はこちん!   作:輪音

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注文されました私の内容を繰り返します
冬季限定のハッピーバレンタインホワイトチョコレートソース仕様でホイップクリームとクッキーチップが増量されてエスプレッソショット二杯追加されたハイパーキャラメリーゼフラペチーノモカモカマックスマキシマム通称モカ吉愛称モカ子のぼくらのグランゾートサイズになりますが、こちらでよろしいでしょうか?
次回、『チョコレート大戦』
普通の珈琲ってなんですか?





C:チョコレート大戦

 

 

 

 

南無三、爆散!

チェストーセキガハラ!

今此処に疾走するサツマヘコ!

追いかける元タケダのイイ隊!

ナマリダマが赤い鎧を次々貫き、命がハライソに向かって突撃する!

トクガワ死すべし、慈悲はなか!

ブッタ斬り、ブッタ斬り、突撃!

ヘイシバンザイ!

突撃と捜査の合間に、アメリカンチェリーパイと珈琲とドーナツだ。

うむ、ここのダイナースの食べ物はうまかね。

よかたいよかたい。

 

……変な夢を見た。

疲れているのかな?

そう言えば、年末の忘年会は大変だった。

火を吐く子がいたり、キャストオフする子がいたり、ルパンダイブする子がいたり、兎に角滅茶苦茶だった。

私は料理ばかり作っていたな。

……まっ、いっか。

新年会も無茶苦茶だったなあ。

キャストオフする子がいたり、剣舞をする子がいたり、薔薇を飛ばす子がいたり。

余興でこわい話をしたら、泣き出す子もいたな。

『七尺様』に『コトリカン』に『煙夢』に『サマーハウス』。

今度は大人しい実話にしよう。

 

 

 

「提督、これが新しいヒロポンです。」

「ほほう、これがですか。」

 

ここは厨房。

デュラレックスの硝子のコップに入った橙色(だいだいいろ)の液体を、私はじっと見つめる。

鳳翔が頷いて言った。

 

「『広島のポンカンジュースに負けないように、鹿児島県阿久根市産の文旦(ぼんたん)果汁と熊本県産温州(うんしゅう)蜜柑果汁だけで作った、天然果汁一〇〇パーセントの素敵なジュース』です。」

「名前が長いですね。」

「別名は、旦州です。」

「名前だけだと、なにがなんやらわかりません。」

 

味はすこぶる旨かった。

 

 

 

函館鎮守府に於ける艦娘筆頭は大淀だ。

函館の提督をそもそも見出だしたのは鳳翔だし、候補生の頃にころっとやられたのは間宮に長門に妙高に加賀だが、実質的に鎮守府を取り仕切っているのは彼女だ。

大淀の世話になっていない者は鎮守府内におらず、鎮守府外でも世話になっている者は多数存在する。

時折大本営に出掛けて物理的に説得することもままあるが、よくあることなのでやられる者しか気にしない。

たまさか青いドレスを着て剣を振り回しているが、なにかの隠し芸か余興に使うのだろうとこちらも誰も気にしない。

実際、彼女が金髪碧眼の姿になって余興をしたり、メイド服を着てご奉仕する姿は鎮守府の風物詩である。

不動の第一秘書艦であり、第二秘書艦は週単位で交代するものの、彼女の地位に揺らぎは無い。リシュリューもビックリだ!

 

 

 

チョコレート。

ショコラ。

チョコラーテ。

ショコラーテ。

南米原産の豆を使った甘いもの。

 

板チョコ一枚が今は三〇〇〇円。

いつの間にか超高級品になった。

まだまだ舶来品の嗜好品は高い。

個人輸入雑貨商の美濃柱さんに頑張ってもらっているが、まだまだ高額な状況は続くだろう。

恋する艦娘たちからカカオの輸入をせっつかれているが、私に巨大な権利など無い。

大阪商工会議所からもカカオの輸入について打診が来たが、そういうことは商社に言って欲しい。

 

古流武術でもたしなんでいそうな美濃柱さんと会話する。

彼は四〇代後半に見える人物で、「時間とお金をご用意いただけましたら、ファベルジェの卵をご用立てすることも可能です。」と言っている商人だ。

欧州に直接赴いて買い付けを行い、オリエント急行やシヴェリア鉄道などを駆使して各国の利になる行動を行う。

これって、男の子の浪漫だよな。

とまれ、彼は現地の最新情報を有する稀少な人物だ。

幸い、美濃柱さんは李さんの中華料理がお気に召したようで、トマトと卵の炒めものや青椒肉絲に舌鼓を打ち鳴らしている。

その李さんは、よその鎮守府の艦娘たちに包囲されていた。

気の弱い彼はオドオドしつつもテキパキ手順を進めている。

名料理人にして通訳の鹿ノ谷さんが苦笑していた。

提督や憲兵や整備員や事務員などの胃袋を握り締めるべく、彼女たちは料理を学ぼうと殺到したようだ。

美濃柱さんは料理人の有沢さんとイタリアで出会って、おいしい料理に二人で舌鼓を打ったそうだ。

なにをしているんだ、あの人。

いつの間に大陸へ渡ったんだ?

美濃柱さんに間宮羊羮と月餅を土産として渡し、再会を約す。

 

 

 

美濃柱さんが去った後、フロイントシャフトの内海さんに会う。

彼はアニメーション製作会社の社長兼海外販売代理店の元締め。

彼によると、舶来品と嗜好品は当分高額なままだろうとのこと。

顔で笑って目が笑っていない内海さんには得体の知れない部分がある。

まあ、これも個性だな。

二人でアフリカ産の珈琲を堪能した。

 

 

 

血相を変えた大淀が鎮守府内を突っ走っている。

嗚呼、あれは大阪鎮守府へ着任予定の大淀だな。

彼女は『研修生』の腕章を付けている。

はっちゃけた鎮守府だから大変だよな。

あとで、ボンタンアメでもあげようか。

 

 

 

メリケン艦娘たちが微妙な顔をしつつ、私に質問を投げかけてきた。

『バレンタインデイ』とはなんぞや、と。

元々は日本の菓子業界が販促の一環として広めた風習だと説明する。

恵方巻きは最近定着させられた風習だと説明した。

ついでにティラミスやナタデココやパンナコッタの話もしておく。

いずれも定番としては定着しきれなかった食べ物だ。ティラミスはけっこう好きなんだけどな。

 

「つまり、その日にチョコレートを渡すのが日本の恋人や夫婦の慣例なのね?」

 

戦艦のネヴァダがこてんと首をかしげながら言った。

金色のツインテールが揺れている。

 

「あー、まー、真似しなくてもいいですよ。メーカーが言い出して無理矢理流行りにさせた事柄ですから。」

 

ミニスカポリスな恰好の重巡洋艦シカゴと、カウガールな恰好の正規空母ヨークタウンに左右を挟まれる。

 

「でもまー、男なら可愛い女の子から贈り物が欲しいところよね?」

「欲しいならあげるわ。」

 

巨乳攻撃だ。

やめてください、死んでしまいます。

 

「えーと、欲しくない訳ではありませんが無理に作る必要性はありません。」

「なに、下院議員に問い詰められた上院議員みたいな回答をしているのよ。」

 

いやー、でもチョコレートはまだまだ高額だし。

 

「いたいた、即席提督。あたしたちからのチョコレートいるわよね。」

「また昼間っから美少女を侍らせてヘンタイね、インスタント提督。」

「チョコレートは高いから三人でまとめてあげるわ。感謝しなさい。」

 

曙、霞、叢雲の三名は口早にそう言うと、たったと去ってしまった。

うん、返事くらいさせてくれないかな。

 

「……人気があるわね、アドミラル。」

「……お、おう。」

 

 

 

鳳翔と間宮のいる厨房へ行ったら、何名もの同型艦娘がそこにいた。

なにを言っているのかわからないかもしれないが、あれは断じてマヤカシではない。

女の情念のおそろしさを垣間見たぜ。

裸エプロンはまだわからないでもない。

だがしかしおかし。

体にチョコレートを塗るのはやめなさい。

「えっ、じゃ、じゃあ、ここら辺に塗ったらどうでしょう?」って具体的な場所を指すんじゃありません!

おじさん、一部がトランスフォーマーしてしまいます!

 

 

 

中身がおっさんの最速駆逐艦島風に突撃され、山頂へと登頂された。

おうっ!

最近、彼女の女性化の進行が加速しているような……気のせいだな。

 

「溶けたチョコレートを口移しはどうかと他の娘から聞かれたんだが、どう思う?」

「とても……エロいです。」

「よし、では皆で……。」

「やめてください、死んでしまいます。」

「大丈夫、そうなったら皆できちんと分けるから。」

「なに、さりげなくこわいことを言っているんですか?」

 

 

『研修生』の腕章を付けた大淀がおろおろしながら、艦娘たちに指示を出したり注意したりしている。

何故か軍隊ものの新任少尉殿を連想した。

私は軍属でなんちゃってだが少佐の階級。

ええんか、これ? なんやようわからん。

 

 

 

鎮守府外の波打ち際へ行く。

吹雪が悩んでいるように見えたので、聞いてみた。

 

「チョコレートでパンツを作ってみたらどうかな、って思ったんです。」

 

……溶ける云々の前に、お金がとてもかかりそうだと思う。

昔の深夜系エッチな番組のノリだな。

君はそれでなにをしたいのかなかな?

 

 

 

鎮守府内へ戻ると龍田がいた。

私の腕を取り、撫でつつ言う。

 

「チョコレートをかけてペロペロ舐めるのはどうかしら?」

 

なにに?

誰が?

 

 

 

早霜と清霜に抱きつかれる。

清霜さん、あなたは大湊(おおみなと)の艦娘でしょう。

 

「ねーねー、司令官、チョコレートを男の人にあげたら願いが叶って戦艦になれるって本当?」

「清霜さん、誰がそんな与汰話を言ったんですか?」

 

 

発信源へ転進しようとするなんちゃって提督。

そこへ、雲龍と龍驤と足柄が抱きついてきた。

提督に六五三四八点の損傷。

提督は大破した。

高梁(たかはし)、吉井、旭の岡山三川でスールな軽巡洋艦たちも抱きつき、辺りは混沌としてゆく。

更に抱きつく艦娘たち。

やめて、提督の生命点はほぼ零よ!

 

 

提督はサトミキヨシで購入したマッスルドリンコを飲んだ。

体力が全回復した。

 

 

ながとがあらわれた。

ていとくはようすをみている。

ながとがいつものよめはつげんをした。

ていとくはにげだした。

しかし、かこまれている。

かががあらわれた。

むひょうじょうのままちかづいてくる。

ていとくはにげだした。

しかし、かこまれている。

みょうこうがあらわれた。

さんめいによるじぇっとすとりーむあたっく。

つうこんのいちげき!

ていとくはたいはした。

ていとくはパルプンテをとなえた。

なにかとてつもなくおそろしいものをよびだした。

ぜんいんきぜつした。

ていとくはけいけんち0てんをかくとくした。

 

 

 

死にかけの顔をした提督と研修生の大淀が、もそもそと小会議室で夕食を摂っていた。

食堂が尋常ではない喧騒と気配を漂わせているからである。

函館鎮守府の利点は自由が大抵認められるところだが、場合によっては気ままな面が悪い方へ転化するのを避けられない。

自信の無い教育実習の学生と冴えない担当教師のような会話を行いながら、人でないモノと人が同じ釜の飯を食べてゆく。

李さんと鹿ノ谷さんと鳳翔と間宮が腕を振るって作った定食だ。

寒ぶりのカルパッチョに帝国陸軍風肉じゃが、長崎県産ひじきの煮付け、埼玉県産キャベツの浅漬け、帝国ホテル風ハンバーグに大阪豆ご飯。

おろおろとつたない言葉で慰める提督に、頬を赤らめる軽巡洋艦の大淀。

甘味としてアントナン・カレーム風バヴァロワの文旦ソース添えと大分県産紅茶と八雲産低温殺菌牛乳が鳳翔と間宮によってもたらされ、どことなくなんとなく甘酸っぱい雰囲気は雲散霧消する。

 

 

「カカオを持ってきてあげたわよ。」

 

カカオの実が大量に鎮守府前に積まれる。

戦艦棲姫とショウカクと、何名かの肌の白い娘たちが褒めて褒めてオーラを放っていた。

キエフを名乗る巨乳空母もいる。

提督は彼女たちを思いきり賞賛した。

彼女たちの好感度が二〇点上昇する。

 

 

 

二月一四日当日、未明から戦端が開かれたチョコレート大戦は苛烈とも言える展開を迎え、東軍と西軍の戦いは伯仲した。

特に西軍の『石田隊』と『大谷隊』の鉢巻きをした艦娘たちが精強の働きを見せ、『黒田隊』と『福島隊』の鉢巻きをした艦娘たちが手こずっていた。

昼食を携帯糧食で済ませて戦線に帰り咲く者も少なくなく、それは鳳翔と間宮の心証を悪くするが、おにぎりと味噌汁と漬け物の三点組み合わせを素早く作って瞳孔が開き気味の艦娘たちに提供した。

戦局が大きく変わったのは、おやつの時間を過ぎてからである。

一部駆逐艦が決死の突撃を敢行し、何故か函館にいるローマや航空戦艦の布陣へ正面突破を図ったのだ。

それに呼応して全軍突撃を始める西軍。

しかし、伏兵が側面に待ち構えていた。

『三河旗本隊』と鉢巻きをした艦娘たちが西軍の腹背を突いたことから、大勢が決する。

傘をさした艦娘や胸にさらしの艦娘もいたという。

最終的に『薩摩兵児』と鉢巻きをした他鎮守府の艦娘たちが釣り野伏せを行いながら必死で脱出した時点を持って、このなんだかよくわからない戦闘は終結した。

 

 

 

尚、当日の執務室には狸の縫いぐるみが置かれていたという。

『影武者 世良田二郎三郎元信』と、達筆で書かれた名札をつけて。

 

 

 

その夜、提督の義母が巨大なチョコレートを持参して、艦娘たちをどよめかせた。

 

「ちょっと大きくなり過ぎちゃった。」

 

少女のような姿の彼女が微笑むと、何名かの艦娘が歯ぎしりする。

困惑しながらも、息子は血の繋がっていない母に微笑みを向けた。

はた目には父と娘、或いは歳がかなり離れたナニカシラであった。

 

決着のつかぬまま、夜が過ぎてゆく。

 

 

 

 








到頭、一〇〇話まで書き続けることが出来ました。
皆様の常のご愛読に深く感謝します。
読んでくださる方々あってのお話だということをつくづく感じました。
『艦隊これくしょん』の二次小説としては妄想系トンデモ作品に属するモノですが、ある意味唯一無二のセカイではなかろうかと愚考します。
『艦隊これくしょん』で示された隙間だらけの設定と現代日本を擦り合わせ、多岐に渡るネタを突っ込みまくったのが『はこちん!』です。
現在、作中日時は二〇一七年二月です。
擬似リアルタイム制を採用していますが、話の都合で過去のモノになることもあります。
興味を持った事柄を順次話にしていますので、内容はバラバラになりやすくなっております。
統一性の薄いのと函館提督の存在感の薄いのが難点ですけれども、予めご了承くださいませ。
ギャグ路線で行けばよかったかと今更思うこともありますが、それだと長続きしなかったかもしれません。
ホラーっぽい話がちらほらあるのは仕様です。
SCPっぽい話がちらほらあるのも仕様です。
複数解釈出来そうなものがあるのも仕様です。
艦娘に関しては性能よりも性格を重視しており、『料理のようなモノ』ネタは避けています。
懸命に料理を作ったのに、それが酷いモノにしかならなかったという展開に納得出来ないからです。
男性のために一生懸命料理を作ってバカにされたり罵られたりするのは、とても辛いものですから。



作中では断片的な設定について、少々述べてみます。
およそ半世紀前、この地球は宇宙人に狙われました。
日本では二子山に本拠を置く警務隊が侵略に備え、日々活動していました。
兵庫県冬木市では何度か聖杯戦争が行われ、函館の提督は関係者です。彼の母親は人間ではありませんし、直接的な血の繋がりもありません。
しかしながら、彼女は少しばかり愛情過多です。
タイには悪徳の街ロアナプラが存在しますし、そこにいたロシア人たちがやって来た小樽は急速にロシア化しています。
市内はロシア各地の料理を扱った飲食店が複数存在し、ウォトカ(ウォッカ)の蒸留所が小樽近郊に建設されました。
また、『ヘルシング』のとある登場人物が某鎮守府の提督をしています。


社会的な事象についてきちんと書かれた作品をなかなか見かけないと思い、その辺りを書き始めて困難を実感しました。
うん、書き手の皆さんがぼかす筈だわ。
現実的なことをしっかり書いてこその虚構とは思うのですが、調べる範囲が多すぎるので基本的に狭い範囲のことを書くようにしています。


日本の各都道府県では鎮守府を背景に地方再生を図るところが多いです。
そのため、誘致で県内が割れることも多々あります。
鉄道の誘致での酷い話を聞いたことがありますけれども、そこまではむごくないと思います。

提督一種と提督二種の差異は、黄金聖闘士(セイント)と白銀聖闘士くらいの違いがあります。
ただ、白銀聖闘士だから黄金聖闘士に勝てないかというと、そうとばかりも言い切れません。
要は小宇宙をセブンセンシズまで高め燃焼出来るかが問題であって(以下略)。
車田御大式エンドレスバトルは当作品には御座いません。予めご了承ください。


函館の提督の視点で語られるお話が日常生活的に感じられるとしたら、それは意図的なものです。
このセカイは『もうひとつの現実』として書いていますので、現実的に感じられにくい要素は極力書かないようにしています。
もし非現実的に感じられる要素を書かねばならない時は、それが当たり前なものとして書くようにしています。


食べ物を取り上げることが多いのは、登場人物たちにおいしい料理を食べてもらいたいという願いがあるからです。


わやくちゃなお話ではありますが、今後ともよろしくお願いいたします。




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