IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君 作:テクニクティクス
猛、セシリア、シャルロットは詳しい経緯も知らされず、マドカに連れられるまま亡国機業が所有するジェット機に乗っていた。
おそらく欧州に向かっているのは何となく察し、半日くらいはずっと空の上に居ることになりそうだ。
対面に座るマドカのことを眺めているセシリア。
キャノン・ボール・ファストの際に襲撃してきた彼女と比べ、怖気を感じさせる程の狂気さはまったく無くなって、泰然自若として深みのあるぶれなさを得たマドカはより織斑千冬と似て見えるようになった。
「……何だ、ずっとこちらを見て」
「あ、いえ……以前に比べて様変わりしたと思いまして」
「そうか。私もいろいろ考えさせられることがあっただけだ」
「ところで、このまま何もなくずっとシートに座っているしかないのか? 流石に暇なんだが」
「ふむ……、とりあえず飲み物や軽食の類はあるようだ。好きなものを取っていい。アルコールもあるが、あまり勧めはせん」
座席から腰を上げると備え付けの冷蔵庫から飲み物を取り出すマドカ。
顔を見合わせてシャルロットとセシリアも気に入った飲み物とサンドイッチを取り出した。
そんな中、どこから見つけてきたのかチェス盤を持ち出してきた猛は、マドカの正面に陣取った。
「マドカはチェス打てる?」
「あまり得意ではないが、一応は」
「暇なんだし、しばらく付き合ってはくれないかな?」
「いいだろう。まずは長考無しで手早く指すぞ」
駒がコトコトと盤面を打つ音が響くなか、手持無沙汰で二人の対局を見るしかないシャルロット達だった。
ひとしきり全員で対戦したところ一番はセシリア、後はどっこいだがシャルロットが少し頭抜けしている風。
四人を乗せたジェット機は、ドイツのフランクフルト国際空港に降り立った。
入国審査を顔パスで通ったマドカに先導されてロビーに着いたが、若干申し訳なさそうな色を顔に浮かべている。
「すまないが、私はこれから任務にいかねばならない。引き継ぎ役がすぐに来るだろうからここで少しの間待っていてくれ」
そう言い残すと雑踏の中に消えていってしまう。一応地元に近い二人の代表候補生がいるから、緊急時には何とかなるだろうがいきなり放り出されても動きようがない。
「これは……どうするべきなんだろうか」
「ここで待つのが一番なんだろうけど……」
「引率者が私たちに気づいてくれるかどうかが問題ですわね」
「ああ、シャルロットにセシリア、猛も居るな」
聞き覚えのある声が背後から掛けられたので振り返ると、そこにはラウラの姿があった。
普通なら学園に居るはずの彼女がここに居るということは、おそらく引率者とはラウラなのだろう。
「ラウラさんがここに居るということは」
「まぁ、そういうことだ。クラリッサ経由の秘匿通信で指令を送られてきて急遽戻ってきた。断ろうにも手続きが難しくてな」
おそらく軍の将校等の上層部からの通達。もはや国際規約なんてあってないようなものだなと。
ラウラからもたらされた情報によると、遊園地に降り注いだレーザーは衛星軌道上からの射撃らしく、現状詳しいことは分からないがイギリスの開発した対IS用高エネルギー収束砲『エクスカリバー』が何らかのイレギュラーを起こしているようで、欧州の三国で秘密裡に対処したい方針らしい。そしてシャルロットには、デュノア社から最新装備の受諾要請がありドイツからフランスを経由しイギリスへ向かう。
フランス行きの急行列車に乗った猛は窓から流れる景色を見つめていた。
日本とは町の作りも自然の風景もまったく異なり、物凄く新鮮に見え外国に来ていることを強く感じさせる。
ドイツ国境を越えフランスに入ると、日本では見ることのできない広大な田園風景にヨーロッパに居るんだなとしみじみ思う。
猛はどこか気落ちしている隣のシャルロットの手を自然に握り、話しかけた。
「シャルってどこの生まれなの?」
「えっ、南フランスの田舎町だよ。ここからだとちょっと離れてるけど」
「寄らなくてもいいのか? せっかくの帰国なんだし、時間はかけられないかもしれないけど少しの寄り道くらいはいいと思うし」
「ううん、いいんだ。僕は、祖国の空気が吸えるだけで満足だよ」
実の母親の墓参りをしなくてもいいのかと水を向けたが、多くは望まない。手の中の幸せだけを大切にする。出会った頃からずっと変わらないシャルロットのスタンス。
「そっか。それじゃあ今度は任務とかじゃなく二人でシャルの生まれ故郷に来たいね」
「ふぇっ!? そそそ、それって……そのぉ……」
ぼっと顔を真っ赤に染めて、頭の中ではただの旅行をすっとばしウェディングドレスを纏い地元の教会で式を挙げていて、そしてそのままハニーナイトへと妄想がぐるぐるとメリーゴーランドのように走っている。
とりあえず元気が出たようなシャルロットを見ていると、ラウラから専用通信が入る。
『元気が出たようで何よりだ。フランスに向かう途中ずっと落ち込んでいたからな』
『シャルが学園に来た理由を考えればな……』
『いざという時には頼むぞ』
『任せろ』
夜になり、就寝する際に問題が発生した。
男子一人に女子が三人。一人だけ隔離することが出来ればいいのだが、二人部屋しか空いていないそう。なら自分一人そのまま座席で夜を明かせばいいと猛が主張しても、ちゃんと横にならないと疲れがとれないと否定。
前に一緒の部屋で生活してたんだから相部屋でも大丈夫とシャルロットが言い張るので仕方なく従うが、どこか残念そうな顔をしているセシリアが居た。
寝室のドアを開けると、十分な広さにそれなりの設備も揃い、カプセルホテルよりは快適に過ごせそうだ。
「それじゃあ、パジャマに着替えちゃうね」
「おう、なら俺も……って待て待て。自然に脱ごうとするな。外に出てるから」
おもむろに目の前でシャツを捲りあげて可愛らしいブラとおへそが惜しげもなく晒されている。
おずおずと裾を降ろすがこちらに背を向けて小さな声でしゃべるシャルロット。
「う、後ろ向いててくれれば大丈夫だから外に出てなくても、いいよ……」
ちょっとどぎまぎしながらお互い着替えを始め、彼女の衣擦れの音がどうにも気まずさを感じさせてしまう。
もういいよと言う声に振り向くとシンプルなストライプ柄のパジャマに着替えたシャルロットの姿があった。
「その恰好は初めて見るな。布仏さんみたいな着ぐるみパジャマはよく見たけど」
「あれは学園内の寮だから着れるの。こういう時には持ってきてたりはしないよ」
「そうなのか。――く、ぁぁ……っ。ごめんシャル。どうにも眠くて。もう寝てしまってもいい?」
「セシリアとのデート中にいきなり連行されてだもんね。いいよ、お疲れ様」
二段ベッドの上に登ろうとするシャルロットを猛は引きとめて、はてなを頭の上に浮かべる彼女を下段のベッドに誘う。
こんなところで何て大胆な! と一瞬で妄想逞しく赤熱する彼女の頭を優しく撫でる。
熱は冷めていく代わりに暖かなものが胸の内をじんわりと満たしていく。
明かりを消し、胸元へ頬を寄せてぎゅっと抱きついて一緒に寝転がるシャルロット。
「やっぱりまだ怖い?」
「うん……。だけどいずれは向き合って、解決しなきゃいけないことだから」
「でもあんまり気負い過ぎなくてもいいよ。ラウラもセシリアも居るし、学園に戻れば一夏や箒たちも居る。シャルは決して一人じゃないから」
「えへへ……、そこは俺がお前を守ってやるって言うところじゃないの?」
「あー、まぁ……うん、ちゃんと守るよ」
「そう言ってくれるだけでも僕は嬉しいよ。……ねぇ、キスしてくれない?」
潤んだ瞳をそっと閉じて、顎を軽く上に向ける。そのままお互いの距離が隙間なく埋まり穏やかな時間が過ぎていく。
勇気と元気を貰ったシャルロットは、愛しい人の腕の中に抱かれて安らかな眠りへ落ちていった。
◆
パリに到着し、列車から降りるとあまりの寒さに猛は身を震わせる。
何しろ札幌より北に位置し12月下旬ともなれば仕方ないことだ。
駅で待っていたシャルロットの使用人に案内され、リムジンに乗り込むとデュノア社に向かう。
特設アリーナの前でシャルロットは自分から彼に身を委ねて、猛も優しく抱きしめ返す。
「……最後まで、勇気貰っちゃったね。もう大丈夫だから、行ってくるね」
そう言い残して実父との対面に向かう。
セシリア、ラウラと猛の三人は控室のようなところに案内されて彼女が戻ってくるのを待つ。
親友であるラウラが落ち着いている風に見えても、長い付き合いで不安が隠しきれていないのが分かる。
一時間後、ようやくシャルロットが戻ってくるがあまり気落ちしている感じはない。どうやら少しずつでも歩み寄れたのだろう。
「シャルロット。大丈夫なのか?」
「うん、ありがとうラウラ。セシリアも心配してくれてたんだよね」
「当然ですわ。蟠りが若干溶けたようでよかったですわ」
「あー、それとね。ごめんね、猛にはちょっとお願いがあるんだ」
今まで扱っていたリヴァイヴ・カスタムのデータを流用し作り上げたシャルロットの専用機、リィン=カーネイションだが、起動は出来たがまだ細かい調整が済んでおらずこのまま実戦とは流石に不安が残る。
そこで猛の狭霧神との練習試合という形で慣らし運転を行えないかと。
『いいのではないでしょうか? こちらも完全修復が終わってから本格的な調整はまだなので願ってもない案件です』
霞にも薦められてアリーナに二人が対峙し、いざ開始のブザーが鳴る直前に不明機が乱入してきた。見覚えのあるシルエット、アラクネが姿を現してセシリア、ラウラもISを纏ってアリーナに飛び込む。
「……何をしに現れたんですか」
「はぁ? 察しの悪ぃガキだな! 最新鋭機体をいただくつもりなのさ!」
「今俺達がここにいるのはマドカに半分拉致されたようなものなんだけど、その情報とかは入ってないの?」
「……あぁ!? あたしはそんな話聞いてねぇぞ!」
悪の組織だとしても、報告・連絡・相談くらい隅々まで徹底させてくれとぼやきたくなる。
アラクネに向けて親指で何かを弾くような仕草をした一瞬の後、巨大な物体が激突したかのような轟音を立てアラクネが縦に一回転する。
そのまま派手に地面に倒れ伏し、動く様子もない。
『龍咆を真似た空気圧縮弾を眉間に撃ち込んでやりましたが、絶対防御が発動したようでしばらくは目を覚まさないでしょう。これでシャルロット様との練習に集中できますね、マスター』
「……何だか少しだけあの方が可哀そうに思えてしまいますわ」
「同感だ。猛に借りた漫画で似たような目に遭うのがいたな……えーと、か、かませ犬か?」
鈴の故郷のおやつタイムを冠したキャラか、刀を集める物語のへんてこ名で呼ばれる忍者軍団か……。オータムを拘束しつつ邪魔にならないところへ移し、今度こそシャルロットと二人きりで模擬戦を行い慣らしを終えた。
その後イギリスへ向かう空港で、一人だけ少し別の場所に連行され入念にシャルロットの執事にお嬢様のことをくれぐれも頼みますとしつこいほど釘を刺され、開けたらヘタすりゃ死ぬんじゃないかと思う位に怨念の籠ったデュノア社長の手紙を渡され流石に冷や汗が。
「だ、大丈夫? 何かジェイムズに連れて行かれてから凄い汗かいてるけど……体調とか悪い?」
「いやいや、何でもないです」
一行は空路で最後の目的地へと向かった。