死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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3:念能力でも魔術でもない

 ソラの所為なのかビスケの所為なのか、とにかくホテルから追い出されてしまった二人は、コーヒーショップで飲み物を買って、周辺地理の確認の為に明日から開始される展覧会予定の美術館に足を運ぶ。

 

「あ、そういえば師匠。やっとガンドがフィンの一撃になりましたよ」

 その途中、マドラーでカフェオレをグルグルかき混ぜながらソラは、ビスケに修行の成果を報告する。

 

「そう。けどそれ、放出系能力なら今更? ってレベルよ」

 やたらと嬉しそうに、犬なら尻尾を全力で振っている様子だったので思わず褒めそうになったが、ソラが言う「ガンド」とは念能力で言えば放出系能力の念弾であり、「フィンの一撃」というのは物理ダメージを与える程の威力になった念弾のこと。

 

 強化系のオーラを持つソラなら、たとえ変化系よりの強化系であっても、とっくの昔にマスターしていないとおかしいほど初期レベルであり、他の弟子ならビスケはこの発言に呆れるどころか、才能が心底ないから念能力者になることは諦めて、普通の人間として生きていきなさいと本心からの善意で勧めるレベルの話だった。

 が、その常識が当てはまらないのがこの弟子であることも、ビスケはこの3年間で思い知らされてきた。

 

「わかってますって。でも私の世界じゃこれで、ガンド使いとしては天才とか言われちゃうレベルですよ」

「でも、フィンのガトリングとか呼ばれるレベルの奴もいるんでしょう?」

「あれはラベリングするなら、天才じゃなくて化け物ですから。っていうか、本当の意味でのフィンの一撃は物理ダメージじゃなくて、心停止させる呪いなんですけど、何で銃弾になってんですかね、私の元姉弟子たちは」

「……本当、中途半端に念能力の知識が重なってる分、余計にやりにくいわさ」

 

 ビスケはカフェモカをちびちび飲みながら、改めてこの弟子の面倒くささに溜息をついた。 

 

 * * *

 

 ソラがやってきた世界とこちらの世界では、似ている部分も多いが同じくらい違う部分も多い。

 その中でもソラの世界に存在し、そしてソラが未熟なりに使用する「魔術」という技術は、こちらの世界で言う「念能力」にかなり近いが、同時に大きく違う。

 

 まず「魔術」に必要な「魔力」と「念」に必要な「オーラ」は呼び名が違うだけで同じ「生命エネルギー」だが、「魔術」はその血統に、血族に脈々と引き継がせるものに対して、「念」は基本的に個人で目覚めて作りあげて終わる、一代限りの力である。

 

 その違いが如実に現れ出ているのが、ソラが持つ「魔術回路」という「魔力(マナ)」もしくは「オーラ」を生み出す炉心にして、「魔術」や「念」を行使する際に魔力やオーラを巡らせるための路である疑似神経。

 疑似とはいえ魔術回路はほぼ内臓と同じ扱いであるため、ソラは言葉通り元の世界でもここの世界でも普通の人間とはもちろん、念能力者とも全く違う体の作りをした人間であり、実はこの所為でソラは「念能力者」として見れば、実力があるのかないのかよくわからない、妙にちぐはぐしたものだったりする。

 

 この疑似神経のおかげで、一代限りの「念能力」を子孫にそのまま受け継がせ、更なる能力の向上や発展が可能なのが、ソラの世界の「魔術」と呼ばれるもの。

 だが、親と同じ系統のオーラを持つ子供は多いが、まったく別の系統のオーラを持って生まれることも珍しくもなく、後天的に変化する者も少ないが確かに存在するので、この技術は本人の資質を無視して、無理やり特定の能力だけしか使えないように子孫を改造しているようなものでもある。

 実際、ソラの世界の魔術師たちは子孫に一本でも多くの魔術回路を持たせる為に手を加えるのだが、そんな内臓を増やすと同義の手段が真っ当なはずがない。

 

「けどまだ、あんたは強化系だったのが幸いだわさ」

「そうっすね。ガンドも宝石魔術も、放出・強化・変化系だから、バランスよく相性がいいですから。でも宝石魔術は金が無駄にかかるから、別のが良かったなー。

 宝石使い捨てって、未だにもったいなくて使うの躊躇うんすけど。その所為で無駄に魔力充填してる宝石が溜まってゆくし」

「ホント、あんたって悪運が妙に強いわね。系統といい、ストーンハンターのあたしに拾われるといい……」

 

 改めて弟子が生まれながらに持つ資質と、血で決定づけられ学ばされた魔術がまだ、念で言えば相性の良い能力であった事にビスケは安堵した。

 

 ガンドは「指さしの呪い」と呼ばれるもので、その名の通り指を指した相手に向かって呪いをかける「魔術」であり、放出系とソラは強化系を応用して相手の免疫力を一時的に強化させることで、ジンマシン程度の軽いアレルギー反応を起こす程度の念弾を放つ能力。

 宝石魔術は、簡単に言えば呪いや魔術の効果を宝石などの鉱物に定着させて、投げつけたり簡単な呪文で魔術が発動する爆弾を作りあげる、やや操作系に近く思えるが、宝石自体を自在に操る訳ではないので、オーラの性質を変える変化系、自分の体からオーラを切り離す放出系の複合能力。

 

 肝心の強化系をあまり使ってはいないとはいえ、比較的相性の良いとなり合う系統を使用しているのは、本当に幸運だった。

 この系統でもし、「投影」と呼ばれるどう考えても具現化系じゃないと扱えない魔術だったとしたら、眼も当てられない結果だっただろう。

 

「ま、でも能力が向上して進歩してるのなら、いいことだわさ。前までだと呪いとしても、嫌がらせにしか使えない威力だったしね。

 で、ソラ。“流”や“堅”の修業はどうなってるの?」

 ビスケがようやくソラの進歩を褒めると、目に見えて嬉しそうな様子を見せたが、その後に続いたビスケの問いには「げっ!」と言わんばかりに顔を歪めた。

 ビスケは「ソラ? まさか、一人旅の気楽さでさぼってるとかないでしょうね?」と、見た目は天使の笑み、実質は仁王や阿修羅顔負けのオーラを放って弟子を問い詰める。

 

「……や、やってますよ。やってますよ、一人の時もちょっと虚しいなーとか思いながら一人で流々舞っぽいことやって、ちゃんと修行してますよ!

 でも仕方ないじゃないですかー! 私、ガチで体の作り違うんだから、上手くできなくても仕方ないじゃないですかー!!」

 ビスケのオーラから逃げるように目を逸らして答えたソラだったが、言ってて逆ギレなのか愚痴なのかよくわからないことを、開き直って叫びだした。

 ビスケはその叫びを「うっさいわ」の一言で終わらせ、ソラの脇腹に手刀をぶっ刺してとりあえず黙らせる。

 

 それ以上は、「真面目にやってるのならいいか。仕方がない」と言わんばかりの顔をするだけで、何も言わない。

 念能力で言えば“発”にあたるガンドや宝石魔術より、基礎的であり戦闘には必要不可欠な四大行の応用系である、戦闘中に“凝”を滑らかに行う“流”や、“纏”と“錬”の複合型、全体防御の“堅”がソラは極端に苦手なのは念能力者としてかなり致命的だが、これも魔術回路の所為でソラ自身に責任はないので、ビスケもあまりきついことを言うのは躊躇われた。

 

 魔術回路はオーラを生み出す炉心の役割を果たすので、それがないこちらの世界の念能力者よりソラの方がオーラ量は妙に多いのだが、同時に「魔術」を行使する際にオーラを巡らせる「路」である所為で、「魔術回路」が存在しない体の部位に上手くオーラを回せないという、こちらの世界の人間ならありえない欠点をソラは抱えている。

 

 全く回せない訳ではないので、“纏”は特に問題がないのだが、彼女の魔術回路は手足と頭にあり胴体部にはない所為で、長時間オーラを放ち続ける“堅”を行えば、時間が経つにつれて手足や頭のオーラは余裕なのに胴部だけオーラ量が減ったり、手足への“凝”は滑らかなのに胴部へのオーラ移動が妙にぎこちなかったりと、この女は防御面が不安定すぎて、これこそがついついトラブルに全身を突っ込みに行くソラをビスケが心配してしまう最大の理由でもある。

 

 修行不足なら自業自得とほっとけるが、これは先祖の身勝手で非人道的な「魔術」への執着で阻害されているものの為、どうしてもビスケはソラに対して他の弟子より過保護で甘い対応になってしまう。

 が、同時にその心配があまり必要のない相手であることも、本当は知っている。

 

 本当は、ソラに念能力の修業をつける必要などなかった。

 むしろビスケは稀に、自分のしたことがとんでもない破滅をもたらすのではないかと思う。

 自分たちの、念能力者の「天敵」に、自分たちの手の内を教えてしまったのではないかという不安が、ほんのわずか、針でつけた穴程度の大きさだが、確かにそれは存在していた。

 

 そんな師匠の心を相変わらず弟子は知らず、カフェオレを飲み干して行儀悪くマドラーを口にくわえて、子供のように無邪気に指をさしながら言った。

「師匠師匠、展覧会やる美術館って、あれですかー!?」

 

 訊きつつも、答えを聞かずに走り出す弟子に「待たんかバカ弟子!」と怒鳴りつけ、ビスケはその背を追った。

 その時にはすでに、不安など忘れ去っていた。

 

 しかしすぐさま、思い出された。

 唐突に立ち止まったソラの背中にぶつかって、ぶつけた鼻を押さえながら弟子に文句をつけようと、ソラの顔を見上げてた瞬間。

 

 ソラの眼が、夜明直前の藍から明度が増して上質なサファイアのような色に変化していることに気付いた瞬間、ビスケの背筋に悪寒が走った。

 

 * * *

 

 ソラの眼にわずかにオーラが集まるが、ソラが見ているもの、「見えているもの」は決して念能力ではなく、魔術でもない。

 これはただ、元々ある能力を無意識的に“凝”で強化して、さらによく見えるようにしているだけ。遠くのものを見ようとして、目を細めるのと同じにすぎない行為。

 

 サファイアブルーに変化した目のままある一点を、美術館の入り口前で展示品などの搬入指示をしている責任者らしき男を、ソラはじっと見つめたまま口の端を吊り上げた。

「師匠。思ったよりも厄介な相手が狙ってるっぽいよ」

 

 ビスケはソラの言葉に応えず、自分も“凝”でその男をよく見る。

 男は美術館の責任者ではなく、この展覧会主催のコレクターが雇ったボディガードなのか、綺麗な“纏”をしているが、ビスケ程の実力者なら“凝”で見てみれば一目瞭然だった。

 

 男の頭に、男のものではないオーラがわずかに埋め込まれていることを、“陰”で隠したおそらくは操作系のオーラの存在に気付きつつ、ビスケは隣のソラに尋ねた。

 

「……ソラ。あんたには、何に見える?」

 

 ビスケの言葉に、ソラは相変わらずマドラーを銜えたままシンプルに答える。

「死人」

 

 操作系能力者によって操られた人間は、能力者のオーラが送り込むための「アンテナ」を刺すなり取り付けるなりするのが一般的であるが、その場合大きく分けて二つのパターンがある。

 アンテナをつけられても生きており、操られる瞬間だけ意識や自我を奪われる、もしくは意識を保ったまま体の使用権を奪われるパターンと、アンテナをつけた瞬間、オーラが脳を破壊して完全な操り人形にされるか。

 

“凝”を使えばよほどの能力者としてのレベル差がない限り、操作系に操られた、アンテナをつけられた人間を見つけることは可能だが、アンテナさえ外せばいいのか、もう既に脳死状態にされて手遅れなのかは、調査系・察知系に長けた念能力を持つ者ではない限り、普通はまずわからない。

 

 が、その調査系にも察知系にも当てはまらないはずのソラは、一目で確信して言い切る。

「あれは、完全に手遅れですね。もう死んでる。完璧死んでる。死んでるのに動いてる。

 もう完全に、ほぼ真っ黒」

「……そう」

 

 ビスケはソラの言葉に深くは追求せず、顎に手をやって考える。

 この展覧会を開催する動機自体がそもそも子供じみた顕示欲なので、展示される宝石のレアさなど関係なく、コレクターに対する嫌がらせか何かで絶対に何らかのトラブルが起こるとは踏んでいたが、念能力者を操り人形にするほどの手練れであり、そして脳を破壊するという非人道的な手段を使う相手に狙われているのなら、トラブルが起こった後にその犯人をぶっ飛ばして恩を着せるという手段は、あまりいい手ではない。

 

 この相手はおそらく、ガードマンや展覧会にやって来た客、コレクターも殺すことを躊躇わないタイプであることは一目瞭然だから。

 なので、ビスケは深々とため息をつく。

 

「……はぁ。正当な契約を結びたくなかったんだけどね」

「いーじゃないっすか。ホテル追い出されて泊まるところなかったんだし」

 

 ビスケの言葉にソラはケラケラ笑い、ビスケによってまたわき腹に手刀を刺されて悶絶する。

「いいから、あんたはちゃっちゃとやってきなさい」と悶絶している弟子を労わる気もなく、ソラが「死人」と称した男をビスケは指さした。

 

「あれ? 珍しいな、師匠が『あれ』を使えだなんて」

「操作系ってことは、向こうは安全な場所からこっちの手の内を見てる可能性が高いでしょう。なら、あんたの『あれ』が一番早く終わって、なおかつ『あれ』はちょっと見せた方が、向こうが勝手に深読みしてくれるからね。

 あたしでも能力ほとんど見せず一撃で終わらせることは出来るけど、この外見でそれが出来ると知られた時点で利点がなくなるわさ」

「元の姿のイケメンゴリラに戻って殴ればいいじゃん。あ、そうなると今度はババアが他のガードマンとかに銃撃されるか。妖怪だから」

「あんたをお望み通り元の姿で殴ってやろうか!?」

 

 ソラのいつもの軽口に、いつものようにマジギレするビスケ。

 そんなビスケのマジギレから逃げるようにソラは立ち上がって、「すみません、嘘です。ババアは妖怪ではなく妖精です」と、フォローしてるのかまだふざけているのかよくわからないことを言いながら、念で操られて生きているふりをさせられている死人のもとに歩いて行った。

 

 銜えていたマドラーを手にして、自分のオーラを完全に体の中に閉じ込めて。

 

「ア!? なンだ、お前ハ!?」

 死人は、いつの間にか自分の目の前までやって来ていた白髪の美貌、ソラの存在に驚きの声を上げる。オートである程度、生前の記憶などを参考に自然な言動が出来るようになっているのか、操り主が素で「いつの間に?」と思ったのかは、ソラにはわからない。

 

 そして、操り主はわからない。

 いつの間に目の前までやってきたのかは、“絶”をしていたからであることくらい、人形を通して見ていたので予想出来ていた。

 そしてソラは、人形の目前に立っても“絶”のままだった。

 

 オーラを一切出さないまま、何かを人形の太ももに突き刺した瞬間、操り主のケータイ画面がブラックアウトした。

 

「………………………ありえない」

 たっぷり一分近く愛用のケータイを眺め続け、仲間から「どうした?」と声を掛けられてやっと発したのが、その一言。

 人形に突き刺したアンテナに込めたオーラが、たったの一撃、一瞬にして完全消失した現実をシャルナークが受け入れるまで、もう数分要した。

 

 * * *

 

 クロロ=ルシルフルがその宝石展を襲撃しようと決めたのは、ただの偶然とほんの気まぐれ。

 たまたま立ち寄った街で、それなりにレアな王朝の宝石や装飾品の展覧会をすることを知ったので、連絡がつく者にだけ「暇なら来い」と二日ほど前に伝えただけだった。誰も来なければ、一人で十分だとさえ思っていた。

 

 なので、やってきたメンバーはパクノダ、フェイタン、マチ、シャルナークの4人のみ。本当に暇で仕方なかった奴か、クロロと同じくたまたま近くにいた奴だけがやって来た。

 少数だがうまい具合に戦闘・治療・情報収集に長けた奴らが集まったのと、展覧会の主催者に危機感がまったく感じられないのもあって、これは楽すぎてむしろフェイタンあたりが消化不良でキレるかもなと心配したくらいだった。

 

 が、その心配が杞憂だと確信させる出来事が、昼間に起こった。

「楽勝だろうけど、少しは情報収集と手回ししとくよ」と言って、シャルナークが主催者が雇った展示品のガード役念能力者を「携帯する他人の運命(ブラックボイス)」で操り、内部の情報を盗み取りながら、自分たちに都合のいいように展示品の場所やらガードマンの位置を誘導させていた。

 

 その操っていた人形が、シャルナークの能力が一瞬で無効化されたことに、彼はしばらく「あり得ない! 何、あの白髪は!?」と叫びながら、パソコンの前にかじりついていた。

 これが普通に“纏”でもしてる状態で起こったのなら、相手は強力無比な除念師だと思えるが、白髪が“絶”状態でそれを行ったと聞かされたときは、旅団のメンバーはまず全員、フェイタンやクロロも含めてポカンとした顔になってから、「シャル、お前は疲れてるんだ。ちょっと休め」と思わず彼を気遣った。

 

 信じてもらえないのはわかっていたのか、シャルナークは「気遣うくらいなら俺以外の誰かもハンターライセンス取るとかしてよ!」と言いながら、ハッキングしてきた白髪に人形が刺された瞬間をちょうど映した監視カメラの映像を、他の3人にも見せた。

 

 シャルナークの言う通り、白髪は“絶”状態のまま人形に近づき、彼が刺したアンテナを抜くこともなく、たったの一撃でシャルのオーラを消し去って、操り人形をただの死体に変えた。

 この一撃が頭でも心臓でもなく太ももというだけでもやっぱり信じられないのに、白髪が何を突き刺したのかを知って、全員が絶句する。

 

 プラスチック製のマドラーだった。

 それが人形の太ももに、まるでプリンやゼリーに突き刺すように深々と刺さって、人形は自分を操るオーラを失い、倒れた。

 

 念能力の常識をひっくり返すどころか、破壊しつくすこの映像の衝撃から初めに回復したのは、やはりリーダーのクロロだった。

 彼は驚愕に見開いていた眼を、わずかに笑みの形に細めて命じた。

「シャル。こいつの事を出来る限り調べろ」

 

 命じられた方も予想は出来ていたのか、「はいはい」と軽く応じながらも既に手は映像を見ながら他のパソコンのキーボードを高速で打鍵して、この白髪に関しての情報を探していた。

 

「団長、どうする気か? 盗むか? 仲間にする気か?」

「今、メンバーに空きはないじゃない」

「……4番あたりが今すぐ死んでくれないかね」

 

 団長の言葉に、どちらの目的にしろ白髪と戦えないことを不満そうにするフェイタンが問い、パクノダが細かいところにツッコミ、マチが若干遠い目で割と本気で願った。

 マチの言葉にフェイタンが「そうね。奴が死ぬのが一番ね」とノリ気になってしまった所で、一応クロロが「団員同士のマジギレは禁止だぞ」と注意してから、宙に目をやって質問に答える。

 

「どちらにしろ、まずは本人に会ってからだな。どんな能力かはこの映像だけではわからんが、もし除念師なら能力を盗むのも仲間にすることも出来なくても、金を払えばいいのなら何としてもツテだけは作っておくべきだろう」

 クロロの言葉にフェイタンはわずかに不満気だが、実際に「優秀な除念師を見つけるのは雪男を見つけるよりも困難」だと言われているのだから、納得した。

 

 どう見てもこの白髪は、優秀という言葉で済ませて良いレベルではない。天才という言葉でも、おそらくは足りない。そもそも、“絶”をしていたことからして、シャルナークのオーラを消したのは念能力かどうかも怪しい。

 

 そんな力を持つ相手を、さっさと殺してしまうのはもったいない。

 もちろんいくら金を積んでも絶対に自分たちの味方にならない、敵以外にあり得ないというのなら、クロロは躊躇なく殺すだろうが、ここは盗賊としての矜持をかけて何としてもあの能力を盗み出したいと思っていることは、子供じみたキラキラとした目の輝きが如実に語っていた。

 

 そんなやる気に満ち溢れてしまった団長に、「じゃあ、計画は宝石からこの白髪に変更?」とマチが尋ねると、クロロは心底不思議そうな顔で「いや。宝石ももらうぞ」と言い出す。

 どうせ一通り愛でたらその執着が嘘のようになくなって売り払うくせに、手に入れる前は子供のように強欲な自分たちのリーダーにマチとパクノダは顔を見合わせて、かすかに苦く笑う。

 その笑みは、まるで子供っぽい兄のわがままに対して「しょうがない」と言わんばかりの、家族のような独特の距離感が見える笑みだった。

 

 二人のその笑みに、自分の方が年上なのに年下を見るようなまなざしに、少しだけクロロはムッとしたが、シャルナークの「クロロ、とりあえず簡単なプロフだけは拾えたよ」という言葉で、気を取り直す。

 

「なんかさ、思った以上に厄介そうな相手だよ。戸籍がないんだけど、見覚えある?」

 シャルナークが監視カメラの映像よりはっきりと顔が写ってる写真を他のメンバーに見せるが、全員首を横に振る。

 戸籍が存在しないという事は、この白髪は自分たちと同郷。流星街の住人のはずなのに、いくら最近里帰りをしていなくても、ここまで顔立ちが整った相手なら少しくらい見おぼえがあるはずだが、全員の記憶にこの白髪は存在しない。

 

「名前は、ソラ=シキオリだから、マチと同じくジャポンの人間のはずだろうけど、見覚えは?」

「あぁ。歳も近そうだから、あそこにいたのならたぶん確実に顔と名前くらいは知ってると思う。間違いなく、こんな奴は知らない」

 シャルナークの念押しの言葉に、マチははっきりと否定する。シャルの言う通り、歳が近くて育ちはともかく生まれがジャポンのマチは、同じくジャポンで生まれて流星街に捨てられた同世代の人物がいたら、多少の興味が湧くはずなので、記憶に全くないという事はいなかったと断言できる。

 

「だよね。これだけでも興味深いのに、なかなか面白い経歴だよ。

 二ツ星ハンター、ビスケット=クルーガーの弟子。アマチュアで特定の何かをハントしてるわけじゃないけど、いろんなとこで色々やってるみたい。能力はやっぱりわかんないけど、除念が出来るのは確かだね」

 

 シャルナークはそれだけ言って、さすがに全部を口頭で説明するのは面倒だったので、パソコンのモニタを全員に見せる。

 クロロたちがざっとモニタに羅列された、ソラ=シキオリのプロフィールと経歴を読み取ってまず初めに同じことを全員が口にした。

 

『女だったのか』

「うん、俺もそれ思った」

 

 その頃、この上なく性別不詳なソラは豪快なくしゃみを5連続でかましていた。




ほぼ説明回だったので、ソラさんがあまりボケなかった。

魔術と念能力の共通点や違いについては、完全にこじつけの独自解釈捏造設定です。
一応、タイプムーンWikiを見ながらつじつま合わせをしているので、あまりにもおかしい所はないと思いますが、何かしら間違いや矛盾がありましたら遠慮なくご指摘お願いします。

ただ、基本的にハンター世界を主流に物語を進めるつもりなので、正確に言うと違うと理解しているうえで、強引な解釈でハンター世界に合うようにつじつま合わせしてる場合や、完全に私のミスで設定を勘違いしていたけど、その設定じゃないと話が破綻する場合などは、指摘されても間違いを正せずそのまま続行する可能性が高いです。
そのあたりは、ご理解とご容赦をお願いします。

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