ふわふわと漂う様に私はひとり風の流れに身を任せていた。頬を撫でる風が心地良くて、瞳を伏せる。
私がこうしてひとりでいると、私の好きなあのひとはいつも私の元にやってくる。私の考えなんてお見通しとでも言うように、いとも簡単に私の居場所を見つけだす。
バサリと羽音が私の耳を刺激する。
閉じていた瞳を開く。
ほら、やっぱり。そしていつもこう言うんだ。
『こんな所でどうしたの、フラン?』
私とお姉様の言葉が重なる。
クックと私が笑うと、お姉様は憮然とした表情をした。
「そんな顔をしないで、お姉様。機嫌を直してよ」
「それはあなたの返答次第ね」
言葉の代わりにお姉様の頬にキスを一つ。
「……まあいいわ」
そう言ってそっぽを向く単純なお姉様。それにまた小さく笑う。
「それで、何をしていたのかしら?」
「なんとなく月を見たくなったのよ」
見上げると、金色に輝く真ん丸の月。見下ろすと、私が抜け出してきた真っ赤な館。小さなそれはまるでおもちゃみたい。
「そう。で、感想は?」
「つまらない」
私の素直な感想にお姉様は笑う。笑ってから、私を見る。
「それで、本当は何を考えていたの?」
お姉様には全てお見通し。
「お姉様の事」
「こんな所で?」
「こんな所で」
ついでに言うなら、お姉様とふたりっきりになりたかったから。
館の中は、私達が起きている間は誰かが周りにいる。咲夜だったり、美鈴だったり、パチュリーや妖精メイド。
たまにはこうしてお姉様とふたりっきりになりたいと思うのはいけないことかしら?
「お姉様は……」
私と一緒にいるのは嫌?
言い掛けて、私は口を噤む。
「そんなことあるわけ無いじゃない」
「お姉様には何でも分かってしまうのね」
「そんな寂しそうな顔をされて、分からないはずがないわ」
そんな顔をしていたのかしら?
「さあ、そろそろ戻ってふたりで紅茶でも飲みましょう」
差し出された手を、けれど私は取ることをしない。
「フラン?」
「……もう少しここにいちゃ駄目?」
ここで、ふたりだけで。
「……もう少しだけよ」
「うん、ありがとう」
「でも、ただふたりでじっとしているのもつまらないわね」
腕を組んで、お姉様は首を捻る。それからやがて、そうだ、と声をあげると私に手を差し出した。
「な、なに?」
「踊りましょう、フラン」
随分と唐突なものだ。
「こうして夜空の下で踊るのも良いものだと思わない?」
まあそう言うのも悪くないかもしれない。
私は一つ頷く。
「では、一曲いかがでしょうか、レディ?」
「お引き受けいたしますわ、レディ」
芝居がかった口調と仕草で、私達は手のひらを重ねる。
ステージはこの夜空。星々をギャラリーに、そして月明かりをスポットライトに、私達は踊る。
「ねえ、お姉様」
「何かしら、フラン」
ぴったりと身体をくっつけてクルクルと踊りながら話しかける。
「やっぱりなんでもない」
大好き、お姉様。
「……ねえ、フラン」
「なあに、お姉様」
「……大好きよ。これまでも、これからも」
その言葉にジワリと身体が奥から温かくなる。
踊りながらこつんと額をくっつけて、鼻が触れ合うくらいの距離でふたりで笑い合った。
結局、私達は月が沈んで、空が白み始める直前まで踊り続けた。
了
随分と昔に書いたものを少し手直ししたものです。
自身のもう一つの作品の方のお嬢様とは無関係です。