IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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前回から結構間が空いてしまってすみません

相変わらず不定期であげていくので、気長にお待ちいただけると幸いです


第26話

 

翌日、楯無の専用機を作る際にもかなりの貢献をしてくれたという

整備科のエース、黛薫子にコンタクトを取り助力を願う。

そして昨日の働きっぷりからして期待を持てる布仏本音もしっかり手伝ってくれるそうだ。

更には黛先輩の友人である京子とフィーと呼ばれる二人も黛が召集をかける。

電話をしている先輩は呼び寄せるための餌を提示しているのだが――

 

「んー……猛くんとの2ショット写真とか? 自費出すなら学内デートも有り?」

「勘弁してください、お願いします。特製ケーキを作りますんでそれで何とか」

「た、たけちーの特製ケ、ケーキ!?」

 

逆にここに居る本音がフィッシュ。ギャグじゃなく本気でじゅるりと唾を飲み込むが

決して演技ではないそれが興味を湧かせて、先輩は説得にかかる。

それを見てほっとする猛。ただでさえ機嫌がよくない鈴にシャルロット、そこに箒と今むすっとしている

簪に睨まれて学内デートなどしたら胃に穴が開きそうだ。

 

頼れる仲間が第二整備室に集合し、途端に慌ただしくなる。

 

「塚本くん、そっちのケーブル持ってきて! 全部!」

「あと、こっちに特大レンチと高周波カッター持ってきて」

「んむー、投影ディスプレイが足りないから液晶のやつ取ってきてくださいなぁ。

 あと小型発電機も借りてきてねぇ」

「はいはーい」

 

ISアセンブリのことなどド素人もいいところなので、言われるがままに整備室を走り回る猛。

丁稚として動き回りながら簪のことが気になり視線を向けるとISを装着したまま両手足全部使って

カスタマイズされた球形キーボードを高速で叩いている。

真剣に画面と向き合い頑張る簪の姿は見とれてしまう位綺麗だが、それで作業を止めてしまうわけにはいかない。

運搬作業に戻る猛に対し、ちらりと視線を向けて少し残念そうな色が浮かぶ簪。

 

 

 

最後の方はもう、整備関係なくパシリとして使われていた猛だが、いじわるとして

ジュース買ってきて、10秒以内にねと言ったのに5秒で駆け込んできたことに黛は驚愕する。

そして大会前日にようやく終わりが見えてきた。

当初の予定ではマルチ・ロックオン・システムを使うはずだったが完成せず

本来の高命中率、高火力のスペックを引き出せなかったので通常のロックオン・システムに妥協した。

それでもここまでこぎ着けられたのは四人の協力があってこそだ。

 

「あ、ありがとう……ございました。わ、私ひとりじゃ、完成させられなくて、あ、あの……

 本当にありがとうございました……!」

 

頭を下げる簪の姿を皆優しく見つめていた。

 

「あはは、気にしないでよ。同じ学園の仲間じゃないか」

「ま、あれだな。ひさびさに日本製のISを触れて楽しかったよ」

「んんー。今度甘いもの食べさせてくださいねぇ」

「あ、それならたけちーのケーキが食べたいなー」

「それじゃあ、布仏さんのリクエストにお応えしますよ」

「え、えええ!? も、もしかして……もうあるの!?」

 

目をキラキラさせて見つめてくる本音に促されるようにケーキの入った箱を取り出す。

作業テーブルの上を軽く片付けて、3つの箱を置いて取り皿とフォークを皆に配る。

そうして普段よく振舞われるパウンドケーキに新作のミルフィーユ、ティラミスが目の前に。

お預けをされた犬のように、本音はケーキを凝視してそんな姿を簪は初めて見る。

 

「ちょっと新しいものに挑戦してみたんで、味見を兼ねて持ってきたので感想ください」

「お、おお……! た、たけちーの新作スイーツ! こ、これは垂涎ですよ……!」

「す、すごい食いつきっぷりね……。まぁ、これでも私はそれなりにいろんなお店のケーキ

 食べ比べてるからちょっと辛辣な感想になっても許してね?」

 

各々好きなケーキを皿に取り、いただきますと口に運ぶ。

一瞬時が止まったかのようにしんと静まり返り、誰ともなく切なくため息が漏れる。

 

「おいしい……」

 

疲れた体に甘いものが沁み渡るのでエッセンスになっているだろうが、それを除いても

かなりの出来であると評価できる。

 

「凄い……凄いわ猛くん! 一流とかに比べたらちょっと劣るかもしれないけど手作りで

 これだけのもの作れるのなら、私毎日君のケーキ食べたいくらい!」

「んっふっふっー。たけちーのケーキはほんと美味しいんだよー」

 

皆が美味しい美味しいと言って三種のケーキを食べ比べている風景は作り手として冥利に尽きる。

しかし、パウンドケーキを見つめながら難しい顔をしている簪に対し猛は声をかける。

 

「あれ? もしかして口に合わなかった?」

「え? あ、う、ううん……、そんなことない。ちゃんと美味しい……。

 けれど、どうやったらこんな風に美味しくできるのか考えてて……」

「簪もケーキとか作るんだ。そうだね……」

 

自分が普段心掛けているちょっとしたコツを話し出すと簪はメモを取り出すとこくこく頷きながら

要点を纏め、疑問に思ったことを猛に聞き返し、彼はそれに答える。

そんな二人を先程とは違う優しい視線で見ている四人。

 

 

 

 

 

片付けが終わり、皆解散となった後簪はシャワーを浴びて身体を清めると寮の調理室を借りていた。

赤く熱を持ったガスオーブンの前で今か今かと待ちわびて、何度も時計を確認する。

チンっと軽い音を立ててオーブンが焼き上がりを知らせると、ミトンを手に嵌めて中のものを取り出す。

綺麗に焼き色がついて砂糖の焼けた甘い香りと芳醇な抹茶の匂いがふわりと漂う。

数少ない簪の得意な料理、カップケーキなのだが先ほど猛に聞いた小さなコツを試してみた一品。

上手に出来たか少し不安になりつつも、一個味見として食べてみると……

 

「うわぁ……美味しい」

 

今までの中で一番と言っていい出来に仕上がっており自然と頬が緩んでしまう。

 

(猛……くん、喜んでくれるかな……)

 

用意しておいた袋にひとつひとつカップケーキを入れて丁寧に包装を施す。

冷める前に渡したいと逸る心に促されるように足も速まっていく。

大切な人への贈り物。それが少し恥ずかしくも誇らしく思う。

あと少しで猛の部屋の近くまで来た簪は一旦立ち止まり呼吸を整える。

そして角を曲がろうとした時、目に飛び込んできた光景に咄嗟に身を隠してしまう。

 

廊下で猛と話をしていたのは、姉の楯無だった。とても仲良さそうに話をしている姿に

簪の心は大きな杭が刺さったかのように痛み、無意識に袋を強く握りしめていた。

そこに彼女の口から出た言葉を聞き簪は足元が崩れ落ちるような衝撃に晒された。

 

「私の機体データ、役に立ったでしょう?」

 

思わず声を上げそうになるのを慌てて口を塞ぐ。

しかし身体を支え続けることが出来ずに、へたり込んでしまう。

打鉄弐式を組めたら、自分だけの力で完成させることが出来たのなら、やっと、やっと――

姉さんに追いつけると思っていたのに。

 

幻だった。優しくしてくれた猛のことも、専用機を完成させることが出来た喜びも

――すべて、姉の根回しだった。

 

絶望の深淵に沈み込んだ簪の前に楯無の幻影が現れる。

その優しく心に染み入るような声が何よりも恐ろしい。

 

『簪。あなたは何もしなくていいの。私が全部してあげるから。だからあなたは――』

 

 

 

 無能なままでいなさいな。

 

 

 

心が、身体が耐え切れなくなり、自然と簪は走り出していた。

走って、走って、走って、無我夢中で自分の部屋へとたどり着く。

荒い呼吸を繰り返していると、頬を伝い落ちるものがあることに気づく。

拭っても止めどなく流れる涙に、堪らず布団の中に逃げ込み堰を切ったように嗚咽が溢れだす。

 

「う、あ、あぁぁ…………っ、あああぁぁぁ…………っ」

 

 

 

楯無との話が一区切りつき、ふと気になって曲がり角を覗き込むと

綺麗にラッピングされ袋詰めされたカップケーキが落ちていた。

落ちたことで少し型崩れしてしまったそれを取り出し、自然と口に運んでいた。

この味はどことなく自分が作るケーキと少し似た味がして。

 

「楯無さん。さっき話してたときに何か聞こえませんでしたか?」

「えっ? 特には何も聞こえなかったけれど」

「俺には、何故か簪の泣く声が聞こえた気がするんです……」

 

今この場には居ないパートナーのことが、どうしても心から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

専用機持ちタッグトーナメント当日。開会の挨拶の後、対戦表が表示され

第一試合は猛と簪、箒と楯無ペアの試合となった。

しかし、学園内を探し回っても簪の姿はなく通信への応答も沈黙したままだ。

どこか胸騒ぎを感じつつ探し忘れた場所はないか思い返していると、轟音と共に学園全体が揺れた。

廊下の電灯が赤く染まり、非常事態警報発令の表示枠がそこかしこに現れる。

緊急放送が告げられるが、突如途切れた後に続けてまた大きな衝撃が襲い、生徒の悲鳴が響き渡る。

 

「簪……、今どこにいるんだ」

 

 

 

「あ、あ……あぁ……」

 

一人暗いピットの隅に座り込んでいた簪は突然の襲撃者に対処することもできず

がたがたと噛み合わない歯を鳴らしながら身を縮こまらせる。

後ずさりしたくとも、背後は完全に壁に遮られて前方には不明機が不気味に佇み

逃げる事もできない。

ゴーレムがゆっくりと迫りくるのに、ぎゅっと目を硬く閉じて祈るように必死に念じる。

 

(誰か……誰か、助けて……!)

 

彼女の祈りも虚しく一歩、また一歩とゴーレムは簪に近付いていく。

伸ばされた腕が簪を掴もうと、その先端が触れる瞬間全力で叫ぶ。

 

「や、だ……やだよ……、助けてっ……猛くんっ!!」

 

簪が叫ぶのとほぼ同時に、学園側の扉が吹き飛び一陣の黒灰風が突っ込んできた。

影は粉砕され宙に浮いた扉を掴み、不明機に投げつける。

不意を突かれたゴーレムはかわすことが出来ずに扉ごと壁に叩きつけられた。

左手の熱線で己を押さえつけている破損した扉片を焼き切るつもりなのだろうが、もう遅い。

一瞬に肉薄した狭霧神は刀身が光を飲み込むほどに黒く染め上げた十束を背負うように構え――

壁、扉片、一切合財、一刀の元ゴーレムの脳天から綺麗に割断した。

 

残心するその後ろ姿は、まさに彼女の待ち望んでいた英雄の姿そのもので――

 

「大丈夫?」

 

その優しげな声を聴き、簪は溢れる涙を止められなかった。

思わず立ち上がりそのまま猛に抱きついて、まだ残る不安と恐怖に身体を震わせる。

彼女が落ち着いて泣き止むまでしばらくそっと頭を撫で続けていたが、不意にあっと大きな声をあげた猛。

 

「ど、どうしよう……。簪がピンチだったから思わず全力全開で切りかかっちゃったけど……

 大丈夫かな?」

 

真っ二つになったゴーレムは動く気配もないが、無人機だからよかったものの

もし中に人でも居たら、モザイク無しのグロ画像待ったなしだ。

……まあ、緊急時の正当防衛だと言い切ることにしておこう、そうしよう。

そんな開き直る猛を見て、ふふっと笑顔を浮かべる簪。

その姿を見て大丈夫そうだと思った猛は声をかける。

 

「なんかコイツ一体だけじゃないっぽくてさ、他のところも心配だから見てこようかと思うんだけど

 簪はどうする? 皆が避難している場所まで送っていこうか?」

「ううん、大丈夫。私も猛くんの力になりたいから……」

(だからお願い、力を貸して……打鉄二式)

 

簪の願いに応えるように、彼女の全身が光に包まれて専用機が装着させる。

もう脅威はないであろうゴーレムの残骸をそのままにして、十束を振り抜いてアリーナシールドを切り裂く。

二人が第三アリーナのフィールドに飛び出した瞬間、反対側のゲートで大規模の爆発が起こる。

専用回線を開こうにも、ノイズが酷くてまともに通信することすら出来ない。

 

「簪、あそこに誰か居るかもしれないからちょっと様子を見てくる」

「分かった。気をつけてね……」

 

未だ煙が立ち込めているゲートに慎重に近付いて行くと、ハイパーセンサーがISの反応を捉えた。

 

「大丈夫ですか? 返事をしてください!」

 

その呼びかけに答えは返らず、巨大な左腕が突き出されてきた。

左足を掴まれるが、戸惑うことなく地面に向かって加速。

右足を無人機の肘に乗せて体重をかけ躊躇なくへし折る。

折れた左腕を強引に引っ張り、ブチブチと人工筋肉が引き千切られる音を立てて腕が断裂する。

もぎ取られた腕をそのままに無人機に対し回し蹴りを放てば腕と一緒に壁面へと叩きつけられた。

それでもなお攻撃を続けようと残った右手から熱線を放とうとエネルギーを集めた砲口へ

八俣の矢が綺麗に突き刺さり、暴走した熱線で逆に自分が超高熱で芯まで焼き尽くされる破目に。

 

一応脅威は去ったので、もう一度ゲート内を覗き込むと倒れている人影が見えた。

 

「え……う、嘘……」

 

いつの間にか傍に居た簪が不安の声を漏らしていた。

嫌な予感が拭えず、冷や汗に身体の震えが止まらない。

見覚えのある水色の装甲は無残に壊れていてほとんどが残っていない。

深いダメージを負っているのか、楯無は倒れ伏したままぴくりとも動かない。

何かを叫びたいのに、声が出ない。名前を呼びたいのに、口が動かない。

ぐにゃりと世界が歪んで見えて押しつぶされそうになるのを、肩に乗せられた手が支えてくれる。

 

「大丈夫。楯無さんは生きてるよ」

 

楯無に近付いて、負荷をかけないよう優しく抱き起こして狭霧神のセンサーを全身に走らせる。

身体のあちこちに打撲や骨に少しの罅は入っているが、命に係わる傷はなさそうだ。

軽くうめき声をあげて目を開けた楯無の傍へ簪が駆け寄る。

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

「あはは……そう呼ばれるの、何年ぶりかしら?」

「お姉ちゃん……」

 

楯無は笑顔を浮かべた。妹が無事であったことを喜び、不安を消し去るために。

 

「どう、して……こんなことに……」

「だって学園の皆を守るのは、学園最強の勤めだもの。ちょっとしくじっちゃって

 こんな姿を晒すことになっちゃったけど。それに、大事な妹を守るのもお姉ちゃんの仕事よ」

「楯無さん。恰好付け過ぎですよ」

 

楯無を簪に預けると、じっと視線を合わせる。

 

「こんな時に言うのもなんですが、一度ちゃんと簪と話し合うべきです。

 どんな人間だって、自分の考えが完璧に相手に伝えることなんて出来ないし

 小さな擦れ違いでここまで溝が深くなってしまったんだから。

 なら今回のことをきっかけに全部ぶちまけてしまってもいいじゃないですか。

 更識の頭首とか、生徒会長、学園最強の重圧やしがらみとかあるんでしょうけど

 大好きな妹の前でくらい弱いところを見せても罰は当たりませんよ」

 

今度は簪に目を向けて話し出す。

 

「簪もさ、いろいろ優秀な姉と比較されたりして辛いこととかいっぱいあったと思う。

 俺がこんなこと言っても説得力ないかもしれないけど、簪はそのままでいいんだ。

 弱くて、卑屈で、情けなくても、それでいいんだと受け入れてしまう。

 そこから立ち上がっていけばいいんだ。

 それにさ、楯無さんだって完全無欠ってわけじゃないんだぞ?

 生徒会の仕事はよくサボるし、人にセクハラ普通にするし、案外大人げないし」

「ちょ、ちょっと猛くん?」

 

このまま喋らせていると余計なことをべらべら言いそうなので、慌てて止めようとする。

じゃあ、この話はお終いと自然に立ち上がり彼女たちに背を向ける。

 

「だから、この騒動はさっさと終わらせます。ただ、俺のことを信じてくれて

 二人で話し合うことができるのならば、それでいいですから」

 

 

 

手に八俣を顕現させ、弦を引き絞る。

単一仕様能力はすでに慣らしを終えて、凌駕駆動状態で八俣に力を注ぎ込む。

凪いでいた空気がゆっくりと流れだして一縷の風となり狭霧神を中心に渦を巻く。

 

「霞、簪が使う予定だったマルチ・ロックオンシステム。流用できないか?」

『了解しました、我が主。演算開始――システム再構築、簪女史と天体を見上げた際の経験を流用――完成』

 

霞の言葉と同時に猛の視界が一気に離れて、学園内のほぼ全てのアリーナを見下ろす俯瞰風景が映し出される。

 

『狙撃補助システム『天球儀』起動。誤差、コンマ5cm以内に抑えました』

 

天空から見下ろす疑似視界からは無人機と争う鈴やセシリア、ラウラ達が鮮明に映し出される。

大きく息を吸いこんで、ゆったりと吐き出す。熱は心に込めて、放つ矢は極めて冷静に。

荒れ狂う神龍の手綱はまだ解かずに、狙いを外すことなどは考えない。

込めた力でぎしりと弦が軋む中、既に的中するイメージを強固に組み上げて、それを信じ抜く。

 

「我が敵を射抜け、八俣――」

 

そして宙に向かって一筋の青い極光が立ち昇った――

 

 

 

「くっ、性懲りもなく何なのよこいつ!」

 

クラス対抗戦で似たような無人機とも交戦経験のある鈴だが、あの当時のものより更に強化された

ゴーレムに苦戦を強いられている。

セシリアの援護を受けつつ、超火力である肩部の龍砲を叩き込むことが出来れば敵機を沈黙させられるはずだった。

しかし、ブルーティアーズの偏向射撃を人間では真似の出来ない動きで躱し

周囲に浮かぶ球状の物体が堅牢なシールドを張り衝撃砲を容易く受け止めてしまい、本体まで届かない。

このままではエネルギーが尽きるのが先か、無人機に潰されるのが先か、二人に冷や汗が流れ――

 

「「っ!? 逃げて!」」

 

同時に上空からの超巨大なエネルギー反応を捉えて二人は咄嗟の回避行動をとる。

球体を上に向け、シールドを張る無人機だが土石流に傘を差し向けて対抗するような圧倒的な差。

まるでSF映画に出てくる衛星砲のような光の柱に飲み込まれて姿が見えなくなる。

時間にして数十秒程度だろうが、光が収まった後に現れたゴーレムは真っ黒に焼け爛れ一部は炭化しているようだ。

引力に導かれるまま、地面に衝突しそのまま動かない不明機。

 

「……私、この光景前にも見た気がするわ」

「奇遇ですわね。私も福音戦のことがはっきり脳裏に浮かんで来ましたわ」

『鈴! セシリア! 無事!?』

 

突然の通信に驚くがすぐに冷静さを取り戻し、返事をする。

 

「え、ええ。私も鈴さんも無事ですわ」

『通信妨害されてたんだけど、あのゴーレムが倒されたら回復したんだ』

「シャルロットの方にもあのへんなの行ってた訳か……ねぇ、もしかしなくても」

『うん……あの光の砲撃に無人機は倒されたよ』

『私の推測だが、あの攻撃は全てのアリーナに同時に突き刺さったと考えていいはずだ。

 アリーナシールドを貫いて、更には無人機をも消し炭にするような一撃を全域にな』

 

皆の間に沈黙が漂う。こんな芸当が出来るのはこの学園には一人しか居ないと。

 

「ねぇ、シャルロット。時折頭を過ぎるんだけど、ISは凄いものだと思う。

 だけど、時折猛だけはISとは違う何かを使っている気がするの」

『それでも、猛は猛だよ……』

「それは分かってるんだけど、ふと気づいたら私の手の届かない場所に行っちゃうような……」

 

二人のプライベートチャネルは、その言葉を最後にしばらく無音が続いた。

 

 

 

 

 

 

ぼんやりとした意識のまま、楯無は覚醒し数度まばたきを繰り返す。

部屋全体がオレンジ色に染まっていて、現在は夕刻なのだと知らせていた。

 

「お、お姉ちゃん……大丈夫?」

「簪ちゃん……ここは?」

「学園の医療室……」

「そっか、あいててて……」

 

まだはっきりしない意識のまま身体を起こそうとすると、激痛が走り簪に止められた。

 

「命に別状はないけど、傷は浅くないから……無理に起き上がろうとしちゃ、だめ」

「分かったわ……」

 

それから二人とも無言の時が流れるが、不思議と違和感や苦痛は感じない。

ささいな擦れ違いでお互い歩み寄れず歪な形で今まで居たのが、嘘のようだ。

 

「あ、あのね……お姉ちゃん……今までごめんなさい」

「気にしなくていいのに」

「で、でも……っ! 私、どんなに頑張ってもダメで……」

 

勝手な思い込みで壁を作り、ずっと避け続けていた自分が恥ずかしくて消えてしまいたい。

そんな簪を痛みを堪えながら楯無は起き上がり、大事な妹を抱き寄せる。

 

「そんなことないわ。あなたは私の大事な妹よ。とても強い、私の妹――」

 

優しく頭を撫でられて、今まで我慢していた簪の瞳から涙が溢れ始める。

 

「お、おねぇちゃん……っ」

 

泣き続ける簪を抱きしめながら、楯無は頭を撫で続けた。

一通り泣き終えた簪は今まで触れ合えなかった分を取り戻すかのように話を始める。

時には怒ったり笑ったりしつつ、悲しかったこと、辛かったことを楯無と話し続ける。

そこで、今回の立役者の姿が見えないことに気が付く。

 

「簪ちゃん、猛くんはどうしたの? 姿が見えないんだけど」

「あ、そ、その……あの後お姉ちゃんをここに運んで、後は姉妹仲良く話すといいし

 俺は邪魔になるだろうからって帰っちゃった……。

 ちょっとだけ、羨ましかったな。お姉ちゃん、お姫様抱っこされてたから」

 

楯無は気を失う最後の景色を思い出す。

ゆっくりと天に翳した弓を降ろしていく、その頼れる漢の背を眺めながら意識が遠のいていったのを。

 

よくよく考えると不思議だった。一時期ルームメイトだった彼に妹と組ませようと思ったのか。

ただ、猛に任せておけば決して悪いことにはならないと確信があり

自分のおふざけを受け止めてくれるし、本当に参ってる時には労わってくれて、何よりあの柔らかな笑顔が――

 

「お、お姉ちゃん? 顔真っ赤だよ、大丈夫?」

「ひゅいっ!? だだだ、大丈夫よ!?」

 

夕日のせいとは誤魔化せないほどに真っ赤に染まったまま、手を振る楯無。

軽く息を整えると、簪に向かって視線を向ける。

 

「ねぇ、簪ちゃん。猛くんのこと好き?」

「ええぇっ!? い、いきなり何言うの!?」

「お姉ちゃんは簪ちゃんの本音を聞きたいの」

「え……あ、うぅ……」

 

視線を彷徨わせながら、最終的には小さく頷く簪。

 

「そう。ならいつかは簪ちゃんとも、戦わないといけないわね」

「え、ええ!? お、お姉ちゃん、それって……」

「ふふふ、さぁ……?」

 

意味ありげに微笑む楯無に、真意を聞き出そうとするがはぐらかされてしまう簪。

しばらくはそんな触れ合いが部屋に響いていた。


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