名前:ソラ=シキオリ
誕生日:2月12日
年齢:21歳
身長:169㎝
体重:50㎏
出身地:異世界
念の系統:強化系
一番理想的なのはソラ=シキオリが仲間になる事だったが、現在空き番がないことに加え、シャルナークが大ざっぱに調べたソラの経歴に犯罪行為はなかった。
いや、正確に言えば器物破損どころか建築物をいくつか崩壊させているし、相手の手足を切断という取り返しのつかない傷を負わせたことも少なくないが、それはシャルナークが調べた限り、犯罪者や念能力者との闘いの結果であり、師であるプロハンターの庇護もあってたいていが正当防衛の事故扱いで、せいぜい損害賠償程度で済んでいる。
つまりは、同じ戸籍がない人間でもクロロたちとは違って闇ではなく光側を歩いて、生きているような女だった。
なので、A級賞金首の仲間になれと言われてOKする相手ではない可能性が高かった。
ビジネスの関係を結ぼうにも、この女は除念を商売にしている訳ではないらしいので、ゾルディックのように金さえ払えば誰でもというプロ意識も期待できなかった。
その為、クロロが思いついて実行したのが「加勢に来た真っ当なハンターと思わせて、とりあえず信頼をまずは得る」だった。
能力柄、演技と口車には自信があった。例えビスケと合流すればすぐにばれる嘘でも、長期的に騙す必要性はないので、特に何も考えずただこの場で一番自然であろう流れの嘘を並べ立てた。
必要なのは、この女にあの除念と思わしき能力を自分の前で実演させることと、その能力に関する質問の答え。
それさえあれば、先ほどからシャルナークが操る人形相手にただひたすら無様に逃げ回るしか出来てないこの女なら、いくらでも隙をついて気絶させることが出来る。
それさえ済めば、ソラから能力を盗み取ることが出来るとクロロは思っていた。
盗んでも、自分には使用できない可能性は承知の上。
昼間の出来事をふまえれば、絶状態で相手に近づきオーラを込めた物品を刺すが、その能力行使の条件である可能性が高く、それなら盗むことが出来ても「盗賊の極意」を具現化して手に持っていなければならないという制約を持つクロロにとっては無用の長物と成り果てる。
が、あの一撃で他人の念能力を無効化する力は、たとえどんなに使用条件が困難でも敵に回れば脅威なのは間違いないので、クロロが使えなくとも奪って無力化しておいて損はない。
それに、どちらかというと真っ当な道、光側を歩いているとはいっても、流星街出身でもないのに戸籍がないという身分が真っ当な人間なわけがない。
自分たちと同調しそうな人間なら、能力を盗まずともビジネス関係を結ぶことが可能かもしれなかったので、とりあえずどんな人間かを知ることに損はないと考えた。
だから仲間に「胡散臭い」と爆笑された変装でまずは近づいたのに、まさかの即バレ。それも、前半はともかく後半は予想外すぎる理由でだ。
「お前、本当に女か?」と心底呆れながらクロロが言うと、ソラは真顔で「悪かったな、絶壁で」と胸を張る。
そこは誰も、何も言っていない。しかも何故、そんなに堂々と自分から言い放つんだ? と突っ込む気力はさすがにクロロにはなかった。
ちなみにシャルナークは、その場に蹲って爆笑していた。
「っていうか、マジで何なんだよお前らー!
展示品目当てならもうちょい、大人しい方法使えよ! 何で私ごと念弾で撃ち抜く気満々なんだよ! 私、イケメンは嫌いじゃないけど特に好きでもないから、来るんなら私じゃなくて師匠の所に行けよー! よだれ垂らして歓喜するからさー!!」
さすがのクロロも、シリアスをブレイクさせるどころかシリアスの芽が生まれた瞬間、爆砕させてくる女など初めてなので、反応に困っていたらソラの方が先にキレて叫び出す。
「お前らの目的は、展覧会の宝石なのか宝石の持ち主への嫌がらせなのか、はっきりしろよ! それとも、ただ戦うのが好きなだけか!? それなら、場所移動を要求する!
ここだといざという時に私がめっちゃ逃げにくい!!」
「仕事する気ないのか、お前は」
どこまでも自分の調子を狂わせる女に、まだ何もしていないというのに疲労が溜まってゆき、割と本気でもう帰りたいとクロロに思わせるという、誰にも誇れない快挙をソラは成し遂げる。
ただ、ソラの頭が痛くなる言動でも一つわかることがあった。
それがクロロの欲するものを得る良い交渉材料になると理解して、彼は眉間に指を置いて頭痛を堪えながら彼女に告げる。
「……場所を移動する必要も、逃げる必要もない。
ソラ=シキオリ。俺たちと、取引をしないか? お前がこの取引に応じれば、俺たちはお前に一切の危害を加えないことを約束しよう」
「いいよ。じゃ、お引き取りお願いします」
「せめて取引の内容を最後まで聞け!!」
長い付き合いだが、クロロがキレて突っ込むのをシャルナークは初めて見て、また爆笑した。
* * *
爆笑するシャルナークの頭を一回どついて黙らせ、クロロはなんとか気を取り直して取引の内容を語る。
「まぁ、こちらが要求するのはシンプルに一つだけだ。
俺たちに何らかの念能力をかけられた際の『除念』。それだけだ。別に今回のように俺たちの仕事とブッキングした際に、俺や団員の念を除念するなとは言わない。ただ俺たちは、専属の除念師が欲しいだけだ。
だから、この取引に応じれば自動的に俺たちは絶対にお前の敵に回らない。自分の病を確実に治癒する医者を殺す患者などいるわけがないだろう?」
クロロの見立てが正しければ、ソラという女にビジネスのプロ意識は期待できないのは、先ほどからの言動で嫌になるほど理解できた。
だから交渉材料は、金ではなく命。
彼女は、自分の生存を最優先していることは明白だった。だからこその、あの頭の悪い言動の数々だ。
「だが、この取引に応じなければ、お前を殺す。こちらの利にならないのであれば、お前は厄介な敵でしかないのだからな。
お前が取引に応じるなら、俺たちはおとなしく今日は退こう。まぁ、宝石は諦める気はないが、お前の顔を立てて、お前が雇われている間は襲撃しない。
……さぁ、どうする? ソラ=シキオリ」
答えなどわかっていた。というか、先ほど即答していたが、それでもクロロはもう一度ソラの口から答えを引き出そうとする。
クロロには、ソラの自分の命に対する執着は全く理解できなかった。
「死」はいつだって自分の傍らに存在するものであることを、クロロはもちろん彼の仲間は皆、言葉を覚えるよりも先に知っていた。
「死」を忌避はしていない訳ではないし、もしも仲間が死ねば、それが旅団結成時の古株、家族同然の幼馴染たちならその喪失感は永遠に埋められないことも想像がつく。
だから自分からその「死」に飛び込む気はサラサラないが、それでもいつだって隣り合っているものなのだから、別にいつ訪れても恐怖はない。ただ、運が悪かったな、失敗したなと思うだけだろうと確信している。
ゆえに、ソラの「自分の命に対する執着」に関して、クロロは全く理解できないし、しようとも思わない。
が、その無様なまでの足掻きと、傍から見たら意味がないと思われるものに対しての執着そのものに関しては、何故か妙に近いと感じた。
親近感と言えるほどではない。けれど、確かにそれは近かった。
自分の命に対しての執着を捨てる代わりにクロロが執着するのは、命よりも守って遺して生かしたいのは、幻影旅団という存在。
自分がいなくなった後も、幼馴染たちがいなくなった後も、幻影旅団という大グモの存在だけが残って生き延びて何になる? と問われたら、クロロは何も答えられない。元々、動機の言語化は苦手だが、これはもはやそういう問題ではない。
それは、生まれたのならいつか死ぬという当たり前にして最大の矛盾の中でも、生きたいと願って足掻く原初の願いと同じ、結局は別側面に執着して足掻いているにすぎないのかもしれない。
だからこそ、答えなどわかっていた。
それでも、その口からはっきりと聞きたいと思った。
自分個人という存在に執着して生き延びようとする女に、個人という枠組みを捨てて旅団という存在に永遠を求めた自分自身を見たことに、クロロは気づいていなかった。
「……その前に、一ついい?」
そんなクロロにひどく遠くて違う、なのにあまりに近くてどこか似ている女は、先ほどは即答で了承したというのに、何故か話を聞いたら今更かつもはやどうでもいい部分を気にして、学校で生徒が教師に質問するように手を挙げてから訊いた。
「そもそも、お前ら何なの? 団長とか呼ばれてるけど、サーカス団か何かなの?」
あまりに今更過ぎる問いに、クロロはもちろんソラの発言にウケっぱなしだったシャルナークも脱力した。
この女、自分の相手がA級賞金首であることを全く理解してないまま、今までボケ倒していたらしい。
「…………………あぁ、そうだな。まったく俺たちは名乗ってなかったし、入れ墨も見せてなかったな」
何とか抜けた力を入れ直して、クロロは声を絞り出す。
「俺たちは、『幻影旅団』だ。
そして、俺はその頭。クロロ=ルシルフル」
クロロが絞り出した声で告げた言葉は、さすがにアイドルに会ったようなテンションで騒ぎもしなければ、「ふーん」と軽く流されることはなかった。
先ほどからの言動からして、この女がする反応はその二通りだろうと覚悟していたクロロだが、予想外にソラは真っ当な反応をした。
「……………………『
ミッドナイトブルーの瞳を見開いて、ただそれだけを呟いた。
* * *
予想外ではあったが、さすがにA級賞金首の盗賊団の名を聞いてもふざける度胸はなかっただけだと思った。
ただ驚愕しているだけだと思った。
そして、知ったのならばもはや答えは決まったも同然だと信じて疑いなどしていなかった。
「「!?」」
とっさに、クロロとシャルナークは後ろに飛びのいて、シャルは先ほどから棒立ちさせていた人形を盾にするため走らせた。
「焼き払え」
ソラの女性にしてはやや低い声が、短く命じる。
それは、起爆の言葉。
クロロとシャルに向かって投げつけた、自分のオーラを、魔力をたっぷりと充填した宝石を、そこに定着させた魔術を起動させるためのスイッチを口にする。
投げつけられて宙に散らばった宝石が、一瞬光を放ってそのまま連鎖的に爆発を起こし、念能力者とはいえ操られて、そのうえペース配分もなくシャルナークによって念弾を連発させられていた人形がその魔力、オーラによる爆発に耐えられるはずもなく、あっという間に火だるまとなる。
が、それでひるんだり動けなくなったりはしないからこそ、操り人形。
シャルナークの高速の打鍵によって与えられた命令に従って、人形は全身が燃え盛ったまま、むしろ自分についた火を武器にしてソラの方に向かってゆく。
しかしそれも、予想済み。
数分前まで、自分の未熟な“堅”でも防ぎきれるような念弾に、ぎゃーぎゃーと騒がしく叫びながら逃げ回っていた人間と同一人物とは信じられないくらい静かに、彼女は自分のツナギのポケットから取り出したもので、自分に灼熱の抱擁を与えようとした腕を、切り払った。
燃え盛る腕がクルクルと宙を舞う。
そしてその腕が床に落ちる前に、ソラは突き刺した。
操り人形の左目にソラが何かを突き刺した瞬間、昼間の人形と同じくシャルナークのケータイ画面がブラックアウト。
人形のオーラは掻き消えて、そのまま力なく崩れ落ちた。
「……何のつもりだ?」
尋ねながらも、クロロは冷静に現状を見ていた。
交渉が成立しなかったのは予想外ではあったが、仕方がない。能力を盗む条件が一つクリアしただけでも良かったと思うと同時に、「もしかして」と思いつつ「ありえない」と思っていた可能性を思い出す。
「……別にさ、お前らが犯罪者だからとかそういうのは関係ないんだ」
クロロの質問の問いなのか、ただの独り言なのか、それともクロロ達に対する何らかの宣言なのか判別のつかないことをソラは呟く。
眼は見えない。俯きながら、眼の疲れを取るように眉間を左手で揉んでいるからだ。
そんなことをしていなくても、現時点ではシャルナークもクロロも、ソラの目になど注目はしていなかった。
二人はただ、だらりと下がるソラの右手を見ている。
そこに持っている物を見て、シャルナークがひきつった笑顔で呟いた。
「……マジで?」
彼女が持っていたものは、3本セットがワンコインショップで買えそうな安っぽい大量生産のボールペン。
それだけなら、その衝撃はもうすでに昼間の監視カメラで、太ももに刺さった使い捨てのマドラーで受けていたので別に驚きはない。
問題は、そのボールペンには今はもちろん、間違いなく人形の腕を切り飛ばした瞬間も、シャルナークの念能力を無効化させて人形を機能停止にさせた時も、オーラを込められていなかったということ。
監視カメラの映像と、シャルナークの言葉で「まさか」と思っていたが、クロロやほかの団員はもちろん、その攻撃を受けてケータイ画面越しとはいえ一番近くで見ていたシャルナークも、ある前提が完全な固定概念になってそれ以外の可能性に気付いても、その可能性を考慮どころか意識する前に「ありえない」と切り捨ててしまっていた。
この世の「魔法」「超能力」「奇跡」「異能」と呼ばれる類のものは、すべて「念能力」であるということを大前提にしていた。
その前提を、彼らの世界を根本から崩し、壊し、殺しつくす力を持った女は俯いたまま話を続ける。
「私は死にたくないからさ、他人の『死にたくない』とか『生きたい』とかについ、感情移入しちゃうんだよね。だから、犯罪者だろうがなんであろうが、殺したくないんだよ。基本的に。
ここで殺さないと犠牲が増えるとか何とか、他の誰かから言われても嫌なもんは嫌。死にたくないから生きてるのに、生きてて辛い思いを抱えるのも嫌だから、嫌なことは絶対にしないって決めてる」
左手で自分の目を覆ったまま、ソラはバカみたいなテンションが嘘のように淡々と語る。
「だから、お前らの取引は受けても良かった。文句なんか何もなかった。
でも、ダメだ」
左手が離れる。
が、ソラの瞳はまだ閉じられていた。
「お前らだけは、ダメだ」
何かを封じるように閉じた瞼の裏で、思い出す。
3年前、こちらの世界にやってきたばかりの頃を。
* * *
ただ、死にたくなかった。
そんな本能的で、原始的で、空っぽの望みに縋り付いていた。
誇りもなく、
価値もなく、
意味もなく、
生きていたいのではなく、死にたくなかった。
ただその一心で、根源とも混沌とも深淵とも最果てとも「 」とも呼ばれて、名前などないあの始まりにして行き着く先から逃げ出して、自分が生れ落ちて生きてきた世界とはあまりに遠い世界にたどり着き、そして世界の脆さを嫌でも思い知らされて、それでもソラは足掻き続けた。
空っぽのまま、ただの時間稼ぎにすぎないことなど百も承知で、地べたを這いずり、泥水を啜りながら足掻いてもがいて死ぬことを拒絶して、その先で彼女は出逢った。
「離せ! 離せっ!! 殺すぞ!!」
殺すと言っている方が、殺されかかっていた。
その目には憎悪と殺意が燃え盛っていたのに、同時に絶望と諦観が入り混じっていた。
死にたくないのなら、ソラは放っておくべきだった。
自分の存在は気づかれていなかったのだから、屈強な男二人に取り押さえられて、瞼をこじ開けられて眼球を今にも抉り出されようとしている子供など見なかったことにして、あそこから逃げ出したのと同じように逃げれば良かった。
その子供とソラは何の関係もない、それこそ言葉通り生まれた世界も本来なら生きる世界も違うはずだったのだから。
出逢うはずなど、なかったのだから。
それでも、確かに出逢ってしまった。
そして、気付いてしまった。
憎悪と殺意に滾りながらも、どこか絶望と諦観で死を受け入れているその目の奥、深淵に沈みながらも決して失えない望み。
何もかもを無くしても、例えどんなに足掻いてもいつかは行き着く結末だとしても、それでも誰もがどんなに無様で愚かで情けなくても手放せない、原初。
「死にたくない」と、少年が言っていることに気付いてしまった。
気付くと同時に、駆けだしていた。
限界だと思っていた体があまりにも軽やかで、貧乏性でケチって肝心な時に使えないでいた宝石を躊躇いなく、少年を押さえつけ、少年の命を、願いを踏みにじり、摘み取って、終わらせようとしていた男どもに投げつけていた。
初めて、ソラが「眼」の力を活用したのはこの時。
素手で屈強な男の腕を、まるでナイフでバターを切るように滑らかに切り飛ばしたソラを恐れて、奴らは逃げ出した。
同じように、逃げても良かったはず。
あまりにも「死」に近いソラに恐れて、少年はソラに助けられたという恩義を忘れて、そもそも助けられたということすら認識できないまま、ただその目の奥にあった原初の願いのままに逃げ出されると、ソラは思っていた。
なのに、彼は逃げなかった。
男どもに取り押さえられていた時は、この世全てを、自分自身も含めて焼き尽くすことを望むような業火を連想させた瞳だった。
逃げずにソラを見上げていた少年の目からその業火が温度を無くしてゆき、同じ緋色でありながら印象を大きく変えていった。
その夕暮れを思わせる柔らかで暖かな緋色の瞳に映したソラが、いったい何に、誰に見えていたのか、ソラにはわからないし、知り得ない。
確かなことは一つだけ。
その緋色の瞳から滂沱の涙を流してソラにしがみつき、縋り付いた少年と出逢ったことで、ソラは得た。
誇りはなく、価値はなく、意味はなく、空っぽだった悪あがきに、独りよがりな誇りを、ささやかな価値を、ちっぽけな意味を、
生きたいと、思えた。
生きていたい理由を、ソラは少年から得た。
* * *
瞼の裏で広がった、走馬灯じみた回想を終えてその瞳が開かれる。
「お前らのことは、嫌いじゃないよ。面白いし。
けど、私の優先順位はあの子がたぶん永久一位なんだ」
それは、蒼天にして虚空。
「だから、お前らを許容は出来ない。あの子を、『死』へ誘うお前らを許せない」
それは、
「……あの子を殺させないし、あの子に誰も殺させはしない」
けれど確かに、誇りも価値も意味も生み出したもの。
異世界の魔術師、宝石翁の弟子、「 」から逃げ出した娘は宣言する。
「あの子の……
直死の魔眼が、開かれた。
Character Profile
名前:式織 空
身長:169㎝
体重:50㎏
血液型:A型
誕生日:2月12日
魔術回路:(量)少・(質)良
属性:架空元素・無
備考:直死の魔眼保持者