深夜、ロンドンのとあるバーにて。
「………………」
「………………」
二人は隣合い沈黙を続けていた。
「君は、また厄介事を背負い込んできたのかい?」
ふと、マスターである初老の男性から聞かれた。
「いや、今回のは転がり込んできたというか…………まあ、とにかく、俺に非は無いと思うんですよね。」
「はっはっはっ。ところで、なにか飲む?」
「俺はエスプレッソで。…………あんたは?」
「へっ?………私ですか?」
「以外誰が居るんだよ?お前は何飲む?」
「えと………じゃあ、オレンジジュースで。」
「かしこまりました。」
そう言うと男性は背後の棚からグラスを用意する。
「…………何も言わないんですね。」
「何がだい?」
ふと、少年が男性に問う。
「いや、深夜に殺し屋が血塗れの女連れて来てるんですから、もっと何かあるでしょう?普通。」
「はっはっはっ。君は僕が普通だと思うかい?」
「いや、まあ…………そうでしたね。あなたは、此方側の人間だ。」
「元を付けてくれたまえよ、まあでも正直言うとすごく気になるね。」
男性はふざけた笑みを浮かべそう言う。
「はい。お待たせ。」
そんな話の腰を折り、男性は二人の前にグラスを差し出した。
「それじゃ、僕は奥でラジオでも聞いてるさ。何かあったら奥まできてくれ。…………イヤホンしているから何を言っても僕には聞こえないよ。」
そう言って男性はドアの向こうへと消えていった。
「………………」
「………………」
そして再び二人に沈黙が訪れる。
「…………はあ、黙ってても拉致が明かねぇな。
まあ、軽く自己紹介だ。俺の名は十六夜。裏では【ジョーカー】の名で通っている。政府公認の殺し屋だ。」
「あ、えと、私はアリス。………アリス・ブレアと言います。」
「………で?お前俺に何の用だ?探してたんだろ?」
「はい。」
「何のために?」
「あなたに…………お願いがあるんです。」
「仕事の依頼ってことか?」
「はい。私の依頼は………殺してほしいんです………………私のことを。」
「……………はあ?」
「だから、私を_______」
「いや、聞こえてる聞こえてる。そこじゃないんだよ。」
「じゃあ、どこなんですか?」
「そもそも弾丸で脳天をブチ抜いて死なねぇような奴を、どうやって殺せばいいんだ?」
「それがわからないからあなたに頼んだんですけど。」
「それよりも、お前は一体………何なんだ?」
「わかりません。……どうしてこうなったのか、なぜ死なないのか。」
「……………ちょい、おでこ見せろ。」
そう言って十六夜は少女の前髪をずらし、自分の弾丸を撃ち込んだであろう位置を確認する。
「…………傷が………消えてる?」
そうなのだ。確かに十六夜はアリスの眉間に弾丸を撃ち込んだ。しかも、その弾はアリスの脳を貫き背後の壁にめり込んでいたのにだ。
生物的に有り得ない、としか言いようがなかった。
「正直、ここじゃ何も解らん。一旦家に帰るわ。」
「あ、はい。さようなら。」
「いや、お前も来るんだよ。」
「えっ?ちょっ…………」
そう言って十六夜はアリスの腕をつかみ、財布から代金をカウンターの上に置いて、帰路へとついた。
ぐったぐだでも良いじゃないだって誰も見てないんだもの