IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス
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第24話

「はぁ……どうしたらいいんだろ」

四組で話しかけてから、何とかしてコミュニケーションをとろうとしても
言葉数少なくすぐにその場を離れて行ってしまう簪。
彼女の興味があるものを知ることが出来るのならそこから話題を繋ぐこともできるが
向こうが相手をしようとせず、居なくなってしまうのではどうすることもできない。
自室の椅子に背をあずけてぐったりしていると、不意に誰かが覗き込んできた。

「お疲れみたいね」
「ああ、楯無さん……いらっしゃい」
「今日は私がお菓子とお茶を用意したから猛くんはそのままでいて」

シュークリームと紅茶を用意し、テーブルの上に並べていく。
温かな湯気が立つ紅茶を一口すすり、煮詰まっていた気持ちが幾分か和らぐ。

「結構苦戦しているみたいね」
「ええ、まぁ。話すことが出来るなら何とかしたいんですが、イヤの一点張りで
 すぐに立ち去ってしまっては……。簪さんは何故一人で専用機を組み上げようとしているんですか?」
 
IS整備室でただ一人黙々と作業に打ち込んでいる姿や初めて会った時でさえ
彼女はずっとプログラムを組み続けていた。
そこには頑なな拒絶の雰囲気を纏って孤立してもいいと言葉無く周囲に告げていた。

「簪ちゃん、私が一人で専用機組み上げちゃったのを意識しちゃってるのよ。そんなの気にしなくていいのに」
「え……楯無さん、あの機体自分で組んだんですか」
「けど七割方完成したからできたんだけど。それでも薫子ちゃんや虚ちゃんに意見を貰ったり
 手伝ってもらったから」
「ん? それはどういうことで」
「ああ、二人とも整備課に居て、三年主席と二年のエースなのよ」

整備の専門家ならそういった芸当もできると言うことなのだろう。

「猛くんの機体は……ほぼ言うことないのよね。いきなりの無茶な行動すら可能なくらいに調整されきってるし」
『常日頃からメンテナンス、調整、自己再生は怠っておりませんから』

そのついでに本人の知らぬところで人体改造は止めてほしいのだが。

「一夏くんみたいにラッキースケベでも狙ってみたらどう? お尻とか胸とか触っちゃったり」
「それこそ次会った時にゴミを見るような目で避けられるだけじゃないですか」
「ファーストキスから始まる物語だってあるじゃない」
「俺は伝説の使い魔じゃないです。それに俺は初めてじゃないし」
「あら、じゃあ猛くんの初めてのお相手は誰かしら?」
「この話はここで終了ですね」

だが、楯無と気兼ねない話をして少しは気を持ちなおせたのは事実だ。
タッグパートナとなることに念を押すのと同時に機体開発を手伝ってあげれば
進展するのではないかと気軽に言って楯無は去っていった。
残された紅茶とシュークリームを見て、口に運ぼうとしたが妙に胸騒ぎがする。
中のクリームを指に取り舐めてみると鼻に抜ける刺激的な味が。
シューの中にカスタードではなくマスタードが詰められていたが
からしではないだけ良い……と思いたい。

「むー! 猛くんってそういうとこノリ悪いのよね」
「いいから帰ってください」

ドアを少しだけ開けてこちらを覗きこんでいた楯無にひらひらと手を振るのだった。







今朝、妙に気合いが入ってそわそわしている箒に少し疑問を感じていたが決心したように彼女は告げる。

「き、今日は雑誌の取材を受けに行くのだが……そ、その、ゆ、夕食を一緒に食べないか!?」
「えーと、特にこれと言った用事もないし。うん、いいよ」
「そ、そうか! じゃあ、駅前で待ち合わせしよう。私は取材に行ってくる!」

まるで犬の尻尾のように箒のポニテはぶんぶんと揺れて、かばんを掴むと颯爽と部屋から出て行った。



その日の夕方、駅前で箒を待っていると早歩きでこちらに向ってくる彼女を見つけた。
普段着ることのない、大胆に胸元が開けられたブラウスにフリルが可愛い黒のミニスカート
ショート丈のジーンズアウターとパッと見ると箒とは気づきにくく、つい見とれてしまう。

「た、猛……? どうしたのだ、あまり似合っていないのか?」
「え……、あ、いやいや、そうじゃないよ。ただ結構似合っているなって思ってつい見とれて」
「そ、そうか。似合っているか」
「それ、取材で使った衣装なの?」
「ああ、お前にも見せてやりたいと思ってそのまま急いで来たのだ」
「だからか。箒、普段化粧とかあまりしないけどちゃんとメイクすると可愛くなるんだ」
「ばばば、馬鹿者! いきなり何を言うんだ! さ、さぁもう行くぞ!」

顔を真っ赤にして猛の手を握ると先導しつつ歩き始める。
クラスメートから借りた雑誌の『カップルがデートで行くお店ベストテン』という記事を読み込み
おすすめの店へ向かう道筋を立てながら時折、頬が緩んでいるのを
見られていないか後ろをちらちらと気にしていた。



日曜日のディナータイムということもあり、雑誌に取り上げられていた店だ。
現在満席で待ち時間二時間という状況にがっくりきてしまう箒。

「どうする? このまま待つの?」
「い、いや! ちょっと待ってくれ、今どうしようか考えている!」

せっかく猛と二人きりでデート中なのだ。このまま終わりたくはない。
しかし他に知っている店となるとファミレスにラーメン屋と今の雰囲気にはそぐわない。
雑誌の内容を必死に思い出し、悩んでいる箒の肩を軽く叩く猛。

「だったらさ、俺の知っている店でもいいか? ここから少し離れたところだからちょっと歩くけど」
「あ、ああ……任せる」

今度は猛が箒を先導しながら歩き始める。オフィスビル群の中の小さな一角。
赤レンガの外壁に赴きのある木の扉がついたレストランへとやってきた二人。
ドアを開けると戸に付いていたベルがカランカランと心地よい音を立てる。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

ウェイトレスに案内されて二人は席につく。レストラン街からは離れているが
夕飯時ということで八割はテーブルが埋まっていて結構な人気を要している。
落ち着いた橙色の照明と、穏やかなBGMがこの店によく似合っている。

「時折ここに来たりするんだけど、ファミレスやラーメンとかよりもいいかなって。
 それよりもそっちの方がよかった?」
「いや、こちらの方がいいな。……意外だな、猛がこんなところを知っているなんて」

注文を聞きに来た給仕に猛はハンバーグステーキセット、箒はミートソースを頼む。
料理が来るまで一息つくことになり、もう一度箒のことをまじまじと見つめる。

「うん、こうしてしっかり見るとやっぱり雰囲気違うな。
 たまにはちゃんとおしゃれするといいんじゃないか。シャルや鈴はこういうこと経験しているらしいし
 メイクとかそういうの教えてもらうとか」
「……デート中に他の女のことを話題に出すのはNGだと思うぞ」
「あー、ごめん。しかし、普段からずっと一緒にいるから世間話ってのもな」
「そうか? 私はいろいろ話したいぞ。たとえば……」

他愛のない話をする箒に相槌を返し、彼女のころころと変わる表情を見ていると
だんだんと猛の方も饒舌になり和やかに会話を楽しむ。
ちょうど話題の途切れた所に注文の品がやってきたので、料理に口をつける。
箒のミートソースはトマトと肉の旨味がぎゅっと凝縮されて、濃厚な風味が口の中に広がる。
食べ盛りな男子に嬉しいずっしりとしたステーキにハンバークをご飯と一緒に頬張る猛。
元々考えていたデートコースとは違ってしまったが、それでもこれはこれで幸せだ。



「箒、大丈夫か?」
「んにゅ~? なんか身体が熱くてふわふわする~」

その後、手違いで水代わりに白ワインをグラスに注がれて二人はそれを飲んでしまい
慣れない酒に、今までの緊張からの疲れで思い切り酩酊してしまった箒。
なお、猛はワインと気づきつつ一杯飲み干している。
そんな彼女を背負い学園寮に向かう。あまり揺らして気分を悪くさせないように気をつけながら
見回りの先生、特に織斑先生には絶対見つからないようにしながら何とか自室まで辿り着く。
ベッドに箒を降ろすと、酔いは少しは覚めてきたのか頬が少し赤いくらいに視線ははっきりしている。

「とりあえず、水を持ってこようか? あとその服シワになっちゃうといけないから
 ちゃんと着替えてな」
「…………くれ」
「え?」
「脱がせてくれって言ったんだ。一人だとまだふらふらするし、寝間着に着替えたいから……
 て、手伝ってほしいんだ」
 
もはや頬を酒の影響だけではなく赤らめながら、両腕をバンザイするように上げてじっと見つめる。
いつまでもこの状況でいる方が苦痛なので、アウター、ブラウス、スカートを脱がす。
嘗て臨海学校で今の恰好とほぼ同じ水着姿を見ているとはいえ
たった二人きりで下着のみの箒と向かい合うのはまったく意味合いが違ってくる。
視線が不安げに彷徨い、ほんのり桜色に染まった身体に淡い水色のブラとショーツ姿の箒。
理性がショートする前に後ろを振り向いておく。

「もう後は一人で出来るよね。じゃ、じゃあ俺はもう寝るから」
「あ、ああ……すまない」

シャワー室に入って冷たい水を頭からかぶって熱を冷ます。
風邪を引かないように身体を温め直して、部屋に戻ると間接照明で仄かに明るい。
着替え終わったのか、髪を降ろした箒は猛に背を向けてベッドで横になっていた。
あの状態のまま、待っていられたらどうなっていたか……ほっと軽く息を吐いて猛もベッドに入る。

それからしばらくして、キッチンで水音がしたことに目が覚めた。
どうやら箒が水を飲んでいるらしい。
猛はまだうつらうつらした状態だったがベッドに潜り込まれて流石に心臓がどきっと跳ねる。
箒も寝ぼけて間違えて入ってきたのならいいのだが、腕をまわして抱きついてこられたのでは
彼女もわざと入ってきているとしか思えない。

「えっと、箒のベッドは向こうなんだけど」
「……分かっている。別に間違えているわけじゃない」

言葉少なく言い切った箒はより抱きしめる力を強めて身を寄せる。
背中ごしに押し付けられるたわわな胸に、とくんとくんと響いてくる彼女の鼓動。

「はは……、酒のきっかけでもないと吹っ切れないなど思ったより女々しいんだな私は。
 その、シャルロットと鈴が一線を越えているのは知っているんだ。
 勝ち負けではないのだが……わたしも、お前と……イヤなら拒んでくれて構わない。
 でも、出来るなら私を―――」

寝返りをうって微かに震える手を握り、幼馴染の首筋に顔を埋める。
より強く感じる彼女の香りに酔いそうになりつつ、細い腰に手を回す。
甘く啼いた箒がそっと唇を重ねたのがお互いの枷を外す合図となった。






猛が簪と出会って一週間になるが、まったくといって進展していない。
更にはタッグを組もうと思っていたがすっぽかされた形になり鈴は怒りで闘志を燃やし
シャルロットは絶対零度の笑みを浮かべて機体調整と訓練に励む。
なお、箒は「私もタッグを組みたかったが、猛本人の希望を蔑ろにするわけにもいかんだろう」と
彼女らしからぬ懐の深さを見せ、時折首筋に手を当ててにへへと顔を綻ばせていたのを
怪しく感じた二人が尋問。あの一夜のことを話し出させ、多分一番脅威になりつつある
同居中というアドバンテージを持つ箒に対し、なりふり構わず行くべきか? と危険思想が芽生え始める。

そんなことが起こっているとはつゆ知らず、頭を悩ませている猛に声をかける人が。

「やっほー、たけちー」
「ん? ああ、布仏さん。おはよう」
「もしかして、かんちゃんのことでお悩み中?」
「ええ、そうなんで……、何で簪さんのことを知ってるの?」
「んふふ~。実は私とかんちゃんは少なからず縁があるのだー」

詳しく話を聞いてみると、布仏家自体が代々更識家に仕えてきた家系であり、虚、本音と
楯無、簪は幼馴染で専属メイドとして傍にいるそうだ。
が、どうやら簪の方は元からの性格もあるせいか、あまり本音を傍に置かず、それどころか
クラスでも浮いている、いやむしろ孤立している状況らしい。

「だから、会長のお願いを抜きにしてもたけちーにはかんちゃんと仲良くなってほしいのだ」
「協力してもらえるんですか?」
「力及ばすともがんばるよ~。ふえ?」
「布仏さん、今度好きなケーキワンホールプレゼントします」
「おおぉ! これは嬉しいサプライズですよ。うーんたけちーのケーキ全部美味しいから
 迷っちゃうな~」
「とりあえず、簪さんがどんなものが好きなのか教えてください」

がしっと手を握られて少し顔を赤らめつつ、猛の質問に答えていく本音。



学食でかき揚げうどんを食べていた簪のテーブルに本音が声をかける。

「かんちゃ~ん、一緒にご飯食べてもいい?」
「……別に」

肯定と受け取った本音が簪の前に座るがその隣に座った人物を見てうどんを噴き出しそうになる。

「こんにちわ。簪さん」
「な、な、なな! 何で貴方がここに!?」
「何でって、俺と布仏さんはクラスメイトだし、一緒に昼飯食べないかって誘われたから」

自分が意図的に猛を避けていることを知らぬ本音ではないだろうと、睨みつけるが
どこ吹く風といった表情ののほほんさん。
今すぐこの場を去りたいが、まだうどんはいっぱい残っており、もし食事を切り上げたら
午後の授業途中で確実にお腹が減ってしまう。
さっさと食事を終わらせようと思う簪に猛が声をかける。

「簪さんってアニメや漫画が好きなんだって?」
「え……、う、うん……」
「実を言うとさ、俺もラノベとかゲーム好きでさ。簪さんの好きな作品とか
 おすすめ教えてほしいんだ。個人的には攻殻機動隊やグレンラガンとか好きで」
 
言うが早いか、凄い勢いで猛の手をしっかりつかんだ簪。ふるふると俯いて震える彼女に対し
何かマズイことでも言ってしまったかと思ったが、顔をあげた簪はキラキラと目を輝かせていた。

「グレンラガン……いいよね!」
「お、おう」

同志を見つけた簪に少しだけ引いてしまった猛だが、やはりその道を深く行く者の話。
熱が入ったしゃべりは聞いていて自分とは違う観点を知るのはまた趣があり楽しかった。
あまり人と話すのは得意ではない簪が昼休み終了目前まで会話を楽しんでいたのは珍しいことだ。

「ほえ~、かんちゃんがあんな熱く話す姿滅多に見たことないよ」
「これで少しは進めることができたかな」
「うん、もうタッグ組むのを頼んでもイヤの一点張りはないんじゃないかな。
 というよりたけちー以外いないと思う。
 ……私の助けとか無くてもかんちゃんと仲良くなれてた気がする」
「いやいや、とっかかりも無いんじゃ流石に俺だって無理ですって。本当にありがとう布仏さん」
「会長とは違った性質でたけちーはたらしだよね」
「え……」
 
 
 
五時限目の授業中、簪はぼーっと授業内容を聞き流していた。
昼食中に現れた猛に対し、最初は忌避感を感じていたが、彼が自分と同じ趣味を持っていて
それも、口先だけではなく本当にアニメが好きなこと。
自分の上手くないしゃべりをちゃんと聞きとってくれて、疑問に思ったことを素直に言ってくれた。
ずっと専用機開発に躍起になっていたせいでクラスメイトと話す機会もなかった分
思い切り趣味の話をすることができたのは、すごく気分転換にもなった。

(……タッグ、組んでみようかな。そしたら今度練習するときに
 私のお気に入りの作品を勧めて見てもらうのもいいかも……また意見を交わすのも面白そうだし)

軽く頬を赤く染めて、少しだけ前を向いた簪だった。



天然たらしがここまで恐ろしいものだったとは、リハクの目をもってしても読めなかった!

塚本猛立志伝か……(某光●ゲーっぽく)