死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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43:越えられない境界

「……俺たちやこの道具を乗せても壊れない屋根を修理する必要ってあんのか?」

「レオリオ、気持ちはわかるが手を動かせ」

 

 試しの門を開けるためのトレーニングと居候させてもらっているお礼を兼ねて、ゴン達3人はゼブロやシークアントの仕事を手伝ったり、山小屋やその周辺の雑務をこなすようになって早三日。

 初めの内は「キルア坊ちゃんのお友達」という意識が強かったのか、ゼブロ達がお客様対応だったのが少々気まずかったが、既に顔見知りのソラと誰が相手でもするりと距離を詰めてくるコミュ力の塊のようなゴンのおかげで、今では大分打ち解けた。

 同時に遠慮がなくなったのか、ゼブロ達から頼まれる仕事もハードになってきたが。

 

 そんな訳で本日、3人は山小屋の屋根の修理に駆り出され、レオリオとクラピカは80キロの重りを付けたまま最低でも50キロ越えの大工道具に四苦八苦しながら雨漏り箇所を修理し、ゴンはもうほとんど完治しているとはいえ左腕を骨折しているので屋根には上がらず、地上で材料やら道具を運んだり片付けたり梯子を支えたりと、ちょこまか雑用に奔走している。

 

「頑張ってるねー」

 そんな三人を、山小屋から何故かケーキでも入れるような紙箱を持って出てきたソラが声を掛けると、レオリオが「うるせー! お前も手伝え!」と軽口を叩き、ソラもケラケラ笑って軽口を叩き返してのそのまま応酬が始まる。

 

「か弱い乙女にそんな高い所でクソ重い道具使って修理なんかさせんな」

「どこにか弱い乙女がいるんだよ!? 2トン片手で開けれるゴリラしかいねーじゃねーか!」

「全力なら7つ全部開けれますが何か? ウキッ!」

 

 ただでさえ色々突っ込みどころ満載な発言だったが、最後のソラの語尾で「またやってる」と言いたげに呆れていたクラピカ、苦笑していたゴンが同時に噴き出し、レオリオに至っては屋根から落ちかけた。

 

「何だ今の脈絡のないサルは!?」

「いや、さすがに『ウホッ!』はなけなしの乙女心が恥らったから妥協案でサルになった」

「お前にそんなものがあるのなら、頼むからゴリラ扱いされた時点で怒ってくれ!!」

 

 ゴホゴホと咳き込んで息を整えたクラピカが突っ込むが、ソラは下からしれっとした顔で相変わらず意味不明なこだわりを語り、さらに怒られた。

 クラピカの言う通り、ゴリラ扱いに憤慨しない時点でこの女は乙女じゃないし、そしてゴリラ扱いを怒る資格もない。

 何故ならこの女、念無しでも2の扉くらいまでなら開けられるからだ。

 

 一応、三日前に扉を開けた時は3人のドン引きにいたたまれなくなって、さすがに“念”のことをまだ教える訳にはいかなかったので「魔術だよ」と誤魔化した。実際に「強化魔術」というものは存在するし、ソラの念の系統ゆえかソラの家の魔術系統である宝石魔術よりソラは強化魔術の方が覚えも出来も良かった。

 

 が、ソラの師匠であるビスケが学び、所属するネテロが作り出した流派「心源流」は、ネテロがシンプルに言ってしまえばそうだからか割と教えが脳筋発想である為、基本を端的に言えば「心穏やかにまずは体を鍛え上げろ、心を静めて筋トレをやりまくれ」である。

 なので、念の系統がその教えにぴったりということ、そして魔術回路のという弊害の所為でどう修行させても“纏”や“流”、“堅”、“円”などが不得手なソラにビスケは、「とりあえず基礎能力をつけさせて、その辺の不得手をカバー出来るようにしよう」と修行方針にした為、現在その細腕からは想像できない立派なゴリラである。

 

 本人がそのことを何も気にしていないのは幸か不幸かわからないが、とりあえずクラピカにとってはやや不幸だろうということはわかっているらしく、ソラはその辺の話を無理やり切り上げて話題を変える。

 

「はいはい。ところで、ケーキ焼いたから一段落ついたらみんなで食べて」

 

 ゴンが「ケーキ」という単語で眼を輝かせる。屋根の上の二人も普段ならさほど甘味は好まないのだが、普通にやっても重労働な屋根の修理に疲れて体が糖分を欲しているのか、少し気分が向上した。

 ちなみに、この山小屋に滞在してからは3食全てソラが作っている。これもゴン達が今している屋根の修理と同じく、居候させてもらっている対価なのだが、調理器具も当然ありえない程重いので、さすがにこれは余裕で扱えるだけの筋力・体力がある者でないと大怪我必至なので、ソラに一任された。

 

 まぁ、重さ云々がなくてもソラは料理係を譲る気はなかったが。あの二次試験の惨状を見ていたのなら、当然の判断である。

 

「ソラってお菓子も作れるんだね! ありがとう!」

「ケーキって言ってもパウンドケーキだよ。材料混ぜて型に入れて焼くだけの簡単な奴。

 で、私はちょっと出かけてくるよ。夕飯までには帰るから。あと、ケーキも残さなくていいからね。みんなで全部食べちゃって」

 

 ケーキどころかお菓子の類をそういえば長いこと口にしていなかったことを思い出したのか、ゴンは実にうれしそうにしながら駆け寄って礼を言う。

 そんなゴンにソラは和んだのか眼を細めて笑いながら、自分の予定を告げる。

 

「? どこに行くんだ?」

 クラピカが屋根の上から尋ねると、ソラは持っていた紙箱を掲げて見せて少し悪戯っぽく笑って答える。

 

「ちょっと、子猫の餌付けに」

「はぁ?」

 

 ソラの発言にクラピカは不思議そうな声を上げ、レオリオやゴンも首を傾げるが、ソラは3人の反応を気にせず笑って一人勝手に語る。

「私に懐いてくれてる可愛い黒猫がいるんだよ。警戒心が強くて人見知りだから、私が君たちと一緒にいると出てこれないんだ。

 でも、甘えん坊でちょっと我慢も足りない子だから、そろそろ私の方から会いに行ってやらないとバカなことをやらかしそうだから会いに行ってくる」

 

 言っていることに少し違和感があったが、少しの違和感程度だったので3人は特に追求せずに納得して、ソラを送り出す。

 スタスタとソラが歩いて行った方向が試しの門の方向ではなく、ククルーマウンテンの方向だったのがまた違和感だったが、おそらくはゾルディック家の敷地に住み着いた野良猫ではなく、ゾルディック家の飼い猫の話だったのだろうとやはり勝手に納得する。

 

 ソラの語った「可愛い黒い子猫」の正体を知ったのは、約一時間後。

 シークアントと交代で戻って来たゼブロに、ソラがククルーマウンテンの方に行ったことと、彼女の言葉をそのまま伝えたら、彼は気まずさと微笑ましさが同居したような微妙な表情で答えた。

 

「それは多分……、実際の猫ではなくカルト坊ちゃんのことですね。ゾルディック家の末っ子の」

 

 その一言で、クラピカの機嫌が悪くなったのはまた別の話。

 

 * * *

 

 訓練やお稽古事も終わらせた自由時間、最近のカルトは相変わらず女児用の華やかな振袖姿で試しの門付近までやって来る。

 理由はもちろん、ソラがいるから。

 

 ソラに直接会いたくて、電話やメールではなく直接話がしたくて、試験中のキルアの様子を教えてくれたように帰って来てからのキルアの話がしたくて、ソラが来たと報告を受けてすぐの一昨日もそして昨日も、ミケに食い殺された侵入者を片付ける掃除夫が暮らす山小屋付近までやって来ていた。

 

 が、結局ソラと話したり遊んでもらうことはおろか、会うことも出来ず気配を消して遠くから眺めるだけで屋敷に帰るを繰り返している。

 その理由も、もちろんソラ以外の余計な奴らがいるから。

 

 試しの門も開けられず、あの山小屋の扉や道具でひいひい言ってる連中など怖くもなんともないが、せっかく帰って来たキルアを連れ出そうとする輩に対する反感と、子供らしい背伸びしたいプライドが他人の前でソラに甘える自分が許せず、ソラが一人になるのをじっと待っていた。

 しかし、ソラは全く一人になってくれない。いつもいつも3人のうちの誰かが横にいて、楽しそうに笑って話しているのを見て、カルトは連日一人頬を膨らませてむくれ続けた。

 

 3人は全くカルトの存在に気付いていなかったが、ソラの方は気付いていた。

 何度か目が合い、ソラは「おいで」と言うように笑って手招きした時もあったが、カルトはそれをプイと顔をそむけて無視した。

 そのたびに、ソラが少し困ったような顔になることでカルトの溜飲を下げて、苛立ちや不満を抑えていたがさすがにもう我慢の限界だった。

 

 ソラが自分だけのソラでないことなど、一月ほど前の仕事で、あの試しの門前の別れで理解している。

 繋がることや一緒にいることは出来ても、彼女と自分が住み、暮らし、生きていく場所が違うことは、泣きたくなるくらいに理解した。

 それでもやはり、幼いわがままが胸の中で声高に叫ぶ。

 

「ソラは僕のだ!」

「キルア兄さんだけじゃなくて、ソラまで取るな!!」

「僕より弱いくせに、何でお前らがソラと一緒にいるんだ!!」

 

 ソラの周りにまとわりつく3人に、そう言って心臓を抉って潰してしまいたかった。

 そんなことをしたらそれこそ、もうソラは自分に構ってくれない。嫌われる。憎まれるということはわかっているので、この二日間はそんな不満や苛立ちを何とか我慢していたが、さすがにすぐ傍にいるのに自分が欲しい「ソラの隣」を、他人がずっと陣取っているのに自分は近づくことも出来ないという現状に限界を感じ、殺さない程度に闇討ちならソラから叱られる程度で済むかなと物騒なことを考えながらカナリアが守る、「穏便に済ましてやる最終ライン」までやって来た。

 

 カナリアは一昨日昨日と同じように、カルトの為に道を空けて深々と頭を下げる。

 それをいつものように無視して、先に進む。

 というか、カルトは今までカナリアが頭を下げて「おはようございます」だの「いってらっしゃいませ」だの、挨拶を交わしていたことすら気付いていなかった。彼にとって使用人、それも侵入者の実力を量るための生贄に近い役割しか与えてもらえていない見習いなど、空気同然で気にかけるような存在ではなかった。

 

 なので、カルトはカナリアが頭を下げた後、いつもと違って「あの、カルト様!」と声を掛けられたことも、ソラにまとわりつく邪魔者3人をどう闇討ちするかという怖い考えを本気で計画立てていたのもあって、気付いていなかった。

 気配もオーラも完全に消して、カナリアが控える境界線を表す門柱に佇んでいた者も、背後から頭を鷲掴みされるまで気付きはしなかった。

 

「!?」

「こーら、カルト。挨拶されたらちゃんと返しなさい」

「!? ソラ!?」

 

 完全に気配を消されて頭を掴まれたので思わず本気で反撃しかけたが、殺気に敏いソラはもちろんその前にさっさと声を掛けて、手も放す。

 不審者でも敵でもなくソラであること、そして闇討ちしなくてもソラが会いに来てくれたことをカルトが理解したら、勢いよく彼は振り返ってそのままソラに飛びつこうとしたが、お太鼓結びの帯を掴まれてそのまま猫のように吊り上げられた。

 

 状況が理解できていないのか、カルトは不思議そうに目を丸くして吊り上げられたまま首を傾げ、その動作を可愛いと思い和みつつもソラは言う。

 

「カルト。挨拶されたら君も返しなさい。口もききたくない程、相手が嫌いだとかなら強要しないけど、そうじゃないのならちゃんとマナーにはマナーで返しなさい」

「ソ、ソラ様! 良いんです! 私のような使用人などに、わざわざカルト様がそのようなことなど……」

 

 せっかく会えたのに初っ端からお説教、しかもカルトからしたら何でわざわざ道具同然の執事にそんなことを? としか思わない内容だったため、カルトはわかりやすくむくれ、カナリアはあまりに恐れ多いことをカルトに要求しているソラを、顔面蒼白になって止める。

 だが、カナリアの発言は止めるどころかお説教の対象が自分にも向いてしまう地雷だった。

 

「カナリア。執事、それも見習いという立場からして言いにくいのはわかるけど、君もカルトのことを思うならちゃんと注意しなさい。

 君達は良くても、周りから見たらカルトがすっごく無礼で育ちの悪い子に見える。カルトの為を思うならちゃんと躾けなさい」

 

 普段の斜め上はどこへやら、非常に常識的な正論で注意されてカナリアは反論できず、愛用の杖を強く握って「……すみません」と謝る以外、何も言えなかった。

 しかしカルトには反論の余地があるどころか、反感しかない内容だったらしく、まだソラに吊り上げられたまま唇を尖らせて少しだけ癇癪を起す。

 

「何だよ、せっかく会えたのにいきなり意味わかんないことばっかり言うなバカ!!

 第一、ここには僕の家族と執事しかいないんだから、執事が気にしてないならいいじゃん! そんなの気にする身の程知らずな執事なんかいらないし、僕は父様やお母様や兄さんたちにはちゃんと挨拶するもん!! されたらちゃんと挨拶し返すもん!! 無礼で育ちが悪いなんて言われないもん!!」

 

 カルトの癇癪にカナリアはオロオロ狼狽えるが、ソラは困ったように眉を下げるだけで動じやしない。

「仕方のない子だ」と言いたげな苦笑を浮かべながら、両手足を振り回して何とか降りようとするカルトにソラは尋ねた。

 

「カルト。君は仕事で外に出るだろう?」

「? うん。最近、前より少し増えたんだよ! 前よりも冷静に手早くできるようになったって父様にも褒められた!」

 

 ソラの唐突な問いに答えつつ、自分がちゃんと成長していることも訴えれば、ソラは「そりゃ凄い」と笑って、持っていた紙箱をカナリアに預けカルトの頭を撫でてくれた。

 何故かまだ猫の子状態でソラに捕まれてぶら下げられたままだが、ソラに褒められ、頭を撫でられたのでカルトとしてはもう自分の体勢はどうでもいいらしく、子供らしく頬をリンゴのように赤くして笑った。

 そんなカルトの素直な反応にまた和んで、下ろして抱きしめたい衝動を我慢しながらソラは肝心な話を続ける。

 

「なら、なおさら君はマナーというか一般常識を学んで身につけなさい。

 暗殺者は、ターゲットに警戒心を抱かせずに近づいて殺すのが仕事だろう? 『普通の人間』に溶け込むスキルが必要なはずだ。特に礼儀正しければ、それだけで『善人』だと思われて警戒されにくい。

 君はせっかく、今はほぼ無条件で警戒されない『子供』という武器があるんだ。君が暗殺者だと気付ける者は皆無でも、さっきみたいに挨拶しても無視が当たり前な態度を見られたら、躾されてない子とは関わりたくないと思われて避けられたら面倒だろう?

 癖は意識せずとっさに出るから癖だ。だから今のうちに直しておきなさい。……って、何? その顔は。カナリアまで何でそんなきょとん顔なの?」

 

 ソラのお説教に、今度はカルトは何も反論しなかった。

 ただ、カナリアと一緒にポカンとした顔で彼女を見返す。

 この女、珍しく常識的な注意かと思ったら、まさかの暗殺者としてのアドバイスだった。

 

「……ソラは、僕が暗殺者でもいいの?」

 きょとんとしたままカルトが尋ねれば、ソラも小首を傾げて尋ね返す。

 

「どちらかというと嫌だけど、私が君の未来を勝手に決めつける権利なんてないだろう? 君が嫌じゃないのなら、むしろ暗殺者になりたいのなら止めやしないよ。

 私は、君が自分の背負うもののリスクやデメリットも理解したうえで、君が君らしくあるがままに幸せになってくれるのなら、将来の夢が暗殺者だろうが公務員だろうが何でもいいさ」

 

 一緒に仕事をした時の言動と、キルアを連れ出そうとしている奴らと一緒に行動していることから、ソラが暗殺業という裏稼業を好んでいないのはわかっていた。だからこそ、ゾルディック家から見ると妙にずれている正論を口にしたと思っていた。

 

 カルトの思っていた通り、確かにソラは好んでなどなかったがカルトが思うほど厭ってもおらず、相変わらずカルトに対して甘いのかドライモンスターなのかよくわからない返答だった。

 よくわからなかったが、それでもカルトのしたいこと、していること、今いる場所を何一つ否定しなかったことだけはわかったのか、カルトはまた頬をリンゴのように染めて頷いた。

 

「……うん。わかった。僕、これからちゃんと執事たちにも挨拶する」

「挨拶だけじゃなくて、何かしてもらったら『ありがとう』、悪いことしたら『ごめんなさい』も言いなよ」

「…………わかった」

「君、今『面倒くさい』って思っただろ?」

 

 ソラの補足にやや間を開けて答えたカルトに指摘すると、カルトは猫のようにシラッとした顔で目を逸らす。

 そのやり取りにカナリアは和みや癒しという意味で思わず笑いそうになったが、自分が笑えばカルトが馬鹿にされたか子供扱いされたと思い拗ねると判断し、見習いとはいえゾルディック家執事の誇りにかけて表情筋を引き締めて無表情を保った。

 

 しかしその努力は、カルトはともかくソラにはお見通しだったのか、彼女はやけに強張った表情をしているカナリアに苦笑しながらカルトをようやく降ろし、「君も大変だね」と話しかける。

 そして、カナリアに預けていた紙箱を受け取って、その箱を開けて取り出したものを差し出す。

 

「そんな大変で頑張り屋さんなカナリアにはご褒美を上げよう」

 カットされたパウンドケーキを一切れ取り出して、カナリアに突き付けるように差し出してソラは笑う。

 

「え?」

「! カナリアにだけ!? 僕には!?」

「もちろんあるからちょっとだけ我慢なさい。どっか見晴らし良くて日向ぼっこできる所に案内して。そこで一緒に食べよう」

 

 ソラの行動にカナリアが戸惑い、カルトがソラの腕にしがみついてややショック気味に尋ねると、頭を撫でられながら嬉しい答えが返されたので、あっさり機嫌を直す。

 カルトはちゃんと自分の分があって、それもソラと一緒に食べられるのならもうそれで良かったが、カナリアからしたら主人を置いて執事、それも見習い風情が何かをもらうなどという身の程知らず真似は出来ず、「いえ、あの、私ごときがそのようなものはいただけません!!」と全力で拒否する。

 

 しかしこの基本的に年下には強引かつ甘いソラが、引く訳などない。

「カナリア。謙虚や遠慮は美徳だけど、あまりにそれが過ぎると逆に、相手の好意を踏みにじる無礼になるよ。主に悪いと思うのなら、訊いてごらんよ」

 

 ソラの言葉に、カナリアは目を見開く。

「相手の好意を踏みにじる無礼」という言葉が、過去をあまりにも鮮明に呼び起こす。

 

『これやるよ』

 挨拶に来た自分に、持っていた玩具を渡そうとした幼い主。

 

『いいえ。お気持ちだけで十分です。キルア様』

 受け取れるわけなどなかった。

 自分を雇い、ゾルディック家執事に相応しい教育を受けさせてもらったカナリアは、まだ自分がゾルディック家から受け取った対価を何も返せていなかった。いわば借金をしているような身で、跡取りと期待されている彼から何かを貰い受けるなんて、身の程知らずにも程があった。

 

 なのに、彼は……キルアは『様』という敬称で呼ばれるのも嫌がった。

 対等な立場になりたがった。なろうとしてくれた。望んでくれた。

 

『そうはいきません。私は使用人。キルア様は雇い主ですから』

 けれど、カナリアは否定する。自分達には決して越えられない、埋めることのが出来ない「身分」という溝が存在することを告げる。

 

 それでも、キルアは願った。

 

『なんだよー。いいからさー、俺と友達になってよー』

 

 何も言えなくなったカナリアを見て、ソラがどう思ったのかはわからない。

 ただ彼女は、ケーキを差し出したまま、「早く行こうよ」と言わんばかりに腕にしがみつくカルトへ視線をやる。

 カルトは少しだけ、「気に入らない」と言いたげな顔をしていたが、ソラが自分のこういう言い分は聞いてくれないことは前回の仕事で理解しているのと、つい先ほどのソラの教えもあり、「……いいから早く受け取りなよ」と自分の不満を抑えて、カナリアが受け取ることを促す。

 

 カルトが不満に思っていることは一目瞭然だが、ここでまだ遠慮するのは、カルトのプライドに障ることを理解したのか、カナリアは恐る恐る手を伸ばし、受け取った。

 

「あ、ありがとうございます……」

「うん、いいよ。それからさ、カナリア。仕事上無理かもしれないけど、君は笑った方がいいよ。素の君の方がずっと可愛くて、キルアも好きだと思うよ」

「え!?」

 

 カナリアにケーキを受け取らせたら、ソラは何故かカナリアを赤面させる発言を残して、カルトに引っ張られてそのまま去って行った。

 その場に残されたカナリアは、一切れのパウンドケーキをやたらと大事そうに持ったまま、呆然と立ち尽くす。

 

「……本当に、ゾルディックに相応しいのか相応しくないのか、よくわからない方」

 二人の姿が完全に見えなくなってようやく、そんなことを呟いた。

 そんなことは初めて会った時からわかっていたが、改めて思い知らされる。

 

 初めて会った時からやたらと気安く話しかけるのに、どこにも「使用人だから」という見下した感情は見当たらなかった。

 カナリアを「普通の女の子」のように扱っていると思えば、キルアとそう年が変わらない、まだ子供と言い切れる歳であるカナリアの「仕事」を決して軽くは扱わなかった。

 侵入者の力量を量る為、まさしく炭鉱のカナリアのような自分の仕事を、「君になら、第一線を任せられると思われてるんだね」と言ってくれた。

 

 それは本気で言ってるのか、ただの励ましだったのかはわからないが、どちらにせよ「あぁ、そんな風にも見れるんだ」と、カナリアへ仕事に対する誇りを与えてくれた。

 ……あの日からずっとずっと、思っていた。

 

(この人ならきっと、キルア様を助けてくれる。キルア様を救ってくれる)

 

 受け取ったパウンドケーキを、一口齧る。

 執事用に十分豪邸と言えるだけの邸宅を用意するだけあって、普段から見習いのカナリアでも口にする菓子よりずっと、良く言えば手作りらしく素朴、悪く言えば洗練されていない安っぽい菓子の味だった。

 けれど、おそらくカナリアが今まで食べてきたどの菓子よりも、おいしいと思えた。

 

 だからこそ、キルアにも食べさせたいと思った。

 きっとそれは自分が願わなくとも叶う願いだろうけど、カナリアは願った。

 

『申し訳ございません、キルア様』

 

 あの日、そう言うしかなかった自分に出来ることなど、願うこと以外何もないから、願い続けた。

 

 * * *

 

 ククルーマウンテン中腹、少しだけ開けた野原と言える場所でソラは切株に腰掛け、カルトはソラの膝の上に乗り、日向ぼっこしながらケーキを食べる。

 

「毒の入ってないお菓子は久しぶり」

「……そうか」

 

 何ともコメントに困る発言をしながら、カルトはハムスターのようにケーキを一切れ、両手で大事そうに持って齧る。

 ソラもさすがになんと言えばわからないらしく、数秒悩んでから気の利いたコメントは諦めて、まだ大部分が残っているケーキが入った紙箱を、カルトの膝の上に置く。

 

「残りはお土産にあげる。手作りだから、あんまり日持ちしないと思うから、早めに食べなさい。キルアにもあげてやって」

 

 膝の上に置かれた紙箱とソラを交互に見て、カルトは嬉しそうにうなずいた後、ふと気になったのか、口の中のケーキをきちんと飲み込んでからソラに尋ねる。

「ソラは、キルア兄さんに会いに行かないの?」

「行くよ。みんなと一緒に」

 

 ソラの即答で、カルトはわかりやすくむくれて拗ねる。

 少し頬を膨らませて、また彼は「何で?」と尋ねる。

 

「ソラ、何でわざわざあんな弱い奴らなんかに付き合ってるの? ソラ一人で来たらいいじゃん。ソラならみんな来るの邪魔しないし、歓迎するよ。……イルミ兄さん、以外なら」

「唯一の難点がラスボス級じゃん」

 

 ソラが気に入らない3人など放置して屋敷に来るように説得を試みたが、途中でイルミの存在を思い出してカルトは最後、眼をそらして呟く。

 もちろんソラはその呟きを聞き逃さず、苦笑して突っ込んでから、雲一つない青空を見上げながら言った。

 

「まぁ、正直あの屋敷に近づきたくない理由にあいつの存在は大きいけどさ、それならなおさら一人で行った方がマシ。あの子たちが巻き添えになる事態だけは、避けたいからね。

 でも、私一人でキルアに先に会っちゃうのはゴン達に対しても、そして君たちに対しても卑怯な気がするから、気長にあの子たちが自力で門を開けられるようになるまで待つよ」

 

 カルトにとって邪魔者でしかない3人が、イルミに殺意の巻き添えになることを恐れる発言で、またカルトの機嫌は悪くなるが、その後に続いた「君たちに対しても卑怯」という発言の意味が理解できず、目を丸くしてソラを見上げる。

 ゴン達に対して卑怯で悪いは、普通に理解できる。先に一人で目当ての人物に会うのが悪い程度だろう。

 

 しかし、ソラがキルアに会うことの何が「ゾルディック家」にとって卑怯で悪いのかは、いくら考えてもさっぱりだった。

 カルトの顔が如実にそんな疑問を語っていたのか、ソラはまた訊かれる前に自分で答える。

 

「自惚れかもしれないけど、私はキルアに懐かれてる自信があるからね。あの子は素直じゃないけど、世間知らずってのも合わさって、私の言うことを割と鵜呑みにするところがあるから、私が先に一人で来てあの子と話をしたら、あの子がここに残るかここを出るか選ぶのは、あの子の意思じゃなくて私の意思になってしまいそうだから、会わない。

 ゴン達が修行している間、あの子が君たち『家族』と向き合って、悩んで、考えて、そして結論を出して欲しいんだよ」

 

 ソラの答えに納得し、同時にまた機嫌が悪くなって、カルトは黙り込む。

 

 ソラの自惚れではなく、キルアは間違いなく自分と同じくらい、もしくは自分以上にソラのことが好きで懐いている。

 キルアがハンター試験を諦めてイルミより先に帰って来る最中、イルミが「取引」を反故にしないかという確認にカルトを中継するため連絡を受け、その際にソラの話となって、自分の知らないソラを知る相手が少し妬ましくて若干ケンカになったくらいに、どちらもソラのことが好きであることなんか思い知らされている。

 割と自分に甘い方だったキルアが、電話越しとはいえケンカしてしまうくらいに、キルアは「自分の方がソラのことをよく知ってるし親しい」という主張を譲らなかった。

 

 だから、キルアは間違いなくソラに「ここから出よう」「一緒においで」と言われたら、また家を出る。

 ソラは以前、「君たちは離れていても大丈夫」と言ってくれたが、それでもやはり出来るのなら離れて欲しくないと願うカルトからしたら、ソラの「会わない」という選択肢は確かに誠実だ。

 

 ソラはゴン達に対しても、ゾルディック家に対しても、そして何よりキルアに対して一番、平等で誠実に付き合ってくれているのはわかっている。

 わかっている。ソラがそんなことをしなくても、キルアはソラや他の連中が人質に取られているようなものだから、帰ってきて今も家にいることくらい。本当は今すぐにでもまた出てゆきたいという「答え」をとっくの昔に出していることくらい、わかっている。

 ソラもきっとそんなことを理解した上で、それでもカルト達の為に向き合うチャンスを、この家に残る可能性を与えてくれていることくらい、わかってる。

 

 全部ちゃんと理解している。

 自分の胸の内で湧き上がる願望は、独りよがりであまりに幼くて身勝手なわがままであることくらい。

 

 キルアがもう出て行かないように説得してほしい。ソラもずっとここにいて欲しい。あんな弱い奴なんか大切にしないで。

 

 そんな願望ばかりが止めどなく湧き上がるのに、口には出せない。

 出せばきっと、ソラに嫌われる。それがわかるくらいに、ソラにとって得などほとんどない、ひどいわがままであることを自覚している。

 

 それでも、カルトは望まずには、願わずにはいられない。

 自分がそこに、キルアと同じように家を飛び出してソラ達についてゆくという選択肢はない。

 ソラもキルアのことも好きだが、それ以外は「外」も「他人」もカルトにとっては魅力がない。

 

 ソラもキルアも掛け替えのない存在であり、大好きであるが、同じくらい両親や兄や祖父母、この家が、ゾルディック家そのものが大好きなカルトにとって、秤は容易く一方に傾く。

「外に出る」という選択肢は、ありえない。あるとしたらそれは、外に何らかの魅力を見出したからではなく、自分にとって大切な「ゾルディック家」の為でしかないと確信している。

 

 ……生きる世界が、生きていたいと願う世界が違うことなんて、あの日思い知らされた。

 それでも、願わずにはいられない程好きになってしまった人が、後ろからカルトの肩に腕を回して、抱き着く。

 カルトを抱きしめる。

 

「……ごめんね。カルト」

 

 カルトがわかっているのなら、ソラの方はもっと理解できている。

 カルトが何を不満に思い、何を願っているかなど語らずとも理解しているのは、背後からのその謝罪で十分だった。

 

 カルトに「こっちにおいで」と手招きはしても、決して無理に連れ出そうとはしない。カルトが今いる場所よりも、こちらの方が良いなんて説得はしない。

 カルトのしていることを、いる場所を「嫌だ」と思っているくせに、決してカルトを否定しないで、カルトの為にこうしてやって来てくれるのは、優しさであり誠実さであるが、同時にそれはあまりにも残酷だった。

 

 目には見えないのに確かにある、越えられない境界を見せつけられているようで、カルトの胸の内が今まで感じたことのない痛みを訴える。

 訳も分からず泣きたい気分になりながらも、カルトは尋ねる。

 

 ソラから連絡先をもらった時に得た答えのままに、望みを口にした。

 

「……また、会ってくれる?」

「もちろん」

 

 即座に帰ってきた答えで少しだけ胸の痛みは治まり、カルトは口元をほころばせて、残っていたケーキをまた齧り始める。

 

 境界は越えられない。

 だからと言って、決して一緒にいられない訳ではない。近づけない訳でもない。話が出来ない訳でもない。

 

 それだけでいいと、カルトは自分に言い聞かせた。

 今は、この体温だけでいいと。

 

 * * *

 

「いくら例外的にお前はこの家に歓迎されているとはいえ、それを帳消しする程お前を殺したがっているイルミがいるだろうが! もう少しゾルディック家の者と接触する際は警戒しろ! せめてきちんとこちらに言え!」

「もー、クラピカは心配性で口うるさいなー。言ったら言ったで君は絶対、余計にいらない心配するじゃん」

 

 伝言通り夕飯までに戻って来たソラが、重さ20キロ、30キロが普通の食器を洗いながら、クラピカのお説教をやや面倒くさそうに受け流し、ついでに洗った食器を、布巾を持って横にいるクラピカに渡す。

 

 ふざけているようで、大概のことは真剣に向き合ってくれる彼女にしては珍しい反応だが、このお説教はソラが帰ってきてから夕飯時、そして食事が終わってその後片づけ最中の今現在、もう何度も内容をリピートさせて続いているのだから、そりゃ面倒にもなってくる。むしろ、割とお説教の内容も八つ当たりが多大に含まれているのだから、「うるさい! しつこい!!」とキレて怒鳴らないだけ、ソラは相当温厚だ。

 

「お前、マジでしつけーよ!! お前の言ってることもう暗唱できるぐらい聞いたぞ! 何回言うつもりだ!?」

 代わりに、レオリオがキレた。無理もない。これは逆ギレではなく、誰が見ても正当な抗議だ。

 クラピカも言われて少しは冷静さを取り戻したのか、ようやく説教をやめて水気を拭った食器をレオリオに渡し、レオリオはその食器を食器棚に仕舞う。

 

「心配をかけたのは悪かったけど、イルミが『取引』を自分で口にしたからには、キルアがまた家出をしない限りは大丈夫だよ。つーか、あのブラコンならカルトが側にいるなら、さすがに無茶はしないと……思いたい」

「自信ないんだ……」

 

 ようやくクラピカが黙ったので、ソラがやっと口出しするが、自分で言っといて自信は早々になくなり、テーブルを拭いていたゴンに突っ込まれた。

 そしてソラの希望的観測にまた、クラピカが顔を険しくさせて何かを言いかけたので、説教が再開しないようにゴンは話を変える。

 

「そういえばさ、ソラ。そのカルトって子はどんな子? キルアと似てる? その子とも仲良くなれるかな?」

「顔や性格は、キルアに似てる方。黒髪だからパッと見の印象はイルミの方が近いけど。

 あと、仲良くなるのは多分無理。君たちとは気が合わないよ」

 

 持ち出したきっかけは話を変える為でしかなかったが、ゼブロからソラが会いに行った「子猫」はゾルディック家の末っ子、キルアの弟だと訊いた時から尋ねたかった質問に、ソラは即答した。

 前半の「キルアに似てる」で輝いた目は、その後に続いた「無理」で丸くなる。ショックというより、言われた意味を理解できていないようだ。

 

 そんなゴンの反応に気付いているのかいないのか、ソラはザバザバと食器洗いを続行しながら話を続ける。

「キルアに似てるし近いけど、あの子は言ってみれば『ゾルディック家を選んだキルア』だと思えばいい。外に対しての憧れが一切ないし、暗殺業に誇りを持ってる子だから、……自分が生きる世界をきちんともう定めちゃってる子だから、こっちがあの子の『世界』に入ってやらない限り、向こうから近づくことはないよ」

 

 その発言に、ゴンだけではなくクラピカとレオリオも目を丸くした。

 ゼブロの話や、「会いに行ってくる」と言ってたソラの様子からして、彼女はその末っ子をキルアと同じくらい可愛がっている印象を持っていただけあって、やけにその突き放したような発言が意外に思えた。

 

「……ソラでも、そうなの?」

 ゴンの問いに、やはり彼女は即答する。

 

「うん」

 肯定して、それから彼女は振り返り、ゴンを見据えて言った。

 

「ついでに言っておくけど、あの子を私は『弟』だと思ってない。

 キルアや君たちと同じくらい、私はカルトのことが好きだし可愛いと思ってるし大切だし守ってあげたいけど、あの子は私の『弟』じゃないし、あの子も私の事を『姉』だとか思ってないんじゃないかな? 『姉』になって欲しいとは思ってるかもしれないけど、それは私も同じだね」

 

 ソラの返答に、今度はクラピカの方が「どういう意味だ?」と真っ先に尋ねた。

 今まで、年下で気の合う気に入った異性は皆「弟」扱いしていると思っていたからこそ、自分たちと同じくらい好きだと言いながら、「弟」ではないと言い切ったその基準が気になった。

 

 そしてその問いも、ソラはこともなげに答える。

 

「だって私、あの子のいる場所に『ただいま』って言う気はないし」

 

 シンプルな一言に絶句し、その数秒後クラピカの顔が赤く染まる。

 

 彼女はあまりにも容易く、気安く、気軽に他人を「家族」と認定していたのが本音では気に入らなかった。

 が、その基準……というより彼女にとっての「家族」の定義を知ったことで、その愚かな嫉妬や独占欲は羞恥に変わる。

「帰りたい場所」「帰るべき場所」が、彼女の「家族」の定義だとしたら、それこそ「誰かにソラを取られる」という不安は実にバカバカしい。

 

 あまりに意味のない嫉妬をしていたことの羞恥と、そしてソラにとって「帰るべき場所」とまず初めに認定されたことに対する嬉しさのダブルパンチでフリーズしたクラピカに、ソラは困惑して「クラピカー?」と呼びかける。

 ソラ本人よりクラピカの衝撃を理解できているレオリオは、苦虫をかみつぶしたような顔で、「お前ら本当にさっさと爆発しろ」と呟き、ゴンは相変わらず最年少なのに一番大人っぽい苦笑を浮かべて、「ソラ、そっとしておいてあげて」とクラピカをフォローし、ソラも困惑しつつもちょうど電話が鳴ったので、ゴンの言う通りクラピカをとりあえず放置してケータイを取り出し、思わず声を上げる。

 

「? カルトからだ。何の用だろ?」

 

 つい数時間前に別れたばかりで、今ちょうど話題に上がっていた少年からの連絡、それもメールではなく着信に首を傾げながら、ソラが電話に出る。

「はい、もしもし?」

《……ソラァ~……》

 

 電話に出てすぐ、ソラの顔が一気に険しくなった。

 ぐずぐずと鼻をすするような息遣いの後、明らかに泣いてかすれた声で呼ばれ、「どうしたんだ?」と訊けば電話の相手、カルトはまたしばらくしゃくりあげながら言った。

 

 それを聞いてソラは、「わかった。少しだけ待ってなさい」とだけ言って、通話を切った。

 ソラの顔が険しくなった時点で、ただの雑談としてかけてきた電話でないことを察し、同じくゴン達の顔も険しくなる。

 

「どうした? 何かあったのか?」

 クラピカもさすがに不穏なソラの様子でフリーズが解け、真剣な様子で尋ね、そしてソラはやはり眉間に皺を寄せた険しい顔のまま答える。

 

「ちょっと、ゾルディック家次男をしばいてくる」

『どうしてそうなった!?』

 

 まさかのもはや決定事項な予定を言われて、3人が同時に突っ込むとソラは、既に山小屋出口に走りながら即答する。

 

「だってあの糖尿病予備軍、私がカルトとキルアの為に焼いたケーキ、カルトの許可取らず勝手に一人で全部食べたんだよ!? カルトマジ泣きしてんのに、『たかがケーキぐらいで』って言って謝らないんだよ!?

 あの豚、二次試験で得た豚の丸焼きスキル発揮してミケの餌にしてくる!!」

 

 マジギレしながらそれだけ言い残して、200キロの扉をものともせず乱暴に開け、そのままソラはククルーマウンテンに向かって爆走していった。

 

 取り残されたレオリオとゴンは困惑し、クラピカの機嫌がまた悪くなったのは言うまでもない。




次回はゾルディック長男・次男の受難回(笑)

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