死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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79:許さない

 気も力も抜けたはずの体が、一瞬にして強張った。

 

 恍けるべきか、正直に話すべきか、気付いているのはカルナだけなのか、それともソラも気付いているのかを訊くべきか、気付いているとしたらどこまでか。

 

 頭の中では一気にどうすべきか、どう答えるべきかという疑問が浮かび上がるが、一つとして答えは出てこない。

 しかし、恍けるという選択肢は間違いなく手遅れであることは、カルナの問いで挙動不審どころか、呼吸さえもままならなくなって硬直している自分の反応で明らかだと、わずかに冷静な一部分が判断した。

 

 そんなクラピカに、引導を渡すようにカルナは相変わらず淡々と言った。

 

「……言っておくが、マスターもお前の心臓に何かが埋め込まれていることに気付いているぞ。彼女の眼を甘く見るな」

 

 カルナにとってはクラピカが往生際が悪く恍けるという選択肢を奪うための引導だったが、クラピカはその発言に一瞬安堵する。

 ソラが気付いているのは、「束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)」の誓約に関してだと、そちらだけだと、もう一つの誓約に関しては、「絶対時間(エンペラータイム)」の誓約にはまだ気づいていないことにクラピカは安堵し、呼吸を再開させた。

 

 

 

 

 

「――――クラピカ」

 

 

 

 

 

 車内の空気が、一瞬にして張りつめた。

 再開させた呼吸がまた止まる。

 バックミラーに映る、自分の背後にいる者を見ることが出来ない。

 

 その声には、明確な怒りが宿っていることに気付いてしまったから。

 

 クラピカがソラの救われた理由を「そんなこと」と言った時も、彼は自らの主が大切に抱える救済を侮辱されたと思ったのか初めて不快そうな顔をしたが、今はそれとは比べ物にはならない。

 

 間違いなく、彼は怒っている。

 その怒りの理由は、考えるまでもない。

 

「……何故、今お前は安堵した?」

 

 空気は読めない、肝心な言葉は足りてないし余計な言葉が多い、そもそも言葉のチョイスがおかしいが、この男の眼が見透かすもの、洞察力はおそらく自分の薬指の鎖よりも、センリツの能力よりも精度が高い。

 いかなる虚偽も、欺瞞も許さない。

 

「……クラピカ。オレはお前のことを本当に感謝している。お前の誠実さと責任感の強さに敬意を懐いている。お前のことを、マスターのことなど関係なく好ましく思っている。

 

 …………だが、オレはソラのサーヴァントだ」

 

 カルナは後部座席から全く動いていない。確認など出来る勇気はないが、おそらくは未だにはじめと変わらず行儀よく、シートベルトも付けたまま座っているのだろう。

 だがその声は、発する気迫は、クラピカが自分で刺した剣よりも、心臓を縛りつける鎖よりも、明確に命の終わりを、「死」を想起させた。

 

「だから、オレは絶対に許さない。

 お前にどのような考えがあって、どのような理由があって、そのような選択をしたのか言い分はあるのだろう。そしてそれはきっと、オレ個人としてならば認められるものかもしれんが……、ソラのサーヴァントとして、彼女の幸福を願い、守る者としては絶対にその選択は認めない。許しはしない」

 

 そんなことはわかっている。クラピカだって、許しはしない。

 誰よりも何よりも、自分を一生許さない。

 

 ……それでも、手に入れたかった。

 強くなりたかった。

 

 そして、弱い自分が逃げ道を求めてしまった。

 

「彼女を喪う前に、先に死にたい」

 

 そんな弱音があったからこそ、選んでしまったことは自覚している。

 

 だからこれは、その「罰」だ。

 

「答えろ。クラピカ。

 お前はいったい、その心臓以上の何を代償にした?」

 

 もう、逃げることは許されない。

 今度こそクラピカは、引導を渡された。

 

 * * *

 

束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)」と「絶対時間(エンペラータイム)」の誓約を隠すところなくすべて語り終えたクラピカが、カルナが何かを答える前に懇願した。

 

「――頼む。ソラには……鎖の方はともかく、『絶対時間(エンペラータイム)』の誓約だけはどうか内密にしてくれ」

 

 図々しいどころではないとはわかっている。あまりにも見苦しいし、そもそも記憶の共有がしてないよりはマシ程度とはいえ、意図的に記憶や情報の隠蔽や遮断が可能なのかはかなり怪しいとクラピカは思っている。

 

 それでも、悪あがきを続けた。

 

「……いいだろう」

 

 そして、その悪あがきは応えられた。

 

 カルナが発していた威圧が緩やかに消えてゆき、クラピカは思わずバックミラー越しですら見るのが怖かったはずのカルナを見返した。

 自分で足掻いておきながら、いくら誰かに頼まれ、乞われたら自分が不利益を被るだけと知りながらも応え続け、与え続けた「施しの英雄」であっても、「許さない」と断言していたクラピカの選んだものを、往生際が悪くまだ隠し通そうとする愚かな懇願が聞きいれられる訳がないと思っていたので、望み通りの返答がされたと理解できずにいた。

 

「……一つ。条件がある。その条件さえ守り通すと誓うのならば、ここでオレとマスターに対して新たな誓約を結ぶのならば、オレは沈黙を守ろう」

 

 目を丸くして唖然としているクラピカの反応を気にせず、カルナは淡々と続きを語る。

 さすがに無条件で応えた訳ではないことに少しクラピカは安堵するが、今度はその「条件」が予想出来たので、またしても顔を強張らせる。

 

 普通に考えたら、「二度と『絶対時間(エンペラータイム)』を使用するな」あたりだろうが、クラピカはその条件を応えることが出来ない。

 

 何故、自分が救われないかを知った。

 何故、ソラがあんなにも自分を救おうとしてくれているのかを知った。

 

 だからこそ、退けない理由が出来たから。

 そしてその理由は、初めからずっとここにあったから。

 

 使わずに済むのなら、言われるまでもなくもう二度と使わない。

 ソラと一秒でも長く、同じ時を共に過ごして生きていたいという願いは本当だから。

 ソラも自分が生きているだけで幸福で救われてくれているというのなら、無力な自分では決して救えないと思っていた彼女が救えるのならば、生き続けていたいと思えたのは本当。

 

 けれど、カルナに指摘された通りクラピカはソラが生きてさえいれば幸せだからこそ、それだけはソラをどれほど苦しませても、悲しませても、傷つけても、決して手放せない、守り抜きたい幸福だからこそ、「絶対時間(エンペラータイム)」を使えばソラを生かせることが出来る状況で、使わないという選択は有り得ない。

 ソラを守る為ならば、彼女を生かすためなら、使えるものは自分の命でも何でも全て使う。

 

 それは「ソラを喪う前に自分が死んでしまいたい」という、逃避願望からのものではないとは否定しきれないが、間違いなくそれも理由の一つだが、それよりも先に来るのはやはりただただ身勝手な己の幸福。

 

 ソラに生きていて欲しいという、ただ一つの願いだ。

 

 それだけは譲れないから、手離せないから、そして同時にこの上なく悔しいが自分と同じくらいかそれ以上にソラを想うカルナに対して口先だけの、守れる自信など皆無な言葉でその誓約を誤魔化したくなどなかったからこそ、ソラの事もクラピカの事も想って「条件」を課すであろうカルナに応えられない罪悪感を今から抱え込む。

 

 その罪悪感は、まるで意味のないものだとすぐに思い知らされたが。

 

「……クラピカ。『抑止力』というものをマスターから聞いたことはあるか?」

「…………はぁ?」

 

 決死の覚悟で用意していた「それは出来ない」という言葉が遥か彼方まで飛んでいき、クラピカは心底「意味がわからん」と言わんばかりの声で答えた。

 同時に、「どうしてこいつはこんな状況でも、ソラ以上の斜め上を貫き通す?」という率直な感想を込めて睨み付けてみれば、カルナはさすがに話を唐突に変えすぎた自覚があるのか、「意味がわからなくて当然か。すまん。だが大事な前提の話なので最後まで聞いて欲しい」と言い出す。

 

 そう言われると、クラピカの方も「早く本題に入れ」とは言えなくなるので、彼は困惑したままとりあえず「……聞いた覚えはないな」と正直にカルナの問いに答えておいた。

 

「そうか……。なら少し説明が面倒だな。

『抑止力』とは……簡単に言えば『世界』そのものの安全装置だ。世界は、己が滅びるであろう要因を排除する力を備えていると思えばいい。

 

 そして、抑止力には二種類ある。人類の持つ破滅回避の祈りである『アラヤ』と、星が思う生命延長の祈りである『ガイア』。この二つの違いは主に、優先順位だ。

 極論を言えば、『アラヤ』は人間種の『死にたくない』という集合無意識そのものであるため、人間種以外の生き物はもちろん、自分たちを生かし、生きる星そのものさえも自分達が一秒でも生き永らえる為ならば滅ぼすだろう。

 そして『ガイア』は星の生存本能である為、アラヤとは逆に世界そのものが無事ならば、人間種の絶滅などどうでもいい。

 だから人間が環境破壊などで星に重大なダメージを与え、滅びを早めるような行動に出ればガイアは躊躇いなく人間種を滅ぼすために働き、結果としてアラヤとガイア、二つの抑止力の殺し合いになるだろうな。

 

 ……が、これは本当に極論だ。人間種を生かすために星を殺すなど最終手段だ。普通はむしろ星に致命傷を与えかねない要因をアラヤは取り除き、ガイアも人間種そのものはどうでも良くとも、世界の大部分を支配領域とする人の世を崩壊させるほどの事態は星の破滅も招きかねないため、結果的に人を守るために発動することもある。

 そうやって二つの抑止力は噛み合って、人間と世界は生き続けている。

 ここまでは、いいか?」

 

 カルナの確認の言葉にクラピカは言われたことを脳裏で反復しながら頷いてから、思いついた疑問を口にする。

 

「……世界の安全装置というのは理解したが、具体的に『己の滅びの要因を排除する』というのは、どういうことだ?

『抑止力』というのは、一種の『神』という認識で良いのか?」

「個人どころか種という集団でも抗いようなどない、強大すぎる『力』そのものという意味でなら『神』という認識でいいのかもしれんが、ガイアはもちろんアラヤに対しても自我や感情、人間味といったものを期待しているのなら間違いだ」

 

 クラピカの疑問にカルナは即答するが、その答えに納得しきれずさらにクラピカは問い返す。

 

「ガイアはわかるが、アラヤとやらは人間側の『死にたくない』という総意だろう? 自我はともかく、人間味というか人間らしい感情の揺らぎのようなものはないのか?」

「ない」

 

 が、疑問を補足して問い返してもカルナの答えはシンプル極まりないものだった。

 

「『抑止力』はただ『滅びたくない』というだけの願いであり、カタチなどない力の渦。確かにアラヤは人間の代表者ではあるが、同時にあれは『我を取り外してヒトという種の本能にある方向性が収束したもの』だ。ヒトを生かすためのものではあるが、その為にヒトが人たらしめる『我』を失ってこそ『アラヤ』だ。

 人間という種族を存続させるために人間を殺す必要があるならば、善悪問わずその『人間種存続に必要な犠牲』の条件に合う人間を必要な数だけ殺す。

 

 ……そして、抑止力はカウンターガーディアンとも呼ばれるもの。その名の通り、決して自分からは行動できず、起きた現象に対してのみ発動する分、抹消すべき対象に合わせて規模を変えて出現し、絶対に勝利できる数値で現れる」

 

 そこまで説明し、カルナは少しだけ身を乗り出してクラピカに尋ねる。

 

「クラピカ。お前の世界の神話や歴史に何の変哲もなかった平凡な人間が、『神の啓示』を受けて偉業を成し遂げた後、非業な死を遂げたという人物の話はないか?」

 

 言われて、即座に浮かび上がったのがただの大工の息子だったはずの救世主。

 クラピカはその宗教を信じてはいない、彼が起こした奇跡どころか彼が実在したのかすら疑っているレベルだったが、カルナが語った『抑止力』を前提に考えると、念能力のことも含めれば彼の起こした奇跡も、それだけの力を持ちながら何故、非業な死を迎えたことにも説明がつく。

 

「……世の中の『救世主』や『英雄』と呼ばれる人物は、『抑止力』の化身だというのか?

 彼らが世界を救う程の力を持ちながら、ほとんど報われもせずに死に至るのは、その役割の為だけに生み出されたものだからか?」

 

 カルナの問いに質問でクラピカは返すが、その疑問が何よりもカルナが言いたかったことを理解している証明だ。

 だが、クラピカはまだある一点だけ勘違いをしている。もしくはこちらの方がマシだと思って、あえて他の可能性から目をそむけているのかもしれない。

 そのことをカルナは責める気はない。クラピカの解釈の方が、確かにまだ救いはあるとカルナも思っている。そうであってほしかったと思っているからだ。

 

 だが、実際はそうではないのだから、カルナは少しだけ悲しげな眼をしてクラピカの解釈に訂正を入れた。

 真実を告げる。

 

「……その人物そのものが、『抑止力』という訳ではない。彼らはその瞬間まで普通に生まれて生きていた、普通の人間だ。だが、たまたま世界や人間種が滅びる要因が近くに発生し、それらを滅ぼすのに最も都合のいい人間だったから、『抑止力』がその要因を滅ぼすだけの力を与えて後押しした。

 そして、その滅びの要因を取り除いた後に力や命を失う結果となるのは、お前の思った通りだろう。滅びの要因を滅ぼすだけの力があれば、今度はその力を持つ者が世界や人間の滅びの要因となりかねぬから、良くて力を失う、悪ければ役目を終えてすぐに抑止の加護を失い、得た力を異物とみなされ周囲から排除されるのが『抑止力』に選ばれた者の末路だ」

 

 カルナが入れた訂正に、クラピカは何かをカルナに怒鳴りかけたが、カルナには何の非もないことに気付いたからか結局何も言わず、悔しげに俯いて唇を噛みしめた。

 

 よく考えればわかったことだ。

 カウンターガーディアンという別名通り、滅びの要因が発生した後に発動する、必ず後手に回るものならば、対象が発生した後にその対象を滅ぼすにふさわしい性能の「救世主」を産み落とすには遅すぎる。

 それならば、既に存在している中で一番都合のいい相手にさらに何らかの「力」を与え、その対象を滅ぼすお膳立てをして、行動させた方が早いに決まっている。

 

 救世主や英雄というものは、初めから「そうである」ために作り出されて生み出されたものではなく、人や世界そのものの「死にたくない」という願い(エゴ)の犠牲者であることを思い知らされて、クラピカは感じる必要はないとわかっていても罪悪感を覚えてしまう。

 

 自分達がのうのうと生きるために、同じようにごく普通に生まれて安穏に生きていたかった普通の人間に、世界の危機という重すぎる役目を救世主だの英雄だのに祭り上げて背負わせた挙句、役目を終えたら使い捨てるという外道極まりない行為を知らぬうちに延々と、連綿と行い続けて生きているという事実に吐き気がする。

 

 その吐き気を、どこの誰にぶつけたらいいのかわからない「ふざけるな!」と怒鳴りたい苛立ちを抑え、クラピカは俯いていた顔を上げて再びカルナに問う。

 

 ここまで語られたら、何故カルナがこんな何の脈絡もないと思える話を始めた理由にも想像がついた。

 脈絡なら、あった。

 

 

 

「……カルナ。()()()()()()()?」

 

 

 

 彼は、ソラのサーヴァント。彼女を命令に従い、彼女を守る忠実なる従僕。

 そんな彼が、ソラに関係しないことを話す訳など無かった。

 

 * * *

 

「ソラは、『抑止力』の敵か? それとも彼女は、『抑止力』に後押しされている側なのか?」

「……おそらく、『今』は後者だ。だが、抑止力は集合無意識がカタチになったものである為、それは発生しても誰の目にもとまらず、誰にも意識される事はないもの。断言は出来ん。

 しかし、マスターの眼といいオレの存在といい、このあまりに戦闘に特化した後付けの『力』を見る限り、抑止がこの世界で何かをさせるためにマスターを招いたと考えた方が自然だ。

 そうでないのなら、むしろマスターはとうの昔に抑止に殺されている。マスターの性格からして世界にも誰にも影響を与えず、ひっそりと生きて死んでゆくというのは考えられないからな」

 

 クラピカがさらに補足して問い、カルナが答えた言葉はまだマシだった。

 しかしそれは、時間稼ぎでしかないこともクラピカは言われるまでもなく既に理解している。

 

 カルナの言う通り、ソラはただでさえ能力が既にあらゆる意味で反則級だというのに、そんな能力がなくても死にたくないくせにどこでもトラブルに首を突っ込み、傷ついて立ち上がれない誰かに笑って手を差し伸べるような人であることをクラピカは知っている。

 

 そんな人だからクラピカは救われ続けているのに、間違いなく「抑止力」は彼女のそんな善性も「滅びの要因」となった瞬間、彼女の想いも、彼女に救われた者がいるという事実も考慮せずに排除しにかかることは、カルナの説明で理解出来ていた。

 

 そして、「異世界の強力な異能を持つ人間」という異物が、ガイアやアラヤの「敵」認定されない理由は、むしろ思いつかない。

 彼女は本来ならこの世界にたどり着いた時点で、この世界の抑止に殺されていた方がよほど自然な成り行きだったと、認めたくないがクラピカだってそれはわかっている。

 

 なのに何故、彼女はこの世界にやって来て4年の月日を生き続けている?

 どう考えても世界に大きな影響を与えるようなことばかりしている彼女が、何故抑止力に排除されていない?

 

 その疑問の答えなど、一つだけ。

 彼女自身が「抑止力」だから。この世界には、彼女が排除しなければならない「滅びの要因」があるから。

 だから彼女は、「今はまだ」この世界で生きることを許されていることくらい、簡単に想像がついた。

 

「……彼女の『敵』については、……知る訳がないな」

「あぁ。悪いが想像がつかん」

 

 クラピカは彼女を「今はまだ」この世界で生きることを許されている最大の要因について尋ねるが、わかっていたがカルナにそんなものはわかるはずがない。

 

 ついでにカルナは、そもそも文明が進むにつれて「世界や人間を滅ぼす」という行為が容易になると、同時に「世界や人間を救う」という行為も容易になると語る。

 たとえば、ある虫を全滅させることがバタフライエフェクトで世界の滅亡に繋がったとしたら、その虫を全滅させるであろう殺虫剤の開発が何らかのトラブルでとん挫すれば、そのトラブルの原因となった人間が抑止に後押しされていた者となるといった理屈だ。

 

「……だからこそ、ここはマスターがいた世界とはもちろん異なった部分は多いが、文明そのものは同じくらいに進んでいるというのに、ここまであからさまに抑止のバックアップを受けているマスターは珍しいどころではない。

 それこそ、神話の時代に訪れたであろうほどの『世界の危機』が待ち構えている可能性が極めて高い」

 

 そこまで言われて、またクラピカは唇を錆の味がするほど噛みしめる。

 はっきり言って、クラピカにとって「世界の危機」などどうでも良かった。話の規模が大きすぎて、現実味をもって理解できていないというのもあるが、クラピカにとってそれがあるからこそソラがこちらの世界にたどり着いてすぐ殺されるという事態にならなかったのならば、むしろ感謝したいくらいだ。

 

 悔しげに、誰にぶつけたらいいかわからない怒りで思わず唇を噛みしめた理由は、そのいつかソラが「抑止力」に後押しされて立ち向かわなければならない「世界の危機」によって、ソラを喪うかもしれないことに恐れたからではない。

 そもそもカルナの言う通りならば、これは出来レースに近いもの。ソラは必ず「世界の危機」に打ち勝つだけの力を与えられているというのなら、そこに関して不安を抱くのはただの杞憂だ。

 

 クラピカが恐れたのは、その「世界の危機」を打ち破った後のこと。

 

「……ソラが、『抑止力』としての役目を終えた後はどうなるんだ?」

 

 この問いに、意味などない。

 断言できるほどの情報はなく、予想でいいのならクラピカは既にしている。

 

 それでも、自分よりはまず間違いなく情報を持ち、「抑止力」というものを理解しているカルナなら、何かクラピカには思いつかなかった「希望」を持っているかもしれないという、あまりにもかすかな期待を込めて問うが、カルナの声音にはクラピカと同じもの……、深すぎる自分の無力さを嘆く悔恨があった。

 

「…………その『世界の危機』と相打ちになって死ぬのが、認めたくないがオレは一番幸福な結末だと思っている。

 生きのびても十中八九マスターは抑止の敵として認定され、世界がどんな手段を使っても、どれほどの犠牲を払ってもマスターを殺しにかかるだろう。

『世界の危機』の為にマスターがこの世界に招かれたのならば、その役目を終えた時点でマスターは元の世界に戻れる可能性もあるが、それはおそらく何の救いにもならない。むしろ、それが一番惨い結末になりかねん」

「何故だ? 元の世界でもソラの眼もお前の存在も希少だろうが、この世界ほど有り得ない存在ではないだろう?

 その世界でも、ソラは抑止から『滅びの要因』とされるのか?」

 

 カルナの答えに、クラピカが縋るように問う。

 ソラと離れたくない、共に生きていたいがクラピカの本音だが、それでも彼女がこの世界では生きることが許されないというのなら、もう二度と会うことが無くとも彼女が元々いた世界に、彼女が生きることを許される世界に帰してやることに躊躇いはなかったのに、カルナの「それが一番惨い」という意味がわからなかった。

 

 そんなクラピカに向けたカルナの二色の眼は、憐れむようにわずかに細められていた。

 憐れむと言っても見下している雰囲気は一切なく、むしろどこか羨むようにも、申し訳なさそうにも見える眼で彼は答えた。

 

「元いた世界なら、確かにマスターは滅びの要因になるほど有り得ぬ世界の異物ではないだろう。

 しかし、マスターの眼やサーヴァントを宿し続けるこの体は希少極まりなく、……『魔術師』という生き物からしたらマスターは最高の研究対象だ。海千山千の魑魅魍魎どもが、マスターの全てを奪い尽くそうと群がるのが目に見えている」

 

 言われて、気付いた。

 クラピカにとって一番身近で唯一の「魔術師」がソラである為、教えられても現実味が得られなかった情報を思い出す。

 

 ソラは魔術師として、相当な異端児であること。

 魔術師という生き物に、人としての倫理観など期待してはいけない。

 子供は自分の研究を引き継がせるための後続機。性交渉は魔術儀式の一環。

 目的のためなら、ありとあらゆる犠牲を何の罪悪感もなく当然のように払って、どれほど非道な行為でも無感情に、無感動に行う生き物であるということを思い出した。

 

「この世界で出会った師のおかげで、戦闘に関してならマスターはそこらの魔術師では後れを取らんだろう。だが、魔術師は元々搦め手を得意とする輩だ。何の後ろ盾も権力もなく、単独で己の身を守り続けるのはまず不可能だ。

 そしてマスターは優秀で人としての正しい心根を持つ友人に恵まれているが、いずれも若すぎて後ろ盾には期待できん。それ以前に、マスター自身が自分の友人を盾にするような真似が出来る訳がない」

 

 カルナの答えに、クラピカは八つ当たり気味に自分の頭をガリガリと掻きむしって何とか苛立ちを抑えつける。

 彼の言う通り、ソラの現状を考えるとこの世界に留まることよりも、別の世界にまた辿り着いてしまうことよりも、元の世界に帰る方が危険だ。

 元の世界に帰ると同時に、「抑止力」として与えられた力も失うのならまだしも、こちらの世界では異端で異物極まりない異能でも、向こうならば希少ではあるが存在が許されない程のものではないのなら、「抑止力」もわざわざ彼女を元に戻すなどといった人間味は当然発揮してくれるわけがない。

 

 そしてその希少な力を宿したまま元の世界に帰りつき、後継者やその他の使い道がなく、希少な魔術属性を持つ子供が生まれたのなら、実の親が実子をホルマリン漬けの標本にすることがごく普通の価値観である者達の世界に戻るのは、まさしく飢えた獣の中に生肉を放り入れることと同義。

 周りは確実に敵しかいないが、魔術を捨てて普通の人間として生きることも、その身に宿した力が邪魔をする。下手すれば、彼女が一般人の世界で生きるということが向こうの世界の抑止に抵触する可能性が高いので、ソラがいるとしたら魔術師の世界しかない。

 

 ソラを守れるだけの実力と権力が期待できそうなのは、向こうの世界のソラの師である魔法使いくらいだが、ソラの様子や普段の言い草からして能力はともかく性格はまったく期待できないし、ソラも友人たちとは別の意味で頼りにしないのが目に見えている。

 

 ソラが元の世界に帰りたがる様子を見せなかった理由を、クラピカは初めて理解した。

 彼女は初めから、あの眼を得てしまった時点でもう「魔術師の世界」に戻ることは自殺志願同然であることを理解していたのだろう。

 

「……もしかしたら、マスターは生きながらにして『霊長の守護者』として認定されているのかもしれんな。その場合、彼女が抑止に殺されることはない。マスターが抑止力からバックアップしてもらっているのではなく、彼女自身がまさしく『抑止力』そのものになっているのだから。

 ……しかし、そうだとしたらマスターはもう既に『人』とは言えん。

 

『霊長の守護者』は人類の“存続するべき”無意識が生み出した防衛装置であり、『人類の自滅』が起きるとき、『その場にいるすべての人間を殺戮しつくす』ことで人類すべての破滅という結果を回避させる最終安全装置だ。

 ……マスターは全人類の『死にたくない』という願望を叶えるために、切り捨てられた少数を殺しつくす『掃除屋』として、『世界の危機』と認定された『人類の自滅』を防ぐための殺戮を行い終えるたびに、次の破滅を防ぐために抑止力によって違う世界に流転させられる『道具』と化している」

 

 カルナは「抑止に殺される」、「元の世界に帰る」以外の可能性も口にするが、やはりそこに救いはない。

 カルナが初めに言った通り、彼女を生かす「世界の危機」と相打ちで死ぬのがおそらくは一番、人としての尊厳を守られたまま、楽に安らかに終わる可能性が高い。

 

 ソラが自分よりもはるかに救いのない境遇であること、本当に彼女が今ここに生きていることはあらゆる意味で、いつ奇跡が終わるのかがわからない時間稼ぎの悪あがきであることを思い知らされて、知らぬ間にまた俯き、何もしようがない自分に嘆いているクラピカに、カルナは淡々と言葉を続ける。

 

「だから……クラピカよ。今、ここでオレに誓え」

 

 ようやく、長い前提が終わる。

 クラピカの身勝手な時間稼ぎ、悪あがきに応える代償である条件を、自分とソラに誓うべき誓約をカルナは口にした。

 

 

 

「それでも、ソラが生きることを諦めないことを望み続けろ。

 生きて、生き抜いて、幸福になる彼女の未来を願い続け、その為にお前も最期の一瞬まで足掻き抜いてみせろ」

 

 

 

 思わず、またしても呆けた顔をして顔を上げてカルナを見た。

 出された条件が信じられず、理解しきれていないクラピカにカルナは右手の刺青のような紋章を指先で撫でながら、淡く微笑み返す。

 

「……お前の命を削るあの力を使うなとは、オレには言えん。そんな資格などオレにはない。オレは、マスターがオレを生かすためだった『座に還れ』という命令を無視して居残ったくせに、結局はマスターを助けられず目の前で溶けて消えて悲しませた。

 だから本来ならオレは、お前の事を許さないと言う資格なんて初めからない。だが、それでもどうしても言いたかった。

 ……マスターを救い続けるお前を、死なせたくないという傲慢なオレの願いだ。迷惑をかける」

 

 そこまで言ってカルナは笑みを深める。

「そしてここまで傲慢だと、いっそ開き直れるな」と言い出したので、本当に彼は開き直って言ったのだろう。

 どこが傲慢なんだ? と本気でクラピカが尋ね返したいほど、あまりにも清廉にマスターであるソラだけではなくクラピカをも思いやる「願い」を口にする。

 

「お前が命を削ってまでして力を欲したのは、死にたかったからでも、自分の命を安く見積もったからでもなく、ただ守りたかった、その為の代償を払った後のことなど考えられなかったほどに、マスターを生かしたかったというのはもうわかっている。

 使うなとは言えん。オレも同じように、死にたかったわけではない、ただマスターを生かしたかったからこそ、後先を考えずにあの亀裂の中に飛び込んで、ともに落ちたのだからな。

 

 だから、使うなとは言わんがそれでも、死ぬことだけは考えないでくれ。お前が真に望む未来がマスターと共にあることならば、命を代償に払ってもその命をまた後で取り戻すくらいの気概で、生きることを諦めるな。

 そして、同じようにマスターは抑止を敵に回したとしても、生きることを諦めない、その生き抜いた先に幸福があることを信じてくれ。

 

 マスターは、絶対に諦めない。

 例えこの足が折れ、千切れ、失ったとしてもこの両手で這いずってでも前に進み続ける。両手をも失ったとしても、どんな手段を使ってでも、例え辿り着くときには心臓のほんの一欠片になっていたとしても、命がある限り、別の平行とはとても言えぬほど遠い世界に落とされても再びこの世界に、お前の元に帰って来ることを、例え星そのもの(ガイア)人間種(アラヤ)を敵に回しても、生き抜くことを諦めはしない。

 

 だからこそ、お前も生き抜け。お前がどのように生きようが、マスターは必ずそこに意味と価値を見出して救われる。だからお前もどうか、どれほど無様でも、無意味にしか見えなくとも、苦痛しかそこになかったとしても、それでもマスターの生に救いを見出しているのならば、お前はマスターの生を、生き様を肯定し続けることを、……これからもソラを救い続けることをどうか誓ってくれ」

 

 そんなことは知っている。

 ソラは、絶対に生きることを諦めない。

 諦めなかった結果、救われたという現実を知ってしまったからこそ、ソラはもう諦めるという救済を失ってしまった。

 

 諦めた方が楽になれるのに、それなのにソラはそのことを諦めてしまって、死にたくないくせに一番傷つく道を走り抜け、何度も何度も死んだ方がマシな目に遭いながらも、幸福になることを、生き抜くことを諦めはしないことくらい、クラピカは知っている。

 

 救いの始まりは、ただ同胞の面影を見たことだけだったけれど、クラピカも「幸福になりたい」と願わせたのは、クラピカを今なお救い続けているのは、彼女のそんなあまりにも愚かで痛々しくて、何よりも尊い生き様だから。

 

「…………カルナ」

 

 だから、カルナの出した条件に、いつの間にかカルナが乞う側となっている話に対して返せる答えは一つだけ。

 

「それはこれ以上私が、『ソラがどのような目に遭っても生きることを望むこと』に対して罪悪感を抱かせない為に言っているだろう?」

 

 少しふてくされ気味にクラピカはカルナを睨み付けて言うと、彼は淡い微笑みを浮かべたまましれっと言った。

 

「ばれたか。

 しかし、これくらい言っておかないとお前は何度言っても自らを無意味に罰するだろう?」

 

 悪びれた様子もなく答えるカルナに、実はもうソラが起きているのではないかとクラピカは疑いつつも、彼の言う通りつい先ほどまでまたしても何もできない、ソラを救えない自己嫌悪と無力感と罪悪感を抱え込みかけていたので反論は出来ず、黙り込んでただ睨み付ける。

 

 もちろん眼力で物理的に殺せるカルナからしたら、そんなクラピカの視線なんて痛くもかゆくもなので、彼は車のシートに背を預けてさらにクラピカに手厳しい忠告をする。

 

「クラピカ。自身を厳しく律するのは良いが、意味もなく罰することはお前を愛し、慈しむ相手を結果として軽んじている場合もある。だから少しは、自分を許してやれ。

 少なくとも、ソラを救えないだの自分の所為で彼女が不幸だなど思うな。それはマスターに対してあらゆる意味で冒涜だ。

 

 彼女はお前によって救われているし、お前と出会ってから不幸だった時など一瞬たりともない。お前が生きているというだけで、マスターは救われ続けていることだけは忘れるな。

 お前自身が何かをしたわけではない、あまりに身勝手な思いがたまたま救いになっただけであっても、救ったのはお前だ。そのことは誰にも変えれない。否定などできない。

 だから、お前も受け入れて『ソラを救えない』と思うことだけはやめろ」

 

 耳に痛い忠告に、さらにクラピカは渋い顔になって「……そう言われて簡単に切り替えられる性格ならば、ここまでこじれていないだろう」と言い返す。

 そんなクラピカのあまりにも悔し紛れの反論に、カルナはやっぱりしれっと悪びれずというか悪いこと言っているとは本人が一番思っていない顔で言い放つ。

 

「いや、前々からソラの記憶を夢として見ている時から思っていたが、お前はおそらく本質としてはマスターやあのゴンという子供と同じだ。切り替えられないのは、溜めこんだものを発散する機会がないからだろうな。

 クラピカ。お前は心の内に自分の感情や考えを溜めこむのはやめろ。向いていないし本質に合っていない。思ったことをそのまま口にしていた方が、おそらくは何事もこじれずに済むぞ」

「悪かったな!! そう言うお前は少しは自分の言葉が相手にどう伝わるかを考えろ!!

 お前、絶対に自分がどんな暴言を吐かれても気にしないから、相手の気持ちになって考えるというのが実は壊滅的だろう!!」

 

 実は少し自覚していた、同胞と故郷を失って人間不信となったことと、自分の短慮さを厭って変わりたいと望んだ結果、無自覚と意図的が入り混じって出来上がった現在の自分の性格と、変えようがない自分の本質によって生まれる齟齬による軋轢を指摘され、思わずキレてクラピカは言い返すが、カルナはクラピカの反論に今度は割と本気で衝撃を受けた。

 

 カルナはオッドアイを見開いてえらく間を開けてから、「……………………そうか。そうだったのか。だからオレの言いたいことは大概が上手く伝わらなかったのか」とマジ凹みしだしたので、散々カルナの斜め上な発言に振り回されたクラピカは、「今更!?」と思いつつも困惑して思わず「……さ、最後まで聞けば何が言いたかったのかはちゃんとわかったぞ」とフォローしてしまう。

 

「……そうか。ありがとう。マスターの忠告を少しは生かせているようで安心した」

 

 クラピカのフォローにまだ若干凹みつつもなんとかカルナは持ち直すが、クラピカの方はカルナの発言で逆に「ソラが忠告してこれって、本気でソラ(あいつ)はどうやってこいつとコミュニケーションを取っていたんだ!?」と割と本気で慄いた。

 だがそのことを突っ込むのもバカらしいくらいにカルナの扱いには不本意ながらも慣れてしまったクラピカは、やたらと遠い目で「……そうか」とだけ言って済ませる。

 

「…………話がやたらと長くなってしまったな。そろそろ帰るが、まだ何か話はあるのか?」

 

 また発車間際に止められるのは御免なので、クラピカがハンドルに向き直って確認すると、凹んで俯いていたカルナが顔を上げ、バックミラー越しに微笑んだ。

 

「いや。オレから言いたいことはもう何もない。

 ……どうやら、少しは吹っ切れたようだな。あのままではマスターに合わす顔がなかったから、お前が少しでも己の救いを受け入れられるようになったのなら、何よりだ」

 

 クラピカから八つ当たりじみた理不尽な罵倒もそれなりにされたというのに、カルナは相変わらずどこまでも好意的に接することに罪悪感を覚えるやら、けれどよく考えたらカルナの自業自得も多かったのでやっぱり苛つくやら、非常に微妙な思いを抱えながらクラピカは感心と皮肉を入り混ざった感想を口にする。

 

「……お前は本当にサーヴァントの鑑だな」

「その評価は光栄だが過大だ。オレはソラに対して真に忠義を誓っているとは言い難い」

 

 クラピカとしては、ソラに対する忠義が彼のコミュ障の所為で斜め上に暴走していることに関しての皮肉も多大にあったのだが、洞察力はあるくせに言われたことはそのまんま受け取るカルナは素直に受け取って返答する。

 しかし自分の皮肉が通じないことは予想出来ていたが、「ソラに対して真に忠義を誓っているとは言い難い」という返答は今までの言動からは信じられず、もう一度クラピカは振り返って「どういう意味だ?」と尋ねる。

 

 その問いにカルナは、やはりどこまでも凛然とした真顔で即答する。

 

主人(マスター)を愛する従僕など、真の忠義者とは言えんだろう?」

 

 カルナの言葉に、クラピカは「は?」などといった特に意味のない言葉も発することも出来ず、まさに絶句してしまう。

 そしてカルナもカルナで、フリーズしているクラピカにそのまま「すまんが、もう訊きたいことが無いのならオレは眠る。さすがにそろそろ限界だ。これ以上はマスターの負担が大きすぎる」と言って、そのまま両目を閉ざしてしまう。

 言葉通り限界近かった所為もあるのだろうが、この男の洞察力は優れているのかポンコツなのか、本気で謎である。

 

 カルナが目を閉ざし、そのまま眠ったのかそれともソラに肉体の主導権を返したのか、白皙の顔にやや赤みが差しつつも安らかな寝息が聞こえてきた辺りで、クラピカのフリーズは解凍される。

 そしてそのまましばらく、頭を抱えた。

 

「…………多分、ラブどころかライクですらなくアガペーあたりを意味する『愛』だと思うが、あいつは爆弾発言しか出来んのか!?

 そしてお前は本当にどうやって、あれとコミュニケーションを取っていたんだ!?」

 

 カルナの言葉の足りなさ、チョイスの悪さを散々思い知らされたクラピカは、案外正確にカルナ語を翻訳できていたのが不幸中の幸いだった。

 

 * * *

 

「旅団を止めたいと言っていたな。その必要はなくなったよ。

 旅団(クモ)は死んだ」

 

 ゴンとキルアにそれだけを告げて、クラピカは電話を切る。

 そしてそのまま、しばしホテルの屋上でヨークシンの夜景を眺めながら、ここに訪れてからたったの三日間で起こった出来事を思い返す。

 

 ……思い返す出来事は、いずれも後悔ばかり。

 自分の愚かさを、無力であることを思い知らされてばかりだった。

 したいことよりも、したくないことばかりしてきた。

 

 つい先ほども、ただひたすらに後悔と無力な自分に対する自己嫌悪、そして人体蒐集家という外道どもに対する憎悪を心に抱え込んだ。

 

 カルナとの問答の所為でだいぶ帰るのが遅れてしまったが、クラピカはその遅れた理由を競売で競り争ったゼンジというマフィアに責任を被せて誤魔化した。

 全くの嘘ではないのでライトはその報告をあっさり信じ、競り落とした緋の眼を奪われなかったことを労った。

 

 そして緋の眼はクラピカの手からライトの元へ、そしてそのまますぐに娘のネオンの元へと渡り、彼女は病院のベッドの上で歳よりも幼げに、無邪気に喜んでいた。

 たったの5年前までそれは生きていたことなど、どれほど残虐な手段を用いてその緋色が刻まれたのかなど、想像どころか初めから考えもせず、緋の眼をただの物として「綺麗」と言う少女に対して湧き上がった、クラピカは今すぐに彼女を同胞達と同じ目に遭わせて、その腕に抱える形見を奪い返したいという衝動を抑えつけて、耐え続けた。

 

 そんなクラピカの拷問じみた忍耐に気付いたセンリツが、「後のこと、明日の買い物や競売などは自分たちがやる」と言って、クラピカはもう休むように言ってくれた。

 他の護衛メンバーもそのことに同意し、ホテルに帰してくれたことに関しては感謝している。

 

 が、まだどうしても休む気にはなれずただ一人で佇み続ける。

 

 休む気にはなれなかった。

 今、座り込んでしまうと二度と立ち上がれない気がした。

 自分は何をすべきなのかがわからないクラピカにとって、休むのが怖かった。

 

 仇である旅団を失った。

 形見である緋の眼を取り戻すのに、自分の心を殺し続けるような真似をし続けたいのか? と自分自身が問う。

 

 いっそ何もかも投げ捨てて、ソラと共に生きるという選択を選んだとしても、「共に生きる」日々はいつまで続くのか。

 

 カルナの言葉で色々と吹っ切ることが出来たが、同時にやはりネガティブなクラピカはカルナに知らされた情報で、考えたくない、見たくない未来ばかりを想像してしまう。

 

 ソラが「抑止力」によって殺される未来。ソラが元の世界に戻って、そして「魔術師」によって自分の同胞達と同じくらいかそれ以上の凌辱をされる未来。

 そして、もうクラピカにはどれほど足掻いても手が届かない、平行とは言えないほど遠い世界を流転して、抑止のための殺戮を行う「掃除屋」として使い潰される未来。

 

 どれもこれも、奇跡の体現者である魔法使いどころか、念能力者としても未熟なクラピカでは間違いなく手の出しようも抗いようもない未来。

 どれほど幸福に現在を過ごしても、あまりに悲惨な未来への時間稼ぎにしかならないということを思い知らされて、それでも屈託なく幸福に過ごせるほどクラピカは図太くない。

 

 ……だけど、諦めることだって出来ない。

 

 カルナが「誓え」と強制する必要もなく、クラピカはどれほどの罪悪感を懐きながらも、諦めきれず手離せない救いがあるから。

 ソラと生きていたい。ソラに生きていて欲しい。

 

 例えそれが、心臓の一欠片しか残らないような生き様であっても、生き抜いて欲しいという願いだけは何があって変わらないし、変えられない。

 

 しかし、その願いの為に自分に出来ることは何なのか、そもそも出来ることがあるのかすらわからない、あまりに自分の願いを貫くには立ちふさがる壁が巨大すぎることを思い知らされて、クラピカは途方に暮れるしかなかった。

 

「……どうして私は、自分で自分を救わないんだろうな」

 

 救われ続けているくせに、自分自身がその救いを拒絶して不幸に突き進んでいくことも、そのような行いに何の意味もないと思い知らされても、どうしてもそこだけは吹っ切ることが出来ず、自嘲の言葉を吐き出した時……。

 

 

 

「クラピカ」

 

 

 

「どうしてここに?」とは思わなかった。

 思ったことは、「どうしてこいつは……」だった。

 

 そしてそんなことを思うのもバカらしい。

 彼女はいつだって、クラピカが一番助けて欲しい時に現れる。

 

 まるで心を読んだかのように。

 運命のように。

 救われることを拒絶するクラピカを、いつだって絶対に救いに来てくれる。

 

「クラピカ。どうしたの、こんなところで。寒くない?」

 

 車の中で眠ったままだったから、カルナの言っていた通り昨夜ほどではないがまだ熱が高かったから、ホテルに戻ってすぐにまたヴェーゼとセンリツの部屋のベッドで寝かせたはずのソラは、当たり前のように屋上にやってきて、クラピカに駆け寄る。

 

 まだ熱があることをはっきりと表すように赤みの強い顔には、起きてから自分で巻いたのか、かなり雑に包帯でその両目は再び封じられている。

 両目を閉ざしながらも真っ直ぐに自分に向かってくるソラに、慌ててクラピカの方も駆け寄って抱き止める。

 

「何をしてる!」

 

 場所柄、眼が見えていない状態で歩き回っていい所ではないので、フラフラとどこかに行かないようにという意図での行動だったが、ソラはクラピカに触れられた瞬間、一瞬だが怯えるように確かに体が強張った。

 

 クラピカに触れられることを拒むのではなく、自分がクラピカに触れてもいいのかを迷い、拒絶されることを恐れていることはわかっていた。

 だからクラピカは、ソラの体の強張りを無視して抱き寄せる。

 

「君に触れることを拒む理由などない」と言うように、自分と同じくらいの背丈でありながら、自分より遥かにか細い身体を自分の腕の中に閉じ込める。

 

 明らかに平常な体温とは言えないが、昨夜の灼熱と比べれば常識の範囲内の温度に安堵して、クラピカは腕の中のソラが間違いなく生きていることを確かめ続ける。

「何しに来た?」や「どうしてここだとわかった?」という言葉は出ない。

 それよりも何か言うべきことがあるはずなのに、何も言葉は浮かばない。

 

 何も言えないまま、クラピカは手離せないただ一人を抱きしめ続ける。

 

「…………クラピカ。ごめん」

 

 何も言えないクラピカの代わりに、クラピカの腕の中でソラが呟いた。

 その謝罪が昨夜の光景を、両目から血の涙を流し続け、体の内側を業火で焼き尽くされているような熱を発していた、そんな状態でも謝り続けた彼女を鮮明に想起させて、クラピカはソラを抱く腕の力を込めて「謝るな!!」と叫ぶ。

 

 もはや抱きしめているというより縋りつくように、ソラのことを考慮しない力加減の抱擁にもソラは文句を言わず、だけどクラピカの言うことも聞いてはくれず、もう一度腕の中で彼女は謝罪を繰り返す。

 

「……ごめん」

「謝るなと言っているだろう!」

「いやでもだって、絶対にカルナさん天然発揮して迷惑かけたでしょ! マジでごめん!!」

「知っていたがお前ら主従は空気壊すのが本当に得意だな!!」

 

 抱擁を緩めて、思わず反射でソラの頭をクラピカは引っ叩いて突っ込んだ。

 謝罪はどうやら昨日の事ではなくカルナのことだったようだ。

 

 ソラはクラピカに引っ叩かれても、真剣に申し訳なさそうに「あの、本当にごめん! あの人、悪気とか他意とか本当にないんだよ! 善意と好意しかないんだよ! でも本当にごめん!!」とだめ押しでもう一度謝ってから、おずおずと尋ねてきた。

 

「……ところで、カルナさんとどんな話をしたの?」

「わかってなくて言ってたのか!?」

 

 ソラの言動からして自分とカルナのやり取りを多少は覚えているからこそだと思って、反射で入れたツッコミの後に戦々恐々としていたが、まさかの全く覚えてもわかってもいなかった。

 何も覚えていないが、カルナなら絶対に何かやらかすに決まっていると嫌な信頼でもしていたのかと思ったが、どうやらソラは「車の中でカルナとクラピカが会話をしていた」程度には覚えているが、その具体的な会話は全く覚えていないらしい。

 

「いや、思った以上に記憶の共有が全然できてないんだよ。何かクラピカがカルナさんに怒ってたり、泣きそうな顔になってたり、脱力してたのは覚えてるんだけど、君たちの会話は全く思い出せない」

 

 カルナが約束通り意図的に隠していくれているのかどうかは不明だが、光景や行動は曖昧だがある程度覚えているが会話などは全滅であることを、ソラには悪いと思いつつ安堵してクラピカは「大した話はしていない」とだけ答える。

 普段のソラならもちろんこんな言葉で誤魔化されてスルーしてくれるわけがないが、ある意味ではカルナのおかげで本日のソラの気になる所は、クラピカの注目してほしくない所ではなかった。

 

「本当? っていうか、もしかしてカルナさん、クラピカにどうやってクラピカの所まで来たかとか、その経緯で何があったのか話してないの?」

「? ……あぁ、そういえば聞いてなかったな」

 

 初めは訊くつもりだったが、色んな意味で訊く余裕がなくなっていた話題を思い出し、クラピカは首を傾げて答えるが、いつの間にかソラの顔色が発熱による赤から血の気が失せた青になっていることに気付き、クラピカもものすごい嫌な予感を感じながら「……ソラ。お前が覚えている限りで何があった?」と尋ねる。

 

「…………クラピカのことと同じく、会話が全滅だけどなんかカルトとイルミとヒソカに遭遇した記憶があるんですけど……。っていうか、ガチキレのイルミと戦闘したかもしれない」

「何やってるんだあいつは!!」

 

 盛大にクラピカは突っ込んだ。訊かなかった自分も自分だが、話さなかったカルナに対して本気でキレた。

 結局、色々と八つ当たりした謝罪や、自分の気付いていなかった事実を指摘して吹っ切るきっかけを作ってくれたことの礼をカルナに言えなかったことを後悔していたが、やはりどちらも言う必要はないとクラピカは確信する。

 

 そしてソラの方も青ざめたまま頭を抱えて、「カルナさん……、マジで何やらかしたの? あーもー、私は今後一切イルミに関わらない。イルミに申し訳ないけど、絶対に八つ当たりされるから関わらない」とイルミにとっても望んでいるのかいないのか不明な決心をしだす。

 その決心に「それがいいだろう」とクラピカも同意して、全く覚えていないが自分の身体でカルナがやらかしたことに関して色々と怯えるソラの背を、宥めるように軽く叩く。

 

「……ソラ。お前はよくあれ相手に会話が成立したな」

 

 カルナが発言するたびに思ったことを思わず口にすると、ソラは再びクラピカの腕の中で「私でも3時間に1回くらい『この人大丈夫かな?』って思ったよ」と答える。

 3時間に1回で済むソラが凄いのか、ソラでも制御不可能なカルナが凄いのかと一瞬クラピカは考えるが、どっちにしろどちらも変人という結論であることに変わりないので、深く考えるのはやめた。

 

「いや、本当に何を話したかわかんないけどごめんね。カルナさんに任せてから、絶対に君とカルナさんは相性悪いわって気付いたんだけど、起きる気力がなかったよ。

 それとあの人の天然ぶりにイラついて、悪気はないってわかってるのに怒っちゃったのなら気にしないでいいから。あの人、ハイパーポジティブだから基本的に罵詈雑言も『指摘してくれてありがとう』ってマジで受け取って、罪悪感を懐く方がアホらしいよ」

 

 ソラの普段のようにおちゃらけてながらも、クラピカをフォローする言葉を掛けるが、クラピカはソラを宥めるのをやめてもう一度強くソラを抱擁する。

 

「クラピカ?」

 

 クラピカの様子を少しだけ不思議そうにしながらも、大人しくされるがままのソラ。

 もうクラピカに触れられること、抱きしめられることに怯えるような体の強張りはないが、彼女は決して自分からクラピカには触れない。抱き返すことなく、されるがまま抱きしめられている。

 

「……それが、お前が自ら定めた罰か」

「え?」

 

 クラピカの呟きを理解できずソラは聞き返すが、クラピカは答えずソラを抱きしめたまま勝手に語る。

 

「お前はバカだ。謝るくらいなら、相性が悪いとわかっているのならカルナに任せるな。何が、私を助けてくれだ。あいつは確かに規格外の強さと、清廉すぎる心を持つ英雄だろうがな、あいつに私は救えない。

 ……救えないんだ。英雄でも、私自身でも、私は救えない。……お前じゃないと、ダメなんだ」

 

 八つ当たりなのか正当な評価なのか微妙な罵りをしながらも、クラピカはソラを離さない。

 平常より高い熱を、少しずつ早まっていく鼓動を感じながら、今ここに、自分の腕の中に確かに存在していることを確かめながら、吐き出した。

 

 隠しても意味などない、ソラにはとっくの昔に気付かれていることくらいクラピカだって知っている。だけど口に出して確定させてしまうと、なおさらにソラが全てを背負って傷ついて行くこともわかっていたからこそ、絶対に言うつもりなどなかった弱音にして本音。

 

 伝える必要はないと確信したが、認めるのは癪だがカルナに感謝しているのは本当。

 カルナの指摘が、袋小路だった思考を吹っ切れさせたのは事実。

 

 だけど、カルナが自分で言ったようにカルナではクラピカを救えない。

 カルナはただ指摘しただけだ。クラピカは救われていることを。救われない問題点を。

 そしてソラも救われ続けているということを。

 

 クラピカを救うのは、いつだってソラだ。

 起きる気力がないと言いながらも、セメタリ―ビル前まで辿り着いて、自分と再会した瞬間、自暴自棄という範疇ではなかった、何もかも捨て去って終わりにしたかった自分さえも、虚無に落ちて溶けたはずの何もかもを掬い上げて救ってくれたのは、彼女だ。

 

 あれほどまでに何もかもを諦めて捨てていたクラピカでさえも生きていることを喜んで、望んで、笑ってくれたからクラピカはここへ戻ってこれた。

 

「お前が……生きているだけでいいんだ。生きていてほしいんだ。傷ついてほしくない。危ない目に遭って欲しくないし、トラブルに首を突っ込むのも、無茶をするのも論外だ。

 それなのに……お前は…………」

 

 今もそうだ。

 独りきりでは悪い方ばかりに考えが向いて、何もできない自分への自己嫌悪と、いつか必ず訪れる「抑止力」に翻弄される未来への不安で押しつぶされそうだったというのに、ソラ本人が現れたらクラピカの不安は現金なことに緩やかに溶けるように消えていった。

 

 本人を前にしたら、「ともに生きる時間」があとどれだけ残されているのかを考えて、悲観的に不安がるのはバカらしいと思えた。

 そんなことを考えている時間があるのなら、その時間を「ともに生きる時間」にした方がよほど有意義であることに気付けた。

 

 何も変わってなどいない。

 未来は絶望的で、クラピカにできるなんか何も思い浮かばない。

 

 けれど今、この瞬間は間違いなく幸福で手離しがたいものだから。

 今、幸福は自分の腕の中にあることは確かだから。

 

 だから、クラピカは離さない。

 例えソラがウボォーギンを殺したこと、クラピカに「誰も殺さないで」と自分の身勝手な希望を望んだことに対する罰として、自分に触れないと決めていてもクラピカはそんなものを無視して、自分の腕の中にソラを閉じ込める。

 

 何もできることがなくても、だからと言って今、手を伸ばせば届く幸せに手を伸ばさないことも、この腕の中の幸福を手離すことはもっとできない。

 

 どれほどの罪悪感にまみれても、自己嫌悪を胸に抱えようとも、未来に不安しかなくとも、それでもクラピカは、誰にも奪われないように、離れて行かないように、誰も間に入ることなどないように、そして彼女の存在が決して夢ではないことを、確かに今ここに、この腕の中に幸福があることを証明するように、隙間なくソラを抱きしめ続ける。

 

「……クラピカ。怒ってる?」

「当たり前だ」

 

 そんなクラピカにソラは戸惑いつつ尋ねてきたので、もちろんクラピカは即答した。

 

「勝手にしろと言ったのが間違いだった。だが、勝手にしろとは確かに言ったが許さないとも念押ししていただろう。何故、怒っていないと思えるんだ?」

 

 ソラが無茶したことを未だに根に持って怒っていることを口にすれば、「いやぁ、勝手にしろってことは最終的には許してくれたのかと思ったよ」と、いつもの調子でおどけて答える。

 そしてクラピカも、いつものように厳しく言い返す。

 

「許すわけがないだろう。許されると思うな、馬鹿者」

 

 許すわけがないし、許されるわけもない。

 ソラはもちろん、クラピカも絶対に許されない。

 

 相手がいくら大切だから、相手が生きているだけで自分が救われるからと言って、自分の命を削り、犠牲にして捨てるような行いは、相手が自分のことを愛してくれているからこそ絶対に許されない罪だ。

 

 許されてはいけない。

 だってその罪の先にあるものを得るために、選び取った道だから。

 

 死にたいわけではない、生き抜いて共に幸せになりたいからこそ、背負うと決めた罪だから。

 

 だからクラピカは絶対に許さない。

 きっと許してしまえば、その罪をなかったことしてしまえば、ソラが選んだもの、選んでくれた幸福さえもなかったことになるような気がしたから。

 

 自分が何度、迷って傷ついても手離せない救済が、幸福が、全ての意味を無くすから。

 

 だから、許さない。

 ソラも。そして自分自身も。

 

 許さないから、罰を与える。

 

 

 

 

 

「ソラ。君を――一生、(はな)さない」

 

 

 

 

 

 クラピカの言葉に、定められた「罰」にソラは一瞬、息をのんだ。

 

「………………クラピカは本当、厳しいなぁ」

 

 泣き声のような声でソラは答えた。

 その罰を受け入れるように、クラピカの背に自分の腕を回して。


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