煙物語   作:Mr.フレッシュ

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遅れました。
まあ浮気とか読み専になってたせいですけどね。


第一話『煤ニ導カレ煙トナル』

 

 

 

 

 

 

 

 

───落ちて、落ちて、堕ち続ける。

 

 

 

深き闇の中を、海の底へ沈む穴の空いた船の様にどこまでもどこまでも、底の見えぬ闇の中をただ延々と堕ちていく。

 

 

 

堕ちていくにつれ、少しずつ消えていく『ナニか』

 

 

 

それが何だったのかも分からず、ただひたすらに堕ちていく。

 

 

 

何時まで経っても辿り着くことの無い闇の中をただただ落ちて堕ちて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────堕チテ逝ク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

切り立った岩山の上にそびえ立つ巨大な城。

それは人ならぬ者、『巨人』の力によって建てられた『ヴァンクラッド』王の居城。

豪華絢爛に装飾されつつも城本来の機能を一切失っていないその城の城内は今、混乱によって満ちていた。

城内に居た一般的な兵士から上級兵の間にまで広がる『王の双腕』と呼ばれた騎士レイムの反逆事件。唐突に告げられたその大事件は瞬く間に城内に広まり、多くの兵士達の話題の元になっていた。

 

 

一方、兵士達の喧騒で騒がしい城内の中で一ヶ所だけ、沈黙に満ちた場があった。そこは王の謁見の間であり、その場には戦いから帰還したヴェルスタッドと、ドラングレイグの王ヴァンクラッドの姿があった。

 

 

「───して、ヴェルスタッドよ。レイムは死んでしまったのか?」

 

「はっ、正確には谷へと落ちましたが、あの高さでは………」

 

「…………そうか。それが真ならば本当に惜しい男を亡くしたな。」

 

 

自分に忠誠を誓った騎士の死にヴァンクラッドは悲壮な表情を隠しきれず、顔を顰めた。

 

 

「───王よ、一つお尋ねしたい事があります。」

 

 

何処か、いつも以上に真剣味を帯びた顔つきのヴェルスタッドの様子にヴァンクラッドが首を傾げる。

 

 

「構わん。何なりと申せ。」

 

「では、王妃様は今どちらへ?」

 

「……………私室に居る。なにか用でもあったか?」

 

「……………いえ。ただ、体調に御変わりはないかと。ここ最近雨が止まず、冷え込むようになったので。」

 

「変わりはない。寧ろ生き生きとしているであろう。曰く、晴れの日よりもこう天気が悪い方がデュナには心地よいらしいからな。

─────さて、ヴェルスタッド。今日はもう下がると良い。ここ最近ロクに休息を取っておらぬのだろう?」

 

「確かにそうではありますが………宜しいので?」

 

「うむ。その間のこの身の警護は我が忠臣の一人、ザインに任せよう。だから今はゆっくりと身を休ませると良い。」

 

「お心遣い、痛み入ります。」

 

 

そこで王と騎士の会話は終わった。

ヴェルスタッドはヴァンクラッドに言われた通り、休息を取るべく私室へ向かう。しかし微かに脚を引きずり、大槌を杖代わりに歩くヴェルスタッドの姿にいつもの覇気は無く、さながら敗残兵の様であった。

 

 

無理もない。

王の双腕の一人『黒死鳥』『凶鳥の騎士』とも呼ばれた国内でも最高峰の実力者であるレイムとの死闘。

さらにそこから王城へ戻っての帰還報告。

他の騎士達との会談。

王との謁見。

止めに戦友にして親友でもあった心の許せる同僚が、今では反逆者。

その心中は相当に荒れ果て、失意の底にいることであろう。

 

 

だが、だからこそ今は休息を取り、心身を癒して欲しい。

これからの計画の為(・・・・・・・・・)にも…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかんな。」

 

 

ふと漏れたその呟きは誰に向けて言ったのか。消沈とするヴェルスタッドに対してか、或いは………

 

 

 

 

 

 

 

 

───ヴァンクラッドという男は元は一人の騎士だった。

心身を鍛え、技を磨き、善と誇りを重んじる一人の騎士だった。

その瞳は他の誰よりも情熱の炎を宿し、夢へと向かっていく意志の強さが視てとれた。

 

ヴァンクラッドの夢。それは王になるというものだった。幼い頃親に聞かされたお伽噺に出てくるような偉大で、誰よりも強く、誰よりも寛容な器を持ち、国民を導いて国に明るい未来をもたらす。そんな王に彼は憧景を抱いていた。

 

 

それから彼は努力した。

あまり裕福とは言えない下級の騎士の家系に生まれたのも有り、その道は困難を極めた。技巧も知力も、一級の教育を受けて育つ上級の騎士には全くもって敵う筈もなく、最初の頃は幾度となく叩き潰されたものだ。唯一、上級の騎士よりも勝っていることが有るとすれば人並み外れた自慢の怪力くらいなものだった。

 

 

だが彼は折れなかった。

技巧が足りないならば実際に戦場へ赴くことで経験を積み、知が足りないというならば高名な学者に教えを乞うた。そうして彼は自身に足りなかった物を手にいれると、次は旅に出た。

 

 

そして長い旅路の果てに彼は王になった。

数多の試練と苦難を乗り越え、四人の偉大なる者達を打ち倒し、幼き頃に夢見た民を導き、その羨望と忠誠を一重に浴びる輝かしき者へとなった。

 

 

 

 

「だが、今ではこの様か。」

 

 

 

 

王になった。国も興した。自身を慕う民も騎士も手に入れた。

だが……………

 

 

「何もかもができずして何が王か……」

 

 

ヴァンクラッドは自身の無能さを嘆いた。

それもその筈、彼は何もできない(・・・・・・)のだから。

王としての器も、王として相応しき力もある。だが、男は何もできない。国が滅ぶのを止められない。数多の命と魂を蝕む闇を止められない。妻と呼んだ異形の謀略を止められない。唯一残った血の繋がった兄をも止められず、終いには自身に固い忠誠を誓った騎士をも救えない。

 

 

「ぐっ……………おおおおおおおぉぉぉおおおぉっっっ!!!!」

 

 

気がつけば、ヴァンクラッドは自身の座っていた椅子や周囲の床を完膚なきまでに素手で破壊していた。

だがそれで彼の激情が収まることはなく、自身の愛剣ルーラーソードを握るとそれをがむしゃらに振り回した。剣を振るう度に発せられる強力な衝撃波が謁見の間を荒らしていく。高価な調度品は粉々に割れ、美しい絵画は無価値なガラクタとなる。

一通り暴れると床に剣を突き刺し、柄に自身の額を擦り付けた。

その姿はさながら救済を求める愚者であり、王としての威厳もへったくれも無かった。

 

 

ただただ腹立たしい。自身の無能さが。

悔しい。己の無力さが。

憎たらしい。王になれたと歓喜のあまりはしゃいでいた当時の自分が。

 

 

 

「我は、私は王になるべきではなかったというのか……」

 

 

そう男は溢した。

気がつけば彼の頬を一筋の雫が伝っていた。

 

 

「すまぬ………本当にすまぬ……………この不甲斐ない愚かな老いぼれを赦してくれレイム…………」

 

 

その晩、人気の無い謁見の間から一人の哀れな王の懺悔の声が止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

暗い暗い闇の中。

 

 

何一つ見えることのない完全な闇の中。

 

 

眩い輝きを放ち、世界を照らす太陽の光すらも届かぬ深き闇の中、動く者があった。

 

 

「此所は…………?」

 

 

常人よりも遥かに高い背丈に、細身ながらも長い鍛練によって引き締められた筋肉。全身を覆う細かな装飾が施された特徴的な黒い鎧。手に握られているのは一目で業物と分かるほどに鍛え上げられた長剣。人が視たのなら間違いなく騎士だと確信するだろう。

 

だが異常である。

この光無き闇の世界において、この生命無き虚ろな世界において命ある者が居るなどと尋常ではない。ましてや、常人では発狂しかけないこの世界において今だに人の言葉を話せるなどと異常でしかない他に何があるというのだ。

 

 

何もかもが異常な騎士はフラフラと闇の中を宛もなくさ迷い歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワタシは…………誰だ………」

 

 

 

その呟きは果てしない闇の世界にどこまでも重く響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────騎士は気がつけばここに居た。

 

 

何も見えぬ闇の中で自分が仰向けに倒れていることに男は気がついた。

まず最初に騎士が感じたのは、長年持っていたものを丸々なくしたかのような喪失感だった。心に大きな穴が空いたかのような嫌な気分だった。

次に感じたのは疑問だった。ここは何処なのか?何故自分は此処にいるのか、それすらも男には分からなかった。

最後に感じたのは孤独感だった。深い闇の中、そこに居るのは自分のみ、その事実に騎士は絶え間ない孤独に苛まされた。

 

 

騎士そういった思考から逃れるかのように此所が何処なのかを調べた。

手始めに地面に触れると感触はどこか柔らかいようで硬いという不思議なもの。捉えようによっては気持ち悪いとも言えるかもしれない。

次に周囲を歩いてみた。この光のない暗闇は何処まで続いているのかと。この闇に終わりはあるのかと。だが、幾ら歩こうとも終わりが来ることはなく、ただ延々と闇の空間が広がっているだけであった。

 

 

「なんなんだ………ここは」

 

 

途方に暮れた騎士の声に応える者はいない。

 

 

 

 

そして、何処までも続く闇の中、騎士は宙に舞う焔と煤を見つけた。どこかおぞましく、禍々しくも、確かな温かさを、まるで母の様な温

ぬく

もりを持ったソレを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────“彼女”はずっと孤独だった。

 

 

生まれ落ちたその日より“彼女”は孤独だった。

名付けの親も、語り合える友もなく、彼女は常に孤独だった。

その孤独を紛らわす為に、世界各地に自身の目の代わりに自身の象徴でもある煤を風に乗せ、世界各地を眺めていた時だった。

彼女はついに見つけることができた。膨大な魂

ソウル

を持ちながらも孤独な存在を。

彼女は喜んだ。深い闇の中で自身と同じ孤独である騎士の存在を見つけられたことに。これで孤独から抜け出せると。

だから彼女はその騎士を自身の元まで呼ぶことに決めた。本当は此方から彼の元へ行きたかったが、寄り添う者の無い彼女にはそれほど大きな力は無く、今の状態では脚を動かすことすらできない。だが、騎士を自身の本体の元まで導くことくらいはできる。

後は騎士が頷けばいい。

 

 

「…………ワカッタ。」

 

 

騎士は随分あっさりと頷いた。元より騎士は全てを喪っていたのだ。何か惜しむようなものなど無かった。敢えていうならこの孤独な闇の中から一刻も早く抜け出したかったことくらいだろうか。

騎士が頷いたことが嬉しかったのか、煤が周りをクルクルと回った。

 

 

 

 

────騎士は煤に導かれように闇の中をただひたすらに歩いていった。

 

 

その虚ろな瞳に煤と火の粉を映し、まるでそれ以外は視えていないかの様に騎士は闇の中を歩いていった。

 

 

 

 

───そして……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか………ワタシを呼んでいたのはお前だったのか。」

 

 

「─────」

 

 

「一人は嫌か………ワタシも嫌さ。だから言わせてもらおう。ワタシを呼んでくれてありがとう。」

 

 

「─────!!」

 

 

「そうか、お前も嬉しいのか。

────一々お前と言うのは少し悪いな。何か名前はないか?」

 

「───」

 

「“ナドラ”………か。良い名前じゃないか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

─────こうして騎士は煙になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





『ヴァンクラッド』
・詰んでる。
・実はこれでも凄い努力の人。
・弱点は精神攻撃。
・ストレスマッハで胃痛に悩まされる。

『ヴェルスタッド』
・王妃怪しいと思って独自に調査開始。
・カッとなって後で冷静になるタイプ。

『デュナシャンドラ』
・アリバイは既に出来ていた。
・いとも容易く行われるえげつない行為。
・さすが王妃。

『レイム』
・記憶喪失。
・脳筋伝説が今、始まる

『ナドラ』
・ボッチ。
・某スキマ妖怪並みの情報収集力。


難産だった…………(自爆)
レイムは記憶喪失という設定です。また彼が居た場所は深淵ではなく、『深淵に似た違う場所』という設定です。

ちなみに、よく引きニートとかヘタレとか言われるヴァンクラッド王。何気にこの人功績だけは滅茶苦茶凄いんですよね。巨人の共鳴をゲットできてたらこの人が薪の王(?)になってる筈でしたし。私的には『頑張って頑張って超頑張って最後の最後でミスって心折れた人』だと思っています。
例えるなら、古の竜のHPをあと300ちょいまで減らしてこれで最後だ!と思ったら足で潰されて死んだ。みたいな感じですかね。

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