憎しみが深海棲艦を産み
戦いが暗い利益を生む
砲火飛び交う陰に
権力を望み
密かに爪を研ぎ
八重歯を歯磨きする者がいる
時代はうねりを増し
人々は嵐の中に立ち尽くす
Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか
美濃柱さんと『ヨーシク』(ロシア語で針鼠の意)で食事をする。
ロシア産の紅茶もなかなかよい味わいだ。
最近、函館にはロシア料理の店が増えている。
ロシア人もあちこちで見かけるようになった。
若いロシア娘と日本人のおっさんがイチャイチャしているのも、函館の日常茶飯事になってきた。
この店は他と差別化するためか、旧ソヴィエト料理を提供するのだ。
個人輸入雑貨商の彼は今回、ロシアや東欧や中欧の蚤の市や骨董市を訪れたそうだ。
それと、紅茶と珈琲と石炭の輸入でかなり儲けたらしい。
寒い北海道では近頃石炭が必需品だから、とても助かる。
石炭ストーブとハクキンカイロが、ここ最近の冬の道民の標準装備だと言われるくらいだ。
鎮守府へも、ロシア産の紅茶と中東産の珈琲と近き国の石炭を融通してもらう。
勿論、相応の代価を支払って。
年代物のソヴィエト製やチェコ製やオランダ製の色鉛筆をいただく。
こちらはロハだ。
私が下手な落書きをするのを知ったので、それでくれたのだろうな。
オマケってやつだ。
色鉛筆って、ノスタルジアの香りがするよな。
ソヴィエト製の色鉛筆は缶ケースの表面に『将校用』と印刷されていて、半世紀ほど昔に作られたものだそうだ。
『将校用』の名は商品名なので、別に将校専用という訳でもないとか。
よくわからないが、なんとはなくロシアっぽい感じがしないでもない。
帝政ロシアのロマノフ王朝時代らしい鉛筆までいただいた。
黒く厚く塗られた軸に、双頭の鷲が金色で箔押しされた品。
これぞまさしくカランダッシュ(ロシア語で鉛筆の意)だ。
ようやくのことで入手した、キューバン・マホガニー製の箪笥の中に紙でくるまれていたのだとか。
貴族の持ち物という触れ込みの品で、箪笥自体は既に京都の会社社長が購入することになっている。
中身は自由裁量だろう。
他になにが入っていたかは知らないが。
本物かどうかはわかりませんよ、と言われたが、太い軸が歴史の重みを感じさせる。
思い込みかもしれないが。
もし本物だったらお宝ですよ、と美濃柱さんはおどけながら言った。
いつか一緒に欧州へ買い付けの旅に出ようと、そういった話をする。
李さんも一緒だと面白いだろうな。
すぐれた商人と料理人との旅行だ。
面白くない筈がない。
ちょっこし興奮した。
いつまで提督稼業を続けられるか。
退役後の生活を考える必要がある。
海外に打って出るのも悪くないな。
二人で浪漫の欠片について話した。
ロシアの微発泡飲料のクワスを飲みながら、美濃柱さんと浦潮(うらじお)の日系ロシア人が提携して開業する『兵士の日用食亭』と『春の雨に溶ける雪』について相談を受ける。
元兵士たちがちょくちょく訪れる店にしたいのが、『兵士の日用食亭』。
ロシアの家庭料理的な雰囲気の店にしたいのが、『春の雨に溶ける雪』。
五稜郭の辺りと倉庫群の辺りがどうだろうと話した。駅周辺も悪くない。
いつか函館が五〇万都市になったら面白いですねといった与汰話もする。
かつて半世紀前にウルトラ警務隊が使っていたポインターに乗って鎮守府へ戻ると、艦娘たちの反応は三種類に別れていた。
行かないでと嘆願する子。
是非とも一緒にと言う子。
私を捨てるのかと怒る子。
ちなみに鳳翔と間宮は、料理の腕を積極的に誇示した。
東京を五年以内に四〇〇万都市にするべく邁進すると、新しい女性都知事がテレビで会見していた。
現状の倍の人口か。
関東圏の人口比が激変したのを、なんとか元に戻すつもりなのかね?
日本も人口が減ったからなあ。
ネオサイタマが関東地方有数の大都市に成長したし、この九年近くで日本の勢力図は大きく変化しようとしている。
西日本が協調路線で活発に活動しているのを、東日本が抑えきれないのである。
鎮守府の位置も問題だ。
西日本に大型鎮守府が三つもあるのだ。
いくら鎮守府が政治的に中立であろうとしても、経済的には大きな勢力となる。
実際、西日本の大型鎮守府周辺の都市がかなり発展していた。
呉鎮守府が『呉モール』と揶揄されるくらいだ。
舞鶴鎮守府は煉瓦造りの古典的な雰囲気の建物だが、佐世保鎮守府は中が商店街風になっていて、おいしい店も多いそうだ。
横須賀は内憂外患に悩まされていて、なかなか身動きが取れない。そのためか、第一第二の大淀が頻繁に連絡してくるようになった。
時折、うちの大淀と話をしている。
大本営の大淀が何名か訪れることも普通になってきている。
発言や行動により一層気をつけよう。
中東との国交が復活したら、第二のバブルが始まるかもしれない。
呉第六の先輩が先日言っていた。
もし今度バブル経済が日本を覆ったら、国が潰れると。
変なことを言うなあとその時思ったが、一気に景気が上向いて急落した場合、以前ならば地力があって耐えられたが今は穴だらけなので崩壊に耐えきれないそうだ。
日本はバブル崩壊でいろいろなものを失っていて、その穴埋めが不味かったんじゃと苦々しげに先輩は言った。
数度に渡る選挙での敗退責任を取って、都議連の黒幕爺さんが辞職する旨の記者会見もテレビで行っていた。
七七歳か。
東京は勢いを取り戻せるのか?
三〇代、四〇代の政治家たちが先陣を切って復興にいそしむ欧州に比べ、何歩も遅れてみえる。
日本人の保守性が悪い意味で作用したのが、あの老人なのかもしれない。
長野県松本市と上田市と山梨県甲府市の人たちが鎮守府を訪れた。
果物ゼリーや小布施の栗羊羮や初霜や信玄餅や月の雫などを貰う。
何の用かと尋ねたら、中央新幹線開発計画に賛同して欲しいとか。
青森の奥津軽いまべつ駅と北斗市の新函館北斗駅は未だ未完成だ。
北海道新幹線の目処さえ立っていない現状で言われても困るぜよ。
初期案では松本市を新首都移転計画の柱にするつもりだったそうだが、今は名古屋か京都に追随するつもりだと言ってきた。
陰謀に巻き込まないでもらいたいなあ。
舞鶴鎮守府や呉鎮守府にも粉をかけたそうだが、中立を宣言されたらしい。
横須賀の立場が少し低下している状況だし、どこかに肩入れすると問題……あれ、私は微妙な立場なのか?
今は便利屋扱いされているが、今後勢力が増してくると危ないかもしれない。
今度、大湊(おおみなと)の提督や先輩に相談してみよう。
千葉県や愛知県の鎮守府新設問題を早期解決したいと、大本営の大淀が言ってきた。
なにを言っているんだ、君は。
面倒のにおいが激しいので、さっさと帰ってもらう。
鎮守府の窓から外を眺める。
誰もいない、静かなる廊下。
風が吹き、雪が舞っていた。
「吹雪か。」
一人ごちた。
「なんでわかったんですか?」
すぐ近くの段ボール箱に潜んでいたらしい駆逐艦が、驚きの顔を露にしながら現れた。
目が赤くなっていたので注意する。
興奮したり驚いたりした時に赤くなるのは、実験体だった頃の名残らしい。
誰かしら護衛が付くのは仕方ないのかもしれんが、もう少し考えて欲しい。
彼女は何故か薩摩芋を抱えていた。
その後、皆で焼き芋をおいしく食べる。
波乱の予感をひしひしと感じながらも。