死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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131:初めまして

「あっ、キルア! 何か見つけた?」

 

 ソラが語った風景と一致する山がある場所、シャンハシティから100キロほど離れた地であるトトリア地区に到着してから約半日、キルアとゴンは二手に分かれてソラが見た風景と完全に一致する廃屋を探していた。

 しかしキルアは結局それらしい家は見つけることが出来ず、ややイラつきながら待ち合わせ場所である時計台の元にやって来ると、ゴンが目的を忘れてないか? と疑うほど明るく手を振って呼びかける。

 

 その明るさに呆れはしても、八つ当たりをするほどさすがにキルアの心は荒んではいなかったが、キルアは別の理由でただでさえ悪かった機嫌がさらに下降していった。

 

(……誰だ?)

 

 ゴンの傍らには、大きな箱のようなものを背負ってニット帽をかぶった、自分たちと同い年くらいの少年らしき人間がいた。

 たまたま傍にいるだけの人間かとも思ったが、それにしてはやけに自分に注目しているので、キルアとしてはいい気分にはならない。

 

「……いや、何も。そっちは?」

 

 とりあえずキルアはゴンの問いに答えてから訊き返すと、ゴンもしょんぼりと肩を落としながら「見つかんなかった」と答えるが、顔を上げた時にはもう一瞬前の落ち込みはどこへやら、実に嬉しそうで楽しげな笑顔を浮かべて、彼は傍らの少年の肩に腕を回し、キルアを指し示した。

 

「あ、そうだ。紹介するよ。俺の友達のキルア。

 で、こっちの子はレツ。さっき友達になったんだ」

 

 キルアがきょとんとしているのを気にせずゴンはレツという少年を紹介し、レツも少し困ったように笑ってキルアに握手を求めて右手を差し出す。

 

「よろしく」

 

 しかしキルアはポケットに両手を突っ込んだまま、その手を握り返しはしなかった。

 むしろ疑り深い目で相手を探るように見るだけで、レツの「よろしく」に「こちらこそ」という社交辞令さえも返さない。

 

 そんなキルア相手にレツの方はこの上なく気まずそうになっているのに対して、人見知りをしなさ過ぎてある意味問題なゴンはキルアに、レツと出逢った経緯を話し出す。

 

 どうやらソラが見た風景を探している最中に、大道芸をしているレツを見つけてついつい興味本位でその芸をしばらく見ていたら、馬が暴れた所為で荷台の荷物が近くにいたレツに向かって崩れて大惨事という事故からゴンがレツを助け出したことと、レツがこの歳で大道芸で日銭を稼ぎながら旅をしている理由が、「友達」になったきっかけらしい。

 

「あのさ、レツもお父さんを探して旅してるんだって。何か俺と境遇が似てるでしょ?」

 

 ゴンがレツに対して妙に懐いている訳、親近感を持つ理由もわかったが、今のキルアにはそれを微笑ましいと思う余裕は残念ながらほとんどなかった。

 しかしそれは、「ソラの眼を一刻でも早く取り戻してやりたいのに、こんな得体のしれない相手と仲良くなってる場合か?」という焦りだけではなく、子供らしい嫉妬も大いに含まれている。

 

 だけどその嫉妬を自覚すると、頭によぎったのはハンター試験で出会った変人。自分より少し年上で、ある意味ではクラピカやソラ以上に「爆発しろ」と言いたい少年。

 ……友達になった、ジークの存在が頭によぎる。

 

 全部全部、本当はちゃんとわかっている。

 新しく友達を作るのに、他の友達の許可がいる訳ないことくらい、ゴンが初めての友達なキルアだってわかっている。

 ゴンを責めるのなら自分も責められる立場だという事も、理性では自分の嫉妬はあまりにガキくさい、というか男同士なので気持ち悪いくらいだということはわかっている。

 だからこそ、キルアは不満を口には出さなかった。

 

 が、不満を消化できるほどキルアは大人にもなれなかったから、キルアは冷ややかな目でゴンとレツを見て、視線と同じくらい冷ややかに言う。

 

「そんなことより、俺達にはやることがあるだろ。行こうぜ」

「あ、でもそのことをレツにも相談したんだ。そしたら、心当たりあるって」

 

 ゴンとレツを引き離そうとしたが、「心当たり」という言葉にキルアは現金に反応し、「ほんとか?」と尋ねる。

 その問いにも、レツはやはりどこか困っているような悲しげな眼で微笑みながら、「あぁ」と答えた。

 

「で、その心当たりのうちのいくつかをレツと一緒に調べたんだけど、違ってて……」

「今日はもう遅いから、残りの場所は明日一緒に行こう」

 

 レツの親しげな提案にキルアはややムッとして、場所だけ教えろ、自分がひとっ走りして確認しに行くと言うが、ゴンから「ソラが無理しないでって言ってたじゃん! キルアが無理した方がソラは悲しむし、気にするよ!!」と言われたので、渋々今日の活動を切り上げて宿に向かうことにした。

 

 その道中も、注意深くキルアはレツを観察していた。

 自分の中のモヤモヤとした違和感は、友達(ゴン)を取られたようなような気がするという嫉妬だけではない気がしたから、あのハンター試験で「友達になって欲しい」と言った彼とレツは、まったく違う気がしたから、どうしても信用できなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

(なーんで、こんなことになってんだ?)

 

 ホテル内のレストランで、向かいに座るレツをテーブルに頬杖つきながらキルアは眺めて思う。

 

 この時のキルアは既に、自分の警戒は杞憂だったと9割方思っていた。

 あれだけ警戒しておきながら、2時間ほどでそこまで解消されたのは別にキルアとレツに友情が芽生えた訳ではない。

 

 ただ単に、なんとなく感じていた違和感、レツのよそよそしさに説明がついたからなだけ。

 その「違和感」の正体を、レツは大道芸の相棒であるマリオネットを丁寧に手入れしつつ苦笑しながら答えた。

 

「女の一人旅は危険だからさ、旅に出る時は男のフリをしてるんだ」

 

 そう、自分たちと同い年くらいの少年かと思っていたレツは、同い年くらいの少女だった。

 そしてレツの性別が判明したきっかけを思い出し、キルアが「ソラがいなくて良かったな」とゴンに言えば、ゴンは青い顔で「お願いだからソラには内緒にして」とキルアに拝んで頼み込む。

 

 レツの性別判明のきっかけは、いわゆるお風呂ドッキリ。

 路銀の節約で3人同じ部屋を取って、レツがシャワーを浴びている最中だというのにゴンは「男同士だし気にしないよね」と思い普通にドアを開けてしまった事で判明した為、別にゴンに下心がないことくらいソラもわかっているだろうが、あの根が潔癖な女なら間違いなくゴンは脳天に拳骨落とされてから、正座で数時間の説教コースだとわかっているので、キルアはニヤニヤ笑いながら「ど-しよっかなー」とゴンをからかった。

 

 幸いながらまだ全員が幼いのと、ゴンに悪気や下心が一切なかったのはわかりきっているので、被害者であるレツもあのお風呂ドッキリトラブルをさほど気にしておらず、彼女は二人のやり取りをクスクスと楽しげに眺めていた。

 

「ははは、二人はほんと仲が良いんだな」

「……別に」

 

 レツの言葉に、キルアはやや顔を赤らめてそっぽ向く。

 その横顔は「今更、他人にそんなこと言われるまでもない」と如実に語っているのが微笑ましいのか、レツはキルアの無愛想さを気にかけず、目を細めて呟いた。

 

「……うらやましいな」

 

 その呟きが聞こえたからかどうかは、関係ない。

 ゴンは気を遣ったのではなく、ただ知りたかったから、友達のことを知りたいと思ったからレツに「どうして一人で旅をしているの?」と尋ねた。

 

 父親を探しているとは言っていたが、女の子だとわかれば割と紳士なところがあるゴンは、「一人旅なんて危ないからやめろ」という一方的な反対は決してしないが、出来れば危ない事はしないで欲しいと思っているのが本音。

 探すだけなら、彼女自身が危険を冒して旅をする必要はない。もしもレツ自身が父親に会いたいと思っているが、旅自体は望んでしている訳ではないのなら、自分が代わりに探してやるとでも言う気だったはず。

 

 だが、ゴンの心配は見当違いであることがすぐに明らかになる。

 

「兄も人形師なんだけど、僕も将来は兄のようなちゃんとした人形師になりたくてさ。今は旅をしながら、大道芸で腕を磨いているんだ」

 

 どうも父親探しは言っちゃなんだがついでの立ち位置らしく、レツはその旅による修行の成果としてマリオネットの糸を手繰って、ピエロの人形にお辞儀をさせてみせる。

 その動きにゴンは無邪気に、キルアも少しだけ素直に感心を示した。

 

「だから、旅のお供は今のところこいつだけかな」

「本当に生きてるみたいだね。もしかして、その人形ってレツが……?」

「もちろん、僕が作ったんだ」

 

 二人の和気藹々とした会話にキルアが少し拗ねたように眺めていたが、空気が悪くなる前にコックが料理を持ってきたので、食べ盛りの子供の興味の矛先はさっさと料理に移る。

 ただ、レツだけは「僕は昼にたっぷり食べたから、遠慮しないで」と言って、食事を取ろうとしない。

 

 そのことに、まだ納得しきれていなかった警戒心の1割が肥大していくのを感じるが、レツはやはりキルアに探るような目で見られても困ったような笑みを浮かべて、マリオネットを操って人形が「どうぞ」というように右手を差し出す。

 

 キルアが人形に視線を移すと、何だか妙にその人形の「眼」が気になった。

 透き通るように美しいが、ガラス製にしては妙に肉感的、生々しく思える眼がじっと自分を見ているように感じる。

 自分がレツに向けている視線のように、何かを探るように見ているような気がした。

 

 その不気味さを隠しながら、キルアが「その人形、綺麗な目をしてるな」とまずは軽く探りを入れて見ると、レツは笑顔で即座に返答した。

 

「ゴンとキルアもね」

 

 予想外の返しに、キルアはきょとんと固まってしまう。それはモリモリとローストビーフを食べていたゴンも同じく。

 そんな二人の反応も面白いのか、レツは笑顔のまま話し始める。

 

「ゴンはどこまでも透明な眼をしている……。

 それからキルアの眼は、闇を帯びているけど純粋だ」

 

 じっと彼らの眼をレツはやや熱っぽい目で見ながら語り、そして自分のマリオネットを抱きかかえて続ける。

 

「人形は眼を作るのが一番難しんだ。その人形が生きるも死ぬも、眼の出来次第……。もしも最高の眼が出来れば、その人形には魂が宿るって言われてるんだよ」

「魂が……」

 

 ゴンはレツの話を興味深そうに聞いているが、キルアの中でレツに対する警戒心は最初と同じくらいに膨れ上がる。

「眼」に対してのこだわりと執着、それはソラの眼を奪い、クラピカの緋の眼にも執着しているらしき「黒幕」を連想させるには十分すぎた。

 

(まさか、こいつがソラの眼を……、いや、ソラが見た『黒幕』の特徴とは対極じゃねぇか。

 けど、俺達とソラやクラピカの接点を知ってるんなら、俺達に接触してきた理由に説明が……)

 

 考えつつも、キルアはレツの動きに注視する。

 どんな些細な違和感も見逃さないように、最大限の警戒を払いながらもこちらが警戒しているというそぶりを隠して、彼女の言動に探りを入れていた時――――

 

 

 

『勝ち目のない敵とは戦うな』

 

 

 

 頭の奥から、(イルミ)呪縛(こえ)が響いた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 音もなく、病室に入り込む。

 病室内にいるのは、侵入者を除けば3人。

 

 空きベッドはいくつもあるのに、急病人などに気を遣っているのか、ソファーで怪獣の鳴き声のようないびきをかいで寝ているレオリオ。

 

 そしてベッドには、ネカフェで情報収取をして帰ってきたレオリオが本気で「射殺してぇ……」と思った二人。

 一つのベッドで寄り添うように、互いの体温を分け合うように、クラピカはソラを抱きしめ、ソラはクラピカに抱き着いてはいないがその身を寄せて、彼の胸に顔を埋めて、互いに安らかな寝息を立てている。

 

 そんな二人を微笑ましいと思っているのか、それとも彼でさえも「爆発しろ」と思っているのか微妙な苦笑をしつつ、唇を舌で湿らせた。

「美味しそう」とでも言いたげな仕草をして、侵入者は寄り添う二人に顔を寄せてその匂いを嗅ぐ……前にシーツがばさりと翻り、侵入者の眼前に白い指先が突き付けられる。

 

「……夜這いしたいなら他当たれ。っていうか、今すぐに私らから一番離れた世界の果てで死んで消え失せろ、マッドクラウン」

 

 クラピカの抱擁から離れ、ソラは寝起きだからか、相手がよりにもよって過ぎる奴だからかは不明だが、この上なく不機嫌そうな声でかなりの無茶ぶりを本気で言う。

 しかし相手はもちろん、その程度の暴言を気にした様子もなく、むしろソラからのかなり本気な殺意に恍惚としながら、いけしゃあしゃあと言い出した。

 

「や♥ 久しぶりだね、ソラ♠」

 

 ソラが跳び起きた事でクラピカが、そしてソラが起きてくれたのならもう遠慮する必要はないと思ったのか、隠されていた殺気をむき出しにしたことでレオリオも飛び起き、そしてクラピカとソラが眠っていたベッドの傍らに立つ男へ、驚愕の視線と警戒の声を向ける。

 

「お、おめぇは!?」

「何の用だ!? ヒソカ!!」

 

 レオリオはまだ戸惑いの段階だが、クラピカはソラを庇うように彼女を押しやり、自分が前に出てヒソカにこちらも遠慮なしの殺気をぶつけるが、それもやはり彼を喜ばせるだけ。

 

「お楽しみの後とはいえ、邪魔してごめんね♦

 けれど、ステキだね、消毒液とキミの血の匂い……♥」

「戯言しか言わないなら消えるか死ね」

 

 ヒソカのサラッと言い出したセクハラ発言か、それとも彼の存在自体が不快で仕方ないからか、ソラは包帯越しでも眉間に深い皺を刻んでいるとわかる顔と声で切って捨てる。

 その言葉にヒソカはわざとらしく心外そうな顔をして、敵意がないことを示すように両手を上げて言葉を続ける。

 

「そんなに邪険にしないで欲しいな♠ ボクは、キミの眼を奪った奴のことを教えに来たのに♣」

「……やはり貴様の後任なのか?」

 

 ヒソカの言葉に応じたのは、ソラではなくクラピカだった。

 警戒して信頼は何もしていないが、この男は理解できない殺人狂にして戦闘狂だからこそ、自分と戦うにふさわしい強者やその候補が、他人に横取りされること、他者の手で台無しになることを嫌っていることは知っている。

 自分はもちろん、ソラに関してはある意味では台無しどころかパワーアップしているくらいだが、精神面がいつもよりはるかに危なくなっていることを察しているからか、彼にとって今の二人の状態は「楽しみに残していた好物を、横から一口齧られた」とでも思っているのだろう。

 

 だからこそ、警戒しているし信頼もしていないが、その情報だけは信用してもいいと思ったから、ヒソカを赤い目で睨み付けてソラを庇いながらも、話を聞く体勢に入る。

 が、ヒソカはクラピカの言葉に意外そうな顔をした。

 

「後任? 何のことかな?

 もしかして、彼の刺青(タトゥー)の番号を見たのかい?」

 

 その反応に、今度はクラピカ達の方がそれぞれ「こいつは何を言ってるんだ?」という顔になって戸惑う。

 彼らの反応で返ってこない答えを察したヒソカは、クツクツと低く喉で笑いながら彼らの勘違いを正す。

 

「それなら、勘違いをしても仕方ないね♦ けど、話が早くていい♥

 彼はボクの後任ではなく、前任♥ 2、3年前にボクと交代して旅団(クモ)から外れた男、それがキミの眼を奪った犯人だよ♠」

「……何で殺してねぇんだよ?」

 

 ヒソカの答えにソラはベッドに胡坐で、身も蓋もないことを言い出した。

 殺人を厭うが、自分やクラピカの現状、そして幻影旅団の団員であることが確定してしまえば、相手に「死んで欲しくない」とはさすがに思えないどころか、普通に「殺しとけよ」としか思えないらしい。

 

 そしてその考えは別に、残酷でも非道でもない。

 ヒソカの後任ならまだ犯罪に手を染めていない可能性があったが、前任ならば司法に委ねても死刑か、死ぬまで恩赦なしの禁固刑以外にない程の罪を犯しているのがほぼ確定な相手なのだから、それでも「死んで欲しくない」と思えるのは善人や聖人というより、ただ他人にそう思われたがっている無責任な脳内お花畑である。

 

 その証拠にソラだけではなく、クラピカとレオリオも目で如実にソラと同じことを語ってヒソカを睨み付けている。

 そんな視線にヒソカは苦笑しながら、彼はひとまず自分の前任者について語り始めた。

 

「名前はオモカゲ……、『神の人形師』と自称する特質系の念能力者♦ 人の心にもぐりこみ、相手の執心……もっとも執着する出来事から『人形』を作り出す♠

 人形はオモカゲの命令には絶対服従のしもべとなる♣ だけど、オモカゲに操られながらも記憶を失う訳じゃないんだ♥」

「記憶だと?」

 

 ヒソカの言葉に、クラピカは反応してしまう。

 その反応を実に楽しげにヒソカは眼を細めて、肯定する。

 

「人形には本人の心も写し取られているんだよ♠

 それ故、人形は自分の意思を持ちながら、オモカゲの命令に従うことになってしまう……♦ 彼にはその悲劇がたまらないらしい♣」

 

 その答えに、自分が、ソラが出した答えは正しかったと理解する。

 だけどそれは改めて「黒幕」……、オモカゲに対しての憎悪が募るだけだった。

 

 ある意味では一番気が楽になる「クラピカを苦しませる為だけに作られた、言動は何もかも上っ面だけの偽物」ではないと確定してしまったことに、それ以上の悪趣味だったことを突き付けられて、クラピカは自分の掌を傷つける程に握りしめる。

 

 その手に、ソラの手がそっと触れた。

 相変わらず怯えるように、それでも縋るように震えながらも、クラピカの自分を傷つける手を包み込む。

 

 そしてその体温が強張ったクラピカの拳をほぐしながらも、ソラはヒソカに訊いた。

 

「私の眼を奪ったのは、そいつの趣味? パイロを使ったのも、……クルタの生き残りがいるって噂を流したのも、私かクラピカを釣り上げたかったからか?」

「多分ね……♦ 彼は蒐集家(コレクター)だから♠」

 

 ソラの問いに肯定してから、ヒソカはようやく何故「殺して交代で入団」のはずなのに、前任者が死んでいない理由を語り始める。

 

「僕が交代した際に倒したオモカゲは、彼の人形だったんだ♣」

「貴様……何故それを知っていて――」

 

 ヒソカの答えにクラピカが先程よりはソラのおかげでマシとはいえ、不快さを前面に出して睨み付けながら問えば、彼もオモカゲのことを言えない悪趣味さを堂々と言い放つ。

 

「あんなに楽しめる奴、一瞬で終らせるのはもったいないからさ♥」

「そうか? っていうか、そいつそんなにすごい?」

 

 しかしその悪趣味さに気分を悪くするよりも先に、ソラが首を傾げながら本気で不思議がって言い出したおかげと言うべきか、所為と言うべきか……とりあえず場の空気は一気に弛緩した。

 

「……なんでオメーは本当に、空気をこうぶっ壊すのかね? 緊迫した空気の中にいたら死ぬ病気かお前は」

「うーん、その病気説はちょっと否定できないかもしれないけど、実際に私からしたらそのオモカゲって奴、よく『神の人形師』って恥ずかしい自称できるなって思うレベルだし。

 私の知ってる自称じゃない神クラスの人形師だと、たぶんヒソカはそれが人形だって気づけないよ。一点たりとも本人から劣りも優れもしてない、それこそ『沼男(スワンプマン)』のごとく同一体を作り出して、その人形に人形作りさえも全部任せている人だから。っていうかその人、DNA鑑定もクリアする人形が序の口レベルだけど?」

「何それ、ちょっと詳しく♠」

「「興味を持つな!!」」

 

 レオリオが脱力しながらもツッコミを入れるが、別にソラからしたらボケのつもりはなかったらしく、しれっと自分が知る「神の人形師」の名にふさわしい封印指定をくらった人形師(青崎 橙子)の腕前を語れば、ヒソカが真顔で興味を持ち出し、レオリオとクラピカに突っ込まれた。

 

「その人よりその人の妹さんの方が、たぶんお前好みだよ。波動砲撃ってくるし、二つ名は『人間ミサイルランチャー』だし」

「お前も答えるな! 話が進まなくなるから黙ってろ!!」

 

 そしてソラもソラで、紹介などできないくせにさらにヒソカが興味を持ちそうな情報を告げるので、最初はともかく今はもう確信犯的なボケだと判断して、クラピカは遠慮なしにソラの後頭部をどついて黙らせておいた。

 ソラからの情報が中途半端で終わってしまった事を本気で惜しそうな顔をしつつも、ヒソカも気を取り直して話を元に戻す。

 

「まぁ、これがボクの知っているオモカゲの情報だよ♦ 参考になったかい?」

 

 その問いの答えは「なった」だが、そう答えるのはこの上なく癪なのでクラピカもレオリオも答えず無視する。

 そんな彼らの反応にまったく傷ついた様子もなく、むしろ楽しそうにヒソカは平然と嘯く。

 

「そんなに警戒されたら傷つくなぁ♠ ボクはただ、キミたちに死んで欲しくないし、壊れて欲しくないから助言しに来たのに♥」

 

 言いつつ、少し腰を折ってソラに顔を寄せようとするが、それはクラピカが全力で阻止する。

 が、ヒソカはクラピカを無視して、クラピカ越しにソラに「忠告」した。

 

「気を付けるんだよ、ソラ♣ オモカゲは危険で……そしてとっても粘着質だ♦ 彼は絶対に、君の眼だけじゃ満足しない♥ 君自身の姿かたちもお気に入りで、人形にしてコレクションに加えたがるはず♣

 そして……彼は自分の人形とその人形を生み出した心……執心の持ち主の『絶望』こそを美しいと思っている♠

 

 ねぇ、ソラ♦ 君の中の『誰か』は、まだ無事かい?」

 

 ヒソカの問いに、ソラはクラピカの肩越しに答えた。

 

「消えろ」

 

 お前に話す筋合いなどないと、拒絶した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 兄の声が、呪縛が頭の中で鳴り響き、意識を覚醒させ、浮上させる。

 これは夢だと、あのレストランでの食事とやり取りはとっくに終わって、自分たちは就寝についていたことを思い出した。

 

「! 驚いた。暗示にかかりにくい子なのね」

 

 浮上した意識が、まだ現実と夢の境界が曖昧なまま、自分の頬に触れかけた指先を手で薙ぎ払って弾き、そのまま上体を起こしてベッドの上でオーラを増幅させ、刃と化した右手を、指先をベッドの傍らに立つ「誰か」に向かって躊躇なく突き刺した。

 だが、その「誰か」は呑気に、どう考えても本当に驚いてなどいない口調で言いつつ、キルアが跳ね除けた毛布でその身を包み込む。

 

 そんなもの、何の気休めにもならないはずだった。

 が、キルアの爪はオーラで強化していなければ確実に割れていたほどの衝撃を受ける。

 ただの安宿の薄っぺらい毛布であったはずなのに、それは鉄板並みの強度に変貌していた。

 

(“周”!? こんな毛布に、これだけの強度だと!?)

 

 驚愕しながら、キルアはそのまま飛びのき、相手から距離を取る。

 そしてキルアがオーラを増幅したことで、同室のゴンとレツも飛び起きた。

 

「!? え? キルア?」

「!? 何事?」

 

 状況を理解できていない二人に、キルア自身もまだ何が何だかわかっておらず、若干パニック気味だったからか、ゴンはもちろん警戒していたレツに向かっても彼は叫ぶ。

 

「逃げろ、ゴン! レツ! 敵だ!!」

 

 叫んで警告しながら、キルアは先ほどよりも手にオーラを込めて未だ毛布にくるまっている状態の相手に攻撃を仕掛ける。

 殺す気でいた。それしか考えられなかった。

 

 その理由は警戒心によるもの()()()()

 

 寝こみを襲われるのはギリギリ回避できたとはいえ、部屋への侵入を許すどころか自分の枕元にまで接近を許してしまった時点で、相手は脅威だ。

 結局レツを怪しいと思いながらも、自分やゴンの敵という確証を得られなかったので、キルアは警戒しつつ監視の意味合いも兼ねて同じ部屋で眠っていた。眠りながらも生まれた時から鍛え上げた暗殺者としてのスキルで警戒していたというのに、その警戒網に引っかかることなく侵入し、自分に触れられるギリギリまで近づいてきていた相手の実力は、背筋が凍る程に恐ろしい。

 

 だが、今のキルアにはほとんどそれは関係ない。そんな情報は今、頭の片隅にも上らない。

 

 殺し屋をやめたのに、もう人殺しなんかしたくないから家出までして今に至るのに殺す気しかなかったのは、一刻も早く始末しなければならないと思ったから。

 けれど、その理由も実はキルアにはわかっていない。

 相手が強敵だから、本気を出される前に先に()るという発想は、むしろキルアには生まれない。強敵だと判断すれば、キルアはどうしたら自分とゴンが逃げ出せるかを考える。

 

 なのに、逃げることを選ばない。

 相手は自分以上に暗殺者らしく気配を消して行う不意打ちは得意だが、戦闘能力自体は低く実戦に弱いタイプであることを期待している訳でもない。

 相手も十分に実戦慣れしていて、不意打ちでなくても自分と渡り合えるほど強いことは、わかっている。

 だって相手は、自分のとっさの攻撃を向こうもとっさだったというのに、完璧な“周”で防いだのだから。

 

 強いのはわかっており、それ以外はまだ何もわかっていない、情報が何もない同然の相手も警戒して選択を「逃げ」一択にするには十分な条件だというのに、キルアは毛布でガードし続ける相手に攻撃を仕掛ける。

 

 一刻も早く殺せと、何も知らないうちに、何も()()()()()()()内に殺せと、頭の奥で自分が自分に訴え、その訴えに忠実に動く。

 

 あの目覚めて攻撃を仕掛ける間際に見た相手の「姿」に、一瞬のデジャブを感じた自覚はある。

 だけどそのデジャブ、相手に誰の「面影」を見たのかはキルアにはわからない。

 わからないままでいろと、誰かの面影を見たキルアが叫んでいるから、その声に忠実に、姿が隠された状態のまま猛攻、相手に攻撃はもちろん何か言葉を発する隙も与えぬまま窓際まで追いやって追い詰めて、そのままキルアは鉄板並みの毛布ごと跳び蹴りを決めて、窓をぶち破り相手を窓から蹴り落とした。

 

「「!? キルア!!」」

 

 勢いで自分も窓から飛び出てしまい、ゴンとレツが悲鳴じみた声を上げて駆け寄ってくるのがわかった。

 さすがにゴンはもちろんレツに対しても少しは心配させたことを申し訳なく思いつつ、ホテルと言っても2階建ての大きめな家を改築して宿泊施設にしたような建物なので、キルアは余裕で着地出来ると確信していたので問題はなかった。

 だから、猫のように着地して「大丈夫だ!」と叫ぶつもりしかなかったが、その余裕を奪う光景がキルアの目の前に広がる。

 

Es ist gros(軽量),  Es ist klein(重圧),  vox Gott(戒律引用) Es Atlas(重葬は地に還る)

 

 相手が何かを呟いているのは聞こえたが、ほとんど意味がわからなかった。

 しかし、その呟きの直後に毛布に包まれた相手はふわりと浮かび上がった。

 

『!!??』

 

 一緒に墜落していたキルアと、ぶち破った窓から自分も飛び降りようとしていたゴン、それを止めていたレツが、その有り得ない光景を目の当たりにして目を丸くする。

 しかし、正確言えば相手は浮かび上がった訳ではない。

 キルアと比べてまるで相手だけ受けている重力の負荷がはるかに軽くなり、キルアとそう変わらぬ体格でありながら羽毛ほどの重さしかないかのごとく、風に煽られてフワフワと減速しながら落ちているのをキルアは相手を追い越して墜落しながら確認する。

 

 が、その事実は「浮いた!?」という驚愕の軽減にはならない。

 むしろこの「重力操作」という特質系由来と思える能力を知ったことで、あの“周”の強度からして強化系か物品にオーラを込めるのが得意な操作系、またはその両方もバランスよく習得できる放出系能力者を想定していたキルアは、あのわずかな交戦でそこまで想定できる頭の出来があったからこそ、パニックに陥ってしまう。

 

 ……そのパニックの中、「気付いた」自分が言う。

 

「念の系統という念能力者としての常識に捕らわれない相手を、お前は知っているだろう?」と、自分の中の誰かが指摘する。

 

 その指摘が、気付いていなかった、気付かないでいようとした、気付く前に全てを終わらせてしまいたかったものを突き付けられる。

 

 ばさりと、毛布が投げつけられた。

 鉄板並みの強度を誇って、キルアがいくらオーラを込めても引き裂くどころかほつれもしなかったそれは、相手の手から離れたことでただの毛布となって落下するキルアと、彼に遅れて落ちてきている相手を遮る。

 

 地面に到達したキルアが受け身を取りながらも、降って来たその毛布を手で薙ぎ払うと、月を背に相手は……夜空に黒髪を広げて落下する少女は、キルアを真っ直ぐに指さして、囁く。

 

 

 

 

「――――――ガンド」

 

 

 

 

 黒い魔弾が、その指先から撃ち出された。

 

 * * *

 

「キルア!!」

「!? ゴン!!」

 

 毛布に包まれていた少女が一瞬浮かんだように見えたことで、驚きすぎて固まってしまっていたゴンだが、相手がキルアに何か黒い念の弾丸のようなものを撃ち出したのを見て、何が何だかわからず狼狽しているレツの声も耳には入らず親友の名を叫びながら、自分も飛び降りた。

 

 幸いながら、外れたのか元から当てる気がなかったのか、黒い念弾はキルアのすぐわきの石畳に当たって消える。

 なのに、キルアはその場にしゃがみ込み、何も言わない。動かない。

 ゴンが降りてきたことにすら気付いている様子はない。

 

 ただ目を見開いて、「……嘘だ」と呟いていた。

 

 ゴンにはわからない。

 初めから彼女は自分に背を向けているか、毛布に包まれていたので、髪の長さとワンピースらしき服装から女性であること、そして背丈からして自分たちとそう歳は変わらない少女であることしかわかってなかった。

 彼女がなんと囁いてあの黒い念弾を撃ち出したのかは、部屋で「何が起こってるんだ? どういうことなんだ?」と怯えてパニック状態だったレツの声に掻き消されて、聞こえてなかったようだ。

 

 だから、キルアの反応の意味が何も分からず困惑していると、キルアと向かい合っていた少女が髪を掻き揚げながらゆっくりとゴンに振り返る。

 

「!」

 

 彼女の顔を見て、ゴンは思わず目を見開いて固まった。

 

 それはとてつもなく、美しい少女だった。

 歳はゴンの見立て通りレツよりわずかに上、14歳前後であり、両目を固く閉ざしているが絶世と言い切れる美少女。

 腰まで届く黒髪は、夜の暗闇の中でもつややかだとわかるほど滑らかに、掻き上げた少女の指先から零れ落ちてゆく。

 服装はシンプルな黒いワンピースなのだが、唯一の特徴として大きな白い襟とも丈の短いケープとも言うべきか微妙なものが首についているので、シスター服じみている。

 

 だが、修道女ではないと思えた。というか、どうしても彼女には本職はもちろんただの例えにしても、修道女は似合わない。

 

 ストイックな雰囲気は修道女のイメージに合うのだが、清楚や清貧という同じく修道女をイメージする言葉がこの少女にはどうしても似合わない。

 服装こそはあの特徴的なベールさえつけたら完全に修道女なのに、彼女が着るとただのシンプルな黒ワンピースが、シンプルだからこそ高級感の漂う、夜会にこのまま出席可能なフォーマルドレスに見えるほど、少女の佇まいは優雅で威厳があった。

 

 人形のようにという形容詞は彼女の為のものと言って過言ではない程に整っていながら、人為的にここまで整ったものを作れるのだろうか? と思える精緻な美貌は、何を考えているのかまったく読み取れない無表情なのだが、少なくとも彼女は何も焦っていない。

 無表情ながらも歳はゴン達よりわずかに上程度とは思えぬほど涼やかで凛とした佇まいは、あのヨークシンでの、クラピカに拉致されたクロロをどこか思わせる余裕と風格を感じさせる。

 

 年ごろからして「お姫様」という呼称が似合うべきなのに、彼女を表現するなら「女王」もしくは「女帝」あたりが適切と思えるほど、ただそこに立っているだけで異様な威圧感を虹彩のごとく煌びやかに放つ少女だった。

 

 しかし威圧感こそはあるが、敵意や悪意というものは全く感じられない。

 というか、実は初めからこの少女にそのようなものは感じられなかった。だからこそ、ゴンはすぐにキルアの助太刀に入ることも、レツをどこかに避難させることも出来なかったのだ。

 

 あまりに堂々としているので、実は敵でも何でもなく彼女の宿泊している部屋に、自分たちが間違えて入って爆睡していたのではないかとさえ思ってしまうほど、何故か相手よりまずは自分の非を探して不安になってしまう相手だが、やはり未だに少女から敵意の類は不機嫌そうという程度にすら見当たらないので、ゴンはそんな彼女の雰囲気に跳び起きた当初より困惑してしまっていたからこそ、あの黒い念弾が放たれるまでほとんど行動に移せなかったのが事の真相。

 

 そして今も、ゴンは困惑している。

 

 その向き合った少女と自分は、初対面だと言いきれた。

 ただでさえクジラ島には自分以外の子供は、自分より年下の女の子しかいなかったので、ゴンは歳の近い友達になれそうな人間に飢えている節がある。その為、彼は自分の周りに歳の近い人間がいたらつい、その相手を注目してしまう癖がある。

 なのですれ違った程度ならともかく、多少の関わりがあるのなら、ただでさえ異性にまだ興味をほとんど懐いていないゴンでも一瞬見惚れる程の美少女なら、間違いなく記憶に残っている。

 

 その記憶が「この人は知らない」と告げている。

 だけど同時に、「誰かに似ている」と思った。

 

 最初に思い浮かんだ人間は、今現在ちょうど少女を挟んで茫然としているキルアの実兄であるイルミ=ゾルディックだが、即座にゴンは「違う」と却下してしまう。

 艶やかな黒髪と、整っているが人形のような無表情は確かに彼の特徴や印象に当てはまり、彼に似ているのならキルアの様子がおかしいことに説明がつくとも思ったのだが、理屈ではない何かが「違う」と訴える。

 

 だけど、わからない。違うのはわかっているが、表面上の印象がやけにイルミと合致している所為か「違う」と判断しているのに、それ以外考えられない。

 まるで、否定しておきながらそうだと思い込みたがっているように。

 何かから目を逸らしているように、最初に浮かんだ「誰か」が出てこない。

 

「……自己紹介する気はなかったのだけど」

 

 しかし、それは突き付けられる。

 うんざりとした口調で少女は呟き、顔だけではなく体も完全にキルアに背を向け、ゴンと向き直って彼女は言う。

 

「でも、こっちの子は気付いたようだから、一応しておくわ」

「!? やめろ! ゴン! 聞くな!!」

 

 少女が嫌々なのを隠しもせず放つ言葉に、キルアが反応してゴンに向かって叫ぶ。

 だが、あんなに殺そうとしていたのに、殺し屋をやめてちゃんとプロハンターになったのに、それでも殺そうとした少女が無防備に背中を向けている状態なのに、キルアはゴンに懇願するだけで動けない。

 

 出来れば、ゴンも気づいていない内に始末してほしかった。何も知らない内に、彼女なんて消し去りたかった。

 けれど、知ってしまったからには、気付いてしまったからにはもう言えない。

 

「殺せ」なんて言えないし、キルアも殺せない。

 

 思い知らされた。

 レオリオの話からして、ソラはパイロを殺せたはずなのに、殺さなかった。自分から何故、無抵抗に眼を差し出したのかを。

 その理由を今、キルアは突き付けられて思い知る。

 

「キルア、どういうこと?」

 

 困惑したまま尋ねるゴンからの問いの答えを待つように少女は一拍間を置いたが、キルアが何も言えなかったことに失望したような溜息をついてから、彼女はシスター服のようなワンピースの裾を両手でつまんで広げ、実に優雅に礼をしながら告げる。

 

「はじめまして。()()がお世話になっているそうね」

「――――――え?」

 

 ただそれだけで、思い出せなかった、思いつかなかった、最初に浮かんだのに、だからこそ息を飲んで固まったのに思い出せなかった面影が一気に蘇る。

 蘇ってしまえば、何故わからなかったのかがわからなくなる。

 

 だって「彼女」とこの少女は……似ている。

 おそらく享年通りの姿なので「彼女」より10歳近く年下なのと、彼女と違って言葉使いや仕草が全て淑女の見本のように女性らしいから、イメージが真逆だからなかなか結び付かなかったけれど、顔の造形そのものは血縁者でないのが有り得ないと言っても良かった。

 

 だからこそ、ゴンは……、キルアは……絶望した。

 

 

 

 

 

「私の名前は――式織(しきおり) (うみ)。こちらでは、ウミ=シキオリと言った方がわかりやすいのかしら?」

 

 

 

 

 

 ソラを生かし、ソラを縛る、ソラの現在を決定づけたきっかけ。

 恩人にして亡霊、決して失われることのない傷にして、向き合わなかった罰。

 

 ソラの実姉、式織 海が敵に回ったという事実に、絶望した。


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