◎SCP-1234(ケテル級)
◎SCP-294(ユークリッド級)
◎SCP-571-JP(ユークリッド級)
◎SCP-1690(ユークリッド級)
いずれも当作風に弄っています。
予めご了承ください。
要塞攻略戦の支援に回されるのかと思っていたら、主力として指定されたで御座る。
解せぬ。
大淀が苦い顔で言った。
「おそらくは、函館鎮守府の勢力を削ぎ落としたいのでしょう。」
「半端な鎮守府のどこをおそれる必要があるのかわかりません。」
「口の極めて悪い人は、六大鎮守府だと揶揄しているんですよ。」
「我々が攻略戦に失敗することは、既定事項なんですかね?」
「失敗することを前提として、落とすつもりなのでしょう。」
「或いは首をすげ替えるとか?」
「そんなことはさせませんよ。」
「『他の鎮守府の了承が得られたら戦力の増強を認める』という項目を、最大限利用しましょう。」
「有志の勇士の勇姿に期待しています。」
「作戦までは僅か二週間、一日も無駄には出来ません。」
「では提督、私は在日米軍まで交渉に出掛けてきます。」
「頼みましたよ。」
「お任せください。」
小笠原からは軽巡洋艦の大井(元教官)と戦艦のオクラホマが到着していた。
大井は早速軽巡洋艦たちの教導にあたり、オクラホマは函館所属のメリケン艦娘たちと戦術について協議する。
島風は駆逐艦たちに近接戦闘での確実な仕留め方を伝授している。
必ず複数で掛かることなどを伝えた。
妙高は重巡洋艦たちの教導、加賀は正規空母の教導、長門は戦艦の教導、そして鳳翔は軽空母の教導を担当している。
小樽、稚内、釧路から応援に駆けつけた艦娘たちも真剣な顔で指導を受けていた。
訓練に励んでいた大湊(おおみなと)の駆逐艦の清霜が、複数の艦影に気付いて島風に報告する。
「大和さんや武蔵さんたちがこっちに来ているよ。」
呉第六の鳳翔と佐世保第一の龍驤を先頭にして、四大鎮守府の名だたる艦娘たちが函館鎮守府の廊下を歩いてゆく。
執務室に入室した彼女たちは、是非とも雪辱の機会を与えて欲しいと提督に直訴した。
大和が二名、武蔵が二名。
滅多に見られない組み合わせに、瞠目する者もいるだろう。
金剛比叡榛名霧島の高速戦艦四姉妹もいる。
呉の長門がじっと鋭く提督を見つめていた。
佐世保の扶桑と山城姉妹も、彼を見ている。
彼女たちの後ろには、空母系艦娘や巡洋艦系艦娘がひしめいていた。
まるで最終決戦に志願する勇者たちみたいだと、提督は内心苦笑いしながら考える。
先ずは擦り合わせをして、違和感を無くさなくてはならない。
同じ釜の飯を食べて、互いを知らなくてはならないのである。
そうしなければ、今までの作戦以上に失敗を重ねるであろう。
編成は元教官たちと協議し、先の作戦の反省会を行えばいい。
取り敢えずは食事である。
腹が減っては戦が出来ぬ。
交流にて自分自身を知る。
そして仲間の力量を知る。
短期間で最良にすべきだ。
すべての行動を拒む濃霧。
ブンカー並の強度の要塞。
神出鬼没の遊撃隊のレ級。
手堅い戦術が特徴のタ級。
量産型艦娘みたいな兵器。
漆黒の制服を着た指揮官。
不安材料が目白押しだな。
「では本日の夕食で当鎮守府の艦娘たちと交流を行い、お互いを知るようにしてください。特に戦艦、正規空母の皆さんは駆逐艦たちと交流を深めてください。これは大切なことです。」
そう言うと提督は隣接する私室に入るや素早く着替え、帆布のエプロンを装備して食堂へ向かった。
一瞬呆然とした彼女たちは戸惑いながら、提督の後ろをついてゆく。
厨房では既に激戦が始まっていた。
腕利きの料理人や料理上手の艦娘たちが黙々と食事の準備を進めている。
テーブルには大量のパイが並んでいた。
「あちらの自動販売機では好きな飲み物が飲めます。積んである硬貨を使ってください。」
「提督、こっちよ!」
「すぐに行きます。」
カツを揚げていた足柄の威勢のよい呼びかけに応えつつ、提督は厨房に入っていった。
歴戦の艦娘たちがあまりにも自分たちの鎮守府とは異なるフリーダムな雰囲気に困惑していたら、彼女たちの背後から航空戦艦が現れる。
「私の提督が作るカレーは素朴で旨い。さあ、好きなところに座って、パイや中華料理や鳳翔間宮の技を堪能するといい。明日以降は大変になるから、今のうちにここの流儀を理解することだ。」
サクサクしたパイ。
品質のよい紅茶に珈琲。
月餅にフレンチトーストに間宮羊羮。
いすれも深みのある味わいですこぶる旨い。
朗らかな函館の娘たちは他所の娘たちに遠慮なく話しかけ、交流活動を積極的に行っている。
何故、函館鎮守府を絶賛する艦娘たちが多いのか。
笑顔と笑い声の絶えない鎮守府がここに実在する。
それは以前自分たちの求めた姿であった筈なのに。
それを垣間見たような気になり、四大鎮守府を代表する艦娘たちはお互いに顔を見合わせた。
カレーの仕込みに入っている提督を見て、彼女たちは初期の方針を転換することで合意した。
出来得る限り、この鎮守府のやり方を吸収しよう。
食堂内の特設屋台で五〇代の男性がせっせと握る寿司をどんどん消費しながら、艦娘たちは会話を重ねていった。
彼は「寺西さん」とか「辰さん」とか「たっつぁん」などと親しく呼ばれ、満更でもない顔をしている。
その寺生まれのTさんは、時折トラフグの胆がどうしたとかカシワの根っこがどうしたとか不穏な独り言をポツリポツリと漏らしながらも旨い寿司を握ってゆく。
彼の隣では寿司ネタの集合体にしか見えないナニカが流麗な手付きで寿司を握り、少女の姿をした異形に渡してゆく。
侍のように古風な口調で喋りながら、高潔な騎士のように振る舞う。
「豆六さん」と呼ばれる彼に最初驚愕した娘たちも、旨い寿司の前では礼儀正しくもなろうというものだ。
その夜、提督は三回カレーを作った。
最初は『挽き肉と茸沢山のカレー』。
続いては『お袋風味の昔風カレー』。
とどめは『簡単春野菜沢山カレー』。