IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第23話

あの襲撃事件の後、参考人として取り調べを受けた猛。

外に出たのはもう辺りが薄暗い状態の時刻だった。

学園関係者である織斑先生や山田先生も慌ただしく働いていたのを見てやはり大事だったのだろう。

 

亡国企業の目的は今回も不明、ということで一応の決着はついたらしいが

こう何度も襲撃されているのを見ると、どこまで手が伸びているのか

分からないところに不安を感じる。

 

 

 

街灯付近に自動販売機があるのを見つけて猛はラインナップの中から

いつも飲んでいるお気に入りの紅茶を選ぶ。

蓋を開けて三分の一ほど飲み干してから一息つく。

自販機から少しだけ距離を空けると、明かりが届くかギリギリの位置に人影が見えた。

不意に空気が破裂するような音がして半歩身体をずらしたところ、壁に小さな穴が開いた。

 

「ほぉ……今のをかわすか」

「そりゃあ、さっきから突き刺さるような殺気を当てられてたら嫌でも気づくよ」

 

明かりの中に姿を現した少女。その姿は見覚えがある。いや、かつてあったというべきか。

十五、六歳の容姿の彼女は昔の織斑千冬に瓜二つだった。

 

「今日は世話になったな」

「えーと、エム……でよかったんだっけ?」

「いや、私の本当の名前は――織斑マドカだ」

 

 

 

織斑姉弟には他に血縁は居なかったはず。それなのに三つ子と言われても信じてしまうほどに

千冬に酷似している。……が、然したる動揺も見せず佇んでいる猛。

 

「驚かないんだな」

「いや、ちょっとは驚いた。けれど世界的に有名な千冬さんだもの。よからぬこと考える奴は

 どこにでも居るってことでしょ? ブリュンヒルデのクローンやコピーを作りたいとかさ」

 

まぁ、本とかの受け売りだけどね。と苦笑する猛に片眉を上げる。

そんな彼女に不意に何かを投げつける。

身構えたマドカの手の中に温かいペットボトルの紅茶が。

 

「……なんだこれは?」

「立ち話も何だから、とりあえず奢り。市販品だけど味は保障するよ。

 ああ、毒なんか入ってないし」

 

不機嫌な表情のまま、蓋を開けて中身を飲む。そのまま数秒時が流れる。

 

「おかしな奴だな、貴様は」

「そういうアンタだって、憎悪に任せて襲い掛かってこないじゃん」

「してほしいのか?」

「やってみる?」

 

不敵に笑う猛の片手にはいつの間にか十束が握られている。

昼の戦いと同じようにはならないとは思うが、あの痛烈な攻撃は未だに身体が覚えている。

 

「……自分が自分であるために、私は織斑一夏を殺す。だが、その前に塚本猛。

 姉さんの剣を想わせる貴様を惨殺する。お前を亡き者にして初めて私は姉さんの剣に挑める」

「俺の剣の大本の師は千冬さんなのかもしれないが、今はまったく違うただの我流なんだけど」

「知るか。私がそう思ったからそうするだけだ。それまで誰にも殺されるんじゃないぞ」

 

言いたいことを勝手に言い放ち、マドカは夜の闇に消えていった。

 

「……はぁ。ああいうのをベジータ系女子って言うのかね? デレとか無いことを祈ろう。

 というか自然に挑発しちゃったけど勝ち目なんて無かったよな」

『いえ、今までの戦闘実績を統合し、狭霧神装着中に肉体への調整を入れ

 日頃の訓練の成果もあり、撃退くらいなら私のサポートを含め可能な範囲かと』

「許可してないのに、いつの間にそんなことをしていたのさ……。

 改造人間とかになってたりしないよね?」

『求められる前に最善を尽くしておくのが従者の勤めかと』

「無事か!? 猛!」

 

声のした方に振り向くと一夏とラウラが息を切らせて駆け込んでくる。

 

「発砲音がしたから急いで駆けつけてきたんだが、敵はどこだ!?」

「さっさと消えちゃったよ。それより二人はどうしたんだ」

「いや、俺がみんなの分の飲み物買いに来てたんだけど、その時に襲われて」

「妙な胸騒ぎがして、後を追ったんだが正解だったな」

 

とりあえず一夏を家まで送り届けてからラウラと一緒に寮へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「襲われたぁ!?」

 

次の日の夕方、学食で昨日会った襲撃のことを告げると箒と鈴が大声を張り上げた。

なぜ昨日のうちに告げなかったのかは、一夏が誕生祝いの余韻を無くしたくなかったからだ。

 

「サイレント・ゼフィルスの操縦者か……目的は何なんだろう? 二人は何か思い当たることは?」

「さぁ……俺にはさっぱり」

「ああ、俺には目的を告げていったよ。この首が欲しいんだって」

「はぁ!?」

「何かあれだけズタボロにやられたことが気に食わなかったんだろうさ」

「そんな軽いノリで言われても呆気にとられるだけだよ……」

 

呆れた表情でがっくりと肩を落とすシャルロット。

その後、腕を負傷しているセシリアが一夏にご飯を食べさせてもらっているのに対し

ラウラが焼きもちをやいて、羨ましそうに見つめる箒、シャル、鈴。

 

「ねぇ……もし僕がセシリアみたいに怪我をしたら猛も同じことしてくれる?」

「まぁ、骨折とかして動かせないならやってもいいかな」

「ふーん……」

「おーい鈴? 意味深に腕を見つめるな。わざと怪我したって世話してやらないからな? 箒もな」

「なっ!? そそそ、そんなことするはずなかろう!」

 

 

 

食事を終えて、自室に戻りドアを開ける。

 

「あら♪ おかえりなさい、あ・な・た♪」

 

そこにはエプロン姿の楯無がしなをつくって待っていた。前にも同じようなことがあったなと

ゲンナリする猛。

 

「二度ネタは寒いですよ会長。というか、ちゃんとカギはかけていったはずなんですが」

「ふふふ、会長特権でマスターキーを使わせてもらったの」

「職権乱用ここに極まれりですね。俺一人の時はいいですけど、他の人と一緒にいる時は

 自重してください。箒や鈴をなだめるの大変なんですから」

 

猛は疲れた表情で椅子に座るとテーブルの向かい側に楯無が座る。

 

「それで、要件はなんですか?」

「あら、もっとお姉さんといちゃいちゃしましょう?」

「……ぶぶ漬けでも出しましょうか?」

「いやん、つれない」

 

やれやれ、と諦めつつ一度席を立ち、キッチンで二人分の紅茶を淹れて

楯無の前に差し出しておく。

ごく自然にカップを持つ姿は気品に溢れ、そういう姿は様になるのに……と猛は思う。

 

「……ふぅ、やっぱり猛くんの淹れる紅茶は美味しいわ」

「そう言ってもらえるのはありがたいですね」

「昨日、襲われたそうね。うちの方で警備の人間をつけましょうか?」

「いや、遠慮しておきます。ISもない人では最悪殺される可能性がありますから。

 あ、一夏の方には?」

「一夏くんにも断られちゃったわ。まぁ、彼には別の思惑がある風だったけど」

「要件はそれだけですか」

「あー、もう一つあるんだけどね……」

 

どこか困ったように視線が彷徨う。

今まで見てきた楯無の姿の中でもこんなのは見たことがない。

ようやく決心がついたのか両手を重ねあわせ拝むように猛に頭を下げる。

 

「お願い! 妹をお願いします!」

「……はい?」

 

 

 

 

 

携帯に入っている写真を見せてもらい、概要を聞く。

日本の代表候補生なのだが、専用機を持っていないらしい。

 

「……それは何かのとんちなんですか?」

「そうじゃなくて、原因は一夏くんの白式にあるの」

 

楯無の妹、更識簪の専用機開発を受け持っていたところは倉持技研。

つまり一夏、世界に二人だけの男性パイロットが乗るISに

人員を全て回してしまっているせいで開発は大幅に遅れ未だ完成に至っていないらしい。

 

「それで妹を頼むっていうのはどういうことなんですか」

「キャノンボール・ファストの襲撃事件を踏まえて、各専用機持ちのLVアップをかねて

 今度全学年合同のタッグマッチを行うの。だから、その時簪ちゃんと組んでほしいの!」

「ふむ、なぜ俺に頼むんですか? 別に一夏でもいいと思うんですが」

「一夏くんも悪くないとは思うんだけど、猛くんの方が気配りや心遣いが上手いし

 いざって時のフォローもできるから安心して任せられるから。

 それに、彼のISのせいで開発が遅れているのも簪ちゃんには面白くないと思うし」

 

珍しくしおらしい楯無の姿に振り回されることも多かったが、お世話になっている

先輩の頼みを聞くのも悪くないかと思う。

 

「分かりました。妹さんには俺から誘いをかければいいんですか」

「あ、その時私の名前は絶対に出さないでね。あの子、私に対して……引け目を感じてるの」

 

もごもごと言葉を濁す楯無の姿は同居人の幼馴染を思い出させる。

不仲な姉妹、さまざまな策を講じる姉、反発する妹とどうにも自分の周りの姉妹は

上手く仲良くできないのだろうか……ああ、姉弟も(姉の方)。

 

おもむろにキッチンに向かって冷蔵庫を開けて、とっておいたガトーショコラケーキを

皿に乗せて楯無の前に置く。

 

「どうぞ。疲れている時には甘いものがいいですよ」

「え、でもこれ」

「箒の分は別にとってありますし、自分のはいつでも作れますし。紅茶も淹れなおしてきます」

 

目の前のケーキを一口分切り取って口に運ぶ。程よい甘さにしっかりとしたチョコの風味。

新しく淹れ直された紅茶からはふわりと優しい香りが立ち上っている。

 

「俺には想像もつきませんが、やっぱり会長ってのは大変なんでしょうね。

 人に話すだけでも少しは気持ちが楽になると思うし、俺でよければ愚痴を聞きますよ」

「……もう、そうやっていろんな女の子を口説いているわけ? 悪い子ね」

「そんなつもりはありませんよ。ただ俺が相手を分かりたいってだけでやっているだけです。

 あ、でも仕事ほっぽり出してくるのはだめですからね」

「うう……猛くんが虚みたいなことを言い出したわ……」

 

 

 

 

 

二時限目の休み時間、二年の黛先輩がやってきて一夏と箒に声をかけてきた。

どうやら彼女の姉が雑誌記者として働いていて、二人に独占インタビューをしたいそうだ。

二人はもちろん、猛もほとんど芸能関係に疎くいまいちピンとはこない。

まぁ、あの二人は容姿も綺麗だから写真栄えはするだろうが。

ふと昔にシャルロットがISパイロットはそういう仕事も多く来ると言っていたのを思い出し声をかける。

 

「そう言えば、モデルとかアイドルみたいなこともISパイロットはするって言ってたけど本当?」

「うん、国の代表を担うわけだから。候補生でもそういった類のはいっぱい来るよ」

「はぁー、大変だな。まぁ出自不明の謎機体を使い

 一夏に比べると容姿は下な俺にはそういうのは来ないね。まぁ、そういったのは苦手だしいいけど」

「あ、あはは……」

「ん? だとするとシャルはそういった仕事をしたことがあるってことか? ちょっと見たい」

「何よ、猛は興味あるの? 仕方ないわね、あたしの写真を見せてあげるわ」

「おお、見せて見せて」

 

いつの間にかやって来ていた鈴が端末を操作し、画像を呼び出して差し出してくる。

画面に映っている鈴は見事にカジュアル服を着こなして、素人目に見ても綺麗に感じる。

明るくハツラツとした彼女の良さが生き生きと映し出され、見ていて楽しい。

 

「あ、あの猛、猛。僕のも見てほしいかな」

 

いそいそとシャルロットも端末を取り出し、自分がモデルをした画像を呼び出して差し出してきた。

鈴と比べると、幾分大人しい印象だが普段の彼女の優しさ、親しみやすさを十分に引き出されていて

セシリアが高嶺の花の深窓嬢様なら、傍に一緒に居ると安らげるお姫様のようだ。

さまざまな衣装を着飾っている二人の写真を見て、疑問が湧いたので鈴に聞いてみる。

 

「シャルのは水着を着ているのも結構あったけど、鈴のは無いのか?」

「な……、あんた、それ分かっていってるでしょ?」

「え、何の事……? あ、そうか。いや、ごめん」

「謝るんじゃないわよ、ばかぁ!」

 

顔を赤くして頭をはたく鈴。一応水着姿を撮った写真はあるがシャルロットのと並べて見せる気はない。

プロポーションには自信はあるが、一部の圧倒的物量差を比較されるのは乙女心が……。

 

「そ、それにあんたにはしっかり水着見せてるじゃない。それで満足しなさいよ……。

 どうしてもって言うなら二人きりの時、また着て見せてあげるから」

 

頬を朱に染めて、もじもじとそんなことを呟く鈴にこちらも気恥ずかしくなってしまう。

そんな甘い雰囲気があったのを打ち破る強烈な拳骨。

 

「お前ら、もう授業開始のチャイムは鳴っている。凰はとっとと二組へ戻れ」

 

すごすごと教室から出て行く鈴。一緒に居たシャルロットはちゃっかり自分の席に戻っていた。

少し非難の色が混じった目で見つめると、小さく舌を出してふいっとそっぽを向いてしまった。

 

 

 

四時限目の終了のチャイムが鳴り、昼休みとなって校舎内はにわかに騒がしくなる。

昼食を一緒に食べようと誘ってきたシャルロット、鈴に用事があってまた今度と断りつつ

四組の教室前にまでやってきて入り口付近で雑談している子に声をかける。

 

「あの、すみません」

「あ、猛君だ! この前のお菓子美味しかったよ、また作って持ってきてね!」

「えー、羨ましいなー。うちの部活にも早く貸出こないかなー」

 

部活応援の際に手土産として持参していくスイーツは皆に好評で

好きで作ってはいるが喜ばれることは素直に嬉しい。

 

「ところで四組に何の用で来たの?」

「えっと、更識さんっている?」

 

頭に疑問符を浮かべた子たちが自然に一か所を見つめる。

そこには購買のパンを脇によけて、一心不乱に空中に浮かべた透過ディスプレイを見つめて

キーボードをひたすら叩く少女の姿があった。

お礼を言って、猛は簪の傍に歩み寄る。

 

「更識簪さんだよね。初めまして、塚本猛って言います」

「……知ってます」

 

簪はちらりと視線を向けただけで、すぐ画面の方へ意識を戻しキーボードを叩く指も淀みない。

 

「……要件は?」

「えーっと、今度のタッグマッチを一緒に組んでもらいたくてそのお願いに」

「いや」

「……どうしても?」

「いやよ……。それにあなたは組む相手にだって困らないはず」

 

けんもほろろな対応にどうしたらいいか悩んでしまう。

理由だって楯無に必死にお願いされたからであって、更にはその理由を告げることはできない。

ディスプレイを消して席から立ち上がって入口に向かう簪は、思い切り拒絶の意思を感じさせていた。

手持無沙汰で茫然としていたが、このままいても仕方がない。教室を後にすると不意に襟首を引かれる。

 

「ぐぇっ!?」

「猛……お前こんなところで何をしている?」

 

振り向くと、箒、鈴、シャルロットが思い切り睨んでいた。

 

「お前の姿がちらりと見えて妙に気になったから後を付けてみたんだが」

「用事って他の女に声をかけることだったのね……」

「ひどいや猛……、僕を放っておいてそんなことしてるなんて」

 

怒りの色を見せる箒と鈴に対して、よよよと堂に入った泣き真似をするシャルロット。

こうなった三人には何を言っても聞く耳を持ってはくれない。

 

「あはは……、こ、これには深いわけがあってね。……ん、待って待って。あれ、なに?」

 

困り顔で三人の圧迫をいなしていたが、不意に気の抜けた顔で横に指を挿す。

つい視線を向けてしまったが、その先には何もない。顔を元に戻すとあの一瞬で猛は姿を消していた。

 

「あんにゃろぉぉ~!」

「逃がすな! 追え!!」

 

大声をあげて三人は走りだしていった。

 

 

 

 

「前途多難だなぁ……」

 

窓枠に指をかけて、外壁にやもりのように貼りついていた猛は一人呟くのだった。


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