IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第27話

「んー、とりあえず二枚チェンジ」

「じゃあ僕は一枚で」

「なら私は四枚交換しよう」

「俺は……このままでいいか。じゃあコール」

 

猛のコールに続いて箒、鈴、シャルロットもコール宣言。

場に出されたカードの役は鈴がツーペア、シャルロットがスリーカード

箒がフラッシュで猛はフルハウス。

 

「んなぁぁぁぁっ!? フルハウスなんて漫画やアニメじゃ負け役じゃないのよ!

 そんなんで勝つとかありえないって!」

 

勝負事に熱くなりやすい鈴は、手札の役に何が来ているのかが顔に出やすいのでビリ。

平常心を心がけているからか鈴よりはポーカーフェイスが上手い箒。

しかし、共に笑みを浮かべて揺さぶりをかけても効果がいまひとつ表れない猛とシャルロットが

トップ争いを繰り広げている箒と猛の寮室。

 

きっかけはタッグマッチでペアをすっぽかされた腹いせにちょっと遊べと部屋に乗り込んできた鈴に三人で何かしようにも大富豪、麻雀とかやるには人数が足りない。

なら暇しているだろうと連絡をとり、シャルロットも部屋に呼ぶとおもむろにポーカーが始まった。

最初はトップに命令権をつけようとしたのだが続けていくうちに

シャルか猛がその権利を得ることが確実になりそうなので、とりあえず無しということになった。

 

「なぁ、そろそろお開きにしないか? いろいろあって疲れてるだろう?」

「もうちょっとあたしは遊んでいたいんだけど……」

 

ふと何かを思い出したかのように椅子から立ち上がると、自然な感じに猛の上へぽすんと座ってしまう鈴。

一瞬で空気が軋み、部屋の温度がガクっと下がったような気がする。

 

「あ、あの鈴さん? なにをしているんでしょうか?」

「えへへ、実はさ、あたしあの襲撃の際ちょっとケガしちゃってるから猛に労わってほしいかな~って。

 痛いの痛いのとんでけ~みたいなのやってくれるとか、肩揉んでくれちゃったりなんかして」

 

にこにこと上機嫌な鈴に対し、また暗黒オーラを噴き出しながら怖い笑みを浮かべているシャルロットに般若の化身かと思えるほど背筋が冷たくなる視線でこちらを射抜いてくる箒。

というか、ここにいる女子陣はどこかしこに軽いケガは負っているし、無傷なのは猛くらいだ。

 

「り~ん~? 僕の堪忍袋だってちゃんと限界はあるんだよ?」

「勝手な抜け駆けは認められないな。ああ、そうだこれは粛清が必要だな」

「何よあんたらは猛と同じクラスでいつも一緒で、箒は部屋まで一緒じゃない。

 あたしに少しくらい猛のこと譲りなさいよ」

 

身体を器用に動かし向い合せになり抱きついて、鈴は怒れる二人に尚油を注ぐようなことをする。

ヘタすればここに血の雨が降り、騒ぎを聞きつけた織斑先生の何より恐ろしい説教を延々と聞かされるやもしれん。

猛は目の前の鈴を抱きかかえ、ベットにうつ伏せにすると上からのしかかる。

 

「ふにゃっ!? 何するのよ!?」

「とりあえずマッサージしてやるから、それで我慢しておきなさい。

 その後にシャルもしてあげようか。箒はどうする?」

「えっ!? ちょ、ちょっと待って、心の準備が……

 んあっ……あっぁ、あっ、ふわっ……あっあぁん、そこ、だめぇ……気持ちよくなっちゃう……」

「……あ、あの僕ちょっと準備してくるっ」

「あんっ、ううぅ、あぅ、あ、あぁぁ……っ、ひゃぁぁっ……そこは、もうちょっと優しくして……っ。

 ふわぁぁ……っ、いいよぉ、すごく気持ちいい……溶けちゃいそう……ぁぁん」

「あ、ああ……シャルロットの後に、その……よろしく頼む」

 

何をされるのか分からなかった鈴は一瞬ドキっとしたが、優しく身体を解され始めて蕩けた声が出て力が抜ける。

シャルロットは頬を赤く染め、箒に断りを入れてからシャワー室に入りほかほかと湯気を纏ったジャージ姿で出てきた。

鈴の施術が終わり、スライムみたいに溶けきった彼女を猛が自分のベットに移動させ

次にシャルがマッサージをされている間に同じくシャワーを浴び身を清めた襦袢姿の箒。

鈴の隣にシャルを移し、箒をベットに寝かすと入念に解し疲れをとってあげる。

 

精神の緊張と身体の疲れがほぐれた鈴にシャルロットは、あの後気を失うように睡魔に負けて寝息を立てていた。

声をかけても起きそうにないので猛は自分のベッドに二人を寝かせたまま

同じく寝てしまっている箒に布団をかけて自分は毛布を持ってソファーにごろんと横になる。

四人の安らかな寝息が聞こえながら今日一日が終わっていく。

 

 

 

IS学園の地下特別区画、教師ですら一部の人間しか知らないその場所で

真耶は回収された無人機の解析をずっと行っていた。

 

「少し休憩したらどうだ?」

「あ、織斑先生。ありがとうございます」

 

部屋に入ってきた千冬が投げて寄越してきた缶ジュースを受け取り、蓋を開けて口をつける。

一息ついてから、真耶は解析の済んだ情報を表示枠に映して千冬に見せる。

 

「見てください。やはり、以前現れた無人機の発展機で間違いありませんが……」

「コアは?」

「おそらくは未登録のものですが、詳しく調べられることは不可能かと」

 

別の表示枠を展開し、そこに映るのは破壊された今回の無人機。どれも損傷が激しく

至る所が焼け爛れて酷い部分は炭化し、少しの振動ですら破損し崩壊してしまう。

そして綺麗に二つに割られているキューブ状のISコア。

『ある特殊なレアメタル』で作られているためそう容易く壊れたりはしない代物を、こうもあっけなく両断するとは――

 

「形状がほぼ残っているのがこれ一つで、その他は全て完全に破壊されています。

 ただ、自壊したのと高熱により融解したものと半々ですが……」

「なら政府には全て破壊したと伝えろ。ISのコアはどの国も喉から手が出るほど欲しい代物。

 しかし実際に壊れて使い物にならないのだ、それでもその情報を信用できず

 ここにやってくる馬鹿どもには痛い目を見せてやるだけだ」

 

世界最強の戦乙女は口角を釣り上げて、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「にしても、アイツはどこまで理解して行動を起こしているんだかな……」

 

 

 

 

 

 

無人機の襲撃事件から一夜明けて、誰よりも早く目を覚まして顔を洗う猛。

軽い筋肉痛以外にこれといった怪我もないので、とりあえず軽いストレッチをして身体をほぐしているとドアをノックする音がした。

ベットにはまだスヤスヤと眠る皆が居るので、鈴とシャルロットに布団を頭まで被せてからドアを開ける。

そこにはにっこりと元気な笑顔を浮かべた山田先生の姿があった。

 

「おはようございます、塚本くん!」

「おはようございます山田先生。何か用でしょうか?」

「はい、取り調べを受けてもらおうかと」

「はぁ……?」

 

どうやら昨日の戦闘に拘わった者は全員事情聴取を受けないといけないらしく

強制参加、拒否すれば政府の特務機関に拘束され、更には織斑先生の特別個人指導もついてくる。

いわゆる『痛くなければ覚えませぬ』を素で行く鬼教官が気絶するまでみっちり扱いてくれるのだ。

この罰則を受けたある生徒の言は『この世の地獄』だそうな。

まぁ、猛にとっては先生に挑んで気絶し、ぶっ倒れるのはいつものことなのでそれほど恐怖感はない。

 

「それじゃあ、二十分後に始めるので生徒指導室まで遅れずに来てくださいね。

 あ、それと凰さんとデュノアさんを見かけませんでしたか?

 部屋には居ないみたいなんで探しているんですが」

「いえ、見てないですけど、会ったら事情を話して急ぐよう伝えておきます」

「ありがとうございます塚本くん。それじゃあ」

 

内心冷や汗をかいていたが、顔には一切出さすドアが閉められたのを確認し

急いで眠り姫たちを叩き起こし事情を話す。

わたわたと慌てだした彼女らを後目に、着替えは終わっているので先に出て行く猛。

ちょっとー! やら薄情者ー! と言った叫びを後に寮の廊下を早歩きで進んでいると、不意に声をかけられた。

 

「あ、あのっ……た、猛っ!」

「ん? おお、簪か。おはよう、どうしたの?」

「え、えっと……これから、取り調べでしょ? よ、よかったら……い、一緒に」

「いいよ、じゃあ行こうか。簪は身体の方は大丈夫? 怪我とかしなかった?」

「う、うん……た、猛がすぐに助けに来てくれたから、どこも怪我してない……よ」

 

二人並んで廊下を歩く。

 

「そういえば楯無さんの方は大丈夫なのか?」

「お、お姉ちゃんは……しばらく医務室で、経過観察することになりそう」

「ふーん。後遺症とかは無さそうでよかった。……楯無さんって人をからかう以外に

 何か趣味ってあるの?」

「え? えっと……将棋かな」

「ほほぅ、それはなかなか渋い。飛車角抜きのハンデ貰ってもでも負けそうだけど、一度手合せしてみたいな」

 

その言葉に対し、焦ったような表情を浮かべて簪は大きな声を出す。

 

「お、お姉ちゃんのことっ! き、気になるのっ!?」

「え? ああ、しばらく病室から動けないのなら何か気晴らしになるものでも差し入れようかなと」

「差し……入れ……? あっ、そ、そういうことだったの……うぅ、早とちりしちゃった……」

「それ以外なら俺の持ってるラノベや文庫、漫画とかもいいかもしれないけど

 楯無さんどんなジャンルが好きか分からないと合わないもの差し入れしても悪いしなぁ」

「お、お姉ちゃん……ビジネス書や啓発本を読んでたりするけど

 漫画や普通の娯楽、恋愛小説も、き、嫌いじゃないみたいだよ……?

 でも、本は私が持っていこうと思ってたから、別の何かがいいかも……。

 お姉ちゃんけん玉とか好きで、放っておくといつまでもやってることあるから、それなんてどう?」

「けん玉かぁ……、一時期ルームメイトだったことを思い返してもまったく普段の姿からは想像できないな」

 

簪は隣を歩く猛の姿を気取られぬように、じっと見つめる。

格好いいというよりかは、傍に居てほっとできそうな柔和な雰囲気と容姿で

いざとなれば雄々しく万人を守る正義の味方の一面もある。昨日のあの背中を思い出すと尚そう思えた。

 

だが、病室で姉との会話では違う印象を受けた。

 

「猛くんね、正義の味方、ヒーローなんてものにはなりたくないってよく言うのよね。

 簪ちゃんの好きな特撮ものの主人公がそれに当たるのかしら。

 ああ、でも作品自体が嫌いなわけじゃないみたいだからね」

 

完全無欠、全てを救う正義の味方。そんなものは居ない。

が、それに準ずる力を持とうとも見ず知らずの相手まで助けようとは思えない。

それよりかは自分の周りの大切な人を守るためならば、己が身を粉砕しようとも抗う。

たとえ9を救えるとしても切り捨てる1が身内であるならば、全てを敵に回しても構わないと彼は言う。

 

「言うだけなら、妄言みたいなものだけど猛くんには

 それを実現させることの出来る(天之狭霧神)を得ている。

 今のところ、あれを悪用するつもりはないし、多分あり得ないとは思うけど

 彼、私たち、簪ちゃん、箒ちゃんや鈴ちゃん、シャルちゃんを守るためならば

 戸惑うことなく持てる力を際限なく振るうわ。それが少しだけ心配ね」

 

そう言葉を結んだ楯無の表情は今までほとんど見たことのない憂いの色を仄かに含んでいた。

 

 

 

「ん? どうした簪。俺の顔に何かついてる?」

「あ……、ごめん……何でも、ない。そ、そうだ……これ、中見てほしい」

 

ついじっと見つめていたことに気づかれて気まずくなった簪は頬を軽く染めて視線を外す。

そしておもむろにずっと手に持っていた紙袋を差し出してきた。

中身を確認して欲しいといった風に渡された紙袋の中を見るといろんなDVDが入っている。

魔法少女ものに、ラブコメ、勇者ロボシリーズと多種に渡る。

メジャーなものからあまり知られていない作品までいっぱい詰まっていた。

 

「そ、その私が見て気に入ったもの集めてみたの……。よかったら感想聞かせて、ほしい」

「ありがとう。簪のおすすめって意外な複線とかもあるから、それ探すのも楽しいし今度見てみるよ」

 

笑顔を向けると、ポッと頬を赤らめる簪。力いっぱいスカートを握り締めて何度も深呼吸を繰り返す。

はて? と首をかしげる猛に対し、彼女はようやく決心がついたのか勢いよく顔をあげて大きく声を張り上げる。

 

「だ、大好き……っ!!」

 

廊下に響いた声になんだなんだと部屋から女子たちが顔を出す。

同性からの視線が集まる前に、頭から湯気を出さんばかりに真っ赤になっている簪は走って先に行ってしまった。

 

「えーっと……簪さーん」

 

声をかける間もなく走り去った簪に呆気にとられた猛も、何とか再起動して

そのままつったったままでいる訳にもいかず、渡された紙袋を持ったまま事情聴取に向かうのであった。

 

 

 

 

 

(あ、あわわ……い、言っちゃった。た、猛に好きって言っちゃった……!)

 

一世一代の告白をしたつもりの簪は頭の中で思考がぐるぐると輪を書いてそのうちバターが出来上がりそう。

 

(お、おかしなこと言ってないよね? 私変なことしてないよね……?)

 

興奮冷めやらぬ脳を稼働し、先ほどの甘いけど大切な記憶を思い返す。

……そして、少し冷静さを取り戻すと立ち尽くしてしまった。

 

「わ、私……何が好きなのかちゃんと言ってない……?」

 

ただ想いを伝えるために大好きと声を張り上げたはいいが、肝心の主語がすっぽり抜け落ちてしまっている。

これでは渡したアニメが好きなのか猛のことが好きなのか分からない。

交際してほしいと告げたわけではないので返事が貰えなかったのは仕方がないとはいえ

もう一人の男性適性者の「朴念仁の王」に比べればお気遣いの紳士な彼は分かってくれるやもしれない。

が、今までは興味がなく聞き流していた本音の話を思い起こせばすでにライバルは3人も居るし

関係の進展からいって自分は大きく出遅れている。

更に考えたくもないがあの姉が参戦する可能性も無いわけではないのだ。

しかし、あの勇気を振り絞った告白の後どういう顔をして会えばいいのやら。

 

「うぅ……ううぅ……」

 

うろうろしつつ散々悩んだ簪は半分涙目になりつつ、猛の携帯アドレスに対して

きちんとした恋文メールをしたため送ったのだった。


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