死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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147:G・Iを攻略しよう②

【0:ちょっとゲーム中断してご報告】

 

 

 

 バッテラが所有するG・IとG・Iを起動させているハードの保管庫状態の古城の片隅で、ソラは電話で報告する。

 電話相手はクラピカ。そして報告している内容はもちろん、カルトと彼にしたことだ。

 

「……という訳で、クラピカごめん。カルトに除念師の情報を流した」

《構わない。むしろお前と面識のある者を送り込めるのなら好都合だ。だから気にするな》

 

 ソラの報告と謝罪に、クラピカは即答でフォローする。

 ソラを気遣っているだけではなく、クラピカの言葉は本音だ。

 

 もちろん、旅団(やつら)を「除念師探し」に専念させることで行動を制限させ、クロロの能力を封じて引き離している現状が続くのは、長ければ長いほどいい。

 だが旅団のメンバーもクロロ自身も、幻影旅団そのものを生かす為ならば頭さえも切り捨てる集団だからこそ、ある程度の期間を使ってもクロロの除念が絶望的だと判断したら、旅団はクロロを切り捨てるだろう。

 

 クロロに掛けた“念”が外されたらわかるように保険を掛けているからこそ、外さないまま諦められた方が厄介だ。

 もちろんクラピカは、“念”が外されていないからとて「まだ大丈夫」と慢心はしていない、出来る限りの警戒と対策は取っているが、それでもやはり旅団にクロロの除念をする意思があるかないかだけでも把握しておきたい所である。

 

 なのでいっそのこと「近い内に除念される」とわかっている方が、下手したら今までの情報なしよりよほど都合が良いし、しかもその除念師がソラと面識があり情報を得られるのならメリットとしては十分だ。

 

 そのような判断をしているからこそ、クラピカはソラに「気にするな」と言った。

 ただ、クラピカは自分よりも危険に晒される相手がいることに気付いていたからこそ、ソラがそちらのことをどう思っているのかを尋ねる。

 

《私よりもカルトの方がよほど危険だろう? ……良いのか? 可愛がっているのだろう?》

 

 ソラのしたことはカルトをスパイとして旅団に送り込むこと。

 ソラとしてはして欲しくなかった、カルト自身が自分の意思でソラの提案に乗ったとはいえ、ソラがカルトを危険に晒しているのは事実だ。その事を気にしない訳がないからこそ、クラピカはソラを案じて尋ねる。

 だがクラピカの予想より、ソラの反応は軽かった。

 

「うん。私も心配だけど冷静によくよく考えたら、カルトが旅団に入れなくなることはあっても、あいつらに殺される可能性は低いと思ったから提案した。

 あの子、旅団自体に思い入れがあって入団したい訳じゃないから、ヤバいと感じたらすぐに逃げることに躊躇はないだろうし、逃亡に全力を注げば逃げきれる実力はあるはず。

 旅団の方もゾルディックを敵に回すのは避けたいだろうから、深追いする可能性は低いし」

 

 ソラの軽さを意外に思うが、話を聞けばクラピカも納得する。

 

 ソラの見立てでは、「カルトの念能力者としての実力は既にキルアと同じくらいか、下手したらキルアより精度が高い」らしい。

 いくらキルアが天部の才を持つとはいえ、天空闘技場では基礎だけ、本格的な念の修業はG・Iでビスケと出会ってからなので、念能力に目覚めたのは同時期でも、一流の念能力者である家族や執事たちにつきっきりで教育されてきたカルトの方が、修行に費やした期間は長く密度も濃い。

 なら現時点では、キルアと同等かカルトの方がやや上になっても確かにおかしくない。

 

 更に末っ子とはいえ殺し屋として活動していたのだから、危機察知能力は高くて引き際もわきまえている。

 それだけの条件が揃っているのならソラの言う通り、カルトが最悪の事態に陥る可能性はかなり低いとクラピカも判断する。

 

「それに、そもそもカルトが除念師を見つけてきたら、『どうやって?』とはおもうたろうけど、見つけて連れてきたことに深読みの疑問を抱いて、記憶を読みはしないと踏んでる」

 

 付け加えたソラの言葉にクラピカは「どういうことだ?」と尋ねかけるが、言い切る前に自分で答えを出せた。

 

《……旅団(やつら)はカルトがお前に懐いていることを知っているからこそ、私に対して不利なことをするカルトは自然に思えるのか》

「そういうこと。なんかごめんね」

 

 カルトからしたらソラに懐いて慕っているからこそ、クラピカに対しての感情は良くて無関心、悪ければ殺してやりたいという所だろう。

 そしてヨークシンの事情やソラとクラピカの関係を詳しく知らないのならば、直接的にクロロの命を握っている状態のクラピカよりソラの方が危険度が高い、旅団が一体いつ彼女を襲撃するかわからないと思うのは当然。

 

 ならカルトはソラを慕っているからこそ、「ソラは見逃して」という交渉のカードに使う為、死にもの狂いで除念師を探し出すという行動自体は自然で、見つけた経緯はゾルディックのコネクションと言えば説得力も十分だ。

 

 疑わしいと思われていても思っていなくても、定期的にパクノダによって記憶を読まれているのならすぐにばれるが、そうではないからこそカルトもソラの提案を受けたのだろう。

 ならば、騙せる可能性は低くない。なんせカルトがクラピカの不利を望んでいるのはほぼ間違いなく本音なのだから、言動はそこまで不自然になりはしない。

 

 そこまで理解できたからこそ、出した答えを確認のつもりで口にしてみると、ソラから即答で正解をもらってついでに謝られた。

 

《別に謝らなくてもいいのだがな……。一応言っておくが、さすがに向こうが襲撃してきたら、私は殺さぬよう努力はもちろんするが、普通に反撃するぞ》

「うん、そこは私もお互い様だと思ってるから、遠慮しなくていいよ」

 

 カルトに好かれていないのは分かっている、というか、好かれていた方が謎すぎて困るくらいであり、正直言ってクラピカのカルトに対する感情だって、カルトほど過激ではないくらいの種類は同じものなので、怒る気はないのだが、さすがにクラピカの心境は複雑だ。

 その為、本当に一応程度の気持ちでソラほど甘い対応をする気はないと宣言しておくが、ソラ自身もクラピカに「カルトの敵は自分の敵」という思考を強要はせず、普通に遠慮は不要と言い切った。

 

《お前は本当に子供に甘いのか厳しいのかわからん奴だな》

「厳しいはともかく、クラピカの方だって十分甘いじゃん。カルトを殺さないように努力は私のことなんか関係なく、キルアの弟だからとあの子はクルタ族虐殺に関わってないからこそ、不必要に傷つけたくないんでしょ?」

 

 呆れて言った皮肉はしれっと言い返され、クラピカはちょっとだけ拗ねたように唇を尖らせる。別にこのセリフだって怒るようなものじゃない、むしろそこまで理解してもらていることが嬉しいくらいなのに、そのことを認めるのがなんだか癪だった。

 

 しかしそれを癪に思うのがまた、自分が子供である証明であることもわかっているので、クラピカは誤魔化すように話を変える。

 

《そもそも、キルアはどういう反応なんだ?》

「あー、カルトが知ってほしくなさそうだったからまだ黙ってる。クロロと違ってフルネームで登録してないから、キルアの方もリストで気づいてたけど、ただの同名だと思ってるよ。

 さほど珍しい名前じゃないし、本人を知ってるからこそ、まさか旅団員候補になってG・Iにいるとは思ってないみたい」

《そうか。知ったらそれこそ旅団と接触しようとするだろうから、まぁ私たちとしては黙っていたいな》

 

 ソラの判断に、クラピカはキルアに悪いと思いつつ同意する。

 クラピカが黙っていたいのは自分の都合ではなく、キルアを危険に晒したくないからだとソラはわかっているので、彼女も同意してからふと思い出した話を上げる。

 

「うん、キルアにばれた時の謝罪を考えておかなくちゃ。

 あぁ、そうそう。忘れかけてたわ。カルトに除念師の情報を流しておいたけど、結局意味はないかもしれない。多分、除念師はG・Iにいる。それをどういうわけか旅団は知ったから、G・Iをプレイしてるんだと思う」

《! ……それはどういうことだ?》

 

 さらっとなかなか重要な情報をぶち込まれ、しかも忘れかけていたことまで暴露されたので、クラピカはシリアスと「お前、いい加減にしろよ」と怒り半々で聞き返す。

 

「あはは、ごめんごめん。いや、根拠らしいものは何もないけどさ、カルトの話で旅団メンバーとも鉢合わせしちゃったって言ったでしょ? その時、鉢合わせたのがシャルナークってやつと、マチって子だったんだけど、そのマチって子の反応に違和感を覚えて、思いついた仮説なんだ。

 一応、こっちの仮説はゴン達にも話してるよ。っていうか、この仮説を報告するって言って、ゲームから一旦こっちにも戻って来たし」

《違和感?》

 

 クラピカが怒ってるのを感じ取ってソラは誤魔化すように笑いながら、話をさっさと進める。

 クラピカとしては旅団と鉢合わせの時点で、「お前は何をしてる!?」と怒鳴りたいぐらいなのだが、珍しくその鉢合わせという事態にソラ自身の非はないと言っても良かったので、おとなしく疑問点だけを口にした。

 

「うん。私はマチって子をよく知らないけど、ゴンの話ではヨークシンの時『ルールを破っても団長を助けたい派』の代表格だったらしいんだ。そんな子が、呑気にG・Iでゲーム攻略してるのって不自然じゃない?

 そもそも、私と鉢合わせした時もゲームに興味なさそうだったし、あんまりカードの種類も知らなかったっぽいんだよ」

 

 そこまで説明されたら、クラピカはソラがどのような筋道を立てて「除念師がG・Iにいる」という仮説を立てたのかを理解する。

 

《……クロロはお嬢様(ネオン)の能力を奪って自分と団員を占っていたな。あの占いに『G・Iに除念師がいる』という情報があったのなら、更に奴らがそこにいる訳に筋が通る》

 

 ソラの言う通り、根拠はないが状況から取れる情報を繋ぎ合わせたら「G・Iに除念師がいるという情報を旅団が得ている」という推測は妥当だ。

 ヒソカと思わしき人物がいるのも、そこに旅団がいるからではなく、奴も除念師の情報を掴んでいるのなら余計に自然になる。

 

「だね。だからカルトに渡した情報は、私もカルトも使える自信はない、チャンスがあれば使おうってぐらいの保険でしかないんだよ」

《どちらにせよ、近い内に除念される可能性が高いという訳か。わかった。警戒しておこう》

 

 ソラとカルトが出会えたことを僥倖に思いながらクラピカが話をまとめると、ソラは少しだけ声を落として「……無理しないでね」と弱音に似た懇願を零す。

 その懇願への答えは、「……こっちのセリフだ」しかなかった。

 

《元々、一体いつまで続くかわからない時間稼ぎであることを、わかった上でやったんだ。思いつく限りの対策はしているから、余計な心配をするな。

 私よりも、旅団とニアミスしかねないお前たちの方がよっぽど危なっかしいだろうが。……こちらからは連絡が取れないのだから、頼むから無理も無茶もするな。というか、お前既に何かやらかしてないだろうな?》

「信用無いな、私! いや、ない心当たり有りすぎて抗議できないんだけど、今回のカルトの件以外に危なっかしい事なんかしてないよ! 平和的にゲームを楽しんでるだけだから!!」

 

 クラピカも同じくソラに切願するが、途中からソラの今までのやらかしでも思い出したのか、最後は尋問するように問うので、ソラは割と真剣に弁解した。

 もちろんソラも自覚がある通り、この手の信用は皆無なのでクラピカはまだ疑り深く、「お前がやらかしてなくても、降りかかってきた面倒事を一人で抱えてないだろうな?」と更に念押し。

 

「だからないって!! ……あ」

《……おい》

「いや、違う! 変なことはあったけど、面倒事は起こってない! だから忘れてたんであって、隠してないし抱え込んでもないよ!! っていうか、私にも何が何だかわかってない!」

 

 その念押しにソラは即答で否定したが、否定してすぐにふと思い出した「心当たり」にクラピカが反応して、やや低い声で咎めたててきたので、ソラは必死になってクラピカが怒るような隠し事ではないと言い張る。

 しかしソラの言い分は、「それを判断するのは私だ」という一言で切り捨てられる。

 言外に「さっさと話せ」と言われたソラは諦めて、「降りかかるかもしれない面倒事」の心当たりを語った。

 

「え~と、この前リストにクロロの名前があったって話したでしょ? あの話をしてゲームに帰ったら、最初にゲームの説明してくれるナビゲーターさんから花束もらった。なんか、私のファンが渡してくれって頼んだらしい」

《……お前は何を言ってるんだ?》

「そう言われると思ったから言いたくなかったんだよ! 私が聞きたいわ!!」

 

 もう1週間ほど前の出来事である、あのラベンダーの花束について話せばキルアやビスケとほぼ同じことを返され、ソラは軽くキレる。

 言ってることや状況はサッパリだが、ソラが何かを誤魔化している様子はない事をビスケと同じように読み取ったクラピカは、ひとまず素直に「だろうな。すまない」と謝り、ソラも本気で怒っていたというよりただのじゃれ合いだったので、あっさり鎮火。

 

「まぁ、納得して頂けた通り訳わかんないけど、別に変なオーラとか籠ってなかったし、師匠からも『悪いもんじゃなさそう』ってお墨付きもらってるから安心して。

 このゲームの製作者(ゲームマスター)達はジンの友達らしいから、たぶん去年の仕事のことをジンから聞いたG・Mの一人に気に入られただけだと思う」

 

 自分だけではなくビスケも引き合いに出して、花束に危険性はない事と一番筋の通る推測を口にすると、クラピカの方も納得して「そうだな」と返す。

 納得はしたが、「ファンからの花束をもらった」という事実に今更に気付いたのか、少しだけ声が拗ねているのを感じ取り、ソラは思わず和んだように笑い、クラピカの怒りを買ってしまう。

 

 その怒りを笑いながら何とか晴らすのに忙しくて、ソラは忘れ去る。

 

 自分が立てた推測、「ジンから話を聞いたG・Mがラベンダーをくれた自称ファン」が一番可能性が高いと本心から思っている。そこに嘘は何もない。

 

 だが、ソラ自身がすぐに忘れてしまう程ささやかだが、何か引っかかりを感じていた。

 

「花」にもっと縁が深かった誰かが数年前、自分の「ファン」だと言ったような気がしたことにすら、ソラは気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【1:リスキーダイスのご利用は計画的に】

 

 

 

 トラブルはいくつかあったが、それでもゴン達は順調にカードを集めてゆく。

 呪文(スペル)カードの使い方にもそこそこ慣れてきて、他のプレイヤーとトレードもするようになり、もはやゴン達を初心者やカモとは言えなくなってきたが、ここでゴン達は一つの壁にぶつかる。

 

「この街で取れるカードって何?」

 

 ゴンがビスケに尋ねると、ビスケは「うーん、いくつかあることはあるんだけど……」と妙に歯切れの悪い言葉で返した。

 そんなに難易度が高いクエストなのかとゴンは不安よりも楽しみを全面に出して答えを待ち、そんなゴンの様子に3人はいつものことながらやや呆れる。

 

「……ゴン。難易度は高いだろうけど、君が期待してる意味じゃないと思うよ」

「というかお前、ここがどこだかわかってるか?」

「あ」

 

 水を差すのは何だが、あんまり期待させるのもかわいそうなのでソラとキルアが口出しすると、さすがのゴンも気付いてちょっと赤面。

 

 ここは、ギャンブル都市ドリアス。

 そんな街でのカード入手イベントが、ギャンブル以外ならばそっちの方がおかしい。

 

 この街のカード入手難易度は、修行などで実力をつける訳にはいかない、完全なる運勝負というある意味では誰に対しても平等なイベントだった。

 

 * * *

 

「1つはスロットの景品なんだわさ。スリーセブンがでたらゲット。確率は0.01%」

 

 本来なら年齢制限にがっつり引っかかるゴンとキルアも、ゲームの中という事でNPCのガードマンにスルーされて入ったカジノの中で、ビスケが指さして説明する。

 ビスケが「カード入手のイベントある?」と訊かれて言いよどむのもわかるくらいに、低い可能性だ。

 

 スロットなので動体視力と反射神経を駆使すれば狙った目を出せるかもしれないと期待して、ソラは使うスロット台を“凝”で見てみたが、しっかりオーラが込められているのでたぶん無理だと判断する。

 普通のスロット台をそのまま使わずにわざわざオーラを込めているか、オーラでスロット台を作りだしたということは、確実に念能力で限りなくランダムに近い確率操作をしているのだろう。

 ギャンブル都市の名に恥じず、どこまでも運以外の要素を排除しているようだ。

 

 その徹底ぶりにはある意味で敬意を懐きつつも、ソラとしては「息子にほぼ強制的にギャンブルさせるって、どんな父親だよ……」とひっそり思う。

 つくづくジンという男は、人としては善人だろうし魅力的な人間だとは思うが、父親としてはだいぶ失格だし残念すぎる。

 

 もちろん、ソラがひっそり思ったことは口には出さない。それくらいの空気はソラだって読む。ゴンが一応たぶん尊敬して憧れている父親に対して、穴があったら埋めたい気分に陥らせるのは、マンドラゴラの一件で十分すぎる。

 

 幸いながらゴンは全くジンの残念すぎる所に気付いた様子もなく、キルア達と相談してこのイベントをやってみるかそれともトレードで手に入れるかを相談していると、ふとキルアがあるアイテムの存在を思い出す。

 

 それは最初の方に人間すごろくというイベントで手に入れたアイテム、リスキーダイス。

 こちらも運要素のイベントだったが、どんなに出目が悪くても時間を掛ければ必ずゴール出来るし、マスの内容も一番悪くてモンスターと戦う程度でデストラップ系はない、ほとんどミニゲームの延長のようなイベントだったので、ゴンとキルアだけではなくソラも面白がって、カード目当てではなく普通に何度も遊んでいた為、ゴールしたら必ずもらえるリスキーダイスが余っている。

 

 そのカード化されていない余りダイスをキルアは取り出し、放り投げる。

 20面のリスキーダイスは一般的な6面ダイスより球に近い形をしているので、よく転がってから止まる。

 

 出た目はまぁ当然と言えば当然、20面の内19を占める大吉。

 それを確かめてキルアは、意気揚揚にスロット台に座ってコインを投入。そしてスロットを止めるボタンを押せば、じらすように一つずつスロットは止まり、そこに現れたのは……

 

「おおーーー!!」

「すっげー! 一発!!」

「レインボーダイヤゲットー!!」

 

 3人は見事一発で揃ったスリーセブンに興奮し、ソラはその後ろで拍手を送る。ソラも喜んでいるのだが、ソラはつい先ほどまで思っていたこともあって一発でスリーセブンが出たことよりも、「この街の攻略キーアイテムも結局ギャンブルなのか……」という思いがよぎって、3人よりはるかに醒めていた。

 

 普通に攻略するよりはるかにクリアできる可能性が高くなるとはいえ、結局息子にギャンブルをさせるジンは一体これで、ゴンの何を鍛えたかったのだろうか?

 5%とはいえ起こりうる、大きなリスクをもろともしない度胸と胆力? そうだとしても、振っているのはキルアなので結局意味がない。マジで何がしたいんだ、ジン=フリークス。

 

「あんたは何でそんなに遠い目してんのよ?」

「いやちょっとまるで駄目な親父、略してマダオの迷走具合を眺めてた」

 

 ソラがやけに場違いな反応をしていることに気付いてビスケが突っ込むが、ソラの答えも迷走している。

 そんなソラの迷走具合にやっぱり幸いながらゴンは気付かず、「獲得カードや、バインダーのめぼしいカードをお前らに渡しとく。これで大凶が出ても大丈夫」というキルアの大凶対策を咎めていた。

 

 ゴンは相変わらずのピュアボーイを発揮して「カードよりもキルアに何かあったら困るよ!!」と訴えるのだが、キルアはゴンの言葉を邪険にこそはしないが真剣に取り扱わない。

 

「心配ないって。大凶なんて5%の確率だぜ。それにいくら何でも命までは…………」

 

 キルアの楽観さ具合にソラの方も「おいコラ」と、普段の自分のやらかしを全力棚上げして叱ろうかと思ったが、幸いながら「お前が言うな」というキルアだけではなくビスケやゴンからも突っ込まれる発言の前にそれは起こった。

 

 ドウン!! と耳が痛くなるような爆発音がして、とっさにそちらに視線を向けると4人から5mも離れていない位置のスロット台が黒煙を上げ、上半分が半ば原型を留めず吹っ飛んでいる。

 

「大変だぁー!! スロットマシンが爆発して客の顔面グッチャグチャだぁーー!!」

 

 そう叫んでいるのは、プレイヤーではなくNPC。微妙に棒読みで白々しいセリフが、わざわざ設定されているセリフだという事を思い知らせる。

 そして設定されているという事は、これはきっとこの都市ではよくあることなのだろう……。

 

「おかしいと思ったんだよ。あの台、5回連続で大当たりが出たんだろ」

「やってた客も変だったもんな。『もう1回くらい大丈夫だろ』とかブツブツ言いながら…………妙なサイコロ転がしててさ」

 

 更に野次馬のNPCも同じく、おそらくは回数くらいしか変化がないであろうセリフをそれぞれルーチンで語り合う。

 その会話を4人は青ざめた顔で聞きながらも、視線は爆発したスロットではなくその床……野次馬の足の隙間から見える投げ出された血まみれの腕と、その傍らに転がる20面ダイスに釘つけ。

 

 ……リスキーダイスが天を仰いでいた面が、5%の「大凶」だった。

 

「聞いた!? キルア、もうやめとこうよ!!」

「いや!! 俺はやると言ったらやる!」

「キルア、君はマジでヨークシンでの資金稼ぎの失敗を何も反省してねーな!!」

 

 素晴らしく良いタイミングで「大凶」の末路を目撃し、ゴンは慌ててキルアを止めにかかるが、ゴン達に実力行使で止められる前にキルアがリスキーダイスを再びブン投げ、ソラを割と本気で怒らせた。

 金に苦労したことがない家だからか、どうもキルアはギャンブルの怖さを全くわかっていない。イルミの仕込んでいる針に、「ギャンブルするな」という洗脳を追加してもらおうかと、ソラは一瞬マジで考える。

 

 幸いながら2回目も大吉が出たので、キルアはゴンやソラのマジキレオーラから逃げるよう、もう一つの指定カードイベントがあるポーカー台へ向かっていく。

 もちろん、結果は交換なしでロイヤルストレートフラッシュ。

 文句なしの大勝利で「ギャンブラーの卵」を最速ゲット。

 

 なのでゴンが「はい、じゃこれでダイスおしまいね」と言って、穏便に終わらせてやろうとしているのに、キルアはダイスをゴン達に返そうとしない。

 指定カードのイベントはこの二つだけだが、カジノの商品には「呪文(スペル)カード10袋無料交換券」などといった魅力的な景品が山ほどあるのと、ギャンブルのスリルにキルアはすっかり魅了され、まだしつこく「もう1回くらいなら……!」と思っているのは明らかだ。

 

 その浅はかさに、いつもはキルアに甘いソラもさすがにキレた。

 

「キルア」

 

 キルアがまたゴン達に羽交い絞めされる前にダイスを振ろうとするが、その直前にソラが静かに呼びかける。

 その声にキルアだけではなくゴンと、そしてビスケまで大きく肩を震わせて、恐る恐る振り返る。

 

 振り返った先にいたのは、花の(かんばせ)というべき美貌で微笑みながら、やけに明度の高い目は全く笑っていないソラ。3人はこれがソラのマジギレモードであることをよく知っている。

 正直ビスケでさえも、マジギレしてるソラとは関わりたくないくらい、彼女のマジギレは相手を心から思っているからこそ、正しすぎて心を抉りにかかる。

 

 そして、自分の何が悪いかを言われるまでもなくわかっているキルアは、言い訳のしようがないからこそ「……終わった」と、もはや悟りの境地でソラの怒りによる拳だか踵落としだか頭突きだかを待った。

 しかし、意外なことにソラの説教開始の合図である鉄拳制裁は訪れなかった。

 

「キルア、振りたきゃ振ればいいよ。ただ、大吉が出ても君は大凶が出た方がマシだった目に遭うことを予言する」

「は?」

 

 予想とは裏腹に、ソラはキルアにダイスを振っていいと許可を出した。

 そして困惑するキルアにニッコリと微笑んで、「大凶の方がマシな目」が具体的に何なのかを告げる。

 

 

 

 

 

「次、リスキーダイスを振ったらこの場で尻を叩く」

 

 

 

 

 

 ビシリと音が鳴りそうな勢いで、キルアが固まった。

 固まったキルアを見ながら、確かに今年で13歳のキルアにとってそれは、大凶が出て死んだ方がマシと思えるくらい惨い罰だとゴンは思いつつ、ゴンもキルアのやらかしたことには結構怒っていたので、追い打ちとしてソラに尋ねる。

 

「ソラ……ズボンは?」

「はっ! ゴンは優しいね。……甘い。パンツも下ろす」

「すみません、おれがぜんめんてきにわるうございました。もうつかいません。よくぼうにまけてしまわないように、あまったダイスはぜんぶうってください」

 

 ゴン以上に容赦する気皆無だったソラの発言で、キルアはその場に跪いてダイスを恭しく献上しながら、反省の弁を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【2:No,74 賢者のアクアマリン A-15】

 

 

 

「「カーバンクル!!」」

『!?』

 

 依頼主であるNPCが捕まえてほしいと言った動物の写真を見た瞬間、ソラとビスケの宝石師弟が目を輝かせて叫び、ゴンとキルアと依頼人のNPCをビビらせる。

 

「師匠、師匠! カーバンクルだよ! 本物じゃないだろうけど、カーバンクルだよ! カーバンクル!!」

「うっさい、わかってるわさ! あぁ、本物じゃないのが惜しい!」

「……え? お前らにとってそんなにテンションが上がるもんなの?」

 

 NPCから写真をほぼ奪い取って、ソラはテンション高くビスケに報告し、ビスケはソラをあしらいつつも、彼女も彼女でテンション高く本物ではなくオーラで作られた念獣であることを本気で惜しんでいる。

 そんな女二人の反応を理解出来ず、困惑しながらキルアが尋ねたら、ソラはやはりテンションを落とさぬまま「当たり前だよ!!」と言い切った。

 

「カーバンクルのこれ、額の石は最高級の宝石だって言われてる幻獣なんだよ!」

 

 ゴンやキルアよりはるかに子供のようにはしゃぎながら、ソラはNPCから捥ぎ取った写真を二人に見せ、指さして教える。

 その写真には猫に似た獣……ソラから言えばポケモンのエーフィあたりによく似た獣が写っており、額には鶏卵のような真っ赤な石が埋め込まれている。けっして、同じ色のスライム4つくっつけて消すゲームのマスコット、カレー大好きな黄色いウサギっぽい奴ではない。あれはあれで可愛いが、違う。

 

 とりあえず、写真を見てというよりソラの説明で何でこの二人が「カーバンクル」という幻獣に興奮しているのか、そして何故自分たちはこの幻獣の名前も存在も知らないのかまで、キルアだけではなくゴンまで察する。

 

 ビスケの反応からして、ソラの世界だけではなくこちらにもいる生物なのだろうが、おそらく現在は絶滅しているか、限りなくそれに近い状態なのだろう。

 その理由は言うまでもなく、この獣の最大の特徴である宝石。

 これ目当ての密猟者に乱獲された所為でとっくの昔に絶滅したのなら、自分たちが知らないことに不思議はなく、そしてビスケのハンターとしての分野やソラの魔術からして、絶滅していてもこの獣の名は知っていてもおかしくないし、テンションが上がるのもわかる。

 

 そう二人は思っていたが、しかしその解釈はちょっとだけ外れていた。

 

「可愛いだろ! 時計塔で復元剥製を見た時から何で私はこれが普通に存在していた時代に生まれなかったって思ったくらいで、こっちでも絶滅してるって言われてマジで凹んだけど、そっか、念獣で再現するって手があったのか!!」

『そっち!?』

 

 キルアとゴンが「へぇー」「ふーん」と写真を見ながら相槌を打っていたら、ソラがテンション高く一方的に、カーバンクルの可愛さに対する情熱を語りだし、二人どころかビスケも思わず突っ込んだ。

 この女、宝石魔術師の癖に「最高級の宝石」に興味はまったくなく、カーバンクルの可愛さしか目に入ってないらしい。

 

「そういえば、ソラはこの前の『すりとリス』とかでもテンション上がってたよね。可愛い生き物が好きなんだ」

「生き物はゴキブリとワーム系以外は全般的に大好きだ! けど一番テンションが上がるのは、こういう猫っぽいツンとした生き物だね。あーもう本当に可愛い!!」

 

 ふと最近こなしたイベントでの極悪コンボの片割れも、その可愛さにやられて攻撃できてなかったのを思い出してゴンが尋ねると、ソラは堂々答えてから写真のカーバンクルに再び釘つけ。

 そしてその答えに、ゴンとビスケは思わず「あぁ!」と力強い納得の声を上げる。キルアを見ながら。

 

「おい、それどういう意味だお前ら?」

 

 うっすらこめかみに青筋を浮かべながらキルアは問うが、本人もわかっている。そりゃ、自分はもちろんクラピカも溺愛の対象ならば、この女は絶対に犬より猫派であることをキルア本人も、実は心の底から納得していた。

 けどさすがにないとは思うが、自分に対しての好意が「猫っぽいから」だとしたらムカつくことこの上ないので、とりあえずキルアはソラの脛を割と本気で蹴っといた。

 

「痛い! 何すんだキルア!」

「お前が悪い」

「え? マジで何で? 私が何をした?」

「……お前ら依頼を受ける気あんのか?」

 

 八つ当たりで蹴られた挙句に真顔で「お前が悪い」と言われて困惑するソラと、キルアの通常運転な素直じゃなさに苦笑するゴン、青春を面白がるビスケに、写真を取られてからひたすら待っていたNPCが我慢しきれなかったのか制限時間が過ぎたのか苛立った口調で突っ込んだ。

 まさかG・Mも、一応程度で設定しておいた「プレイヤーが依頼主の話聞かずに勝手に盛り上がる」という状況でのセリフが使われる日が来るとは思ってなかっただろう。というか、一応程度でもよく想定したな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 カーバンクルを捕獲するには、依頼を受けてから5日かかった。

 

 カーバンクルが現れるとされている草原は木がほとんどなく、膝の高さほどの柔らかい草に覆われている為、人間が隠れるスペースはないくせに、猫くらいの大きさのカーバンクルは草に隠れてなかなか見つからない。

 それだけでも高難易度クエストだというのに、カーバンクルはとにかく警戒心が強い。

 

“絶”か“陰”で気配を消してないとまず出てこないし、物音を少しでも立てたらそのまま一目散に逃げる。

 しかもカーバンクルも“陰”を使って来るので、まず見つけること自体が困難。その上頭も相当いいのか、罠類には全く引っかからず下手したら追いかける人間を誘導して、その人間が自ら仕掛けた罠に嵌めてくる。

 

 挙句の果てにやっと捕まえたかと思ったら、カード化するまでのわずか数秒のタイムラグで見た目通りネコ科らしいカーバンクルは鋭い爪でひっかくわ、噛みつくわ……。

“絶”か“陰”をしてないと捕まえる前に逃げるので、無防備な状態でこの攻撃はかなり痛い。なのでせっかく捕まえても取り逃がすこと数回。

 

 そこまで苦労しつつ、ようやく4人がかりで追いつめて捕まえて、引っかかれても噛みつかれてもソラがナウシカごっこをしながら離さなかった事でカード化できた。

 余談だが、ソラは腕が血まみれになっても自分の腕でカーバンクルを抱けたことに感激していたのか、実に嬉しそうに笑い続けていたので、見ている方としてはだいぶ異様な光景で怖かった。

 

 それはいいとして、捕まえたのなら後は依頼主に渡せばOKだと、ビスケとキルアは思っていたのだが……。

 

「やだ! 絶対にやだ!! あんな成金悪趣味親父にかー君は渡さない!!」

「名前を付けんな! いいからさっさとよこせ!!」

「やだぁぁぁっっ! あんな奴に渡すくらいなら今すぐに逃がしてやるぅぅ!! っていうか、私が飼うんだぁぁぁっっ!!」

 

 カーバンクルに引っかかれて噛みつかれて腕が血まみれになっても輝く笑顔のまま抱きしめ続けたソラが、今度はカーバンクルのカードを収めたバインダーを胸に抱き、依頼人に渡すのを全力で拒否。

 どうやらキルア達が思っていた以上に、ソラのカーバンクルに対する憧れや情熱は大きかったらしい。

 

 そして、このワガママがソラだけなら3人がかりで羽交い絞めにしてバインダーを奪ってカードを没収すればいいのだが……。

 

「俺だってやだよ! だって宝石を取られたカーバンクルはそのまま衰弱して死んじゃうってカードの説明に書いてあったじゃん!

 ヤダよ! ソラみたいにカーバンクルを飼いたいって言うんならまだしも、カーバンクルの宝石が欲しいって初めから言ってた奴に渡したくないよ!!」

 

 カード化したカーバンクルの説明を見たゴンが、涙目になってバインダーを抱きかかえて死守するソラをかばって前に立ちはだかり、カーバンクルを宝石コレクターの依頼人に渡すのを断固反対し続ける。

 ソラの「飼いたい」と違ってこちらは純度100%の「人間の身勝手な欲望の為に動物を殺したくない」という思いなので、さすがのキルアとビスケも強硬手段を取るには躊躇われ、むしろゴンの純粋無垢さを直視できずに目を逸らす。

 

「……あのね、ゴン。あんたの思いも言い分も全面的に正しいわよ。でもここはゲームの世界で、そのカーバンクルも本物じゃなくて……」

「本物じゃないから、死んじゃってもいいって言うの!?」

「そうだそうだ! “念”で作られたからって生き物じゃない、偽物だって言うんなら、師匠だってロリババアじゃなくてただの妖怪ババアだろ!!」

「ゴンは許すが、あんたは許さん! そこに直れ!!」

 

 ゴンの眩さから目を逸らしつつもビスケが説得しようとしたら、最後まで言い切る前にゴンが叫んで問い、ソラも便乗してビスケを特に意味もなくディスって怒らせた。

 そんな師弟のやり取りはいつものことなので、ゴンはナチュラルスルーして、涙目をキルアに向けて問う。

 

「“念”で作られた存在でも、ちゃんと生きてるよ! 生き物だよ!! キルア! キルアは『生き物じゃない』なんて言わないよね!?」

「うっ……」

 

 言われて数週間前の出来事……、レツという偽物でありながら何もかもが本当だった憐れな少女を思い出し、キルアは何も言えなくなる。

 彼女を知らなければ「いや、生き物じゃねーよ」と即答してただろうが、今はそんなこと言えない。例えカーバンクルはレツと違って、それこそ街のモブでしかないNPCと同じようにルーチンで動く、自ら思考などしない存在であっても、一概に生き物であることの否定はキルアには出来なかった。

 

 ……自分自身も一歩間違えれば、ゴンやソラに出会わなければそれこそNPCと変わらない、ただ仕事の殺しというルーチンを繰り返すだけの存在に成り果てていたかもしれない事を知っているからこそ、否定など出来ない。

 もちろんゴンがそこまで考えて問うている訳ではない。だからこそキルアの良心に、ゴンの問いや懇願がザクザク刺さる。

 

 しかしキルアの合理的かつゲーム慣れしている思考が、ここで二人のワガママを叶えてやって、トレードでこのイベント指定カードを得るのは悪手であるという計算を弾き出している。

 

 4人がかり、それも念能力者としてキャリアのあるビスケとソラ、そしてその二人より気配を消すことに長けているゴンとキルアがいても捕獲に5日も費やしたカーバンクル捕獲は、Aランクのカード入手イベントの中ではかなり難易度が高いと言えるだろう。

 そしてこの5日かけて見つけたカーバンクルは1匹、しかもゴンが言うには同一個体らしい。ということは、おそらくこのイベントで捕まえられるカーバンクルは1チームに1匹である可能性が高く、余分にカードを得るのはおそらく無理だ。

 

 なので、このカードは所有者にとって虎の子の一枚。レア呪文(スペル)カードの「複製(クローン)」などで増やして複数持っていないかぎりトレードに応じる者はいないだろうし、応じて貰えても足元を見られる。

 

 Aランクなので「宝籤(ロトリー)」と「リスキーダイス」のコンボで手に入るかもと一瞬ダメな作戦をキルアは思いつくが、それをやったらソラは間違いなくあの予言を実行するので頭から追い払う。

 

 しかし実際、二人の意見を尊重するならその二つくらいしか方法はないし、せっかく手に入れたのなら正攻法でイベントクリアして報酬としてもらいたいのもあって、キルアは真剣に悩む。

 が、考えは纏まるどころかゴンとソラの「やだああぁぁぁぁっっ!!」という駄々がうるさすぎて、何も浮かばない。

 

「うるせーよ、お前ら!!」

「あんたたち本当にいい加減にしなさい!!」

 

 ビスケはともかく、キルアは必死になって二人の希望を叶えてやる手段も考えてやってるのに、ひたすら駄々をこね続ける二人にマジギレして怒鳴りつけるが、残念ながら二人はビスケが無理やり奪い取ろうとしているバインダーを死守することに忙しくて、キルアの努力に気付かない。

 

「師匠の鬼ー!! 鬼ババアーっっ!!」

「鬼で悪かったわね! 一応言っとくけど、あたしだって本物のカーバンクルをただの宝石としか見てない奴の為に殺すなんて真似しないわよ!! けど、これはゲーム!! そうするしか方法がないの!!」

 

 再び「ブック」と唱えてバインダーを仕舞えばいいのに、興奮しすぎて基本的すぎる発想が抜けているソラが、バインダーにしがみつきながら叫ぶと、ビスケがバインダーの端を掴んでソラから引っこ抜こうと奮闘しながら言い返す。

 

 ビスケだって宝石に目が眩んで、カーバンクルの命を軽視している訳ではない。レツの件については話を聞いただけである為、ゴンやキルア程「“念”で作られた生き物だってちゃんとした生き物」という認識がない為、割り切りが出来ているという程度であり、ビスケ自身もこのイベントは胸糞悪いものだとは思っている。

 

 だがそんなのソラとゴンには関係ないので、ゴンはソラのバインダーを奪おうとするビスケにしがみついて阻止しながら叫んだ。

 

「ヤダよ! 絶対に嫌だよ!! こんなイベント認めない! ジンがこんなの作る訳ない!!

 ………………ん?」

『……あ』

 

 ゴンが勢いで叫んだセリフにやや間を置いて、気付く。

 そして他の3人も、同じ「違和感」に気付いて声を上げる。

 

「……このイベント、変じゃない?」

 

 自分で気づいた違和感で涙が吹っ飛んだゴンが、確認のつもりで3人に尋ねると、3人も目を軽く見開いた状態で頷いた。

 

 思い出すのは、思い出したくない残念ぶりを披露したマンドラゴラ。

 ゴンに多大な羞恥によるダメージを与えたマンドラゴラだが、自業自得の台無しになったとはいえあれは、ゴンの父であるジンの思いの象徴だった。

 

 必ず誰かの命を犠牲にしてしか得られないマンドラゴラ。主な犠牲は、何の罪もない犬。

 その犠牲を厭ったからこそ、大幅に本来のマンドラゴラの特徴を排除・変更してほぼ別物にしてしまったというのは、おそらくゴンやソラの期待による妄想ではないと確信している。

 

 だからこそ、このイベントはおかしい。

 マンドラゴラ入手の為に“念”で作られた犬の犠牲を厭っておきながら、人間の醜さ故に虐殺されて全滅に追いやられた幻獣の再現を、再び人間の醜さで死に至らしめるようなイベントを設定するのはあまりに酷い矛盾であり、そもそもジンの意向など関係なくこの行いは、ハンターとして最悪の部類であることに4人は気付く。

 

「……師匠。ここのカード入手イベントって具体的にどう聞いた? カーバンクルをあの成金親父に渡せって言われた?」

「……具体的な依頼内容は教えてくれなかったけど、あのNPCの依頼を受けた報酬だって聞いたわね。……っていうか、よくよく思い返すとあの親父、『報酬を払う』とは言ってたけど具体的な報酬の内容は言ってないわさ!」

 

 ソラも確認のつもりでビスケに尋ねると、ビスケも顎に手をやって記憶をほじくり返して思い出す。依頼人が宝石マニアで、この街で得られる指定カードが宝石系だったので全員が思い込んでいたが、依頼人は一言たりとも具体的に何を報酬としてくれるのかを言っていないことに気付いた。

 

「そもそも、ここで手に入るカードってなんだっけ?」

 

 そしてゴンがカーバンクル捕獲に集中しすぎてすっかり忘れてしまっいる根本的な情報を尋ねると、キルアとソラが何かを考えている顔でだが、それぞれ答えてくれた。

 

「『賢者のアクアマリン』だよ」

「……それって確か効果は、『所有している者は、知性豊かな友人を得る』みたいな感じだったよね?」

 

 ソラの答えで、沈黙が落ちる。

 ハンターとして最低最悪の行いを強要するイベントに、「知性豊かな友人得る」という効果を持つ宝石が報酬……。

 このイベントは違和感どころか不自然さしかないことは、もはや確認するまでもなく明らかだ。

 

「……とりあえず街に戻って、あの依頼人に関する情報収集しようか」

『賛成』

 

 ソラのひとまず出した提案に3人は即座に応じて、「同行(アカンパニー)」で街に戻った。

 

 * * *

 

 結論から言うと、「カーバンクルを捕獲して、依頼人に渡す」というイベントは最大のブラフ。

 

 この依頼人のコレクションは、あくどい手段で他者からだまし取って奪い取ったものがほとんどであり、真の「賢者のアクアマリン」を報酬として渡してくれるNPCは、依頼人の屋敷の前でうろうろしていた小汚い恰好の男。

 

 彼は依頼人によって全財産であると同時に親の形見である宝石を、遺言書の偽造で全てだまし取られたという設定のNPC。

 彼の望み通り、依頼人が行った詐欺や脅迫の証拠を掴んで「街の名士」という立場から失脚させて、彼の親の形見の宝石を取り戻すことこそが真の指定カード入手イベントであり、ビスケが得ていた情報は悪意にまみれた罠だった。

 

 どの辺が悪意かというと、「カーバンクルを捕獲して、依頼人に渡す」というイベントを行ってしまうと、真のイベントが攻略不可能になるからだ。

 

 真のイベントNPCは何度か話しかけないと、自分の事情や依頼人を失脚させるのを手伝って欲しいとは語ってくれない。それどころか自分が不審者である自覚がある為、最初は話しかけた途端に逃げ出してしまうのだが、屋敷の使用人のNPCに話しかけていれば依頼人の悪評は聞けるし、真のイベントNPCの情報も得られる。

 

 だが、カーバンクルを依頼人に渡してしまうとその時点で、真のイベントに関わるNPCはプレイヤーを「依頼人と同類の屑」と認識するため、情報を一切渡してくれなくなり、男に何度話しかけても吐き捨てるように「あんたもか」としか言ってくれなくなって、イベントは起こらない。

 

 つまり、ビスケは浅はかにもカーバンクルを渡したプレイヤーの腹いせに、ブラフのイベントを真のイベントだと誤認させられていたようだ。

 そのことにビスケがブチキレて、自分にその情報を流したプレイヤーに「磁力(マグネティックフォース)」でわざわざ会いに行ってボコッたのは余談。

 

 とりあえず、ゴンのジンに対する信頼のおかげで全員がしたくもないことをした挙句、カード入手が絶望的になるのは免れ、真のイベントをクリアして報酬に「賢者のアクアマリン」を無事手に入れたのはいいのだが……。

 

 

 

「やだああぁぁぁぁっっ! 飼うんだ! かー君は私が飼うんだぁぁぁっっ!!」

「無理だっつってんだろ! フリーポケットの無駄だから、さっさと逃がせ!!」

「あんた、『時忘れの泉』でさんざんあたしに無理言うなって言っといて、あんたもここで一生暮らすって言う気!?」 

「言うよ! だって見た目も境遇もクラピカに似てるからほっとけない!

 私が一生幸せにしてやるんだああぁぁぁっっ!!」

「あぁ、手離したくない理由はそれか……。でもソラ、その理由でG・Iに永住はクラピカも複雑だと思うよ?」

 

 

 

 

 ソラが憧れかつなんかクラピカの面影を見ちゃった幻獣、カーバンクルを飼うという主張を何とか説き伏せる……というかこの回避反応が凄まじい女が疲れ果てて油断したところにビスケが殴って気絶させて、カーバンクルを逃がすまで丸一日かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【4:No,68 長老の精力増強薬 A-20】

 

 

 

「ねぇ、ゴン。君に去勢拳を伝授しといた方が良い?」

「お願いします」

「待て、ゴン。早まるな。気持ちはわかるが早まるな」

 

 ソラが憐れみに満ちた悲しい目でゴンに尋ねると、ゴンはキルアどころかおそらくミトですら見たことがないほど死んだ目で答え、慌ててキルアは止めにかかる。

 

 が、キルアの言う通りゴンどこかソラの提案さえも気持ちはわかる。

 ビスケでさえも、今回のクエストで入手できるアイテムは「最低すぎる」としか言いようがないものだ。

 

「……『魔女の媚薬』でマンドレイクを使わなかった伏線が、まさかここで生きてくるとは思わなかったわさ」

 

 ぼそりと呟きながら、ビスケはクエストで集める素材と手に入るカード名が描かれたメモを見返した。

 またしても素材集め系のクエストで手に入るアイテムの名は「長老の精力増強剤」……。どう最低なのかは、もう言わせないで欲しい。

 

 クエスト内容は「魔女の媚薬」とほぼ同じ、素材集め。こちらのカードの方がランクが上なので、素材入手のためのクエスト難易度が高くなっている程度で、内容自体はほぼ同じである。

 そしてビスケの言う通り、ソラが地味に気にしていた媚薬にマンドレイクを使わなかった伏線を、ここで回収しやがった。

 

 ソラが語った通り、異性の株を使わないと効果がないからこそ、媚薬と違って完全に男専用のアイテムであるこの薬の材料にマンドレイクは必須なようだ。

 というか、NPCである長老の話からすると、マンドレイクの方がマンドラゴラより効き目がヤバいというか、効果が直接的すぎるらしいからこそ、媚薬ではマンドレイク下位互換扱いのアルラウネを使うという設定らしい。

 

 無駄に凝った設定を作ってんな、ジン。と全員が遠い目になったのは言うまでもない。

 

 そんなひたすらにゴンが可哀想になるカード入手クエストなので、もう何も言わずにさっさと終わらせてやりたいのだが、悪気があるのないのかさっぱりわからないが、とにかくジンの性格が悪い事だけは思い知らされた。

 

「……さて、君に去勢拳を教えることを優先したいけど、いつまでも後回しにしてられないからやりますか」

「……そうだね」

 

 キルアの説得虚しく、ゴンがジンにとんでもない技をぶっ放すことが確定してから、ゴンが未だ死んだ目でビスケに向かって諦めたように力なく頷いた。

 ビスケはゴンのあまりにも悲痛な様子に、こちらも憐れみの眼で「あなたは何も悪くないのよ」と言うように優しく微笑みながら、バインダーを具現化して一枚のカードを取り出し、唱える。

 

「ゲイン!」

 

 ボワン! と音がして、カード化が解けたそれはビスケの両手に握られながら、ビチビチと蠢いて抵抗して叫ぶ。

 

「うおおぉぉぉぉぉっ! マンドレイクの匂いがするううぅぅぅぅ!!

 受粉してえええぇぇぇぇっっ!!」

『………………』

 

 思わず無言になって固まる3人に、同じく無言のビスケが「さっさとしてよ」と言わんばかりの視線を向けてくるので、ソラとゴンにやらせるのは酷かと思ったキルアがロープを取り出して、ビチビチと元気良すぎて引くマンドラゴラに結び付ける。

 

 変な目で見ないでいただきたい。これはマンドレイク入手に最優の手段なのだ。

 

 マンドレイクはマンドラゴラと違って、土から自力で這い出て来て走り回ることはしない。放っておきさえすれば普通の植物と変わらず、ずっと土の中にいる。

 だからマンドラゴラより入手が楽かといえば、逆。マンドレイクは株ごとに付ける葉の形や色、花まで違う。周りにある植物に擬態して、一番その土地によくある草花と全く同じ色形のものを咲かすため、引っこ抜かないとどれがマンドレイクかわからないのだ。

 

 一応、念能力で作られたものなので“凝”で見れば、オーラが“纏”状態という特徴はあるが、マンドレイクが咲いている森は、他の素材集め系クエストでも訪れる必要があるほど、素材に満ちた森。

 つまりはマンドレイク以外にもオーラが籠った、オーラで作られた植物はゴロゴロあるので、結局マンドレイクを見つけるにはひたすらそこら辺の草花を引っこ抜くしかない。

 

 だがそんなことを悠長に続けていられるほど暇ではないし、何よりこのクエストを長々続けるのはゴンが可哀想すぎる。

 なので、何か余計に可哀想になる気もすると思いつつ実行に移したのが、マンドラゴラを使ってマンドレイクを探し出すこと。

 

 指定カードではないが、指定カード入手に必要なアイテムなので、持っていたらトレード材料になるかもと思って余分に見つけて捕まえて保管していたものだが、意図せぬ方向でこの判断は正解だった。

 

 当たり前と言えば当たり前だが、マンドラゴラはマンドレイクと他の植物の見分けがつく。

 だから発情期最中の走り回るマンドラゴラを使えば、マンドラゴラはマンドレイクに一直線に向かっていくという情報を得たので、キルアは遠い目をしつつ爆走するマンドラゴラを見失わないようにロープを結び付け、そのロープの端を自分で握りしめる。

 

 しっかり解けないように結ばれたことを確認してからビスケがマンドラゴラを離すと、マンドラゴラは「受粉んんんっっっっ!!」と叫びながら走っていく。

 それをキルアが犬の散歩の要領で後を追い、3人もその後に続く。

 全員がゴンに気遣っているのか、もはや何も考えたくないのか無言でマンドラゴラの後を追い、森に響くのは「受粉してええぇぇぇっっ!!」というマンドラゴラのソウルシャウト。

 

「何この状況?」と全員が思うが、幸いながらここまで恥ずかしいを通り越してやるせない気持ちを懐かせる方法を取っただけあって、5分もせぬうちにマンドラゴラはマンドレイクを発見する。

 

「いたぞぉぉぉ、マンドレイクううぅぅぅ!!」

 

 タンポポに似たのこぎり状の葉とスズランに似た花を持つ植物に、爆走していたマンドラゴラは飛びついて抱き着き、叫んだ。

 それを見て、「よし! 後はあれを引き抜いてカード化させたら終わりだ!」とゴンは思ったのか、死んでいた眼に生気が戻り、3人は安堵したのだが、そうは問屋が卸さない。卸してやってよ!

 

「マンドレイクゥゥゥ!! 俺だああぁぁぁっっ!! 受粉してくれええぇぇぇっ!!」

『!?』

 

 マンドレイクを見つけてもまだ最低すぎる絶叫をするのは想定の範囲内だったが、マンドラゴラは自力でマンドレイクの葉を引っぱって引き抜こうとし出しているのを見て、まずは全員が驚く。

 そして頭の部分がボコリと出てきた瞬間、何とマンドレイクも叫び出した。

 

「いやああぁぁぁっっ! 何するの!? 変態! ケダモノ! 私に乱暴する気でしょ!?

 薄い本(ソリッドブック)みたいに! 薄い本(ソリッドブック)みたいに!!」

「「ぼふっっ!?」」

「ホント最低だな、あのおっさんは!!」

 

 マンドラゴラと違って甲高いが可愛らしい女の子の声で、マンドレイクは抵抗の悲鳴を上げるのだが、どう考えてもそのセリフはだいぶふざけている。

 お前も真夜中テンションの産物か!!

 

 思わずビスケとキルアが噴き出して、その場にうずくまってダウン。ゴンは二人とは別の意味、割と真剣に死にたい気分に陥りながら、その場に膝に顔を埋めた状態で体育座りしてしまう。

 耳まで赤くしているゴンを本気で憐れに思いながら、ソラも耳まで赤くしながら心からの突っ込みを入れるのだが、もちろんマンドレイクは気にせずノリノリで、本物とは別の意味合いで聞いたものを殺しにかかる絶叫を続ける。

 

「いやああぁぁぁ! らめぇ、らめぇぇえぇ! らめにゃのぉぉお゛!! 薄い本が厚くなっちゃうぅぅぅぅっっっ!!」

「なるか! 誰だこのセリフ考えたの!?」

 

 ついにはみさくら語まで使い出したマンドレイクに、思わずマンドラゴラのロープを掴んでいたので一番近い位置にいたキルアが突っ込んで、一思いにマンドレイクを引き抜いた。

 というか、キルア意味わかるんか。それ、薄い本が何なのかわかってないと割と意味不明なセリフじゃね? とソラは一瞬思ったが、全部ミルキの所為だと思うことにした。それが平和だと信じてる。

 

 キルアが引き抜くと、マンドレイクは演技過多なセリフではなく素でびっくりしたのか「きゃあっ!?」という声を上げたが、全身が土から出ると動かなくなる。

 それを見てキルアはもちろんソラとビスケも、後はカード化するだけだと思ったら、まさかの最後っ屁をかまされた。

 

 ボフン!!

「ぶっ!?」

『!? キルア!!』

 

 カード化する前にマンドレイクのすずらんに似た花が突然、爆発するように弾けて花粉らしき黄色い粉がキルアの顔に直撃する。

 

「え!? 雌株なのに何で花粉!?」

「そこ、今はどうでもいいよ! ちょっ、キルア大丈夫!?」

「キルア!? キルアッ!!」

 

 ビスケが気になったことをソラが切り捨て、ゴンはさすがに父親のやらかしを忘れて顔を上げ、キルアを案じる。

 

「うげっ! ぺっ! 口と鼻にめっちゃ入った! 眼にも入った! クソ痛ぇ!!」

「うおおっっっ! マンドレイクううぅぅぅ!!」

「うっせぇよ!!」

 

 しかしゴンやソラの心配とは裏腹に、花粉らしきものをくらったキルアは昏倒することもなければ顔色も全く変わりなく、砂が顔にかかったような反応をしながら、自分に纏わりついてきたマンドラゴラを勢いよく森の奥にブン投げて捨てた。

 どうやら少なくともキルアにすら耐性のない毒の類ではなかったらしく、目に入って涙が止まらず目が開けられない状態のキルアに悪いが、全員がホッと安堵の息をついた。

 

「あーはいはい。大丈夫?」と言いながらビスケがまずマンドレイクのカードを回収しながら、キルアにハンカチを渡す。

 それを見ながらゴンは、「良かった、キルアに何もなくて」と笑って言ったので、その横でソラも同じく笑いながら同意する。

 

「そうだね。っていうかよく考えたらマンドラゴラもマンドレイクも、毒性の効果なんて催淫くらいだから、よっぽどの耐性ないか量が多くない限り死には……」

 

 そこまで言って、ソラは硬直。ゴンも笑顔のまま固まった。

 二人は気付いたのだろう。キルアに効いていないのではなく、ただ単にまだ効果が現れる状況ではないだけという可能性の方が、はるかに高いことに。

 

「師匠! キルアから離れて!!」

「キルア! 目を開けちゃダメ!!」

「は?」

 

 思わず数秒固まってしまったが、フリーズしてる場合ではないことにも気付いた二人はとっさに叫ぶ。

 だがソラの話など聞いていなかったキルアからしたら、その指示は意味不明すぎて、顔を上げて目も開けてしまう。

 

 しかし幸いなことに、キルアの傍らにいたビスケはソラの話が聞こえていたのか、それともマンドレイクのカードの説明でも読んで効果を知ったのか、ここで自分がキルアの視界に入ったら効果中はもちろん、効果が切れた後もすさまじく気まずいことになるのをわかっていたのだろう。

 

 なのでさすがは3人の師匠というべきか、彼女の行動は速くて的確だった。

 

「はっ!」

「ぐえっ!!」

「「え?」」

 

 キルアが目を開き切る前に、ビスケは両手でキルアの頭を掴んでそのままグギッと方向転換。

 あまりに勢いよく首を回された為、キルアはうめき声を上げつつ痛みによる反射で完全に瞼が開き切る。

 そしてマンドレイクの花粉らしきものを飲み込んだわ、目にも入ったわな体で、目で最初に見たのは一番近くにいたビスケではなく……

 

 

 

 

 

「…………は?」

「……おい、師匠、どうすんだこれ?」

 

 

 

 

 

 キルアからやや離れたところにいるソラに向けて、ビスケはキルアの首の向きどころか角度まで調節しやがった。






前回の後書きに書こうと思ってたけど、忘れてた情報。
前回のソラ・リリィの服装はナーサリーコスです。何故かいつか必ずソラにロリ化させて、ナーサリーコスをしてもらうと連載当初からも目論んでいたので、書けて満足。


そして今回ラストの話は、前々回の魔女の媚薬回で本来書こうとしてたネタ。
本来はマンドラゴラを見つけた後にすぐ、マンドレイクのネタが入るはずでした。

わざわざ一つにネタを二分割した訳は、どうしてもこの展開は①ではなく②にしたくて、けど魔女の媚薬はどうも原作を見た限り、かなり最初に得たカードだったのでタイミングが合わなかったからです。
別に順番くらい入れ替えてもいいとは思ったのですが、マンドラゴラ登場で十分オチはつくし、媚薬後半予定だったネタを自然に使える都合の良いアイテムを原作でもゴン達は手に入れていたので分割したのですが……、結果としてとてつもなくゴンに申し訳なくなりました。

ゴン、マジでごめん。けどジンには謝らない。
媚薬はともかく、精力増強剤は本気で何考えてるんだこのおっさんは。

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