IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第10話

 

「この間は本当にすまなかった」

「いやいや、だから俺は気にしてないし、そんな畏まらなくても」

 

開口一番ラウラはそう切り出した。

シャルロットが女の子と皆に判明してから、彼女は部屋を移動して今はラウラと同室。

猛の部屋には、今までと同じ楯無が戻ってくることになった。

一夏君と一緒になるのも悪くないんだけど、猛君が甲斐甲斐しくお世話してくれるのがクセになってとは本人の言。

世話といっても、時折お茶を淹れてあげるくらいのことなのだが。

そして話がしたいとラウラに誘われて、猛は食堂のテーブル席に彼女と共に座って会話をしている。

 

「……本当に怒ってないのか?」

「そりゃあ、あの時はついかっとなってしまったけど、その後普通に会話したでしょ?

 一夏も多分同じ風に言ったんじゃないかな」

「……あ、ありがとう。け、けれど頭を撫でるのは止めてくれないか」

「ああ、ごめん。撫でやすい位置にあったから」

 

無意識にラウラの頭を撫でてしまって、顔を赤らめて俯いている。

 

「ところで、最初に私のレーゲンのレールガンを切り裂いたあれは何だ? 教官もかつて同じような事をしたが

 あれほど綺麗に切断できた者など他に居ないんだが」

「あー、あれかぁ……。とりあえず、怒らないで聞いてほしいかな」

 

そういうとラウラの前に表示枠を浮かべて、十束の詳細を見せる。

 

「あの刀は普段使う分には、切れ味のいい頑丈な刀なんだけど、黒い光を纏わせてただろ?

 その状態で物を切ると、分子崩壊を引き起こして切断するんだ」

「つまり?」

「基本的に切れないものが無くなる。空間くらいかな無理なのは。

 ……あの状態で少し刃を動かしてたらラウラの首がポロリしたかも」

 

急にぷるぷる震えだしたラウラは涙を浮かべて、ぽかぽかと猛の肩を叩き始めた。

 

「き、貴様……! なんてもので、なんてものであんなことを!」

「ご、ごめんごめん! 大丈夫、結構危ない代物って分かったし、出力調整とかで切れ味抑えること出来るようになったから!」

「むぅ……お兄ちゃんは時折考え無しで酷いことをやってのける。痺れも憧れもしないが」

「……お兄ちゃん? 誰が?」

「ん? 猛のことだが。クラリッサが言っていたぞ? 自分を守ったり、間違いを正し、支えてくれたり相談にのってくれる

 頼りになる男性のことをお兄ちゃんって呼ぶと」

「……その人、日本のある文化にどっぷり浸かってるね。ただ一つ訂正があるぞラウラ」

「何だ?」

 

猛はピッと人差し指を立てて軽く微笑む。

 

「歳が近い場合、兄さんって呼ばれた方が好む人も居るってことだ」

「おお! 流石は兄さんだ、博識だな!」

「…………何言ってるのさ、猛」

 

呆れ顔でやってきて自然に猛の隣に座るシャルロット。

 

「少し引いてる気がするが、シャル。俺は一応家族内では兄の役目が多かったぞ」

「え? ああ、そっか。猛は施設の出だったね」

「ところでどうしたの? 何か用があって来たんじゃないの?」

「ああ、そうだった。今度臨海学校で海に行くじゃない? その時に使う水着を見たくてさ、一緒に来てほしいんだ」

「そういうことか。うんいいよ」

「よ、よかった……。そ、それじゃあ今度の日曜日にレゾナンスに行こうね」

 

ほっと溜息をついて嬉しそうな笑顔をうかべるシャルロット。同じようにニコニコしている猛だが

これはもしかしたら、デートなのではないかと気づいてからは気恥ずかしげに頬を赤らめた。

何とも甘酸っぱい空気が展開されている中、ラウラは私も嫁を誘うべきなのか? クラリッサに相談してみるかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

日曜の朝、駅前の噴水の前で猛、シャルロット、そして鈴が並んでいる。

猛を間に挟むように綺麗で可愛らしい少女が傍に居る風景は両手に花の羨ましい状況だが

彼女らの発する暗黒のオーラによって、その印象は捕まったグレイ宇宙人か、断頭台に輸送中の囚人のよう。

敵意を隠そうともせずに猛の腕を抱きかかえている鈴。

普段の笑顔のはずなのに、重圧を感じるほどの滅紫のオーラを噴き出しているシャルロットが

猛の手に自分の手のひらを重ねて指を絡めている。

 

「……何で鈴がここにいるのかな?」

「ふっ、あたしを出し抜いて二人でデートなんて許さないんだから」

 

猛が駅前で待ち合わせしていたところに、シャルロットがやってきたまではいい。

だがそこで、待ちくたびれたと言わんばかりに後ろから飛びついてきて自然に腕を絡ませてきた鈴。

途端にその場の空気が5度ほど下がった気がした。

にこりと笑ったシャルロットは自然に空いている方の腕にまわって同じく腕を絡めて今の状況に至る。

 

「僕、今日の事誰にも言ってないんだけど」

「あはは、あれだけウキウキ嬉しそうにしてたら何かしらあるって分かるわよ」

「え、えっと喧嘩とかは無しだからね? いがみ合うようなら俺は帰るからね」

 

そんなことするわけないじゃないとにこやかに笑う二人だけど、周囲の気温は下がったままに感じる。

ずるずると引きずられるままに、水着売り場へと連行されていく。

 

始めに展示されている水着を手に取って身体にあてがってどんな風に見えるかを聞いてくる。

普段着ているISスーツがほぼ水着みたいなものなので、二人はレオタード型よりかはビキニ、セパレート型を選ぶ。

実際に試着した姿を見て個人的にはシャルロットには白いビキニに青いパレオを合わせたもの

鈴は動きやすそうなセパレート型でオレンジ色のビキニが似合うと告げる。

 

「ふーん、あんたはこういうのが好みなのね」

「うん、じゃあまずはこれを買うことにするよ」

「あれ? 一着で終わりじゃないの?」

「何言ってるのよ、せっかく買い物に来ているんじゃない。

 もっといいものがあるかもしれないから更に探すのよ」

「お気に入りの一着もいいけど、掘り出し物を探し出すのも楽しいんだよ」

 

猛が好みだと言った水着は確保したまま、新しい水着を探しに散開してしまう二人。

彼女らと一緒なら気にはならなかったがここは女性用水着売り場だ。

一夏のような居るだけで絵になる美青年ならともかく、男一人で手持無沙汰でいると

どうしても周りの女性の視線が気になっていたたまれない。

 

その時、脳髄を駆け抜ける直感が身の危険を知らせ、咄嗟に近くの更衣室に身を隠す。

カーテンの隙間からそっと様子をうかがうと、女尊男卑の悪い部分を増長させた者が周囲の人間に対して自分に傅くよう喚いている。

 

「ふぅ……。やばかった、ただでさえ女性水着売り場に男一人居たら恰好のえじきだしな。よかったよかった」

「よかったじゃないわよ……何してんのよ、猛」

「ん? ……げっ」

 

あやうく大声を出しかけるのを寸でのところで口を押える。

猛の目の前にはちょうど試着を終えて服を着替えかけている下着姿の鈴が顔を真っ赤にして胸を隠している。

 

「ご、ごめんっ! 咄嗟に飛び込んじゃったから、中の確認を怠ってしまって……。

 すぐ出てくから、その後いくらでも怒ってくれていいよ。じゃ」

「ま、待ちなさいよっ!」

 

猛の腕を掴んで放そうとしない鈴。何かを決意した表情になると依然頬を朱に染めたままじっと瞳を見つめてくる。

 

「あたしの着替えを見て、そのまんま逃げ出そうなんて許すわけにはいかないわ」

「だ、だからここから出たらいくらでもお叱りは受けるって」

「ダメよ……罰として、あたしの着替えを目をそらさずにじっと見てなさい……。ちょっとでも逸らしたらグーでイくわよ?」

 

身体を隠していた服をぱさりと落として、ライトグリーンのブラとショーツ姿になる鈴。

恥じらいの表情を浮かべて、どこか艶のある潤んだ瞳が儚い妖精の印象を鈴に与えている。

知れずに唾を飲み込んで彼女のほぼ裸体に近い姿から目が離せない猛。

恐る恐る背後に手を回すと、プチリとホックが外れる音がする。

ゆっくりとブラが下に降りていき、柔らかく張りのありそうな胸の膨らみに薄桜色の先端が――

見えそうなところで誰かに目隠しをされる。

 

「うわわっ!? な、なにごとっ!?」

「はーいそこまでー。これ以上は見せられないかなー」

「なっ!? シ、シャルロット!? あ、あと少しで猛に逆らえない誓約をさせられたのにっ!」

「そんなズルい手なんて認めるわけにはいかないね」

「お風呂で色仕掛けみたいなことしたあんたに言われたくないわよ!」

 

猛を挟み込んでぎゃいぎゃいと言う鈴に、涼しい顔で受け流しているシャルロット。

目を塞がれているので、密着した身体の柔らかさがより強く感じられる。

背中にふかふかで柔らかいクッションのようなものが当てられて、胸板には小さくても張りのある何かがぎゅっと押し付けられている。

更には彼女達の甘いような香りに包まれて、頭がくらくらする。

血が昇ってそのまま失神しかねない状況である意味救いの使者、もしくは地獄の邏卒かもしれない者がサッとカーテンを開けた。

 

「皆さま……? なにをなさってるんですか?」

 

そこには素晴らしい笑顔でこちらを見ているセシリアの姿が。

まるで絶対零度と言わんばかりの酷薄な表情は背筋につららでも突っ込まれたかのように寒気が走る。

 

「鈴さん? いつまでもそのような格好していてはいけませんわ。猛さんにシャルロットさんは今すぐここから出るように」

「イ、イエスマム……」

「着替え終わりましたら、ちょっとお話がございますわ。逃げてはいけませんよ?」

 

もし逃げたなら、どうなるかは想像するに容易い。身なりを整えた鈴を交えて売り場から離れた隅で紳士淑女としての在り方を

滔々と語るセシリアのお説教を仲良く正座しながら三人は反省をすることになった(反省の意を示すにはこれがいいと猛が薦めた)。

 

 

 

 

 

セシリアのお説教が終わり、四人はとりあえず通路のソファーに並んで腰掛ける。

 

「セシリアも臨海学校の水着を買いに?」

「ええ、せっかく一夏さんに素晴らしいこの私の姿を見せるのですから栄えさせるものを探しにまいりましたの。しかし……」

 

ふと言葉を濁して猛の姿を上から下までじっと見つめる。

しっかりおめかししてきたシャルロット、鈴に比べると、決して悪くはないのだろうがどうも見劣りしてしまう。

ちゃんとした有名ブランドに比べれば、庶民の味方の○○クロでは荒が目立ってしまうのは仕方ない。

 

「あの、これはっきり言ってしまっていいのでしょうか?」

「セシリアもそう思うんだ。うん、言っちゃって言っちゃって」

「……地味ですわね」

「うぐ、で、でもちゃんとこういう日のために買った普段着とは違うやつなんだよ?」

「あたしも気軽に買いはしないけど、そこそこ値段張るところでおしゃれ着は買うもの。多分これ1万少しで全部揃うでしょ?」

「だ、だって俺今まで普通の学生だよ? デートの予定とかも無かったし、シャルや鈴、セシリアとじゃどうやっても

 俺が見劣りするのは仕方ないじゃないか」

「それでもきちんと服装を整えたり化粧するだけでもまったく変わるものですわ。とりあえず、こちらに行きましょう」

 

セシリアに手を差し伸べられて若干連れられるようについていく猛。

何だか面白そうな雰囲気になったのを感じたのか少しわくわくしながらシャルと鈴も続く。

 

 

 

「うわぁ……」

「こ、これは……」

「う……まさかここまでのものが仕上がるとは思いませんでしたわ」

 

黒いジャケットにチノパンを合わせて、少し胸元をはだけさせたYシャツ。

本人が露出を控え、服装も体格を隠す風のが多い。

しかし、元々身体つきは細見の頑強で、どこかギリシャの彫像風で筋肉質な胸板が僅かに見えるのがとても情欲的だ。

そして柔和な顔つきを伊達眼鏡でキリッと引き締めているせいで、クールな印象を強めている。

 

「どうかな? 似合ってるかな」

「うん……いい、凄くいい……」

「え、えっと……り、鈴?」

 

ポーっと顔を赤らめてどこかのお土産の牛のようにこくこくとうなづきを繰り返しつつ手をぎゅっと握っている。

真横から今度はシャルロットがどこからか洋服を持ってきて笑顔で猛に渡してくる。

 

「あ、あのシャルロットさん?」

「ふふっ、猛って意外に服装とかで化けるんだね。今度は僕の選んだのを着てくれないかな」

「……俺に拒否権はないですよね」

 

案外押しの強いシャルロットの笑顔を向けられて断れるほどの度胸はないので、とほほと力なく笑みを浮かべて更衣室に入る。

今度は若干明るめの白っぽいサマーセーターにジーンズ。少し白衣っぽいモスグリーンの外套と合わせて

先程とは違う丸みを帯びた眼鏡がより一層彼の普段の柔らかさを強調させている。

ニコニコ顔で腕を組むシャルロットに、今度はあたしの番と言って衣装を探しに行っている鈴と

先程よりもっといいものをと奮起しているセシリア。

どうやらこのまま女の子たちの着せ替え人形になりそうな猛だった。

 

 

 

レゾナンス内の通路を歩く四人。猛の手には三つもの紙袋。

彼女たちが選んでくれた服を全部買う場合、諭吉さんが少なくとも十枚は飛んでいく額。

そんな大金今日は持ち合わせてないと元に戻そうとすると、少女たちはテキパキと各レジに進んで行って会計を済ませてしまった。

 

「今度からはデートの時にはその恰好してきてね」

「うふふ、これからは猛に似合う衣装を探す楽しみが出来たわね」

「え、えっと……その、こ、これは今日私を楽しませてくれたお礼ですわ! 素直に受け取ってくださいまし」

 

そこまで言われて断れる訳もなく一気にカジュアルウェア一式三点が揃ってしまった。

わいわいとファッション考察談義(猛に似合う物の)に花を咲かせている中

猛はふとモール内のアクセサリーショップに目を向ける。

 

「ごめん、皆ちょっと待っててくれるかな」

 

そのショップ内の品をある程度見渡すと、購入するものを決めて会計を済ませて戻ってきた。

 

「これ、今日のお礼な。セシリアにも」

 

鈴には髪を結ぶための白いリボン。セシリアには青い雫型のネックレス。そしてシャルロットには指輪を。

 

「この服に比べたら安いものなんだけど、気に入ってくれるとありがたいかな」

「い、いえ。せっかくの殿方からの贈り物ですわ。大切にいたしますわ」

「ふ、ふーん。猛にしてはいいセンスしてるじゃない。貰っといてあげるわ」

「ありがとうね猛。大切にするよ」

 

女の子たちは顔を朱に染めつつ、貰ったプレゼントを身に着ける。

素材がいいから質素なものですら華を輝かせる。

 

「……ん? そういえば何でシャルロットのだけ指輪?」

「え、あ、その……シャルにはリヴァイヴのネックレスがあるから他に何かいいのはって探してさ、それで」

「ならイヤリングとかがあるじゃない」

「猛には僕の指のサイズ教えてあるんだよ」

「ほぉ……何か聞きださなきゃいけない事がありそうね。しかも薬指って」

「べ、別に問題なんてないと思いますが? セ、セシリア笑ってないで助けて!」

「あら、私も何故猛さんがシャルロットさんの指のサイズ知っているか教えていただきたいですわ」

 

最後に一悶着はあったけれど、結果として今日の買い物は皆の思い出となる楽しい一日となった。


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