 だからクラピカは、足掻き抜く。

 

 そしてゴンも、足掻く。

 自分の夢を、会いたい人に会うという夢の為に、ゴールが見えない今をあらゆる障害から足掻いて進み続ける。

 その足掻きが決して無駄にならぬよう、クラピカは思考の袋小路に陥っているゴンに助け舟を出して話を締めくくる。

 

「だからゴンも、私なんかよりもちゃんとした師がいるだろう? その人に相談した方がいい」

「あ」

 

 クラピカの指摘で、むしろ今まで何故その人のことを忘れていたのかがわからないほど、今のゴンの悩みの相談相手にふさわしい相手が思い浮かぶ。

 ようやくゴンは、目的のスタートラインに立つことが出来た。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 9月7日。

 空港のロビーでレオリオは新聞の一面を飾る、大富豪バッテラのG.I買占めの記事を読みながら、「金はあるとこにはあんだな」と、もはや嫉妬する気も失せて呟いた。

 

「けどこんだけのことするってことは、やっぱりただのゲームじゃないってことだよね。

 あーあ。私も出来ることならしたかったなぁ」

 

 後ろから覗き込んで同じ記事を読んでいたソラがレオリオの独り言に応じて、自分で断ったG.I参加を惜しむ。ソラは普通にゲームの類が好きだから、ゴンやキルアのことが心配というのを抜いても、本気で自分がゲームの中に入った方が危険だから参加できないというのが悔しいらしい。

 ついでに言うと、惜しむ理由はまだあった。

 

「何で私はせっかく再会した皆とまたすぐ離れて、あいつの依頼なんかを受けなくちゃいけないんだよ……。あぁ、もう。私、絶対にいつかあいつに淑女のフォークリフトを決めてやるんだ」

「依頼人に何しでかす気だよおめーはよ。っていうか、そこまでお前がいやがるのに断れない依頼人って何者だよ?」

 

 ソラがG.Iに参加できない理由、そして参加できないことを惜しむ一番の理由は、9月のはじめ、つまりはヨークシンで旅団と関わった時から自分のホームコードに入ってきた除念の依頼。

 ソラとしてはこの上なくお断りしたい相手からの依頼なのだが、依頼内容がこのお人好しには無視できない類の依頼だった為、心の底から嫌がりながらも仕事を受けるという返事をようやく今日したらしい。

 

 幸か不幸か、依頼内容はソラが無視できない程の被害がすでに出ている現在進行形の厄介事なのだが、一体いつその厄介事が起こるのか、そのタイミングは不明かつ頻度も多くないので、依頼主も「なるべく早く、でも今すぐにとは言わない」と言っているのに甘え、とりあえずゴンとキルアのG.Iプレイヤー審査まではここにいるつもりだが、彼らの合否がわかればすぐ、依頼主の元に詳しい話を聞きに行くつもりだとソラは語っていた。

 

 しかしソラは、自分がしないと他の誰も手の出しようがないタイプだと察しているから、仕事そのものを嫌だと思うことは既に放棄しているが、依頼主と会うのは本気で嫌らしく、レオリオに割と真剣に泣きついている。

 ソラはイルミ相手でも自分を殺しにかかるから苦手意識が強いのであって、嫌悪はほとんどしていない。嫌悪しているのはレオリオが知る限りヒソカくらいである為、そのヒソカに対してと同じくらいソラが関わるのを嫌がる相手が普通に気になって尋ねたのだが、残念ながらレオリオはその答えを聞く機会を逃す。

 

「ソラ。レオリオ」

 

 ソラが答えようとしたタイミングでちょうど、搭乗手続きを終えたクラピカとセンリツが二人に声を掛けた。

 

「それではそろそろ行くよ」

「ホントにいいのか? 二人には内緒で」

「ゴンが絶対に残念がるよ」

「ああ。二人は今、1分1秒を惜しんで修行をしてるからな。また会おうと伝えてくれ」

 

 昨日言っていたように、雇い主の元に戻ることにした二人を見送りに来たレオリオとソラは、ゴンとキルアには何も言わずに出発してしまうことを少し責めるが、クラピカは1分1秒の時間を惜しんで力を欲した経験があるからこそ、その時間を奪うことは出来ないと言い張る。

 

 それを仕方ないと言わんばかりの苦笑を浮かべて、ソラは無言で両手を広げる。

 そしてその手を、クラピカは掴んで防ぐ。

 

「……何する?」

「こっちのセリフだ。何する気だこの大馬鹿者」

「別れのハグに決まってんだろ! このまま別れたら、私はクラピカ不足で死にはしないがちょっと寝つきが悪くなる!!」

「その程度なら我慢しろ!!」

 

 ソラのハグを羞恥で拒否して防ぐクラピカに、ソラはオーラを使って無理やり掴まれた腕を振り払おうと試み、クラピカも苦手な強化系のオーラを駆使して防ぎ続けるという、オーラの無駄使いすぎる攻防をしばし繰り広げられた。

 ちなみに、クラピカは「このバカを何とかしてくれ」という目でレオリオとセンリツを見たのだが、二人はもはやこのバカップルじゃないと言い張るバカップルのやり取りに関わるのは、所謂馬に蹴られて死ぬバカと同じだとわかっているので、彼の助けを求める目を無視して、二人で勝手に何やら話している。

 

 そして実際に、センリツとレオリオの出した結論が正しい。

 しばし無駄にレベルの高い攻防を続けていたが、ソラが急に力を抜いて悲しげな眼でクラピカを見つめてこう言えば、クラピカに勝ち目などあるはずがなかった。

 

「……どうしても、ダメ?」

「………………30秒だけなら」

 

 元々、人前だからこそ湧き上がる羞恥で拒否しているだけであり、ハグをされたくない訳もしたくない訳もない。

 その証拠に、譲歩しているようでクラピカが許したハグを続ける時間は結構長い。

 

 クラピカの言葉にソラは子供のように顔を輝かせて、さっそく飛びつくように抱き着いた。

 抱き着いて、彼の体温を、彼の全てを忘れぬように自分の全身に刻み込みながら言った。

 

「クラピカ。君に言いたいことやして欲しいこと、しないで欲しいこともいっぱいあるけど、たぶんそれは全部君も私に言いたいことだろうし、そして私はそれを実行してやれないだろうから言わない。

 

 だから、これだけは忘れないで」

 

 抱き着いたままクラピカの耳に唇を寄せて、告げる。

 彼の耳にぶら下がる、空青色の宝石に込め、託した願いを。

 

「クラピカがどうか幸せになりますように。

 ……私がそう願っていることだけは、君の幸福を望む人がいるってことだけは、どうか何があっても忘れないで」

 

 ただでさえ自分で許可を出したとはいえ、人前で抱き着かれているだけでもクラピカの羞恥心はいっぱいいっぱいだというのに、耳に意図していないのだろうが、吐息を吹きかけられながら言われたセリフに、クラピカはその耳まで朱色に染め上げる。

 

 それでも、彼は数秒だけだがソラの背に両手を回してソラを抱きしめて答えた。

 

「忘れられる訳がないだろう」

 

 ソラの願いを、どれほど傷ついても、自分の何を捨てても、神様に縋るほど望み続ける願いを絶対に忘れないと誓う。

 たとえ自分自身を一番許せなくとも、ただ一人生き残った自分には幸福になる資格などないという思いが消えなくても、それでもクラピカは確かに幸せになりたいから、幸福に生きるという夢を諦められないから、ソラと一緒に生きてゆきたいから。

 だから、自分のそんな望みを肯定してくれるソラの願いを手離しはしないと答えた。

 

 きっちり30秒で離れたソラは、クラピカの答えに満足そうに、安心したように、そして何よりも幸福そうに笑う。

 笑って、何の脈絡もないが常日頃から思っている、そうじゃない時など一瞬たりとも有り得ないことを満面の笑顔のまま言い放つ。

 

「大好きだよ。クラピカ」

 

 そんなこと言われなくても知っていることなのに、何度言われても慣れることはないシンプルな一撃必殺のセリフに、クラピカはさらに顔を赤くして言葉に詰まる。

 それを見てセンリツはもはや慣れてしまった苦笑、レオリオの方はもう嫉妬するのもバカらしいのか、「またやってるよ」と言わんばかりの呆れ顔をしていた。そして周りの無関係な人たちは、「バカップルだ……。爆発しろ」と端的に視線で言っていた。

 

 が、クラピカは羞恥のあまりに周囲の視線や空気など、気に掛ける余裕なんてなかった。

 それが幸か不幸かは、たぶんクラピカ本人が一番わからない。

 

 言わなくてはいけないのに、いつだって後悔するとわかっていても張ってしまう意地の所為で言えなかったことを言えたのは幸いかもしれないが、後になればいつもと別の意味合いで大きな後悔になることを、彼は衆目で言ってしまう。

 

「…………わ…………私も……だ」

「ん?」

 

 クラピカの蚊が鳴くような声に、ソラは小首を傾げた。

 傾げただけで訊き返してもいない。だからなかったことにも出来たけど、クラピカは真っ赤な顔を隠すように俯きながら、それでも言った。

 

 

 

「…………私だって……お前が好きだ」

 

 

 

 自覚なんてしたくない。認めたくなどない。認めてしまえば、思い知らされる。

 自分が抱く「好き」と、彼女が自分に向ける「好き」は、あまりに大きく違うこと。お互いがその違いを認識してしまえば、もう今までのように笑って語り合うことすら出来なくなるかもしれないのだから、だから何も知らないままでいたかった。

 

 けれど、その逃避が一番傷つけたくない、一番傷ついて欲しくない人が大切に守り続けているものを、「夢」を一番残酷な形で完膚なきまでに踏みにじられるかもしれないと忠告されたから。

 そして、可能性を示唆されたから。

 

 夢は現実によって儚く破れるものだと、女神は語った。

 けれど、その現実を歪めるほどの愛に勝てるのは、甘く淡く儚い、だからこそ幸福で手離しがたく、守り抜く為に足掻く恋だと言っていたから。

 

 愛されているからこそ、この淡い()が叶うかもしれないから。

 

 だから、一歩踏み出した。

 おそらくは彼女が認識している愛情の名前に、自分の想いも同じものだと言い聞かせて押し殺していた方が、確実に彼女の傍にいれただろう。

 けれど、その名では傍にいれても隣に立つことは出来ない。

 

 ゴンに真っ赤な顔で熱弁して、否定した。

「まだ違う」と。

 早とちりの勘違いでテンパって、バカ正直に答えていたことに後になって羞恥で悶絶しながらも自覚させられた。

「まだ」ということは、いつかはちゃんとそういう意味合いで言いたいと思っていたから。

 

 だから、まずは一歩。

 たぶん言わなくても、自分と同じく向こうも種類はともかくそう思われていることくらい知っている。

 

 けど、こんな場所でこんな状況でこんなことを言える性格ではないことを、本人と同じくらい彼女も知っているはずだから。

 この「クラピカが言う訳がない」というシチュエーションに意外性を感じて、そこから意識してほしかった。

 

 クラピカの「好き」という言葉の意味を。

 彼が踏み出して、「そこにいたい」と思った場所がどこであるかを。

 

 そんな一心で告げた、今クラピカが出来る限界一杯いっぱいの告白に対するソラの返答……というか反応は…………

 

「…………クラピカが!! デレた!!??」

 

 歪みなくいつも通りだった。

 歪みなく鈍感で斜め上だった。しかしこの言われたセリフやその対象が自分であるということよりも、「デレた」という事実の方に衝撃を受けて注目してしまうのは、ソラの所為というよりクラピカの意地張り癖の弊害と言っていいだろう。

 つまりは、今までの意地(ツン)も「可愛げがないとこが可愛い」と思われて許されてきたツケが回って来ただけの、自業自得である。

 

 そのことをなんとなく自分でもわかっているのだが、しかし当然ここまで覚悟を決めて踏み出した一歩が不発というか誤爆、自分の言いたいことがまったく伝わっていないのを思い知らされる反応を取られたら、八つ当たりであるという自覚していても普通にキレる。

 

「ねぇ! 今の見た!? 二人とも見た!? クラピカが! クラピカがデレたよ!! しかも人前で!!

 何なの!? 今日は槍でも降ってくるの!? カルナさんが鎧捨てて、槍をブン投げるの!? 因果逆転して心臓が刺し穿たれるの!? 世界を繋ぐ楔が抜けるの!?」

「お前今すぐに黙れ! 騒ぐな!! そんなに意外ならば望み通り今すぐに撤回してやろうか、この奇跡の大馬鹿者がっっ!!」

 

 特に、言われた本人も多分からかう意図や悪気も一切なくパニクっているだけなのだろうが、クラピカの羞恥をさらに煽るようなことを喚きたてていたらなおのこと。

 

 人前で喧嘩というよりクラピカが一方的にキレているだけのやり取りを騒がしく続ける二人を、レオリオとセンリツは二人からさりげなく離れて、遠巻きで眺めて終わるのを待つ。止める気は、互いにサラサラないようだ。

 しかし他人のフリをしつつも、センリツはまた苦笑してレオリオに言った。

 

「……あなたがクラピカを心配する理由がよくわかるわ。だけど、同時に彼は大丈夫だってよくわかる。

 …………大丈夫よ。確かにクラピカは無鉄砲で考え無しで無茶をするし、私はもちろん、ソラちゃんでも止められないことはきっと多々あるわ。

 でも、彼はもう贖罪の為に自分を殺さない。自分を殺す権利を、ソラちゃんの為に使ったから、使うって決めたから、だからこそ彼はその『罪』を背負ってでも生きてゆきたかった道を歩いて行くために……足掻き抜いて生きていくわ」

 

 レオリオに「クラピカのブレーキ役になってくれ」という頼みに対する答えを告げれば、レオリオも「心配して損した」と言わんばかりのしかめっ面で頭を掻いて愚痴る。

 

「ホントあいつら、とっとと爆発してくんねーかな?」

 

 センリツの苦笑も、レオリオのしかめっ面も、どちらもそうとしか言いようがない顔なのにそう思えない程、安堵して嬉しそうに見える顔だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「え!? クラピカ帰っちゃったの!?」

 

 翌日、クラピカがいないことに気付いたゴンが呑気に尋ねて既に雇い主の所に帰還したことを知れば、彼はレオリオとソラが予想していた通りの反応を見せる。

 

「また会えるし、今は修行がんばれよってよ」

「えーーーー、良かったのにそんな……」

 

 しばしクラピカが何も言わずに帰ってしまったことに対する不満と、気を遣わせてしまったことに対する後悔でゴンは凹んでいたが、ゼパイルが戻ってきたこと、そして彼が約束通り質に入れたハンター(ライセンス)を買い戻すために不足していた2千万を稼いできたということで、単純な彼はすぐに気分が切り替わった。

 

「ゼパイルさん、凄い人なんだねー」

 

 ゼパイルから返却された通帳にきっちり1の後に8つの0が並んでいるのを見て、ゴンだけではなくキルアやレオリオまで尊敬の視線をゼパイルに送る。

 しかしゼパイルは3人からの賞賛の言葉を、「元手に8千万もあれば大したことじゃない」と謙遜するのと、最初の契約通り儲けの半分はもらっているという言葉で、彼の評価はさらに上がってゆく。

 

 そんな3人からの尊敬の眼差しがさすがに恥ずかしくなったのか、ゼパイルは最後まで「大したことじゃない」といいながら廃ビルから出て行った。

 

「俺もこの道のプロだからな。ま、助けがいる時はいつでも呼んでくれ。

 じゃあな。楽しかったぜ」

「ありがとー!!」

 

 ゴン達からの礼の言葉で見送られ、彼は悠々と歩いてゆきゴン達の声が聞こえなくなって、さらにあの廃ビル内に入れば絶対に見えないであろう角に曲がった瞬間、ゼパイルは肺の中の空気をすべて吐き出しそうなほど深い溜息を吐いて、肩を盛大に落とす。

 

「はぁ~~~~~……。

 俺って何でこう見栄っ張りなんだろう」

 

 ゴン達と別れた時は颯爽という言葉が似合うような歩き方だったのが一転して、トボトボという擬音が良く似合う弱々しい足取りになってゼパイルは自分の張った見栄をさっそく後悔する。

 

 この男、実は1500万ジェニーしか稼げていなかった。

 5日でそれだけ稼げたのなら十分凄いし、プレイヤー審査までまだ猶予もある、最悪はレオリオのライセンスを質入れしてゴンのライセンスを買い戻せば、また更に金を稼ぐ猶予は出来たが、ゼパイルは自分で言い出した「8日までに1億に戻してやるよ」という言葉に自分で縛られて、結果この男は闇金融で内蔵を担保に500万借りて体裁を整えた。

 

 彼の謙遜はただの見栄であり、さっさと出て行ったのもゼパイルの言葉を信じてキラキラとした眼差しを向けてくる3人にいたたまれなくなっただけ。

 

 儲けがないどころか別にゼパイルはゴン達に恩義がある訳でもない、むしろ仕事外のこと、クラピカのことで迷惑を掛けられたくらいなのに、借金を背負ってまで契約を遂行したゼパイルを雇ったゴン達の目は確かなのだが、この場合は信頼が出来るとかお人好しが過ぎるというより、本人の言う通り見栄っ張りのバカである。

 

 そんな見栄っ張りは、とりあえずタバコで背負ってしまった借金の不安を誤魔化しながら、これからのことを考える。

 贋作を今更またやる気はない、骨董品を転がすにしても元手の金がいるのでいっそあと100万くらい余分に借りとけば……とダメな後悔をしつつ、そもそも質に入れたら一括で1億をぽんと貸してくれるハンター(ライセンス)のすさまじさに気付く。

 

 そこに気付いたのに、それだけの価値があるライセンスを得られる者がどれほど人間として規格外なのかには、ゼパイルは気付かなかった。

 幸運なことにゼパイルは、旅団を追っていたゴン達と関わっていながら、戦闘には何も関わっていない、話を聞いただけというのもあって、ゴン達のことを「本当に子供か、こいつら?」と思いつつも彼の常識の範囲内に彼らの実力を収めていた。

 

 念能力という非常識な力の存在を教えられても、非常識だからこそ想像がほとんどつかなかったのと、それはライセンスを取ってから修行で得る力だと知らされていた所為で、試験合格に必要な力ではないと思っていた。

 その考え自体は正しいのだが、彼は自分と主に関わったプロハンターは子供のゴンと、言っちゃ悪いが今期の合格者の中で一番実力が低いレオリオなので、根本的な「ハンター試験に合格する為の最低限な実力」というものを大きく見誤っていた。

 

 なので彼は軽はずみにもほどがある結論を出してしまう。

 

「……そうだ。俺もプロハンターになって、(ライセンス)売ればいーんだよ! そしたらオメー、借金どころか一気に利子生活だろ!?」

「いや、無理だからやめとけ」

 

 しかし彼の皮算用は、即座にぶった切られた。

 

 容赦ない「無理」という断言に腹立つよりも、自分のすぐ後ろで唐突に言われたこと、そしてその声に聞き覚えがあったことで、ゼパイルは盛大に驚いて飛び上がって煙草を地面に落としてから振り返る。

 自分の背後で、呆れたような目をして立っている女……ソラを見てゼパイルは思い出す。

 そういえば、こいつもハンターだった。ハンターというよりゴーストバスターとしか言いようがない話しか聞いてないが、間違いなくプロのハンターであることを思い出し、自分の考えがいかに甘かったかも思い知った。

 

「……たぶん4千万を稼いだのは嘘、下手したらゴン達の為に借金を背負ったかもしれないと心配したら……もしかして私の心配的中?」

 

 ゼパイルが「何でここにいる?」と尋ねる前に、ソラは呆れ続行の目で小首を傾げて訊いてくる。この質問で、だいたいゼパイルの訊きたいことは答えていた。

 思い返せば、彼女だけゼパイルに対して凄いだの何だのは言っていなかったことも思い出しつつ、周りを見てソラ一人であることを確認してホッとする。

 

 どうやら彼女は、さすがに5日ほどで4千万どころか2千万稼ぐのも無理がある、特にクラピカの容体を自分たちと一緒に看てくれたり、ゴンとキルアに付き合ってオークションに行ってくれたりしたのだから、時間もさほどなかっただろうと思いつつ、稼げてなかったとしたら彼が何故正直に話さなかったのか、その意地と見栄は誰に向けられたものなのかも理解していたらしく、一人で来てくれたらしい。

 

 ゼパイルの意地と見栄は尊重してくれているが、その意地と見栄自体に理解は出来ないのか、ゼパイルは彼女の気遣いに感謝しつつ、呆れを盛大に表す目にいたたまれなさを感じながら「……そうです」と答えた。

 

「正直でよろしい。ゼパイル。手を出して」

 

 おそらくは自分より年下なのに、やけに貫禄たっぷりに言われたのでゼパイルは困惑しつつも素直に右手を出すと、ソラは彼の掌に乗せた。

 大粒で煌びやかな宝石を5個ほど、無造作に乗せて笑って言い放つ。

 

「あげるよ。ゴン達だけじゃなく、クラピカも世話になったお礼。

 君の報酬分には足りないかもしれないけど借金分くらいにはなると思うから、軽はずみでハンター試験受けようなんてやめてね」

 

 飴玉でも渡すような気軽さで、イミテーションでも価値の低い人工物でもない、純度が高くて研磨も素晴らしい天然ものの宝石を渡されて、思わずゼパイルは顎が外れそうなほどあんぐり口を開けて言葉を失う。

 目利き業者なだけあって、自分に渡されたそれらは借金した500万を軽く超えるほどの価値があるものだとわかる分、言葉は何も浮かばない。

 

「じゃ、バイバイ。またゴン達に頼られた時はよろしくね。でも、次も見栄張りすぎて自爆なんかすんなよ」

「!? ちょっ、ま、待て!!」

 

 しかしソラはゼパイルが言葉を探して見つけ出すのを待つ気はなく、やはりあげたのは飴玉程度といった気軽さでそのまま立ち去ろうとしたので、何とゼパイルが言葉を絞り出して引き留める。

 引き止められたソラは、「ん? 何? あ、大丈夫だよ。それにはまだ魔力(オーラ)充填してないから、暴発の心配もない普通の宝石だよ」と訳の分からないことを言い出すので、またゼパイルが言葉を見失いそうになったが、何とか見つけて捕まえた言葉をぶつけることが出来た。

 

「……お前、何でわざわざ俺にこんなの渡すんだ?

 礼にしてはどう考えてももらいすぎなんだし、こんなことしてお前になんか得があんのか?」

「あなたがそれを言う?」

 

 貰ったものを、ただラッキーだと思って受け取ることは出来なかった。それが出来たら、そもそもゼパイルは借金など負っていなかっただろう。

 明らか年下の女性から、例え彼女自身にとって痛くもかゆくもない金額だったとしても、そこまでの金額を受け取れるほどのことなどしていないから、ゼパイルは受け取れない。

 

 本音では黙って受け取りたいだろうに、まだ意地を張るゼパイルをソラはおかしげに見て笑い、即答で言い返す。

 そして笑ったまま、言葉を続けた。

 

「まぁ、意地張る気持ちはわかるよ。私とあなたは似たもの同士だから。私も、同じような立場だとおんなじ意地と見栄張って、同じように受け取らない。もらったものに見合う程のことをしたと思ってないから、受け取れないよね。

 だからさ、こう考えてよ。今もらった対価の余剰分は、これからすることの対価だって」

「? これから?」

 

 ソラの言葉の一部をオウム返ししながら、まずゼパイルは自分の勘違いに気付く。

 ソラは自分の意地や見栄を理解できていないから、呆れ果てた目で見ていると思っていたが、彼女はむしろゼパイルの意地も見栄もこの上なく理解していた。

 ソラの目に浮かんでいた呆れは、ゼパイルに対してというよりゼパイルを通して見た自分自身に対してのものだったのだろうと理解したが、そんな自分と似た彼女が納得して受け取れる理屈である「これからすることの対価」という意味がわからなかった。

 

「そう。これは、私からの依頼……というかお願いだな。あなたの仕事には関係のないことだから、依頼じゃなくてゼパイル個人に対する頼みごとだ」

 

 その意味不明な理屈に補足を加えられ、今度こそゼパイルは納得して少し困ったように笑う。

 

「なるほど。それなら確かに受け取れるが、あんたからのお願いってなんか怖いな。

 で? 何を頼む気だ?」

 

 ゼパイルに「仕事」としての依頼ではないという答えに、意外性はなかった。

 気軽にこんな宝石を渡せるくらいなので、実はゼパイルが期限内に2千万を稼げなくてもたぶん彼女が補填していたんだろうと考えたら、この女は確実に金に困っていないし、宝石に関してもゼパイルに頼まずとも目利きは自分で出来るか、他に信用できる業者でも知っているはずと思えた。

 だからその言葉は、ゼパイルが意地を張らず、施されたという思いから卑屈にならず、罪悪感も抱かずにこの宝石を受け取らせる方便だと解釈する。

 

 結局は施されているのに変わりはないが、それだけ自分のことを心配してくれている相手の善意を無碍にする程、ゼパイルは無意味な意地は張らず、せめて自分自身が納得できるようにその頼みごとを精一杯全うしようと思って軽口を叩きつつ訊いたのだが、ソラはその問いに蒼玉の眼を丸くして答えた。

 

「え? もう言ったよ」

「は? 何を?」

 

 ソラの即答に、ゼパイルも目を丸くして即座に言い返す。

 そしてソラはやはりきょとんとしたまま、再び答えた。

 

「ハンター試験を受けないで」

 

 その答えに、ゼパイルは目玉がぽろっと零れ落ちそうなくらいさらに丸くする。

 そして言った本人は、何をそんなに驚いているのかわからないと言いたげな顔をして小首を傾げていた。

 

「……そこまで心配されるほど、俺はハンターの素質がゼロなのか」

 

 数秒間の沈黙の中、ゼパイルは金を払ってまで受験を止めるほど自分がハンターになるのは絶望的だと解釈し、苦笑する。

 元々、レオリオと違って本物の金目当てという軽率すぎる志望動機なので、そこまで思われてもショックはない。ないが、さすがに自分より年下の女性に端的に言えば「弱い」と断言された事実には軽く凹む。

 

「いや。そこまでは思ってない。ゼパイルはまだ若いから伸びしろならあるし、来年受験して一発合格は無理でも、普通に鍛えて運を味方に出来たら、数年内に合格できると思うよ」

 

 が、凹むゼパイルにソラはやはり即答で彼の解釈を否定して余計に戸惑わせた。

 

「は? じゃあ、何でお前は大金払ってまで俺の受験を止めるんだよ?」

 

 自分の無謀さを諌めているのではないとしたら、ソラの頼みごとの意味が全くわからなくなるので、いぶかしげに彼はまた問うと、ソラは再び微笑んで答えた。

 

 今度はおかしげではない。

 慈しむように、惜しむように、ゼパイルよりも年上に見えるほど穏やかで深みのある笑みを浮かべて、彼女は答えた。

 

「あなたは、普通の人でいて欲しいんだ」

 

 何かを諦めたような目で、けど諦観とは全く別物の強い光を灯した眼でソラは語る。

 

「あなたは普通の人だけど、ゴン達や私に関わってくれたから。だからあなたはこのまま、『普通の人』であって欲しいんだ」

 

 ソラの答えに、そのまなざしに一瞬何を言えばいいのかわからなくなりながらも、ゼパイルは煙草を取り出して火をつけながら答える。

 

「……ははっ。普通ねぇ……。確かにあんたからしたら俺は普通かもしれねーけど、結構俺はきな臭いこと、非合法すれすれを渡り歩いてる奴だぜ」

 

 ソラの言葉を否定する。ソラの望みは、残念ながら初めから叶えられる位置に自分はいないと答える。

 誠意のつもりで答え、否定するが、ソラはゼパイルの答えを否定する。

 

「『普通』であることに、犯罪者かそうでないかなんて実はあんまり関係ないよ。法律や規則なんてものは、なければ秩序が保てない、集団で生きるにはないと不便だからあるだけで、それを守れる人が普通で守れないのは普通じゃないなんて理屈にはならない。

 無一文かつ今何か食べないと飢えて死ぬという状況で、盗むという発想が全く生まれない人を普通と言える? 言えないだろ? この場合なら実行に移しても移さなくても普通の範囲内で、そういう発想が全く浮かばなかった人は、普通なんかじゃなくて『聖人』とでも言うべき『異端』だ。善と悪という両義を兼ね揃えて初めて『普通』と言えるんだ。

 ……あなたは、『普通』の人だ。

 

 だから、あなたは今のあなたのまま、ゴンやキルアと関わって欲しいんだ。

 ハンターなんていう『普通』じゃない奴の代名詞みたいな職に就かないで、そしてあなたの『普通』を歪めかねない奴らとあんまり関わらないで欲しいんだよ。

 キルアは家庭環境の所為で『普通』が本当に何にもわかってないし、ゴンはゴンであの子、悪はもちろん実は善も希薄っていう異質中の異質だから、あなたみたいな人がいないと二人とも、知らない間に大切なものを取りこぼして、人間社会からドロップアウトしちゃう」

 

 自分は褒められた人間ではない。誰かを導ける人間ではないというゼパイルの言葉を否定して、ソラは願う。

 ゴンとキルアを、普通ではないあの二人がどうか少しでも自分の抱える異質、異端な部分で傷ついて、傷つけられることがないように導いてくれと。

 

 彼らが取りこぼすであろう「普通」を、拾い上げて教えてやってほしいと希った。

 

 その願いに、ゼパイルは渡された宝石を握りしめて答えた。

 

「あぁ」とだけ、答える。

 

「あんたがしてやれよ」とは言えなかった。

 自分で言ってしまったから。

 ソラが「普通」でないことを、ゼパイルは既に何気なく言ってしまったから。今更撤回しても白々しくて寒々しい結果にしかならないことはわかっているから、言えなかった。

 

 自分に向けられるソラの視線が、ゴン達が自分に向けていた尊敬や憧れに似ていながら、それが色褪せたような、古びたようなものに思えたから。

 昔に見た夢を、あまりにも遠くから見ているような寂しげな眼だったから。

 

 取りこぼして、ドロップアウトして、もう二度と戻れない道を懐かしむように笑うから、ゼパイルはただ「あぁ」とその願いを受け取るしかなかった。

 

「ありがとう」

 

 自分にはもう二度と手に入らない何かを、自分ではない誰かが失わないように守ると告げたゼパイルにソラは嬉しそうに笑って、「じゃあ、今度こそバイバイ」と一度手を振ってから、踵を返して歩き出す。

 その凛然と歩きながらも、小さく見える背中にゼパイルが叫んだ。

 

 おそらく、彼女が見ている世界も生きている世界も、自分の世界とは全くの別物。

 自分の価値観や考え方、思ったことがどれだけ彼女の世界で通用するかなんてわからない。

 それでも、……彼女は「こちら」を羨むように見ていたから。

 

 だから、言った。

 

「おい! 俺はあんたをよく知らねーけど、それでもあんたのことはめちゃくちゃいい奴だと思ってるからな!

 普通に犯罪者かそうじゃないかが関係ないんなら、良い奴か悪い奴かに普通かそうじゃないかってのも関係ない!

 あんたは普通じゃなくても良い奴だから……、だから俺だけじゃなくて他の奴も一緒にいたいって思ってることを忘れて、見落として、取りこぼすなよ!!」

 

 普通のゼパイルが言えることは、それだけだった。

 そして、その言葉に返せる言葉は、ソラにとっても一つだけ。

 

「忘れる訳ないじゃん!」

 

 振り返った笑顔は、普通とは言えぬくらい美しく晴れ晴れしかった。

「普通」でなくてもちゃんと幸福であることを証明する笑みに、ゼパイルは安堵した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「さて。あとの心配事はゴンとキルアのプレイヤー審査か。

 まぁ、あの調子だと師匠クラスの実力者ばっかりじゃない限り、伸びしろも含めて合格するか」

 

 ゼパイルに対するフォローを終えて帰路につきながら、ソラは残された一つの懸念を口にする。

 だが自分で言った通り二人とも素質ありすぎなので、ほとんどその心配はする必要などない杞憂だと思っている。

 なので安心したいところだが、心配事がなくなるとソラはここに留まる理由がなくなってしまうので、ただひたすら憂鬱な気分になって思わずゼパイルと同じように、深い溜息を吐いてトボトボ歩いた。

 

「あーぁ。皆ひと段落が付いたらいい感じで再スタート決めてるのに、どうして私だけこんなテンションが下がる仕事しなきゃいけないんだろう? 何? 何かの罰? 何に対する罰よ? 心当たりが多すぎるんだけど」

 

 罰というより女神直々に願いを叶えてもらったその対価だと、ソラ以外の今回の騒動に関わった人間のほとんどが思いそうだが、当の本人がそんなこと知る由もないので、割と自業自得を自覚していることを呟きながら、嫌なのだが実はあのメールは何かの間違いではないかと無意味すぎる悪あがきと期待で、ケータイを開いてみた。

 

 もちろん、間違いでも存在自体が勘違いでも夢幻でもなく、ソラのケータイには今すぐに消去したい依頼のメールがある。

 

「う~ん……。師匠にクラピカや旅団の事を知られたら絶対に止められるから、師匠を着拒してたツケが見事に回って来てるなぁ」

 

 ビスケに何も話していないが、勘の良いビスケならソラが9月にヨークシンで何をやらかすつもりか見破り、そして実力行使で止められる可能性が高かったので、ソラは7月ごろからビスケとの連絡を絶っていた。

 その為、ビスケが今どこで何をしているのかはソラも知らないし、今更連絡を入れても間違いなく「知るか。自業自得。あんたが全部一人でやれ」と言われるのは目に見えているので、もちろん連絡はしない。

 

 言いつつも、本当にヤバいのならばビスケは自分を助けに駆けつける。

 ソラの“念”の師は魔法の師とは違って、素直ではないがちゃんと弟子を大切にしてくれているのをよく知っているから、だからソラは自分の行動が仇になったと思いつつ、口先だけ惜しんで後悔はない。

 

 ビスケがソラを大事にしているように、ソラにとってもビスケは大切だから、余計な心配事に関わらせたくなかった。

 だから、その「余計な心配事」である依頼主、メールの差出人に宣戦布告するように呟く。

 

「……っていうか、何で私のホームコードとメアド知ってんだよ? プライバシー侵害とストーカーで訴えんぞ、変態副会長が」

 

 仕事の依頼と一緒に、「食事でもどうですか(^^)」という誘い、まさしく公私混同なメールを送りつけたパリストン=ヒルという名前を、ソラは実に不愉快そうに睨み付けた。






3万字近かったので分けようかと思ったけど、第二部プロローグ的な話を2話にしてもなぁ……と思い、結局1話に詰め込みました。
ゼパイルさんのくだりはなくても良かったんだけど、めちゃくちゃいい人なのに来年のハンター試験の結果が可哀想すぎたので、救済しておきました。

にしても……原作のゼパイルさんはキルアの所為で不合格になったというべきか、キルアのおかげでダメージ最少ですんだと思うべきなのかマジで複雑。まぁ、闇金で内蔵担保の借金があるから、どちらにしろ原作のゼパイルさんは可哀想。
っていうか、あの人マジで今はどうしてんだろう? 内蔵抜かれてないよね?


次回から犬神偏に近いオリジナル回の予定ですが、ちょっと仕事が立て込んできているので更新が遅れると思います。
週一は無理でも半月に1回くらいの割合で更新できるように頑張りますので、お付き合いしていただけらありがたいです。

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