死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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138:人間VS人形

「風よ吹け。人の心を吹き荒らせ……」

 

 狂った執着でその眼を輝かせながら、オモカゲは自らが作り上げたと思っている舞台を満足げに眺めて呟く。

 そして彼の願い通りに、イルミは無表情、パイロは悲しげに一歩前に踏み出す。

 海はオモカゲの背後に控えたまま、両手で指を鳴らして彼らの前に陽炎のような空間の揺らぎ、空間置換を発動させる。

 

 既にゴンとキルアから海の置換魔術(フラッシュ・エア)について聞いているとはいえ、シンプルだからこそ応用が効きすぎて対策が困難な魔術にクラピカとレオリオは顔色を変えて、置換されているはずの空間の揺らぎを探してあたりを窺い、キルアは置換魔術を発動されたことにすら気づいていないゴンの腕を引いて庇いながら、叫ぶ。

 

「ソラ! 気を付けろ! あの鬼姉、置換魔術を……」

「わかってるよ!」

 

 ゴンと同じように眼球を失っているソラに注意を促すが、ソラは最後まで聞く前に答えて愛用のワンコインショップのボールペンを取り出して、半回転して自分の背後の空間を袈裟切りする。

 すると、ブチン! と太い電気配線が焼き切れて弾けたような音がすると同時に、空間の揺らぎに入り込んで体の前半分以上が消失しているという気味の悪い光景を生み出していたイルミとパイロの体が、元通りに戻る。

 

 空間を渡りきる前にこの魔術を殺せば、空間を渡っていた体が二分されるのではないかという不安でキルアやクラピカは一瞬焦ったが、この魔術はその名の通り空間を「置き換える」もの、別の空間に「繋いでいる」のではなく、「空間Aと空間Bを入れ替えて世界に誤認させている」が正確な為か、魔術を強制解除したらその後は認識が正されて元通りに戻るだけのようで、クラピカは安堵の息をつき、キルアは残念そうに舌打ちした。

 

 敵方の反応といえば、強制的に空間置換が解除されたことにパイロは空色の眼を少しほっとしたように細めるが、イルミは相変わらず無表情。

 そして海も焦った様子もなく無反応で、一番その光景に驚いていたのは余裕ぶって気取ったセリフをほざいていたはずのオモカゲ。

 

「海! どういう事だ!?」

置換魔術(フラッシュ・エア)を使うために仕込んでた結界を殺されただけよ。『直死』が眼ではなく脳に宿っていることはあの子本人に教えてもらったのだから、いちいち驚かないでよ。鬱陶しい」

 

 本当に鬱陶しそうに海は答える。

 しかし、その答えは全くオモカゲの驚愕を納得で薄めはしない。

 

 自分の能力のさらなる向上の為、海に自分の念能力の亜種と思われる「置換魔術(フラッシュ・エア)」をなるべく使うように命じていた。

 しかしその魔術は元々彼女の得意分野の魔術でも、使い勝手がいいものでもなかったので、一定の範囲内の「結界」を作り出すことで、その範囲内なら好きなように空間を繋げられるようにしていたのは知っている。

 そしてその結界が要だからこそ、人避けの結界のようにどこかに掘られたルーン文字を削り取る程度では壊せないことはオモカゲ自身が確かめた。

 

 なのに、いくら他の者とは違って海と同じく「魔術」の知識を持っているとはいえ、あんな一瞬で、何もないと思えた空間を一閃しただけであの結界が無効化された……殺されたなんてオモカゲには信じられず、彼は「空間置換でそれぞれ奇襲をかけろ」という命令が無効化されて、行動に移せないでいるパイロとイルミに気付かず、「ふざけるな!」と海に向かって怒鳴り散らす。

 

 そんなオモカゲを、やはりソラは相手にしていない。見ていない。

 だから同じく相手にしていない海に、ソラは向き直って尋ねた。

 

「……なぁ、海。何で海は、オモカゲ(そいつ)を殺してないんだ?」

 

 ズバリと身も蓋もないことを脈絡なく言いだして、周囲の仲間どころかパイロやレツ、そして理解したくないものからの現実逃避で怒り狂っていたオモカゲや何を考えているのかサッパリなイルミでさえも一瞬固まる。

 しかし、訊かれた海の方はやはり無表情で無反応。まるで、わかりきったことを訊かれて退屈しているようにも見える顔で黙っているので、ソラはそのまま話を続ける。

 

「……海、お前もう既に体はボロボロなんだろ?

 置換魔術(フラッシュ・エア)なんてうちの魔術系統にも、海自身の魔術系統にも合ってない。元々、使い勝手が良くないからこそ使い手がろくにいない魔術を実戦に使うには……劣化交換の魔術を実戦に使うには出される結果以上の対価が必要だ。……その対価で海が支払っているのは、時間や事前準備の労力だけじゃ無くて、海自身なんだろ?

 その体の仮初めの魔術回路に無理な負担をかけて動かして、たぶん歩くだけでも全身が痛むぐらいにもうボロボロなんじゃない? ……だから昼間はキルアの眼を奪わず、オモカゲも無理させずに帰って来いって言ったんじゃないのか?」

 

 ソラの指摘に、オモカゲは舌打ちする。

 自分の命令が海に負担をかけていたことは、創造主なだけあってオモカゲもわかっていた。

 ソラの言う通り、オモカゲの命令に従って使い勝手の悪い「置換魔術」を実戦向きに使う為に、海は海自身の魔術回路に膨大な負荷をかけて、魔術回路ではない普通の神経や血管なども魔術回路に変質させて作りだして増やして魔力を通すという外法まで使って使いこなしていたことを知っている。

 

 ソラの言う通り、昼間は絶好のチャンスだったというのにゴンの眼だけを奪って、キルアは放置して帰ってくるように命じたのは、海は今もその時も美しい澄まし顔を保っているが、その体は昨夜のゴンとキルアとの戦闘、そして乱入してきたノブナガの排除で既に歩くことすら本来なら困難なほど傷んでいたからだ。

 

 眼を奪えばその眼の持ち主の生命エネルギー(オーラ)も取り込むので、キルアの眼を奪って海を回復させようという考えも浮かんだが、おそらく問題ないだろうがこの世界の住人ではない、魔術回路という特殊な疑似神経を持っている海に眼を与えてもちゃんと回復する保証はなかったので、下手に不測の事態が起こってしまうよりはと考え、昼間は撤退させた。

 昼間のやり取りでイルミを使えばキルアは何の脅威にもならないことはよくわかったので、ゴンの眼だけで満足して少しは海を休ませた方が良いと判断したのが昼間の顛末だ。

 

 そして結局、少し休ませる程度ではほとんど回復もしなかったのと、この女はいくら逆らえないとわかっていても力をつけさせるのは危険だと判断して、「魔術」の知識を搾り取る為の頭と口さえ無事ならそれでいい、それ以外はキルア達の目を奪うために使い潰そうと判断したのが、今。

 

 幸いと言えるのか、オモカゲにはもちろん他の誰に対しても海は、全身の神経が焼けるような痛みを抱えて顔色も変えず凛然とした涼しげな美貌を保ち続けるので、例え昨夜よりも魔術のキレが悪くても相手は勝手にブラフだと判断してくれると思っていたが、やはり実妹は誤魔化せなかったことに歯噛みする。

 

 しかし自分の負担を見抜かれていた本人は、相変わらずの無表情。オモカゲと違って自分が不利である情報を見抜かれ、明かされても、焦りもせず悔しげでもない。

 ただ彼女は、眼を閉ざしたまま妹を見て、妹の話を最後まで聞いていた。

 

「……なんで、そこまでしてそいつに従ってるんだ?

 海なら、思考そのものの自由が奪われていないのなら、とっくの昔にそいつを罠にかけて自滅させることくらいできただろ!

 そんな奴の奴隷になるくらいなら、そうやって殺すことを選ぶ人だろうがお前は!!

 

 答えろ! 海!! 海が誇りよりも優先してそいつに従ってる理由は、そいつが言っていた通り『根源』に至る為に私を『使う』為か!? 答えろよ、アホ姉!!」

 

 そんな姉の泰然とした態度を見えていないのに感じ取ったのか、ソラは苛立ったように声を荒げて叫び、問い詰める。

 あまりに残酷な、ソラが見つけて選んだ「答え」を否定し尽くす「答え」を口にして、それが真実かどうかを尋ねる。

 

 どうか……どうか……、()()()()()()と祈るようにソラは姉を問い詰める。

 そして姉は、桜桃のような唇を開いて静かに答えた。

 

「……生前(まえ)から思っていたけど、あなたって案外私の事を買い被っているというか、私の事けっこう好きなのね」

「あーはいはい、好きですよ、尊敬してますよ、でも同時にめっちゃアホだと思ってるよおねーさま!! いいから答えろアホ姉!!」

 

 何故か妹が自分の誇り高さを疑わない所に感心したような声で言いだして、周囲を脱力させる海にソラはマジギレしながらヤケクソで肯定してついでに罵倒してからもう一度、質問の答えを促すと今度は素直に、シンプルに答えてくれた。

 

「違うわよ」

 

 即答で、否定した。

 

「というか、今の私はオモカゲが言うには『魔術師』でもないらしいわ。

『根源』に至るなんて訳の分からないことをさせる自由なんか認めないらしいから、確かにそれを禁じられるともう私は『魔術師(わたし)』ではないわね」

 

 どんなにオモカゲに対して好き勝手言ってるように見えても、自分もレツと同じく彼に逆らえない操り人形であることを、海はまるで他人事のようにおかしげに笑って語り、ゴン達どころかオモカゲ本人も困惑させる。

 だがソラだけがその答えに包帯の下で眼を見開いているのがわかるような顔を海に向け、さらに問う。

 

「……なら、お前はなおさら何でそこにいる? ……『魔術師』でなくても、海は海だろ!

 答えろ、海! お前は一体、『魔術師』としてじゃなければ、お前の誇りを捨ててまでして何でそこにいるんだ!?」

 

 妹の、何かを縋るような問いに対して海は笑う。

 女王のように高貴そのものだった雰囲気が一転して、おかしげに、からかうように、無邪気に笑いながら彼女はワンピースのポケットから何かを取り出して答えた。

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

 ソラを縛る亡霊が、今のソラを決定づけた言葉(きず)を再び口にして、そして振るう。

 鴉のものと思われる黒く大きな風切り羽根を、絵本に登場する魔女が使う魔法の杖のように。

 

「――――そこに、意味はない」

 

 振るうと同時に何かを呟き、その振るった軌道に合わせてテニスボール大の黒い球が……海が撃ち出すガンドと見た目の上では全く同じものが撃ち出された。

 

 

 

 真っ直ぐ、クラピカに向かって。

 

 

 

「!? クラピカ!! 避けて! 絶対に触れるな!!」

 

 警戒してなかった訳ではない。

 だけど全く自分など眼中にもない様子でソラと会話していたのに、あまりにも自然に自分の方に攻撃を仕掛けられたという事実が妙に現実離れしているように感じ、クラピカは思わず一瞬呆けてしまうが、ソラの悲鳴のような声が意識を現実に引き戻して、オーラで全身をガードしながら身を翻して避けた。

 

 その黒い球はクラピカが先ほどまでいた空間にはためいた彼のケープに当たると同時に、まるで水風船のように弾ける。

 水風船のように弾けた黒い「何か」がかかった床は、昨夜の海が「失敗作」と言っていた短剣から放たれた闇の刃と同じように、腐食したように風化したようにボロボロと崩れるが、直撃したクラピカのケープは無事だった。

 

「ぐっ!?」

「クラピカ!!」

 

 しかし、クラピカは短く呻いてその場に膝をつく。

 その声に真っ先に反応したのは、ソラ。彼女はつい数分前まで他人扱いしていたのも頭から吹っ飛んだのか、いつものように、いつもより悲痛な声と顔で駆け寄るが、二人の間に小さな影が走り、二対の木刀がソラを薙ぎ払った。

 

「!! ソラっ!! ……パイロ! やめろ! やめてくれ!!」

「……ごめんね、クラピカ。僕もしたくないけど、逆らえないんだ。

 それとソラさんも……ごめんなさい。……あなたの眼はもう奪ったし、本物であるあなたが死ねば人形の人格置換が上手くいくかもしれないから……、だからあなただけは確実に殺せって言われてるんだ」

 

 痛みはないが抗い切れぬはずの虚脱感に抗ってクラピカは叫ぶが、自分に背を向けてソラを木刀で打ち据えたパイロは、ソラの眼を酷く悲しげに滲ませて、オモカゲからの命令に殉じる。

 幸いながら、ソラだけがパイロの視界、彼が狙って来るであろう「線」を理解出来るからか、パイロの攻撃を喰らってしまったが「線」からは間一髪でずれるようにしていたようで、すぐさま立ち上がって「大丈夫!」と返答する。

 

 しかし「線」から避ける為に自分から急所であるみぞおちにむしろ当たりに行ったため、その声には説得力がなく、立ち上がったソラは痛そうに庇うように腹を抑えていた。

 ソラを案じてキルアとゴンも「ソラ!」と叫んで、彼女に助太刀しようとするが、そんな子供二人を足音も気配もなく近づいて来ていた長身の男、イルミが同時に長い足を鞭のようにしならせて蹴り飛ばす。

 

「キル、そしてついでにゴン。お前たちの相手は俺だよ」

 

 人工音声の方が人間味があるように思えるほど、冷たいよく知った声音に再びキルアの背に、顔に冷や汗が流れ落ちる。

 けれど、今度は笑う膝を手で押さえつけて、睨み返す。

 

 今度こそ、今度こそ「本能」にも負けずに自分の「本当」を貫き通すと誓って、キルアは目の前の兄に向って啖呵を切った。

 

「邪魔だどけ、クソ兄貴!!」

 

 イルミはキルアとゴン、パイロはソラと対峙する。

 そして海も、本当に体は既に負荷をかけ過ぎてボロボロなのか信じられないほど軽やかな足取りで近づき、自分のターゲットと対峙する。

 

 ソラと迷ったが、ソラが「私しかこの子の眼に対応できないから、クラピカを頼む!」と言われたレオリオが、ふらつきつつも立ち上がったクラピカを庇うように前に立ち、ハンター試験時から愛用の小さなナイフを構えているが、おそらく海はそんな彼の事どころかその背後のクラピカもろくに見ていない。

 

「わからないのなら、教えてあげる」

 

 その証拠に、自分に背を向けてパイロがどのように動いても動けるように臨戦態勢を取っているソラに向かって、彼女は言った。

 

「私の目的は、今、この瞬間。あなたの大切な『クラピカ』と戦う為よ」

 

 無邪気に、楽しげに、海は笑って言った。

 

 * * *

 

「ちっ! 生前(まえ)からだったけど本当に何考えてるかわかんねー奴だな!!」

 

 パイロと対峙したままソラが舌打ちして、もはや姉の言い分を理解することを放棄したが、妹の代わりにクラピカは自分を庇うために前に出たレオリオを押しのけて、海に問い返す。

 

「……海。あなたはオモカゲの命令ではなく、自らの意思で私と戦うことを望むというのか?」

「そうよ」

「……何故だ」

 

 クラピカの問いに海は即答し、その動機をさらにクラピカが尋ねると彼女は「わからないの?」と尋ね返してから、床を一度ヒールで踏み鳴らして、腕を組んでソラと同じくらいのサイズだが彼女の身長と年齢を考慮すれば悪くない発育と言える胸を張って、凛然と言い放つ。

 

「婿いびりよ」

「「…………は?」」

 

 あまりに堂々と言い放たれたので、クラピカとレオリオはきょとんと目を丸くして気の抜けた声を上げる。

 二人だけではなく、ゴンとキルアも海の宣言を聞いた瞬間脱力したのか転びかけ、二人と対峙していたイルミも隙だらけの二人に何もすることなく、ゴンの眼を珍しく半目にして固まっている。

 そしてオモカゲ自身も予想外だったのか、クラピカ達よりわずかに遅れて同じように「は?」と声を上げた。その後ろで座り込んだままのレツも、オモカゲと兄弟なのだとわかるよく似た顔で口をポカンと開けているので、声があれば同じ声を上げていたのだろう。

 

 そしてもちろん、実の妹は普通にキレた。

 

「お前は何を言ってんだーーっっ! マジで空気を読め、アホ姉!!」

「あなたにだけは『空気を読め』ってセリフは言われたくないわね」

「私にすら言われるってことを自覚しろって言ってんだよ、この超ド級のマイペースバカ!!

 パイロ、ごめん! 1分待って! ちょっとあのアホ姉に淑女のフォークリフト決めて来るからちょっと待って!!」

「えっと……ごめんなさい。僕としては待っててあげたいけど、それは無理かな?」

 

 海のセクハラなのか何なのかもわからない発言にキレたソラが、向き合っているパイロに対して切実な無茶ぶりを言い出し、パイロもパイロで戸惑いつつその頼みを聞いてやりたいと正直に答えながらも、彼は二対の木刀を振るう。

 

 しかし姉のトンデモ発言で頭に血が昇ってテンパっているように見えても、この女の狂気は止まることなどない。

 パイロの右手からの薙ぎ払いはオーラで強化されたソラの左腕でガードされる。

 それだけではない、ソラは右腕も同じように強化して頭を庇うように掲げている。それは、クルタの武術の初手が「右手の薙ぎ払い」か「左手の振り下ろし」であることを完全に読んだ防御であることに気付き、パイロは空色の瞳を細める。

 

 喜ぶような、少し悔しがっているような目で彼は木刀を振るいながら、ソラに話しかける。

 

「……知ってるんだ。クルタ(ぼくら)の武術を」

「知ってるさ。1カ月程度だけど、クラピカの修業に付き合ったからな!」

 

 パイロの振るう木刀の動きを先読みというより、初めから全て知っているように、ソラは舞踏じみた軽やかさで避け、防ぎながら答える。

 4年前の1か月ほどしか付き合っていないけれど、それでもソラにとってそれは大切な思い出だから、クルタの武術は剣術も体術も全て、全部、少なくともクラピカが把握して使っていたものは何もかも知っている。

 

 その思い出にソラの狂気による狂った死を夢想する詰将棋と合わさって、パイロの攻撃は全て完封される。

 だが、ソラ自身にパイロを傷つける気がサラサラない為か、彼女から攻撃を仕掛けないので、二人の動きは打合せと練習を重ねた演舞のように、ただひたすら舞うような攻撃とその防衛を繰り返し続ける。

 

「……あなたは本当に、優しい人なんだね」

 

 この演舞はソラのお情けで続いていることを理解しているパイロが、寂しげに笑って言った。

 

「あなたがクラピカとまず初めに出会ってくれて、本当に良かった。あなただけじゃなくて、新しい友達ができたことも本当に嬉しいよ……。クラピカの友達は僕だけだと思ってたから……」

「え? 待ってクラピカの友達、君だけ? 同世代が君だけだったとかじゃないはずだよね?」

「ごめん、僕の言い方が悪かった! そんなことないから悲しい勘違いしないであげて!」

 

 クラピカが決して独りではない、過去に囚われて幸福になれずにいる訳ではないことを喜びながら、そこに自分がいないことを少しだけ寂しげに語るパイロに、ソラは素でクラピカに失礼な勘違いをし出して、パイロから感傷が吹っ飛んだ。というか、このエアブレイクに関してはパイロも自覚がある通り、ソラよりパイロの言い方が悪すぎた。

 

 幸いながらクラピカ達の方も海との戦闘が始まっているので、クラピカにパイロとソラの会話が聞こえた様子はない。

 そのことにホッとしつつ、パイロは困ったように、けれど楽しそうに笑う。

 

「何ていうか……、調子が狂うけどあなたがそういう人だから、クラピカは僕たちのことを忘れることが出来たんだね」

「忘れてなんかいないさ。だからこそ、今ここに君がいるんだろ?」

 

 本意ではないが手加減など出来ない攻撃をソラは受け流しながら……、一瞬でも気を抜けば自分が今までしてきたように、元からそうやって外れる構造だったかのように体が切断されるとわかっていながらも、パイロの言葉に笑って応じる。

 

 その笑顔を、自分の身を守ることよりもパイロを普通の人間のように扱って、相手にしてくれることを嬉しく思うからこそ、パイロの顔は罪悪感で悲痛に歪む。

 

「そう……。クラピカは死んだ僕の事を忘れないで、今でも僕を親友だと思ってくれてる。だから僕は今、……生きてる。どうしても逆らうことが出来ない強い意思に操られて……。僕が生きてるから……クラピカの友達の眼も奪わなくちゃならない……。クラピカを救ってくれたあなたを……殺さなくちゃいけない……。

 そんなこと……したくないのに……」

 

 ソラの眼を悲しみとオモカゲに逆らえない無力感から溢れ出る涙で滲ませて、パイロは語る。

 その眼に宿る感情が、ソラ自身のものかパイロのものなのかはもうどちらにもわからない。

 

「わかってるんだ。僕は『本物』のパイロじゃないことくらい。けど……けど……覚えてるんだ!

 全部、長老(ジイサマ)のことも、クラピカのお父さんやお母さんのことも――。美しい森だけが世界の全てだった、あの頃のことも……! 全部!!」

 

 パイロの慟哭に、ソラはわずかに悲しげな様子を見せる。

 しかしそれは、パイロの「偽物でも生きていたい」という願いに対しての同情ではなかった。

 

「……覚えているのは、『クラピカの両親』なんだね。……やっぱり、()()()()()

 

 パイロに対しての同情ではなく、期待していた何かを惜しむようにソラは小さく呟いた。

 その呟きに、パイロは今にも泣き出しそうな顔で、それでも懸命に笑う。自分が縋る何かを、振り払うように。

 

()()()()。僕は……()()()()()()()()()()()()。だから……だから、ソラさん。

 どうか――、躊躇わないで」

 

 主語のない会話。しかし、二人はそれでも十分に理解しあって、ソラは悔やみ、パイロは精一杯笑って懇願しながら木刀を振り上げる。

 

 ややうつむいていたソラの顔が上がり、振り下ろしたパイロの木刀をオーラで強化した右腕で受け流してそのまま彼とすれ違うように追い抜いてソラは言った。

 

「初めから、躊躇いも迷いもないさ!」

 

 するりとソラはパイロとの演舞から抜け出し、駆ける。パイロの脇をすり抜ける際、包帯によって大部分が隠されていても美しいと言い切れた、晴れ晴れしい笑顔を向けて彼女は言い捨てる。

 

「君は、『パイロ』だよ! 間違いなく、偽物であっても、君は本物の、本物よりも本物の、『クラピカの親友(パイロ)』だよ!」

 

 自分を無視して駆け抜ける無防備な背中に、追い打ちの攻撃を仕掛けることは出来なかった。しなかった。

 それは3体の人形を同時に、細やかな指示や命令を出して操る余裕がオモカゲにはなかったから許された、一瞬の自由。

 パイロはオモカゲが予想しなかった行動をソラが取ったことでできた、ほんのわずかな、間違いなく「自分の意思」で動けた瞬間を無駄にはせず、大切に噛みしめる。

 

 偽物であることを自覚している自分には許されないと思っていた、「本当」。偽物でも、この心が生み出す感情も願いも本物だからこそ、捨てられなかったもの。

「パイロとして生きてもいい?」という願いに、「いいよ」と答えてくれた喜びを、パイロはほんの数秒間だけ、それでも確かに「パイロ」として喜び、噛みしめた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「あのアホ姉は何言ってんだ!?

 マジで無駄なとこだけ濃い血の繋がりを見せてんじゃねーよ!!」

 

 海のどこまでが本気かさっぱりわからない発言で抜けた気を何とか入れ直したキルアが、心からの感想をブチキレて叫ぶ。

 

「言ってる場合?」

 

 しかしそんなことしている余裕などないと、思い知らされる。

 兄の姿をした人形が、呆れたような声音と同時に禍々しいオーラを増幅させて、キルアに現状を知らしめる。

 

(“錬”!)

 

 練り上げて一気に発せられたオーラに、キルアの膝が笑う。

 その嗤う膝を両手で押さえつける事だけで、今にもゴンやソラたちを見捨てて、背を向けて逃走しないように足を踏ん張ることだけで精一杯のキルアに、イルミは小首を傾げて尋ねる。

 

「……キル、まだわからないのかい?」

 

 答える前に、イルミはキルアの目の前にまでやってきた。

 足音もなく、まるで初めからそこにいたと言わんばかりにキルアの眼前でイルミは自分を見下している。

 

(速いっ……!)

 

 一瞬の間を置いて、キルアはイルミからバックステップで距離を置く。それは完全にイルミのお情けで許された行動であることに歯噛みしながら、それでもキルアは頭の中で響く呪縛(イルミ)の声に逆らい続ける。

 

(兄貴とは力の差があるのはわかってる。でも……)

「無駄だよ」

 

 自分の呪縛の声に反論するキルアに言うように、イルミは自分から距離を置いたはずのキルアの背後にいつの間にか回って、弟を蹴り飛ばす。

 本気ではないが、実家にいた頃の訓練よりはるかに強い力加減に背骨が軋むのを感じながら、キルアは広間の床にボールのように蹴り転がされる。

 

「キルア!」

 

 眼が見えていないのと、イルミが速すぎてなす術のないゴンが悲鳴のような声を上げてキルアを案じる。

 その声が、キルアの頭の中の呪縛をわずかに、一瞬だけでも掻き消した。

 だから、キルアは立ち上がって精一杯の強がりで笑って見せる。

 

「くっ……この程度で負けちゃいねーぜ!」

 

 自分はまだ戦えると、言い聞かせる。

 もう、取り返しのつかないことなんかしないと決めたから、キルアは真紅のペンダントトップを握りしめて、イルミと対峙する。

 

 だが、キルアの精一杯の強さなどイルミからしたら悪足掻きにもならない、花でも手折るように容易く行えるか細いもの。

 だから彼は淡々と、いつものように言い聞かせる。

 

「――お前は熱を持たない闇人形だ」

「!?」

 

 その指摘に、「それはてめーの方だろ!!」という軽口の皮肉は口から出てこない。

 今、相手にしているのは人形とはいえ実の兄弟なのに、そんな軽口を言い合える関係ではなかったから。

 キルアが懐くイルミに対しての感情は、兄弟としての親愛や尊敬といったものはない。ただ根源的な、「逆らってはいけない」という恐怖が、その指摘によってスイッチが入ったように蘇る。

 

(……俺が……人形……?)

 

 否定できない。

 この一言で逆らう気が根こそぎ奪われ、何も出来なくなる自分を「イルミの操り人形」と言わずに何というかがキルアにはわからない。

 キルア自身がそうとしか思えないのに。

 またしても、心は自分を信じてくれた人たちを全員裏切っているのに。

 それなのに……、それなのに……、それでも――――

 

「そんなことない! キルアは闇人形なんかじゃない!」

 

 見えない眼で、何度か転びかけてもゴンは駆け出して、駆け寄って、イルミの前に飛び出して立ちはだかり、否定する。

 キルアは人形なんかではないと主張する。

 キルアを信じて、疑わない。

 

「邪魔」

「うぐぅっ!?」

「ゴン!?」

 

 そんなゴンをイルミはゴン自身の眼で、ゴンものとは思えぬほど冷たい目で彼を見下し、無造作に手で払いのける。

 言葉通り、イルミにとってゴンは障害物のゴミでしかなかった。彼の言葉など、届いていない。

 

 ゴンを薙ぎ払って悠々とキルアに歩み寄りながら、イルミは言い聞かせる。

 バグを修正するように、キルアは何であるかを淡々と、何の感情も籠っていない無機質な声音と瞳で言い聞かせる。

 

「お前が唯一、喜びを感じるのは人の死に触れた時……」

 

 否定の言葉は喉から出てこない。

 間違いなく「違う」はずなのに、「違う」と言いたいのに、キルアの「望み」という「本当」は、「どう生きたいか」という望みはそれよりもはるかに強く根源的な「死にたくない」という本能によって塗りつぶされる。

 死なずに済むのなら、そんな望みくらい捨ててしまった方が良いと弱い自分が囁いて、自分の勇気も願いも、ゴンの言葉も行動も、イルミの声に言葉と眼によって食い潰されて塗りつぶされる。

 

 あまりも強大で凶悪な脅威が、「死にたくない」という願いだけを増幅させて他の全てを、どれほど大切なものであっても全て塗りつぶしてゆくから……

 だからキルアは、逆らえなかった。

 

 

 

「淑女のぉぉぉぉっっっ! フォォォォクッッリフトォッッッ!!」

「!? ちょっ、おいぃぃぃっっ!!??」

 

 

 

 

 後ろからパイロと交戦していたはずのソラが、実に軽やかかつ華麗にしてダイナミックなローリングソバットをイルミにブチ決めたその瞬間まで。

 呼吸さえもままならなかったはずの喉から、思わず出てきた叫びはソバットを決められた兄を案じているのか、兄に対してそんなことを実に元気よくやらかしたソラを案じているのかは、もはやキルア本人にもわからない。

 

 わかることはただ一つ。

 ソラがイルミにローリングソバットを決めた瞬間、キルアの心をわし掴んで縛り付けていた脅威は、恐怖心は全て粉々に粉砕されたことだけ。

 

「くっ!」

 

 しかしさすがにイルミも、不意打ちとはいえ無防備にソラのソバットを後頭部に受けた訳ではない。くらいはしたがオーラで強化された腕でガードして、脳震盪を起こすことは避けている。

 そしてそのままバランスを崩して倒れかけたイルミの足をソラは掴もうとしたが、ソラが叫んだ「淑女のフォークリフト」という意味不明な技がどのようなものかを知っていたからか、それとも知らなくても悪い予感しかしなかったからか、イルミは崩れたバランスを直すよりも優先して隠し持っていた針をソラに向かて投げつけた。

 

 見えずともやはり敏感にイルミの殺意を感じ取って、ソラはイルミの足を掴むのを諦めてそのまま体操選手も顔負けのアクロバティックな動きで針を避けつつイルミから距離を取って言った。

 

「ちっ! ごめんキルア! 淑女のフォークリフト、失敗した!!」

「して良かったわ! この流れから兄貴がジャイアントスイングとバックドロップ決められたら、俺は拍手したらいいのかガッツポーズ取ればいいのかわかんなくなるっつーの!!」

「キルア! 本音が凄い出てる!! 喜びっぱなしだよそれじゃ!!」

 

 ソラの実に残念そうな謝罪に、キルアは勢いよく突っ込みを入れるが完全に勢いだけで言っているので、ゴンの言う通り「さすがにそんな技を決められる兄貴は見たくない」という建前のオブラートが破け過ぎである。

 

「……へぇ。キルはそんな風に思ってたんだ」

「うっ…………」

 

 そしてその勢いだけのセリフをさっそくキルアは後悔する。

 ソラからの攻撃を防いだ腕の調子を確かめながら、イルミはいつも通りの棒読みで、けれどもいつもより底冷えする声音で呟き、キルアに先ほどまでとは微妙に違う、先ほど以上に逃げ場がないのに妙に緊張感が抜ける修羅場が訪れる。

 

 だが、その修羅場もソラが破壊し尽くす。

 

「……ふふっ……ははっ! はははははははははははっっ!

 イルミ! お前、この状況でそれか! この状況で、私に、この私に邪魔されて虚仮にされて、なのに優先するのはキルアの方か!!」

 

 唐突に、高らかに笑いだして指摘するソラに、キルアとイルミは「はぁ?」と言わんばかりに困惑するが、ゴンは「あ!」と何かに気付いた声を上げる。

 その声に気付いたキルアが、ゴンとソラを見比べて「おい、どういう事だよ!?」と尋ねるが、ソラの背後でソラがくれた言葉を噛みしめる自由を終えたパイロが、ちょっと困惑したような顔で木刀を振りかぶって襲い掛かり、ソラは再びパイロとの攻防戦に戻る。

 

 その間際、ソラはまだ笑いが納まらないのか実にハイテンションでキルアに与える。

 

「キルア! 君が怖いのは『イルミ』なんだろ!? 安心しろ! そいつは君にとっては本物よりも本物な『イルミ』かもしれないけどな! 君以外にとっては偽物でも過大評価なくらい別物だ!

 キルア! そいつは『イルミ』じゃないから君なら勝てるよ!!」

「はぁっ!? どういう意味だよ!?」

 

 ソラが与えたのはヒントどころか答えだったのだが、キルアには意味がわからず更に問うが、ソラとキルアの間に入るようにしてイルミはキルアを再び蹴り飛ばす。

 今度は前からだったのでガード出来たが、それでもその蹴りの威力はどう考えても本物の、実兄のイルミそのものにしか思えない。

 

 ソラが何を思って、「そいつは『イルミ』じゃない」と言ったのかがキルアにはわからない。

 

 キルアにはわからない。

 だが、ゴンにはわかった。

 

「キルア! ソラの言う通りだよ! あれは、イルミじゃない!」

「は? お前まで何言って……」

「だってイルミなら、ソラにあんなことされたらキルアよりソラを優先して殺そうとするよ!! オモカゲの命令でそれが出来なかったとしても、少なくともソラに殺気を向けたり、すごく不満そうな反応するよ!!

 キルア! キルアはよく知らないかもしれないけど、キルアが思ってるよりもずっとイルミはソラの前じゃ人間らしくて、ソラを無視できない人なんだ!!」

 

 イルミに蹴りつけられたキルアに駆け寄ったゴンがソラと同じ主張をし、キルアはあまりの意味不明さにやや苛立った声を上げるが、興奮しているゴンはキルアの発言に被せて「『イルミ』ではない」根拠を告げる。

 

 その根拠に、キルアは目を丸くして呆けた。

 

 イルミがソラを妙に嫌っていることは知っていた。ソラに自分がゾルディック家の人間だと知られて最初に彼女がまず言った事は、「君ん家の長男、どうにかしろ」だったし、ハンター試験ではターゲットでもないのに狙われて交戦したのも聞いていたし、最終試験でも出会い頭に攻撃を仕掛けたのはこの眼で見た。

 

 けれど、キルアにとって兄はどこまでも人間味などなく、自分の殺意より家や家族の損得を優先する人間だった。

 キルアはイルミが合理性などなく人間らしく感情をむき出しにしている所なんて、あの最終試験でしか見たことがなかった。

 印象的ではあったが、その一度きりの「例外」は今までの自分のイメージを覆しはしなかった。

 

 だから、キルアにとっては自然だった。

 しかし、ソラにとっては不自然極まりなく、そしてゴンにとっても指摘されたらすぐさま理解出来るほど心に引っかかっていた違和感だった。

 

 ゴンの眼を持ったイルミを「混ぜるな危険」だの「普通にキモイ」と言い放ったソラに、何も言い返さず、殺気もぶつけずにしらっと無視していたのが。

 

 おそらく、あの発言が他の人間だったらイルミは本物であっても同じように、自分に言われたとも思ってなさそうな無反応を貫いただろうが、ソラ相手では話が別。

 その「話が別」な理由は、三次試験でゴンが覗き見て思った推測が正しいのか、また別の理由があるのかまではわからないが、それでもゴンは確信している。

 

 自分たちが今相手にしている人形は、決して本物そのもののイルミではない。

 

 イルミにとってキルアとソラ、どちらの方が優先度が高いのかはまではわからない。

 だけど、少なくとも「普通にキモイ」という暴言を吐かれても、後ろからローリングソバットを決められても、他人事のように無視できるほどイルミにとってソラはどうでもいい存在では決してない。

 

 どんな意味であれ、どんな想いであれ、おそらく彼にとってソラは「例外」の位置にいる人間。

 オモカゲの命令で手が出せなくても、オモカゲの人形たちはレツやパイロ、そして海の反応からして心は自由だ。だからこそ、少なくとも殺気くらいはぶつけるはずなのに、それを全くしない。

 

 それはゴンやソラにとっては不自然極まりない事だったが、キルアにとっては自然だった。

 イルミとソラのやり取りや関係をゴンはもちろん、クラピカやレオリオよりも見ていない、知らなかった、知っていたとしても又聞きでしかなかったキルアにとってイルミは、ソラがバカなことを言ってもやっても無視できる人間だった。

 

 それがキルアにとって真実の、本物のイルミだった。

 キルアしか知らない、キルアだけが思い込んでいるイルミだった。

 

「だから、キルア! 勝てるよ! あれはキルアが生んだイルミだから……、キルアだけのイルミだから……、キルアが勝てないって思っているうちは例えキルアが本物のイルミに勝てるようになっても、絶対に勝てないけど……でもキルアが勝てるって思いさえすれば勝てるイルミなんだよ!!」

「うるさいよ」

 

 ポカンと呆けるキルアにゴンが、あれが「イルミ」ではない根拠を、勝てる根拠を言い聞かせていると、無防備なゴンの真後ろに、呆けているキルアの前に当の本人が現れ、二人をまとめて蹴り飛ばす。

 容赦はないが、殺す気もまだない。心を壊すための甚振る、拷問の為の力加減は記憶通り。この痛みに何度も何度も心を折られて、恐怖を刻み込まれた。

 この痛みを、それを与えてくる者を偽物とは思えないほど、キルアの中に刻み込まれてきた。

 

 それでも、一緒に蹴り飛ばされた、いやゴンの方がイルミの前にいたのでダメージが大きかったはずなのに、それでもゴンは痛みに呻きながらキルアに訴えかける。

 

「……勝てるよ、キルアなら絶対に。……勝とうよ、キルア。……一緒に」

 

 イルミが自分に近づきながら何かを言っているのに、ゴンの声しか聞こえない。

 生まれた時から刻み込まれた痛みよりも、自分の手を握るゴンの手の方が熱かった。

 

「死にたくない」という願いは消えない。

 けれど、それを上回る願いが溢れ出す。

 

「――――あぁっ!!」

 

 ゴンの手を握り締めて、一緒に立ち上がる。

 その手と一緒に掴んだ、「勝ちたい」という願いは手放さないと誓って。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 あまりに唐突な発言に頭が真っ白になっていたクラピカだが、海が言い放ったセリフの意味を理解するにつれて顔に熱がたまり、耳まで赤くして慌てて言い返す。

 

「な、なななな何を言ってるんだ、あなたは!?」

「何を本気にしてるのよ」

「性格最悪だな、お前!!」

 

 しかしまさかの、言い放った本人がやたら冷めた調子で一蹴してきたので、クラピカは一応程度にあったソラの姉に対する礼儀を即座にかなぐり捨てた。

 

「……海、それなりに面白い茶番だが真面目にやれ」

「ふざけてないとやってられないわよ」

 

 そんな彼らのコント染みたやり取りにオモカゲが苦言を零すと、海は髪を掻き上げて言い返す。

 その発言に、カチンときたのは当然クラピカの方。

 

「……自分から私目当てだと言っておきながら、ふざけてないとやっていられないと言われる程の醜態はまだ見せないつもりだが?」

「バカね、原因と理由が逆よ。あなたが醜態をさらしたからやる気をなくしたのではなくて、私が自分の意思であなたに関わること自体がふざけているの。

 ふざけているから、私は自分の意思であなたの相手をするのよ。……あなた相手に真面目になんかやってられないわ」

 

 腰巻から二対の木刀を取り出し、構えながらクラピカがややむきになった様子で言い返すが、それにも海は「何でわからないの?」と言いたげに即答する。

 その返答にまたクラピカの低い沸点が反応するが、レオリオが「落ち着け」と彼を宥めて前に出て、クラピカの代わりに「意味わかんねーんだよ!」と海との対話に応じる。

 

「そうね。わかるようになんて言ってないもの。理解してもらえるとも思ってないしね。

 言葉の上っ面だけで知ったような気になって、半端な理解で見当違いな解釈されるよりは、初めから最後まですべて全部誤解され続けた方がずっとマシだもの」

 

 しかしそれ以上、海は自分の心情などを語る気はサラサラないのか、再び鴉の羽根らしきもの今度は三つ取り出して、それを投げナイフのように投げつける。

 

水底に灯を(消える)大地に翼を(墜ちる)断頭台に正義を(無くす)

「! レオリオ! 下れ!!」

 

 その投げつけられたものと、呟く海の言葉に反応してクラピカは飛び出し、オーラを纏った木刀と足で投げつけられた羽根を打ち払う。

 羽根は最初に撃ち出されたガンドのようなものと同じように、木刀やクラピカの足に当たった瞬間、水風船がはじけるようにして溶けて形を無くし、黒い汚泥のような液体となってすぐさま蒸発してゆく。

 

「!? おい、クラピカ! 大丈夫かそれ!!」

「問題ない。……オーラさえ纏っていれば、ダメージを負うことはない。纏うオーラの量を見誤らなければ、先ほどのような無様な姿に陥ることもない。

 ……だが、連撃されると不利だ。レオリオも出来る限り多くのオーラを纏っておけ」

 

 木刀に当たったものはともかく、足で弾き落としたものに最初のダメージを見ていたレオリオが焦って尋ねるが、クラピカはレオリオの方を向きもせずに答えて忠告する。

 そして言われて見てみると、クラピカの足はもちろん木刀も最初の攻撃で当たった床とは違い、腐食や風化したようにズボンの裾や木刀は崩れ落ちておらず、クラピカの顔色や様子からして彼の「問題ない」発言も意地で強がっている訳ではないと判断し、ひとまずレオリオは安堵した。

 

 その安堵を補強するように、海はクスクス笑って感心したように言う。

 

「あら、もしかしてもう『これ』がどんな魔術なのか気付いているのかしら?」

「……ソラが、あなたの魔術を参考にした能力を作りだしていたからな。それと効果も、呪文らしい言葉も同じだったから見当づいただけだ」

 

 クラピカの返答に、海は艶然と笑って何もしないし答えない。まるで、「答え合わせをしてあげる」と言わんばかりに、黙って見ている。

 瞼は固く閉ざされたままなのに、それなのに自分の奥底まで見透かすようなその眼差しにクラピカは居心地の悪さを感じながらも、木刀を構えて、海の隙を見つけるまでの時間稼ぎのつもりで自分の考えを口にする。

 

「……あなたは確か、『アベレージ・ワン』というものらしいな。魔術属性である『五大元素』を全て高い水準で持ち合わせた万能型故に、どの属性を優先して伸ばせばいいかわからない悩みを持ち合わせるとソラから聞いた。……そして、あなたはその五つの属性のどれかを優先して鍛えるのではなく、それら全てを使う魔術を研究していたともな。

 

 ……あなたは五つの属性を全て混ぜ合わせることで『混沌(カオス)』を作り出し、その『混沌』を更に突き詰めて、万物があるからこその無意味を……『虚無』を作り出し、そこから根源に至る研究をしていた。

 先ほどの攻撃は、その研究から生まれた副産物。五つの属性全てが混ざり合って溶け合っている所為で、何にもなれず、成さずに消えていくしかない魔力そのもの。ただ、消える際に自分の身近な、触れているものの生命力を貪欲に喰らって、巻き添えにして消えていく呪いのようなもの。

 

 五大元素の魔術でありながら、ソラと同じ架空元素であり、ソラの『無』とは違う『有り得るが物質界に存在していないもの』を一時的、疑似的に生み出す『虚数』属性の魔術こそが、あなたにとって本来の得意分野である魔術なのだろう?」

 

 クラピカの答えに、パチパチとやる気のない拍手が数度鳴る。

 

「基礎知識もなく、あの子の話だけでそこまで理解しているのは純粋に称賛するわ。うちの愚妹より、魔術師に向いてるわよ」

 

 そう言いつつもその言葉にも覇気がなく、どこまで本気なのかさっぱりわからない。

 ただ一つわかることは、拍手を終えて取り出した羽根扇子のごとくの鴉の羽根の数で、この女は手加減や容赦をする気がないことだけは、血の気が引くほど理解できた。

 

「あと、補足するならこの魔術は『生命力(いのち)を奪う』っていう特性上、黒魔術に近いから魔力を宿す媒体は宝石でなくとも、生物なら効率がいいの。だから、宝石よりは効果が落ちてるとはいえ、私の手持ちに宝石がほとんどないことをあまり期待しない方が良いわよ」

 

 さらに血の気を引かせる補足を加えて、海はダーツのごとく悪食鯨飲の魔力が宿った鴉の羽根をクラピカとレオリオに向かって投げつける。

 それをレオリオはようやくマスターした“練”でオーラを増幅して全身を守りながら、「てめー、マジで鬼だな!!」と叫んで逃げ回った。

 

“練”状態で逃げ回ると、海の魔力の当たり判定がでかくなって余計にオーラを奪われて消耗するだけの悪手なのだが、無防備な体に直接あの魔力が触れて生命力を奪われるよりは、おそらくずっとマシなのはボロボロの床を見れば想像つくので、クラピカはやや呆れつつも何も言わず、彼は投げつけられる羽根を見極めて、“凝”や“周”を施した武器や体の一部で打ち落とし、海までの距離を詰める。

 

 しかし、クラピカはまだ相手を理解し切れていなかった。

 

光は影の国へ、(我らの意味は)万象は海の底に、そして天空は檻の中(底なしの無為に食い尽くされる)

 

 相手の実力を甘く見ていた訳ではない。ただ、相手がどれほど「手段を選ばない」相手なのかを、見誤っていた。

 

「!?」

「!? クラピカ!?」

 

 突然、今度は声もなく倒れたクラピカに、逃げ回っていたレオリオが声を上げて駆け寄るが、その前にその首を前から掴まれて、嫋やかな繊手が、指先がレオリオの喉に食い込んで気道を緩やかに絞め上げる。

 

 その手は、手首から先だけが浮遊するように目の前に現れ、レオリオの首を絞めている。

 それを目の当たりにしたレオリオは、その手をはがそうともがきながらも、理解出来ない光景にパニックを起こすが、クラピカは纏っていたオーラの大部分を食われた所為で起きた、急激な虚脱感に耐えながら何とか体を起こし、晴れぬ疑問を口にする。

 

「何故……だ? 何で……まだ……置換魔術(フラッシュエア)が……」

「むしろ何で使えないと思ってるのよ? あの子が殺したのは、『この屋敷内で私が自在に空間置換をする為の結界』であって、置換魔術そのものは殺せてないわ。

 だから……これまで以上に()()()()()()()()()()まだ普通に使えるわよ。さすがに精度は落ちるけど」

 

 投擲された鴉の羽根は、囮。決して目を離せない、油断で出来ない攻撃を連射させることで自分の間合いこそを死角にして、海はまたしても空間置換を使ってゼロ距離で本命の悪食鯨飲の魔力が宿った宝石をクラピカに押し当てて発動させた。

 そのことは理解した。理解出来る。理解出来ないのは、信じられないのは――

 

「……てめぇ……使い……慣れない技で……もう体は……ボロボロじゃねぇのかよ!?」

 

 海に首を絞められながらも、レオリオが叫ぶ。

 叫びながらも、彼は知っている。理解出来ている。

 自分の首を絞める、それを外そうともがき掴んでいる少女の繊手が、あまりに高い熱を持っていること。決してソラの推測が的外れではない、真実だということをその熱が示している。

 

 なのに、海の方こそ倒れてないのが不思議なくらい発熱しておきながら、それでも彼女の顔はどこまでも涼やかな余裕を携えた美貌であり、声音も氷のごとく冷ややかだ。

 

「そうね。実は呼吸も辛いくらいよ。けど、それがあなた達に何の関係があって?」

 

 自分の体がボロボロであることを認めておきながら、その姿や言葉からは余裕しか見えない。弱さは一切見せない。弱さが一切見えない。

「ふざけてないとやってられない」という言葉とは裏腹に、心中覚悟としか思えないことをしている海の真意が、クラピカにもレオリオにも全く分からなかった。

 

 オモカゲからの命令で、自分の意思を無視して無理をしているという考えがよぎったが、ソラの話と少ないが海本人とのやり取りで知った彼女の人格からして、そうだとしたらむしろ彼女は「呼吸さえも辛い」とは言わない。

 オモカゲにさせられている事ならば、全く弱音には見えなくとも弱音に聞こえる発言は絶対にしないと確信していた。そんなことを言うような普通の少女なら、オモカゲの心労などないも同然だったはず。

 

 だから、理解してしまう。彼女のしていることは、オモカゲの命令など関係ない、海自身の意思であることを。

 だからこそ、何一つとして理解出来ない。

 

 仮初めとはいえ、自分の体や命を代償にしてまで彼女が「クラピカと戦うこと」を望んでいるのも、そのくせそれを「ふざけてないとやってられない」と言い放つのも、そして「ふざけてる」と自分で言っているくせに、未だ立ち上がることが出来ないクラピカを前にしても、嘲るどころかどこまでも冷ややかな無表情であることも。

 

 悪意とも殺意とも敵意とも違う、何かに怒っているような怒気は感じ取れても、その怒りの意味をクラピカ達は読み取ることが出来なかった。

 

 そんな「何もわからない」という顔が、魔術によって脳裏に映し出されているのか、海は深海のごとく静かで冷たい無表情と声音で嘲る。

 

「どうしたの? いつまで寝ているの? まさか、さっきの一撃でもう精根尽き果てたなんて、情けないこと言わないでよね。

 いくらペース配分もテクニックも知らない童貞でも、若いのだからもう少しくらい頑張って搾り取らせなさいよ」

「……関係ないことで、ふざけるな。……あなたは、本気で何を考えているんだ?」

 

 容姿に見合わない最悪な言い回しで嘲弄する海を、木刀を杖にして立ち上がったクラピカが、赤みが増した両眼で睨み付けながら静かに言い返す。

 普段の彼なら眼より顔を赤くしてブチキレるような発言だったが、そんなことが気にならないほどに海の「目的」でありながら「真面目にやってられない」と言われたことと、それを証明する言動が許せないようだ。

 

 しかし、クラピカの怒りでは海の「真面目さ」を引き出すことは叶わない。

 

「……そうね。関係ないわ。あなたが童貞であろうが、そうでなかろうが。

 …………良かったわね、関係なくて。……()()()()()()()

 

 クラピカの言葉を素直に認めたかと思った瞬間、じわじわと湧き上がるようだった海の怒気が爆発する。

 クラピカもレオリオも、その怒気に呑まれて動けなくなる。

 相変わらず殺意や悪意の類はない。だが純粋な怒気だけで、「死」のイメージを叩きこむほどの怒りだった。

 

vox Gott(戒律引用) Es Atlas(重葬は地に還る)

 

 何やら海が呟くのを、二人はただ見ているだけだった。

 海によってオーラの大部分が消耗させられたことなど関係なく、海の手が首から離れたことも認識出来ず、動けなかった。

 

 重力操作で体を軽くした海が一足飛びで軽やかに、優雅に跳んで来て魔術師にあるまじき華麗なローリングソバットを自分の頭に決められたのも、クラピカは直撃を受けてから気づく。

 姉妹揃って本当に魔術師か!? と思う余裕などない。重量操作で人間としてあるまじき軽さになって距離を詰めておきながら、ソバットがクラピカの頭にヒットする瞬間に重力を戻して、的確にこの女は相手の脳をかき回してきた。

 

 意識まで刈り取られそうな衝撃に、何とかクラピカは耐えた。しかし意識がある分グルグル回る視界に吐き気を覚え、視界も脳もかき回しておきながらその犯人は更に、グチャグチャにかき乱す。

 

「その通りよ。あなたの貞操なんか、誰にとっても関係ないしどうでもいい。ふざけてないと話題に上げることもないことよ。あの子とは……私たち『魔術師』とは違ってね」

 

 蹴倒したクラピカの腹の上に膝を落とすように乗って、高熱を発している繊手がクラピカの首を掴んで押さえつける。

 そこでやっとレオリオが海の威圧による金縛りを振りほどいて、「クラピカ!!」と叫んで駆け寄るが、何もかもが遅すぎた。

 

「凍て捕えろ」

 

 無造作に海は青い宝石、キルアの動きを封じたものと同じものをレオリオの足元に放り投げて、彼をその場に留める。

 そしてレオリオに見向きもせず、クラピカの首を左手で押さえつけて絞め上げつつも、右手の指先は彼の唇をまるで慈しむように、優しく嫋やかに撫でながら告げる。

 

「危機感も持たず、のぼせあがってるんじゃないわよ。婿呼ばわりに、何を呑気に喜んでるのよ。

 あなたは私の魔術が何であるかを理解するよりも、もっともっと理解して考えておかなくてはならないことがあるでしょう? 魔術師の体液に魔力が宿る。そしてそれは、念能力者(あなたたち)にも有効だって事を知って、何で色ボケたことに一喜一憂しているの? わかっていないようなら教えてあげましょうか?

 魔術師にとって、貞操は、純潔は一度きりの極上の魔力を搾り取る材料でしかないことを。その魔力をより高い純度で搾り取る方法を実践して欲しいの? お望みなら、この胎に蟲を突っ込んで掻きまわして、齧って啜って犯しつくして教えてあげても良くてよ、童貞」

 

 先ほど以上に下劣で悍ましく、最低最悪極まりないことを吐き捨てる。

 最低最悪でありながら、魔術師としての常識。彼女たちがいつかそうやって、奪われて傷つけられても、その傷を自覚させてもらえなかったはずのものが何であるかを突き付ける。

 

 海はクラピカの心を無造作に、滅茶苦茶に掻き乱しながら、それでもその声音は冷ややかで静かだった。

 熱のこもった、あのヨークシンで直死を限界まで精度を上げて使った後遺症で発熱していたソラを思い出させる程の高熱の手が、細い指先に籠る力はじわりじわりと増してゆき、ゆっくりと甚振るようにクラピカの気道を徐々に締め上げて塞いでゆく。

 

「良かったわね。今回奪われたのはあの子の命でも貞操でもなく眼……、それも取り戻す術があるのだから」

 

 クラピカの現状を、彼自身の弱さや愚かしさ、未練によって犠牲となり今に至る彼の「失敗」を、たとえ取り戻しても失われることのない、もう起こってしまった「事実」を突き付けて皮肉り、嘲笑う。

 

 しかしその嘲弄も彼女にとっては、「ふざけて」でしかない。

 クラピカを嘲ることに、この少女は愉悦もなければストレス発散にもなっていない。むしろ少しは発散できることを期待していたのに、全くの無意味だったことを思い知ったからか、ようやく海は少しだけお望み通り真面目になってやる。

 

 

「……本当に良かったわね。あの子、死にたくないくせにそれ以外は全部、平気で他人に渡しちゃうから。

 ……母が、父が、死霊どもが、魔術師(ボンクラ)どもが、…………私がそうやってあの子を育てたから。全部全部、お前の持つものを、持って生まれたものを、お前をよこせって言われて、それだけを求められて、奪われるためだけに育てられて、育ったから!!」

 

 クラピカの首を絞めながら覆いかぶさって、ソラによく似た顔が、ソラによく似ているけれどソラでは見たことがないほど後悔に歪んで……それでもなお美しい顔が、固く瞼を閉ざしたまま見下ろして言った。

 

 妹の在り様を、そんな存在に作り上げた周りを自分も含めて憎む呪詛のような言葉。

 

 ……その言葉に、クラピカはかすかな違和感を覚えた。

 しかしその違和感は、すぐさま塗りつぶされる。

 

 後悔から憤怒と嫉妬に変化した海の呪詛が、塗りつぶす。

 

 

 

 

 

「…………………………弱いくせに、あの子に『普通』を与えてやれないくせに、あの子の数少ない『普通』を捨てさせる原因のくせに、傷つけて悲しませてばっかりのくせに、守れなかったくせに、守ってやれなかったくせに、守ってくれなかったくせに…………、それなのにあの子と過去(パイロ)を天秤にかけて迷って奪われるって、何なの? あの子を『一番』にさえもしてくれないの?

 

 ――――殺すわよ」

 

 

 

 

 

 首に食い込む爪によって皮膚が抉れる痛みさえも、今のクラピカには遠い。

 ようやく、彼女の怒りの一端にして全容を知れた気がした。


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