艦これ混沌仕様の開幕です。
「問おう。貴方が私のマスターか?」
私の目の前に顕現した美しき少女は、きりっとした表情でそう言った。
眼鏡とカチューシャのみを身に付けた姿。
おっさん童貞には目の毒な光景であった。
此処は横須賀鎮守府。
その工廠の建造設備。
九基ばかり並ぶ、棺のような艦娘生成器。
その内の三つは他のそれに比べて大きい。
世界の海を跳梁跋扈する深海棲艦を駆逐する艦娘(かんむす)たちの本拠地で、妖精たちに誘われるままに私は初の建造を行ったのだった。
火炎放射器のようなバーナーで生成器の底を炙ったら、とても早く艦娘を産ませることが出来た。魔女の釜みたいだ。
彼女の問いかけだが、そうです、と私は答えた。
おそらく、間違ってはいないだろう。
間違ってはいないと思うのだが、決定的ななにかを誤った気がしないでもない。
「私は軽巡洋艦の大淀です。貴方の剣となり、楯となりましょう。一生よろしくお願いいたしますね、提督。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「それにつけても、お腹が空きました。」
「食堂でなにか食べてから、電車に乗りましょう。」
あれ?
今のはなんだったんだと思ったが、まあ可愛いからいいやと思った。
実にいい加減だが、それが偽らざる気持ちである。
彼女の台詞は様式美と思われる。
たぶん。
鎮守府の元帥からの訓示は既に終わった。
後は新設された函館鎮守府へ行くだけだ。
途中で大湊(おおみなと)の提督へ挨拶をしよう。
ん?
工廠の隅から複数の声が聞こえる。
「キミ、提督か?」
ツインテールの可愛らしい娘が私に話しかけてきた。
駆逐艦の子かな?
「ええ、先程正式に提督になりました。」
「うちは龍驤。この鎮守府を脱出するための艦隊旗艦で軽空母や。」
えっ?
いきなりとんでもない揉め事に巻き込まれた。
肌も露に、ボロボロの姿の艦娘たち。
一体なにが起きたというのだ?
「大淀さん。」
私が話しかけると、携帯端末を操っていた彼女がニヤリと嗤(わら)う。
「第八会議室を使う許可を二時間得ました。」
「流石ですね。では会議室へ行きましょう。」
「その前に、高速修復材を使わなければなりません。」
「高速修復材?」
「妖精たちが提督の足元に置いたバケツの中身です。」
「どうやって使うのですか?」
「こうです。」
大淀が緑色の液体を勢いよく、深く傷ついた艦娘へぶっかけた。
シュウシュウと音を立てながら、損傷が目に見えて癒されゆく。
次々に液体を少女たちにぶっかけて、当座の問題は解決された。
有能な大淀と共に会議室へ向かう。
連れ立つは六名の青白い顔の艦娘。
一体、どういうことなのだろうか?
一様に不安に満ちた表情であった。
彼女たちは完全に消耗品扱いを受けながら、それでも生き残った猛者だった。
とある提督と艦隊運用の論争をして論破してしまったため、激務へと追いやられた龍驤。
とある提督を叱咤激励していたつもりが逆効果になり、彼の逆鱗に触れてしまったために激務へと追いやられた駆逐艦の叢雲。
とある提督の性的嫌がらせを諫めていたら、鬱陶しく思われて激務へと追いやられた駆逐艦の曙。
仲間たちを思いやるが故にとある提督の行為が許せなくて意見具申したら、逆ギレされて激務へと追いやられた駆逐艦の霞。
とある提督からの度重なるお誘いを拒んだために、激務へと追いやられた軽巡洋艦の龍田。
とある提督の指揮能力に疑いを持って指摘したために、激務へと追いやられた重巡洋艦の足柄。
「そのとある提督って……もしかして同じ人ですか?」
気まずそうにする艦娘たち。
うーん、確定だな、これは。
「提督。」
「なんですか、大淀さん?」
「さっと行って、パッと殺ってきましょうか?」
「昼飯の話をするみたいに、おそろしいことを当たり前に言うのはやめて下さい。」
「大丈夫です。証拠は残しませんから。」
「殺人は駄目です。」
「致し方ありません。では書類を少々改竄してきますので、少々お待ちください。」
委員長系美少女が、勢いよく走り出した。
……改竄ってなんだよ。
まだ時間があったので、目の前の艦娘たちと親睦を結ぶべく会話を試みた。
途切れ途切れのぎこちないやり取りが延々と続いてお互いに少々気まずくなった頃、大淀が戻ってきた。
女の子と付き合ったことのないおっさんには、これが限度ナリヨ。
今はこれで精一杯。
大淀が上手く立ち振る舞って、例の艦娘たちは無事に函館鎮守府へ転属と相成った。
その陰でとある提督が閑職へと追いやられたようだが、まあ、我々には関係ないな。
さて。
私たちの海へ行こう。
戦いの海へと行こう。
その前に馴染みの小料理屋で食事をしよう。
彼女の逸品料理を皆に味わってもらいたい。
きっと彼女も喜んでくれるに違いないから。