IS<インフィニット・ストラトス> IS学園の異分子君   作:テクニクティクス

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第9話

学園トーナメント当日。猛とシャルロットは控室で待機していた。

アリーナの観客席はほぼ満員状態で来賓席までぎゅうぎゅうだ。

 

「しかし凄まじい人の集まり方だな」

「そりゃそうだよ。三年生はスカウト、二年生は今までの成果を見せたり、期待のルーキーの発掘まで出来るんだもの。

 各国の要人に軍関係者、IS関連企業の研究員なんかが一堂に会するのなんてそうそうないんだよ?」

 

そんな中、二人の表示枠が現れて一回戦の組み合わせが発表される。

 

<<第一回戦 塚本猛 シャルル・デュノアペア 対 ラウラ・ボーデウィッヒ 織斑一夏ペア>>

 

「こ、これって……」

「こんなことってあるんだなぁ」

 

あの後の一夏は最後まで逃げ続けて結局ペアが決まらず、同じくペアを決める気すらなかったラウラと共に

ランダムに選ばれて、乱数の神のいたずらが起こったらしい。

いっそのこと、箒と組めばよかったものの、この試合でもし彼に勝つことができたなら一夏と付き合うと宣言してしまったため

ペアにはなれなかったが、この結果を見ると逆にタッグを組んで優勝した際告白したほうが……。

たぶん今、誰も居ないところでのの字を書いているやも。

 

それが尾ひれをつけて拡散し、タッグトナメで優勝者は一夏か猛とお付合いできるという話題になり

鈴が事実を知り、怒髪天を突いたのは別の話。

 

『猛聞いてる!? あのいけ好かないドイツ人、あたしの代わりにぼっこぼこにしておいて! ぶざまに負けたら承知しないから!』

『シャルルさん、わたくしの名誉を見事取り戻してくださいまし。鈴さんと一緒に応援していますわ』

 

試合内容を見て彼女らからの叱咤激励が通信で入る。

 

「これは責任重大だね」

「一夏は複雑な気持ちだろうけど、手は抜かない。一緒に頑張ろうな」

 

拳同士をこつんと突き合わせて二人はピットに向かった。

 

 

 

 

 

 

射出カタパルトから出撃すると、先に出ていた一夏とラウラの前に猛とシャルロットは向かい合う。

相変わらずの鉄面皮と随分複雑な表情を浮かべている一夏。

 

「とりあえず、布仏さんか他のクラスメイトに一応声をかけておくべきだったな」

「あの状況じゃそんなこと考える余裕はなかったんだよ……」

「あはは、後悔後先に立たずってことだね」

「しかし、試合は試合だ。全力でいくから、本気で来いよ」

「分かってるさ」

「織斑一夏……私の邪魔だけはするな。すればまずお前から撃墜させる。そして塚本猛、今度こそお前を叩き潰してやる」

 

最初から協力する気が更々なく、誤射と称して一夏を撃ちかねないラウラ。

猛ペア、一夏ペア、両者気を張り詰めさせていると試合開始前のカウントダウンが始まる。

 

――3、2、1、0!

 

「先手必勝!!」

 

シグナルが零になった途端、瞬時加速で猛に突進をかける。

まだ武装をコールしていない状態の猛に何か装備を持ち出される前に零落白夜で速攻落とすつもりのよう。

上段から振り下ろされた雪片が袈裟掛けに切り捨てる――はずだった。

 

「な、なにぃ!?」

 

必殺の一撃になるはずの一刀は、猛の呼び出した身の丈を覆い隠す巨大な大岩のようなタワーシールドに防がれていた。

瞬時加速の勢いを乗せた斬撃を後ずさりすることもなく容易く受け止めたことから、重量はいかほどの物なのだろう。

 

「確かに白式の単一能力は恐ろしいが、エネルギーシールドを失わないものならそこまで脅威ではないな。

 では、今度はこちらからいかせてもらうぞ!」

 

狭霧神の馬力をいかし、超重量の大盾を振り上げ、雪片弐型を吹き飛ばす勢いでのシールドバッシュ。

体勢の崩れたところに、これまた途轍もない大きさの鎚を振りかぶる。

逃げようとする一夏に鎚は振り下ろされて、聞く者がおもわず瞳を閉じてしまいそうな破砕音が会場に響き渡る。

地面に猛烈に叩きつけられて、砂埃が舞う。

そんな一夏を気遣うこともなくラウラは猛の背後に回り、レールガンの照準を狭霧神に合わせる。

 

「馬鹿め! そんな重装備でまともに回避が出来ると思っているのか!」

「そっちこそ、これはタッグマッチだってこと忘れてない!?」

 

レーゲンの周囲を旋回しながらリヴァイヴは両手のアサルトライフルを掃射。

咄嗟に回避行動を取るが、接近してこようとしないシャルロットに怪訝な表情を浮かべるが

攻撃アラートに気づいて、半身をずらすと数センチ先を巨大な光の柱が通過する。

 

「おっしーい」

「貴様……! これでもくらえ!」

 

ラウラが目を離してしまった猛は、大型プラズマキャノンをコール。

アリーナ下部から上のラウラに向けて放ち、砲身が冷却のための白煙をあげている。

6機のワイヤーブレードを全て狭霧神に射出し、前方の逃げ道を塞いだところ落下していた一夏が復帰。

挟み撃ちの形に陥る。

 

「今度こそ……ぉ!」

 

当たりやすいよう雪片を脇構えにして、猛の胴を薙ぐつもりだろう。

キャノンを量子変換し重量を軽くしたのち、背面を向けたまま後方に瞬時加速。速度の乗りきらない白式の懐に潜り込む。

勢いを殺さないまま、半身を開きつつ丹田に力を込めて、一夏の両腕の間に自分の腕を突っ込む。

虚空を踏みしめると同時に腕をひねって鳩尾をえぐる。肉を叩き潰したような耳障りな音が大気を裂いた轟音の後に続く。

 

「ぐは……っ、ぐ、う、うぇ……っ!」

 

ぎりぎり嘔吐は免れたが、瞳孔がほぼ開ききり、しきりに咳とえずきを繰り返す一夏を肘鉄でもう一度地面に縫い付ける。

白は再び地に落ち、黒は回避を行う。それを囲うように周回を回り続けて弾幕を張る橙と暗灰色。

猛は多数のチャクラムのようなチェーンソーの刃が付いた投擲武器をラウラに向けて放つ。

耳障りな金属音を立て所狭しと浮遊して、不規則な起動で襲い掛かり冷静さを失わせる。

 

「この、こんなこけおどしなど……!」

 

レーゲンのAIC領域を最大に高めて全てのチャクラムを静止させるが、リヴァイヴがミサイルポッドを展開し弾幕がラウラに迫る。

だがそれを読んでいた彼女はワイヤーブレードでミサイルを迎撃。爆風範囲外から全て迎撃を成功させる。

シャルロットに意識をとられてしまっていたラウラは猛が弓を引き、投擲武器を射抜こうとしていたのに気がつかなかった。

光の矢がチャクラム型の武器を貫き爆発、その衝撃で集中が途切れてAICが解除。

次々と誘爆する中、先ほどのより大きなミサイルが真横に飛来していた。

 

(くそ、今までの全てが囮だったということか!)

 

ミサイルの爆音が会場を満たす。

致命傷は避けられたが中型ミサイルの爆風で決して軽くはないダメージを負うラウラ。

戦いはまだ続いていく。

 

 

 

試合が始まってしばらく時間が経ち、ラウラは焦燥に駆られていた。

AIC対策のつもりなのだろう、基本的に銃撃などの長距離に主体を置く戦い方をする両者。

 

それだけなら、実力の差で押し切って無理やり接近戦をおこなってしまえばいい。

が、実弾は豊富でもエネルギー武器が少なく、近接格闘を不得手とするシャルロットを庇うように猛がカットを行い

すぐさまリヴァイヴがフォローに回る。元々あてにはしていなかった一夏は序盤で徹底的にいたぶられた所為か

まだ闘志は萎えてはいないものの、接近戦しか出来ない白式は狭霧神と相対すると、若干攻撃に怯えが混じって動作が遅れる。

故に、ほぼ2対1の状況に持ち込まれてじわじわとシールドが削れていく。

 

――なにより、こいつら連携することが上手すぎる!

 

この短期間で、アイコンタクト、掛け声のみでこれだけの連携をとれるとはどれだけの時間、練習に費やしたのだろう。

万能機同士がほぼ完璧なタッグを組むとこれだけ戦い辛いものになるのか、いや今までも同じように連携をとる有象無象を滅してきた。

それなのに苦戦するということはハイクラスに息が合っているという証明にしかならない。

 

――負けるのか? この私が?

 

ラウラの心の奥底にどろりとした黒いものが蠢き始める。深淵から手を伸ばして銀の少女に感情無く問いかける。

 

 

 

”力が欲しいか――?”

 

 

 

男とも女ともとれぬ無機質な声。だが、ラウラは悪魔に身を委ねてしまう。

 

 

 

「ああぁぁあああ――――ッ!!」

 

尋常ではない雄叫びをあげるラウラ。一夏たちは急変した彼女に驚き戦闘を中止してそちらに視線を向ける。

全身からスパークを放ちつつ、人体部分を飲み込んだISは地面に落下し、泥のように蠢いている。

異常事態に全生徒、来賓たちに避難放送が流れるなか黒い物体はついに形を作り上げる。

 

「あの武器は雪片、つまりやつは……」

「暮桜……千冬姉のISだ」

 

シュヴァルツ・レーゲンの姿はどこにもなく、かつて織斑先生の駆った機体「暮桜」を模した。

しかしその大きさは本来のものより大きく通常ISの二倍の大きさになっている。

 

「あいつ……ふざけやがって……! 千冬姉のまねなんかして!」

「おい、待て一夏!」

 

稼働限界近いであろう白式を無理やり瞬時加速で接近させ雪片弐型で切りかかる一夏。

しかし、カウンターを取られて容易く吹き飛ばされるが、なおも異常ISに対し怒気を放ち襲い掛かろうとする一夏を

羽交い絞めにして無理やり止める。

 

「落ち着け一夏!」

「放せ! あいつは千冬姉を汚したんだ! 俺が、俺が倒さなきゃいけないんだ!」

「中にいるラウラをどうする気だ! 一緒に切り捨てるつもりか!?」

 

その一言で多少は冷静になったのか、大人しくなる一夏。そこにシャルロットも合流する。

どうやら、攻撃されるか武器を持っているなどをしないと敵と認識しないのか、不気味に佇んでいる偽暮桜。

 

「悪い、猛……。つい頭に血が昇ってしまって」

「でもどうしたらいいんだろう? このまま何もできないのとか……」

「それなんだが、一夏の零落白夜であれをシールドごと切り裂いてラウラを引っ張り出せないかな?」

「そうか……試してみる価値はあるかもな。けど白式にはもうエネルギーが」

「じゃあ僕の分のエネルギーを分けてあげる」

「よし、決まりだ。じゃあ俺がそのエネルギーを補給する時間分を稼いでくるよ」

 

まるで散歩に行くかのように悠然と敵機に向かって歩みを進める猛に二人は驚く。

 

『おい塚本。貴様何をするつもりだ』

 

管制室から織斑先生の通信が入る。

 

「あの偽暮桜からラウラを助け出そうかと」

『生徒が余計なことをするんじゃない。実戦教員に後は任せろ』

「いやいや。さっき一夏を止めましたけどね……先生のガワだけ似せてるとか、ちょっと俺も頭にきてるんで」

『馬鹿者が。五分くれてやる、その間にケリをつけろ』

 

正面に立ち、こちらを見据える奴に対し猛は十束を脇構えにして相対する。

 

「それでは、しばらくの間つき合ってもらうとしようか」

 

 

 

 

 

 

避難した人たちが現在のアリーナ内を映した映像を声も無く見つめている。

偽物とはいえ、かつて世界を征した戦乙女を相手に一歩も引かず、数分も打ち合い続けられるものが居るなど。

暗灰色の機兵は黒い暮桜が放つ衝撃の刃を、白刃の一刀を持って正面から弾き返す。

偽物は一歩側面に踏み込んで、狭霧神の脇を狙う。横からの一撃を防ぎつつ、一瞬の加速。

暮桜は突進を受け止めて重い金属音と火花が散る。両者の剣は拮抗し、身じろぎすらしない。

なおも狭霧神は瞬時加速を上乗せし、暮桜を押し返す。が、返す刀の斬撃の暴風にそれ以上追撃は不可能。

迎撃する刃が奏でる大気が震動せし剣戟音が、この一戦の目を離せぬ一役を買う。

 

 

が、相対している猛はむしろ冷え切った思考で偽物を見ていた。

これは、こいつには意思もなく、熱もなく、信念も、力を振るう決意も、重荷も、何もかもがない――

ただただ、模倣するだけの贋作。先生の上っ面だけを真似た汚物以下の代物だ。

 

「なぁ、ラウラ。お前が追い求めてたいたものってのはこんな最低のゴミ以下のものじゃないだろ?

 何度も打ちのめされて、地べたに這いつくばされたけど、千冬さんの剣は厳しくても暖かかったぞ。

 だからさ、そんな紛い物を捨ててもう一度先生と話し合えよ。貴女の強さの理由が知りたいって。

 もし嫌われたらと考えるのが怖いかもしれないけど、ぶつかっていって本心を打ち明けてみると案外うまくいくもんだよ」

 

白き刃に黒い光が宿る。上段から振り下ろされた雪片を容易く切り捨てて、震脚。

地面がくだけ、ひび割れるほどに踏みしめられて放つ斬撃は、衝撃波と共に偽暮桜の四肢を全て吹き飛ばす。

ぐにゃりと変形し、元に戻ろうとする泥は切断面が発光した途端、爆発四散する。

そして、残った胴部分から一歩ずれて、不肖の幼馴染は真の彼女の剣を受け継ぐ若武者にとりを譲る。

一夏の渾身の零落白夜で汚泥を切り裂き、零れ落ちるようにラウラが姿を現す。

地面に落ちないようしっかりと抱きとめ、様子を確認するが気を失っているだけで大丈夫らしい。

こうしてラウラ救出作戦はなんとか無事に完了した。

 

 

 

 

 

 

その後、織斑先生から仲良く猛と一夏は拳骨を貰い、山田先生からは説教を。

救出されたラウラは怪我もなく、身体に異常はないらしい。

ただ、大事をとって一日医務室で過ごすらしい。

それと、あのレーゲンが変質したものはVTシステム。

過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行する仕様らしく

あらゆる企業・国家での開発が禁止されている代物。

そんなものを使用した時点で言い逃れはできないだろうが、それでどこが不利益を得ようが知ったことではない。

さらにこの大会はこのまま続けるのは中止になり一回戦のみおこなう事になった。

つまり、優勝者は居ないということになり、女子たちの悲痛な叫びがどこからともなく聞こえた気がした。

 

 

 

今日から大浴場が男子も使用できるようになった。制限時間付きとはいえシャワーのみではどうしても疲れが抜けず

ゆったり足を延ばして風呂に入れるというのは日本に生まれた者としては格別だ。

腑抜けきった顔で湯船に浸かる猛。ちなみに一夏は先に上がっている。

と、そこに脱衣所の扉を開ける音が聞こえて、そちらに背を向けていた猛は一夏が忘れ物でも取りに来たのかと振り返る。

 

「どうした? 忘れ物か二度風呂でも……は?」

 

湯気にけぶる中、浴槽に身体を沈めているのはここには居るはずもないシャルロットだった。

咄嗟に前を向きなおす猛。

 

「あ、あの……シャルロット=サン? 今は男子の入浴時間ですが? 貴方は女の子じゃないですか」

「い、今の僕はシャルルだよ? つまり男なので、何の問題もないよね?」

 

ざぶざぶとお湯をかき分けて、猛と背中合わせで寄り添うシャルロット。背中だというのに互いの鼓動が響く気がして落ち着かない。

 

「……ありがとうね」

「ん? 何が」

「僕ね、もう騙したまま学園に居なくてよくなったんだ」

 

どうやら、ついに王手が掛かったらしくデュノア社の社長夫人のスキャンダルが公表されるらしい。

出るわ出るわの不正に罪状を読みあげるだけでもかなりの時間を要したようで

これから婦人の息のかかった者の焙り出しやら何やらで社内は粛清の嵐らしい。

 

「織斑先生から聞いたよ。僕を助けるために自分を売ろうとしたって」

「ただ、俺の頭じゃシャルを助ける方法が思いつかなかったから先生に泣きついただけだよ。

 最悪な場合は本当にシャルロットを犯罪者として、告発しちゃったのかもしれないし」

「それでも、お母さんが亡くなってから僕に優しくしてくれたのは……猛だけだよ」

 

振り向いたシャルは彼の背にぴったりと寄り添って、前に腕をまわしてより密着する。

 

「本当にありがとう。僕だけの……王子様」

「う、そういうのだけは止めて。王子様やヒーローって言われるの駄目なんだ。

 ただ、俺は自分がしたいことをしてるだけだからさ」

「ふふ……分かった。それじゃあ僕、もう上がるからさ、目を瞑ってくれないかな?」

 

言われた通りに目を瞑ってシャルロットが上がるのを待つが、気配は彼の前に移動してくる。

そして不意打ち気味に唇が柔らかいものでふさがれる。

驚きで目を見開くと、前から縋るかのように猛に抱きついて瞳を軽く閉じたままキスをしているシャルが。

数秒の間のはずなのに、数分もの長さに感じる。唇を離して、はふ……とため息をついたシャルロット。

全身が仄かに桃色に染まった彼女が口を開く。

 

「大好き……僕は猛のこと、ずっとそう思ってて、どうしても伝えたかったから」

 

そして消え入りそうな声でもう一度大好きとつぶやくとその場を去って行った。

完全にのぼせ上がってしまった猛はくらくらしつつ、何とか部屋まで戻って行ったが隣のベッドで

同じく今更茹であがってしまったシャルロットと少し微妙な空気の中、眠るのだった。

 

 

 

 

 

 

「えーっと……今日は皆さんに転校生を紹介します」

「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします」

「ええと……デュノア君はデュノアさんということでした」

 

突然の事実発覚にクラス中がざわめき始める。

 

「つまりデュノア君って女?」

「おかしいと思った。美少年じゃなくて美少女だったわけね」

「って言うか塚本君!!同室だったって事は……」

「絶対解らないはずがないわよね!?」

「あー、いやー、その」

「ちょ、ちょっと待って!? 昨日男子が大浴場使ったわよね!?」

「いや、俺は猛と一緒に入ってたけど先に出たから後から誰か入ってきたのは知らないぞ」

 

まずいまずいと警鐘が頭の中に鳴り響くが、そこにシャルロット自身がとんでもないものを投げ込んでくる。

 

「そ、その……猛のって、お、大きいよね」

 

顔を赤らめつつその発言はいけない。

教室が轟くほどに黄色い悲鳴があがるが、それをかき消すほどの轟音が壁をぶち破る。

 

「げぇ!? り、鈴!」

「うふ、うふふふ……たーけーるー? いっぺん、死ねぇ!!」

 

教室を区切ってある壁をぶち抜いて高速で接近し、双天牙月を振りかぶる鈴。

しかしそれが振り下ろされる前にシールドを展開して受け止め、猛を庇うように立ちふさがるシャルロット。

 

「……なによ、あんた」

「いやいや、いきなりそんなことしたら猛が本当に死んじゃうし。それに何で僕と猛が仲良くすると鈴が怒るの?」

「そ、それは……」

「僕ははっきり猛に自分の想いを告げたよ」

「ッ!?」

「鈴はどうするの?」

 

少し逡巡した鈴は決意した表情で倒れ込んでいる猛の前に立つ。

 

「猛、あんた目を瞑りなさい」

「は、はい」

 

目を瞑って鈴の鉄拳制裁を耐えるべくじっとしているが一向に拳がこない。

……昨日も同じようなことが…まさか!? と思い出した時、完全に昨日の風呂場と同じ状況に。

違うのはキスをしているのがフランスの男装少女ではなく、幼馴染の虎娘でシャルロットはリトルキスだが、鈴はディープなこと。

身体の境界がなければ溶けて混ざり合ってしまうんじゃないかと思うくらいに、情熱的に身体を擦り付ける鈴。

両手で顔を優しく包んだまま、口を離した際、互いに掛かった銀糸がぷつりと途切れて鈴が愛をささやく。

 

「好き、あたしも猛のこと……大好きなんだから。ぜったい、他の誰にも渡さない……あんたはあたしのものよ、んっ、ちゅっ……」

 

名残惜しそうにもう一度キスを交わす。潤んだ瞳で猛の眼をのぞいた後、途端に熱を帯びた鈴の目。

そして、シャルロットの前に一歩も譲る気はないと仁王立ちして向かい合う。

 

「これで文句はないわよね?」

「うん、認めるよ。今この瞬間から鈴は僕のライバルだ」

 

闘志溢れる鈴とにこやかに笑っているがよく見ると目が笑ってないシャルロット。

二人の背後にワイバーンと白虎が相対しているのが見えるのは錯覚ではないはずだ。

自分の隣にはラウラに口づけされて、嫁発言で理解が及ばないまま箒とセシリアの殺気を受けて冷や汗を流している一夏。

修羅場、修羅場よーこんなのドラマでも見たことない! 

と大歓声に沸く教室にほぼ泣いてる状態であわあわと混乱中の山田先生。

鬼がやって来て一喝が入るまで、この騒動は続いて一組全員と鈴は山のような反省文を書かされるのであった。




R-15ってどこまで許されるんでしょうね?

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