夕方、どことも知れぬ街角。
人通りのまったく無い街角。
前方に黒い水溜まりがある。
そこから白い手が出てきた。
ニュルリとした感じだった。
私に向かって手招きをする。
いつの間にやら周囲は沼だ。
もしかしたら底無し沼かも。
足下からズブリズブリ沈む。
嗚呼これはすこぶる不味い。
思いながらも体が動かない。
首まで浸かってもうヤバい。
目覚めると汗だくだった。
大淀が心配そうな顔で私を見つめている。
六畳間の和室だ。
枕が二つある。
「どうかされましたか?」
女が、問うた。
「こわい夢を見ました。」
私は、答えた。
「それは大変でしたね。」
女が、言った。
「ところで他の子はどこにいるんです?」
私は、再度問うた。
「あら、それでしたら……。」
慈母のように軽巡洋艦は微笑んだ。
女は、押し入れの襖に手をかける。
そして、すうっと戸を引き開けた。
ガタン。
重い金属の音で目覚める。
「大丈夫ですか、提督? うなされていましたよ。」
隣の龍田が心配そうな顔で私を見つめていた。
古い汽車に乗っている。
試験的に復活し導入された蒸気機関車だ。
煤(すす)を吐くために路線は限定されるが、電気を使わないことの利点が見直されていた。
弁当売りの声が遠くに聞こえる。
ここはどこの駅舎だ?
「ここは何駅でしょうか?」
私は、問うた。
「きさらぎ駅と書かれていますよ。」
女は、何事でもないかのように言う。
慈母のように、軽巡洋艦は微笑んだ。
目覚めると、とても広い会議室にいた。
室内は暗く、周りの者たちの顔は見えない。
今は停電中なのか?
目の前の茶を飲む。
やたらと苦い味だ。
五〇名か、それ以上の娘たちがそれぞれ口を開いている。
「最近の小学生では、ずっと年上の彼氏がいる子も少なくないわ。」
「中学生でおじさんと付き合っている子もいるよ。だから、一切問題ない。」
「強力わかもとと亜鉛を飲ませて、頑張らせないといけないわ。」
「お嫁さん艦隊を編成して、みんなの共同財産にするのが現実的な落としどころかなかな?」
「夜がこわいんです、って添い寝から始めて油断させるんだよ。」
「レディになるためなら、少しくらいこわくたって我慢するわ。」
「ハラショー、その意気だ、同士。ウォトカで酔わせたらいい。」
「もーっと頼りにしてくれるように、いつも傍にいなくちゃね!」
「司令官さんは甘えんぼが多いので、甘やかせるといいのです。」
「即席提督はね、厳しいことを言いながら甘やかせるといいわ。」
「インスタント提督はしっかり面倒を見ながら厳しくすべきよ。」
「ちょっと試してみましょうか。」
冷えた声が、隣で聞こえてきた。
娘たちがじりじり近づいてくる。
金縛りに遇ったかの如く動けぬ。
飛び起きるとまだ暗かった。
私は疲れているのだろうか?
倦怠感が、重くのし掛かる。
変な夢ばかり見るなあ。
鉄格子の窓から月明かりが差し込む。
質素で狭い部屋を見渡した。
この生活もだいぶ慣れてきたものだ。
「眠れないの?」
女が、後ろから私に話しかけてきた。
慈母のような声で、話しかけてきた。