乗っ取った相手からあらゆる能力を奪う「略奪」の能力を持つ星ノ海学園の一年生、乙坂有宇は、生徒会長である友利奈緒らとともに能力者の保護を行う生徒会に所属していた。いつものように友利に生徒会室に呼び出された有宇は、協力者から妹と同じ「崩壊」の能力を持つ者の存在を知らされる。「絶望」をトリガーとして発動するその能力者を保護するために東京、神田に向かった有宇達が出会ったのは、母校の廃校を阻止しようと必死にダンスの練習を行う、音ノ木坂学院二年、高坂穂乃果であった。彼女のひたむきさに心打たれた有宇に対して友利が提案したのは「1年間テスト生として音ノ木坂学院に転入し、高坂穂乃果の監視・保護を行うこと」。穂乃果が同じく音ノ木坂学院二年生である園田海未、南ことりとともにスクールアイドル活動を行っていることを知った有宇は、今まで悪事を働いてきた自分にその資格があるのかと悩みながらも彼女たちの手伝いをすることを決意する。曲作りに協力してくれた一年生、西木野真姫の助けもあり、彼女らの初めてのライブは少しずつ実現へと向かっていた。
有「PR動画を作るのはどうだ?」
海「衣装がまだ出来てないから無理です。」
有「校内放送で呼びかけよう!」
海「生徒会長に却下されましたね。」
有「なら呼び込みだ!ライブ直前までやろう!」
海「私たちはライブの準備で出れないのですが…女子高の前で男子1人呼び込みをするのですか?完全に変質者ですね。」
有「どうしてお前はそう否定ばかりするんだよ!?」
海「有宇が無理なことばかり言うからです。」
友利と帰った次の日、いつものように高坂たちと4人で登校していた僕は昨日思いついたファーストライブの宣伝方法を話していた。
その後もムムムと頭を悩ませていると、不思議そうに南が話しかけてくる。
こ「というか、今日は随分熱心だね?何かあったの?」
有「い、いや…そういう訳じゃないが…。」
覗き込むように下から送られてきた視線から慌てて目をそらす。
完全にそういう訳である。友利から話をされ、昨夜ない頭を必死に振り絞った僕が出した答えは“とにかくやれることを一つ一つ考えてやる”という至極単純なものだった。
自分にやれることは限られている、でもやりたいと思ったことがあるならそれをやらない理由はないって言うのが結論だ。
もちろん、西木野の時と同じことにはならない様に自分でそれをやりたいっていう理由も出来る限り明確にしていくってのも必要だが。
そんな訳で真っ先に思いついた“やりたい事”である1週間後に迫ったこいつらのファーストライブの手伝いをしようと思ったわけなのだが…。
有「案外やれる事って少ないな…。」
海「まあ、言っても高校のスクールアイドルですからね。プロのようにマネージャーの仕事が多いという訳では無いでしょう。」
園田が有宇は良くやってくれてますよと慰めてくれる。
有「そう言ってくれるのは嬉しいけどな…。」
何かしたいのだ。タダでさえやれることは少ないのにライブ当日すら高坂達…というか僕のクラスメイトでもある子達が手伝ってくれることになったらしく、まだ学園に慣れておらず、機械に詳しくない僕にやれることは本格的になさそうということになってきているのだ。
有「こうなったらホントに通報覚悟で呼び込みするか……っと、そうだ!」
こ「なにか思いついた?」
有「ああ。チラシ配りをするってのはどうだ?」
海「ち、チラシ配り…ですか?」
有「うん。呼び込みだと当日以外はあまり意味がないかもしれないけど、チラシ配りなら時間帯と場所を書いておけば効果はある。人前で声を出す練習にもなるだろうしな。」
南なら絵を描くことも出来るはずだ。我がナイスアイデアを披露すると、それまで興味無さそうにパンをむぐむぐやっていた高坂が興奮気味に食いついた。
穂「ほれはよ!ゆうふん!」
海「食べながら喋らない!」
すかさず入った園田のツッコミをうけ、ゴクリとパンを飲み込んだ高坂がもう1度叫んだ。
穂「それだよ!それならみんなにもたくさん知ってもらえるし、練習にはもってこいだよ!さっそく今日から…ってあれ?海未ちゃんは?」
有「へ?いや、あれ?」
あたりを見渡すと、確かに先程までツッコミを入れていたはずの園田がどこにもいない。
こ「海未ちゃんなら……そこに。」
南の指さした方を見てみると、何故か園田は一人通学路を外れた路地裏でしゃがみこんでいる。
有「ど、どうかしたのか?」
急に気分でも悪くなったのだろうか。慌てて声をかけると、いつもの凛とした声とは似ても似つかないものすごい小さな声が聞こえてきた。
海「ム、ムリです…。」
有「どうした?何が?立てないのか?」
海「し、知らない人相手にチラシ配りなんて…。」
……はい?
こ「あー…。」
穂「やっぱりこうなっちゃったかー。」
理解が追いつかない僕をよそに、なにやら諦めた様にため息をつく幼なじみ2人に視線だけで説明を求めると、2人は真剣な顔をして言った。
穂「実はだね有宇くん…」
こくこく。
こ「海未ちゃんはね……」
こくこく。
穂「とっっっっても恥ずかしがり屋なんだよ。」
こくこ……は?
有「…いや、知ってるけど…えっと?つまり?」
こ「チラシ配りみたいに知らない人に話しかけたりするのはちょっと…。」
有「…」
園田の方に目を向けると、縮こまったまま頷く。
海「し、知ってる人なら…どうにか、なると、思うのですが…。」
限界、と言うように顔を手で覆ってしまう園田…なに?もしかしてツッコミ待ちなの?
有「えっと…整理させてくれ。お前達は廃校を止めるためにスクールアイドルをやってる。」
説明するように聞くと、園田が顔を体育座りの足にうずめたままこくりと頷く。
有「つまりその目的は知らない人たちにアイドル活動を通して学園のことを知ってもらう。」
こくり。
有「で、お前は知らない人の前だと歌えないし踊れない。」
こくり。
有「そしてファーストライブまであと1週間。」
こくり。恥じるように頷く園田を見て唖然としながらも頭の中でシュミレートしてみる。生まれて17年間まともに知らない人と会話もできないシャイガールが1週間でアイドルになれるか……はい無理ですね。ラノベ長文タイトルかよ。
有「……ふふふふ。ふはははははははは!!!!」
ほ「ゆ、ゆうくんが壊れた!?」
笑いだす僕を見て高坂が焦ったように叫ぶ。そりゃ壊れたくもなるわ。あと1週間だぞ1週間。ひとしきり笑い終えると僕は未だに体育座りの元凶に向かってさけんだ。
有「…ふははははは!!おい園田ァ!」
海「は、はいぃ!」
突然の大声にビックリしたのか、びくぅ!と体を逸らして顔を上げる園田。初めてコイツ相手に優位に立った瞬間だが、そんな事を気にする余裕もない。僕はピンと立てた人差し指を春の青空に突きつけるようにして叫んだ。
「こうなったらやることは一つ…特訓だ!」
* * * *
友「……で、呼び出されたのが私。」
有「ああ。黒羽はこれから仕事みたいだし、高城はそれについて行く気満々で話にならなかったからな。」
海「ゆ、有宇?その人は…?」
有「友利奈緒。前の高校で生徒会長だったやつだ。」
放課後。とにかく人と話をすることに慣れさせようと、僕は唯一と言っていい女子の知り合い、友利を呼び出していた。人選に若干の不安は無くもないが、いきなり男子と話せと言っても無理だろうしな。歩未だとあいつのコミュ力が高すぎて練習にならんかもしれんし…。
友「…乙坂くん?ちょっといいですか?3人はここで一旦待っていてください。」
有「お、おい…友利?」
友利は僕の腕を掴むと、ニコッと3人に微笑みながら有無を言わせない力で僕を引っ張る。曲がり角を曲がって3人から見えない形を作ると、オオカミもかくやという眼力で僕を睨みつけて言った。
友「…おいコラ。急に呼び出されてみればどういう状況だこれは?」
有「笑顔とのギャップ怖すぎませんか!?」
マジで殺意100%みたいな目で睨まれてる…。視線で攻撃する能力みたいなのをこいつが持ってたら即死しそうなレベル。
* * * *
友「…なるほど。事情は分かりました。要するに園田さんの人見知りを治すための練習台になれと?」
有「あ、ああ。」
怖すぎる友利を前にしどろもどろになりながらも説明すると、一応の理解は得ることが出来たらしい。友利は美咲とタメ張れそうなほどのメンチを解除してくれた。
有「このままだとライブが失敗するのは目に見えてるし…ライブがうまくいかなければ廃校を免れることは出来ないだろ?」
そうなれば高坂が絶望による崩壊を起こす危険性が出てくる、という意味を言外に含めて言うと、友利は不機嫌そうに舌打ちをして言った。
友「…チッ。分かりました。手伝いますよ。こちらとしても高坂さんの交友関係は把握しておきたかったですしね。」
有「ほ、本当か!?」
友「ただし!」
思わず声を大きくなる僕。それを嘲笑うかのように、友利は邪悪な笑みを浮かべると指を1本立てて言った。
友「一つ条件があります☆」
有「なっ…だってお前、今交友関係を把握しておきたかったって…」
友「それはそれ。これはこれ。能力者を救う仕事のある私のきちょ〜〜〜〜な時間を使うんですよ?それなりの謝礼を出すのが筋でしょう。」
有「……ッ!」
やっぱコイツに頼むんじゃなかったと思ったがもう遅い。あいつらの前に連れてきた時点で手遅れだ。今更ほかの人間を持ってくることも出来ないだろう。僕はため息をついて言った。
有「……何が欲しいんだ?」
友利はニンマリと笑うと、立てていた人差し指を校舎に向けた。
友「ここの購買部ってぇ、パンがとっても美味しいらしいじゃないですかぁ。私、豚キムチサンドが食べたいなぁー☆」
有「なん……だと!?」
あれは転校して数日の僕すら知ってる、週に1回、一個限定で入荷する超激レア商品だぞ!?味だけでなく、なんと豚キムチの癖にダイエットにも効果があると言われている商品で、弁当派の多い音ノ木坂学院も毎週その日だけは購買部が戦場と化し、普通のパンを買いに来た生徒は立ち入ることすらできないらしい。ちなみに1パック1000円というオマケ付き。
有「アレを僕に買ってこいと!?」
あれはパンの亡者とも言われる高坂ですらまだ1度も食べたことがないという伝説のサンドイッチだぞ!?
友「嫌ならいいんですよ?でもあの娘達はガッカリするでしょうねえ。乙坂さんのせいで特訓が出来なくなったら。」
有「ぐっ…。」
唸る僕を見て、友利は心底嬉しそうな顔をしながら畳み掛けてくる。
友「いやあ私も残念だなぁ。乙坂さんがど〜〜〜〜してもって言うから来たのに力になることが出来ないなんて!」
有「…買ってくるよ買えばいいんだろ!」
僕が叫ぶと友利は悪魔のような笑みでニヤリと笑った。
* * * *
穂「…あ、帰ってきた!おーい!ゆうくんー!」
海「お、お話は終わりましたか?」
友利と共に戻ると、真っ先に気づいた高坂と緊張しつつもこの会合の趣旨を理解している園田が話しかけてきた。
有「ああ、遅くなって――友「ごめんなさぁーい!」」
すまん、と言おうとした僕のセリフを遮って入ってくる友利。…というかなんだその甘ったるい声は。あまりの豹変ぶりに南が戸惑ったような声を出す。
こ「え、えーっと……?」
友「あ、自己紹介がまだでしたね!南さん園田さん初めまして!高坂さんは久しぶり!乙坂くんがさっき言ってましたが私は友利奈緒!向こうでは乙坂くんと一緒に生徒会をやってました!」
穂「と、友利…さん?」
高坂の困惑しているかのような声にも全く気にかけることなくマシンガントークを続ける友利。
友「いやごめんなさいね?さっきはどーしても緊張しちゃって!なんたって皆さんアイドルの卵なんでしょ?いやぁーうちの高校にもいるんですけどねアイドル!ハローだかグッモーニンだかの ちょこーーーっと有名らしいですよなんか!まあでもジエンドには及びませんけど!あ、ジエンドっていうのはポストロックバンドで――ってもちろん知ってますよね!音楽で上行こうって人たちがジエンド知らないわけないっすよね!いやーすみません!あ!いやでもこれは知らないんじゃないかなー?なんたってファンの中でもコアでコアでコアなファン限定のとっっっっっておきの情報ですからね!えっ?聞きたいですか?聞きたいですよね?しょーーーがないなあーーー!」
有「友利、ちょっと待て。誰もついていけてないから。ついでにいうとお前が本気すぎてみんな引いてる。」
最終的にただジエンドの話してるだけだったじゃないか。素に戻ってるし。
友「えーー?」
不満の声を漏らす友利を端に追いやって園田達の方へと向かう。
有「とまあ、あんな奴だ。今から園田にはこいつとコミュニケーションをとる特訓を受けてもらう。」
海「あ、あんな嵐みたいな人とですか…?」
普段は嵐どころか喋らないときは何考えてるかわからないくらいなんだけどな…。
有「大丈夫だ。ああ見えて気づかい…はできなくても頭はまわるほうだから。」
海「あんまり安心できないんですけど…。」
うん。まあそれに関しては全面的に賛成だけれども。
有「と、とにかく一回話してみろよ。嵐みたいなやつの相手は慣れてるだろ?」
海「まあ慣れてますけど…不本意ながら。」
穂「?。ねえことりちゃん。なんか急に二人がこっち見てきたんだけど…。」
こ「き、気のせいじゃないかな?」
自覚なかったんだ…。
海「…わかりました。とりあえず話してみましょう。」
本気で不思議そうに首をかしげる高坂を眺めているとあきらめたようなため息とともに了承の言が聞こえてきた。
有「そ、そうか?」
海「まあ…このままではライブは行えませんし…これも試練、です。」
こ「…うん!頑張ってね!」
穂「海未ちゃん、ファイト!」
海「は、恥ずかしいので応援はいいです!…では、行ってきます。」
カチコチになりながら友利のほうへ向かう園田を横目で見ていると、小声で南と高坂が話しかけてくる。
穂「…で、実際大丈夫なの?自慢じゃないけど海未ちゃんって私たち以外だと知り合いでもうまく話せなくなることあるよ?」
それは本当に自慢じゃないな…。
有「まあ大丈夫だろ。多分だけど。」
生まれたての小鹿のように足を震わせながら歩く園田を待つ彼女にちらりと目を向ける。
有「あいつはもともと友達も多かったしコミュニケーション能力も高い。ついでに言えばあいつは一度受けた仕事を投げる奴じゃない。」
一度生徒会で勉強会を開いた時も、九九で数学の勉強が止まっている黒羽や僕をバカだなんだとさんざん罵りながらもあいつは一度も僕らを見捨てようとはしなかった。
…まあ問題があるとすれば今のあいつは高いコミュ力の使い方を完全に誤っていることだけど。
見ているうちに友利がこちらを向く気配がしたので目をそらすと、どこか嬉しそうにしている南と目が合った。
こ「ふーん…信頼してるんだね。あの子のこと。」
有「い、いや信頼というか…ん?」
奴の仕事に対する危険なまでのストイックさをどう説明したものかと思っているとポケットのケータイが二度震えた。どうやらメールが届いたらしい。差出人は友利奈緒。
有「…?」
この距離の相手にメール…?不審に思いながらも開いてみると相変わらず、絵文字一つ使われない簡潔な文が表示される。
『二人を連れだしてしばらく時間をつぶしていてください』
…なるほど。
有「…二人とも。」
ぼくは静かに二人の肩をたたく。振り向いた二人に無言で校舎を指さすと、二人は一瞬だけお互いに目配せをしたあと、同時にこくりとうなずいた。
穂「…それで、結局なんで教室に戻ってきたの?」
三人であの場を立ち去った後。特にやることが思いつかなかったので教室に戻ってくると、今更のように疑問を覚えたらしい高坂が訊ねてきた。…てか、やっぱわかってなかったのな。
有「園田の人見知りとあがり症を治すのが目的だからな。僕たちが近くにいたら意味がないだろ。」
多少の意味はあるのだろうが、それでも周りに知人がいるという状況では効果は半減だろう。
僕が言うと、南が心配そうな声をあげる。
こ「うん…まあそうなんだろうけど…大丈夫かなぁ?」
有「…。」
南の気持ちもよくわかる。もともと、僕は園田に一人でライブの宣伝でもしてもらおうと考えていたのだが(これなら人見知りだろうと話しかける必要はない。これであがり症だけでも克服してくれればとりあえずライブだけはできる)あまりの拒否ぶりに断念せざるを得なかった。そんなやつが知り合いの知り合いといきなり一人で話せるようになるとはとても思えない。
有「…ま、そっちはどーにかなるだろ。とりあえずこっちはこっちで準備しとこうぜ。まずはライブの宣伝に配るチラシから、かな。」
穂「うん。そうだね。」
あの友利のことだ、何か考えがあるんだろう。少なくとも奴が仕事としてやるといった以上園田に何らかの変化を与えてくれるであろうことは間違いない。ならこっちはそれが成功した場合に備えて準備しておくべきだろう。
有「それにしても…」
南のノートに描かれたチラシの下書きを高坂と見ながら、二人に聞こえないようにつぶやく。
それにしても、園田海未と友利奈緒。
あの二人、どんな話をしてるんだろうな?
……はい。皆さんお久しぶりです。ログインすら久しぶりすぎてお気に入り小説が軒並み終わっていました。黒髪ワタルです。ちょっとリアルでいろいろありまして三年ほど放置してしまいました。大変申し訳ありません。いや、ほんといろいろあったんよ…(遠い目)。そんなわけで第12話羞恥です。最初から投稿しなおすことも考えたのですが、一度始めた手前、最後まで乙坂君とラブライブのみんなとの話を書ききりたいという思いが強く、再開というかたちをとらせていただきました。時間は経ちましたが、作者のCharlotte愛もラブライブ愛も全く衰えてはいませんので、一から始めるつもりで書いていきたいと思います。これからの更新頻度ですが、週一投稿を目標に、最低でも月一で投稿していきたいと思っています。それでは拙い文章ですが読んでくださった方々ありがとうございましたm(_ _)m