熊「…能力は……崩壊」
有「ほ、崩壊だと!?」
4月某日、いつものように友利から無理やり連れてこられ生徒会室に集合した僕達は協力者である全身ずぶ濡れ男からまた新しい能力者の場所と能力を教えて貰ったのだが…
有「まさかその能力が崩壊…だと!?」
友「歩未ちゃんと同じ能力…珍しいっすね、別の人間から同じ能力が芽生えるとは…」
熊「…少し……違う」
有「違う?歩未とは別の能力ということなのか?」
頷くずぶ濡れ男。
熊「あれは…精神が錯乱した時に起こる…今回のは、絶望を感じた時…」
高「つまり…能力者が絶望を感じた時に崩壊の能力が発動する、ということですか?」
高城が話をまとめる。しかし…
有「絶望、か…面倒だな。」
絶望した時に発動するということは歩未と同じで自分で制御することができないということだ。そのうえ絶望なんて精神錯乱より起こる可能性はかなり高い。対象者が子供となればなおさらだ。
友「すぐに向かいましょう。早く能力者をこの学園に連れてこなくてはなりません。」
僕より少し早く同じ結論に至ったらしい友利がみんなに呼びかける。いつもならここでため息の一つもつくところなのだが今回はとてもそういう気にはなれなかった。
* * *
友「地図によるとここっすね」
バスと電車を使うこと1時間、たどり着いたのは神田にある古びた学校だった。近くに秋葉原があるとは思えないほど静かな環境で、聞こえてくるのは部活の生徒らしい掛け声のみだ。
有「ここに崩壊の能力者が…?」
友「とにかく聞き込みを始めましょう。崩壊の能力なら歩未ちゃんと同じように何かしらの関連した夢を見てる可能性が高いです」
そういって聞き込みを始める友利。僕も参加しようと思ったのだが、よく考えたら初対面の人間に「昨日なんか夢見た?」とかどうやって聞けばいいんだ?しかもよく周りを見渡して見ると女子しか歩いていない。どうやらここは女子高のようだ。
……女子相手に前日の夢についての聞き込み…間違いなく変質者だ。聞き込みどころかお巡りさんに事情聴取されかねないレベル。
やってられるか…とまわりを見渡すと案外三人ともうまく聞き込みができているらしい。友利や黒羽はともかく高城はどうしてるんだ…?
参考になるかもしれないので聞き耳をたてることにした。
高「お待ちなさいそこのさまよえる少女よ…」
…?
女生徒「な、なんですか…?」
高「そなたからは水難の相がでている…。おそらく昨夜は川や海で溺れる夢を見たのではないか…?」
…!?
女生徒「い、いやそんな夢見てないですけど…」
高「ふむ…それでは尋ねよう。そなたは昨夜はどのような夢を見た?おそらくそれがそなたの未来であろう…。」
女生徒「あたし昨日はまず夢を見てませんけど…。あ、あの私ちょっと急いでるので失礼します!!」
有「……。」
……宗教の勧誘だった。…うん、あれはないな。あんなことしてたら事情聴取どころか一足飛ばして実刑を受けるまである。僕は隅の方でおとなしく待ってよう…と思いたまたま近くにあった大きな木の下に腰掛けているとどこからともなく歩未に散々聴かされたハロハロの音楽とともに「…ほっ!ほっ!」という謎の掛け声が聴こえてきた。
有「……?」
気になって音をたどってみる。どうやら音源は校舎裏にあったラジカセらしい。掛け声はそれにあわせて踊る1人の少女からでていた。ダンス部かなにかだろうか…?気になったので木の影に隠れて真剣な少女の横顔を盗み見てみる。
有「……!」
僕はそれを見て思わず息を呑む。驚くほどの美少女だった。オレンジ色がかかった明るい茶髪をサイドポニーテールしてある。青色の瞳には真剣な光を帯びておりただひたすら踊ることに集中していた。
…正直ダンスは完璧とは程遠い。早かったり遅かったりでリズムと全然合ってないし、ダンスの型自体もしっかり伸ばせきれてなかったりしている。しかし…
有「綺麗だ…」
拙いダンス。幼稚な動き。でもそれを真剣な表情で取り組み続ける少女の姿はどうしようもなく綺麗で、僕は不覚にも見とれてしまっていた。少女はこちらに気づくことなく練習を続けていたが、ターンの途中で転んでしまい、腰を強く打ち付けてしまった。
穂「アイタタタタ…くぅ〜。ハロハロのダンスって案外難しいんだねぇー。」
少女は腰をさすりながら呟く。すると後ろから2人の生徒らしき人物が少女に近づいていた。1人は少し青みがかかっているが見事な黒髪ロングの美少女で弓道着を身にまとっている。もう1人は灰色…?白髪に近い髪色だろうか。髪型は頭の上にトサカのようなものがありかなり特徴的だがこちらもかなりの美少女だ。黒髪ロングの少女が倒れた少女に話しかける。
海「ひとりでやっても意味がありませんよ?」
少女が顔あげる。大和撫子さんはその少女に手を差し伸べながら続けた。
海「やるなら、三人でやらないと!」
倒れていた少女はぱあっと顔を輝かせるとその少女の手をとることなく飛びついた。
穂「う〜み〜〜ちゃあ〜〜〜ん!!!」
少女が泣きそうなくらいの勢いで叫びながら抱きつく。うみと呼ばれた少女は仕方無いですねと呟き背中をさすっているが顔はなんだかんだで嬉しそうだ。
こ「じゃあこれからどうする?」
友情ドラマが一段落したところでさっきまでニコニコと静かに見守っていた少女が切り替えるように話しかける。あの表情を見る限りあのような光景はわりと日常のことのようだ。
穂「うーん…じゃあとりあえず一旦帰って穂乃果の家で他のスクールアイドルについて調べてみようよ!」
サイドポニーテールの少女もケロッとした顔で提案する。すると黒髪の少女が困ったような顔をしはじめた。それに気づいたらしい少女が黒髪の少女に話しかける。
こ「海未ちゃん?どうかしたの?」
海「あー…いえ、今はあまり家に帰らない方がいいかと思うのですが…」
穂「?何かあったの?」
サイドポニーの子も少女の表情が苦いことに気づいたのか上がりまくっていたテンションを少し落ち着かせる。
海「いえ…何かあったという訳では無いのですが…どうやら今校門のところに宗教の勧誘のような人達がいらっしゃるようで…何でも通る生徒達に昨日どんな夢を見たかと聞いて回っているらしいのです…。」
有「ぶっ!?」
穂・こ・海「「「?」」」
思わず吹き出してしまった…。木の影にサッと隠れる。ネコか何かかと思われたのだろうか、幸い少女達はこちらに来ることなく話を続けていた。…っていうか思いっきり噂になってるじゃねえか!?しかも宗教の勧誘と思われてるし…(絶対高城のせいだ)。
これはさっさと能力者見つけて退散した方が良さそうだ…と、僕も仕事に戻ろうと踵を返そうとしたその時、サイドポニーテールの少女のよく通る声が耳に入った。
穂「そーいえば2人は昨日はどんな夢を見たの?」
すると黒髪少女がからかうような声音で返す。
海「ふふっ。ほのかも宗教の勧誘ですか?」
穂「ち、違うよ〜。なんとなーく気になっただけだもん!」
……話の流れ的にこのまま彼女達は昨夜の夢について話すだろう。どーせ帰ったって女生徒に話とか聞けるわけがないしこのまま少女達の話を聞くべきか。木の影にまた潜む。
こ「ふふ。穂乃果ちゃんらしいね♪ことりは昨日はチーズケーキに囲まれて食べ続ける夢を見たよ♪あぁー…美味しかったなぁ〜。」
トサカの少女はうっとりしたように顔を赤らめるとそのまま動かなくなってしまった。どうやら夢世界に旅だってしまったらしい。
海「ことり…この前も似たような夢を見たと言ってませんでしたか…?」
黒髪少女が呆れたように言うとトサカの少女は「この前はマカロンだよ!」と強く反論する。
穂「あ、あはは…。海未ちゃんは?」
さすがのサイドポニーの少女も苦笑しながら話を流す。
海「そうですね…。昨日は静かな夜でしたから…特に夢は見ませんでした。」
…どうやら2人は特におかしな夢は見てない(?)ようだ。まぁあれだけ探していた人物がたまたまいるわけが無いよな。最後の1人の話を聞いたらおとなしく戻るとしよう。少女達に目をやるとちょうどトサカの少女がサイドポニー少女に同じ質問をしているところだった。
こ「それで?穂乃果ちゃんはどんな夢を見たの?」
穂「穂乃果?う〜〜ん。穂乃果はねぇ〜〜〜う〜ん。」
珍しく歯切れの悪いサイドポニーの少女。
海「もしかして夢を見た気はするけど、どんな夢だったかを覚えていない、ということですか?」
あー。あるある…あれなーんか気になっちゃうんだよな。そのくせまず間違いなく思い出せないし。僕は木の影でウンウン頷く。しかしサイドポニー少女が続けたのは全く別の言葉であり、探し続けた言葉だった。
穂「んー?いや、どんな夢だったかは覚えてるんだけどさ。なんかよくわからない夢だったんだよー。なんか地面?みたいなものが急にガガガーッて開いてガラガラーって崩れちゃうの!それだけ。」
…!!?
海「穂乃果…もしかしてどこか悪いんじゃ…」
穂「そ、そんなこと無いよー!でもこのごろその夢ばっかり見るんだよねぇ…」
…同じだ。地面のようなものが崩壊する夢。似たような夢をよく見る。歩未の時と…。…つまりもし、もし仮に、彼女が今何かに絶望してしまえば。地面はあっけなく崩壊し、あのひまわりのように明るい少女は親友を巻き込んで─────死ぬ。
……友利を…呼ばないと。僕は震える足に鞭打ってみんながいるはずの校門に向かった。
* * *
友「ちょっとー?サボって何してたんすかー?いくら女子に縁がないからってあんま見てると通報されますよ?」
トボトボと歩いて帰ってきた僕に友利は最初こそからかうようにそう言ったが、僕の表情を見るとすぐに真剣な顔つきになり
友「…何かあったんですか?」
と聞いてきた。他のところに聞き込みをしていた2人も僕らの様子を見て近づいてくる。
有「能力者がいた。校舎裏だ。今は友達と談笑中で逃亡の心配はない。ハロハロの動画を見ていたからもしかしたら黒羽がいた方が都合がいいかもしれない。」
僕の感情のない報告を受けた友利は先程より緊張の色を濃くした顔で頷いた。
友「…わかりました。それでは黒羽さんと私で交渉に向かいます。高城は乙坂さんを連れて戻ってください。」
柄にも無く僕の心配でもしたのか、そんな提案をしてくる友利。だが、その命令だけは聞けなかった。
有「いや、僕も行く。」
友「そんな今にも死にそうな顔して何言ってるんですか…?」
友利は今度は心配というより呆れたような顔を向けてくるが、それに構うことなく続ける。
有「崩壊の能力者の家族として、崩壊の危険性や家族の気持ちをわかってもらえるように説明をしたい。」
なんでこんなことを言ったのかはわからない。家族としての説明なんて絶対にしたくない。僕にとってあれは思い出したくもない記憶のひとつだ。
でも、このままあの少女と2度と会わないかもしれないというのはどうしても嫌だった。友利は僕の顔をしばらく見つめるとはーっと大きなため息をついた。
友「……わかりました。それならみんなで行きましょう。ただし相手は絶望が条件の能力者です。刺激するようなことは絶対に言わないでください。」
そういって歩き出した友利に高城、黒羽がいつもより緊張した様子で歩いていく。僕はそれぞれの横顔を見ながら3人を追うように歩いた。あの太陽のような少女から、今まで築いてきたすべての環境を奪うために。
お読みくださった方々ありがとうございましたm(_ _)m