ついに浮気してしまった。
しかもまたしても勢いで書いたので続く可能性低。
だが、煙の騎士のカッコいいところ書くまでは止めぬ!
─────おや、こんなところにお客さんとは珍しいね。
─────それとも、盗人かい? 見ての通り、私はただの老婆さ。抵抗することなんてできやしないよ。人知れず、こんなところで余生を過ごしているような生きた屍さ。
─────ん? 雨宿り? なんだ、それならそうと言っておくれよ。
─────随分とびしょ濡れだねぇ。外は大雨かい。
さ、椅子に掛けて暖炉の火で暖まりな。
お茶はいるかい?少し冷めてるけど、味は保証するよ。私のお気に入りなんだ。
─────ヒェッヒェッヒェ、なに、このぐらいならお安いごようさ。ここにはお前さんのようなものがよく来るからねぇ。こういうのには慣れてるんだよ。
─────さて、少々厚かましいけど、何か話をしてくれないかい? 最近退屈なんだよ、ここには娯楽があまり無いし、お前さんのようなお客さんもなかなか来ないからねぇ。
─────へぇ、国から国へと旅を? なんだい吟遊詩人でもやってるのかい?
─────違う? 旅が好きなだけ? ヒェッヒェッヒェ、そんな理由で旅してるなんて変わっているねぇ。
─────ああ、馬鹿にしてる訳じゃあないよ。お前さん以外にもそう言っていた子達に何度か会ってるしね。ただ、ちょっとした運命的なのを感じたのさ。何でか、この家に寄っていくのはそういう連中が多いからねぇ。
─────さて、雨はまだ降っているみたいだね。
おや、雷まで鳴り始めたよ。今夜は嵐かねぇ。
─────それじゃ、この歳よりの暇潰しに付き合ってくれたお礼に一つ、お伽噺をしてやろうかねぇ。なぁに、このお伽噺は一種の伝説みたいなものさ。本当にあったことだから、退屈はさせないよ。
─────そう、それはとある騎士の物語。
かつては英華を極めるも、世界の理と戦の果てに滅んだ国に仕えていた…………反逆者と呼ばれた報われない騎士の物語。
─────長い旅路の果てに着きながらも、そこから更に永き時を旅した騎士の、物語さ…………
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ヴェルスタッドォォォオオォォ!!」
「レェェェイィィィムゥゥゥゥゥ!!」
滝の濁流の如く降り注ぐ雨の中、暗い岩山の開けた場所で二人の男が激しい死闘を繰り広げていた。
方や黒い鳥を模した細身の鎧に、大きく翼を広げた鳥の紋章のある大盾と長剣を持った騎士レイム。
もう一方は重厚な鎧に錨の様な兜、鐘を模した大槌を奮う騎士ヴェルスタッド。
二人は、ヴァンクラット王が治める王国ドラングレイグに大きく名を轟かせ、『王の双腕』と呼ばれるにまで至った王の側近でもあった。どちらも、王に強固な忠誠を捧げていた騎士であった上に、同じ仕事仲間としても良き親友としてでも固い信頼を築き上げていたのにも関わらず、二人は激しい攻防を繰り広げ、互いに争っていた。
「何故だ……何故王の命に従わぬ、何故王にたてつくのだ!」
「あの様な愚かで臆病な男が王を名乗ることが間違っていたからだ!」
ヴェルスタッドと呼ばれた騎士が大槌を大きく振りかぶってレイムと呼ばれた騎士に叩きつけようする。そしてそれをレイムは手に持つ大盾で滑らせるように滑らかに受け流した。
「王妃は危険だ!あの女は人間ではない!人を破滅へ導く魔物だ!!ましてやそれを知っておきながらも言いなりになった男など、愚かでしかない他に何がある!!!」
レイムはそう叫ぶと細身の長剣で袈裟斬りを放つもヴェルスタッドの持つ大槌の柄で受け止められる。
「貴様!ヴァンクラット王のみならず王妃までも侮辱するか!!」
「それが真実だ!いい加減に目を覚ませヴェルスタッド!貴様が王に捧げているのは忠誠等ではない、妄目的な狂信だ!!」
「貴様ァ!!」
レイムの言葉にヴェルスタッドは我を忘れて大槌を振り回す。その剛腕から繰り出される一撃は大地に大きな罅を入れるのみならず、余波だけでもレイムを怯ませる衝撃波を放った。
それをレイムは時には盾を、時には軽やかにステップを繰り返すことで避け、反撃に長剣で突きや斬撃を放つが、ヴェルスタッドはそれら全てを大槌によって防ぎ、大槌でレイムの胴体を凪ぎ払おうとする。しかしレイムは盾を使って大槌の軌道を逸らし、ヴェルスタッドの胴体へ大盾を叩きつけることでヴェルスタッドを怯ませると、長剣で鎧の少しでも薄いところを穿つように刺突を放つ。
堅牢な鎧を剣が貫いてヴェルスタッドの極限まで鍛え上げられた肉体に大きく突き刺さり、熱い鮮血を流させる。常人であればそこで死んでいただろう。だがヴェルスタッドは倒れる事はなく、空いた片手で無理矢理レイムの大盾による守りをこじ開けると地を削るようにして下から上へと大槌を振るう。
レイムはなんとか直撃は避けるも、大盾を挟まなかったことで、ヴェルスタッドの桁外れの膂力から放たれる衝撃波をもろにくらってしまい、大きく後ろへ吹き飛ばされる。
「もういい………王についで王妃をも侮辱し、あまつさえ我が忠誠をも否定するその愚孝、最早我慢の限界だ。貴様はもう私の友でも、王に仕える騎士でもない。貴様は本物の、完璧な“反逆者”だ!!私が自ら手向けを渡してやる!!!」
「ヴェルスタッド……………」
自身の尊敬し、敬愛している者に対しての数々の暴言。それに加え自身の騎士としての忠誠すらも否定されたヴェルスタッドは凄まじいまでの憎悪をレイムへぶつけた。その瞳は怒りに満ち、口は固く食い縛られた。
そして、彼を
「これからは一切の加減もせぬ。覚悟を決めろ。」
そうヴェルスタッドがそう発するのと同時に掲げた鐘を模した大槌から眩い光が放たれた。その光は味方を鼓舞し、その力を上げるのに加えてヴェルスタッド自身の力をも大きく上昇させる奇跡の光だった。かつて、共に戦場を駆け巡っていた時には幾度も浴びた様々な恩恵を与える光だが、明確に敵と見なされたレイムにはかつての恩恵は与えられることはなく、今では射殺さんとばかりの激しい敵意と殺意の視線が向けられていた。
ここで一旦話は逸れるが、ヴェルスタッドは王国で最も腕力に優れる男だ。その怪力は他から一線を超え、素手で獣人騎士やゴーレムを一方的に殴殺することが可能な程である。
それに比べレイムは、同じように他からは一線を超える程度の腕力こそはあるが、ヴェルスタッドの前では大人と子供程に差が開いていた。だが、レイムはそれに変わり、王国で最も洗練された優れた技巧の持ち主でもあった。その技術は変幻自在であり、長剣と大盾から繰り出される止まることの無い連撃はあらゆる猛者を葬ってきた。
閑話休題。
奇跡を使って自身の力を大幅に底上げしたヴェルスタッド。幾度もその光の恩恵を受けてきたレイムは、だからこそどれだけヴェルスタッドの脅威度が上がっているのかがよくわかった。
そしてレイムは自身の持っていた大盾を投げ捨て、両手に固く握り締めた愛剣を構える。それは、今のヴェルスタッドの一撃は、例え自身の愛用してきた頑強な大盾であろうと盾である意味を無くすのは必然。更に、ヴェルスタッドの底尽きぬスタミナから繰り出される重い攻撃の数々を完全に防げるとは思っていなかったからだ。
ならば、とレイムは俊敏な動きを妨げる大盾を捨て、身軽さを重視する。
ヴェルスタッドの攻撃は当たれば必殺の威力を誇るが、逆に言えば当たらなければその重い一撃は隙を晒す絶好の機会とも言える。
そして二人の騎士がお互いに構えたまま互いの出方を窺っていた時、一羽の黒い鳥が二人の近場にあった木の枝に止まった。
黒い鳥はまるで二人の騎士の闘いを見守る観客のように二人の騎士の姿をその目に捉え、甲高くもどこか掠れた声で鳴いた。
その鳴き声を切欠に、二人は同時に地面を強く蹴り、互いの間合いに一瞬で入る。
先手はレイムだった。
ヴェルスタッドの攻撃は大槌を大きく振りかぶってからの重く鋭い一撃が特徴だが、それ故にその攻撃前には隙ができる。その隙をレイムが突いた。強く踏み込み、手に握った長剣をヴェルスタッドへと突きだす。
だが、それを予測できぬ程ヴェルスタッドは無能では無い。身体を僅かに捩ることで長剣の切っ先を変え、結果としてレイムの突きはヴェルスタッドの鎧を掠めただけに止まる。そして、攻撃後の隙ができたレイムへ大きく振りかぶっていた大槌を降り下ろす。
「ぐぅっ!!」
咄嗟に地面を強く蹴飛ばして回転しながらも宙へと身を投げることでその一撃無比の攻撃を紙一重で避ける。当たるべき目標に当たらなかった大槌はそのまま地へと叩き込まれ小さなクレーターを作った。
「く、この脳筋め………」
当たれば大ダメージを免れないあまりの威力に、レイムが思わず悪態をついた。
ふと、脳裏に『王の双腕』時に力のヴェルスタッド、技のレイムと呼ばれていたことを思いだした。尤も、ヴァンクラット王は怪力を誇ったヴェルスタッドを好んでいたが…………王も脳筋だったのか?いや、絶対そうに違いない。等と、そんな事を考えている内にもヴェルスタッドは問答無用で大槌による乱撃を繰り出し、レイムはそれを皮一枚で避けて反撃を繰り返す。
「フン!!」
「ウオゥ!?」
ヴェルスタッドの大槌が光を纏い、それを大きく横へ凪ぎ払うと同時に大槌から無数の白く輝く雷球が放射線状に射出される。
一発辺りの規模こそは握り拳大とやや小さいが、それでも威力は十分。当たれば相当なダメージを受けるのは間違い無いだろう。放射線状に放たれたのもあって地味に避け辛い。なんとか屈んで避けるも、頭上に影が射したらと思ったら再び大槌の一撃。これだけでもかなり戦い辛いのにも関わらず、今度は大槌を掲げて天より雷撃を落としてくる。
圧倒的物理攻撃力に付け加え、それを更に奇跡の力で底上げした上で高威力の雷球をバラ撒くまたは強力な雷を雨の様に落としてくる等と、そんな(えげつない)技ができるのはこの男ぐらいなものであろう。
そんなヴェルスタッドに対し、レイムはその攻撃を避け、或いはギリギリで掠らせてはお返しと剣による斬撃と刺突を放ち、しまいには殴る蹴る等で着実にダメージを与えていく。
それからも二人の死闘は続いた。雨はますます勢いを強くし、風は激しい暴風となって二人に吹きつける。雨雲はやがて雷を伴うようになり、二人の騎士の激闘を彩るように雷鳴が響き渡った。
そして、二人の騎士はその闘いの最中、獰猛な笑みを浮かべていた。
───ああ、ここまで自身の力を出し尽くし、本気で武器を奮える機会がそうそうあろうか。王の双腕となった二人の強さは正に無双と大言するのに相応しかった。二人に敵う者などほぼいなく、戦いを挑んでくるのは雑魚ばかり。王の騎士としては失格であろうが、二人の心の奥底に燻った戦士または闘士としての闘争心はそんな憂鬱な日々に飽き飽きしていた。
だが、今は違う。
今、自分達が繰り広げているのは弱者を蹂躙する虐殺劇ではない、自身の命をかけた死闘だ。
二人の騎士の武器が鍔迫り合う。ヴェルスタッドは力で押し込もうとし、レイムはそれを技によって一方的に加えられる力を分散させることで相殺する。
ああ、いつ死ぬか分からない緊張感。
なかなか攻めきれないジレンマ。
そして、疲弊を訴える肉体に反してますます昂っていくこの闘争心!この高揚感!!
それらはかつて、まだ二人が名も知れぬ若き弱兵だった頃に幾度となく味わったこの気持ちの数々。だが、今となっては全く感じることが無くなっていた感情でもあった。
「オォォォォオオォォオオオ!!!!」
「ハァァァァァァアアァアア!!!!」
そうして、長い刻を二人は切り結び続けた。
互いに肉体の疲労はピークに達し、もう武器を握るのですら一苦労なのにも関わらず二人は心全体を占める闘争本能に従って死闘を繰り広げ続けていった。
しかし、最早、闘いがどちらかが先に疲労によって倒れるかの我慢比べとなりつつある中、その闘いの終わりはあっさりと訪れた。
「何っ!?」
レイムが攻撃のために強く踏み込んだ大地が砕けた。それはまだいい。問題なのはそこが断崖絶壁の谷であったことだった。
「!? レイム!!」
「なっ!? ヴェルスタッド!!?」
太陽の光さえ届かぬ深い谷の奈落の底へ落ちる寸前だったレイムの空いた腕を掴んだのは、今しがた死闘を繰り広げていたヴェルスタッド自身だった。
「何故掴んだ!私は敵だぞ!」
「黙れ!いいから早く這い上がれ!これ以上は持たん!」
元より、二人は中の良い戦友であり、親友でもあった。意見や思想の違いからお互いに決別し、敵対したとしても、それまでの思い、友情をあっさりと捨て、完全に割り切る等とヴェルスタッドはできなかった。
既に満身創痍な肉体に鞭を打ち、なんとかレイムを引き上げようとするヴェルスタッド。そんなヴェルスタッドの様子に、レイムも悲鳴を上げる身体でなんとか絶壁を這い上がろうとしたその時─────
“いけませんねぇ、邪魔物はちゃんと排除しなければ…………………”
ふと、脳内に直接響き渡るかのような女性の声。それは子を安心させるかのような優しく、甘美な声であり────
────嫌悪感と忌避感を抱かさせるおぞましい声だった。
シュルル、とレイムの四肢に奈落の底より伸ばされた黒い、濃密な闇を塗り固めたかのような触手が巻き付いた。
「な、これは!?」
「レイム!早く登れ!!」
唐突な出来事に、驚愕を隠しきれないレイムにヴェルスタッドが咄嗟に呼び掛けた。
だが──────
「王妃、デュナシャンドラ……………貴様…」
ふとレイムの脳裏に浮かんだこの国の王妃、美しき皮を被ったおぞましき異形。
そして、その名を口にした瞬間、触手の力は一層強くなり、ズルッと二人の手は離れた。
「レェェェェェェイムゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
絶叫を上げるかのように自身の名を叫んだ
───すまない、と一言だけを言って、深淵の如き闇の中に、レイムは消えていった……………
────枝に止まった黒い鳥は、雷に打たれて息絶えていた───
『ヴェルスタッドの謎の強化』
・元は奇跡の力が備わっていたって言うので、気が付いたらこんな風に………
『脳筋じゃないレイム』
・煙の騎士になる前のレイム。煙の騎士時よりも若干一回り小さく、意外と某型月の農民タイプ
『さすが王妃汚い!』
・自分を危険視していたのを危険視した。後の反逆者の称号は全てこいつの謀略と王のヘタレ度。