死にたくない私の悪あがき   作:淵深 真夜

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幕間:行動開始

 送られてきたメールで、一気に頭に血が昇る。

 血と一緒に浮かび上がった思考は昨夜、偽物の団長の死体を前にした時と同じもの。

 

 違うのは、そこに含まれた感情。

 あの時、その思考に含まれていた感情は後悔と自己嫌悪による虚無感。

 今、燃え立つように湧き上がるのは、業火のような憎悪と憤怒。

 

(……何の為に彼女は、あの手を汚したんだ!?)

 

 あまりに多くのものを失い、傷ついたからこそ得たと思えた平穏は、安寧は、無為だからこそ珠玉の日常、幸福そのものな時は偽りであったことを知らされて、クラピカは自分のケータイを握りつぶさんばかりの力を込めて握りしめ、そのまま立ち上がってホテルから出て行こうとする。

 

「何だよ急にどうしたんだよ!? おい、クラピカ!! おいって!!」

 

 ケータイでメールの確認でもしていると思ったら、いきなり無言でブチキレ、間違いなくカラーコンタクトの奥の瞳を紅蓮に染め上げてそのままどこかに行こうとし出すクラピカの肩を、レオリオは掴んでひとまず止める。

 唐突すぎるクラピカのキレ具合に、レオリオとゴンは困惑するしかないが、キルアだけは彼がここまでキレた理由に見当がついた。

 

「…………ヒソカから?」

「ああ」

 

 メールの送り主は、キルアの予想通りの相手だった。

 そしてキルアの想像では、ソラに関して何か挑発じみたことを言われたのかと思ったが、事態はもっともっと深刻だった。

 

「死体は偽物(フェイク)だと」

『!』

 

 旅団の中にそのような能力持ちがいたと説明し、天空闘技場でまさにその実例を見たキルアとゴンが納得する。

 そしてクラピカは引き留められたことで、自分はどこに向かって何をするつもりだったのかということに気付いたのか、ひとまず落ち着かせようとその場で深呼吸をするが、怒りが、憎悪が胸の奥から、脳髄の中心から次々と湧き上がり上手くいかない。

 

 やっと手に入れた平穏が偽物で、数多の後悔と傷を残しながらも解放されたと思われた復讐心の元凶がのうのうと生きていることが許せず、そして同じ具現化系でありながらその可能性に気付けなかった自分にも殺してやりたいほどの怒りを覚えた。

 

 しかしクラピカがその可能性に気付けなかったのは、無理もない。

 具現化系は放出系と特に相性が悪いので、基本的に具現化したものは手元から離せない。

 そしてイメージ修行に時間がかかるので、まったく違う姿形のものを複数具現化する者もめったにいない。

 

 だからこそ、セメタリ―ビル周辺というそれなりに距離が離れた場所に散り散りと横たわっていた死体が、具現化系能力者が作り出したものだとは思えなかった。あれは明らかに何らかの誓約を施して得た、具現化系の中でも特殊で邪道な能力だ。

 自分自身が具現化系だからこそ盲点になっていたことに気付き、クラピカはガリガリと八つ当たりで自分の頭を掻き毟る。

 

「どうすんだ? 完全に事態は急変したぜ」

 

 先程まではキルアの方が頭に血が昇っている状態だったが、クラピカの様子を見れば逆にこちらは落ち着いたのか、腕を組んで冷静に尋ねてくる。

 だが、その答えをクラピカが出す前に彼のケータイがもう一度鳴る。

 

 今度は着信だったので、クラピカは3人に言って少し離れたところで電話を取る。

 先程のメールからしてヒソカからの可能性が高いので、別に奴相手に知られても問題はないと思うが念の為に、クラピカがゴン達と接触したことは知られないようにという配慮だったが、幸か不幸か電話の相手はヒソカではなかった。

 

《クラピカ? あたしよ》

「センリツか。どうした?」

 

 電話の主が一番信頼している同僚で、その声音も何らかの焦りなどは見受けられなかったので、何か悪いトラブルがあったわけではなさそうなことに安堵するが、彼女からもたらされた情報はクラピカからしたらあまり歓迎できる情報ではなかった。

 

《コミュニティーが旅団の残党狩りを断念したわ。奴らが流星街の出身者だってことがわかったそうなの。十老頭が直々に終戦命令も下したらしいわ》

 

「流星街」という単語で思わずクラピカも、顔をしかめた。

 その単語で思い出すのは、クルタ族の虐殺現場に残されていたメッセージ。

 

『我々は何ものも拒まない。だから、我々から何も奪うな』

 

 自分から全てを奪い尽くした奴らが残した、まったく意図が理解できないメッセージ。

 

 10年ほど前に流星街の住人が冤罪で不当逮捕され、3年後に釈放された後の同時多発自爆テロ事件に関しては、クルタ族も不当に虐げられた民族だからこそ、偏見によって決めつけて、仲間にろくな弁明の機会を与えなかった司法を恨む気持ちは理解できる。

 

 だが、クルタ族の集落と流星街は同じ大陸に存在しているが近接してる訳でもないので、流星街そのものやその住人にクルタ族が何かした、何かを奪ったという可能性は薄い。

 仮に何らかのトラブルがあったとしても、クラピカは絶対に許せない。許す気などない。

 

 クルタ族側の誰かが加害者だとしても、クルタ族は緋の眼を恐れられ、差別され、虐げられてきたからこそ、外に出る許可が与えられている大人でも、集落から外に出たがらない者、出たことがない者が数多くいた。

 まず間違いなく加害者に成り得ない、流星街から何も奪っていないはずの者もいたのに、旅団(やつら)はクルタ族の全てを根こそぎ奪い尽くした。

 

 命だけではなく、人体収集家という鬼畜どもの下劣な欲望のために、凄惨な拷問の果てに両目に緋色を刻まれて奪われ、死後も辱め、人間としての尊厳を何もかも奪い尽くしたことを、許せるわけがない。

 

 生き残りのクラピカの存在を知っていたかのような、クラピカの神経を逆なでするためだけに残したようなメッセージを思い出して、また頭に血が昇る。

 だが、その沸き上がった憤怒をぶつける相手は目の前にはおらず、クラピカは何とかその激情を押さえつけて電話を切ってゴン達の元に戻った。

 

「ヒソカ?」と尋ねるキルアに否定して、そして奴らを捕らえた懸賞金目当てだった3人にそれは白紙になった事とその理由を伝える。

 

「流星街」という異質都市と、その都市とマフィアンコミュニティーの関係、その関係を壊す幻影旅団という情報に、ゴンの方は情報処理が追い付かず困惑して、キルアの方は何か考え込む。

 そしてクラピカの方は二人を無視するようで悪いと思いつつも、コミュニティーに問い合わせる為にまたその場を離れる。

 

 旅団がまだ生きていることを知らせる気はなかった。

 具現化系の性質からして、どれほど重い誓約を課しても死者の念にでもならない限り、能力者の手元から離れても永続的に具現化していられるというのはあり得ない。

 間違いなく死体の具現化には制限時間があると確信しているが、それでも実際に消えてしまわない限りは「死体は偽物(フェイク)」だと知らせても、“念”の存在を知らない者はもちろん、知っていてもやはりクラピカと同じ盲点を突かれて「ありえない」と思い込んでいるだろうから、指摘したクラピカの方がまず間違いなく不審がられる。

 

 そもそもおそらくコミュニティーは、マフィア以上に報復の手段を選ばない流星街との摩擦を恐れているからこそ残党狩りを断念したので、死体が消えても旅団討伐はもう二度とないとクラピカは判断する。

 

 だからこそ、クラピカが知りたいのは今夜の競売は予定通り行われるかの一点。

 

 コミュニティーの後ろ盾や援護など、初めから期待していない。必要としていない。

 無謀なのは、わかっている。自分の今現在の思考は、頭に血が昇って憎悪と憤怒で一杯になっているものだということだってわかっている。

 

 絶対に後悔することなど、わかりきっている。

 

 だけど、ここで何も行動しない方が後悔することもわかっているからこそクラピカは動く。

 例えこの手が旅団(クモ)の血にまみれて、彼女の願いがもう叶わないものになっても、多くのものを失って得るものが何もなくても、それでもクラピカは選んだ。

 

 得るものがなくても、守れたらそれでいい。

 今、ベーチタクルホテルで眠っているであろう彼女を守れたら。

 

 欲しいものは、幸福はすでに得ているから、その幸福を守り通すことをクラピカは選び取った。

 

 * * *

 

「……どうしてこうなった?」と、キルアは考える。

 が、考えるまでもなく親友の所為であることは明白。

 

「旅団がまだ生きている」と知って、キルアはゴンの「旅団を捕らえる」という意見に反対した。

 その数分前までむしろそれをしないと決めているクラピカを煽って、協力させようとしていたのを見事に掌返ししたのは、もちろん賞金が白紙になったのもあるが、旅団がまだ生きているのなら自分たちが動いた方がソラのリスクになると思ったからだ。

 

 残党なら自分たちと旅団の中でもトップクラスの戦力だった団員を捕らえたクラピカが協力すれば、全員狩ることが出来るのではないかと思った。

 全員は無理でもパクノダに狙いを絞れば、彼女は能力柄間違いなく戦闘要員ではないので、ソラの言ってた通りそこまで不利にはならないと計算していた。

 

 だがまだソラが殺した団員以外の全員が、特にリーダーが残っているのなら話は全く別。

 ソラや父親の忠告通りならば、旅団は基本的に個人行動をしない。

 頭を失ったのなら統率が取れなくなっていることを期待できたが、リーダーが生きている上に個人行動していたからこそ殺された仲間という前例がいるのなら、なおさらに期待は出来ない。

 

 そんな一人でも自分たち4人がかりで敵う保証がない相手達だというのに、複数人を相手取らなくてはいけないとなれば、使えるの人材はクラピカしかいない自分達ではまず勝ち目はない。

 それなら、ソラの居場所が割れている訳でもない現状に甘えて、行動せずに素通りしてもらった方がいいと判断した。

 

 クラピカの言う通り、ヒソカならソラに執着しているからこそ情報を漏らすことはない。

 むしろ、自分の獲物が横取りされぬように、勝手に行動して奴らの眼をこちらから逸らす期待が出来る。

 

 なのでキルアはもうクラピカに協力する気も、旅団を捕らえる気もほとんどなくなっているというのに、わかっていたが当然ゴンは旅団を捕まえることを諦めてなどいなかった。

 

 キルアはグリードアイランドの金策を持ち出して何とか諦めさせようと思ったが、どうやらゴンには旅団を捕まえた賞金があっても競り落とせる保証などないはずのグリードアイランド入手に、何らかの策があるらしい。

 詳しい話をゴンはしてる時間がなかったのでしなかったが、おそらくは良くて五分五分程度だとキルアは思いながらも、わがままで突拍子もないことを言い出す奴だが、自分のワガママに他人を付き合わせるため嘘をつくような卑怯者ではないことをよく知っているので、ひとまずキルアはゴンを信頼して折れた。

 

 折れたのは、本当はわかっていたから。

 

 自分の考えは慎重論ではなく、問題の先送り。ただ逃げているだけ。

 奴らを今逃がせば、ソラが殺した団員は補充され、また力を蓄えてソラをつけ狙うのはわかっているからこそ、間違いなくこの街に、ヨークシンに、そして自分たちが拉致られたあのアジトにいるとわかっている間に、せめてできる限り力を削いでおくべきなのは、わかっている。

 

 キルアの頭の奥が、小さく痛む。

 痛みがキルアに告げる。

 

「勝ち目のない敵と戦うな」と、(イルミ)の呪縛が昨夜、アジトの一室に監禁されていた時ほどひどくはないが、それでも確かに囁き続けた。

 

(うるさい!!)

 

 キルアは胸元に揺れるペンダントトップを握りしめ、心の中で怒鳴りつける。

 折れた理由は、きっとただの意地も大きくある。

 ノブナガに向かって、ゴンだけでも生かして逃がすために自殺でしかない足止めをしようとした時と変わらない。

 

 それでも、この意地はもうあの時以上に捨てられない。

 ゴンがクラピカに協力を申し出て、一通りパクノダ拉致の計画を立てた後、悪あがきの時間稼ぎのつもりで「何で急に自分達の協力を受ける気になったのか?」を尋ねてみれば、クラピカは自分で話しておきながら、「リスクが増したからだ」と答えた時は、キルアだけではなくレオリオもイラっと来た。

 

 けれど、それ以上にイラっときて意地が捨てられなくなったのは、その後に続いた言葉。

 

『私のことはいい。だがもうこれ以上、彼女を旅団(やつら)に脅かされるわけにはいかない。……何を犠牲にしても、彼女を守る』

 

「お前とは、『ソラを守りたい』という覚悟が違う」と言われたような気がした。

 無論、クラピカがそんなこと思っていないことくらいわかっている。

 むしろこの時のクラピカは間違いなく、キルアなど眼中になかった。

 

 それこそ、彼はソラしか見ていない。

 ゴンに課した役割といい、クラピカは本気でソラを守る為、生かすために何もかもを、ゴンすらも犠牲にする覚悟を決めていた。

 

 まるでそれが、彼女の隣に並び立つ資格の様に。

 

 だからこれは、そんな意地。

 本音で言えばあんな連中を敵に回したくない、偵察なんかしたくない、死にたくないという弱音ばかりだが、その弱音以上に声高に叫ぶキルアの望みはただ一つ。

「俺だってソラを守りたいんだ!」だった。

 

 だから、この望みを守る為、叶える為に意地を張り通す。

 

 守りたいし、負けたくない。

 クラピカはもちろん、ゴンにだって。

 

「お前の覚悟、確かに受け取った」

 

「自分にも念の刃を刺してよ」とこれまたぶっ飛んだ提案をしてきたゴンに、何故「旅団以外攻撃不能」の制約を立てているクラピカが、自分の心臓に念の刃を埋め込めているのかという説明を聞き、それでも意思が変わらないゴンの言葉を受けてクラピカが答えると同時に、一緒に聞いていたレオリオと背後から姿を現す。

 

 リスク軽減のために二人は席を外していたが、それは自分が納得するまで自分を絶対に曲げないゴンには説明しないとどうしようもないが、3人全員にリスクを負わせるくらいならクラピカは何も話さず、協力を断ることを選ぶのが目に見えていたからだ。

 だが、だからと言ってそのまま素直に聞かないでゴンだけにリスクを背負わせる気も二人にはなかった。

 

「その刃ってさ、3本って出せる?」

「任務完了の後はその(ルール)、解除できるんだろうな?」

 

 そう言って、クラピカに「自分達にも念の刃を刺せ」とクラピカに告げる。

 二人で話し合ったと言うが、話し合うというほどの会話などしていない。ただの「やるか?」「おう」という意思確認でしかなかった。

 

 クラピカの為に命を懸ける気にはなれないが、ソラの為ならば、ソラを守る為ならば、ソラのリスクになるくらいなら、この命を懸けてしまいたかった。

 

 そんなキルアの覚悟、そしてレオリオのおそらくはクラピカもゴンもキルアのことも思いやり、決して命を懸けているのは自分だけではない、全員が同じだけのリスクを背負っているということで、精神的負担を軽減させようという心遣いに、クラピカは気付いていたのだろう。

 

「「答えは?」」

 

 キルアとレオリオの問いに、答える。

 

「両方とも、可能だ」

 

 答えてから、右手の鎖の具現化を解いて補足した。

 

「だが3人とも、1つ勘違いしていることがある。

 私はお前たちに剣を刺す気など、初めから全くないのだよ?」

 

 クラピカの言葉にゴンが今度こそ捕まった時のリスクを訴えるが、パクノダに触れられたからといってすぐに記憶が読まれるとも、その記憶がクラピカに関することだとも、読まれたとしてもそのことをすぐ仲間に話すとは限らない、「パクノダに触れられたら」を(ルール)にしてしまえば、反撃のチャンスを自分から潰してることになると正論で説得させられて、ぐうの音も出なくなる。

 

 だが、そこまで考えていたのなら何故、初めからそのことを話さなかったのかをゴンとキルアは疑問に持った。

 ゴンは納得しなければ絶対に自分を曲げないが、良くも悪くも素直で単純、そして善良なので納得させるのは割と容易い。

 先ほどの説明を初めにしていれば、すんなり納得して諦めることくらいクラピカなら想像ついていたはずなのに、わざわざリスクを話したことをゴンが尋ねると、ヒソカのメールからずっと険しかったクラピカの顔が、まだ少しぎこちなかったが柔らかく微笑んだ。

 

「ゴン。お前の……いや、お前達の覚悟に対する私なりの礼……それと、私がお前達をどう思っているかを知ってもらいたかったからだろうな。

 

 …………私は、お前達が裏切らないと思っているから信じるんじゃない。お前達を信じているからこそ、秘密がどのような経緯で漏れても、私は裏切りだとは思わない。そのことに、後悔などしない。

 ――私は、いい仲間を持った」

 

 頭の奥で小さく痛んでいた呪縛の囁きが止む。

 その言葉に、聞き覚えはあった。

 それは、自分に与えられた言葉。

 

『――私は、裏切られてもいい相手しか好きにならない』

 

 友達になりたかった人(ゴン)も、ずっと一緒にいたかった人(ソラ)も、自分の命が惜しくて見捨てたはずのキルアを抱きしめ、それでも自分のことを好きだと言ってくれた。

 

『私は裏切らないと思える相手じゃなくて、信じたことを後悔しない相手しか好きにはならない』

 

 裏切ってもそのことを後悔しているのならば、本当は守りたかった、裏切りたくなかったと思ってくれているのならば、本性ではなく本能によっての裏切りならば、何も悪くないと言ってくれて許してくれた人と同じ理屈をクラピカは語る。

 

「後悔しない。だからこそ、頼むから無理するな。私のリスクの為に、死のうなど思うな。

 ……私は、どんな手段を使っても、いかなる犠牲を払ってもソラを守る。……だからこそ、お前達を死なせるわけにはいかない。

 お前達が死ねば、ソラの『幸せ』が守れない。そして、私も同じだ。

 私は、ソラがいないと生きてはいけない。そして、お前達を失えば生きていけても幸福になどなれない」

 

 本当に何があったのか、ハンター試験時のクラピカを知っていれば信じられないくらいに素直な言葉に、思わず3人はしばし唖然とする。

 

「……ずるいよ、クラピカ」

 

 何とも言いようがない、気恥ずかしいやら照れくさいやら、けれどそこまでの信頼が誇らしいやらという空気の沈黙を、ゴンが破る。

 

「そんなこと言われたら俺、命かけるよりもよっぽどプレッシャーになっちゃうよ」

 

 ゴンの本気で困ったような顔に、ようやくクラピカの顔からぎこちなさが消えて、彼は笑いながら「それが狙いだからな」と言い出す。

 ゴンはその言葉に納得して笑い出すが、キルアからしたら笑いごとではない。

 

 そのことを察しているように、キルアに向けたクラピカの視線は優しいものだが同時にひどく申し訳なさそうだった。

 その眼は言外に言っていた。

 

「お前たちの命を犠牲にしたくない。だから、危なくなったら、そして嫌だったら躊躇わずに逃げろ」と。

 

 キルアがまた本能に負けることも許すような目が、自分を裏切ってもキルアが生きることを望む眼、……泣きじゃくる自分を抱きしめ、彼女を殺すつもりで振るった手も握りしめ続けてくれた彼女とよく似た瞳が、クラピカの意図とは逆効果を発揮してキルアの意地をさらに強固にする。

 

「言われるまでもなく、死ぬ気なんかねーっつーの!!」

 

 そんな強がりを一言吐き出して、キルアは立ち上がる。

 死ぬ気がなかったなんて嘘。

 死ぬのは嫌で怖かったけれど、けれどまたソラを見捨てて逃げて生き延びるくらいなら死んでしまいたかった。

 

 けれど、それこそがソラの幸福を壊すというのなら、生きようと思えた。

 自分の生存本能と願望に都合のいい言い訳にしているだけだという自覚はある。だけど、きっと彼女が自分の死より生を喜んでくれるのは本当だから。

 

 自分を縛る呪縛とそれに抵抗する望みに折り合いをつけることが出来て、少し気が楽になった。

 

「さて……、んじゃ俺、行くよ。時間がもったいないからな」

「キルア、気を付けてね!!」

 

 だから、中継係でも斥候でもやる気になった。

 自分も間違いなく、彼女の隣に並び立つだけの覚悟があると思えたから。

 

「おう、任しとけって」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 クロロは死の予言が出た4人の占いをもう一度、一通り目を通す。

 

 

 

『霜月の影と仇を追い続けた睦月は

 迷いの果てに焼き尽くされる

 仇を見失ってはいけない

 迷い、間違えた道の先に太陽があるのだから』

 

『電話に出てはいけない

 それは死神の足音だから

 何よりも孤独を恐れなさい

 二人きり程怖いものはないのだから』

 

『貴方は狭い個室で2択を迫られる

 誇りか諦観しか答えはないだろう

 誇りを選ぶのならば撃ち抜きなさい

 それは魔弾となって、硬玉を撃ち砕くから』

 

『11本足のクモが懐郷病に罹り

 さらに5本の足を失うだろう

 仮宿から出てはいけない

 貴方もその足の一本なのだから』

 

 

 

「それじゃ、班を決める。

 来週はこの班で基本に動き、単独行動は絶対に避けること」

 

 ヨークシンに留まることは決定したが、そうなるとここを発つよりも決めなければならないことが多すぎる。

 なのでクロロはひとまず、単独行動を避けるためにノブナガ・シャルナーク・パクノダ・ヒソカの占いを眺めながら、死の予言が出ているものをなるべく分散させて班を決めた。

 

 旅団の女勢を全員ひとまとめにして、データ不足だった3人も同じチームにする。

 一番暴走しかねないノブナガは自分とシャルナークという操縦係がいるチームに入れて、同じく「紅玉」とどのような事情があっても内通して信用が出来ないヒソカは、何があっても冷静さを失わないと信頼しているフランクリンとボノレノフに任せた。

 

「団長、1ついい?」

 

 班分けに不満は誰もなかったので、クロロは次にすべきこと、今夜の競売はどうすべきかと思考を走らせるが、それが具体的な形になる前にマチが挙手してすっかり忘れていた情報を報告する。

 

「子供がさ、ここの場所知ってんだけど。まぁ鎖野郎とは関係ないみたいなんだけど、やっぱりどうも気になるのよね」

「子供?」

「あ!」

 

 まさかの自分達と一番関わりがなさそうな相手が、このアジトを知っているという情報にクロロはやや戸惑うが、それ以上に未だヒソカに対しての殺気を抑えきれていなかったノブナガの機嫌が急に直って、ノリノリでその子供を推薦すると言い出したことに困惑する。

 が、なんだかんだでこの男は結構好奇心が旺盛なので、ノブナガがここまで気に入るほどの子供に興味が引かれて話をひとまず聞いた。

 

 そして話を聞いてみた限り、確かに面白かった。

 ノブナガがその子供を気に入っているのは、ウボォーギンの面影をその子供に見ている感傷ゆえなのは明らかだが、二重尾行をしてなければノブナガとマチですら居場所を掴めなかった尾行術といい、一度だけとはいえノブナガと腕相撲で勝ったことといい、そしてノブナガの監視から逃げ出すための発想と度胸といい、なかなかの優良株であることは間違いない。

 

 なので、どうも子供の方は旅団(クモ)に入る気皆無らしいのだが、ノブナガが説得するというのなら一目見るくらいは良いと判断する。

 その判断にマチが異議を唱えるが、クロロもちょっと面白がって興味本位でその子供を見てみたいと思ったから許可を与えた訳ではない。

 

「まぁ、待てマチ。ノブナガの予言を思い出せ。

 こいつの予言には、霜月の仇と影を追い続けた結果、迷って死に至るとある。だからこそ、おそらく『霜月の影』であるその子供を放っておく、関わらないというのも手だが、お前の勘といい、予言でわざわざ仇だけではなく影の言及まであるという事は、その子供が鎖野郎や赤コート、そしてソラ=シキオリと重要な繋がり、下手すればその子供が『蒼玉の防人』の一人かもしれん。

 積極的に探すのはノブナガの予言を成就させかねないから避けるべきだが、捕える機会があればもう一度、今度は洗いざらいデータを引き出すべきだろう。

 ノブナガ。わかったか? 連れてくるのは良いが、深追いは絶対にするな」

 

 ノブナガの予言からして放っておく訳にはいかない人物である可能性が高いと説明すれば、マチは納得して黙り、ノブナガも渋々だが諦めろと言われるよりはマシと考え、団長の命令に「へいへい」と答える。

 

 そしてクロロは、その子供が何を知っているのかというデータは欲しいが、自分たちの足を捥ぎかねない「防人」ならば直接対決はなるべく避けたいため、コルトピにさらに10棟、アジトのコピーを作るように命じる。

 ついでに今知ったが、コルトピのコピーは“円”の効果もあるらしく、それならば捕獲も容易になるので、ひとまず子供に関しての話を終わらせ、本題に移る。

 

「……競売前に、鎖野郎を捕まえるか」

 

 ぽつりと、団長が呟くように出した結論にノブナガは歓喜するが、他のメンバーは難色を示す。

 

「団長。反則しかしないソラ=シキオリや赤コートよりは、確かに鎖野郎が一番能力に予想がついて対策しやすいけど、奴が本当にソラ=シキオリの弟で、『空の女神』を起こす鍵ならちょっかいを出すのはバッドエンド一直線じゃない?」

「そうだな。だから、殺すのではなく人質として使う。

 ヒソカの話を聞く限り、ソラ=シキオリと鎖野郎……紅玉は間違いなく組んで行動している訳ではない。連携が全く取れていないと判断していいだろう」

 

 シャルナークの苦言を肯定し、だからこそ出した結論をクロロは語る。

 

「ソラ=シキオリの話は普通にできたのに、紅玉に関連する話は語れないという時点で、紅玉がヒソカに科したルールにはでかい穴がある。情報秘匿が完璧ではない。

 これは紅玉がソラ=シキオリも俺たちに関わっていることを知らないからか、もしくは紅玉はソラ=シキオリのことを姉だとは思わず、あの女を利用しているだけなのか、どちらにせよこの二人が組んで共に行動しているとは考えづらい。もう少しでも連携が取れているのなら、ソラ=シキオリに関しても何も話すなというルールをヒソカに科したはずだ。

 

 ならば、奴らの付け入る隙はそこだ。鎖野郎をうまく使えば、ソラ=シキオリとその防人達を完封できる。

 奴を人質にすればそれこそあの女をブチキレさせるかもしれんが、それでもギリギリで理性を取り戻したあの女なら、俺達ごと自分には関係ない復讐に付き合う理由である弟を殺すなんて本末転倒は起こさないだろう。

 

 そもそも、競売を襲うことといい、ここに残ることといい、奴らに全く関わりを持たないまま来週まで過ごすのは不可能に近い。ならば、唯一居場所の特定が可能な鎖野郎のせめて顔と名前だけは把握しておくべきだ。今のままでは情報が少なすぎて、ろくな対策が取れん」

 

 ヒソカのただ単にクロロが予知なんて念能力を盗んできたことを知らなかったからこそ、嘘をついて恍けた方が不利と判断しただけの行いが、ヒソカの改変した虚偽の予言によってクロロはヒソカが望んだとおりの方向に誘導されていく。

 

「紅玉の仲介により、待ち人がやって来る」というヒソカの真の予言からして、クロロとクラピカを関わらせるべきなのはおそらく正解。

 上手いこと、本来ならば来週に起こるべきだった運命を加速して今週に割り込んできているのを感じ取り、ヒソカは内心で嗤う。

 

 ヒソカ以外のメンバーは難色を消しきれない、特にノブナガは鎖野郎を殺せないことに不満を持つが、自分たちが何らかの行動に移すとなれば、クロロの言う通り、居場所の推測が可能なのは鎖野郎しかいない。

 なので、ひとまず今の所わかっている鎖野郎に関しての情報を、もう一度全員でさらいなおす。

 

「シャル。ウボォーから聞いた鎖野郎の情報ってのは、前に話した分だけなんだな?」

「うん」

 

 まずは一番根本的な確認として、唯一鎖野郎本人と会い、顔を知っていたはずのウボォーギンが語った情報をさらいなおす。

 シャルナークは1日に調べてウボォーギンが発見した、鎖野郎の仲間の写真を見せ、彼らがただの構成員ではなくボスの娘のボディーガードであることを伝えると、クロロも同じような紙を取り出して他の連中に見せる。

 が、その紙に載っている写真は人数が二人多い。たったの一日でもう情報が更新されたらしい。

 

 この情報更新スピードなら、これを調べてから丸一日近く経過している今現在ならさらに情報が更新されているかもしれないので、クロロはシャルナークに確認を命じながら、ついでにボスの娘の写真もメンバーに渡して見せる。

 見せたのは、鎖野郎がボディーガードなら護衛対象の顔も頭に入れておけばそこから鎖野郎にたどり着けるからという思惑しかなかった。

 

 だが、その思惑から外れて予想外な方向からクロロは辿り着く。

 完全に油断して、盲点を突かれていたことに気付いた。

 

「ボディーガードに7人もしくはそれ以上……か。娘っ子一人に大層なこったな」

「親バカなんだろ」

「娘自身よりその能力の方が大事なようだ。父親は娘の占いで現在の地位を築いたらしいからな。それを面白く思ってない連中もいるんだろう」

 

 ボスの娘、ネオンの写真を回し見しながらそれぞれが好き勝手な感想を言い合って、クロロもその感想に補足を雑談のつもりで加える。

 そして、ネオンの写真がパクノダとシズクに回った時、彼女らも何気ない雑談として語った。

 

「でもなんでこの子、ヨークシンに来たのかな?」

「そりゃあ、オークションなんじゃない?」

 

 ネオンとそのボディーガードの写真をメンバー全員に回し見させて顔を覚えさせたが、写真が返ってきてもクロロは眼を軽く見開き、あごに手をやって何か思案するようなポーズのまま、固まっていた。

 

「団長?」

 

 クロロのフリーズに気付いたシャルナークが呼びかけると、割とあっさり解凍されたクロロが思案のポーズのまま適当ながれきの上に座り込み、シズクとパクノダを呼び掛けて、「ナイスだ」と称賛する。

 もちろん、女二人からしたら何のことだかさっぱりなので、称賛されても嬉しいどころかただ単に困惑する。

 そんな二人の困惑を気にも掛けず、クロロは天井を仰ぎ見て自嘲する。

 

「というか、俺はバカだな。くそ……どうかしてた。

 何故、組長(ボス)の娘はヨークシンに来たか? そこに俺が気付けていれば、もっと早くに鎖野郎にたどり着いていた……!!」

 

 鎖野郎を「紅玉」だと……クルタ族だと気付いていながら、全く気にかけていなかった情報があったことにクロロは二人の会話でようやく気付いた。

 

 もっと早くに気付くべきだった。

 占いの仕事ならヨークシンにわざわざ来なくても、その対象と直接対峙しなくても出来ることくらい、ハンターサイトでなくても調べればすぐに分かった。

 娘の占いで今の地位を得た父親が、幻影旅団(自分たち)のことが無くてもきな臭く、逆恨みで娘を狙う者がいる可能性が高いヨークシンに普通は連れてくるわけなどないと、不自然に思うべきだった。

 

 父親は娘の能力によって上り詰めたからこそ、娘には逆らえない。だから、危険だとわかっていても娘がオークションに参加したいと言えば言われるがままに連れて来て、欲しいものがあると言えば、どれほどの金を積んでも手に入れた。

 

 そして、この娘が欲したものは――

 

「この娘がボディーガード付きでヨークシンに来た目的。それはやはりオークションだろう。

 占いの能力にばかり気を取られ重要視していなかったが、サイトの情報によるとこの娘には人体蒐集家というもう一つの顔がある」

 

「人体蒐集家」と言われたら、もう鎖野郎が何を求めてノストラード(ファミリー)に所属したのかは一目瞭然だった。

 

「人体…………!! 緋の眼か!!」

「ああ。鎖野郎がノストラード(ファミリー)に入ったのはたまたまじゃない。今回の地下競売に緋の眼が出品されることと、それをノストラードの娘が狙っていることを予め突き止めていたからだ。

 鎖野郎の目的は二つあった。俺達への復讐と、仲間の眼の奪還」

 

 自分たちの復讐のみが目的ならば、旅団討伐をコミュニティーが諦めた時点で、マフィアに所属していてもそれは後ろ盾にはならず自分の行動を制限する枷となるだけなので、鎖野郎は既に契約を放棄して自分で勝手に行動している可能性があったが、「仲間の眼の奪還」という目的があるのなら、鎖野郎はそう簡単にノストラードからは離れない。

 

 まず間違いなくノストラード(ファミリー)は娘の為に「緋の眼」を競り落としているはず。ならばもうハンターサイトで情報が更新しているかどうかの確認も、更新を待つ必要もない。

 コルトピのコピーに“円”の効果があるのなら、それは発信器と同じ役割を持つ。

 そこに鎖野郎がいなくても鎖野郎と関わる人物がいるのは確定しているので、顔と名前くらいは確実に知ることが出来る。

 

 コルトピにさっそく今、緋の眼がどこにあるのかを探ってもらい、地図でここから直線上2500メートル先を確認すると、そこはシャルナークとウボォーギンが調べた宿泊先の一つ、ベーチタクルホテル。

 シャルナークが調べた限りでは、部屋を取っていたネオンの護衛リーダー、ダルツォルネ名義でウボォーギンを助け出した後すぐにチェックアウトしていたはずのホテルだが、おそらくは別名義で部屋だけ変えたのだろう。

 

 移動するよりはるかに簡単で早く、そして盲点もついているので合理的だが肝が据わっているとクロロが内心で感心しているとノブナガが前に出て来て、クロロに懇願する。

 

「団長、俺に行かせてくれ。頼む」

「………………」

 

 誰がどう見てもノブナガはウボォーギンの復讐を諦めてなどいない。

 予言の通り、仇と影を追い求めている。

 予言の「仇を見失う」や「迷った道の先」が比喩なのかそのままの意味なのかは分からないが、どちらにせよ予言がなくともそんな終わりを予感させるほど、視野狭窄に陥っている。

 

 だからここは、「ダメだ」と言って待機を命じるべきであるのはわかっていた。

 

「…………いいだろう」

 

 だが、クロロはノブナガの希望を尊重することを選んだ。

 クロロは旅団(クモ)の頭だ。生かすべきは己個人ではなく、幻影旅団(クモ)

 

 だけど、優先すべきは旅団(クモ)そのものであっても、それでも「個人」としての意志や感情を殺しきることは出来ない。

 他の者が、他の旅団(クモ)の一部である者達も同じことを本心では望んでいるのならば、なおの事。

 

「そのかわり俺と一緒だ。単独行動は許さない。

 そして、鎖野郎は絶対に、予言が完全に外れてもう危険がないと確定するまで殺すな」

 

 さすがに全面的な自由行動は許さず、クロロは条件を念押しして許可を出すと、ノブナガはまっすぐにクロロを見据えて彼も念押しで尋ねる。

 

「……危険はねぇ、もう予言は完全に外れたって確定したあとはどうなんだ?」

「好きにしろ」

 

 クロロの即答に、ノブナガは喜色満面となって「了解!!」と叫ぶ。

 ウボォーギンと同じく、強化系らしい単純なノブナガはエサをぶら下げている限りは予言の忠告は忘れないだろうと判断し、クロロはさっそく行動に出る。

 

「パク・マチ・シズク。お前らも一緒に来い。メンバー交代。シャル、コルトピと代われ」

「OK」

 

 細かい居場所を探る為に先ほど決めた班のメンバーは若干修正して、連れてゆくメンバーを決め、そしてクロロは宣言する。

 

「それじゃ、行動開始」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 意識を深く沈ませる。

 普段は意図的にも無意識的も絶対にしない行為。

 

 夢を見るのは好きだが、夢に沈むのは好きじゃない。

 沈んでしまえば、そこはあそこに、最果てに、深淵に、原初に、根源に、「 」に繋がっていることを知っているから、ソラの眠りは大概いつも浅い。

 信頼できる者が側で一緒にいてくれないと、沈んだ自分を引き上げてくれることを期待できる体温を感じていないと、ソラは深く眠ることは出来ない。

 

 だけど今日は、意図的に、トラウマによる恐怖で歯の根が噛み合わないほど怯えながらも、意識を深く沈める。

 普段は意識できない深層で、ソラを守る為に確固たる自我を持ちながらその自我を封じて、眠り続ける人の元まで沈んでゆく。

 

『マスター』

 

 暗く、昏い自分の深層。

 無垢心理領域まで沈みきる頃には、ソラは怯える子供のように固く目を閉ざして耳を塞いで、胎児のように身を丸めて縮こまっていた。

 闇も無音も怖いけれど、眼を開けても、耳から手を離しても闇も無音も続いていると知る方が怖かったソラの恐怖を杞憂だと語るように、懐かしい声が呼びかける。

 

 上下すら曖昧な、深海のような宇宙のような闇の中、闇に溶けてしまいそうなその領域で、「確かにここにいる」と証明するようにソラの手を掴む。

 ソラがこれ以上、彼女が逃げ出したあの最果てまで落ちていかないように。

 

 自分を守るために、座から切り離されても共にいてくれるサーヴァントが少しだけ困ったように微笑んでいた。

 

「……カルナさん」

 

 昨夜も会ったとはいえ、背中越しに抱きしめられたので顔を見るのは4年ぶりだ。

 そして英霊の彼が4年だろうが40年だろうが400年だろうが変わる訳がない。

 

 4年ぶりの、何も変わらない、不器用だけどどこまでも優しく柔らかであたたかな陽だまりのような笑顔で迎え入れてくれた忠実で誰よりも信頼しているパートナーにソラは言った。

 

「カルナさん、喉笛とみぞおちどっちがいい?」

『…………玉天崩がないだけマスターは慈悲深いな。どちらでもお前の気が済むようにしろ』

 

 エアブレイカー主従の再会と対話は、ひとまずソラの怒りと羞恥の腹パンから始まった。

 






「電話」と「魔弾」でわかると思って本文中に書かなかったけど、死の予言の2つ目はシャルナーク、3つ目はパクノダのです。シズクは死の予言から外れて、代わりのノブナガが入りました。


それと、8/28発売のジャンプで、「絶対時間(エンペラータイム)」の誓約はヨークシン編以降の後付けっぽい描写がされましたが、今更修正もなんですし、後付けだったら結局「絶対時間(エンペラータイム)」ものすごいチート能力じゃん!! と思ったので、うちの連載では初めから誓約だった設定でいきます。そんな誓約を付けてしまった理由も、もう説明してあるし。

現在進行形で連載してる作品は、こういう矛盾が生まれちゃうのが難点ですよね。
……しかもHxHは伏線回収があらゆる意味でいつになんねん? っていう作品ですし。

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