何か変な夢を見た。
俺が誰かのため、剣を抜く夢だ。
泣き叫び、心を打つ声すら無視して駆け抜ける。
杏子の鳴き声がした。
さやかちゃんの涙を見た。
金髪の少女の嘆きを聞いた。
ピンク髪の少女の叫びが木霊した。
黒髪の少女の絶望を知った。
それぞれの苦悩があった。
そして、それを変わらぬすまし顔で見ている全ての元凶であるインキュベーダーがいた。
それぞれが心に傷を負っていた。
俺は多くの人を救うために彼女たちを切り捨てたのだ。
それにはインキュベーダーの滅亡のためのレクイエムとするために。
その呪いと憎悪を背負って。
何て、何て悪趣味な人形遊びだろうか?
おかげで目覚めが悪い。
時計を見てみる。2時半。縁起でもない。起きるには早すぎる。
幸い、今日は休みだ。しかも、さやかちゃんと恭介達とのBBQが夜には開催される。
そんな日にこの夢は無いんじゃないかな?
そう思いつつ再びベッドに倒れ込む。
寝ころんだ際に全面ガラス張りのこの部屋の天井から星々が見下ろしてくる。
綺麗だな。
手を伸ばせば一つや二つ取れそうに思い手を伸ばすが、その星に手は届くことは無く、余計に美しく、輝きを増したように見える。
仕方が無いので、俺だけが知っている星座をそっと指でなぞる。
その作業にも飽きて再び眠ろうと目を瞑った時、プシュー、と言う自動ドアが開いた音が聞こえた。
足音は徐々に近くなり、俺のベッドに潜り込んでくる。
「おい、杏子、また夜更かしか?寝るなら自分のベッドで…、!」
言いかけた途中で言葉を止めた。
小さいがしゃくりあげ、嗚咽を漏らす声が聞こえたからだ。
そのまま俺の背中に抱き付いてくる。
前に回された手にはかなりの力が籠められ、微かに震えていた。
背中には温かい二つの感触がした。
それで全てを悟った。
この状態じゃ、抱きしめる事ができないから、代わりに回された手を優しく撫で続けることにした。
此方から問いかける事はあえてしなかった。
すすり泣く声が響く。
「なあ、怖い夢を見たんだ、アスランが居なくなっちまう夢を」
嫌だよ、居なくなんないでよ。
そう何時もの杏子では想像できないほど弱々しい声での懇願であった。
何時もの男勝りな口調が完全に崩れ、女々しい杏子は新鮮だった。
恐らく、家族に捨てられた時の事と俺が夢の中で重なって見えてしまったんだろう。
俺自身、人との付き合いはあまり得意ではない。なので、どうしても不器用になってしまう。
だが、苦しいのは今だけだ。夢を見た今だけ。
それを超えれば、また、優しい世界が待っているから。
「悲しい夢を見たんだな…、もっと泣いて良いんじゃないか?だから泣けるんだと思うから」
ラクスの言葉を使う。キラをなだめた言葉。
それに、子供と言うのは馬鹿をし、怒られ、泣きじゃくって一人前の大人になる。
涙を流す事は最大のストレス発散だと言うしな。後、笑うこと。
涙を流す事の強さを知ってほしい。大人になるとそんなこと全然できないからな。
杏子は声を殺して泣き続けた。
ここなら大声で泣いても大丈夫なんだけどな。
しばらく、腕を撫で続けたら、いつの間にか小さな寝息が聞こえる。小さな小さな寝息が。
ようやく眠ったか。しかし、回された手は未だに強く抱きしめたままだった。
そんなに縋り付かなくてもどこにも行きゃしねーよ。
何て苦笑いで笑う。
今日は少し遅い朝になりそうだ。