IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

25 / 40
第25話

 

さて、念願かなって猛は簪と一緒に第二整備室に居た。

専用機持ちのみのトーナメント、つまりそれだけレベルの高い試合内容になるわけで

他にも機体整備、調整を行っている生徒が沢山いる。

金属音が絶え間なく響き、更には怒号まで聞こえてくるような中、皆真剣にISの整備をしていた。

 

「うーむ、見たことない機体が結構あるね。上級生のなんかさっぱりだ」

「あっちが、二年のフォルテ・サファイア先輩……専用機はコールド・ブラッド。

 向こうは三年のダリル・ケイシー先輩とヘル・ハウンド・ver2.5」

 

普段のおどおどとした雰囲気を感じさせず、すらすらと流暢に説明する簪。

やはり日本の代表候補生という肩書は伊達ではないのだろう。

奥に視線を向けるとセシリアが、おそらく二年と三年の整備科の生徒なのだろう。

表示枠を見ながら何か相談をしている。猛の視線に気がついたのだろうか、こちらを見ると

ちょっと困惑しつつ、軽く会釈をしてからまた話し合いを始めた。

 

普通なら箒、鈴、シャルロットと組んでいるだろう猛が、知らない子とパートナーとなっているのだ。

もしこれが一夏だったなら、セシリアはお怒りを隠さずプイっとそっぽを向いているだろう。

鈴は会うたびに野犬のように、ぐるると唸って今にも噛みつきそうだし

シャルロットにに至っては「何かな、塚本くん?」と最初に会った頃より冷たい。

なお、箒さんは未だにこにこ。懐の深さを見せるのも正妻の勤めだと嘯いているかは知らない。

ただちょっとは構って欲しいっぽい。

 

簪は自分の専用機である打鉄弐式を呼び出して整備ハンガーに固定させる。

弐式は頭に装備するハイパーセンサー以外は別物と言っていいほどの共通点がなかった。

しかしぱっと見た辺りだとどこもおかしい部分はなく完成されているように感じる。

 

「んー、これほぼ完成している風に見えるんだけど」

「武装がまだ……。それに、稼働データも取れてないから今のままじゃ実戦は無理……」

「そうなんだ。ちなみに武装はどんなのを使うの?」

「マルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイルに、荷電粒子砲を使おうと……」

「ならこれとか参考になるかな」

 

狭霧神の戦闘データで簪の弐式に応用できる可能性がありそうなものをピックアップし送信する。

送られてきた資料を真剣な眼差しで吟味し、指を躍らせてチェックを始める。

そこへぱたぱたと軽い足音を立てて、ちょっと間延びした声で名前を呼ぶ人が。

 

「たけち~。かーんちゃーん~。お手伝いに来たよ~」

「おお、ありがとう布仏さん。人手は多くあった方が進みやすいしね」

 

猛も狭霧神をハンガーへと固定し振り向くが、何だか簪の目がキラキラと輝いて

猛の専用機を眺めている。

 

「えーと、簪さん?」

「……やっぱり近くで見ると恰好いい……。メタルヒーローみたい……」

 

他のISに比べると一回り小さくフルアーマーな狭霧神は確かにどこか特撮ヒーローっぽさはある。

とりあえず今は整備、調整に意識を向けようと声をかけると、頬を赤くして視線を外し表示枠を見る簪。

そうして整備調整に取りかかった訳なのだが……

 

 

 

「布仏さん、そこにあるレンチ取って」

「ん~? これでいい?」

「うん、ありがとう。……簪さん、これでどう?」

「……ん、もう少し締め付けは緩くてもいい。あとは……」

 

出力調整や特性制御を行うために機体のアーマー部分を開いて直接パーツを弄りながら

搭乗者である簪の意見を聞いてマシンアームや工具を用い、付きっきりで弐式の調整を手伝う猛。

というのも、狭霧神の細部を覗きながらシステム画面を表示枠に表した際に

「……これ、どこを弄ればいいの?」と本音と猛は零す。

はっきり言って弄った時点で今より悪くなる可能性が大きすぎて迂闊に触れない、というか調整すらいらない。

ISのメカニックな知識が自分より多くあるであろう本音に簪がそういうのだ、ほぼ素人な猛に出来ることなど……。

 

「ISって自己進化と最適化が凄いんだけど~、本当はいっぱい、いーっぱい手をかけてあげないと

 ダメなものなんだよ~。けど、たけちーの狭霧神は最初からずっと最高のコンディションを保っていて

 調整すらいらない状態に常になってるみたい。まるで専属整備士やSEがずっと付き従ってるようだよ~」

「あ、あはは……」

 

実際それに近いようなものが宿っているとは言えない。

さてある程度機体構築も進んだため、試運転として第六アリーナにやってきた三人。

弐式の飛行テストを行うことにし、本音はコントロールルームでデータスキャナーを使って支援。

猛は何かあったときのヘルプを兼ねて先導役を買って出る。

簪は腰を落とし、偏向重力カタパルトに両脚をセットし、シグナルが青に変わった瞬間

一気に機体を加速し、アリーナの空へと飛びだした。

機体制御のチェックからハイパーセンサーの接続、連動を行うと狭霧神の姿を補足する。

ズームで猛の横顔がアップになると簪はついドキッとしてしまった。

 

(あう……、い、今は集中、集中……)

 

スラスターの出力特性に気をつけながら、キーボードで機体を調整し続け猛と合流する頃には

ほとんど飛行システムを完成させていた。

 

「どう? 調整は済んだかな」

「うん、大丈夫……、そ、それじゃあ……戻るから……」

 

どうにも気恥ずかしさが勝って、猛の返事を待たずに先に降下していく簪。

それを後ろから追う猛は彼女の機体が異常を起こしていることに気づく。

脚部ブースターのジェット炎が、点いたり消えたりを繰り返している。

異常を知らせるため通信を開こうとした瞬間、打鉄弐式の右脚部ブースターが爆発し

衝撃と推進器の片方を失ったことによる姿勢崩壊で簪は機体ごと大きく傾き中央タワーの外壁へ突き進んでいく。

 

(反重力制御が利かない……!? ど、どうして――)

 

目の前の表示枠には数えきれないほどのエラーメッセージが浮かび上がり、困惑と恐怖で脳内が白く染まる。

反射的に目を閉じてしまった簪の前に、暗灰色の物体が滑り込んで抱き留める。

彼女を抱きかかえたまま、最大出力の瞬時加速。僅か数センチの幅を残して止まりきった狭霧神。

恐る恐る目を開けるとこちらを覗きこんでいる猛の姿が。

 

「あ……つ、つかもとくん……」

「ふぅ、危なかったな。ケガとかはしてない?」

「え、う、うん……大丈夫」

「そうか、それならよかった」

 

傍から見たらお姫様抱っこされて、その相手は正に変身ヒーローそのもの。

今までになく簪は茹蛸のように真っ赤に染まって頭からは湯気が湧き出ている。

そこへ慌てふためいたアリーナ管理担当の教師の通信が飛び込んでくる。

 

『ちょ、ちょっと、何が起きたの!? こっちにはタワー破損の表示が出ているんだけど!?』

「あ、すみません。IS訓練中の事故が起きまして。一組の塚本猛と四組の更識簪が当事者です」

『事故!? 怪我とかしてないわよね!? 大丈夫なの!?』

「はい、二人とも無傷です。ただ……」

 

猛が壁の方へ視線を向けると、近くで瞬時加速の衝撃を受けた壁は放射状に罅が大量に入り

ボロボロと破片が零れ落ちている状態だ。

とりあえず事情を説明するためにピットに戻りますと告げて通信を切る。

 

「またエラーとか起こしたら大変だからこのまま降りるよ。ちゃんと掴まっててね」

「う、うん……」

 

顔を見られないよう俯いてしっかりと抱きつく簪を支えつつ高度を下げていく。

 

 

 

 

 

 

ピットに戻った猛たちは先生に事情を話し、身体に異常がないかチェックされた後

レポート用紙十枚分の紙束を渡されて、報告書の提出を求められた。

寮に戻る帰り道、隣の簪は申し訳なさそうな顔で歩いている。

自分で調整した機体が事故を起こし、尚且つ猛や先生に迷惑をかけたと自罰的な考えをしているのだろう。

もう残り時間も少ないし、意地を張らずに整備科の人達に手伝いを頼もうと提案しそれは受け入れられた。

が、ただ原因ばかりを考え続けても落ち込むだけだ。

 

「簪さんの眼鏡って、表示枠も兼ねてるんだよね? 今データ送るからそれ使って空を見て?」

「……? うん……」

 

言われるままに送られたデータを実行し、すっかり日も落ちた夜の空を見上げる。

すると、明度が引き上げられ今まで見れなかった星が鮮明に目の前に広がる。

 

「うわぁ……」

「驚いた? 狭霧神のセンサーを使ってどこでも星空が見えるようにしてみたんだ」

 

猛も表示枠をゴークルのように目の前に展開して空を見る。

もし星座とかを知りたいのなら、その範囲を指定すれば図から由来まで表示してくれる。

しばらく秋の空を眺めながら猛がぽつりと口を開く。

 

「実現は難しいだろうけど、ちょっとした夢があってさ。子供の頃から星を眺めるのが好きで

 それなのに星座とか彗星の名とかは覚えようとしなくて。

 そして白騎士事件が起こって、ISが世に知られて……。今は軍事転用が主だけど

 いつかはISで宇宙に行ってみたいなと思ってるんだ。

 それが無理ならISじゃなくても星の海へ行ってみたい……」

「…………」

「あはは、バカな夢とか言うかな?」

「そ、そんなことない! り、立派な夢だと思う……!」

「ありがとう。俺のこんなデカ過ぎる夢に比べれば、簪さんの頑張りはきっと報われるよ」

「あ……」

「元気出た?」

 

何気ない話でこちらを元気づけてくれたのだと気づくと、恥ずかしくなったのか

胸の前で絡めた両手は、せわしなく指を弄んでいる。

 

「あ、あ……、ありがとう……」

「どういたしまして。そろそろもっと冷えてくるし、帰ろう」

 

そう促すが、簪は歩き始めようとしない。

 

「あの、簪さん?」

「い、いらない……。さん、はいらないから……か、簪って呼んで」

「うん、分かった。簪。俺のことも猛って呼んでいいよ」

 

そういって微笑むと、彼女はぷしゅうとまた頭から湯気を噴き出して、逃げ出すように走っていってしまう。

呆気にとられつつも、同じ寮なんだからそんなに急がなくてもと玄関に入るのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。