死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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今回も型月キャラがスターシステムで登場します。
というかこの中編はスターシステムキャラの方が多いかも。


102:子と丑と……猫?

 スワルダニシティーのハンター協会本部応接室で、腹が立つ胡散くさい笑顔でパリストンはまず言った。

 

「お久しぶりですね、ソラさん! いやぁ、初めて会った時から美人でしたけどさらに美人になってませんか? 髪が伸びたからでしょうか? ところで、目の色が以前と変わってません?」

「うん、私が美人なのは生まれた時から知ってる。これだけは遺伝子の運び屋である両親に感謝してるわー。

 目の色ならいつも通り、『こいつうぜー』って色しか今も昔もあんたには向けてないし、これからもそうだから気の所為じゃないかなー?」

 

 ゴン達が無事にG.Iのプレイヤー審査に合格し、さっそくG.Iをプレイしに行ってから数日後、ソラは割と直前までブッチしようかと悩んでいたが、この「好きな相手は苛めたくなる構ってちゃん」を最悪の方向にこじらせ続けている男は、ソラの人の好さをよく理解している依頼を出してきたので、ソラは渋々仕事の詳しい打合せにやって来て、わかっていたがやはりこの依頼を早速後悔する。

 

 前回と違って矢面に立ってくれるビスケがいないので、ソラはいつもの調子で相手の言ってることをふざけた言動で受け流しているのだが、相手もソラの「お前には興味ない」と言ってる後半はまるっと無視して「そうですかー。良いご両親ですねー」と噛み合ってるようで全く噛み合ってない返答をする。

 

 天然同士のピントがずれた会話ではなく、どちらも意図的に自分にとって都合の悪い所を無視しているので、空気は緩いのに変な緊張感が漂っている部屋に耐えられず、お茶を運んできた事務員は噛み気味に「失礼しましゅ!」と言って応接室から出て行った。

 そんな事務員が可哀想な元凶の一人は呑気に運ばれてきたコーヒーをまず啜るが、元凶その二は警戒しているというより飲み物が必要なほど相手と長く話したくもないのか、「で? 仕事の詳しい資料は?」と前置きなしに手を出し、さっさとよこせと要求した。

 

 しかしその要求は、腹が立つくらいに爽やかな笑顔で跳ね除けられる。

 

「すみません。実は僕もホームコードやメールで送ったくらいにしかわかってないんです」

「……はぁ?」

 

 とんでもない不備を全く悪びれもせずに言われ、ソラは片眉を不愉快そうに跳ね上げる。

 そして無意味どころかヒソカと同じく言えば言うだけ喜びそうで嫌なのだが、だからといって言いたいことを我慢してもストレスは溜まるだけなので、ソラは嫌味というか率直な感想をそのまま口にした。

 

「私に依頼を出してから2週間近く経ってもまだ、あれだけの情報しか仕入れてないってこと? 仕事は受けるけど、今はこっちも手が離せないから時間が出来るまでそっちで情報収集は頼むって私、メールで返信しましたけど? 怠慢にもほどがあるだろ」

 

 正直言ってこの破滅こそがお望みであろうトラブルメイカーが集めた情報など信用できるものではないが、この男は嘘をついて人を騙すのではなく、曖昧な事実と断片的な本当をうまく組み合わせて相手が自主的に勘違いするように促す最も性質の悪い詐欺師だからこそ、もたらす情報自体に虚偽はない。

 初めから警戒していれば避けられる地雷なので、情報ゼロよりはマシだろうと思って頼んでおいたのだが、この男はとことん自分の立場や建前よりも、自分の趣味やしたいことが最優先らしい。

 しかし、パリストンという男はヒソカと同じくらい自分本位な人間だが、本当に自分のことしか見ていない近視眼的な所があるヒソカと違って、視野が広くて遠くまで見渡している分、もっと性質が悪かった。

 

「いやぁ、僕も忙しいながらソラさんの為ならと思って頑張ったんですけど、どうしてもアタランテさんが『直接会って話さないと信用できない』と言って、何にも教えてくれなかったんですよ」

「? アタランテ? 誰?」

 

 今更になって白々しい申し訳なさを見せながらも、パリストンは自分の怠慢や非を認めずサラッと誰かに責任を押し付ける。

 自分の立場や建前など本心ではどうでもいいのだろうが、それでも本当に性質が悪いことにこの男は、自分の言動でそれらが傷ついて不利になるのは避ける予防線をしっかり引いている。

 

 しかもこの予防線は保身ではなく、その予防線もぶっ壊される破滅こそを向こうは待ち望んでいる、どのように動いても一番得をするのはパリストンだというのが最悪だ。

 そのことを以前たった一度しか会ってないのによくわかっているソラは、うんざりしてきたので思考の矛先をパリストンから彼が名を挙げた「アタランテ」という人物に向ける、

 

 おそらくその人物……名前からして女性こそが真の依頼人なのだろう。

 その人物は事件を調査することで自分の手には負えない、除念師が必要な事態だと気付いたから協会に登録されている除念師に助力を要請した結果、パリストンの琴線に色々と触れてお鉢がソラに回ってきたと言ったところだと、ソラは尋ねつつも見当づけた。

 

 そこまで見当づいたら、アタランテが自分で集めたであろう事件の情報や概要などを、効率を考えて仲介者であるパリストンに渡さず「直接会って話して信用できると判断しない限り渡さない」と言い出しているのは、間違いなくその人物はソラやジンやカイトと同じく反パリストン派の人間だからであることにも見当づく。

 つまりは、パリストンからの紹介という時点でソラはパリストン派の人間と思われて、警戒されていることまで察したソラの気分は、ただでさえどん底だったのが地べたを抉って沈み込む勢いでさらに落ちた。

 

「アタランテさんは、僕と同じ十二支んの一人であるミザイストムさんのお弟子さんで、そろそろ一ツ星(シングル)認定を期待されている優秀なクライムハンターですよ。

 優秀ですけど、ちょっとまじめすぎて融通が利かない所がある方なんですよねー。ソラさんに負けず劣らず、個性的な凄まじい美人なんですけど」

 

 凹むソラを見て、なんかさらに楽しそうで嬉しそうな空気をまき散らして語るパリストンに、ソラはもう会話しているだけで溜まっていく疲労感に耐えながら、その「アタランテ」というハンターはいつごろ来るのかを尋ねる。

 パリストンの性格を考えたら、「今日、ソラさんが来ると連絡を入れたばかりなので2,3日かかりますねー」というふざけた答えが返ってくる可能性もあったが、その場合はもう情報なら自分で集めるからと言って出て行くつもりしかなかった。

 

 幸いながら、そこまで嫌がらせをしたらもう二度と構ってもらえなくなることをパリストンも理解していたのか、「2時に約束をしてますから、もう少ししたら来るはずですよ」と腕時計で時間を確認しながら常識的な答えを返す。

 そして言葉通り、ソラもケータイで時間を確認してみたタイミングで応接室の扉が開く。

 

「副会長、ミザイストム様とアタランテ様がいらっしゃいました」

 

 茶を持って来て空気に耐えられずに逃げた事務員がパリストンに客人が誰かを告げて、そのままドアを閉まらないように押さえて二人を迎え入れる。

 

 入ってきたのは、牛モチーフの衣服を着た……というより本人自身が牛をコンセプトにしているとしか思えない格好の男と、凛とした気高さと研ぎ澄まされた野性味という矛盾が調和して同居している、ソラよりやや年上と思える美女。

 おそらく男の方が十二支んのミザイストムで、美女がその弟子のアタランテだろう。ついでに、ミザイストムは十二支んの中で丑にあたるはずだ。この格好で違っていたら、ある意味パリストンより何がしたいのかわからない。

 

 パリストンの方は入ってきたクライムハンター二人に、間違いなく好意的なのに酷く癇に障る笑みで「お久しぶりです、お二人とも」と声を掛けるが、同僚のミザイストムからは「あー、久しぶり久しぶり」という適当極まる棒読み、アタランテに至っては鼻を鳴らしてそのままそっぽ向かれてしまうという塩対応で返された。

 

 そしてソラの方はというと、入ってきた二人を見てまずは蒼玉の眼をまん丸く見開き、そしてその両目を拳で数回ごしごしとこすってからもう一度相手を……アタランテの方を凝視する。

 自分が凝視されていることに気付いたアタランテは、困惑と不愉快が入り混じった渋い顔で「何だその不躾な視線は。言いたいことがあるのなら言え」と、ソラに対してもしょっぱい対応をしてきた。

 

 塩対応に関しては予想していたので、ただでさえ自分のことに関して鷹揚はソラは気にした様子もなく、彼女が自分の目頭を抑えながらアタランテの言葉に対して返したのは、「……もう十分休んだつもりだったけど、私はまだ疲れてんのかなぁ?」だった。

 その返答と反応は、さすがにアタランテの方も予想外かつ不躾な視線より意味がわからないものだったので、彼女の表情から不愉快さは薄れたが困惑が増して「はぁ?」と首を傾げる。

 しかし、ソラの反応の意味がわからなかったのはアタランテ本人だけだった。

 

「耳に見えますよねぇ。あの髪型」

「なっ!?」

「あ、よかった髪型か! 髪型でいいんだよね! 髪型なのか、ガチの耳なのか、それとも私がヤバい幻覚見てんのかわかんなかったけど、少なくとも私以外も見えてるもんだよね、あれ!!」

 

 ソラが言わなかったことをダイレクトにパリストンが言い出し、アタランテはとっさに自分のシニョン……所謂お団子頭の変形というべきか、半球状ではなく器用に三角錐みたいな形に結っている髪を押さえて彼を睨み付けるが、ソラは珍しくというかおそらくは最初で最後、パリストンの言葉に安堵という反応を返していた。

 ソラからの反応と言葉で「汝は何を言っているのだ!?」とアタランテは、何が恥ずかしいのかよくわからない羞恥に駆られて顔を赤らめながら怒鳴るが、その肩を師であるミザイストムが叩いて非常に気まずそうだが彼は良い機会だと思っているのか、正直に言った。

 

「……アタランテ。お前にとっては特に他意も意味もないんだろうが、何というかその髪型は……俺達十二支んのキャラ付けのように……具体的に言えば自分を猫あたりに見せたいとしか思えない程、耳に見える。

 そしてなんというか……やたらと似合っているというか違和感がない所為か、初見は本当に耳が生えているように見えて、自分の目か頭がおかしいのかと不安に駆られるから……特にこだわりがないのならやめておいた方がいいと実は前から言いたかった」

「師よ! それは本当ですか!? というか、最初から言ってください!!」

 

 師から知らされた衝撃の事実に、アタランテはちょっと涙目になって訴えかける。

 そんな師弟のやり取りをアタランテ涙目の元凶は、「自覚無かったんか……」と呆れたように呟いてから、視線をパリストンに向けて言い放つ。

 

「で、あんたはいつまでいるの? もう帰っていいよ。ってか、還れ」

「うわー、ミザイさんもアタランテさんもしょっぱかったけど、ソラさんが一番ダイレクトに塩な対応しますね。というか、最後なんかニュアンス違いません? かえれの前に『土に』がつくニュアンスで言ってません?」

「そこまでわかってるんなら、マジで還れ」

 

 仕事の話が出来る相手が来たのならお前は用済みだと、ソラはオブラート代わりに塩分100%で言い放ったが、パリストンはやはりどんなに冷たくあしらわれても全く気にしないタフさを発揮して、ソラだけではなくソラの発言にちょっと驚いていたミザイストムとアタランテにも疲れきった溜息を吐かせた。

 

「……凄いな、君は。

 というか、俺も同感だ。実際にお前は事件に関してはほとんど知らないし、関係もないだろう。仲介の役目は終えたのだから、さっさと仕事に戻れ。いつも言ってる『忙しい』はどうした?」

 

 ミザイストムはソラに対して本気で感心を滲ませた感想を口にしてから、パリストンに嫌味も混ぜて退室を促すが、彼は初めから変わらぬ余裕綽々な様子で、いけしゃあしゃあ自分が面白そうと感じた舞台から降りることを拒否する。

 

「やだなぁ、ミザイさんとあろう人が引き合わせただけで終わり、その後のことは何があっても関係ないですよーという行いが仲介だって言うんですか?

 いつもなら仲介してソラさんを紹介してくれるはずのビスケットさんが多忙なのもあって僕が代わりに仲介役を担うのならば、なおさらに僕は話を最後まで聞いてないとビスケットさんに会わせる顔がなくなりますよ。

 あ、お二人のことを信用してない訳じゃないですよ。でも、いくら優秀と言えどやはり今年合格したばかりのルーキーであるソラさんとベテランお二人じゃ何かと話しにくいでしょうから、ここはやはり仲介者の僕が緩衝剤になるべきでしょう?」

「もうこいつをいない者として扱って、話を進めたい人ー」

 

 パリストンの確実に本心ではないとわかりきっているのに、上辺はこの上なく正論なので言い返せない、彼が退室を拒否する理由を捲し立てられて師弟は苦虫を噛み潰したような顔になっていたが、ソラの空気を完全にわざとぶち壊す発言がこの場合は清涼剤となり、二人はソラと一緒に即座に手を上げた。

 

「皆さん酷い!」という抗議の声は、いない者であるパリストン以外満場一致で賛成された意見に従って無視され、かなり今更だがクライムハンター二人はそれぞれソラとあいさつを交わす。

 

「だいぶ遅くなったしもうすでにわかっていると思うが、改めて名乗らせてもらおう。

 俺はミザイストム。見ての通り十二支んの丑だ。今日は弟子の付添いと……余計な口出しを防ぐために来たのだが、杞憂だったようだな」

「弟子のアタランテだ。助力を願い出た立場でありながら、情報を一切渡さない私の方が不躾かつ無礼であったな。謝罪させてほしい。誠に申し訳ない」

 

 二人は名乗りながら、それぞれ右手を差し出して握手を求めてきた。おそらくは挨拶としてではなく、パリストン相手に遠慮の一切ない言動で「同志!」と感じ取ったからこその握手だろう。

 もちろんソラも、力強くて堅い握手を交わしておいた。

 

 特にアタランテはパリストン派だと思っていたソラが、全くそんなことなかったことを知ったからか、ソラに対して向ける視線や空気がだいぶ柔らかくなっていた。

 さすがに一番されたくない部類の誤解で嫌われるのは嫌だったので、ソラはホッとしたように笑って握手と謝罪に応じながら、彼女も改めて自己紹介を始める。

 

「いや、こちらこそ最初に変な反応しちゃってごめんね。

 私の名前は、ソラ。よろしく。あと、期待を裏切ったら悪いから初めに言うけど、私は正確に言えば除念師じゃないから、詳しく仕事内容を知ったら実は役に立たないってわかるかも。その時はマジでごめん」

 

 しかし、ソラの返答でその柔らかくなっていたはずの眼差しと空気が、刃のように、獣のように鋭くなる。

 ソラとまだ握り合っている手に、力がこもる。同志と認めた相手に対する信頼や友好を現す力加減ではなく、相手を逃がさぬようにと思える力でアタランテはソラを捕えたまま、彼女は問う。

 

「……それは、初めから聞いている。……だが、改めて確認させてもらおう」

 

 そう前置きをして、気高い獣のような美女は問う。

 

「汝は“念”を外しているのでも無効化しているのでもなく、殺しているというのは……そしてそれは『死者の念』さえも例外ではないというのは、真か?」

「うん」

 

 アタランテが自分の手を掴む力加減が増したこととその意味合いに気付きながらも、ソラは平然とした顔で即答した。

 自分の返答によって、骨が軋みそうなほどさらに増した握力とぶつけられる怒りや敵意に気付きながらも、ソラはそれ以上は何も言わず真っ直ぐにただ相手を見返し続ける。

 

「アタランテ」

 

 ミザイストムが咎めるように諌めるように名を呼ぶと、弟子は「……すまない」と一言詫びてソラから手を離す。

 ソラの繊手にはくっきりと彼女と同じくらい細くて女性らしいアタランテの手形が残り、それを見てミザイストムは痛ましそうな顔になって、彼もソラに対して謝罪を口にする。

 

「すまない。大丈夫か?」

「気にしなくていいですよ」

 

 しかし当のソラ本人は手にできた痣を全く気に掛けた様子もなく、何事もなかったかのようにソファーに座り、二人も対面に座るように促す。

 そして席数と一応ソラはパリストンがアタランテたちに紹介しているという立場から、パリストンが自分の隣に来ることに心底嫌そうな顔をしつつ……、逆に言えば師に咎められても、未だに抑えきれも隠しきれてもいないアタランテの怒りや敵意に対しては何とも思わないまま話を続ける。

 

「で、さっそくですけど話してくれません?

『子供を殺した親が自殺する』という事件で、私に何をしてほしかったのか。そして誰を殺してほしくないのかを」

 

 アタランテが何に対して怒り、そして敵意を自分にぶつけているのかを既にほとんど察していながらも尋ねる。

 その対応が、悪意などないのだろうがパリストンのやり口と似ていた為、アタランテは余計に敵意を募らせてしまい、ミザイストムの方は仕方なそうに溜息を吐く。

 

 だが、怒りながらも彼女はまだソラに対して期待しているのか、無視されていても楽しそうなパリストンを一度睨みつつ大人しく自分も席に着いて話し始めた。

 

 * * *

 

「私がこれらは何らかの共通点を持つ、連続性のある事件だと気付いたきっかけはこの二人……いや、四人の死だ」

 

 言いながら彼女は、自分が集めまとめた資料が入っているであろう分厚い封筒から、4枚の写真を取り出して机に並べて見せる。

 写真は7歳前後の男児の写真が2枚。もう2枚は大人の写真だが、一枚はまだ20代半ばであろう水商売風のやや化粧が濃い女性、もう一枚はガタイは良いが優しげな眼をした40代後半程の男性の写真で、アタランテはその4枚の写真をそれぞれ大人と子供の二人一組になるようにして並べて、説明を続ける。

 

「この二組はそれぞれ親子だが、面識や共通の友人・知人は調べた限り一切ない。

 共通点はお互いに子供はいるが伴侶がいない点くらいだが、この母子の方は初めから子の父親は誰かわかっていない。父子の方は……事件の数か月前に妻に先立たれている。このように、細かいところは何もかも違う。

 ……なのに、どちらもグラムガスランドという町で我が子を殺し、そして異常な方法で自殺している」

 

 アタランテのまずは色々な前提の説明を聞き、ソラは腕を組んで片眉をいぶかしげに尋ねた。

 

「異常な自殺? っていうか、親の方の死は自殺で間違いないの?

 細かい所は違ってもそれだけ共通点があるんなら、もっと表立って事件性を疑わない?」

「……自殺に関しては、順を追って説明する。

 事件性というか関係性を疑われなかったのは、子供を殺したのも自殺したのも、母子の方は3ヶ月ほど前だが、父子の方はもう1年半ほど前のことなのだ。期間が空きすぎているし、それに自殺方法はどちらも相当異常だが一見して共通点は見当たらないから、私がこの二つの事件が関連していると気付けたのは奇跡に近い。

 

 それと同じ町で子供を殺したのも、母子の方はその町の住人なのだから不自然な点はない。

 父子の方はたまたまそこに旅行でやって来て、発作的に我が子を殺した後に隣国まで逃亡し、子を殺してから三日後、逃亡先の隠れていた廃ビル内で自殺した。

 ……これだけ聞けば子供を殺したタイミングが明らかに不自然だが、彼の妻が亡くなったのは子供の悪気などなかった軽い悪戯が運悪く最悪の事態に転んだ事故らしく、妻を亡くしてからつい子供に辛く当たってしまったり、憎んでしまうと友人などに相談していたこともあって、やはり発作的な殺害がそこまで不自然ではないと思われ、期間が空いてるのもあり『同じ町で子供を殺害』という点においてもただの偶然だと私も初めは思っていた」

 

 ソラの疑問にアタランテは淡々と補足してから、彼女は自分がこの二つの子殺しと自殺の関連性に気付いた経緯を語る。

 父子の方の写真を、痛ましげな瞳で見つめながら。

 

「……この父親はアマチュアだが同業……クライムハンターで何度か仕事も一緒にした。私の知る限り、妻子を何よりも大事にしている良い夫であり良い父親で、ハンターとしての腕は正直言って大したことはなかったが、人として尊敬していた」

「へぇ、子供以外の人間はほぼ全部嫌い、その中でも特に男が嫌いのアタランテさんが珍しい」

 

 深く悔やむような目で写真を見下ろし、数秒の間を空けてからアタランテが父親の方に面識があったことを語れば、無視されているパリストンがニコニコ笑いながら茶々を入れてきた。

 反応したら負けだとわかっていても、その茶々が酷く癇に障ってアタランテは威嚇する猫のように睨み付けるが、パリストンはその威嚇を楽しそうに笑顔で受け止める。

 

 その笑みがまたアタランテの神経を全力で逆撫でし、思わず立ち上がりかけたが師に「アタランテ!」と叱責され、自分が最も嫌悪する人間の手の上で踊らされていたいたことに気付き、怒りで乱れた呼吸を何とか整えて座りなおす。

 そしてそのタイミングで、隣りにいるパリストンの無視を続行し続けているソラが口を開く。

 

「面識があって、しかも愛妻家であるけど子煩悩であることも知ってた人なら、我が子を殺したって聞いても信じられないよね。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ソラは父親の方とアタランテに面識があったことを語った時点で、その先を、アタランテが何を語りたかったのか、何をしたのかを既に察していた。

 だから彼女はわかっていることはスキップして、さっさと本題に入る。

 

「本当に子供を殺したのか、藁にもすがる気持ちでそれが冤罪であることを願って、冤罪ならば真犯人を見つけてやりたいくらいの気持ちで探していたのかな?

 そして、その父親が隠れていた廃ビルとやらを見つけたのもあなたなんだろう?

 

 ……アタランテ。あなたはそこで、何を見た?」

 

 蒼玉の瞳を真っ直ぐにアタランテに向けて、訊いた。

 訊きつつも、既にソラは察している。自分が何に特化した除念師であると認識されているかをわかっていれば、予測できない訳がない。

 わざわざ訊く必要など、本来はなかった。

 

 ただ、わからない点が一つあった。

 ソラは視線を一度テーブルに、そこに置かれたもう一組の写真、親子に向ける。

 こちらの親子はほとんど話題に上がらないので、アタランテと直接的な面識は母子ともにないのだろう。

 共通点はそこそこあるが細かい所が大きく違い、期間も大きく空いているのにアタランテはこの二人でこれは、奇妙な偶然ではなく連続性のある事件だと気付けた。

 

 その気付いたきっかけが、わからなかった。

 この二組の親子を繋ぐ、「異常な自殺方法」というのがソラにはまだわからない。

 

 その問いで、アタランテは怒りで上がった血が一気に下がる。

 面識などなかったのにニュースで知った母親の自殺方法から連想して思い出した、自分の目の前で起こった異常な死を語る。

 

「……私が廃ビルに踏み込んだとき、彼を見つけた時はまだ生きていた。彼は、死のうとしていた。自殺の真っただ中だった。

 

 …………彼は……………………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アタランテの答えに、ソラはもちろんニヤニヤ笑っていたパリストンも、予め聞いていたはずのミザイストムも軽く目を見開いて言葉を失う。

 

 10秒ほど沈黙が続き、ソラがポカンとした顔のまま言った。

 

「……それって可能なの?」

「理屈だけで語るのなら、可能らしいですよ。心臓が止まっても筋肉自体はしばらく生きてますから、反射反応がどうたらこうたらっていう説なら聞いたことがあります。

 まぁ、当たり前ですけど実際に出来るかどうかの実験は出来ませんから、いつまでたっても机上の空論ですけどねー。あと、普通の縊死や他者による絞殺なら、頸動脈を締め上げて気を失わせるというやり方が可能なのであまり苦しくないそうですけど、自分で首絞めなら気管を塞ぐやり方でしか無理ですから、言葉通り死ぬほど苦しい死に方になるそうですよ」

 

 アタランテが語った父親の自殺方法に、思わずソラが割と無粋な突っ込みを入れて、パリストンが無視されるとわかっていても親切心の皮を被った嫌がらせで補足を加える。

 二人の発言に対してアタランテは不愉快そうに眉根を歪めるが、パリストンはともかくソラの疑問は予め「異常」だと前置きしていても予想出来ぬほどの異常さだった為、現実逃避気味に尋ねた悪気ないものであるのはわかっているので、睨み付けるのはパリストンだけに留めて話を続けた。

 

「彼が死のうとしているのを見てもちろん私は止めようとしたのだが……、自殺はまだ想定内だったがあんな方法での自殺も、そしてその現場を目の当たりにするのも予想外すぎて、情けないが私はパニックに陥り、上手く“念”を使えず止めることは出来なかった……。

 

 が、いくらパニックに陥って能力行使は出来ずとも、“纏”くらいは維持できていた。本来なら能力者ではないアマチュアハンターを取り押さえることくらい可能だったが、出来なかった。

 ……彼は“念”がいつまでたっても使えなかったからこそアマチュアだったはずなのに、彼も何故かその時は“纏”……いやあれは“練”くらいのオーラを纏っていた。

 その所為で取り押さえようとしても弾かれて、そこでおかしいのは自殺の方法だけではないことに気付き、ひとまず“凝”をしてみたのだが……そこで見たもので私はまたパニックに陥り、そのまま彼を自殺を止めることが出来ず、結果として見殺してしまった。

 

 彼は自分の両手で自分の首を折らんばかりの力加減で絞め上げていたが……、“凝”で見てみればかろうじて子供くらいの大きさと形をしている白い靄……オーラの塊が、彼の手を使って彼の首を絞め上げていたのが見えたんだ。

 ……子供の死者の念らしきものが、彼を殺していた。

 

 ……そして、父親が息絶えると同時にそのオーラは霧のように散って消えた。だから、父親に殺された子供が恨みを晴らしたのだと思った。

 晴らして、それで終わったのだと思った。子が死して自分の手を復讐という形で汚してしまったのは痛ましいが、無関係の誰かが巻き添えになる訳でもなく終わったのならまだいい方だと思っていた。この一件はこれで完結する悲しい事件だと思っていた。

 

 ……だが、3ヵ月前に私はこの母子の死をニュースで知り……、もしかしたら何も終わってなどいないのではないかと思ったのだ」

 

 ようやく、ソラに助力を願う理由が語られる。

 そしてその理由と異常すぎる死に方を知ったソラは、ソファーの肘起きに頬杖をつき、やはり話をスキップして進める。

 

「……アタランテ。もしかしてあなたが気づき、そして調べて確証を得た『子供を殺した親が自殺する』の共通点って、()()()()()()()()()()をしてるってこと?」

 

 ソラのやや引き攣った乾いた笑み、期待できない否定を期待した問いに対してアタランテは何も答えず、ただ脇に置いていた分厚い封筒の中身を再び探る。

 そしてそこから取り出したリストをソラに差し出して、ようやく口を開いた。

 

「……私はそこのいない奴が先ほど口走ったように、人間嫌いだが子供は好きだ。彼らの笑顔と幸福は何よりも守るべき宝だと思っているから、子供が犠牲となった事件は嫌でも記憶に残ってしまう。だからこそ、母子の死で彼らの死を連想し、思い出して関連付けてしまった。

 

 ……彼は我が子を絞め殺し、そして自らの首を絞め上げて死んだ。

 この女の子供は、故意か事故かは不明だが頭から熱した油を被って死んだ。そしてその1週間後、母親は自ら高温の油を頭から被って死んだというニュースを知った。

 

 自らの手で自分の首を絞めるのと同じくらい、あまりにも自殺の方法として異常なものだ。自らの意思で行ったよりも、そのように殺された者が復讐でやらせたと考えた方が自然ではないか?

 そんな風に考えてしまい、そして……これは最悪な部類の偶然であると思い込みたくてさらに詳しく調べてみたら、彼が我が子を殺した町とこの母子が住む町が同じであることを知り……そしてそのまま誰かに否定してほしくて、違うという確証が欲しくて調べていたはずが……、私の最悪の想像はおそらく正しいということを証明してしまったのが、そのリストだ」

 

 ソラはアタランテの話を聞きながら、そのリストに目を通す。

 そこに書かれているのは、アタランテが気づくきっかけであった2組の親子を含む7組の親子の簡単なプロフィールと、その死因。

 

「……先ほど君が言った通りの共通点、ここ3年ほどの、グラムガスランド内で親に殺された、もしくはその可能性が高い子供と自殺した親のリストだ。

 その内のアタランテが気付いたきっかけの父子ともう1組は、町の住人ではなく旅行客だ」

 

 アタランテの代わりにミザイストムがそのリストが何であるかを説明するが、ソラは話を聞いているのかいないのか、相槌も打たずにただリストを眺め続けていた。

 その様子からして、決していい加減に聞き流している訳ではないことはわかるので、ミザイストムはそのまま少し語り疲れたであろう弟子の代わりに、説明を続ける。

 

「包丁で喉を掻き切る、池に身投げして溺死、道路や線路に飛び込むという自殺としてさほど不自然ではないものも4件あるが、残り1件はアタランテの語ったものと同じように、自らの顔面を殴り続けて脳挫傷という彼女が気付いたきっかけと同じくらい異常だ。

 そしてこれら7件すべて、子供の死から長くて十日以内に子供の死因……親が子を殺したであろう方法での自殺だ。こうしてリストアップしてみればただの偶然ではないのは一目瞭然だが、年間だと2件程度で半数は自殺方法として不自然でもないから気付かれなかったのだろう」

 

 そこまではミザイストムが語ったが、自分のトラウマを掘り起こして説明していたアタランテの方も少しは回復したのか、師の言葉を引き継いでソラに語る。

 

「一応ここ十年ほど子供の虐待死の記録を洗いざらい調べ、グラムガスランド以外にも同じようなことは起こってないか周辺地域を調べたが、『子供が死んで近い内に、子供と同じ死に方で自殺する』なんて、他にはなかった。ここ三年で、この町だけの話だ。

 ……汝は死者の念に特化した能力者だと聞き及んでいる。汝から見て、この事件はどう思う?」

「期待に応えられなくて悪いけど、十中八九親の死は自殺じゃなくてアタランテが見た通り、子供の死者の念が親を殺してるよ」

 

 アタランテの縋るような問いに、ソラはリストから目を離さずあっさりと残酷な答えを返し、アタランテは唇を強く噛みしめながらも、静かに「……そうか」とだけ答えて黙り込む。

 自分の膝の上の握り拳だけを見つめて俯き続ける弟子に、ミザイストムは深い溜息を吐きつつも彼女に質問を続けるように強要はしなかった。

 弟子が何故、子供以外の人間を極端に嫌っているのか、子供という存在をどれほど大切に思い、慈しんでいるのかをよく知っているからこそ、弟子が一番望まぬ答えしか返ってこないであろう質疑応答を続けさせるのは酷だと思ったのだろう。

 

 しかしもちろん、だからと言ってこのまま話を終えていい訳もないので、ミザイストムが代わりにソラに問う。

 

「虐待された子供の復讐だとしたら、これはたまたま死者の念になるほどの憎悪を抱いて死んだ子供が、同じ方法で復讐した偶然という可能性はどれだけある?」

「ゼロとは言わないけど、ゼロに等しい。自分を殺した奴を同じだけ苦しめて殺したいって発想はおかしなものじゃないから、年一程度なら嫌な偶然である可能性があるけど、さすがに3年で7件を偶然で済ますのは苦しすぎる。

 そもそも、肩が重いような気がするとかその程度の精神干渉を長期間続けて、相手を病ませて自殺に追い込めたら一般人の死者の念としては強い方だから、やっぱり7件の虐待死の被害者全員が死者の念になったこと自体がおかしい」

 

 ミザイストムが代弁した、アタランテが縋り付く一縷の希望である問い、関係性があるように見えて実はそれぞれ独立した事件であり連鎖などしないという期待は、やはりリストから目を離さないままソラがほぼ否定し尽くした。

 その答えにアタランテは俯いたまま唇をさらに強く噛みしめて聞いていたのだが、ミザイストムが話を進め始めた時、彼女は顔を跳ね上げて猛抗議を始めた。

 

「そうだろうな。……ソラ=シキオリ。改めて君に依頼したい」

「! 待ってください! 師よ、待ってください!! 除念師は私が自分で探します! だから、だからまだ待ってください! 彼女に依頼しないでください!!」

 

 いきなり隣に座る師に縋り付くように抗議しだしたアタランテに、ソラもさすがにリストから目を離してそちらをきょとんとした顔で見る。

 しかし十二支んの二人はアタランテの反応を予測できていたのか、ミザイストムは深い溜息を吐いてから弟子と向き直り、パリストンは全く気にせずソラの持つリストを見せて欲しがってソラにウザがられた。

 

「……アタランテ、いい加減にしろ。お前がいやがる理由は知っているが、その発言はわざわざ来てくれた彼女に対して失礼だ。第一、死者の念に対抗できる除念師がそう簡単に見つかる訳がないことくらいわかってるだろうが」

 

 ミザイストムの諭す言葉にアタランテは一瞬言いよどむが、それでも彼女は「ですが……」と足掻き続ける。

 しかしその足掻きの言葉に被せるように、ミザイストムはもうとっくの昔に、死者の念に慣れたソラに確認しなくても想像がついていたこの事件の「犯人」について、そしてそれはソラ以外にはどうしようも出来ないという事実を再び弟子に言い聞かせた。

 

「アタランテ。これが偶然ではないとしたら、犯人はこの7件の虐待死の被害者当人ではなく、おそらく最初の一人目かそれ以前の被害者が『我が子を殺した親を同じ方法で殺す』というシステム化している死者の念だ。

 彼女の言う通り、被害者が全員死者の念になったという可能性は限りなく低い。そして生前から能力者だったわけでもない子供が、相手に直接干渉して殺すほどの力を得るには死というブースト以外にも、誓約と制約を課す必要があっただろう。

 だからこそ、そんな制約を課した能力者でもない子供にはもう人格や自我はおそらく残っていない。憎悪と復讐心そのもので、説得など通用しない。条件が条件だから頻度は決して多くないが、時間を与えれば与えるだけ被害者が増える」

「……被害者? 自業自得の屑の為に真の被害者を殺すというのか!?」

 

 師の言葉に、アタランテの怒りが爆発する。

 敬語をかなぐり捨てて、苛烈な憤怒のままに彼女はテーブルに拳を叩きつけて叫んだ。

 

「我が子を殺した鬼畜どもを救っておきながら何故、真の被害者である子供を死してなお殺さねばならない!?

 救うべき弱者は子殺しの親よりも、殺された挙句に自分が何をしているのかもわからぬまま、復讐心そのものに成り果てた子供だろう! 少なくとも私は、そのような憐れな子供を救う為にクライムハンターになり、汝を師事しているのだ!

 

 私は私であるが為、私自身の決して手離せぬ、諦めきれぬ、死ぬまで足掻き続けて欲する望みと未来の為にも、折れる訳にはいかない!!

 生きている子供はもちろん、死した子供だって殺させはしない!!」

 

 どのような反論が来るかなど、ミザイストムはわかりきっていた。

 そしてその言葉に、自分はさらに反論することが出来ないことも。

 

 アタランテに言い聞かせようとしていた言葉など、建前だ。ミザイストムだって、アタランテの知り合いだった父親くらいしか被害者である親に同情していない。

 自業自得、因果応報な親よりも死してなお晴れぬ恨みを抱え込んで、自分の死という傷を抉りながら罪人の親を処刑するシステムとなってしまった子供の死者の念の方がよほど哀れで、救いたいと願う。

 

 だが、既にアタランテが調べてしまったことでこの事件はハンターという一部の間とはいえ、表層化してしまった。

 そして、死者の念に対抗できるどころか最強のジョーカーと名高い除念師がいるのに、あえて彼女を使わず他に死者の念に対抗できる除念師を探すことは、結果しか求めていない者や事情をよく知らない者からしたら時間の無駄でしかなく、さらなる犠牲者が出ることを望んでいると邪推されても仕方がない。

 

 その邪推は、目の前のソラから渡されたリストを読んでいる男が間違いなく利用する。

 利用された邪推で被害を被るのが、アタランテやミザイストムだけならいい。アタランテはそれくらい覚悟の上だからこその発言で、ミザイストムも弟子を諌めきれなかった罰として甘んじて受ける気でいる。

 だが、この怪者(けもの)はそんな殊勝な覚悟を決めた相手を甚振る程度で満足などしない。確実に被害は会長であるネテロにも及ぶし、最悪は「ハンター協会」という組織自体の責任問題にまで発展しかねない。

 

 そのことを何度も説明され、説得されてアタランテも納得したつもりでいたが、けれど改めて依頼の場に立つとどうしても自分の望みから対極に位置する、自分の望みを完膚なきまでに殺しつくす「子供の死者の念を殺してくれ」という依頼が出来ずに爆発してしまった自覚がある為、叫んだ後のアタランテはやや気まずそうだが、それでも涙目で師を睨み付けて自分の言葉を撤回しない。

 

 そんな弟子にもう一度ミザイストムは重い溜息を吐いてから、ひとまずソラに対してこちらが呼び出しておいて失礼すぎる発言をしたことに叱責しようと口を開きかけたタイミングで、彼は言い出した。

 

「というかこれ、親を殺してるのは子供の死者の念でしょうけど、犯人自体は生きた人間だと思いますよ」

 

 多数決で出した結論通り無視するつもりだったが、その内容はさすがに無視できず師弟はしれっと色んな前提を覆す発言をしたパリストンに目を向けた。

 そして、師弟が「何を言ってるんだお前は?」と尋ねているのか黙れという要望の代わりなのかわからない言葉を放つ前に、ソラも横目でパリストン……ではなく彼が持つ彼に渡したリストを見て言う。

 

「癪だけど、同感。これ、特定の子供の死者の念が条件に合った親を殺してるんじゃなくて、たぶん『犬神』と同じような能力者によって起こってる事件だよ」

 

 * * *

 

 ソラの答えにアタランテは「犬神?」とオウム返しするが、ミザイストムの方は驚愕に目を見開いて顔色を変える。

 

「!? それは確か今年の初めあたりに、君がジンとその弟子と解決した事件の犯人……というより被害者の能力だったな。

 確かに、それに近い能力だと考えても十分にこの事件は成立するが……可能なのか? そうだとしたら使われているのは犬ではなく子供……、それも赤子ではなく幼いと言えど自我が確立してる歳の子だぞ?」

 

 今はソラのおかげで「犬神遣い」という呪縛から解放されたとはいえ、凶悪すぎる能力を保有していたキヨヒメの娘に配慮して、世間はもちろんハンター協会内でも「犬神」にまつわる事件の情報はほとんど知られていないはずだが、さすがに依頼したパリストンの同僚かつ本来なら彼自身の分野と言っていい事件だったので、ミザイストムは事件や能力の概要を把握しており、だからこそ信じられずに尋ねる。

 

「犬神と同じように自分が望んだ相手に送りつけて殺すってやり方は無理だろうけど、使われている子供側に殺す理由のある相手になら十分だ。むしろ動物より言葉が通じる分、誘導はしやすいかもね」

 

 そしてミザイストムの問いとソラの答えで、何も知らないアタランテの方も「犬神」がどのような能力なのかを察し、顔色を悪くさせて「一体何の話なのだ?」と自分にもわかるように説明を求めた。

 その要望に応えたのは、ソラでも師でもなくパリストン。彼は最初から変わらない、胡散くさい爽やかな笑顔であっさり言い放つ。

 

「今年の初めらへん、僕がソラさんと知り合ったきっかけの依頼の事件で、『犬の死後の念を人工的に作り上げて使役する』という能力者がいたんですよ。その能力こそが『犬神』というもので、たぶんこれも同じような能力者が犯人なんじゃないですか?

 この場合、使役されているのは人間の子供ですけど」

 

 既に察している、アタランテが一番聞きたくなかった情報を改めて答えたパリストンを青い顔色でアタランテは睨み付けるが、彼は相変わらずニコニコ笑って彼女の嫌悪も憎悪も嬉しそうに受け止める。

 のれんに腕押しどころか相手を喜ばせる結果になっていることにアタランテの苛立ちが増幅するが、キレても相手が幸福なだけなので彼女は再びパリストンを無視して、ソラの方に「何故そう思う?」と尋ねた。

 

「親が子供を殺してしまう町がグラムガスランドって限定されてるけど、親が死ぬのはその町だとは限らないことと、死んだ7組全部が『確実に虐待をしていたかその疑いが強い』ってのと、子供の死因は直接手に掛けたと思えるものばかりって所が気になった。

 これら三つは特定の死者の念が条件に合う親を機械的に殺してるより、犬神タイプの能力者がやってると考えたら説明がつく」

 

 ソラはアタランテの疑問に即答しながら、パリストンにいったん渡したリストを奪い返して机上に乗せ、アタランテが直接死に様を目にしたアマチュアハンターの名をまずは指差した。

 

「彼が死んだのはグラムガスランドじゃなくて、その隣国。このことからして、地縛霊タイプじゃないのは確実だ。っていうか、活動範囲を制約で限定してるにしては町一つが範囲って、広すぎて制約になってないよ。

 でも活動範囲が限定されてないのなら、1年半前に一回隣国まで行ったのに今はまたグラムガスランドに留まってるのはおかしい。自我を無くすほどの憎悪の塊なら、獲物を求めてフラフラ彷徨うのが私の見てきた中では普通だ。

 

 それと、その町に訪れた旅行者が2人も子供を殺してるってのは、被害者の総数よりもおかしい。ぶっちゃけ、我が子を虐待する親が子供を旅行に連れて行く?

 死体を遺棄しやすいド田舎なら初めから殺して捨てる算段だったとも考えられるけど、グラムガスランドって観光事業、人目がどこでもありすぎるカジノやらサーカスやらショービジネスで盛んな都会じゃん。

 ……これらに加えて、この7組の中に一人たりともネグレクトによる直接手に掛けてない虐待死はもちろん、『外面が良すぎて子供が死んで初めて虐待の事実が判明した』って家庭がないのが気になった。

 一応訊くけど、この町で子供の虐待死はこの7組だけじゃないよね?」

 

 ソラの本当に一応でしかなかった問いに、アタランテは酷く悲しげな瞳をしながら即座に首を横に振る。

 

「……あぁ。痛ましい話だが、確実なものだけに限定しても3件ほどある。証拠がないものなら、ネグレクトによるものはもちろん、モラルハラスメントを繰り返されたことによる自殺もあるし、これらと同じく直接手に掛けたであろうものもある。

 ……が、親が子と同じ死因で自殺しているものはこの7件だけだ」

 

 アタランテの答えにソラは頷き、話をさらに続けた。

 

「条件を満たせば自動発動するのなら、そういう家庭だって当てはまっていいはずなのに、この7組は全部、『虐待の疑いや予兆があって、直接子供に手を掛けた可能性が高い』奴等ばかり。

 ……親に殺された子供が最期の憎悪を制約にした死者の念なら、ここまで細かく条件を限定する意味も必要もない。むしろ虐待の定義をもっと広げて、決して故意ではないけど親の非が大きい事故死さえも『子供を殺した』という条件に当てはめてしまう方が自然だ」

 

 この世界の住人となってからたったの4年しか経っていないのに、この世界の誰よりも「死者の念」に関して詳しいであろう異邦人が、アタランテたちからの話とリストの情報から割り出し、そして自分の持つ知識と照らし合わせて浮き彫りとなった不自然な部分を指摘してゆく。

 

 その指摘が続くにつれて、アタランテはもちろんミザイストムの表情も感心から徐々に痛ましげなものとなってゆき、彼らとは反対に無視され続けているパリストンは、無視されてもどんどん楽しげに笑みを深めてゆく。

 パリストンは初めから、わかっている。

 クライムハンターの二人は、もうすでに察しがついている。

 

 ソラが何を言いたいのか、この事件は決して「子供を殺した親が、同じ死因で自殺する」ことではないことに気付いている。

 もっと前から、もっと根本から胸糞が悪くなる事件なのだ。

 

「『犬神』は、極限まで飢えさせて発狂させることで、理性を奪った犬の死後の念を操ってた。

 犬自体を自在に操れたわけじゃない。憎しみと飢餓だけに思考を固めることで、本来のターゲットである能力者自身と他人の区別を曖昧にして、ターゲットを誤認させることで相手を殺すという能力だった」

 

 ソラは、改めて「犬神」と呼ぶ能力がどのようなものだったかを説明する。

 その説明を引き継ぐと言うより横から割り込んで、パリストンは殺意を抱くほどにこやかにもう一つの可能性を言い放つ。

 

「つまり、子供を殺したのは親本人の純粋な意思や衝動ではなく、『犬神』みたいに憎しみ一色に染まった子供の死者の念欲しさに、第3者が親をそそのかして子供を殺させた可能性が高いってことですね」

 

 重い空気の中、パリストンの実に明るい朗らかな声がさらに空気を重くさせる。

 胸糞が悪いどころではない話を嬉々として語れる男にもはや全員、癇に障るどころか黙れと言って怒る気すらなれない。

 

「…………『犬神』と似たような能力者なら、操作系である可能性が高い。そして操作系なら固有の能力じゃなくても、一般人相手に軽い暗示程度なら使用できてもおかしくない。

 けど、いくら腕のいい操作系能力者でも自殺や大切な人を傷つけろとか本人が心から嫌がることをやらせるのは、脳自体を弄らない限り無理だ。……逆に言えば、本心から嫌がっていなければ、普段からしていることのリミッターを外すくらいなら、おそらくは能力者じゃなくて純粋な技術で行う催眠術でも十分」

 

 口を開くのもおっくうになるほど重苦しい空気の中、黙っているとその空気の元凶の独壇場になると判断したのか、ソラが話を続ける。

 パリストン以外皆が、出来れば知らないまま眼を逸らしていたい可能性を真っ直ぐに見据えて彼女は語り、そして突きつける。

 

「カッとなって手を出しやすい人なら、普段からしてることなんだからリミッターを外すのは簡単だろうし、心から子供を愛していても、親だって人間なんだから子供を憎んだり疎ましく思う時はある。

 そんな本心だけど割合として小さい部分を暗示で肥大化されて、後押しされて抗える人はめったにいない。

 ……この事件、あなた達の推測が正しければアタランテの言う通り、被害者は自業自得だからまだマシな方だ。私が推測している通りなら……親だって、少なくともこの父親は純粋な被害者なんだろうね」

「待て! この事件が『犬神』に近い能力者により者である可能性も高いことはわかったが、そうだとしたら何故こんなにも手の込んだことをするんだ!?

 犬神と同じように子供の死者の念を使役しているのならば、他に無関係の被害者がいるはずだが、私が調べた限り他に自分で自分の首を絞めて死ぬような者はいなかったし、そんな死に方をする者が他にもいたら、私やハンターでなくても気づくぞ!!」

 

 アタランテが腰を浮かせて、前のめりになってソラの推測、「犬神」と同じように子供の死者の念を誰かが作られたにしては、その死者の念による事件は何も起こっていないことを指摘する。

 しかしその指摘にソラは、大きく舌を打ってから吐き捨てるように答えた。

 

「だから余計に胸糞が悪いんだよ。

 初めに言ったように人間を使えば、憎い相手への憎悪の増幅させて復讐を望んでいるように誤認させて誘導させること自体は簡単だけど、赤の他人にその憎悪を向けさせるのは知能が高い分、難しい。そもそも、親本人を殺した時点で自分を死者の念にしていた憎悪が消えて、姿も自我も保てなくなる可能性が高い。犬神みたいに使いたいのなら、自分が存在している理由である仇を殺させてしまうのは悪手なんだ。

 

 だから……、考えられる可能性は二つ。

 一つは犬神みたいに使うことを前提に、今は自分の制約等を調節している実験段階。親が死ぬのは子供の死者の念を使役し切れていない失敗か、自分が子供の憎悪の対象にならない為の安全装置代わりにしてるか。……子供が死んでから親が死ぬまでの期間が短すぎるから、十中八九前者だろうね。

 けど、それ以上に可能性が高いのは……」

 

 ソラが苛立ったようにぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜるようにして頭を抱えて、一瞬言いよどむ。

 その言いたくなかった、3年の月日をかけて7組の犠牲者を出しておきながら一向に「犬神」らしい能力になっていない理由として、実験の失敗よりもふさわしい可能性をパリストンが軽やかに口にする。

 

 もちろん、言いにくいことを代わりに言ってやろうという優しさではない。

 

「愉快犯による暇つぶしでしょうね」

 

 今まさに、自分がしていることをのうのうと言ってのけた。

 絶望を、突き付けた。

 

 * * *

 

 パリストンによって突きつけられた絶望に、アタランテは顔面を真っ白にさせてそのまま言葉を失う。

 ただでさえ、自分が自分である為の信念にして願い、そして矜持として譲れないし許せない事件が、なおさらに惨たらしくて救いがないものだと突き付けられたことにショックを受け、途方に暮れた。

 

 ある意味では、アタランテが望んだ通りの展開だ。

 だからこそ、アタランテに突き付けられたのは絶望そのもの。

 

 子供を殺したくなかった。

 既に死んでいても、許されない罪にその小さな手が染まっていたとしても、それでもその子供は間違いなくあまりに残酷な現実による被害者だったから、被害者だからこそ加害者になってしまったから、せめて死してもう一度殺されるという結末から守りたかった。

 

 たとえもう目の前の除念師が殺してやらない限りその子供は、世界の誰もから恐れられる悪霊になったとしても、殺すことが解放だとも救いだとも思えなかった。

 

 アタランテの願いは、叶っていた。

 ソラとパリストンが語った可能性が真実なら、憎悪そのものな子供の悪霊は存在しない。

 それは自分が見た通り、憎悪の対象である親を殺した時点で彼らは皆、自分を「幽霊」にした死者の念を保てず消えていったはずだ。

 

 悪霊はもういない。

 けど、あまりに残酷な被害者にして加害者は一人ではなかった。

 殺された子供の数だけ、その被害者は加害者となった。

 それも、親の自業自得ならまだ良かった。

 

 被害に遭った7組は全て我が子を虐待していたことはほぼ確定しているが、それは自らカウンセリングなどに通って相談していたから、我が子を傷つけたくない、傷つける自分を変えたいと願って行動していたからこそ判明していた者も少なくない。

 自業自得ではなく、愛情と理性で思い留まっていた憎しみへと、念能力という一般人なら抗い切れない暗示によって突き落とされて衝動的に手に掛けてしまったのならば、ソラの言う通り親だって間違いなく被害者だ。

 

 自業自得だと思っていた親さえも被害者だった可能性の高さを知ったのに、その誰もが既にアタランテには救えない所にいることに気付いてしまったことが、アタランテの絶望だ。

 アタランテが望んでいた、復讐心のシステムになっている子供はいないことが事実ならば、救われない被害者は子供だけではなくなることに気付かぬままそれを望んでいた自分の身勝手さに、真に子供を救いたいとは思っていなかった、ただ自分の都合のいいものだけを見て守りたかった自分自身に気付き、アタランテは力が抜けたようにソファーに身を沈める。

 

「まぁ、これも結局は推測ですけど。

 まだアタランテさんたちの考え通り、特定の死者の念って可能性もありますからそう凹まないでくださいよ!」

 

 糸の切れた操り人形のように手足の力が抜けて顔面蒼白、虚ろな眼で座り込む弟子にミザイストムは「おい! ショックなのはわかるがしっかりしろ! お前はプロハンターだろ!!」と叱咤するが、同僚の叱咤をパリストンが飄々と全力で無駄にする。

 

 どちらの可能性もアタランテを絶望に叩き落とすことをわかっているからこそ、パリストンは上機嫌を隠しもせずに野生の獣のように気高かった彼女の残骸をさらに甚振る。

 その悪趣味全開な言動に、十二支んの中でも温厚かつ理知的なミザイストムもさすがに堪忍袋の緒が切れて、思わず能力を発動してそのまま動きを止めて外に……ドアからではなく窓から放り投げてやろうかと本気で実行しかけたが、幸いながらミザイストムより先に行動に移す者がいた。

 

 立ち上がって身を乗り出し、向かいに座るアタランテの横に置いていた、まだまだ開示していない情報がたっぷり詰まった資料の入った封筒をソラがいきなり掴んだかと思ったら、そのまま隣を見もせずバシン! といい音が鳴る勢いでパリストンの顔面に叩きつけた。

 

 その流れるようにあまり自然だが唐突な行動に、ミザイストムはもちろん、呆然自失となっていたアタランテも思わず目を丸くしつつ、内心で「グッジョブ!!」と親指を立てた。実際には行動に移さなかっただけ、二人は偉い。

 

 そして思いっきり中身入りの封筒で殴られたパリストンは、少し赤くなった鼻を押さえて、彼にしては珍しいちょっと抗議するような目と声で言った。

 

「……ソラさん。僕は相手に媚びへつらうことが絶対にないあなたの性格が大好きですけど、いくらなんでもこれはないんじゃないですか?」

「んー、なんか雑音がさっきからうっさいなー。ハエでも飛んでんのかな?」

「まだ無視を続行しますか!? というか、いくらなんでももう無理があるでしょ! ソラさん、その封筒に“周”して僕を殴りましたよね! 僕が“流”でガードしてなかったら間違いなく鼻が折れてたんですけど!?」

「あー、アタランテごめん。集めてくれた資料をハエ退治に使って。でも汚れないようにオーラでコーティングしたから許して」

 

 しかしソラは最初に採用された自分の意見を律儀に続行して、隣の雑音もしくはハエを無視してアタランテに謝罪し、アタランテも困惑しているからか「あ、あぁ、構わない。むしろ気にせずどんどん活用してほしい」と本音を派手に零して隣のミザイストムが盛大に吹いた。

 

「ははっ! そうさせてもらうわ」

 

 アタランテがぶちまけた本音にソラは笑って応じたので、パリストンはさすがに2度目は阻止しようと腕で頭を庇い、クライムハンター師弟は止めようかそのまま好きにさせようかを一瞬悩んだが、さすがにソラも本当にもう一回物理的にこの資料を使う訳ではなかった。

 

 自分で提案したように、そして初めて会った時のように、ソラは既にパリストンなど眼中に入れていない。

 だからソラは封筒を手にして立上り、確認としてもう一度訊く。

 

「資料はこれで全部なんだね?」

「は? あ、あぁ。今のところはそうだ」

「そう。ありがとう」

 

 それだけを聞いて、彼女はその封筒を手にしたままあまりにも自然に、悠然と、颯爽と歩きだして部屋から出て行くのをアタランテは呆然と見送ってしまい、ソラを引きとめることが出来たのはミザイストムの方だった。

 

「!? ちょっと待て! どこへ行く気だ!?」

「ん? グラムガスランド」

 

 ミザイストムはソラの行動理由も行き場所も、わからないから引き留めて尋ねたのではない。

 彼の想像通り、ソラは「何を今更」と言わんばかりの顔で振り返り、即答した。

 さらに彼が続けた、「……俺たちはまだ、依頼していないぞ?」という言葉にも、ソラはミザイストムの想像通りの言葉を返す。

 

「私が行きたいから行って、終わらせたいから終わらせるんだよ」

 

 実に爽やかに、晴れ晴れしく笑って答えた。

 全ては想像通り。この娘はそんな風に答えるだろうと、ミザイストムはまだ出会って1時間足らず、会話らしい会話もほとんど交わしていないにも拘らず、そんな風に思えていた。

 だけど、そう思えた理由がわからない。

 

 この無視されている副会長のような愉快犯による「暇つぶし」の犠牲者を悼み、犯人を許せないと憤っているのなら、このように晴れ晴れしくて美しい笑顔が浮かべられる訳がない。

 現に彼女は、アタランテに説明している時はこの上なく不快そうに顔を歪めていた。

 

 なのに、今のソラはあまりにその名にふさわしい笑みを浮かべている。

 強がりでも、虚勢でも、空元気でもない。

 本心から、楽しそうで嬉しそうな笑みを浮かべて彼女は言った。

 

「この事件の詳細を知らなかったなんて嘘だろって確信させるほど、実にそこのうるさいハエ好みの、胸糞悪い事件だな。

 まぁでも、あなた達が最初に想定していたパターンよりは私的には気が楽だ。……理性を保ったまま被害者面してる加害者なら子供でも容赦する気はないけど、そういうのが全部なくなって加害者になってることにも気付けない被害者を殺すのは、私だって嫌だし。

 

 私は時間旅行も出来ない未熟者だから、起こってしまったことに関しては足掻く気はない。それは今の自分を動かすエネルギーにしかしないよ。

 可哀想だ、憐れだ、救いたかったと思うからこそ、行動する。

 ……ぶっ壊して、ぶっ殺してやるさ。暇だったからこんなことしたんなら、そいつの人生ごと潰してやるし、お膳立てされた悲劇の舞台は全部ぶっ壊す。

 悲劇しか認めない悪趣味な機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)だってぶっ殺して、私は私が見たいものを見るんだ。

 

『悪者は退治されて平和になりました』で終わる、ハッピーエンドを」

 

 パリストンのことを、犯人のことを語りながらも、その笑みは曇らない。

 許せない屑どもに対する不快さも、相手の性質の悪さを知っているからこその不安もそこにはなく、相手のことを語りながらも眼中にない。

 彼女が見ているのは、自身で言っているように彼女自身が見たいもの。

 

 ありふれていてありきたりな、当たり前だと信じたいハッピーエンドに至ることだけを信じて、目指して行動する。

 

 だからこそ、あまりに胸糞が悪くなる話を聞いても、胸糞が悪くなる可能性に気付いても、嬉しそうに楽しそうに幸せそうに笑えるのだとミザイストムは気付き、そして彼も少しだけ笑う。

 

 言っていることは相当物騒だが、けれどそれはミザイストム自身も目指し、だけどいつしか現実によって何度も折られることで忘れてしまった「夢」だ。

 幼くて拙くて、だからこそ眩しくて尊い、忘れたつもりだったけど手離せなかった、ずっとずっと自分の手の内にあった諦めてはいけないものを、彼はソラに見た。

 

「…………想定していたパターンなら、どうする気だ?」

 

 初心よりもさらに根源である何かをミザイストムがソラに見出している横で、ソファーに座ったまま弟子は振り返って問うた。

 

「私たちが初めに想定したいたものなら……特定の死者の念が、子供が結局殺している場合ならどうする気なのだ!?

 その可能性が消えた訳でもないのに……汝は何故、笑っていられるんだ?」

 

 アタランテは、犯人が「犬神に近い能力を持った愉快犯」ではなく、「人格も自我もなくした子供の死者の念」だった場合を問う。

 ソラの表情や言動を不謹慎だと非難しているような言葉だが、その声も顔も非難や怒りからは程遠い。

 

 彼女は一縷の希望に縋るように、ソラに問う。

 ソラも決して、死んだ子供をもう一度殺すという真似をしたくないと思ってくれていたから。

 自分と同じように、子供を救いたいと思ってくれているから。

 

 だから彼女は、縋った。

 自分では見つけられなかった救いを、彼女が見つけているのなら教えてくれと。

 

 その切願を、ソラは鼻で笑い飛ばした。

 

「あなたがそれを訊くか?」

「え?」

 

 その返答も鼻で笑われたこともアタランテは理解出来ずポカンとソラを見返すと、ソラは足早にアタランテの方に戻ってきて、ソファーに座り込んでいる彼女を見下ろして言った。

 

「初めに言っただろ? 私は正確には除念師じゃない。念を外してるんでも無効化してるんでもなく、殺してるんだから、その場合は子供を殺すしかない。

 ついでに言うと、私は確かにその子供を積極的に殺したいとは思わないけど、なんかの間違いで自分や私の大切な仲間がターゲットになってしまった場合は躊躇なく殺すよ。あいにく面識のないもう既に死んでる子供は、私にとってそんなに優先順位が高い存在じゃない」

 

 ソラの容赦ない、アタランテの縋った手を切り落とすような言葉に、彼女の目に再び灯ったはずの希望の光はまた静かに消えていった。

 だがその光が完全に消える前に、絶望する前にソラはアタランテの頭を両手で遠慮なくわし掴んで無理やり俯きかかっていた顔を上げさせて言い放つ。

 

「だから、それは私じゃなくてあなたの仕事だ。つーか、自分でやるって言ってたの忘れたんかあんたは!?」

「は?」

 

 いきなり今度はキレられ、訳がわからずアタランテが戸惑っていると、隣と背後が噴き出した。

 背後はただ自分の無様な姿を面白がっているだけだろうから無視して、アタランテは隣の師に目を向ける。

 

 その視線の意味は抗議でも羞恥でもなく、戸惑いと疑問。

 彼は弟子の無様で情けない姿を見ても、嘲笑することだけは絶対にないことを知っているからこそ、彼女にとってこのタイミングで笑ったのが信じられなかったから、思わず目を向けた。

 

 アタランテの思った通り、師は弟子を嘲笑などしていなかった。

 ただ純粋におかしくて笑い出しそうなのを堪えて、彼は言った。

 

「ふっ……。アタランテ、彼女の言う通りだ。お前は自分で言ったことをもう忘れたのか?

 お前は彼女に依頼しない代わりに何をすると言ったんだ?」

「あ――――」

 

 ミザイストムの言葉で、アタランテは何故自分が笑われたのか、何故ソラが自分に対してキレたのか、自分の懇願は何故鼻で笑われたのか理解して、顔を朱に染める。

 

 師の言う通り、わざわざやって来てくれたソラに対して無礼だと承知の上で、彼女に依頼しないと言った。

 代わりに、自分が何としても子供の死者の念を殺さずに済む除念師を探し出すと言い張ったことを思い出した。

 

 それがどれほど困難なことなのかもわからず、意地と口先だけで言い張っていた訳ではない。

 どんなに困難かもわかった上で、アタランテは探し出して見つけ出す気しかなかった。そうしないと、アタランテは今まで生きてきた意味も、これから生きて行く意味も失ってしまうから、諦めることなんか出来ず足掻き抜く気しかなかったのに、救える者は誰もいないのではないかという可能性によってすっかりその覚悟も決意も見失って、他人であるソラに全面的に頼って縋ってしがみついていたことに気付き、その場でのたうち回りたいほどの羞恥心に襲われる。

 

 本当にのたうち回らなかったのは、それをした方が恥の上乗せであると理解する理性は羞恥に食い潰されず残っていたことと、……ソラは答えによって気付いたから。

 

「……汝は、それでいいのか?」

 

 ソラが言った「アタランテ(あなた)の仕事」は、無謀な綺麗事に過ぎない理想論である自覚はある。

 だからこそ、アタランテは湧き上がる羞恥を抑えつけて、ソラに再び尋ね返す。

 

「私が求める除念師は、間違いなく汝よりも特殊で存在しているのかすら怪しい。そんなものを探している私はもちろん、私が探しているから汝は何もしないとなれば汝まで非難されるぞ?」

「誰が何もしないって言った?」

 

 しかし、アタランテの問いはもう一度鼻で笑われる。

 今度はアタランテだけではなくミザイストムの方もソラの反応がわからず目を丸くしていると、ソラは些細な胸を張って言い切った。

 

「あなたが死者の念を殺さず、憎悪から解放できる除念師を見つけるまで、私がその死者の念が発動しないように、能力発動条件が揃わないように全力を尽くしてやる。

 グラムガスランドの虐待死者数ゼロにしてやるよ! これなら周りに文句言われる筋合いもないだろ!!」

「「は?」」

 

 思わず師弟が同時に間の抜けた声を上げて、背後のパリストンがその反応に笑いだした。

 普段なら癇に障ることこの上ない笑い声も気にならない程、二人からしたらソラのドヤ顔で言い放った答えに衝撃を受ける。

 この女、アタランテ以上の綺麗事な理想論を実行すると言い放ったのだから、そりゃ呆然とするしかない。

 

 しかし思わずアタランテは「無茶な……」と呟けば、ソラは怒ったように眉を跳ね上げて即座に言い返す。

 

「無茶だと思ったらしないのか? あなたの『子供を救いたい』は所詮、その程度か?」

 

 その言葉に、アタランテの目は見開く。

 普段ならば侮辱と受け取って沸点の低いアタランテは怒り狂うのだが、今回ばかりは侮辱しているのは相手ではなく自分自身であったことなどわかりきっているので、彼女は自嘲するように苦笑した。

 苦笑しながら、アタランテは勢いよく言い返す。

 

「そんなわけあるか!!」

 

 自嘲の苦笑を浮かべながらも、その眼には鮮烈な光が灯っている。

 死者の念を殺すしか出来ないと語ったソラに向けた怒りや敵意とは全く別の、それよりも遥かに力強い光はソラの蒼玉の眼に宿るものと同じ。

 

 いかなる困難さえも消すことが出来ない、幸福な終わり以外を認めないし見る気がないという意志の光がそこに確かに灯っていた。

 

「なら良し!!」

 

 アタランテの答えと同じくらいソラも勢いよく満足そうな声で答え、彼女は手を差し出した。

 差し出して、言った。

 

「ところでアタランテ。犯人が愉快犯ならそいつの顔面、ぶん殴りたくない?」

 

 差し出された手の真意を問う前に尋ねられた言葉に、アタランテは一瞬呆ける。

 呆けたのは、一瞬だけだった。ただ驚いただけで、迷いなどない。

 

 頭ではわかっている。もしも犯人が愉快犯ではなく子供の死者の念で、本当に自分で言った通りのことを実行しようとするのなら、時間はいくらあっても足りやしない。

 砂漠から一粒の砂金を見つけ出すより困難であろう除念師探しをせねばならないアタランテに、まだどちらかは確定していないからとはいえ、本気で探す気があるのなら今から全力で、寝る間も惜しんで探すべきであることはわかっている。

 

 だけど、それでも――

 

「殴るだけで済ませる気はないな!」

「同感! けど、私が殴る分は残しておいて!」

 

 アタランテはソラの手を取った。

「一緒に行こう」という誘いを選び取る。

 もしも犯人が愉快犯でなければ、自分よりも彼女に負担を強いる決断であることを知りながらも、それでもソラ自身がその選択肢をくれたのなら、手に取らない理由はなくなってしまう。

 

 だから、アタランテは選び取る。

 幸福に終わる結末が見たいから、だからその為にたとえ自己満足でもアタランテは決して許せないものをぶん殴って、救えなかったという後悔を振り払うために立ち上がる。

 

 ソラと一緒に行くことを、選んだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……本当に、依頼料の交渉もせずに勝手に行きやがった」

 

 ソラに感化されたのか、アタランテはパリストンどころか師の存在さえも忘れ去ったかのようにソラと一緒に颯爽と出て行ってしまったのを、ミザイストム自身も止めずに見送って呟いた。

 言葉自体はソラに対して盛大に呆れているが、声音と浮かべる表情は実に柔らかくて優しい。

 まるで感謝しているように、彼は言った。

 

「まーその辺りはアタランテさんが後で気づいて、道すがらするでしょう。ソラさんの性格なら、本当に自分がしたいからするだけで受け取らないかもしれませんけど。

 それにしても、アタランテさんってけっこう繊細なんですねー。まさかあんなに凹むなんて思わなかったから、焦っちゃいましたよ」

 

 しかしミザイストムの心穏やかな時間は、無視され続けても黙らないし出て行かないし凹まない、尊敬したくない鋼メンタルの言葉で強制終了させられる。

 ソラと同じように終始一貫して無視したかったが、彼女ほど図太くなれなかったミザイストムは心底嫌そうな顔をしてパリストンと向き直る。

 

「あぁ。あれはガラスで虚勢を張り続けているようなもんだから、今後一切お前はうちの弟子と関わらないでくれ」

「えー、そんな無茶言わないでくださいよ。僕は副会長なんですから、特定の協会員を贔屓するのはもちろん、逆贔屓だって出来る訳ないじゃないですか。

 僕にとって協会員はベテランもルーキーも同等に、守るべき、頼るべき、信頼できる大切な仲間ですよ」

 

 パリストンの歯が浮くような白々しい言葉に、舌打ちして「お前にとって『仲間』は『玩具』と同意語だろうが」と言い捨てるが、もちろんその程度の言葉でパリストンは揺らがない。

 

「ミザイさん、酷い!」と白々しさ続行で言いつつ、彼の言葉を否定しない。

 そんなパリストンの茶番に付き合ってはいられず、「酷くて結構だ」と言って立ち上がり、帰ろうとするミザイストムの背中にパリストンはまだまだ茶番を続ける。

 

「うぅ……僕はこんなにも平等であろうと我慢してるのに。今日だって僕個人の本音で言えば、僕もソラさんの仕事について行きたかったのに」

「……彼女のことを気に入ってるのか?」

 

 もう何を言われても無視して帰るつもりだったが、思わずミザイストムは足を止めて振り返って尋ねてしまい、パリストンは実にウザやかな笑顔で「はい! というか、一目惚れしました!!」と究極的に知りたくなかった情報まで自分からぶちまけた。

 

 パリストンの宣言に「ソラ、逃げろ。全力で逃げろ」と思いながら、ミザイストムは小首を傾げて言葉を続ける。

 

「そこまで気に入ってるのは意外だな。彼女は同じ『何やらかすか想像がつかない』人間でも、会長よりジンと同じタイプだろ」

「……ジンさんとソラさんを一緒にしないでください」

 

 短い間でだがミザイストムが感じ取ったソラという人間は、自分の知り合いの中で誰に一番近いのかを考えたら、むしろこの最悪な意味での博愛主義が唯一嫌っている節のある相手に似ていると思っていた為、ミザイストムにとってパリストンの「出来ればソラを贔屓したい」という旨の発言が意外で気になった。

 そして、ミザイストムの言葉で初めてパリストンが本気で不愉快そうな顔と声で撤回を求め、彼はさらに目が丸くなる。

 

 この何を言ってもやっても胡散くさい笑顔と余裕を崩さない男にとってその感想は本気で不愉快なのか、彼はいつも張りつけている笑顔の仮面を取っ払って、怒涛の勢いでソラとジンの違いを口にする。

 

「全っっ然! 違いますよ!

 確かにジンさんもソラさんも、どっちも僕のことを眼中に入れてくれませんけど、僕のことを下に見て見向きもしないジンさんと違ってソラさんは、僕が上だろうが下だろうがどうでもいい、例え目の前に躍り出ても物理的に一蹴して前に突き進んでいく人なんです!

 ジンさんは僕が前に出て邪魔したら視界に入れて相手してくれますけど、あの人は僕がどこで何しようが本当に自分の見たいものしか見てくれないんです!!」

「お前、何でそこまで相手にされてない女に惚れたんだ?」

 

 ジンとソラの違いというか、どれだけ自分がソラの眼中にないかを熱弁し出した同僚に、思わずミザイストムは素で訊いた。

 実はドSに見せかけた注文の多いドMな構ってちゃんだということは知っていたが、まさかここまで訳の分からない方向にこじらせた変態だとは思っていなかったので、ミザイストムは引きに引いている。

 

 が、パリストンは同僚にドン引きにドン引きを重ねられるレベルで引かれていることに気付いていないのか、それもどんとこいなのかは不明だが、彼は素で訊かれた問いにこちらも素で答える。

 

「そこまで相手にされていないからこそ、彼女が僕を見てくれた時が楽しみなんですよ」

「確実にゴキブリでも見るような顔だと思うが?」

 

 うっとりと恍惚としながら彼は答え、ミザイストムは「聞かなきゃ良かった」を雄弁に語る顔で身も蓋もない結論を言い捨ててそのまま応接室から出て行った。

 もちろん、恍惚を続行させている気持ち悪いパリストンは放置して。

 

 ……その行動が正解だったのか、間違いだったのかはもうミザイストムにはわからない。

 彼は勘違いしていた。

 パリストンという男の愛情表現は、被虐嗜好(マゾヒズム)だと解釈してソラに大いに同情していたが、実際はマゾもサドも可愛く思えるものだとは知らなかった。

 だからこの件に関しては「出来る限りソラをパリストンから逃がしてやろう」くらいにしか思えなかった。

 

 ミザイストムがいなくなっていることに気付いているからこそか、彼がいても気にせず言っていたのかわからない、パリストンの愛情表現とその愛が行き着く先を、あまりに幸福そうに滔々と語っているのを彼が聞いていたら気付けただろうが、もう遅い。

 

「…………ジンさんと違って、彼女は強いからいかなる困難や苦難を前にしても諦めずに突き進めるんじゃなくて、むしろ一度でも諦めたらもう立ち上がれなくなるから、生きていけなくなるから駆け抜けて、走り抜けている人なんですよ」

 

 彼女の輝きの真の意味を、彼女の強さではなく弱さを美しいと思ったからこそ執着する怪者(けもの)は、夢見るように甘やかな瞳と声音で独り言を続ける。

 

「そんな自分の命を燃やして駆け抜ける、流星みたいな人が相手にしてない僕を視界に入れた時、入れざるを得なくなった時、どんな顔をするのかが楽しみなんです。

 

 彼女が燃え尽きた時、立ち上がれなくなった時にどんな顔をするのかが楽しみで仕方ないんです。だからこそ、それを特等席で、間近で僕は見たいんです。

 あれだけ、諦めることを恐れている眼が諦めてしまった時、……それはどれほどの絶望なんでしょうね」

 

 甘やかに、うっとりと、恍惚としながら彼はひとまず想像で我慢する。

 直接手を出してしまえば、ビヨンドはパリストンを「計画」から外して切り捨てるのは確実。

 彼の性格をよく知るビヨンドは、わざわざ報復という形で関わってくれず、パリストンが一番嫌う「無視」を選ぶだろう。

 

 ソラを望み通り壊すことが出来たのなら計画から外されても惜しくはないが、まだ彼女を確実に絶望させる舞台は整っていない。

 壊せず逆に舞台を壊された挙句、計画から外されて蚊帳の外はパリストンからしたらこの上ない拷問だからこそ、今は我慢できている。

 

「……だから、まだこの程度で絶望なんかしないでくださいね」

 

 ソラを主役に推薦した、救われない、救いなどない「事件(ものがたり)」の観客である現在で我慢して、怪者(パリストン)は嗤った。






作中の「グラムガスランド」はオリジナルの都市名ではなく、石田スイ先生が描いたヒソカの番外編で登場した都市です。
前々からヒソカの番外編もネタに取り入れたいと思ってたので、この中編でちょっと入れてみました。

だから番外編を知らない方には少しわかりにくい部分や、「誰?」ってキャラが出てくるかもしれませんが、番外編は現在も無料で見れますので皆さんぜひとも「石田スイ ヒソカ」あたりで検索して見て下さい(ダイマ

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