IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君 作:テクニクティクス
とある放課後、猛はラウラと連れ添って駅前にやってきていた。
後日に控えている一年生合同大運動会の備品の買い出し班に二人は任命されたので、空いている時間を利用して購入の最中だ。
詳細は知らされてないがあの騒ぎの好きな会長のことだ、余計な特典も付いているのが予想できる。
「はぁ……、また余計な茶々入るのかなぁ」
「何だ早々ため息なんかついて。私と一緒に買い出しするのがそんなに嫌なのか?」
「いやいや、そんなことはないよ。
むしろラウラは一夏の方が良かったろうし申し訳ないくらいかな」
「そこまで気遣いしなくてもいい。決められた役割をきちんとこなすのも大事なことだ」
メモを取り出すと購入するべき品物の確認を行い始める。
「えーと……あんぱん50個。これは後で配送してもらうか」
「なんだそれは? 何に使うんだ?」
「パン喰い競争に使うんだよ。コースの途中にぶら下げて、手を使わず口でキャッチしてまたゴールへ目指すのさ」
「それにどんな意味があるというのだ」
「そういう競技だからとしか言いようがないなぁ……」
後ろをとことこ付いてくるラウラと一緒にパンの注文を済ませる。
「あとは何だ?」
「残りは鉢巻に軍手とかかな」
「ふむ、それも全部学園に発送してもらうのか?」
「そうなるね。流石にこの量全部持っていくには辛いし……」
メモ帳を見ながらぽりぽりと頭を掻く猛に、首をかしげて「?」を浮かべるラウラ。
「なぁ、この買い出し班二人もいらなかったのじゃないか」
「うーん、そうかもしれない。ただ何の役割もない人を作りたくなかったってものあるのかも。
仕方ないか。注文済ませたらどこかのカフェでお茶でも飲んで帰るとしよう」
「なら私は行きたいところがあるぞ! 新作の抹茶シェイクというのを飲んでみたいのだ」
ラウラに促されるまま、猛は彼女の後ろをついていく。人通りの多いモール内を歩いていきお目当てのカフェを見つける。
席の確保をラウラに任せて猛はレジにて注文をする。
「えーと、新商品の抹茶シェイクを二つください」
「申し訳ありません。只今材料を切らしていて、一つしかご用意できません」
「そうなんですか。それじゃあ、シェイク一つとアイスチャイラテ
シナモン多目の豆乳ミルクを」
「畏まりました」
会計を済ませると、シェイクとチャイを乗せたトレーを受け取りラウラを探す。
窓際の風通しのよい席に座っているラウラが手を振っているのを見つけて向い合せに座る。
「おまたせ」
「いくらだった? 代金は払うぞ」
「そこまで高いものじゃないし、おごるよ」
ならありがたくと、ラウラはシェイクに口をつける。一口飲んでその顔に驚きの色が現れる。
「う、うまい! なんという美味さだ!
これは……はちみつ? それとあんこが入っているのか?」
キラキラと表情を輝かせてシェイクを堪能しているラウラを見ながら猛もアイスチャイを飲む。
豆乳で若干香辛料のクセが抑えられているが、シナモンを多目にしてもらっているので完全に消えたわけではない。
好き嫌いが分かれるとは思うがこのクセがチャイの味のひとつだと感じながらストローを啜っていると、少し落ち着いたのかこちらを見つめているラウラと視線が合った。
「ん? どうしたの」
「ひ、一つ猛に聞きたいことがあってだな……。そ、その……」
普段思い切りのいいラウラ(それが若干ネジの外れたことを言い出したりもする)が顔を赤らめつつ、もじもじとしている。
意を決したのかスカートをぎゅっと掴んで口を開いた。
「こ、この間の襲撃事件の電脳世界でのことだ! ほ、本当に恋人同士はあ、あんなことをするのか!?」
彼女の勢いよく飛び出した言葉に一瞬あっけにとられてぽかーんとしてしまう。
またいろいろ思い出し始めているのか茹で蛸のようになりながらぽつぽつと言葉を紡ぐ。
「キキ、キ、キスをしたり、裸で一緒のベッドに寝れば子供が出来るわけじゃないのかっ!?
本国のクラリッサに通信で話したら”少佐も大人の階段を昇ったのですね”とか言い出して
いろいろ凄い漫画データを贈ってきて、もし、あ、あんなことされたら……私、こ、壊れてしまうぅ……」
一応耐性は付いて来ているのかオーバーヒートはしていないが、赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくると信じている子にえげつない現実を見せつけたようなものなので
まだ完全に受け入れられてはいないのだろう。
今ここで保険の授業とはやらずとも、正気を失って暴走してしまったのは事実だ。ある程度のフォローを入れる。
「いずれはちゃんと学ぶことなんだけど、ああいうことをすると子供が生まれるんだ。
一度織斑先生とかに聞いてちゃんとした知識を身につけておくといいよ。
あと、クラリッサさんだっけ? その人がくれた漫画の内容、鵜呑みにしないでね。
ああいうのはフィクションなんだから」
「う、うぅ……分かった。教官にそれとなく聞いてみる」
落ち着きを取り戻したのか、置いておいたシェイクを手に取りずずずと中身を啜る。
ふとラウラを見ていると頬に跳ねてしまったのか、クリームがついていた。
おもむろに指で拭い去ると、そのまま口に運んで舐めとってしまいラウラが声にならない悲鳴をあげる。
「ぴぃっ!? ななな、何てことをするんだっ!?」
「あ……。ごめん、鈴もよく頬に何かつけるからつい自然にやっちゃった」
「おおお、お前はぁ……っ! そういうところが破廉恥なんだぁ!! もっと慎みを持てぇ!」
涙目になりつつ駄々っ子パンチを繰り出してきたラウラを何とか宥める。
寮に帰った後、ラウラは織斑先生に突撃したようで先生は普段の凛々しさが半分以下になりつつも、山田先生も交え何とか保健体育の基礎は教えられたようだ。
◆ ◆ ◆
急遽決まったこの一年生のみの代表候補生対戦大運動会。優勝者が猛と一夏、どちらかを選び同じクラスと部屋を共にし二位は残った方を得て、他全員は別クラスとなる。
当然不満は溢れ出て、参加できない上級生は我々も争奪戦に参加する権利はあると非難轟々。ちょっとした騒動も起こった。
最終的に楯無が設定した『裏方ポイント』なるもので、一定以上の貢献をした生徒には男子に何かさせる権利を与えられるということで一旦沈静化した。
見事なまでに晴れ渡った秋の空。大きな歓声が響き渡る中、グラウンドで闘志を燃やすチーム代表六人と何故か居る黒一点。
「あのー、楯無さん。何で俺もこっち側なんですか? 一夏と一緒に実況席じゃないんですか」
「んー。それがね、ただ皆を争わせるより一人くらい妨害ユニットが居ると面白いじゃない?」
「そうなんですかー。ならそこで俺関係ないしと平然とした顔してやがる一夏こっちに下さいよ」
指を突き付けた先には実況・解説役の楯無の横にしれっと座ってすまし顔の一夏の姿。
「ごめんねー。もう一夏くんには実況担当の役職振っちゃってるの」
「そういうわけだ。悪いな猛、頑張ってくれ!」
被害を免れたからか、最高にいい笑顔でサムズアップする幼馴染。ぎぎぎ……と歯ぎしりする猛を見て愉悦する。
まだ何か文句をつけたいのだが、ふいに誰かに腕を取られてずるずると引きずられていく。
「ほら、猛。いちいち突っかかってないであたしの柔軟に付き合ってよ」
鈴は皆と同じ学園指定の体操服、ブルマに身を包み身体をほぐしている。
小柄で引き締まったそのボディは健康的な色気があって胸をときめかせる。
地面に腰を降ろし、大きく股を開いて柔軟体操を始めた鈴の背をゆっくりと押す。
「んっ……く、ぅぅ。も、もうちょっとだけ強くしていいわ……」
筋肉がほぐれてきて、血行がよくなった鈴の身体はほんのり桜色に染まりだし女の子らしい良い香りがする。
体操服越しに手のひらへブラの形状が伝わるので少しどぎまぎしながら、力加減を調節しながら背中を押す。
柔軟を終わらせてすくっと立ち上がった鈴は腕を回しながらよしっと気合いを入れる。
「うん、身体も温まったし調子は最高ね。じゃ、最後の仕上げっと」
爽やかな笑みを浮かべて、猛にしっかり抱きついて自分の方に引き寄せ自分の唇と触れ合わせる。
数秒後、柔らかく張りのある鈴の唇が離れていくのに若干名残惜しいものを感じてしまう。
「ちょっ!? 鈴、いきなりは」
「えへへ。ちゃんと元気貰えたわ。今度こそあたしが猛と同じ部屋になるんだから負けられないし」
文句を言おうにも、邪なものは一切感じない鈴に対し強くは出れない。もう一度ぎゅっと抱きついてきた鈴は50m走に出るため元気よく走って行った。
「た、楯無さん? どうしたんですか?」
「何でもないわよ一夏くん。ただちょーっとイラっとする光景が目に入っただけだから」
◆ ◆ ◆
競技は進み、無難な解説をする一夏だけでは盛り上がらないと、この手の賑やかしは十八番な新聞部の黛と楯無が交互に熱い実況をする。
「さぁ、次なる競技はIS学園特別競技『玉打ち落とし』だー!!」
各チームはISを使い空から降ってくる玉をひたすら撃墜し続けて総合得点が高い者が一位となる。
なお今回の競技ではISスーツを身に着けるのを禁止され、皆はブルマ姿で居る中現れたフルプレート姿の黒灰の者。
「そしてぇ! ここで妨害キャラとして猛くんの投入よー! 彼が落とした分はマイナスとして各チームに振り分けられるから頑張ってね!」
「ふ、ふふ、ふざけるなぁ!!」
各代表候補生から非難轟々の悲鳴が上がり若干ヘコむ猛。
抗議の声など知りませんと聞き流す楯無を横目にそっとシャルロットから通信が。
『あの、猛? 少しは手心を加えてもらえると嬉しいんだけど』
「うーん、そうしたいけれどやっぱりあんまり手を抜き過ぎると楯無さんに睨まれそうだし……ごめんね」
『うぅ……だめかぁ』
射出装置に円陣を組むように一年生の専用機が並び立つ姿に皆の熱気も上がっていく。
固唾を飲みながら号令はまだかとはやる気持ちを抑えながら、集中する。
「それでは玉打ち落とし、スタート!」
開始と同時に装置から色とりどり大小さまざまなボールがはき出される。
それぞれが軽く飛翔して、照準を定めて撃ち抜こうとする前に光の流星群が一帯を薙ぎ払った。
「まずは手始めに得点を多目に頂いておこうかな」
『きゃー!! 猛くんの早撃ち炸裂ー! お姉さん嬉しくておかしくなっちゃいそう!』
『え、あの楯無さん?』
『……はっ!? こほん。猛くんがスタートダッシュを決めて大幅リード! 他チームも点数稼がないとヘタしたらマイナスもあり得るわよ?』
一瞬タガが外れた叫びをあげたが、一夏の困惑した声に正気を取り戻して少し落ち着いた実況に戻す楯無。
その後は浮遊小型機を使い、堅実に点数を伸ばしていく猛に必死に追随していくシャルロットたち。
後半に入り、いまいちポイントが伸び悩む箒は一発逆転の方法を考えていた。
(……そうか! この手があったか!)
射出装置の出口ギリギリに<<穿千>>を放てば――。
肝心なのはタイミングと悟られないこと、特に猛には勘付かれるわけにはいかない。
空中戦を行い各々が獲物を奪い合うなか悠然と佇む狭霧神。
慎重に且つ素早く地面に降り立つと肩部ユニットを展開し、大出力エネルギーカノンにエネルギーを充填させていく。
が、荒れた現場では予測不明の事態が起こりやすい。連鎖的に弾や爆発が繋がって、その余波で箒は体勢を崩してしまう。
結果、照準がずれてエネルギー弾は的から逸れて競技装置に命中すると派手な音を立てて爆散する。
そのペナルティとしてマイナス200点を負わされた箒は叫びをあげて崩れ落ちた。
その後、軍事障害物競走という銃器を組み立てて、的を射抜くという変わった競技をこなしつつプログラムは進む。
現在行われている種目は借り物競争。鉢巻き、タオル、水筒といったこの場にありやすい物から
教科書、ペンケースと探すのに時間が掛かるもの、人物そのものといった多種多様なものを連れてゴールに駆け込んでいく。
猛もこの競技に参加することになり、スタートラインに並び合図を待つ。
ピストルの音が鳴ると同時に全速力でお題の入った封筒を探す。まぁ、その封筒は色分けされていて猛専用お題が書かれているらしく、悪意がないことを祈りつつ封を開ける。
「…………」
数秒出てきた紙を見つめた後、応援席へ駆け寄ると大きな声で名前を呼んだ。
「箒! それと鈴! 来てくれ!!」
チーム代表ではあるが、競技参加していないのならクラスメイトと混じって応援している候補生たち。
名前を呼ばれた二人は何か必要なものがあるのか聞きに猛の傍までやってきた。
「何よ? あたしと箒二人とも呼び出すなんて」
「今は説明している時間が惜しいから、鈴、俺の背中におぶさってくれ」
「えっ!? い、いいの? そ、それじゃあ失礼して」
普段から抱きついたり、のしかかったりしている鈴ではあるが今は運動会の真っ最中。
いっぱい動いているから汗もかいているし、匂いも強くなっているかもしれない。
おずおずと負ぶさり変な臭いしてないか少し不安げになる鈴の、背中に押し付けられた胸の柔らかな感触と熱いくらいの体温にどきっとするがあまり意識しないようにしつつ段々不機嫌になっていく箒の方へ向き直る。
「……なぁ、何故私は呼ばれたんだ? 鈴に用があるなら一人だけ呼べばいいだろう」
「いやいや、箒にも用あるんだって。そのまま暴れないでいてな」
彼女の背と足に腕を回すと、ひょいっと軽く持ち上げてしっかり抱きとめておく。
いわゆるお姫様抱っこ状態にされて瞬間的に真っ赤に顔を染める箒と、ぎりぎりと首に圧を掛け始める鈴。
「あ、わ、わわわ……こ、こんな恰好は……」
「…………」
「それじゃあ、行くよ」
そのまま二人を連れてゴールへ駆けていく猛だが、流石に女子二人を抱えたままスピードは出せず四位に。
そこへお題に適した物を持ってきたかを確認するため黛がやって来る。
「お疲れさま~。二人を抱えたままでも四位に入るとかなかなかやるね」
「いえ……さ、流石につ、疲れました……」
「さて、それじゃあ猛くんのお題は……『あなたの大切な幼馴染』。えっと、これは」
「その、二人を選びきれなかったので、何とか箒と鈴を連れてきたんですが……キツかったです」
一瞬場が静まりかえると、会場が揺れるほどのタラシコールが巻き起こる。
この好き者だのすけこまし野郎、どこのバルキリーパイロットだと結構なことを叫ばれているが本人は気にせず手を振り返しているし、皆も悪意ある風ではない。
選ばれた箒と鈴も、頬を薄く桜色に染めて満更でもないらしいが、シャルロット、簪、楯無の嫉妬のボルテージは上がっていく。
「ふ~ん。二人のうちどちらかを選ばせて修羅場っぽくなったのをいじってあげようとしたのに
面白くない結果になっちゃったわね。ま、仲間外れな二人を
「た、楯無さん。怖い、怖いです。もっとオーラ抑えて」
ジト目、扇子で口元を隠す楯無は今までの中で一番おっかない雰囲気を纏っていて
案外この席は安全じゃなかったかもと今更ながら後悔している一夏だった。