IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君 作:テクニクティクス
京都駅に着いた一行は階段の前で全員が揃った状態で記念写真を撮る。
さて、任務に当たろうかと意気込んでいるところへ楯無が水を差す。
「あ、いいわよ今は京都を満喫してて」
「え?」
「実は情報提供者を待っているんだけど、昨日から連絡がとれなくなってね。仕方ないから私が探そうと思うの」
「え、えーと?」
上手く状況が飲み込めない一夏に対し、ぽんっと背中を押す。
「とにかく京都漫遊を楽しんできなさい。撮りたい写真もあるんでしょう?」
「それは……まぁ」
意外と思われる一夏の趣味に写真撮影があり、年季の入った一眼レフを首から下げている。
「じゃあ、俺はその辺ぶらぶらと散策してきます」
「ほら、猛くんみたいに気楽に行ってくればいいの」
「分かりました。それじゃあ」
どこの観光スポットを巡るか相談している箒たちや一夏と離れる猛。
道に迷ったならスマホかいざとなれば霞に頼ればいいと、大通りから路地裏へと入っていく。
人でごった返す通りに比べると物静かでこれが侘び寂びというやつかと思う。
角を曲がった先の辻の真ん中に真っ白な猫がじっと猛を見つめていて、一鳴きするとついてこいとばかりに歩き出した。
幾多の角を曲がってゆくうちに、現在地も分かりにくくなり時間も結構経ってしまっている。
(そろそろ戻った方がいいかもしれないな……)
帰り道を模索しようとした時に、ふいに白猫が跳ねて女性の肩へと飛び乗った。
「おかえり、『シャイニィ』」
どうやら飼い主らしい女性は随分奇抜な格好をして、独眼竜のような刀の鍔を使った眼帯。
着崩した着物からは肩から胸元まで露出していて、事故と思わしき火傷の痕に欠損した右腕。
赤い髪と相まって時代が時代なら傾奇者と言われても違和感がない。
「キミ、相がよくないネぇ」
「……は?」
煙管を取り出して紫煙をくゆらせつつ、じっと猛を見つめてくる。
古都の雰囲気と合わさり、不可思議な状況に上手く反応できないが今のところ敵意は感じられない。
「んー、なんていうかサ。ハレのち女難の相、そしてキミにお熱の子が会いに来るって顔に出てるのサ」
「…………」
「気をつけなよってことサ。じゃあね」
髪と同じ真紅の着物を翻して女性は去っていった。
「易者さん、だったのかな……?」
幻想的な雰囲気に浸っていた猛をメールの着信音が現実に引き戻す。
『すっごく美味しそうなお菓子屋さんを見つけたのでよかったら来てください』
添付してあった地図画像に赤丸がついており、几帳面なシャルロットらしいなぁと。
ナビアプリを起動させて、彼女のところへと向かう猛だった。
付近に着くとぶんぶんと元気に手を振るシャルロットと、控え目に手を上げている簪の姿が。
二人はいつもの制服姿ではなく、着物へと着替えていてシャルロットは橙、簪は水色の振袖姿。
両者のイメージカラーがとてもよく似合っていて結い上げた髪がまったく別人に彩っている。
「二人とも凄く似合っているじゃないか」
「えへへ、ここのお菓子屋さんで着物体験コースをやってたから♪ 特にね、簪って凄いんだよ?
僕の着物も選んでくれて、髪も綺麗に纏めてくれたんだ」
「べ、べつに……普通のこと……」
流石は更識家のお嬢様、こういったセンスはお手の物らしく普段の姿から比べると楯無より簪の方が似あってはいる。
ポケットから一夏のとは違う、どこの量販店にでもありそうなデジカメを取り出してピントを合わす。
「ちょっと写真撮らせてもらっていいかな? もっと二人とも寄って?」
「うん、綺麗に撮ってね」
「ぴ、ぴーす……」
はにかむ二人を写真に収めて、三人はここのおすすめである団子を注文する。
しばらくした後、やってきたみたらし団子を口に運ぶ。
とても濃厚なあんが口の中に広がって、柔らかくて美味しい団子がまた堪らない。
「うん! すっごく美味しい!
「……私的には三つ星つけてもいいくらい」
「うーん、これだけ旨いのなら餡団子も食べたくなるな」
「あ、もう猛ってば頬にたれが付いてるよ。しょうがないなぁ」
頬についていたみたらしあんを指で拭ってそのまま舐めてしまうシャルロット。
つい自然にやってしまったことだが、何をしたのか分かった途端頬が朱に染まっていく。
「……あ、あの猛。私のも拭いてほしい」
簪の方へ視線を向けていくと、おそらく自分でつけたのだろうあんが頬の真ん中辺へちょんとついている。
ハンカチを取り出して拭こうとしたところ、その手を掴んで何かをねだる目でじっと見つめてくる簪。
意外と押しの強い彼女に負けて最後まで見届けるという視線に、仕方なく指についたあんを舐めとる。
「あ、あはは……」
(つ、つい勢いで恥ずかしいことをしちゃった……)
乾いた笑いをあげるシャルロットに、今更恥ずかしくなった簪。いたたまれなくなった猛はその場を離れることにした。
京都の名所のひとつ、鴨川。恋人同士で溢れている河原に箒、鈴に挟まれるようにしている猛。
あの後二人に見つかってそのまま散策でもとぶらぶらしつつ、ここまでやってきた。
並んで腰を下ろし、鴨川の流れをただじっと見つめている。
(どうしよう、話題がない……)
普段なら他愛もない話をしていられるが、今日に限ってネタが出てこない。
ただ無言のままでいても苦にならない幼馴染たちだが、ずっと沈黙が続くと流石にいたたまれない。
そこへ川向かいから吹いてきた風に、可愛らしくくしゃみをする鈴。
「大丈夫か? 流石に風が冷たいな。移動しようか?」
「だ、大丈夫よ! これくらい!」
「いやいや、もうちょっと待ってくれ! 私も平気だから、な!」
そう必死に言われると動こうとは出来ない。
そこで何かを思いついたのか、ちょっと待っててと言い残し
商店街の方へ行ってしまう猛に対し手持無沙汰になる二人。
「うぅ、この肌寒さなら猛にくっついていられるからここに来たけど……」
「失敗だったかもしれんな……」
少し腕を擦り体温を高めようとするなか、温かな湯気が立つ紙コップを持った猛が戻ってくる。
「はい、温まりそうなものちょうど売っていたから買ってきたよ」
「あ、ありがと」
「も、貰っておこう」
酒麹の匂いが漂う甘酒。ちょっと熱いくらいの温度だが冷えた身体を温めるにはちょうどいい。
「二人とも寒いならもっとくっついていいよ、風邪ひく方が大変だからさ」
「そ、そうか。では遠慮なく」
「し、失礼するわね……」
隙間なくぴったりと身体を寄せ合う。
触れ合った箇所から温かな体温が心にじんわりと染みていくようだ。
静かに流れゆく川のせせらぎを肴に、甘酒をちびちびと啜る。
「あったかい……」
「そうだね」
「ああ……たまにはこういうのもいいな」
いつもの騒がしさとは違う、ゆったりとした穏やかな時間を堪能した箒と鈴だった。
皆と別れて再び気ままな散策をしている猛。
古都の街並みを眺めて歩いていると、不意に視界を着物の裾で遮られた。
「さがってナ」
刹那、女性の腕が視認できない速さで動き、鈍い音を立てて煙管が何かを叩き落とす。
咄嗟に身を屈めると、地面にめり込んだ銃弾を確認した。
「これは……狙撃されてるのか」
「次、くるってサ」
幾度となく響き渡る音。何が起こってるのかは分からないがとりあえず目の前の女性に声をかける。
「あの、さっき会った人ですよね。猫をつれた」
「アリーシャ・ジョセスターフ。アーリィって呼ぶといいのサ♪」
首だけを向けてウインクをするがその間も飛翔する銃弾を弾き続ける。
「まぁ、この状況からすれば俺の暗殺。狙撃によってのものですかね」
「随分察しがいいのサ、陰の人気者の塚本猛クン。――さて本腰入れていくのサ!」
そう叫び、女性の体が光につつまれてISを纏う。第一回モンド・グロッソ準優勝者、そして第二回優勝者の機体『テンペスタ』の姿がそこにあった。
しかし、隻眼隻腕であったという映像はどこにもない。何があったのかと思う猛に微笑むアーリィ。
「ああ、こっちは事故で無くなったのサ。でもまぁ、我が『テンペスタ』にぬかりはないんだナァ!」
IS装甲によりつくられた義腕。それはさらに襲い来る凶弾を弾き続けるが、狙撃方向をじっと見つめた猛はゆらりと背を伸ばす。
「ン? どうしたのサ、立ち上がるより屈んでた方が安全ヨ?」
「アーリィさん、もうしばらく守っていて下さい。”捉えた”のでこちらからもお返しをしようかと」
八俣を顕現し、力を込めて弦を引き絞る。その瞳の先、500メートル離れた場所の狙撃者を彼は確かに射程に収めていた。
「暗殺は失敗、と。あのマセガキ、さっそく女をたぶらかしてやがるのか」
「なに、してんすか……」
「なにって塚本猛の暗殺だよ」
舌打ちをしているのは凶弾の狙撃者、ダリル・ケイシー。
そしてその傍でただ戸惑っているフォルテ。
訳も分からず強引に連れてこられたフォルテは、足元から全てが瓦解していくような感覚を覚えていた。
ダリルはあっさりと自分の正体を明かした。
己は亡国機業のメンバー、『レイン・ミューゼル』だと。
そしていつも通りの笑みを浮かべ、フォルテを甘美に誘う。全てを裏切ってついて来いと。
未だ混乱から立ち直れていない彼女と、手を差し伸べるレイン。
彼女らの葛藤、思惑、それらを全て吹き飛ばす程の痛烈な殺意。
今まで狩られるだけであったはずの獲物が牙を剥いた。
慌てて猛の方角へ振り向くと、この太陽光の中ですら一際紅く輝く星が天へ昇っていく。
一度大きく瞬いたそれは視認がやっとの速さで凶弾者へと向かってきた。
「逃げ――!」
フォルテは咄嗟にISを展開し彼女を護ろうとし、それに続くようレインも専用機を纏い<<イージス>>を――それよりも先に放たれた猟犬がビルの屋上を綺麗に吹き飛ばしていた。
目標に着弾したのを確認し、弓を降ろして残身する。
その隣には煙管を咥えて紫煙をくゆらせるアーリィ。
義眼で強化された視線の先には給水塔等諸々が掻き消え、未だ黒煙がたなびく屋上が映っている。
「……躊躇せずに、ドでかいものぶち込んだネ」
「殺すつもりでこっち撃ってきたんです。反撃されるのも想定済みでしょう?」
捉えているのなら、相手が誰なのかも分かっているはずでも平然と撃ち返した。
そして今も特に思い悩む様子もなさそうだ。
「同じ学園の生徒だとしても、まったく気にしないのかネ?」
「ああ、ダリル先輩とフォルテ先輩ですね。
今までほとんど接点もなく今日会ったばかりですし、情が湧く程の関係もないですから。
ISを展開しているのは見えたので多分死んでないから良しとします」
「いい性格してるネ。んで、そこのお前はどうするヨ?」
「……クソッ!」
建物の影から、拳銃を手に持ったオータムが姿を現した。
アーリィがレインの元へ向かっている間に猛に接触しようとしたのだが、その目論見は外れ撤退しようとした最中見つかった。
すでに『テンペスタ』を纏っているアーリィと更に狭霧神まで相手にするなど自殺行為だ。
歯噛みをしながら銃を地面に落として抵抗の意思がないことを示し両手をあげた。