有「ふぅ……っと、あれ?」
昼休みもそろそろ終わろうかという時間。思いがけず西木野と話し込んでしまった僕が教室に戻ると、高坂が沈鬱な顔をして何か考え込むように外を眺めていた。
有「高坂?」
穂「………」
呼びかけてみるも返事はない。ただの屍のようだ。
有「おーい。高坂ー?ホノカチャンー?」
もちろんそんな訳がないのでもう一度呼びかけてみるが気づいた気配はない。相当深く考え込んでいるらしい。
海「考え込むと人の話が全く聞こえなくなってしまうんですよ。」
どうにか喋らせようと顔の前で手を振ったりしていると、こちらもどことなく表情の暗い園田が反応してくれた。
有「海未ちゃん。何かあったのか?」
海「なっ…!あなた、またそういうことを…!」
ホノカチャンの流れを引っ張ってしまっただけなのだが、こうかはばつぐんのようで二回目だというのにさっきまで暗かった園田の表情がみるみる赤くなっていく。
相変わらずコイツの表情はコロコロ変わって面白いなぁと眺めていると、横から南が助け舟を出してくれた。
南「実は、さっき歌が上手だっていう1年生の子に作曲お願いしてみたんだけど…。」
南にも思うところがあるのか、いつもの甘い声も少し低い。
有「ん、ああ。西木野な。」
さっき聞いたばかりの歌とピアノを思い出しながら言う。どうやらコイツらと僕は入れ違いだったみたいだな。
南は一瞬ポカンとしていたが、すぐに再起動して僕に詰め寄ってきた。
こ「お、乙坂くん知り合いなの…!?」
有「ん?ああ。ちょっとな」
こ「……。」
答えると、南はしばらく黙っていたが、やがて
こ「……ふううぅぅぅぅぅ〜ん。」
というかなり長めの反応をしてくださった。
有「ん?。どうかしたのか?」
聞いてみても、「べっっっっっつにい?」としか言わない南。少し気になったので、とりあえずもう一度聞いてみようと一歩踏み出したところで、もはや馴染みつつある冷気が背後から漂ってきた。
海「……乙坂くんは本当に女の子と仲良くなるのが早いですねぇ。これは少し教育的指導が必要です。」
ちなみに慣れてきているのは恐怖や苦痛だけだ。
有「い、いや、仲良くしてるって言っても、軽く話したぐらいで…僕が名前で呼んだり…あ!ポエム読んだりしてるのはせいぜいお前くら──────海「乙坂くん、少し寝てていいですよ♪」
直後、僕の鳩尾に正拳突きが突き刺さった。
* * * *
海「おはようございます。乙坂くん。よく眠れましたか?」
放課後のチャイムと同時に目を覚ます。そこにはまるでこの時間に目覚めることが分かっていたかのように園田と南が立っていた。
有「ああ。……高坂は?」
聞くと、園田が窓の外を眺める。視線を追ってみると、そこには中庭に座る高坂。表情は変わらず暗いままだ。
有「まだなんか落ち込んでんのかよ…。」
こ「穂乃果ちゃん自分がやると決めたことにはマジメだからね。」
クスクスと笑いながら、でもどこか暗い表情を浮かべる南。
有「…何があったんだ?作曲を断られたからってだけじゃないだろ?」
猪突猛進を絵に描いたようなあいつが、協力を断られたぐらいであれだけ考え込むというのは考えられない。僕が聞くと、南は苦い表情をして頷いた。
こ「…うん。確かに作曲は断られちゃったけど、そっちはここまで落ち込む程じゃなかった。むしろ問題はその後…西木野さんが去った後、私達の所に生徒会長がやってきて。」
有「またあの生徒会長か…。イチャモンでもつけられたのか?」
僕が聞くと園田はゆっくりと首を振った。
海「いいえ。正しい、現実的な問題です。スクールアイドルという今人気の、話題性のあるものに何の計画も手を出して、もし失敗したら世間はどう思うか、と言われました。」
有「……」
僕の反応がないのをその意見の肯定だと思ったのか、自虐的な笑みを浮かべる園田。
海「当然なんです。生徒会長が私達みたいな何の取り柄もない普通の高校生、曲もない、グループ名も決まってないような計画性のない人達に学校の名前を背負わせたくないと考えるのは。」
そう話す表情は暗く、顔は限界まで俯けられている。
南も同じように顔を下げ、唇をかんでいる。
海・こ「「え?」」
だから、彼女達は触れるまで僕が彼女達の頭に手を置いたのに気づかなかった。僕はその頭をなでながらゆっくりと話す。
有「…それは違う。確かに、お前達は計画性がないかもしれない。物事を楽観的に捉えすぎていたかもしれない。でも、それでいいと思うんだ。」
海「でも、廃校が……。学校のために私たちは…。」
有「確かにそうだ。でも、それだけでやってる訳じゃないだろう?自分達がやりたくてやっている。だからあのキツイ練習も毎日しっかりこなしている。衣装や歌詞、曲や振り付けに真剣に悩んでいる。」
確かに足りないところはある。けどコイツらは適当にやってる訳じゃない。真剣にやってるからこそ足りない部分が見えて悩んでいるだけだ。そうじゃなかったらここまで悩んだりしない。
海・こ「「……。」」
有「悪いことをしている訳でもない。ズルをしている訳でもない。なら、お前らが周りを気にする必要はないんだよ。生徒会長も廃校も気にすんな。お前らはやりたいことを一生懸命やればいいんだ。」
昨日の理事長の話を思い出しながら言う。
有「なあ、園田、南。お前達は何がやりたい?」
冗談めかした口調で聞くと、ようやく2人はいつもの笑顔を浮かべた。
海「そうですね…私は、アイドルがやりたいです!穂乃果とことりと一緒に!」
今朝まであれだけ恥ずかしがっていたクセに、堂々とアイドル宣言をする園田に僕と南は思わず吹き出してしまう。
こ「…うん!そうだね。私もやりたい!海未ちゃんと穂乃果ちゃんとキラキラした衣装を着て精一杯楽しみたい!」
ひとしきり笑った後にそう宣言する南に、「はい!」と元気よく返事をする園田。もう心配無さそうだな。
海「それでも!ことり。スカート丈は膝下ですからね?」
こ「あ、あはー。それはちょっと…どうだろー?みたいな?」
海「ことりぃ!?」
……まだまだ問題は山積みのようだ。
有「まぁ、何はともあれ、やることは決めたんだ。行ってこいよ2人とも。」
僕がそう言うと、二人は元気よく頷いた。
海「はい!行ってきます、
こ「うん!ありがとね!
有「へ?あ、ああ。」
今なんか違ったような……?何となく大事なことのような気がしたが、直後に募集していたグループ名候補boxに紙が入ってたらしく、あれだけ落ち込んでいたクセに「やったーーー!!!」と教室に飛び込んできた高坂のせいでうやむやになってしまい、結局聞くことはできなかった。
* * * *
有「で?なんだよグループ名って。てかこっちはあれだけ頑張ってヤル気にさせたってのに肝心のお前は紙切れ1枚で元気になるってどういうことだよ。もうちょっと落ち込んどけよ。その計画性のなさとか勢いで他人を巻き込むところとか。」
穂「なんか理不尽!?」
いや事実なんだし理不尽ではねえだろ。八つ当たりだけど。まあ本当に落ち込まれて能力が発動されても困るので切り上げて話を進めることにした。
有「で、なんて書いてあったんだ?」
穂「まだ見てないよ?」
有「見てないのにあそこまで喜んでたのか…。」
すげえ才能だな…。イタズラだったらどうすんだよ。
穂「だってみんなでみたいし!じゃ、開けるよー。じゃじゃーん!」
みんなで見たいとか言っといて自分にしか見えない方向に紙を開く高坂。のぞき込んでみると幸い白紙のイタズラということも無くその紙には流れるような文字で「μ‘s」と書かれていた。
有「……。」
……なんて読むんだろう?
穂「えっと……ひゅ、ヒューズ?」
海「ミューズ、ですよ。」
有「石鹸か!」
海「違います。」
園田が呆れた目でこちらを見てくる。
海「おそらく、神話に登場する女神からとったものかと。」
さすが、中学生の時ポエムを書いていただけあって詳しい……じゃなくて博識の園田さんだった。怖いから睨むのをやめてください。なんで僕の考えてることがわかるんだよ……。
こ「いいと思う!私は、好きだな。」
南がそう言い、園田と僕も頷く。高坂は「ミューズ…」と呟きながら紙を見続けていたが、やがて大きく頷いた。
穂「うん!今日から私達は「μ's」だ!」
その手紙を綺麗に折り直した高坂は僕の方を向く。
穂「そうと決まればもう一回西木野さんに作曲頼んでこなくちゃ!行こ!ゆうくん!」
有「流れるように人を巻き込むな腕を引っ張るなそのまま走るな!分かった行くから離せ!制服が伸びる腕がもげる!園田、南!お前らは先に屋上行っててくれ!」
引っ張ることをやめない高坂に文句を言いながら、僕達2人は1年生の教室へと向かった。
* * * *
有「誰もいないな……。」
穂「あちゃー、やっぱり遅かったかー…。」
結局最後まで高坂に引っ張られながら向かうと、教室には誰もいなかった。
?「どうしたにゃん?」
しょうがないから帰ろう、と言おうとしたところで背後から声がかかる。振り向くとそこにはオレンジの髪をしたショートヘアの女の子が立っていた。ていうかにゃんってなんだよ可愛いな。語尾猫ちゃんと名づけよう。
穂「ねえあの子は?」
猫「あの子?」
僕と違いにゃんを気にすることなく会話を続ける高坂。でもあの子じゃちょっと伝わらないんじゃないかなー。
?「西木野さん、ですよね。西木野…真姫ちゃん」
助け舟を出そうとしたところで少女の後ろからそれに答える声があった。よく見てみると、語尾猫ちゃんの後ろにもう一人美少女が立っていた。高坂くらいの長さの茶髪。柔らかそうな肌は真っ白で、かけている赤いメガネがよく似合っている。ていうかメガネっ子かよ可愛いな。メガネっ子ちゃんと名づけよう
メ「ふぇっ?えっ、えっと…。」
有「……?」
何故か急に顔を真っ赤にして俯く少女。まさか今朝の南のようにまた声に出してしまったかと身構えるが、同じく不思議そうな顔をしている高坂を見る限りそういう訳では無いらしい。どうしたんだろう?
有「あの…「音楽室じゃないですか?」」
具合でも悪いのかと尋ねようとした所に語尾猫ちゃんが割って入ってきた。彼女はそのまま友達を隠すかのように僕達の前に立って続ける。
猫「あの子、誰とも話さないし。休み時間はいつも図書室で、放課後になると音楽室に行っちゃうんです。」
穂「へぇ…。」
強引な話の切り方を不審に思いながらも相槌をうつ高坂。ていうか西木野さん、友達いないんですね…。まぁあの性格じゃあ無理もないけど。
有「そっか、じゃあ行ってみるよ。」
高坂に目配せをして歩き出す。すると背中からメガネっ子ちゃんの声がかかった。
メ「あ、あの!」
話したくないのかと思っていたので意外に思いながら振り向く。少女は知らない人と話すことが得意ではないのだろう、不安そうに、しかししっかりと聞こえる声で言った。
メ「あの、頑張ってください…アイドル。」
その真っ直ぐな応援に、僕たちは思わず顔を見合わせ、それぞれ誠実な答えを返した。
穂「うん!頑張る!」
有「ああ!ありがとう!」
その気持ちが伝わった───わけでもないのだろうが、僕らの姿が見えなくなるまでメガネっ子ちゃんは小さく手を振り続けてくれていた。
有「ん?」
穂「どうしたのゆうくん?」
メガネっ子ちゃんや語尾猫ちゃんとわかれた後、音楽室へ向かうため高坂と階段を駆け上がっていた僕はポケットに違和感を覚えてブレーキをかける。急に立ち止まったので、2段上で高坂が不思議そうな顔で見下ろしてきた。
有「っと、悪い。メールだ。ちょっと先いっててくれ。」
僕が普段メールをする相手など限られている。なんなら僕のメールアドレスを知ってる相手も限られている。十中八九高城だろうが、もしかしたら歩未かもしれないのでとりあえず誰からかだけでも確認しようと高坂に先に行ってもらって携帯を開く。
【 From友利 】
《乙坂くん、今すぐ生徒会室に来てください》
* * * *
友「遅いぞ変態シスコン土下座男。」
有「それがメール1本で忠犬よろしく駆けつけた人間への台詞か?」
というかソイツは人間か?
友利からメール直後、高坂に急用が出来たという旨のメールを送った僕は2日ぶりの校舎、そして生徒会室へとやって来た。部屋には高城と黒羽、それに友利といつものメンバーが勢ぞろいだ。
友「それじゃあ年上巫女萌え野郎も来たことですし話しますか。」
有「お前はなにをどこまで知ってるんだ…?」
コイツちゃんと学校行ってるんだろうか。友利は僕のツッコミを無視して扉の方へと目を向けた。
友「入って来てくださーい。」
?「はい……。」
弱々しい返事とともに扉が開かれる。俯きながら入ってきたのは気弱そうな1人の少女だった。華奢な体の腰まで伸びたストレートな黒髪、長めの前髪と俯き気味なせいで表情はあまり見えないがそれでも分かるくらい整った顔立ちをしている───
友「……だからそうやって女子が出てくる度に細かい描写を加えんでいい!」
有「痛え!?」
友利に思いっきり足を蹴られる。どうやらコイツも僕の考えてることがわかるクチらしい。ホントなんだその特殊能力。
有「そ、それでこの子が何なんだよ…?」
蹴られた足をさすりながら話をすすめる。友利は一度頷くと真剣な表情を取り戻してから言った。
友「彼女の名前は中村立花さんと言います。昨日能力が目覚めたウチの生徒です。その能力は…能力消去。」
有「の、能力消去!?」
友「ええ。その名の通り、他人の能力を削除する能力です。」
いや、しれっと言うけどさあ…。
有「すげえな…そんな能力ありかよ。」
僕が言うと友利が呆れたような顔を向けてくる。
友「いやあなた程ではないと思いますが…。それに、強力だけあってこの能力には厳しい制限があるようです。」
有「制限?」
友「ええ。一つは対象の手を握ること。もう一つは対象者が能力を得たのが最近である……恐らく1日以内程度である事だと考えられます。」
有「1日…。」
つまり能力が発生した直後なら消せるってことか。本当にすごい能力だな。確かに能力を奪える略奪ほどでは無いのだろうが、それでも他人の能力に直接干渉できる能力は初めてだ。それに僕達にとってはある意味では略奪よりも使い勝手が良いだろう。能力を消すことが出来るなら僕と違って余計な負担を背負わずにすむし。
有「話は分かった。でもそれを僕に話してどうしようって言うんだ?」
友「……。」
友利は1度だけこちらに目線を向けたが、やがて諦めたように話し始めた。
友「ここから先は可能性の話ですが…。この能力は対象者が発動してから1日の能力を消すことができる能力です。」
有「ああ。だから?」
友「ちっ、少しは自分で考えろよ…。対象者の1日、つまり
有「……。」
そうなる…のか?確かに対象者からの1日なら僕の中の1日と数えることもできる。得た能力をかたっぱしから消すこともできるかもしれない。
友「もちろん可能性の話です。消したからといって脳の負担が消えるとも限りません。ですが能力を持ち続けるよりはマシっしょ。」
ようするに、と友利が一度言葉を区切って続ける。
友「もし万が一あなたが略奪の能力を使わざるを得ない状況に陥った時、使ったあとすぐに私たちを呼んでください。上手くいくかは分かりませんが、能力消去をあなたに使ってみましょう。」
有「…なるほどな。」
つまり
有「確かに、脳の負担うんぬんを差し引いても崩壊っていう能力を消すことが出来るってのは大きなメリットだな。」
僕がそう言うと、友利はそれだけじゃないという風に首を振った。
友「それもありますが…実はここ最近神田から秋葉原周辺で多くの能力者が目覚めてるんです。」
有「ああ…そう言えばそうだな。」
友「もちろん微々たる数っす。1ヶ月に2,3人…それでも、他の地域と比べると明らかに多い。もしかしたら、あなたの前に能力者が現れることもあるかもしれません。」
有「ん……?」
何かが頭に引っかかったような気がしたが、まとめるように話し始める友利の声に思考が遮られ、それが形になることは無かった。
友「言っとくけど略奪を無闇に使っていいって言ってるわけじゃないっすよ?あらゆる力は相応の理由がある。それを無理やり剥ぎ取る略奪がいい影響を与えるはずがない…あくまで万が一そうせざるを得ない状況の時のみです。いいっすね?」
有「あ、ああ。分かったよ…。」
何か大事なことを忘れている、そんな感覚をもったままの僕は詰め寄ってくる友利に曖昧な返事を返した──────
第8話予兆でした。ついに出てきたぜりんぱな!スクフェス今回のガチャはドブったぜりんぱな!そしてもはや定番になりつつある月末投稿になってしまい申し訳ありませんでした……。いやあ先月は10月中に一気に2、3話投稿とか言ってた気がするんだけどなぁ…(遠い目)。
来月!来月こそは!
それではここまで読んでくださった方々どうもありがとうございましたm(_ _)m